解雇432 調査協力指示違反等を理由とする普通解雇が有効された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 

今日は、調査協力指示違反等を理由とする普通解雇が有効された事案を見ていきましょう。

X社事件(東京地裁令和7年2月7日・労経速2589号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され特定有料老人ホームの施設長等を務めていたXが、Y社に対し、雇用契約に基づき、①令和3年4月16日付でした同年5月30日をもって普通解雇する旨の意思表示が無効であると主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、②本件解雇前に支払われた令和3年4月分及び同年5月分の給与につき、されるべきであった昇給がされなかったと主張して、支払われた賃金と昇給後の賃金との差額1万円(各月5000円)+遅延損害金の支払、③民法536条2項に基づき、本件解雇後の賃金(令和3年6月分から本判決確定まで。ただし令和3年から令和6年まで毎年4月に月額5000円の定期昇給がされたとした場合の賃金額。)及び賞与(令和3年夏季から令和5年冬季)+遅延損害金の支払を、それぞれ求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xの上記各業務命令違反行為のうち、特に本件調査協力指示違反については、Y社の従業員に対する安全配慮義務の履行を困難にするものと言わざるを得ず、企業秩序の維持に重大な影響を与えたといえる。また、本件立入禁止命令違反についても、これまで良好な関係を維持していた重要な取引先である本件医療法人及びXグループとの関係を破壊しかねないものであり、実際、Y社が、本件病院から、口頭での叱責にとどまらず、院長名義の書面での抗議を受けたことからしても、その影響が小さいとはいえない。
したがって、違反の程度が軽度であるとは到底いうことができない

2 また、Xは、Y社から本件訪問1に係る報告書の提出を求められた際、B専務に対し、激しい口調で「よくこういうメールが来れるなと。報告書出せと。親分(判決注:A会長)のこと助けに行ったのが。」、「Aも守れない人たちだったら辞めたらどうですか。」と述べ、本件訪問1はA会長の妻であるDの依頼でA会長を助けたのであるから何ら問題はなく、むしろ報告書を出すように命令する社長やB専務がY社を辞めるべきである旨の発言をし、その後、報告書を求める理由(本件病院で混乱が生じたと聞いており、今後、本件訪問1について病院側から詳細な説明を求められた場合の対応として必要であること)を説明した上で出した2度にわたる提出命令に対しても、「報告書を提出するのであればDに提出する」などと独自の見解を述べてこれを拒否した。
また本件立入禁止命令のわずか3日後に本件訪問2を敢行し、その理由として、A会長の親族から「A会長が快適に療養生活を送れるよう、医師及び看護師の医療的ケアの及ばない精神的なケアをするように個人的に依頼」されたと回答し、「貴社がその内容をあれこれ詮索すべき範疇を超えていると考えられます。」として、Y社が本件訪問を制限する理由もなければ、報告を求める権限もないとの考えに固執し、全く歩み寄りの姿勢を見せることがなかった

3 さらに、本件調査に当たっても、Y社から、本件調査委員会が中立性及び公平性に配慮して組織されたこと、及びY社に安全配慮義務違反がなかったとの結論を得るためにはXによる事実・資料の提示が必要であることを説明され、協力を指示されたにもかかわらず、不公正な調査が行われているとの考えを変えることなく、本件調査委員会への協力を拒み、本件接触行為に至ったといえる。
このようなXの姿勢は、本件調査委員会による調査結果が出された後、Y社から、本件調査委員会の調査における言動やそれによってY社や役職員に与えた影響等について、どのように受け止めているかを回答するよう求められた際、「事前に関係者への接触については、株式会社Xより、禁止されていませんでした」、「お会いしてくれた方は自らの意思で応じてくれました。」、「私の言動が貴社や役職員へどのような影響を与えたのでしょうか。」と述べるなど、本件解雇に至るまで変わることがなかったと言わざるを得ない。
そうすると、Xは、今後も、Y社からの指揮命令に対し、自己の考えに固執し、歩み寄りをせず、これに従わない可能性が相当程度あると言わざるを得ない

4 さらに、Y社は、全従業員が60名程度の中小企業であり、東京本社(従業員8名程度)、本件秘書室、本件施設及び北海道A市にて営業する「グループホームX」で構成されているところ、Xが本件ハラスメント言動及び本件不適切言動をしたと認識している以上、Xを本件施設及び同様の介護施設である「グループホームX」に配置することはできず、本件秘書室も、本件病院が了承しないため、配属の可能性はない。そして、上記各業務命令違反はいずれも、Xを東京本社に配属し、社長及びB専務が上司として業務上の指揮命令を直接に及ぼす体制のもとにおいて生じたことからすれば、Xを配置可能な他の部署は見当たらず、配置転換によって解雇を回避することも困難であったと認められる。
そうすると、Y社において、今後も予想される、XがY社の指揮命令に従わないことによる業務上の支障を回避するために取り得る手段は乏しいものと評さざるを得ず、普通解雇という手段を選択することも、やむを得ないものであったと解される。

解雇事案においては、業務命令違反行為の悪質さのみならず、上記判例のポイント2、3のような視点も忘れないようにしましょう。

日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。