Monthly Archives: 7月 2025

メンタルヘルス14 適応障害は回復し、復職可能であるとの主治医の診断結果を認め、休職期間満了による自然退職を無効とした事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、適応障害は回復し、復職可能であるとの主治医の診断結果を認め、休職期間満了による自然退職を無効とした事案について見ていきましょう。

東京都葬祭業協同組合事件(東京地裁令和6年9月25日・労経速2575号3頁)

【事案の概要】

(1)Xは、休職期間満了による自然退職の効力を争い、Y社との間の労働契約が終了していないなどと主張し、労働契約に基づき、次の各請求をしている。
ア 労働契約上の地位を有することの確認
イ 令和3年12月から判決確定の日まで各月の賃金(令和3年12月分は同月1日から同月20日までの20日間の日割り)及び各支払期日の翌日以降の法定利率による遅延損害金の支払
ウ 令和3年12月から判決確定の日まで毎年6月及び12月支払の賞与並びに各支払期日の翌日以降の法定利率による遅延損害金の支払(予備的に不法行為に基づき、同額の損害賠償を請求している。)
(2)Xは、正当な理由のない自己都合退職等と記載した離職票の発行が不法行為に当たると主張し、不法行為に基づき、損害賠償金及び不法行為日以降の法定利率による遅延損害金の支払を請求している。

【裁判所の判断】

1 Xが、Y社に対し、労働契約上の地位を有することを確認する。
2 Y社は、Xに対し、21万5883円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、Xに対し、令和4年1月から本判決確定の日まで、毎月25日限り33万4620円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、令和3年4月6日に本件主治医の診察を受け、不眠、吐き気、食欲不振、震え、恐怖心の症状が出現した旨を訴え、適応障害と診断され、以後、通院を続け、抑うつ、不眠、全身倦怠感が持続しているため休務を要する旨の診断を受けていたが、同年11月24日の受診時には症状が改善して同年12月1日から復職可能である旨の診断を受けており、本件主治医において、同年12月1日時点で休職事由となる疾病は治癒したと判断されている。
Xの症状について、Xは、本人尋問において、5月頃には吐き気、食欲不振、震え、恐怖心の症状はなくなっていたと述べ、夏頃には不眠の症状も軽減し、10月下旬以降はほとんど毎日眠れていた旨を述べているところ、診療録上も、当初は様々な症状の訴えがみられるが、同年8月11日の受診時には「笑うことができるようになっている」とされるなど改善の傾向がみられ、同年10月以降の受診時には具体的な症状の訴えがみられなくなっている。
これらのことからすれば、Xの適応障害の症状は、令和3年12月1日時点で、従前の職務を通常の程度に行うことができる程度にまで回復していたと認められる。

2 これに対して、Y社は、Xの症状について、情動安定な状態と情動不安定な状態を繰り返している、薬を飲まなくてもよい状態に回復していたとはいえない、Xは令和4年3月2日に終診とされており、令和3年12月時点では精神科を受診し続けなければならない状態であったなどと主張する。
しかし、傷病が従前の職務を通常の程度に行うことができる程度にまで回復していれば、休職事由は消滅したといえ、それ以上に、症状が消失することや通院・服薬の必要がなくなることまで求められるわけではない。そして、Xの症状の経過は前記認定のとおりであるから、Y社が指摘する事情はいずれも前記の判断を左右するものとはいえない。

3 さらに、Y社は、Y社の就業規則では就労の可否は専らY社が指定した医療機関での受診結果を基にして行うこととなるところ、本件指定医はXが従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していない旨を診断していると主張する。また、Y社は、本件指定医は、Xの主訴だけでなく、服薬状況や過去及び現在の症状等の事情、親族との関係等を聴取した上で診断しており、その診断の信用性は高いとも主張する。
しかし、休職期間満了時に休職事由が消滅しているかどうかは自然退職の効力に直結する事項であるから、就業規則の内容にかかわらず、主治医の診断書等の資料が提出されている場合にY社が指定した医療機関での受診結果のみをもって直ちに休職事由が消滅していないものと取り扱うことは許されない。そして、本件指定医は一時的な回復の可能性が考えられるとして就労が困難である旨を診断しているが、Xが、本件指定医に対して、不眠等の症状がない旨を述べ、服薬状況について「1か月内服していない」「眠れない時だけ、1か月間は飲んでいる」旨を述べていることに加えて、診療レポートには令和3年4月から同年11月までのXの症状の経過は特に記載されておらず、本件指定医がXの症状の経過を詳細に聴取したとはうかがわれないことを踏まえると、一時的な回復の可能性というのは抽象的な懸念を指摘するものとみるべきであって、この診断をもってXの症状が従前の職務を通常の程度に行うことができる程度にまで回復していたことを否定するのは相当でない。

4 Y社は、本件指定医の診断書等を参照して休職事由が消滅していないと判断し、Xを休職期間満了による自然退職としたのであって、Xに対する嫌がらせであるとはいえない。また、失業保険金の給付の判断は、離職票の記載のみに基づいて行われるものではなく、離職票の記載は事業主の主張にとどまるから、Y社が休職事由の消滅に関する判断を誤って離職票を発行したからといって、そのことが不法行為に当たるとはいえない。

本件では、指定医ではなく、主治医の判断が採用されています。

裁判所は、両医師の判断過程、根拠について実質的に比較検討します。

また、上記判例のポイント3の第2段落は誤解しがちな点ですので、しっかりと押さえておきましょう。

使用者としていかに対応すべきかについては、顧問弁護士の助言の下に判断するのが賢明です。

本の紹介2185 仕事ができる人できない人の成功心理術(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間がんばりましょう!

今日は、本の紹介です。

今から20年以上前に出版された本ですが、再度、読んでみました。

いわゆる仕事ができる人とそうでない人でどのような思考の傾向があるのかということがとてもわかりやすく書かれています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

小さなミスをするたびに『同じミスはくり返さない!』と反省する人はいい。しかし、根拠もないのに『小さいミスだから大したことはない』とか『上司の指示が悪かった』などと言い訳してしまう人は自分を変えるきっかけを失っている。こういった心理を専門用語で『合理化』という。」(33頁)

私は少し違う意見です。

人間は誰しも大小様々なミスをします。

ミスをしたときに「同じミスはくり返さない!」と反省したところで、どうせまた同じミスをします。

人間なんてせいぜいその程度の不完全な生き物なのです。

反省をするのではなく、どのような仕組みを作ったら、同じようなミスが起こる確率を少しでも減らすことができるか、を考えるほうがはるかに有益です。

それでも、ミスは起こるのですから。

みんな、他人に期待しすぎなのです。

同一労働同一賃金29 有期・無期労働者間の基本給格差の不合理性と無期転換後の格差の違法性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、有期・無期労働者間の基本給格差の不合理性と無期転換後の格差の違法性について見ていきましょう。

学校法人明徳学園事件(京都地裁令和7年2月13日・ジュリ1608号4頁)

【事案の概要】

Xは、平成22年4月、Y社が運営するA高校の常勤講師として1年の有期労働契約でY社に雇用され、その後、XとY社は契約更新を繰り返した。
令和4年2月、XはY社に無期労働契約転換申込書を提出し、同年4月1日から無期契約に転換した。Y社はXに対し、同日付けで常勤講師から常勤嘱託(事務職員)への配転を命じた。
Xの賃金(基本給)月額は、勤続1年目(年齢33歳)は24万9400円(同年齢・同勤続年数の専任教員の年齢給〔基本給〕の約78%)、勤続5年目以降は29万4600円で昇給なし(同年齢・同勤続年数の専任教員の年齢給との比率は5年目約82%,10年目約74%、12年目約71%)であった。
Xは、Y社に対し、①本件配転命令は無効であるとして常勤講師としての労働契約上の地位(または常勤嘱託として勤務する義務の不存在)の確認、および、②Y社の専任教員と常勤講師間の賃金差は違法であるとして不法行為に基づく損害賠償を求めて、本件訴えを提起した。

【裁判所の判断】

1 配転命令は有効

2 賃金格差は違法

【判例のポイント】

1 専任教員には長期雇用を前提として年功的な貸金制度を設け、1年以内の雇用期間を定める常勤講師に専任教員と異なる賃金制度を設ける制度設計には一定の合理性がある。しかし、A高校では、常勤講師の契約更新を5年に制限するわけではなく、Xを含む常勤講師の勤務実態は短期雇用にとどまっていない。専任教員の年齢給の性質・目的に照らせば、少なくとも5年を超えて勤務する常勤講師には、専任教員と同様に、年齢による部分、職務遂行能力による職能給、継続的勤務への功労報酬という性質・目的は妥当するものといえる。にもかかわらず、常勤講師の賃金は、5年を限度とした職能給および勤続給としての性質にとどまるものであって、賃金の性質・目的から合理的とはいい難い。

2 採用方法の違いに基づく管理職登用の相違は将来的かつ潜在的な可能性にとどまり、業務内容・責任の程度の差として現れているとはいい難い。Xが常勤講師として在任した時期には、常勤講師であるXと管理職でない専任教員との間に、職務内容の明らかな差異は認められない。職務内容・配置の変更の範囲についても、両者の間に有意な差があるとはいえない。

3 Xと同年齢・同時期に採用された専任教員の賃金を比較すると、6年目以降は常勤講師の賃金は
昇給しないため、賃金差は広がっていくばかりとなる。Xは5年を超えて勤務し、専任教員の年齢給の性質・目的が妥当する上、管理職でない専任教員の間には、業務内容・責任の程度、職務内容・配置の変更の範囲において上記賃金差を設けるほどの違いは認められない。以上によれば、Xと同年齢・同時期に採用された専任教員との間に賃金差が生じ、年を経るごとに拡大していくことは不合理である。

賃金格差が違法であると判断されています。

職務内容や配置変更の範囲、責任の程度に大きな違いがないがその理由です。

同種の問題は、様々な企業において存在するので注意が必要です。

同一労働同一賃金の原則を意識した労務管理を行うためには、日頃から顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

本の紹介2184 外資の流儀#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

今から6年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

サブタイトルは、「生き残る会社の秘密」です。

もう外資とは、何から何まで企業文化が全く違うことがよくわかります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

人の生産性が問われるサービス業において、日本企業の低い生産性を悪い意味で支えているのが、日本企業独特の習慣です。
新卒採用
年功序列
終身雇用」(8頁)

もうこれはかなり前から言われていることですね。

生産性が上がるわけがない制度であることは誰もが認めるところかと思います(笑)

いつまでもあると思うな、親と会社と年金制度。

有名な大企業でも気づけば倒産しているという例は決して珍しくありません。

どんな環境においても、最後は「自分」という武器で戦っていけるように、日々、研鑽・準備を続けていくことが大切です。

セクハラ・パワハラ95 上司のセクハラ及びパワハラに基づく損害賠償請求が一部認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、上司のセクハラ及びパワハラに基づく損害賠償請求が一部認められた事案を見ていきましょう。

キャドワークス事件(東京地裁令和6年4月19日・労判ジャーナル153号34頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのない雇用契約を締結していたXが、A社及びA社の元代表取締役Yに対し、Yからセクハラを受けたとして損害賠償を請求するとともに、休職期間満了による自然退職の効力を争い、地位確認等を求めた事案だる。

【裁判所の判断】

YらはXに対し、110万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Yは、配偶者がいながら、Xに対し、異性として好意を抱いていることを伝え・・・、Xから否定的な返答を受けた後も、二人での旅行、オペラ鑑賞、登山及び寿司といった、業務とは無関係の外出に繰り返し誘い、Xは二人での外出を断っていた・・・ものである。これらの行為は、A社の代表者という立場から、部下であるXに対し、A社の代表者と従業員という関係を超えた交際を求めるものであり、要求を断った場合の職場での不利益を懸念させ、Xの職場環境を害する行為である。さらに、Yが、A社の従業員にXとの関係を問い質したこと・・・は、Xに交際を求めることと相まってXの職場環境を害する行為であり、Xに従業員との関係を問い質したことは、Xを困惑させ不快感を与える行為である。

2 Yは、Xに対する好意から、Xから拒否されているにもかかわらず交際を申込み、他の従業員にXとの関係を問い質す等してXの職場環境を悪化させ、さらに本件展示会でのG及びXの対応に苛立った挙句、業務の適正な範囲を超えてXにYや取引先への不合理な謝罪を命じ、Xに不快感や屈辱感を与えたものであり、こうしたYの一連の行為は、Xの人格権を侵害する違法な行為であり、不法行為に該当するというべきである。

3 Yの不法行為の内容や期間、頻度に加え、Xが適応障害を発症したこと、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、Xの精神的苦痛を慰謝するための慰謝料額は100万円、弁護士費用はその1割の金額として10万円と認めるのが相当である。

上司・部下の関係において、上司が部下に対して恋愛感情を持つと、最後はこうなってしまいます。

今に上司部下間恋愛禁止法ができるのではないかとすら感じます。

労務管理に関する抜本的な改善については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。

本の紹介2183 ドラッカーのリーダー思考(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

リーダーシップとは何かということについて説かれています。

今の時代にどう落とし込むかを考えると悩ましい点がいくつもあります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

コマギレの時間を積み重ねたって、何ら実のある成果は生まれない。一日のうちで本当に有意義に使える時間は、せいぜい一時間そこそこ。しかも、人間にとって気力、体力ともに充実している時間は、一日のうちでよくて1~2時間。そうしたゴールデンタイムをAクラスの貴重な課題に向けて、中断されることなく、ドカーンとまとめて使わない限り成果は生まれないのだ。」(130~131頁)

断然おすすめなのは、早朝です。

毎朝4時に起きて、勉強と運動と栄養補給を続けていれば、知力・気力・体力ともに万全の状態をキープできます。

年齢は関係ありません。

自分の商品価値を継続的に向上させるためには、日々の準備と鍛錬が必要です。

ローマと成功は1日にしてならず、ですから。

不当労働行為320 不当労働行為に基づく組合の損害賠償請求が一部認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間がんばりましょう!

今日は、不当労働行為に基づく組合の損害賠償請求が一部認められた事案について見ていきましょう。

川上屋事件(岐阜地裁令和6年7月5日・労判ジャーナル152号20頁)

【事案の概要】

本件は、①X組合が、Y社の不当労働行為により非財産的損害を被ったと主張して、Y社に対し、不法行為に基づく損害賠償として110万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めるとともに、②X2が、Y社の安全配慮義務違反によって中等症うつ病エピソード等を発症するに至ったと主張して、Y社に対し、債務不履行に基づく損害賠償として185万3703円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、X組合に対し、33万円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X2に対し、22万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 とりわけ先行配転命令の一部撤回及びその後本件配転命令に至るまでの人員配置の経緯等に照らせば、a店の喫茶部門から本店の製造部門への本件配転命令について、合理的な必要性があったとは認め難い。このことに加え、従前からのXらとY社の緊張関係、Y社による本件誓約書の徴求、安全衛生委員会の不開催(被告は、開催する時間的余裕がなかった旨主張するが、平成28年1月から同年7月までに計5回開催された同委員会がその後全く開催されなくなったことにつき、合理的な説明がされたとはいい難い。)といった経緯も考慮すれば、Y社による本件配転命令は、前訴判決の認定・判断のとおり、X組合の運営に介入してXらの影響力を低下させようとするものであって、労働組合法7条3号所定の支配介入に当たると認めるのが相当である。
そして、そのような本件配転命令について、X組合との関係で故意・過失や違法性を否定すべき特段の事情があることはうかがわれない。
以上によれば、本件配転命令は、故意又は過失によりX組合の法的利益を違法に侵害するものとして、不法行為にあたるというべきである。

2 X2は、本件要請書の内容に納得がいかず、他の従業員らが本当にそのように認識しているのかどうか、確かめようとしたものと解される。このような行為は、本件要請書に係る申告者に不安感等を抱かせかねず、ひいては以後のハラスメント申告等を思いとどまらせかねないものであって、問題がないとはいえないものの、申告者探しであるとまで断ずることも困難であり、当該申告者との関係で、その「プライバシー」(就業規則72条6項)を侵害するとか、「相談をしたこと…を理由として不利益な取扱い」(同項)をするとか、「職権等の立場または職場内の優位性を背景にして…人格や尊厳を侵害」(就業規則69条14項)するものであるなどと評価することはできず、懲戒事由にあたるとは認め難い

不当労働行為による組合等に対する損害賠償額のある程度の相場がわかります。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

本の紹介2182 究極のドラッカー#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、本の紹介です。

今から14年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

経営のために読む本としては、極めて硬派な内容です。

今、改めて読むと感じ方が全く違いますね。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

特に企業は自社の目的を達成するための最低限の利益を認識しておく必要があります。意図そのものは善意に根差し高潔だったとしても、経済的になりたたないことを勧めたり、身の丈を超えた責任を請け負ったりすると悲惨な結果に終わるだけだとドラッカーは言います。」(154頁)

「意図そのものは善意に根差し高潔だったとしても、経済的になりたたない」

これ、初期の頃にやってしまいがちですよね。

ビジネスですから、まずはお金を稼ぐ必要があります。

そうでなければ、事業を運営できません。

崇高な理念はその後で十分です。

労働時間114 変形労働時間制が無効と判断された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、変形労働時間制が無効と判断された事案を見ていきましょう。

サカイ引越センター事件(東京高裁令和6年5月15日・労判ジャーナル151号40頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員として引越運送業務に従事していたXらが、Y社に対し、時間外労働に係る割増賃金(割増賃金)等が未払であると主張して、Xらそれぞれが以下の各支払を求める事案である。

原審は、時間外労働に係る割増賃金(割増賃金)の算定に当たって、Y社がXらに支給している業績給A(売上給)、業績給A(件数給)、業績給B、愛車手当、無事故手当、アンケート手当、その他・その他2はいずれも基礎賃金に含まれ、控訴人東京D支社において採用している1年単位の変形労働時間制は労基法32条の4の要件を充足しないとした。

Y社及びXらは、上記判断を不服として、それぞれ控訴及び附帯控訴をした。

【裁判所の判断】

本件各控訴、附帯控訴をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Y社は、現業職全員が同じシフト時間であり間違えることはないこと、シフト時間に変更があった場合には全現業職に通知しており、いつから当該シフトが適用されるのかを全現業職が把握していることを挙げて、Y社の変形労働時間制が有効である旨主張する。
しかし、変形労働時間制において、労働時間の特定を求める趣旨は、労働時間の不規則な配分によって労働者の生活に与える影響を小さくすることにあることからすれば、労基法32条の4及び89条の趣旨に照らし、十分な特定が必要である。Y社は、実務運用によれば、シフト時間は全現業職が把握していたことを指摘するが、Y社においては、公休予定日が出勤日に変更される実態が認められ、こうした点を踏まえると、現業職の生活設計に支障を生じさせ得る状態であることは否定できず、結局、労働時間の特定に関する上記趣旨に合致せず、採用することはできない。

2 「出来高払制その他の請負制」(労基法27条及び労基法施行規則19条1項6号)とは、労働者の賃金が労働給付の成果に一定比率を乗じてその額が定まる賃金制度をいうものと解するのが相当であり、出来高払制賃金とは、そのような仕組みの下で労働者に支払われるべき賃金のことをいうと解するのが相当である(この点は、東京高裁平成29年判決も同旨であると解される。)。控訴人において引越運送業務に従事する現業職は、引越荷物の積卸作業及び引越荷物の運搬を担っているのであり(以下、これらの業務を「作業等」という。)、労働内容の評価にあたっては、作業量や運搬距離をもってし、作業量や運搬距離をもって労働給付の成果というのが相当である。
Y社は、業績給A(売上給)につき、「成果」は「売上額(車両・人件費値引後額)」である旨主張するところ、Y社が主張するように、「売上額(車両・人件費値引後額)」をもって労働給付の成果というのであれば、「売上額(車両・人件費値引後額)」は現業職が給付する労働内容、すなわち作業量等に応じたものであるべきである。ところが、本件においては、上記の売上額は必ずしも作業量等と一致しないことは補正の上引用する原判決が説示するとおりである。
また、Y社は、業績給A(件数給)については「作業件数」及び「車格」が、業績給Bについてはポイント表に記載された各項目が、愛車手当は洗車等を行ったことが、無事故手当はその支給条件である各事項を満たすことがそれぞれ「成果」である旨主張する。しかし、業績給A(件数給)につき、担当した件数が必ずしも作業量等と連動していないことは、補正の上引用する原判決説示のとおりである。また、業績給Bについて、ポイント表記載の作業を行った場合に支給される点で、当該作業を行っていない場合に比して、支給額が加算されるという関係にあるものの、他方で、ポイント表記載の各作業も具体的案件に応じて内容が異なるものであることからすれば、作業量等と連動しているものといえない。さらに、愛車手当は支給上限が定められていること、無事故手当の支給はそもそも支給条件を充足するか否かによって決まることからすれば、「成果」とはいえない。
なお、Y社は、業績給A(売上給)等が作業量と相関関係にあり、現業職間の実質的公平に資するものであるから、出来高払制賃金に該当すると主張し、証拠を提出する。Y社が出来高払制と主張するものには、その性質上、作業量と相関するものがあり、それに沿う証拠はあるが、法の予定する出来高払制というためには、このような緩やかな相関関係では不十分であることは、出来高払制賃金に係る原判決及びこの判決の説示のとおりである。

出来高払制賃金を導入している会社は少なくありませんが、それが本当に労基法が予定するものであるかについては慎重に検討する必要があります。

本裁判例を含めて、いくつか重要な裁判例が出されていますので、顧問弁護士に相談しながら対応してください。

本の紹介2181 金のなる人#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間がんばりましょう!

今日は、本の紹介です。

今から5年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

サブタイトルは「お金をおんどん働かせ資産を増やす生き方」です。

株や投資信託もいいですが、自分への投資がもっとも確実にリターンを得ることができます。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

意味のない飲み会へ受動的に参加するのではなく、刺激のある飲み会を能動的に開催していくべきだ。」(139頁)

いつも同じメンバーで飲み会に行っても、得るものはほとんどありません。

愚痴を言い合い、他人の噂話をして、終わりです。

もちろん、それでもいいという方もいると思いますので、好きにすればいいですが、現状に甘んじることなく、向上したいという気持ちを持っている方は、一緒にいて自分をインスパイアしてくれる人と時間を共有しましょう。

そういう会食・飲み会を通じて、自分が井の中の蛙であること、上には上がいることを認識し、もっとがんばろうと思うのです。

傷をなめ合っているだけの飲み会は、気楽でいいでしょうが、生産性はありません。