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従業員に対する損害賠償請求22 取締役及び執行役員が在任中に働き掛けて行われた役職者を含む同一部署の従業員22名の一斉退職が違法と判断された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、取締役及び執行役員が在任中に働き掛けて行われた役職者を含む同一部署の従業員22名の一斉退職が違法と判断された事案を見ていきましょう。

アジャイル事件(東京地裁令和7年1月22日・労経速2587号18頁)

【事案の概要】

本件は、キャラクター等を活用した商品企画等を主たる業とするX社が、X社の従業員であったA、Y社の代表取締役であるB及びY社に対し、以下の請求をする事案である。
(1)被告らが共謀の上、X社の多数の従業員を退職させ、Y社に移籍させようとした引抜行為が、不法行為を構成すると主張して、被告らに対し、不法行為(民法719条1項、Y社につき更に会社法350条)に基づく損害賠償として、X社に生じた損害3億2415万4847円+遅延損害金の連帯支払
(2)Aに対し、執行役員の就任承諾書に係る競業避止業務条項を根拠とする競業行為差止請求権に基づき、Aの原告退職から2年後の令和5年6月30日までの間、X社以外の者のために株式会社Aを顧客とする広告宣伝業務等を行ってはならない旨の差止め

【裁判所の判断】

1 本件訴えのうち、Aに対する差止請求に係る部分を却下する。
2 被告らは、X社に対し、連帯して2900万9582円+遅延損害金を支払え。

【裁判所の判断】

1 I取締役は、退職従業員らのうち何人かと話をしたが、X社に不満をもち、自らの意思で辞めると話をしていた旨供述しており、退職従業員らの中にX社に不満を抱いていた者がいた可能性は否定できない。
しかし、PM3部の40名程度の従業員のうち22名もの従業員が一斉におおむね同じ内容の退職届を提出し、特別調査委員会の調査に同じ理由で協力しなかったことは、何らかの働き掛けを受けた以外ににわかに考え難いこと、退職届を提出したのがBであること、退職届が提出された6月1日時点で退職従業員らがY社に入社することが決まっていたのは、Aらの関与によるものと推認できること、Bは、X社の経営陣との関係が悪化して、X社の取締役を辞任した上、Bが社外取締役に送信したメッセージの内容からすれば、Bに、X社がY社と協業できない場合に取引先等を奪取する意図があったと認められるし、BもX社に相応の不満を有しており、Bと意を通じて引抜行為を共謀したとしても不自然ではないことからすれば、少なくともAが退職従業員らに対し、直接又は間接のY社への引抜きの働き掛けをし、その点につきBと共謀していたと認めるのが相当である。

2 被告らの不法行為によってX社に生じた逸失利益は、900万円の限度で認めるのが相当である。

3 本件引抜行為によりPM3部約40名のうち22名の従業員が退職したところ、その中には、部長、グループマネージャー、チームマネージャーなど、PM3部の役職者の多くが含まれており、X社にとって予期しない多数の退職者が生じたため、X社は急遽従業員の補充に迫られ、人材紹介サービス会社に人材紹介の依頼をし、人材募集の広告を実施したこと、これにより、X社には、広告掲載費及び雇用に至った際の紹介費等として1012万3432円が生じたことが認められ、かかる費用は被告らの不法行為と相当因果関係があると認めるのが相当である。

4 X社は、本件引抜行為により退職従業員らの3か月分の業務委託費用等が生じたと主張する。
 この点、退職従業員らの業務委託費用は、退職従業員らの給与相当額であると考えられるところ、仮に本件引抜行為がなく、退職従業員らがX社に在籍していたとしても、退職従業員らに対する給与相当額等の費用が生じるものといえる。また、遅くとも7月以降、退職従業員らは引継ぎをしていたと認められ、同月以降、退職従業員らによる引継ぎが遅滞していたとは認められない。
しかし、退職従業員らは6月に十分な引継ぎをしておらず、本件一斉退職の態様や特別調査委員会に対する非協力的な対応が同じであったことなども考慮すると、6月に十分な引継ぎをしていなかったのは、退職従業員らが本件引抜行為を受けたことによるものと推認でき、その限度で、本件引抜行為により退職従業員らの引継ぎが遅滞したと認められ、その部分に関する業務委託費用は、被告らの不法行為と相当因果関係があるというべきである。
そうすると、1か月分の業務委託費用728万6150円の限度で、本件引抜行為と相当因果関係があると認めるのが相当である。

3億超の損害賠償請求をして、認定されたのは、2000万円程度(弁護士費用1割を除く)です。

これが引抜き事案(に限りませんが)における損害額認定の傾向です。

これでは、X社としては、全く損害の填補になりません。

日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。