Daily Archives: 2025年7月30日

メンタルヘルス14 適応障害は回復し、復職可能であるとの主治医の診断結果を認め、休職期間満了による自然退職を無効とした事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、適応障害は回復し、復職可能であるとの主治医の診断結果を認め、休職期間満了による自然退職を無効とした事案について見ていきましょう。

東京都葬祭業協同組合事件(東京地裁令和6年9月25日・労経速2575号3頁)

【事案の概要】

(1)Xは、休職期間満了による自然退職の効力を争い、Y社との間の労働契約が終了していないなどと主張し、労働契約に基づき、次の各請求をしている。
ア 労働契約上の地位を有することの確認
イ 令和3年12月から判決確定の日まで各月の賃金(令和3年12月分は同月1日から同月20日までの20日間の日割り)及び各支払期日の翌日以降の法定利率による遅延損害金の支払
ウ 令和3年12月から判決確定の日まで毎年6月及び12月支払の賞与並びに各支払期日の翌日以降の法定利率による遅延損害金の支払(予備的に不法行為に基づき、同額の損害賠償を請求している。)
(2)Xは、正当な理由のない自己都合退職等と記載した離職票の発行が不法行為に当たると主張し、不法行為に基づき、損害賠償金及び不法行為日以降の法定利率による遅延損害金の支払を請求している。

【裁判所の判断】

1 Xが、Y社に対し、労働契約上の地位を有することを確認する。
2 Y社は、Xに対し、21万5883円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、Xに対し、令和4年1月から本判決確定の日まで、毎月25日限り33万4620円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、令和3年4月6日に本件主治医の診察を受け、不眠、吐き気、食欲不振、震え、恐怖心の症状が出現した旨を訴え、適応障害と診断され、以後、通院を続け、抑うつ、不眠、全身倦怠感が持続しているため休務を要する旨の診断を受けていたが、同年11月24日の受診時には症状が改善して同年12月1日から復職可能である旨の診断を受けており、本件主治医において、同年12月1日時点で休職事由となる疾病は治癒したと判断されている。
Xの症状について、Xは、本人尋問において、5月頃には吐き気、食欲不振、震え、恐怖心の症状はなくなっていたと述べ、夏頃には不眠の症状も軽減し、10月下旬以降はほとんど毎日眠れていた旨を述べているところ、診療録上も、当初は様々な症状の訴えがみられるが、同年8月11日の受診時には「笑うことができるようになっている」とされるなど改善の傾向がみられ、同年10月以降の受診時には具体的な症状の訴えがみられなくなっている。
これらのことからすれば、Xの適応障害の症状は、令和3年12月1日時点で、従前の職務を通常の程度に行うことができる程度にまで回復していたと認められる。

2 これに対して、Y社は、Xの症状について、情動安定な状態と情動不安定な状態を繰り返している、薬を飲まなくてもよい状態に回復していたとはいえない、Xは令和4年3月2日に終診とされており、令和3年12月時点では精神科を受診し続けなければならない状態であったなどと主張する。
しかし、傷病が従前の職務を通常の程度に行うことができる程度にまで回復していれば、休職事由は消滅したといえ、それ以上に、症状が消失することや通院・服薬の必要がなくなることまで求められるわけではない。そして、Xの症状の経過は前記認定のとおりであるから、Y社が指摘する事情はいずれも前記の判断を左右するものとはいえない。

3 さらに、Y社は、Y社の就業規則では就労の可否は専らY社が指定した医療機関での受診結果を基にして行うこととなるところ、本件指定医はXが従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していない旨を診断していると主張する。また、Y社は、本件指定医は、Xの主訴だけでなく、服薬状況や過去及び現在の症状等の事情、親族との関係等を聴取した上で診断しており、その診断の信用性は高いとも主張する。
しかし、休職期間満了時に休職事由が消滅しているかどうかは自然退職の効力に直結する事項であるから、就業規則の内容にかかわらず、主治医の診断書等の資料が提出されている場合にY社が指定した医療機関での受診結果のみをもって直ちに休職事由が消滅していないものと取り扱うことは許されない。そして、本件指定医は一時的な回復の可能性が考えられるとして就労が困難である旨を診断しているが、Xが、本件指定医に対して、不眠等の症状がない旨を述べ、服薬状況について「1か月内服していない」「眠れない時だけ、1か月間は飲んでいる」旨を述べていることに加えて、診療レポートには令和3年4月から同年11月までのXの症状の経過は特に記載されておらず、本件指定医がXの症状の経過を詳細に聴取したとはうかがわれないことを踏まえると、一時的な回復の可能性というのは抽象的な懸念を指摘するものとみるべきであって、この診断をもってXの症状が従前の職務を通常の程度に行うことができる程度にまで回復していたことを否定するのは相当でない。

4 Y社は、本件指定医の診断書等を参照して休職事由が消滅していないと判断し、Xを休職期間満了による自然退職としたのであって、Xに対する嫌がらせであるとはいえない。また、失業保険金の給付の判断は、離職票の記載のみに基づいて行われるものではなく、離職票の記載は事業主の主張にとどまるから、Y社が休職事由の消滅に関する判断を誤って離職票を発行したからといって、そのことが不法行為に当たるとはいえない。

本件では、指定医ではなく、主治医の判断が採用されています。

裁判所は、両医師の判断過程、根拠について実質的に比較検討します。

また、上記判例のポイント3の第2段落は誤解しがちな点ですので、しっかりと押さえておきましょう。

使用者としていかに対応すべきかについては、顧問弁護士の助言の下に判断するのが賢明です。