労働時間114 変形労働時間制が無効と判断された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、変形労働時間制が無効と判断された事案を見ていきましょう。

サカイ引越センター事件(東京高裁令和6年5月15日・労判ジャーナル151号40頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員として引越運送業務に従事していたXらが、Y社に対し、時間外労働に係る割増賃金(割増賃金)等が未払であると主張して、Xらそれぞれが以下の各支払を求める事案である。

原審は、時間外労働に係る割増賃金(割増賃金)の算定に当たって、Y社がXらに支給している業績給A(売上給)、業績給A(件数給)、業績給B、愛車手当、無事故手当、アンケート手当、その他・その他2はいずれも基礎賃金に含まれ、控訴人東京D支社において採用している1年単位の変形労働時間制は労基法32条の4の要件を充足しないとした。

Y社及びXらは、上記判断を不服として、それぞれ控訴及び附帯控訴をした。

【裁判所の判断】

本件各控訴、附帯控訴をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Y社は、現業職全員が同じシフト時間であり間違えることはないこと、シフト時間に変更があった場合には全現業職に通知しており、いつから当該シフトが適用されるのかを全現業職が把握していることを挙げて、Y社の変形労働時間制が有効である旨主張する。
しかし、変形労働時間制において、労働時間の特定を求める趣旨は、労働時間の不規則な配分によって労働者の生活に与える影響を小さくすることにあることからすれば、労基法32条の4及び89条の趣旨に照らし、十分な特定が必要である。Y社は、実務運用によれば、シフト時間は全現業職が把握していたことを指摘するが、Y社においては、公休予定日が出勤日に変更される実態が認められ、こうした点を踏まえると、現業職の生活設計に支障を生じさせ得る状態であることは否定できず、結局、労働時間の特定に関する上記趣旨に合致せず、採用することはできない。

2 「出来高払制その他の請負制」(労基法27条及び労基法施行規則19条1項6号)とは、労働者の賃金が労働給付の成果に一定比率を乗じてその額が定まる賃金制度をいうものと解するのが相当であり、出来高払制賃金とは、そのような仕組みの下で労働者に支払われるべき賃金のことをいうと解するのが相当である(この点は、東京高裁平成29年判決も同旨であると解される。)。控訴人において引越運送業務に従事する現業職は、引越荷物の積卸作業及び引越荷物の運搬を担っているのであり(以下、これらの業務を「作業等」という。)、労働内容の評価にあたっては、作業量や運搬距離をもってし、作業量や運搬距離をもって労働給付の成果というのが相当である。
Y社は、業績給A(売上給)につき、「成果」は「売上額(車両・人件費値引後額)」である旨主張するところ、Y社が主張するように、「売上額(車両・人件費値引後額)」をもって労働給付の成果というのであれば、「売上額(車両・人件費値引後額)」は現業職が給付する労働内容、すなわち作業量等に応じたものであるべきである。ところが、本件においては、上記の売上額は必ずしも作業量等と一致しないことは補正の上引用する原判決が説示するとおりである。
また、Y社は、業績給A(件数給)については「作業件数」及び「車格」が、業績給Bについてはポイント表に記載された各項目が、愛車手当は洗車等を行ったことが、無事故手当はその支給条件である各事項を満たすことがそれぞれ「成果」である旨主張する。しかし、業績給A(件数給)につき、担当した件数が必ずしも作業量等と連動していないことは、補正の上引用する原判決説示のとおりである。また、業績給Bについて、ポイント表記載の作業を行った場合に支給される点で、当該作業を行っていない場合に比して、支給額が加算されるという関係にあるものの、他方で、ポイント表記載の各作業も具体的案件に応じて内容が異なるものであることからすれば、作業量等と連動しているものといえない。さらに、愛車手当は支給上限が定められていること、無事故手当の支給はそもそも支給条件を充足するか否かによって決まることからすれば、「成果」とはいえない。
なお、Y社は、業績給A(売上給)等が作業量と相関関係にあり、現業職間の実質的公平に資するものであるから、出来高払制賃金に該当すると主張し、証拠を提出する。Y社が出来高払制と主張するものには、その性質上、作業量と相関するものがあり、それに沿う証拠はあるが、法の予定する出来高払制というためには、このような緩やかな相関関係では不十分であることは、出来高払制賃金に係る原判決及びこの判決の説示のとおりである。

出来高払制賃金を導入している会社は少なくありませんが、それが本当に労基法が予定するものであるかについては慎重に検討する必要があります。

本裁判例を含めて、いくつか重要な裁判例が出されていますので、顧問弁護士に相談しながら対応してください。