Daily Archives: 2026年1月23日

メンタルヘルス16 休職期間満了による退職を有効と判断した事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、休職期間満了による退職を有効と判断した事案について見ていきましょう。

東日本電信電話事件(東京地裁令和7年3月14日・労経速2592号30頁)

【事案の概要】

(1)Xは、Y社に対し、定年後再雇用制度に基づき、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、令和5年4月から本判決確定の日まで毎月20日限り18万8500円の賃金+遅延損害金の支払を求めた。
(2)また、Xは、Y社に対し、上記(1)の前提として、主位的に、定年前に休職期間満了を理由として退職扱いとなったことについて、休職の原因となった精神疾患は治癒しており復職可能であったと主張して、雇用契約の終了を争い、令和4年2月から令和5年3月31日まで毎月20日限り39万1550円の賃金+遅延損害金の支払を求めた。
(3)さらに、Xは、Y社に対し、上記(1)の前提として、予備的に、定年前に休職期間満了によって雇用契約が終了していたとしても、Y社が設ける再採用制度によって、Y社との間で改めて雇用契約が締結されていたと主張して、令和4年10月から令和5年3月31日まで毎月20日限り39万1550円の賃金+遅延損害金の支払を求めた。
(4)このほか、Xは、Y社に対し、Y社による復職拒否、退職扱いが不法行為に当たると主張し、慰謝料等110万円+遅延損害金の支払を求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 E医師は、令和3年11月26日、Xについて同月27日から職場復帰可能な状態であるとする診断書を作成し、同月30日、Xにつき、症状は改善傾向にあって、同年8月からは不安や抑うつ気分などは軽快しており、同年12月より復職可能であるとする病状調書を作成した。
さらに、E医師は令和5年7月3日、「回答書」と題する書面を作成し、一般的にうつ病の疾患を有する者が復職可能と判断するには寛解に至っていることに加え、生活機能や知的能力が十分に改善し、休職に至った職場での原因が解決される必要があるとし、Xについては、前2者の条件は満足するものの、職場の受入れ態勢及びX本人の覚悟という側面があるため、「Ptさえ覚悟を決めれば書きます」と説明したものであり、Xについては、その後、症状が寛解していたこと、リワークプログラムや野鳥の会に参加して生活機能や知的能力が十分に改善していたことのほか、Xに復職意向があり心理的準備が進んでいたことから復職可能と診断したと説明している。

2 しかしながら、E医師は、令和4年8月29日付けで、Xの障害者年金の受給に関する「診断書(精神の障害用)」を作成し、現症日である同日以前1年程度の原告の状況について、要旨、「抑うつ状態」「思考・運動制止」「憂うつ気分」が見られ、「抑うつ気分や意欲低下が続いている」状況にあり、「不変」「変化なし」であり、「他人の話を聞く、自分の意思を相手に伝える、集団的行動が行える」か否かについては「助言や指導があればできる」にとどまり、「精神障害を認め、家庭内での単純な日常生活はできるが、時に応じて援助が必要である。(たとえば、習慣化した外出はできるが、家事をこなすために助言や指導を必要とする。社会的な対人交流は乏しく、自発的な行動に困難がある。金銭管理が困難な場合など。)」に当たり、「現在、抑うつ気分や意欲低下がつよく労働能力が低下している。」状態にあり、予後についても「不明」と診断した。
上記診断によれば、Xは、「他者とのコミュニケーションがほとんどできず、近所や集団から孤立しがちである。友人を自分からつくり、継続して付き合うことができず、あるいは周囲への配慮を欠いた行動がたびたびあるため、助言や指導を必要とする。」「医療機関等に行くなどの習慣化された外出は付き添われなくても自らできるものの、ストレスがかかる状況が生じた場合に対処することが困難である。食事をバランスよく用意するなどの家事をこなすために、助言などの支援を必要とする。身辺の清潔保持が自発的かつ適切にはできない。対人交流が乏しいか、ひきこもっている。自発的な行動に困難がある。日常生活の中での発言が適切にできないことがある。行動のテンポが他の人と隔たってしまうことがある。ストレスが大きいと症状の再燃や悪化を来たしやすい。金銭管理ができない場合がある。社会生活の中でその場に適さない行動をとってしまうことがある。」状態にあったといえる。

3 以上のとおり、E医師は、Xにつき、生活機能等が回復し、令和3年11月27日から復職可能であると判断する一方、令和4年8月29日以前1年程度にわたり、労働が著しい制限を受けるか、又は労働に著しい制限を加えることを要する程度にあるとも診断していたのであって、このような相矛盾したE医師の診断によって、同年1月29日までに原告が復職可能な程度に治癒・寛解していたとまでは認めることはできない

心療内科の主治医は患者との関係性を考慮し、本件同様の診断書を提出することが珍しくありません。休職期間中は長期にわたり復職不可の診断書を書きつつ、休職期間満了直前になって、突如、復職可とする診断書を書くというのもよく目にします。

会社としては、主治医の診断書を鵜呑みにすることはできませんのでご注意ください。

使用者としていかに対応すべきかについては、顧問弁護士の助言の下に判断するのが賢明です。