Monthly Archives: 9月 2025

管理監督者65 管理監督者と認められ、未払割増賃金請求が棄却された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、管理監督者と認められ、未払割増賃金請求が棄却された事案を見ていきましょう。

SMAジャパン事件(東京地裁令和6年3月28日・労判ジャーナル154号54頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社に対し、労働契約に基づき、時間外労働及び深夜労働に係る未払割増賃金等の支払及び付加金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、Y社代表者とともにJMCメンバーとして会社の経営の中核に関与するとともに、Y社代表者に代わって、法務・人事部門という会社にとって重要な部門を続括し、同部門の社員の人事及び労務管理を行う権限を相当程度有していたものと認められるから、労働基準法の定める労働時間規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ない重要な職務と権限を付与されていたといえ、また、Xが職務繁忙等の理由により所定労働時間内は就業を余儀なくされるような状況にあったとしても、Xの勤怠が厳格に管理されていたと評価することはできず、そして、Xは、本件請求期間中、令和3年4月支給分までは理論年収1200万円、同年5月支給分以降は理論年収1420万円の賃金の支給を受けていたところ、これらの額は、Y社において管理監督者ではない者として扱われているジョブレベル6以下の社員の平均理論年収645万円と比較すると、相当に高額であるといえ、さらには、管理監習者として扱われているジョブレベル7以上の社員の中でも3番目に高く、これら社員の理論年収の中央値970万円と比較しても、相当に高額であるから、Xには、従業員の職務及び権限に相応しい待遇がされていたと評価することができ、XはY社において同号所定の管理監督者の地位にあったものと認めるのが相当である。

管理監督者性が肯定されています。

とはいえ予見可能性に乏しい分野のため、リスクを考えると、なかなかお勧めできない制度です。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。 

本の紹介2197 世界的な大富豪が人生で大切にしてきたこと60#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、本の紹介です。

今から10年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

帯には「他人が目もくれない場所に、チャンスは転がっている。」と書かれています。

みんなと同じことに不安を感じるくらいがちょうどいいです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

結局、私はお金で『自由』を買いたかったのです。会社勤めをしていたら、なかなか思うように自分のやりたいことを実現できない。私の目標は人生でやりたいことができる『自由』を手に入れることであり、そのためにお金を稼いだのです。ですから、今でもそれ以外のことにはほとんどお金を使いません。」(151頁)

全く同意見です。

「幸せ」の定義は人それぞれですが、私の場合は、あらゆることに対して「自由でいること」です。

自由でいることとは、すなわち、選択できることを意味します。

お金があれば、経済的には自由かもしれませんが、精神的に不自由であれば幸せとはいえません。

やりたいことができるという価値も大切ですが、それ以上に、嫌なことを嫌だと拒否できることのほうがはるかに価値が高いです。

結論、お金は経済的自由を与えてくれますが、それだけでは本当の自由を手にしたとはいえないわけです。

本当の意味で「自由でいる」ためには、経済的・精神的自由を獲得し、生涯、死守し続けることがキモではないかと思っています。

そのためには、兎にも角にも、勢い余って、経済的・精神的自由を奪われる選択を自らしない、ということに尽きます。

労働時間115 テレビ番組制作業における事業場外労働時間みなし制度の適否等(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

テレビ番組制作業における事業場外労働時間みなし制度の適否等について見ていきましょう。

テレビ東京制作事件(東京地裁令和5年6月29日・労判1324号61頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されている労働者であるXが、Y社に対し、未払残業代等を請求した事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 番組制作は、企画、取材、撮影及び編集の過程があるところ、企画の段階及び取材の初期の段階では、どのような取材対象者をどの程度取材することになるか、どのような調査を行う必要があるかをあらかじめ決め難い場合があると認められる。また、Xは、制作業務を一人で担当しており、企画、取材及び撮影は、被告の事業場外での労働が中心であり、編集についても事業場外の編集所で行う場合が多く、全体として、おおむね直行・直帰により行われていたものであり、上司などの管理者の目視できる場所で作業が行われることは少なかった。
他方で、企画及び取材における初期の段階でも、管理者が、Xから、その日行った作業内容の結果を報告させることは可能であったといえる。さらに、一つの番組は2~8箇月といった比較的長い時間をかけて制作されるものであり、一旦企画書が採用された後は、企画書によって、取材及び撮影の対象、内容及び方法が一定範囲に定まるものであると認められるから、企画書が採用された後は、上司において、企画書などに基づき、Xから報告された日々の作業内容に基づいて進捗を確認し、指揮命令を行うことができるといえる。
また、始業・終業時刻については、携帯できる端末でどの場所からでも入力できる勤怠管理のシステム(本件システム)で報告することとされており、同システムには、ボタン操作により即時記録される始業・終業時刻はもちろん、始業・終業時刻を手動で入力編集した時刻も逐一記録されるものであったから、上司において、始業・終業時刻を確認したり、入力状況を確認したりすることができた。
本件システムの備考欄によって取材先が報告されることがあるほか、首都圏以外は出張届で事前に届出がされ、首都圏内でも交通費の申請がされ、上司において、取材場所の確認が可能であった。また、Xが撮影した全ての映像には、撮影時刻及び撮影対象が逐一記録されていたから、撮影の作業の裏付け確認を行うことも可能であった。放送局及び取材先との会合費は月ごとに領収証とともに報告がされていたから、これによりXの報告した作業内容の真実性を確認することもできた。また、映像の編集を行う編集所からは、番組ごとの利用日及び時間帯がY社に報告されていたから、これにより、Xの編集作業時間を確認することが可能であった。
さらに、Xは、Y社から社用の携帯電話を所持するよう指示されており、Y社からいつでも呼出し確認ができる状態となっていた。
以上のことからすれば、Xの制作業務は、おおむね事業場外の労働であったといえるが、Xの上司において、上記の方法で、Xの労働時間を把握するため具体的な指揮監督を及ぼすことが可能なものであったといえる。
したがって、制作業務は、その労働態様が、使用者が労働時間を十分把握できるほど使用者の具体的な指揮監督を及ぼし得ない場合であったとは認められず、労基法38条の2「労働時間を算定し難い場合」とはいえない

2 Y社は、Xが、Y社が当初指示したとおり、始業・終業の都度、本件システムのボタンを打刻する方法で報告を行わず、半月又は1箇月分をまとめて入力し、その後修正をすることを繰り返しており、入力内容の正確性を担保する手段がなかったため、労働時間を算定し難いといえる旨主張する。
しかし、証拠によれば、Y社においては、本件システムで報告された社員の1箇月間の所定時間外労働が一定の時間数を超過した場合、管理職らが、当該社員に対し、本件システムの入力内容の正確性の確認を求め、当該社員が労働時間を修正して再報告することがあるなど、労働時間を1箇月程度まとめて報告をすることは、許容されていたことが認められる。また、管理職らの上記指示内容からは、Y社において、始業・終業の都度のボタン操作で打刻した数値のみが正確であると捉えていたわけではないこともうかがえる。そして、Xが、本件システムに始業・終業の都度打刻をしていないことについて、平成30年5月より前に、Y社が、Xに対し、労働時間を把握するため、その都度入力に改めるよう指導した形跡は見当たらない。
そうすると、Xが半月又は1箇月分をまとめて本件システムに入力していたのは、Y社が、Xに対し、始業・終業時刻をその都度入力するよう指導を徹底していなかったことに原因の一つがあるといえる。
以上のことから、Xの上記報告の態様をもって、客観的に、労働時間を把握できるほど具体的な指揮監督を及ぼし得ない労働態様であったと認めることはできない。

上記判例のポイント1を読む限り、もはや今の時代、技術的に、労働時間を把握できるほど具体的な指揮監督を及ぼし得ない労働態様なんてほとんどないと思います。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

本の紹介2196 人に必要とされる会社をつくる#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間がんばりましょう。

今日は、本の紹介です。

今から9年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

あきらめないこと、続けていくことの大切が説かれています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

人生を豊かなものにするエネルギーは、自分自身の成長以外にない。そして、また、その成長は、人生経験の積み重ねによってしか得られない。一度きりしかない人生を豊かにするため、どんどんぶつかっていこう。」(202頁)

多くの人が、日々の生活に忙殺されており、成長や向上のための時間を取る余裕がないように見えます。

ただでさえ忙しいのに、そんなことやっている暇がない、という感じでしょうか。

やりたい人、できる人だけ、やればいい話です。

人生における優先順位は人それぞれです。

他人がとやかく言うことではありません。

山登りを楽しめる人もいれば、なんであんな大変なことをわざわざしなきゃいけないんだと思う人もいます。

それと同じことです。

解雇424 解雇撤回後の地位確認・賃金等請求と反訴(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、解雇撤回後の地位確認・賃金等請求と反訴に関する裁判例を見ていきましょう。

K’sエステート事件(東京高裁令和6年12月24日・労判1327号73頁)

【事案の概要】

本件本訴は、Xが、Y社から雇用契約を不当に解雇され、以降、Y社の責めに帰すべき事由により就労できない状態が続いているなどと主張して、Y社に対し、〈1〉労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、〈2〉令和4年6月以降の月額43万4677円の賃金及びこれに対する遅延損害金の支払、〈3〉上記解雇前に同年2月分及び3月分の歩合給を違法に減額されたなどとして、未払賃金又は不法行為に基づく損害賠償として合計20万1789円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。

本件反訴は、Y社が、Xに対し、上記解雇を撤回して労務提供を命じたが、Xが労務提供しないため、賃金支払義務を負わないところ、令和4年7月15日から令和6年8月15日までの間、Xが負担すべき社会保険料合計121万9090円を立替払したなどと主張して、同額の立替金、同日までの確定遅延損害金3万9257円及び上記立替金に対する遅延損害金の支払を求める事案である。

原審は、Xの本訴について、上記〈1〉の請求に係る訴えを却下し、その余の請求をいずれも棄却した。これを不服としてXが控訴を提起し、他方、Y社が、当審において、上記のとおり反訴を提起した。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、46万8796円+遅延損害金を支払え。
2 Y社は、Xに対し、20万1789円+遅延損害金を支払え。
3 Xは、Y社に対し、125万8340円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xが本件解雇が違法無効である旨を通知したのに対し、Y社は本件解雇を撤回する旨を通知した。本件解雇は無効であるところ、本件解雇撤回は、上記Xの通知に対して、本件解雇が遡及的に効力を生じないことを認める旨の通知であると解される。したがって、Xが主張するようにXが同意又は承諾しなければ効力を生じないというものではない
もっとも、本件解雇は違法無効であり、本件解雇に到る経緯に照らせば、本件解雇及びこれに到るY社代表者の一連の言動により、XとY社との本件雇用契約上の信頼関係が、相当程度損なわれたことが認められるから、Y社が本件解雇撤回をし、労務提供を命じただけで、直ちに本件解雇等に伴う受領拒絶状態が解消されたということはできない。そして、本件解雇撤回後のXの不就労が、Y社の帰責事由によるものであるか否かを判断するに当たっては、Xが労働者として労務提供義務を負っていることを基本として、Y社が使用者として、業務上の指示命令権限を有する一方、職場環境配慮義務を負っていることも考慮しつつ、Xが復職する上での具体的な支障の有無や、本件解雇撤回後の双方の対応状況等を総合考慮して、Xが労務提供可能な状態にあったといえるか否かにより判断するのが相当である。

2 以上の観点から検討すると、Y社は、令和4年5月10日頃、本件解雇撤回を通知し、同月12日から、本社へ出頭し稼働するよう指示したが、Xは、本件解雇前、B店で勤務していたものであり、対立状態にあったY社代表者から、一方的に給与の減額を告げられたり、退職勧奨を受けたりした後、これを拒むと、本件解雇をされたという経緯からすると、Xにおいて、復職後の賃金、本店での職務内容等の就労条件や職場環境等を確認し、これが明らかになるまで就労を拒否するとの対応をとったことは、相応の理由があるものといえる。また、上記のとおり本件解雇は違法無効であるところ、Y社が、そのことを顧みず、解雇事由として挙げた事情について精査しないまま、懲戒手続を開始する旨告知したことは、Xに対して、恣意的に懲戒手続がされるとの懸念を抱かせ、Y社に対する不信感を増幅させるものであったということができる。
もっとも、その後、Xから復職後の賃金、本店での職務内容等の就労条件や、本件解雇が不当解雇であったことを踏まえた職場環境の配慮等の質問や要望を受けて、Y社が、これに対して回答するといった交渉を重ねることにより、Y社が同年5月26日頃に通知をした頃までには、Y社が指示命令する復職後の就労条件が、賃金については、Y社代表者が恣意的に発言した減給を前提としたものではなく、本件雇用契約に基づくものであること、就業場所については、配転命令に基づき本店での勤務を命じること、職務の内容については、B店と同様、営業担当であり、就業時刻も同様であること等が明確化され、他方で、歩合給に影響する本件歩合給変更の適否や、ホームページ等を通じた来客でない顧客の割当て(反響)の方針については、明確化されないままであったことが認められる。
また、職場環境については、Y社において、ハラスメントを行わないことを誓約し、Y社代表者がその窓口となること、懲戒手続については、稼働状況が安定するまでの間、停止することといった方針を示し、また、Xの申出があれば、過去のハラスメントの有無を調査し、必要な措置をとることや、歩合給の横取りやノルマ不達成に基づく給与の天引き等の指摘事項についても、さらに具体的な事実関係を特定して問題点が指摘されれば、精査検討する旨の方針を示したことが認められる。
上記Y社の対応は、一部認識に相違があるものの復職後の就労条件や、その根拠を明示するものであり、復職後の職場環境に一定の配慮をするものであったということができる。職場環境への配慮については、その性質上、労働者からの具体的な指摘を待って、さらに具体的対応を検討するという方針を採ることは、相応の合理性を有するものであるところ、上記5月26日の通知後、Xは、さらに具体的な問題点の指摘をしていない。そして、Y社は、同年6月6日頃、1週間以内に改めて労務提供の意思の有無を連絡するよう求めたのに対し、Xは、同月13日頃、それ以上、復職に向けた条件等について、具体的に問題点を指摘したり、改善を求めたりすることのないまま、労務提供の意思の有無を明らかにせず、労働審判の申立てをする言を通知した

3 以上のような諸事情に照らすと、Y社が同年5月26日に上記通知をした頃までには、本件解雇による受領拒絶及びこれに伴い作出された労務提供を困難とする状況が相当程度改善されたということができ、他方、Xは、被控訴人が、その後、同年6月6日頃に、一定の猶予期間と理解し得る1週間の期限を定めて、労務提供の意思の有無を連絡するよう通知したのに対し、同月13日頃の通知により、労務提供の意思の有無を明らかにせず、復職に向けたさらなる検討事項を具体的に指摘しなかったのであるから、その頃には、Xが労務提供可能な状況にあったと認められ、仮に被控訴人の措置が必ずしも十分なものとまではいえないものであったとしても、Xがさらなる検討事項を具体的に指摘していない以上、その後の不就労については、Y社に帰責性があるとは認められない。

解雇の意思表示がなされた後に、同意思表示が撤回されることがあります。

民法540条2項との関係で当該撤回の有効性が争われることがありますが、上記判例のポイント1のように考えて、仮に労働者の同意がなくても、それだけをもって無効とは考えないという解釈があり得るようです。ちょっとよくわかりませんが。

いずれにせよ、解雇撤回後の復職に関し、本件同様の争いとなることは珍しくありませんので、職場環境の改善という観点で適切に対応する必要があります。

解雇の撤回をする場合には、顧問弁護士に相談しながら、慎重に対応するようにしましょう。

本の紹介2195 99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

今から9年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

この本を読むと、いかにマインドセットが大切であるかが本当によくわかります。

もう無理と思えば、もう無理。

まだいけると思えば、まだいける。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

お金を借りるという『リスク』よりも、何も変わらないことの『リスク』のほうが強い。いつ人生が終わるかわからない中で、動かないことのほうが、よほど大きいリスクなのだ。」(120頁)

リスク、リスクと言っているうちに人生は終わります。

ゼロリスクなんてこの世の中に存在しないのに。

リスクがあると言って、抽象的かつ大したリスクでもないことを針小棒大に評価して、やらない理由探しをしているだけですから。

リスクの有無ではなく、リスクの内容、程度を分析して、テイクできそうかを判断すれば足ります。

管理監督者64 経理課長の管理監督者該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、経理課長の管理監督者該当性に関する裁判例を見ていきましょう。

スター・ジャパン事件(東京地裁令和3年7月14日・労判1325号52頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結して就労しているXが、Y社に対し、平成28年6月から令和元年11月までの期間(以下「本件請求期間」という。)における時間外労働、深夜労働及び休日労働に対する割増賃金の不払がある旨主張して、Y社に対し、労働契約に基づき、各割増賃金の合計1523万0698円+遅延損害金の支払を求めるとともに、労基法114条に基づき、付加金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、1523万0698円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、〈1〉Xが、雇用契約当初からその後本訴提起の直前に至るまで一貫してY社がXを管理監督者として扱うよう誘導し、〈2〉Xに対して時間外労働の抑制などの時間管理をする機会を奪わせ、〈3〉他方で自分で勝手に労働時間を長くしてから、〈4〉長期にわたりその状態を自ら放置して時間外の請求をすることなく、2年半以上過ぎてから請求したことを理由に、本件請求は禁反言の原則、信義則に違反する旨主張している。
しかしながら、Xは、Y社に正社員として入社した平成28年1月当時、自己が残業代の支払を受けることができる立場ではないと認識してはいたものの、就労する中で管理監督者としての権限を有していないという認識に至ったことから本件請求を行ったというのであるから、Xを管理監督者として扱うようY社を誘導したなどとは評価し難いし、入社後2年半以上過ぎてから請求したからといって、禁反言の原則や信義則に反するとはいい難い。また、Xは、平成30年8月頃に、正社員の増員についての打診があった際、採用は平成31年3月以降にするように希望を述べているが、これは、新規採用社員の入社時期が繁忙期に重ならないようにするためであるから、この点をもってXが自ら不当に労働時間を長くしているとはいえないし、Xの時間外労働を抑制する機会を失ったというのも、Y社が管理監督者に該当しない者を管理監督者として扱ったことによる帰結にすぎない。
したがって、XのY社に対する割増賃金請求が信義則に反するということはできない。

2 Y社が割増賃金を支払わなかったのは、Xが管理監督者に該当すると認識していたためであるところ、結果としては管理監督者に該当するとは認められないものの、XのY社内における肩書、労務管理権限及びその処遇に照らして、Xが管理監督者に該当すると認識したことには相応の理由があり、また、X自身、当初は割増賃金が支払われる立場ではないと認識していたことや、Y社は、管理監督者であっても支払義務のある深夜割増賃金については支払っており、労基法を軽視しているとはいえないことを踏まえると、Y社の割増賃金の不払は悪質なものとは評価できない。
したがって、本件において、Y社に付加金の支払を命ずるのは相当でない。

会社側の気持ちはよくわかります。

とんでもない金額ですしね・・。

とはいえ、管理監督者の有効要件の厳しさからすれば、そもそも管理監督者として扱うこと自体がとてもリスキーなのです(過去の裁判例を見ると、ほんの一部を除き、管理監督者性は否定されています。)。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。 

本の紹介2194 頭をよくするちょっとした「習慣術」(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

今から20年以上前の本ですが、再度、読みかえしてみました。

読んでいてつくづく思うのは、やはりどこまでいっても、習慣が人生を決めているということです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

もう『おやじ』になっちゃったからとか、『おばさん』になっちゃったから、などと自分の加齢をマイナスに捉えて口にする人はいっぱいいる。そういう言い訳をすることによって、感情はよけいに老け込んでいく。『感情』というものも意識して使っていかないと老化する。この『感情の老化』が実はいちばん怖い。感情が老け込むと人間は、動かなくなる、考えなくなる、勉強しなくなるという状態に陥る。そうすると頭も悪くなるし、体も弱くなり、次から次へと悪いことが起こってくる。」(138頁)

「もう年だから」は、単なる言い訳です。

暑いから、寒いから、眠いから、だるいから、疲れるから、面倒だから、と全く同じです。

いつもやらないための言い訳探しばかり。

Age is just a number.

老けたとどうかは、年齢という数字が決めているのではなく、その人の感情・思考が決めているのです。

賃金295 名義借契約を理由に懲戒解雇となった保険営業員への退職金全部不支給が無効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう!

今日は、名義借契約を理由に懲戒解雇となった保険営業員への退職金全部不支給が無効とされた事案を見ていきましょう。

マニュライフ生命保険事件(東京地裁令和6年10月22日・労経速2579号3頁)

【事案の概要】

本件は、生命保険会社であるY社において保険営業の業務に従事していたXが、Y社に対し、①労働契約上の退職金に関する規定に基づき、退職金999万7000円+遅延損害金の各支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、299万9100円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 生命保険契約における名義借契約は、①生命保険の基本的な原則の一つである給付反対給付均等の原則と相容れないものであること、②名義上の保険契約者と営業職員との間の紛争を誘発するものであり、こうした紛争は、営業職員が属する保険会社への社会的な信頼を棄損することにつながり、保険会社も当該紛争に事実上巻き込まれることになりかねないこと、③営業職員の真実の営業成績を偽るものであり、保険会社による人事評価の適正を著しく害するものであることから、「保険募集に関し著しく不適当な行為」(保険業法307条1項3号)に当たるものと解される。このように名義借契約は、悪質性の高い行為であることから、保険会社から監督官庁に対する届出が必要とされており、Y社も、本件生命保険契約に係る名義借契約について、関東財務局長に対して、不祥事件として届出をしている。加えて、名義借契約を含む保険募集に関する不適切な行為については、社会的にも厳しい評価がなされている。本件生命保険契約に係る名義借契約は、営業成績を偽ることを目的とした典型的な名義借契約であるということができ、相当に悪質なものというべきである。
Y社は、本件生命保険契約の締結手続がなされる前から、名義借契約を含む作成契約を行った場合には、解雇ないし懲戒解雇になる旨、Xを含む営業職員に対して説明しており、実際、名義借契約を行った職員に対しては、懲戒解雇としている。したがって、Xは、名義借契約を行えば懲戒解雇等の厳しい処分がなされることを想定できていたはずであり、それにもかかわらず本件生命保険契約に係る名義借契約に及んだことは、それ自体、非難に値するといえるし、本件懲戒解雇が、Y社による他の職員に対する処分との間で不均衡があるともいえない

2 Xの本件懲戒解雇に係る懲戒事由に当たる行為は、Xのそれまでの勤続の功を一定程度減殺する悪質性があるものといわざるを得ない。Y社は、監督官庁に本件生命保険契約に係る名義借契約について、不祥事件として届出をしており、Y社の社会的な信用を棄損する事態となっていることや、Xが、一旦は名義借契約を認める趣旨の言動をしておきながら、その後、それを一転させ、全面的に否定する態度に転じ、これにより、Y社をして、Xの不適切な行為に対する対応に、相応な負担を生じさせていることも、軽視することはできない。
他方、Xは、本件懲戒解雇以外にY社から懲戒処分を受けたことはなかったこと、本件における名義借契約は、本件生命保険契約に係る1件のみであることなどを考慮すると、Xのそれまでの勤続の功を全て抹消するほどの著しい背信行為があったとまではいうことはできない
そうすると、本件退職金不支給条項は、Xの退職金の7割を超えて不支給とする限りで無効であると解すべきであり、Xは、Xに支給されるべきであった退職金999万7000円の3割である299万9100円については、退職金請求権を失わない。

7割という数字自体は、どこかに計算式があるわけではなく、担当裁判官の匙加減です。

現場において、適切な減額割合を客観的に判断することはほとんど不可能であるため、事案の性質上、全額不支給とすることも多いと思います。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介2193 必ず役立つ!!「〇〇の法則」事典(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、本の紹介です。

世の中には、いくつもの法則があります。

この本では、70の法則が紹介されており、読み物としてとてもおもしろいです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

幸運は突然、天から降ってくるものではなく、心がけ次第である。決まった習慣を身につけさえすれば、つまり、自ら決めた考え方や行動で幸運を招くことができる」(140頁)

ワイズマンの法則というらしいです。

法則それ自体を知らなくても、なんとなくそんなものかなと、多くの人が思っていることだと思います。

要するに、幸運は、日頃から準備をしている人のところにやってくる、ということです。

単に神頼みをしているだけでなく、毎日、コツコツと努力を続ける必要があります。

言うは易く行うは難し。

やっている人は、言われなくてもやっている。

やらない人は、どれだけ言われてもやらない。