Daily Archives: 2025年10月20日

賃金296 タクシー乗務員の歩合給の出来高払制賃金の該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間がんばりましょう。

今日は、タクシー乗務員の歩合給の出来高払制賃金の該当性に関する裁判例を見ていきましょう。

正和自動車事件(東京地裁令和6年11月29日・労経速2582号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結したXが、Y社に対して、以下の金員の支払を求める事案である。
(1)雇用契約に基づき、168万7611円+遅延損害金
(2)付加金+遅延損害金
(3)不当利得に基づき、6万円+遅延損害金

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、15万4273円+遅延損害金を支払え。
2 Y社は、Xに対し、11万9729円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 労基法27条及び労基則19条1項6号の「出来高払制その他の請負制」とは、労働者の賃金が労働給付の成果に応じて一定比率で定められている仕組みを指すものと解するのが相当であり、出来高払制賃金とは、そのような仕組みの下で労働者に支払われる賃金のことをいうものと解される。また、出来高に対する賃金比率が完全に相関する形で定められていないとしても、その賃金支払合意が、労基法等の法令に反しない内容で労使間で合意されている場合には、そのような賃金支払合意も出来高払制賃金の支払合意と認めて差し支えないと解される。

2 本件雇用契約は、原告の賃金について給与規定を適用する旨が定められており、給与規定が本件雇用契約の内容となっていると認めるのが相当である。そして、給与規定13条では、歩合給の計算方法について(1)歩合給=営業収入×歩率×業務比率とし、(2)歩率について、〈1〉営業収入のうち38万円以下の部分(49%)、38万0001円以上42万円以下の部分(91%)、42万0001円以上46万円以下の部分(95%)、46万0001円以上の部分(100%)ごとに定め、〈2〉ただし、歩合給の額が営業収入の62%を超える場合、歩率全体が62%となる、(3)業務比率について、総労働時間を、総労働時間、みなし残業時間に0.25を乗じた時間及びみなし深夜時間に0.25を乗じた時間の合計で除して算出すると定められている。

3 次に、上記の歩合給の計算に関し、みなし残業時間が3時間、みなし深夜時間が7時間であることが、本件雇用契約の内容となっているかについて検討するに、給与規定14条は、みなし残業時間及びみなし深夜時間を各人ごとに定めるものの、給与規定にそれ以上の定めはなく、被告から、原告に対し、原告のみなし残業時間3時間及びみなし深夜時間7時間であることの説明がされていないこと自体は、当事者間に争いがない
しかし、証拠及び弁論の全趣旨によれば、Y社が、上記で計算する場合に、給与規定13条の定める最大歩率62%ではなく、61%で計算していたことがあったことがうかがわれるものの、基本的に給与規定13条の計算式に基づいて計算がされていたと認められ、これに対し、Xが歩合給の計算額に異議を述べていたという事情はうかがわれず、Xは、Y社の計算式に基づく歩合給を受領していたと認められる。
そうすると、みなし残業時間3時間及びみなし深夜時間7時間であることは、本件雇用契約の内容となっていると認めるのが相当である。

4 上記の計算式に加え、みなし残業時間が3時間であること及びみなし深夜時間が7時間であることが本件雇用契約の内容となっていることからすれば、歩合給は、営業収入という労働者の成果に応じて一定比率で定められているといえる。
これに対し、Xは、原告の営業収入の額と歩合給の額が正比例の関係にない、また、歩合給の計算に、労働者の勤務日数という成果以外の計算要素が影響すると主張する。
しかし、上記からすれば、出来高払制賃金について賃金が労働給付の成果と正比例の関係にあることを要するとはいえず、この点をもって、歩合給が出来高払制賃金でないとはいえない
また、総労働時間が一定である場合、みなし残業時間及びみなし深夜時間が増えれば増えるほど(みなし残業時間とみなし深夜時間は、勤務日数が増えれば、これに比例して増える。)、業務比率の割合が減ることになるものの、勤務日数が増えれば総労働時間もそれに合わせて増えることが多く、勤務日数の増減に応じて直ちに業務比率が増減する関係にあるとはいえない。勤務日数によって業務比率の割合が影響を受ける関係にあり、出来高に対する賃金比率が完全に相関する形で定められていないものの、このことによって、歩合給が労働給付の成果に応じて一定比率で定められている賃金と評価することができないとまではいえない。また、このような本件雇用契約の内容が、労基法等の趣旨に反しているとまでは評価できない。
そうすると、歩合給は、労働給付の成果に応じて一定比率で定められている仕組みの下で労働者に支払われる賃金のことをいうものと解され、出来高払制賃金に該当すると認めるのが相当である。
よって、歩合給は、出来高払制賃金であると認められる。

上記判例のポイント3の認定は、やや危うい感じがしますがいかがでしょうか。

出来高払制賃金を採用している会社は少なくありませんが、実際には、法律上のそれに該当しないケースも散見されますのでご注意ください。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。