解雇424 解雇撤回後の地位確認・賃金等請求と反訴(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、解雇撤回後の地位確認・賃金等請求と反訴に関する裁判例を見ていきましょう。

K’sエステート事件(東京高裁令和6年12月24日・労判1327号73頁)

【事案の概要】

本件本訴は、Xが、Y社から雇用契約を不当に解雇され、以降、Y社の責めに帰すべき事由により就労できない状態が続いているなどと主張して、Y社に対し、〈1〉労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、〈2〉令和4年6月以降の月額43万4677円の賃金及びこれに対する遅延損害金の支払、〈3〉上記解雇前に同年2月分及び3月分の歩合給を違法に減額されたなどとして、未払賃金又は不法行為に基づく損害賠償として合計20万1789円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。

本件反訴は、Y社が、Xに対し、上記解雇を撤回して労務提供を命じたが、Xが労務提供しないため、賃金支払義務を負わないところ、令和4年7月15日から令和6年8月15日までの間、Xが負担すべき社会保険料合計121万9090円を立替払したなどと主張して、同額の立替金、同日までの確定遅延損害金3万9257円及び上記立替金に対する遅延損害金の支払を求める事案である。

原審は、Xの本訴について、上記〈1〉の請求に係る訴えを却下し、その余の請求をいずれも棄却した。これを不服としてXが控訴を提起し、他方、Y社が、当審において、上記のとおり反訴を提起した。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、46万8796円+遅延損害金を支払え。
2 Y社は、Xに対し、20万1789円+遅延損害金を支払え。
3 Xは、Y社に対し、125万8340円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xが本件解雇が違法無効である旨を通知したのに対し、Y社は本件解雇を撤回する旨を通知した。本件解雇は無効であるところ、本件解雇撤回は、上記Xの通知に対して、本件解雇が遡及的に効力を生じないことを認める旨の通知であると解される。したがって、Xが主張するようにXが同意又は承諾しなければ効力を生じないというものではない
もっとも、本件解雇は違法無効であり、本件解雇に到る経緯に照らせば、本件解雇及びこれに到るY社代表者の一連の言動により、XとY社との本件雇用契約上の信頼関係が、相当程度損なわれたことが認められるから、Y社が本件解雇撤回をし、労務提供を命じただけで、直ちに本件解雇等に伴う受領拒絶状態が解消されたということはできない。そして、本件解雇撤回後のXの不就労が、Y社の帰責事由によるものであるか否かを判断するに当たっては、Xが労働者として労務提供義務を負っていることを基本として、Y社が使用者として、業務上の指示命令権限を有する一方、職場環境配慮義務を負っていることも考慮しつつ、Xが復職する上での具体的な支障の有無や、本件解雇撤回後の双方の対応状況等を総合考慮して、Xが労務提供可能な状態にあったといえるか否かにより判断するのが相当である。

2 以上の観点から検討すると、Y社は、令和4年5月10日頃、本件解雇撤回を通知し、同月12日から、本社へ出頭し稼働するよう指示したが、Xは、本件解雇前、B店で勤務していたものであり、対立状態にあったY社代表者から、一方的に給与の減額を告げられたり、退職勧奨を受けたりした後、これを拒むと、本件解雇をされたという経緯からすると、Xにおいて、復職後の賃金、本店での職務内容等の就労条件や職場環境等を確認し、これが明らかになるまで就労を拒否するとの対応をとったことは、相応の理由があるものといえる。また、上記のとおり本件解雇は違法無効であるところ、Y社が、そのことを顧みず、解雇事由として挙げた事情について精査しないまま、懲戒手続を開始する旨告知したことは、Xに対して、恣意的に懲戒手続がされるとの懸念を抱かせ、Y社に対する不信感を増幅させるものであったということができる。
もっとも、その後、Xから復職後の賃金、本店での職務内容等の就労条件や、本件解雇が不当解雇であったことを踏まえた職場環境の配慮等の質問や要望を受けて、Y社が、これに対して回答するといった交渉を重ねることにより、Y社が同年5月26日頃に通知をした頃までには、Y社が指示命令する復職後の就労条件が、賃金については、Y社代表者が恣意的に発言した減給を前提としたものではなく、本件雇用契約に基づくものであること、就業場所については、配転命令に基づき本店での勤務を命じること、職務の内容については、B店と同様、営業担当であり、就業時刻も同様であること等が明確化され、他方で、歩合給に影響する本件歩合給変更の適否や、ホームページ等を通じた来客でない顧客の割当て(反響)の方針については、明確化されないままであったことが認められる。
また、職場環境については、Y社において、ハラスメントを行わないことを誓約し、Y社代表者がその窓口となること、懲戒手続については、稼働状況が安定するまでの間、停止することといった方針を示し、また、Xの申出があれば、過去のハラスメントの有無を調査し、必要な措置をとることや、歩合給の横取りやノルマ不達成に基づく給与の天引き等の指摘事項についても、さらに具体的な事実関係を特定して問題点が指摘されれば、精査検討する旨の方針を示したことが認められる。
上記Y社の対応は、一部認識に相違があるものの復職後の就労条件や、その根拠を明示するものであり、復職後の職場環境に一定の配慮をするものであったということができる。職場環境への配慮については、その性質上、労働者からの具体的な指摘を待って、さらに具体的対応を検討するという方針を採ることは、相応の合理性を有するものであるところ、上記5月26日の通知後、Xは、さらに具体的な問題点の指摘をしていない。そして、Y社は、同年6月6日頃、1週間以内に改めて労務提供の意思の有無を連絡するよう求めたのに対し、Xは、同月13日頃、それ以上、復職に向けた条件等について、具体的に問題点を指摘したり、改善を求めたりすることのないまま、労務提供の意思の有無を明らかにせず、労働審判の申立てをする言を通知した

3 以上のような諸事情に照らすと、Y社が同年5月26日に上記通知をした頃までには、本件解雇による受領拒絶及びこれに伴い作出された労務提供を困難とする状況が相当程度改善されたということができ、他方、Xは、被控訴人が、その後、同年6月6日頃に、一定の猶予期間と理解し得る1週間の期限を定めて、労務提供の意思の有無を連絡するよう通知したのに対し、同月13日頃の通知により、労務提供の意思の有無を明らかにせず、復職に向けたさらなる検討事項を具体的に指摘しなかったのであるから、その頃には、Xが労務提供可能な状況にあったと認められ、仮に被控訴人の措置が必ずしも十分なものとまではいえないものであったとしても、Xがさらなる検討事項を具体的に指摘していない以上、その後の不就労については、Y社に帰責性があるとは認められない。

解雇の意思表示がなされた後に、同意思表示が撤回されることがあります。

民法540条2項との関係で当該撤回の有効性が争われることがありますが、上記判例のポイント1のように考えて、仮に労働者の同意がなくても、それだけをもって無効とは考えないという解釈があり得るようです。ちょっとよくわかりませんが。

いずれにせよ、解雇撤回後の復職に関し、本件同様の争いとなることは珍しくありませんので、職場環境の改善という観点で適切に対応する必要があります。

解雇の撤回をする場合には、顧問弁護士に相談しながら、慎重に対応するようにしましょう。