メンタルヘルス15 パワハラ被害者の休職期間満了退職の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、パワハラ被害者の休職期間満了退職の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

TCL JAPAN ELECTRONICS事件(東京地裁令和5年12月7日・労判1336号62頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結して就労していたXが、Y社に対し、
(1)当時のY社の代表取締役、副社長及び直属の上司からパワーハラスメント行為を受けるなどした後に適応障害を発症して休職したところ、Y社が休職期間満了前に休職事由が消滅したと認められないとして就業規則の規定を根拠に休職期間満了日をもって自然退職扱いとしたことについて、Y社のパワーハラスメント行為等により適応障害を発症したものであり、かつ休職期間満了前である令和元年6月17日に復職可能と診断した医師の診断書を提出して復職を求めていたから同日をもって休職事由は消滅した等と主張して、
〈1〉雇用契約上の地位確認、
〈2〉令和元年6月17日以降本判決確定日までの月額賃金+遅延損害金、
〈3〉休日労働に係る未払賃金+遅延損害金
の各支払を求めるとともに、
(2)前記パワーハラスメント行為により適応障害を発症し、強い精神的苦痛を被ったとして、不法行為に基づき、慰謝料、医療関係費及び弁護士費用等合計562万7347円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

1 Xが、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 Y社は、Xに対し、16万4500円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、Xに対し、令和元年7月1日から令和2年2月29日まで毎月末日限り32万9000円+遅延損害金を支払え。
4 Y社は、Xに対し、令和2年3月1日から本判決確定の日まで毎月末日限り、32万9000円+遅延損害金を支払え。
5 Y社は、Xに対し、45万2205円+遅延損害金を支払え。
6 Y社は、Xに対し、1万9998円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社の就業規則は、社員が同38条各号に定める休職事由に該当するときは休職を命ずることがあり、休職期間満了後においても休職事由が消滅しないときは休職期間満了の日をもって自然退職とする(同39条4項)と定めている。このような就業規則の定めによれば、Y社において、休職命令は、休職期間満了までの間、解雇を猶予するものであるということができる。そうすると、「休職事由が消滅したとき」とは、職員が雇用契約で定められた債務の本旨に従った履行の提供ができる状態に復することであり、原則として、従前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合、又は、当初軽易作業に就かせればほどなく従前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合をいうと解するのが相当である。そして、休職事由の消滅については、解雇を猶予されていた職員において主張立証しなければならないと解するのが相当である。
同年6月17日に休職事由が消滅したとのXの主張は採用できず、休職期間満了までに休職事由が消滅したとも認められない。

2 XはY社の業務に起因して適応障害を発症したと認められるから、労働基準法19条1項類推適用により、就業規則39条4項は適用されない。よって、就業規則39条4項に基づきXを退職扱いとすることは許されず、本件雇用契約は継続していると認められる。

3 X自身が反省するというより、婉曲的にGを非難する内容の反省文を提出したこと等が認められ、このような婉曲的に相手を蔑んだり、慇懃無礼であったり、挑発的であったりするXの対応は、XとGとの衝突や関係悪化をより深刻化させる方向に機能したと考えられるところ、そこにはXの気分変調症、境界性パーソナリティ障害又は易刺激性や情動易変性及び社会適応能力の問題が影響していると認めるのが相当である。このような本件の事情を考慮すれば、本件では2割の素因減額を認めることが相当である。

パワハラが原因で精神疾患を発症し、休職した場合、当該傷病について業務起因性が認められ、労基法の解雇制限に該当するとなると、私傷病を前提とする休職期間満了による自然退職の制度は適用対象外となります。

日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。