おはようございます。今週も1週間がんばりましょう!
今日は、解雇を争う労働者が解雇前と同水準以上の労働条件で他社で就労を開始した場合の復職の意思の有無に関する裁判例を見ていきましょう。
フィリップ・ジャパン事件(東京地裁令和6年9月26日・労経速2573号16頁)
【事案の概要】
本件は、Y社に雇用されたXが、〈1〉Y社から能力不足を理由として令和4年1月15日限りで解雇されたことにより同日以降にY社で労務を提供することができなかったと主張し、Y社との間の雇用契約に基づく本件解雇の後の令和4年3月から本判決確定の日までの月例賃金請求として、毎月25日限り51万5300円+遅延損害金の支払を求めるとともに、〈2〉令和4年及び令和5年の各年の賞与の支払がされていないと主張し、XとY社との間の雇用契約に基づく令和4年分及び令和5年分の賞与請求として、合計125万7835円+遅延損害金の支払を求め、さらに、〈3〉本件解雇に伴って行われた丙川及び丁田による退職勧奨及び各言動には違法があると主張し、上記各被告らについては民法709条の不法行為責任に基づく損害賠償として、上記各被告らの使用者である被告会社には民法715条の使用者責任に基づく損害賠償として、慰謝料300万円+遅延損害金の連帯支払を求める事案である
【裁判所の判断】
1 Y社は、Xに対し、令和4年3月から令和5年6月まで毎月25日限り月額30万9180円及び同年7月25日限り4万9868円+遅延損害金を支払え。
2 XのY社に対するその余の請求並びに丙川及び丁田に対する請求をいずれも棄却する。
【判例のポイント】
1 Xは、令和3年12月3日に丁田の作成による本件通知書を受領すると、直ちにX訴訟代理人弁護士に相談した上で、同月7日付けで、同弁護士を通じて、Y社に対して丙川及び丁田によるPIP等を止めるよう求める通知書を発出したこと、Xは、同月13日、Y社から、令和4年1月15日限りで本件解雇をする旨の本件解雇通知書を受領すると、本件解雇に先立つ同月12日にはX訴訟代理人弁護士を通じて、東京地方裁判所に対し、本件解雇が無効であるとして、Y社との間で労働契約上の権利を有する地位にあることの確認などを求めて本件訴訟を提起したことが認められる。これらの事実を総合すると、XがY社への復職を求めて本件訴訟の提起に至ったものであることが認められる。
2 また、Xは、令和4年3月1日に、賃金月額77万9200円、所定労働時間7時間などの労働条件でA社に就職したものであるが、一般に、解雇された労働者が、解雇後に生活の維持のため、解雇後直ちに他の就労先で就労すること自体は復職の意思と矛盾するとはいえず、不当解雇を主張して解雇の有効性を争っている労働者が解雇前と同水準以上の労働条件で他の就労先で就労を開始した事実をもって、解雇された就労先における就労の意思を喪失したと直ちに認めることはできない。そこで、XがA社に就職するまでの経緯に関して更に検討を進めると、〈1〉Xは、平成28年9月20日にY社に採用され、同年10月16日から令和2年12月頃まで法務部での業務に従事し、同月以降、司法修習、第一子の懐妊、出産のためにY社を休職し、令和3年5月1日にY社に復職したこと、〈2〉Xは、第一子の育児休業からY社に復職する際、第一子を保育園に入所させ、復職後には第一子を保育園に通わせながらY社で勤務していたこと、〈3〉Xは、令和3年12月13日に本件解雇通知書(書証略)をもってY社から本件解雇の予告をされた頃以降、本件解雇により無職となれば第一子の保育園への入所資格が喪失することを危惧して、就職活動を始め、令和4年1月24日頃にはA社への同年3月1日付けでの入社が決まったこと、以上の事実が認められる。これらの事実に加え、第一子の保育園への入所ができないとX自身がずっと仕事に復帰することができなくなってしまうので、何でもよいから職を探していた旨のXの供述を併せて考慮すると、Xにおいては保育園の入所資格を確保し自らの職歴を確保するとの観点から直ちに就職活動を行う必要性に迫られ、その就職活動の結果として、A社への就職が決まったと認めるのが相当であるから、たとえ賃金額や所定労働時間に関してA社での労働条件がY社よりも良好なものであるとの評価をし得るとしても、Xにおいて、A社に就職した時点で、Y社への就労意思が喪失したものとは認め難い。
3 したがって、XがA社に就職した令和4年3月1日時点で、XのY社への就労意思を喪失していたと認めることはできない。そして、Xは、A社での6か月間の試用期間が経過した後の時点でも明確にY社への就労意思の喪失を争っており、その他、XがA社に就職した令和4年3月1日以降、XがY社への就労意思を喪失したことを自認する令和6年1月31日までの間、同日に先立ち、XのY社への就労意思を喪失したと認めることができるような具体的な事情は認められない。
以前は、本件のような事情がある場合、復職の意思が否定される事案も散見されましたが、近年は、本裁判例のような考え方が大勢を占めます。
解雇を有効にするためには、日頃の労務管理が非常に重要です。日頃から顧問弁護士に相談できる体制を整えましょう。