おはようございます。
今日は、警備員の待機時間について労働時間該当性が認められた事案を見ていきましょう。
セントラル綜合サービス事件(東京地裁令和6年5月31日・労経速2568号16頁)
【事案の概要】
本件は、Y社と雇用契約を締結したXらが、Y者に対し、雇用契約に基づき、令和2年7月から令和4年8月までの時間外労働に係る未払残業代として、各金員+遅延損害金の支払を求める事案である。
【裁判所の判断】
請求認容
【判例のポイント】
1 Xら警備員の待機時間中の状況についてみると、警備員は、待機時間中、待機室で食事を取り、無線機を外すことなどができ、また、Cの建物外に設置された喫煙所で喫煙することが可能であった。しかし、待機室には、Bの無線機が設置され、待機室にいる待機時間中の警備員にも聞こえるようになっており、これは警備本部等から待機室への連絡等のためと考えられるし、警備員はCから自由に外出することができず、外出することが基本的になく、喫煙所に行く際もBから警備服の着用や無線機の携帯をするよう言われており、B等から指示があった場合には、速やかな対応が可能な状態にあった。平成26年度にH担当者が作成したCの警備要領には、「自分勝手な考えから、任務変更したり、勤務場所を離れてはならない。」とされ、勤務開始から勤務終了までの流れには、発払開始後は、「規定配置人員を残し待機」と記載されていた。
2 Y社がBから委託された警備業務の内容は、配置場所における来場客の整備誘導、苦情処理及びトラブル防止のほか、災害時における初期対応や避難誘導の実施等であり、突発的に生じるものが含まれており、自主警備計画には緊急時の対応として警備員を派遣する側は多めの人数を素早く送り出すとされており、B作成の「突発事案発生による開催中止時等の任務分担と流れ」と題する書面にも、同様の記載がされていた。警備員は、令和4年1月から令和5年3月までの間、3回、競馬レースの中止等を理由に全員配置とされたほか、令和4年4月から令和5年1月までの間、少なくとも10件(令和4年8月まではうち4件)、来場者の体調不良等が発生し、待機時間中の警備員を含む警備員全員が対応に当たった。加えて、警備員は、来場客のトラブル等の事案が発生した場合、Bから無線機で連絡を受け、その場合に待機時間中の警備員がこれに対応することがあった。そして、突発的に生じるものが含まれる上記警備業務の内容や、来場者数が延べ人数で1日平均2000人前後いること、A1が来場客のトラブル等が発生したことについての待機時間中の警備員への連絡が往々にしてあったと述べていることに加え、A1作成の給与支払明細書には、8時間勤務の場合には時間が「7.0」と、10時間勤務の場合には「8.0」と、Y社主張の待機時間と異なる労働時間が記載されていたにもかかわらず、Y社は、A1には7時間分の時給を支払い、Y社が日給と主張するその余のXらについても給与支払明細書記載の労働時間の訂正を指示せず、また、I作成の書面に8時間勤務の場合に7時間分の、10時間勤務の場合に8時間分の時給相当額の賃金を支給する趣旨が記載されており、Y社も、警備員が待機時間(Y社の主張では8時間勤務の場合が2時間05分、10時間勤務の場合が2時間55分)中にも相当程度業務に従事をしていた(労働時間である。)との認識を有していたと認められること(なお、証拠〔書証略〕によれば、5時間の勤務〔前記第2の2(2)エ〈3〉〕の場合にも待機時間が存在するにもかかわらず、その場合でもY社はA1に5時間分の時給を支払っていたと認められる。)も踏まえると、待機時間中の警備員がトラブル等の事案に対応するなどして、警備業務に従事することが少ないものではないといえる。
3 このように、Xらが、災害時における初期対応等が義務付けられていた上、待機時間中も待機室で無線機の内容が聞こえる状態にあり、喫煙以外にCから外出することが基本的になく、喫煙所に行く際も無線機を携帯して、警備要領には、発払開始後は、「規定配置人員を残し待機」などとされ、Bから無線機で連絡を受けるなどした際には対応しており、その頻度が少ないものではないことなどからすれば、Xらは、待機時間中、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価され、労働からの解放が保障されているとはいえず、Bから警備業務の委託を受けたY者の指揮命令下にあると認められるから、待機時間は全て労働時間と認めるのが相当である。
警備員の待機時間の労働時間該当性について争われた事例は数多く存在し、その多くは、本件同様の結論となっています。
今後ますます労働力が不足する中で、突発事案に緊急対応するとなれば、待機時間について労働から完全に解放させることはもはや不可能ではないでしょうか。
日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。