Daily Archives: 2025年11月19日

労働時間117 航空機客室乗務員の休憩時間(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、航空機客室乗務員の休憩時間に関する裁判例を見ていきましょう。

ジェットスター・ジャパン事件(東京地裁令和7年4月22日・労判ジャーナル159号8頁)

【事案の概要】

本件は、航空運送事業を営むY社との間で労働契約を締結し、客室乗務員として勤務していたXらが、Y社から労基法34条1項の定める休憩時間が付与されない勤務を命じられ、これに従事したことにより精神的苦痛を受けたと主張して、Y社に対し、選択的に債務不履行(安全配慮義務違反)又は不法行為に基づく損害賠償金(慰謝料及び弁護士費用)として、X各自につき55万円+遅延損害金の支払を求めるとともに、現在客室乗務員としてY社に勤務しているXらが、将来にわたって継続的に、Y社から労基法34条1項の定める休憩時間が付与されない勤務を命じられるおそれがあると主張して、人格権に基づき、上記勤務を命ずることの差止めを求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xら各自に対し、各11万円+遅延損害金を支払え。
2 Y社は、Xらに対し、労働時間が6時間を超える場合においては少なくとも45分、8時間を超える場合においては少なくとも1時間の休憩時間を付与しない勤務(ただし、労働基準法施行規則32条2項所定の時間の合計が上記休憩時間に相当する場合を除く。)を命じてはならない。

【判例のポイント】

1 客室乗務員は、機長の指揮監督下で客室の安全の確保に関する業務を行うことがその責務の一つとされており、急病人の発生等の事態が生じた場合、必要に応じて、クルーレストを中断して業務を行う必要があったほか、客室乗務員は、クルーレスト中であったとしても、インターホンが鳴れば、これに応答していたというのである。そして、客室乗務員にクルーレストが付与された事実は機長に伝達されないため、機長は各客室乗務員のクルーレストの有無、時期、時間等を把握しておらず、機長からの指揮監督の密度等について、客室乗務員がクルーレスト中か否かによって、有意的な変化があるとはいい難い。
以上によれば、クルーレストは、停車時間、折返しによる待合せ時間のように実際に乗務しない時間と同程度に精神的肉体的に緊張度が低いと認められる時間に該当するとはいえないため、労基規則32条2項所定の「その他の時間」には該当し得ない

2 労基法34条は、ある程度労働時間が継続した場合に蓄積される労働者の心身の疲労を回復させ、その健康を維持するため、労働時間の途中に休憩時間を与えるべきことを規定したものと解されるところ、Y社がXらに対して同条に違反する勤務を命じたことは、労働者の健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)に違反するというべきであるから、Y社は、これによりXらに生じた損害について賠償する責任を負う。

2 Xらに命じられていた勤務は、発着陸回数や勤務時間等の点において、Xごとに特に偏りがあったわけではなく、別紙4「勤務状況一覧表」に記載の勤務以外にも、本件各勤務パターンと1日の発着陸回数が同じで、勤務時間がより長く、便間時間が同じか、より短い勤務を命じられたことがあったのは前記認定のとおりである上、その後、勤務パターンが、労基法34条1項の休憩時間又は労基規則32条2項所定の時間が確保されていると認められるものに変更されたといった事情も見当たらず、かえって、令和6年11月以降も、各便間時間から便間業務時間である35分を差し引くと、業務外便間時間の合計時間が労基法34条1項所定の休憩時間数に達しておらず、休憩時間及び労基規則32条2項所定の時間が確保されていない勤務が行われていることが認められることに照らすと、将来にわたって、Y社が、現職Xらに対し、同様の勤務を命ずることで、現職Xらの人格権を侵害する行為が継続する蓋然性も認められる。そうすると、当該行為を差し止める必要性が認められる。

これまで当たり前のように提供を受けていたサービスは、今後、受けられなくなりますね。

なお、労基則32Ⅱは、以下のとおりです。

「第三十二条 使用者は、法別表第一第四号に掲げる事業又は郵便若しくは信書便の事業に使用される労働者のうち列車、気動車、電車、自動車、船舶又は航空機に乗務する機関手、運転手、操縦士、車掌、列車掛、荷扱手、列車手、給仕、暖冷房乗務員及び電源乗務員(以下単に「乗務員」という。)で長距離にわたり継続して乗務するもの並びに同表第十一号に掲げる事業に使用される労働者で屋内勤務者三十人未満の日本郵便株式会社の営業所(簡易郵便局法(昭和二十四年法律第二百十三号)第二条に規定する郵便窓口業務を行うものに限る。)において郵便の業務に従事するものについては、法第三十四条の規定にかかわらず、休憩時間を与えないことができる
② 使用者は、乗務員で前項の規定に該当しないものについては、その者の従事する業務の性質上、休憩時間を与えることができないと認められる場合において、その勤務中における停車時間、折返しによる待合せ時間その他の時間の合計が法第三十四条第一項に規定する休憩時間に相当するときは、同条の規定にかかわらず、休憩時間を与えないことができる。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。