Daily Archives: 2025年9月12日

管理監督者64 経理課長の管理監督者該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、経理課長の管理監督者該当性に関する裁判例を見ていきましょう。

スター・ジャパン事件(東京地裁令和3年7月14日・労判1325号52頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結して就労しているXが、Y社に対し、平成28年6月から令和元年11月までの期間(以下「本件請求期間」という。)における時間外労働、深夜労働及び休日労働に対する割増賃金の不払がある旨主張して、Y社に対し、労働契約に基づき、各割増賃金の合計1523万0698円+遅延損害金の支払を求めるとともに、労基法114条に基づき、付加金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、1523万0698円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、〈1〉Xが、雇用契約当初からその後本訴提起の直前に至るまで一貫してY社がXを管理監督者として扱うよう誘導し、〈2〉Xに対して時間外労働の抑制などの時間管理をする機会を奪わせ、〈3〉他方で自分で勝手に労働時間を長くしてから、〈4〉長期にわたりその状態を自ら放置して時間外の請求をすることなく、2年半以上過ぎてから請求したことを理由に、本件請求は禁反言の原則、信義則に違反する旨主張している。
しかしながら、Xは、Y社に正社員として入社した平成28年1月当時、自己が残業代の支払を受けることができる立場ではないと認識してはいたものの、就労する中で管理監督者としての権限を有していないという認識に至ったことから本件請求を行ったというのであるから、Xを管理監督者として扱うようY社を誘導したなどとは評価し難いし、入社後2年半以上過ぎてから請求したからといって、禁反言の原則や信義則に反するとはいい難い。また、Xは、平成30年8月頃に、正社員の増員についての打診があった際、採用は平成31年3月以降にするように希望を述べているが、これは、新規採用社員の入社時期が繁忙期に重ならないようにするためであるから、この点をもってXが自ら不当に労働時間を長くしているとはいえないし、Xの時間外労働を抑制する機会を失ったというのも、Y社が管理監督者に該当しない者を管理監督者として扱ったことによる帰結にすぎない。
したがって、XのY社に対する割増賃金請求が信義則に反するということはできない。

2 Y社が割増賃金を支払わなかったのは、Xが管理監督者に該当すると認識していたためであるところ、結果としては管理監督者に該当するとは認められないものの、XのY社内における肩書、労務管理権限及びその処遇に照らして、Xが管理監督者に該当すると認識したことには相応の理由があり、また、X自身、当初は割増賃金が支払われる立場ではないと認識していたことや、Y社は、管理監督者であっても支払義務のある深夜割増賃金については支払っており、労基法を軽視しているとはいえないことを踏まえると、Y社の割増賃金の不払は悪質なものとは評価できない。
したがって、本件において、Y社に付加金の支払を命ずるのは相当でない。

会社側の気持ちはよくわかります。

とんでもない金額ですしね・・。

とはいえ、管理監督者の有効要件の厳しさからすれば、そもそも管理監督者として扱うこと自体がとてもリスキーなのです(過去の裁判例を見ると、ほんの一部を除き、管理監督者性は否定されています。)。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。