Daily Archives: 2025年12月1日

従業員に対する損害賠償請求19 職場での無断撮影行為に対する損害賠償請求と使用者責任(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間がんばりましょう。

今日は、職場での無断撮影行為に対する損害賠償請求と使用者責任に関する裁判例を見ていきましょう。

ガソリンスタンドA社ほか(盗撮)事件(鳥取地裁倉吉支部令和7年1月21日・労判1333号44頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、①勤務中にAから盗撮されたことにより経済的損害及び精神的損害を被ったと主張して、Aに対しては不法行為に基づく賠償として、Y社に対しては使用者責任に基づく損害賠償として、376万7208円+遅延損害金の連帯支払を求め、②Y社は、職場での盗撮行為を防止するための体制を構築しておらず、また、Aによる盗撮行為があった後も適切な対策を取らず、これにより精神的損害を被ったと主張して、債務不履行に基づく損害賠償として、55万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

被告らは、Xに対し、連帯して69万1199円(慰謝料40万円+休業損害34万4162円+弁護士費用6万2836円-損益相殺14万1359円)+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、44万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 人は、みだりに自己の容ほう等を撮影されないことについて法律上保護されるべき人格的利益を有するところ、ある者の容ほう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上達法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである(最高裁平成15年(受)第281号同17年11月10日第一小法廷判決)。
これを本件についてみると、Xは、Y社に勤務する一般人であり、同僚から無断で勤務中の姿を撮影されることなど、通常は想定も許容もしないのであって、Aにおいても、撮影をしたいのであれば、Xに一言断ってから撮影することが常識的であるのに、Xの感情に十分配慮することなく、確認できるだけでも6日間にわたって、Xの姿を近い距離から繰り返し無断で撮影している。Xが帽子、マスク、長袖及び長ズボンを着用していたことを踏まえても、Aによる撮影行為は、その態様において著しく不相当であるといえ、また、撮影の必要性も認められない。以上の事情を総合考慮すると、Aによる撮影行為は、社会生活上受忍すべき限度を超えて、Xの人格的利益を侵害するものであり、不法行為法上違法である。

2 職場における盗撮行為は、Y社の事業の執行に当たって特異な出来事であるといえ。盗撮行為をした職員が在職しなくなった場合、一般的には事発の危険性が高いとはいえないし、業務上必要のないスマートフォン等のデジタル機器の使用は、特別に周知するまでもなく通常は許容されない行為であると従業員において理解すべきといえるから、過去に盗撮行為があったとしても、ハラスメント行為は許されない旨の告知やハラスメント行為があった場合の相談窓口を周知することを超えて、盗撮行為を防止するため、改めて勤務中に業務上必要のないスマートフォン等のデジタル機器の使用を禁止ないし制限する措置を告知したりする義務までは負わないと解することが相当である。

3 Y社は、遅くとも令和4年9月末頃の時点において、Aから盗撮被害を受けたとのXの訴えが虚偽や勘違いといったものではなく、Xに深刻な精神的苦痛が生じている可能性が極めて高い状況を認識したのだから、労働契約上の付随義務として、Y社が従業員に対してかねてから周知していた方針に従い、速やかに関係者から事情を聞くなどして事実関係を確認し、事実関係を終えた後には、Xが更なる精神的苦痛を被らないよう、配置換えを行ってXがAに接触しないで済む体制を整えるなど、Xに対する適切な配慮をしていく義務(Xが主張する安全配慮義務ないし職場環境調整義務と内容は同趣旨である。)があったというべきである。

上記判例のポイント3は、会社としてはしっかりと理解しておく必要があります。

速やかに、かつ、適切に事後対応を行うように心がけましょう。

社内で事件・事故が起こったら、速やかに顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。