退職勧奨26 出社命令拒否等による懲戒解雇と長期の自宅待機命令の違法性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう!

今日は、出社命令拒否等による懲戒解雇と長期の自宅待機命令の違法性について見ていきましょう。

みずほ銀行事件(東京地裁令和6年4月24日・労経速2567号9頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結しY社において銀行員として勤務していたXが、Y社に対し、〈1〉Y社から令和3年5月28日付けで解雇されたことについて、本件解雇が無効である旨主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、〈2〉Xが令和3年2月に受けた出勤停止処分及び本件解雇が無効である旨主張して、令和3年2月分及び同年3月分の未払賃金(43万6346円)並びに本件解雇後から令和3年8月までに支払日が到来する賞与を含めた賃金(ただし、既払の解雇予告手当46万2630円を充当した残額である227万3834円)+遅延損害金の支払、〈3〉令和3年9月から本判決確定の日までに支払日が到来する賞与を含めた賃金+遅延損害金の支払、〈4〉Y社がXに対してした退職強要、自宅待機命令、厳重注意、懲戒処分(譴責、出勤停止)及び本件解雇がいずれも違法である旨主張して、不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求として慰謝料1500万円と逸失利益1500万円と弁護士費用相当額300万円の合計3300万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、330万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、Y社から他の従業員に対する厳しい言動や、上司に対する反抗的な態度から問題のある社員であると認識され改善指導を受けており、最後のチャンスとしてE本部F部PB室に異動したものの、当該部署においても多くの関係者と衝突するなどしていたことから、退職勧奨を受けるに至ったといえる。Xは、平成28年3月25日及び同年4月7日、Y社のG参事役及びH参事役から退職勧奨を受け、さらに、同月8日以降被告から本件自宅待機命令を受けている。その後、同年5月12日、同月25日、同年6月9日、同月20日に行われた面談において、Xは、G参事役又はH参事役から、進退について判断するよう告げられ、また、Xの上司や同僚とのコミュニケーションに係る問題点やその改善方法についての認識が不十分であるとして、その認識を深めるよう求められた。そして、同年8月9日の面談において、Xが職場復帰を希望する旨述べたところ、G参事役は、Xの反省を求めるということについては終了したという認識を示した上で、ポストが用意できないため退職してもらったほうがよいと考えている旨伝えるなどした。その後、Y社は復帰先について提示することなく、令和2年10月15日付け「ご連絡」と題する書面及び同日付け「厳重注意」と題する書面によって、Y社から出社を命じるまでの約4年半もの長期間、明示的に出社を求めたり、自宅待機命令を終了する旨伝えたりすることはなかった

2 このような長期間の自宅待機命令は、通常想定し難い異常な事態というべきであり、退職勧奨に引き続いて自宅待機命令を受け、その間ポストを用意することが困難であるとして退職することを勧める発言がされつつ、復帰先も提示されないまま、長期間にわたり自宅待機の状態が続けられたことからすれば、Xについては、実質的にみて退職勧奨が継続していたというべきである。退職勧奨は任意のものでなければならず強制にわたることは許されないというべきであるところ、Xの勤務状況に問題があったことがY社の退職勧奨のきっかけとなったこと、その後Xが復帰先について希望どおりにならない場合であっても構わないか否かといったY社の問いに対し明言を避けたことが長期化の一因となった面が否定できないことを踏まえても、G参事役がXの反省を求めることについて終了したとの認識を示し、Xが復帰を明確に求めた平成28年8月9日の面談以降は、Xに退職の意思はないものとしてXの復帰先についての具体的調整を開始すべきといえる。そして、Y社は、同月にはXの職場復帰に関する調整を始めなければならない以上、Xに対し同年10月頃までには具体的な復帰先を提示すべきであったといえ、同月以降の本件自宅待機命令は、実質的にみて、Xに対し退職以外の選択肢を与えない状態を続けたものといえ、社会通念上許容される限度を超えた違法な退職勧奨であったといわざるを得ない
さらに、Y社は、その後、Xに対し、復帰先について特段の連絡をしていないばかりか、復帰先について検討したことを裏付けるに足りる客観的証拠もなく、Xを今後どのように処遇しようとしていたかすら不明であり、Xが本件自宅待機命令についてI次長に抗議したり内部通報をしたりしても、これに直ちに対応せず結果的に本件自宅待機命令が約4年半もの長期間に及んでおり、その対応は不誠実であるといわざるを得ない。
したがって、本件自宅待機命令は、平成28年10月頃以降前記のとおり令和2年10月15日に終了するまでの部分については、社会通念上許容される限度を超えた違法な退職勧奨として不法行為が成立する。

出勤されて社内の秩序を乱されるよりは給与を支払ってでも自宅待機してもらいたいと考える会社は、決して珍しくありません。

もっとも、不当に長期にわたる自宅待機命令は、本件事案のように違法と判断されることがありますので、給与さえ支払っていればよい、と考えないように注意しましょう。

自宅待機命令を出す際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。