おはようございます。
今日は、従前の労働条件を下回る再雇用の提案に同意のないまま、定年後再雇用者の契約期間が満了し、雇止めが有効とされた事案を見ていきましょう。
東光高岳事件(東京高裁令和6年10月17日・労判1323号5頁)
【事案の概要】
本件は、A社との間で期間1年の有期労働契約(本件契約1)を締結していたXが、A社を吸収合併したY社に対し、本件契約1の期間満了時、Xには契約更新の合理的期待があり、本件契約1と同一の労働条件によるXの更新申込みを被控訴人が拒絶したことは客観的合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められないため、本件契約1の内容と同一の労働条件で有期労働契約(本件契約2)が成立し、同様の理由で、本件契約2の期間満了時、本件契約2の内容と同一の労働条件で有期労働契約(本件契約3)が成立し、本件契約3の期間満了時、本件契約3の内容と同一の労働条件で有期労働契約(本件契約4)が成立したと主張して、Y社に対し、本件契約4に基づき労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求をするとともに、本件契約2ないし4に基づく令和3年10月分以降の賃金として、同月から本判決確定日まで毎月25日限り30万7100円+遅延損害金の支払を求める事案である。
原審は、本件契約1の期間満了の時点において、Xが、本件契約1が更新されると期待したことにつき合理的な理由はなく、仮に、これがあると認められる場合でも、Y社が本件更新申込みを拒絶したことについて、客観的合理的な理由があり、社会通念上相当であるとして、Xの請求を全部棄却したところ、これを不服として、Xが本件控訴を提起した。
【裁判所の判断】
控訴棄却
【判例のポイント】
1 A社継続雇用規程では、定年後再雇用者の労働契約は期間1年とされ、初回及び更新後の労働時間・日数、月例賃金等の労働条件については、継続雇用者の希望を聴取した上で諸事情を勘案して、その都度決定することとなっている上(A社継続雇用規程6条ないし8条)、実際、定年後再雇用者の労働条件は、上記のとおり運用され、1回目の労働契約の賃金より50%以上低下した条件で契約を更新した者もいたというのであるから、A社継続雇用規程において、1回目の労働契約と同じ労働条件による契約更新が保障されていたとは認め難い。
2 A社は、平成30年度から3年連続で経常赤字を続け、直近2期には連続で1億円近くの赤字を出し、従業員の昇給停止及び賞与削減などの経費削減措置を行っていたが、続く令和3年5月には、売却できなかった商品等を減損処理した結果2億8000万円余の債務超過になり、同年7月30日には、本件契約1の期間満了日の翌日をもって被控訴人に吸収合併されることが決定したことが認められる。さらに、A社の経営が厳しく債務超過となる見込みであること、A社がY社に吸収合併される可能性があることは、吸収合併の約5か月前から控訴人を含む従業員に対する説明会で説明がされたほか、吸収合併が決定した後の説明会でも、A社が本件契約1の期間満了日の翌日にY社に吸収合併されることは説明されていたことから、Xは、本件契約1の更新の相手方がA社ではなく、その地位を承継したY社となることを認識できる状況にあったと認められる。そして、A社のB社長は、上記説明会において、Xを含む従業員に対し、Y社に吸収合併された後、A社継続雇用規程をY社の定年後再雇用の制度であるY社シニア嘱託規程の内容に変更することを伝え、その内容をA社の従業員が見ることができるイントラネットに掲載していたところ、Y社シニア嘱託規程には、定年後再雇用者の賃金は基本給と諸手当であること、基本給は時給1200円を原則とすることが記載されていたから(Y社シニア嘱託規程10条)、本件契約1の期間満了後のXとY社との労働契約の賃金が、本件契約1の基本賃金月額30万3600円とはならず、これを下回るものとなることは客観的に避けられない状況であったと認められ、X自身も、本件更新申込みをするに当たり、A社がY社に吸収合併されるのであれば、ある程度、労働条件を変更する提案がされる可能性があることを認識していたと認められる。
3 そして、Y社は、Y社シニア嘱託規程及びY社管理職賃金内規という定年後再雇用者が非管理職又は管理職として就労する場合の各労働条件についての基準を設けていたところ、A社及びY社は、Xに対し、本件契約1の期間満了の約1か月前には、上記基準に沿った具体的労働条件を内容とする本件提案1、2を提示し、これがY社の定年後再雇用者に適用される条件に沿ったものであることを説明していたこと、当時、Y社の定年後再雇用者約120名は、Y社の定年後再雇用者に適用される労働条件の基準に従い労働契約を締結しており、それ以外の条件で雇用された者はいなかったことが認められる。
4 以上によれば、Xにおいて、本件契約1の期間満了時点で、Y社との間で、従前と同一の労働条件で本件契約1が更新されると期待することについて、合理的理由が存在したとは認め難い。
上記判例のポイント2記載の事情があることから、原審の判断が維持されました。
手続面についても考慮の対象となっていますので注意しましょう。
高年法関連の紛争は、今後ますます増えてくることが予想されます。日頃から顧問弁護士に相談の上、慎重に対応することをお勧めいたします。