Daily Archives: 2025年12月24日

解雇430 解雇を争う労働者の他社での就労開始について、同社での試用期間が経過した時点で黙示の退職合意を認めた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、解雇を争う労働者の他社での就労開始について、同社での試用期間が経過した時点で黙示の退職合意を認めた事案について見ていきましょう。

フィリップ・ジャパン事件(東京高裁令和7年5月15日・労経速2587号3頁)

【事案の概要】

1 Xは、平成28年9月20日にパラリーガルとしてY社に雇用され、令和元年9月10日、司法試験に合格して司法修習のため休職し、令和3年2月1日に第一子を出産して、産前産後休業及び育児休業を取得し、同年5月1日にY社に復職して法務コンプライアンス部での業務に従事した。部長であったAは、同年7月頃から11月頃まで、Xに対し、業務改善計画(PIP)を実施し、人事本部長であるBとともに退職勧奨をしたが、Xがこれに応じなかったため、Y社は、同年12月13日、令和4年1月15日限りでXを解雇する旨の意思表示をした。Xは、本件解雇後、同年3月1日、C社に入社した。Y社は、その後、本件解雇を撤回したが、XがC社に入社した時点でY社に対する就労意思を喪失し、黙示の退職合意が成立したと主張し、Xは、これを争い、就労意思を喪失したのは令和6年1月31日である旨主張している。
本件は、Xが、Y社に対し、雇用契約に基づき、①本件解雇後の和4年3月1日から本判決確定の日までの月例賃金請求として、毎月25日限り月額51万5300円(基本給41万2200円及びみなし勤務
手当10万3100円の合計額)+遅延損害金及び②和4年分及び令和5年分の賞与請求として、合計125万7835円+遅延損害金の各支払を求めるとともに、③A及びBによる退職勧奨及びそれに伴う各言動が違法であると主張して、A及びBについては民法709条に基づき、Y社については民法715条に基づき、慰謝料300万円+遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

2 原審は、①の月例賃金請求について、Xにおいては第一子の保育園の入所資格を確保し自らの職歴を確保するとの観点から直ちに就職活動を行う必要性に迫られA社に就職したものであるから、A社に就職した時点でY社への就労意思が喪失したものとは認め難く、Xが就労意思の喪失を自認した令和6年1月31日をもって黙示の退職合意が成立したと認めた上、C社から賃金月額77万9200円が支払われ、XがC社において令和5年7月6日から令和6年8月まで産前産後休業及び育児休業を取得したことから、令和4年3月から令和5年6月までの賃金について毎月25日限り月額51万5300円の6割に相当する30万9180円及び同年7月1日から同月5日までの5日分の賃金について同月25日限り日割計算した賃金の6割に相当する4万9868円+遅延損害金の支払を求める限度で認容し、②の賞与請求について、支給を求め得る具体的な請求権として発生しているとは認められないとして棄却し、③の慰謝料請求について、1審被告丙川による退職勧奨は、PIP の評価結果を踏まえたXの能力や適格性の不足を理由とするものであり、不当な動機・目的の下で行われたと認めるに足りる証拠はない、A及びBの言動も、Xの退職に係る自由な意思決定を侵害する違法があったとは認められず、X個人の力量や人格を非難する趣旨で発言をしたとは認められないなどとして、Xの請求をいずれも棄却した。X及びY社は、これに対し、それぞれの敗訴部分を不服として控訴し、Xは、当審において、①の月例賃金請求の終期を令和5年7月5日までとして不服の範囲を限定した。

【裁判所の判断】

1 Y社の本件控訴に基づき、原判決主文第1項を次のとおり変更する。
2 Y社は、Xに対し、令和4年3月から同年8月まで毎月25日限り月額30万9180円+遅延損害金を支払え。
3 Xのその余の請求を棄却する。
4 Xの本件控訴を棄却する。

【判例のポイント】

1 C社においても、就職後6か月間は試用期間とされており、同期間中にXに社内弁護士としての職務能力があるとはいえないと評価された場合には解雇される可能性もあったから、同期間が終了するまでは、XがY社における就労意思を喪失したということはできない。しかし、C社での6か月間の試用期間中に解雇や解雇予告がされなかったということは、C社においてXは社内弁護士としての職務能力があると評価されたといえるから、その後は職務能力がないことを理由として解雇されるおそれは相当低下したといえる。そして、C社におけるXの雇用条件は、賃金月額77万9200円であるなど、Y社における雇用条件(月額51万5300円)と比較して明らかに好待遇であり、第二子の出産育児のために、産前産後休業及び育児休業も取得できた一方で、Y社においては、PIP の結果、社内弁護土としての能力をいていると評価され、後に撤回されたとはいえ、解雇までされたことを考慮すると、C社での試用期間が終了した時点において、XがC社をあえて退職してまでY社で就労する意思があったと認めることはできない
以上によれば、Xは、C社での試用期間が終了した令和4年8月31日時点においてY社への就労意思を喪失したと認めるのが相当であり、同日時点において、XとY社との間での黙示の退職合意が成立したというべきである。

原審の判断が、就労意思の喪失時期に関する近年の裁判所の判断の主流ですが、控訴審では、原審よりも当該時期を早める判断をしました。

事案の特殊性から、どこまで一般化できるか定かではありませんが、考え方としては参考になりますね。

日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。