労働時間116 割増賃金請求と管理されていない労働時間算定(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、割増賃金請求と管理されていない労働時間算定に関する裁判例を見ていきましょう。

T4U事件(東京地裁令和6年3月28日・労判1331号87頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社に対し、以下の請求をする事案である。
(1)Y社代表取締役は時間外勤務手当を支払う意思がなかったにもかかわらず、Xに対し、時間外労働を命じ長時間労働をさせたが時間外勤務手当を支払わず、時間外勤務手当相当額の損害を加えたとして、会社法350条に基づく損害賠償請求及びこれに対する遅延損害金の請求として、割増賃金請求権としては時効消滅した平成27年12月11日から平成29年1月10日の間の割増賃金相当損害金+遅延損害金
(2)Xが時間外労働をしたにもかかわらず割増賃金が支払われなかったとして、労働契約に基づく割増賃金及びこれに対する遅延損害金の請求として
ア 平成29年1月11日から平成30年11月23日までの間の割増賃金+確定遅延損害金の合計953万0389円+遅延損害金
イ 平成30年11月24日から同年12月10日までの間の割増賃金+確定遅延損害金の合計45万8340円+遅延損害金
(3)労基法114条に基づく付加金請求及びこれに対する遅延損害金請求として

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、別紙1認容目録の「認容額」欄及び各「組入れ額」欄記載の各金員+遅延損害金を支払え。
2 Y社は、Xに対し、156万5223円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 XとY社との間の雇用契約書には、「残業代を含む」と記載されているのみである。Y社の就業規則39条4号には、「月間40時間が契約上の勤務時間に含まれるとみなしている」とあるものの、記載からしてその趣旨が明確であるとはいえない。また、年俸制なので残業代は不支給(年俸制規定12条)とされていることなども併せ考えると、基本年俸の中に月当たり40時間分の固定残業代が支払われていると認めることはできない。そうすると、就業規則や上記雇用契約書においてXの賃金における割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかったというべきであり、本件全証拠によっても、Xに支払われた年俸について通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができるとは認められない。
これに対しY社は、社内ルールでは退社時間は遅くとも午後9時までとされており、これが上記雇用契約書における「残業代を含む」の内容を示しているとして、本件労働契約に基づき月額支給する金額の中には午後6時30分から午後9時(休憩時間30分含む。)までの1日2時間、月40時間分が固定残業代として含まれていた旨主張する。
しかしながら、そもそも社内ルールは就業規則ではない。この点を措くとしても、「退社時間は遅くともPM9時まで」とする旨の記載も、その趣旨が不明確である上、社内ルールに「PM9:00を超える作業実施は人事評価(給与査定)での評価が下がる要因となります」とされていることからすれば、午後9時までの退社は人事評価の観点からの趣旨であるとも解し得、また、休憩時間30分についてはなんらの言及もないことからすれば、午後6時30分から午後9時までの間、休憩時間30分を除いて1日2時間、月40時間分が固定残業代として含まれていたと解することはできない。よって、Y社の主張は採用できない。

2 Xは、〈1〉請求の趣旨第1項及び第2項について、令和4年4月23日までの間に発生した遅延損害金を複数回に分けて順次元本に組み入れる旨、〈2〉請求の趣旨第4項について、令和4年4月23日までの間に発生した遅延損害金について元本に組み入れる旨の意思表示をしたとして、上記各意思表示で組み入れるとした期間に対応する遅延損害金を元本に組み入れた後、組入れ額も含めた元本についてさらに年14.6%の遅延損害金が発生しているとした上で算出した割増賃金元本及び遅延損害金を請求している。
民法405条はいわゆる法定重利を認めた規定であるが、同条は遅延損害金についても準用されると解される(大審院昭和17年2月4日判決・民集21巻3号107頁参照。)。
そして、Xは訴状において平成29年1月11日から平成30年12月10日までの間の割増賃金(ただし、実際に算出しているのは平成30年11月23日まで。)及びこれに対する各支払日の翌日から平成30年12月31日までの改正前商法所定の商事法定利率年6%と平成31年1月1日から支払済みまで賃確法所定の年14.6%の割合による遅延損害金の支払を求めているところ、これはかかる金員の支払の催告に当たり、本件訴訟の係属中は同催告が継続していたものと解するのが相当である。
なお、Xは、組み入れられた金員に対しても年14.6%の割合による遅延損害金を請求し、これにより発生した遅延損害金をさらに組み入れ、それに対しても年14.6%の遅延損害金を請求する旨主張する。しかしながら、組入れにより組み入れられた金員は、もともと賃金ではなく、組入れによって賃金としての性質を有することになるものでもなく、単に重利の対象となったにすぎないから、これについて賃確法6条1項、同法律施行令1条を適用することはできず、これに対する遅延損害金の利率は民法の法定利率年3%によるのが相当である。

この事案でも、固定残業制度が無効と判断されています。

有効要件を満たすことはそれほど難しくありませんので、しっかりと準備をしておけば防げる紛争類型です。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。