Daily Archives: 2025年12月5日

労働時間118 残業代請求と管理されていない労働時間(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、残業代請求と管理されていない労働時間に関する裁判例を見ていきましょう。

大栄青果事件(福岡地裁小倉支部令和5年6月21日・労判1323号86頁)

【事案の概要】

本件は、〈1〉X組合を除くXら(以下「原告個人ら」という。)が、Y社との間で、それぞれ期間の定めのない雇用契約を締結して稼働していたところ、時間外労働・深夜労働により割増賃金が発生したにもかかわらず、Y社においてこれを支払わない旨を主張して、Y社に対し、本件各雇用契約に基づき、各未払割増賃金の各元本額+遅延損害金の支払、並びに、労基法114条に基づき、付加金+遅延損害金の支払を求め、また、〈2〉X3及びX4が、Y社の就業規則所定の退職金が発生したにもかかわらず、Y社においてこれを支払わない旨を主張して、被告に対し、各退職金+遅延損害金の支払を求め、さらに、〈3〉X組合が、Y社による団体交渉拒否は、X組合に対する不法行為を構成する旨を主張して、Y社に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として10万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、X2に対し、660万1721円+遅延損害金を支払え。
2 Y社は、X2に対し、付加金472万4440円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、X3に対し、592万4328円+遅延損害金を支払え。
4 Y社は、X3に対し、付加金423万7944円+遅延損害金を支払え。
5 Y社は、X4に対し、569万5327円+遅延損害金を支払え。
6 Y社は、X4に対し、付加金407万6478円+遅延損害金を支払え。
7 Y社は、X5に対し、608万5853円+遅延損害金を支払え。
8 Y社は、X5に対し、付加金435万0307円+遅延損害金を支払え。
9 Y社は、X6に対し、197万8108円+遅延損害金を支払え。
10 Y社は、X6に対し、付加金141万6350円+遅延損害金を支払え。
11 Y社は、X7に対し、248万8884円+遅延損害金を支払え。
12 Y社は、X7に対し、付加金178万2560円+遅延損害金を支払え。
13 Y社は、X8に対し、630万1597円+遅延損害金を支払え。
14 Y社は、X8に対し、付加金448万6192円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 X個人らの主張する始業時刻及び終業時刻については、基本的には、おおよその記憶に基づく概括的な主張となっているところ、Y社において始業時間及び終業時間の管理を目的とするタイムカード等が全く採用されていなかったことにも鑑みれば、客観的な証拠に反し、または明らかに不合理な内容を含むといった場合には格別、そうでない限りは、上記のように概括的な主張に沿って認定することも許容され得るとするのが相当である。
これを本件について見るに、X個人らの業務は、午前7時に開始されるセリに向けての準備から始まり、セリを経て、商品を販売先に配達する準備や在庫管理を行い、販売先への配達業務を行うという流れになっているところ、これら業務の流れからすれば、X個人らの主張する始業時刻及び終業時刻は明らかに不合理な内容を含んでいるとは認められず、また、請求期間全体としてみた場合において、客観的な証拠に反するとまでは認められない
そうすると、始業時刻及び終業時刻については、X個人らの主張どおり認めるのが相当である。

2 Y社は、従業員が労働時間の大半を事業場外で従事すること、定まった始業時刻、終業時刻がなく従業員の判断で業務を進められることから、「労働時間を算定し難いとき」(労基法38条の2第1項本文)に該当し、Y社には事業場外労働のみなし労働制が適用される旨を主張する。
しかしながら、労働時間を算定し難いか否かの判断に際しては、勤務の状況を具体的に把握することが困難であったか否かが重要となるところ、本件において、X個人らの業務は、各労働日ごとに被告の事務所を出発し、必ずY社の事務所に戻ってくるというものであり、直行直帰が常態化していた等の事情も認められないことからすれば、客観的にみて勤務の状況を具体的に把握することが困難であったとは認め難い。

労働時間の管理は、労務管理の基本中の基本です。

全ての会社は、上記判例のポイント1を十分に理解しておく必要があります。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。