Author Archives: 栗田 勇

労働時間116 割増賃金請求と管理されていない労働時間算定(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、割増賃金請求と管理されていない労働時間算定に関する裁判例を見ていきましょう。

T4U事件(東京地裁令和6年3月28日・労判1331号87頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社に対し、以下の請求をする事案である。
(1)Y社代表取締役は時間外勤務手当を支払う意思がなかったにもかかわらず、Xに対し、時間外労働を命じ長時間労働をさせたが時間外勤務手当を支払わず、時間外勤務手当相当額の損害を加えたとして、会社法350条に基づく損害賠償請求及びこれに対する遅延損害金の請求として、割増賃金請求権としては時効消滅した平成27年12月11日から平成29年1月10日の間の割増賃金相当損害金+遅延損害金
(2)Xが時間外労働をしたにもかかわらず割増賃金が支払われなかったとして、労働契約に基づく割増賃金及びこれに対する遅延損害金の請求として
ア 平成29年1月11日から平成30年11月23日までの間の割増賃金+確定遅延損害金の合計953万0389円+遅延損害金
イ 平成30年11月24日から同年12月10日までの間の割増賃金+確定遅延損害金の合計45万8340円+遅延損害金
(3)労基法114条に基づく付加金請求及びこれに対する遅延損害金請求として

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、別紙1認容目録の「認容額」欄及び各「組入れ額」欄記載の各金員+遅延損害金を支払え。
2 Y社は、Xに対し、156万5223円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 XとY社との間の雇用契約書には、「残業代を含む」と記載されているのみである。Y社の就業規則39条4号には、「月間40時間が契約上の勤務時間に含まれるとみなしている」とあるものの、記載からしてその趣旨が明確であるとはいえない。また、年俸制なので残業代は不支給(年俸制規定12条)とされていることなども併せ考えると、基本年俸の中に月当たり40時間分の固定残業代が支払われていると認めることはできない。そうすると、就業規則や上記雇用契約書においてXの賃金における割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかったというべきであり、本件全証拠によっても、Xに支払われた年俸について通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができるとは認められない。
これに対しY社は、社内ルールでは退社時間は遅くとも午後9時までとされており、これが上記雇用契約書における「残業代を含む」の内容を示しているとして、本件労働契約に基づき月額支給する金額の中には午後6時30分から午後9時(休憩時間30分含む。)までの1日2時間、月40時間分が固定残業代として含まれていた旨主張する。
しかしながら、そもそも社内ルールは就業規則ではない。この点を措くとしても、「退社時間は遅くともPM9時まで」とする旨の記載も、その趣旨が不明確である上、社内ルールに「PM9:00を超える作業実施は人事評価(給与査定)での評価が下がる要因となります」とされていることからすれば、午後9時までの退社は人事評価の観点からの趣旨であるとも解し得、また、休憩時間30分についてはなんらの言及もないことからすれば、午後6時30分から午後9時までの間、休憩時間30分を除いて1日2時間、月40時間分が固定残業代として含まれていたと解することはできない。よって、Y社の主張は採用できない。

2 Xは、〈1〉請求の趣旨第1項及び第2項について、令和4年4月23日までの間に発生した遅延損害金を複数回に分けて順次元本に組み入れる旨、〈2〉請求の趣旨第4項について、令和4年4月23日までの間に発生した遅延損害金について元本に組み入れる旨の意思表示をしたとして、上記各意思表示で組み入れるとした期間に対応する遅延損害金を元本に組み入れた後、組入れ額も含めた元本についてさらに年14.6%の遅延損害金が発生しているとした上で算出した割増賃金元本及び遅延損害金を請求している。
民法405条はいわゆる法定重利を認めた規定であるが、同条は遅延損害金についても準用されると解される(大審院昭和17年2月4日判決・民集21巻3号107頁参照。)。
そして、Xは訴状において平成29年1月11日から平成30年12月10日までの間の割増賃金(ただし、実際に算出しているのは平成30年11月23日まで。)及びこれに対する各支払日の翌日から平成30年12月31日までの改正前商法所定の商事法定利率年6%と平成31年1月1日から支払済みまで賃確法所定の年14.6%の割合による遅延損害金の支払を求めているところ、これはかかる金員の支払の催告に当たり、本件訴訟の係属中は同催告が継続していたものと解するのが相当である。
なお、Xは、組み入れられた金員に対しても年14.6%の割合による遅延損害金を請求し、これにより発生した遅延損害金をさらに組み入れ、それに対しても年14.6%の遅延損害金を請求する旨主張する。しかしながら、組入れにより組み入れられた金員は、もともと賃金ではなく、組入れによって賃金としての性質を有することになるものでもなく、単に重利の対象となったにすぎないから、これについて賃確法6条1項、同法律施行令1条を適用することはできず、これに対する遅延損害金の利率は民法の法定利率年3%によるのが相当である。

この事案でも、固定残業制度が無効と判断されています。

有効要件を満たすことはそれほど難しくありませんので、しっかりと準備をしておけば防げる紛争類型です。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介2204 バカ、アホ、ドジ、マヌケの成功者#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、本の紹介です。

今から10年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

気持ちいいほどに本音トークが書かれています。

炎上してもどこ吹く風感が素敵です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

周囲からの嫉妬は成功の証。
・・・やりたくない仕事を我慢してやり続け、安月給を受け取る人たちは、やりたいことを楽しくやってるだけで大金を稼ぐ人を否定せずにはいられないのだ。」(134~135頁)

炎上上等感すご(笑)

いずれにせよ、憲法上、職業選択の自由が与えられるこの国において、今の仕事を選らんだのは、紛れもなく自分です。

年を重ねるにつれて、相対的に転職がしづらくなる現状においても、それまでの間、どのような準備をしてきたか、何もしてこなかったかも、すべて自らの選択の賜物です。

まさにアリとキリギリス。

すべては日々の習慣の積み重ねなのです。

賃金297 固定残業代の有効性、休憩時間に係る未払賃金請求をともに否定した事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、固定残業代の有効性、休憩時間に係る未払賃金請求をともに否定した事案を見ていきましょう。

マツモト事件(東京地裁令和6年12月19日・労経速2585号18頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間でそれぞれ雇用契約を締結し、塵芥車によって廃棄物収集・運搬等の業務に従事していたXらが、Y社に対し、1〈1〉Y社との間の雇用契約においては有効な固定残業代の合意は存在せず、かつ、多忙であって2時間の所定休憩時間を取ることができなかったなどとして、令和2年2月度から令和6年3月度までの未払割増賃金がX1には合計898万7384円、X2には合計1073万8633円、X3には合計951万7024円発生している旨主張するとともに、〈2〉Y社との間の雇用契約において、令和2年2月25日支払分から令和3年5月分までの基本給が東京都の最低賃金を下回る金額であったことから、差額分に相当する賃金が未払であるとして、令和2年2月度から令和3年5月度までの未払賃金がX1には合計96万0452円、X2には合計70万1000円、X3には合計100万8305円ある旨主張し、上記〈1〉及び〈2〉の未払賃金請求として、X1については合計994万7836円及び各月度の未払賃金と未払賃金の合計+遅延損害金を、X2については1073万8633円及び各月度の未払賃金と未払賃金の合計+遅延損害金を、X3については合計1052万5329円及び各月度の未払賃金と未払賃金の合計+遅延損害金を求めるとともに、
2Y社には付加金の支払が命じられるべきである旨主張し、付加金請求として、X1については776万6805円、X2については947万5527円、X3については820万2778円の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、X1に対し、521万2219円+遅延損害金を支払え。
2 Y社は、X2に対し、614万7521円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、X3に対し、496万8888円+遅延損害金を支払え。
4 Y社は、X1に対し、388万2102円を支払え。
5 Y社は、X2に対し、427万7385円を支払え。
6 Y社は、X3に対し、342万7300円を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、本件割増手当について、これが固定残業代であることは入社時にXらそれぞれに説明しており、給与明細書上も、時間外手当と分かる名称で他の賃金と明確に区分してXらに支給していたなどとして、本件割増手当が固定残業代として有効である旨主張し、Y社代表者もこれに沿う供述をする。
この点について、Y社は、Xら就労期間1及び2を通じて、給与明細書上、令和2年4月分から令和3年6月分までは「時間外深夜割増手当」との名目で、令和3年7月分以降は「残業深夜等割増手当」との名目で、本件割増手当を支払っていたことからすると、給与明細書上の費目の名称としては、本件割増手当が割増賃金として支払う趣旨であることがうかがわれる名称にはなっていることは確かである。
しかしながら、Y社は、Xらそれぞれとの間で、Xらの入社時点で、雇用契約書を作成しておらず、かつ、Y社の就業規則及び給与規程を通覧しても、「時間外深夜割増手当」又は「残業深夜等割増手当」との名称の手当に関する規定はなく、そもそも固定残業代に関する定めも置かれていない。また、Y社代表者は、本件の尋問において、Xらの入社の際に、Xらそれぞれに対し、給与明細書のひな型を用いて、Y社がXらに支払う賃金について説明をした旨の供述をするものの、その説明の具体的な内容はY社代表者自身の供述においても明らかではなく、他方で、Xらはいずれも固定残業代に関する説明を受けたことはない旨を供述していることからすると、XらとY社との間で、Xらの入社に当たり、給与明細書上の「時間外深夜割増手当」として計上された金額が固定残業代であることについての合意が形成されていたとは認め難い。そして、Y社がXらに交付していた給与明細書は、XらとY社との間の雇用契約を規律する契約書等ではなく、Y社が一方的に作成してXらに交付していた文書にすぎず、かかる給与明細書の交付が続いていた事実をもって、有効な固定残業代についての合意が形成されたと認めるには足りないし、そもそも対価性要件で判断されるのは賃金の実質であって費目の名称ではないところ、以下のとおり、本件割増手当は時間外労働等に対する対価であったとは認め難い。
すなわち、Xらに対して支給された本件割増手当の額は前記のとおりであるところ、Y社の主張を前提としても、本件割増手当の額は、1か月当たりの最大時間外労働時間数である45時間分と、1か月当たりの最大深夜労働時間数である189時間分に対応する割増賃金を前提として算出された金額であって、深夜の時間帯に回収業務を行うXらの勤務状況とはかけ離れた想定し難い時間数を前提として計算されたものであることに加え、いかなる労働に対する対価であるかの位置付けが不明確な調整金(バッファー)をも含むものである。また、多くの時間外労働等の時間を想定した上記のY社主張と異なり、遅くとも令和4年7月25日頃から掲載されていたY社の求人情報には、「月給34万円以上!しかも残業がほぼない。」などと記載されている。これらに加え、Y社代表者の供述を前提とすると、本件割増手当の金額の定めは従業員に支給する賃金総額を見ての「丼勘定」であったとのことであり、かつ、深夜の時間帯の勤務であったXらのみならず日中の時間帯の勤務であった他の従業員らにも本件割増手当をほぼ同額で支給していたとのことであるから、Y社は、本件割増手当について、従業員らに対して支給する賃金総額との兼ね合いでその金額を定めていたものであることが認められる。これらからすると、本件割増手当は、その名称にもかかわらず、実質においては、通常の労働時間の賃金が含まれていたものといわざるを得ない。
 以上によれば、本件割増手当が全体として時間外労働等に対する対価という趣旨であったとは認めることはできない。そして、このような本件割増手当が対価性要件を欠く以上、判別要件も満たさない。
 したがって、本件割増手当につき、有効な固定残業代としての合意があったとは認めることはできない。

固定残業制度は、要件を満たすことが十分可能な制度です。

しかしながら、いまだに多くの会社で不十分な対応をしています。

結果、基礎賃金が増額され、とんでもない金額の未払残業代が認定されています。

日頃からしっかりと労務管理をしていれば、間違いなく防ぐことができる紛争類型です。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介2203 世界が変わる時、変えるのは僕らの世代でありたい#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間がんばりましょう。

今日は、本の紹介です。

今から10年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

著者のめげなさを見ると、もはや無敵とも思えます。

今の時代に最も必要とされる能力です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

他人に対して怒ったり、恨んだり、妬んだりしてしまう時は、そんな苛立った自分を、より客観的に、俯瞰的に見てみよう。
もっと他に心配すべきことがあることに気が付くはずだ。」(99頁)

自分がやるべきことに集中、没頭していれば、他人のことは一切気にならなくなります。

気にならないというよりも、気にしている暇がないというほうが正確かもしれません。

他人にどう思われるかばかり気にして、うじうじして・・・

暇かと。

解雇426 普通解雇事由の「労働能率が劣悪であるか、または勤務成績不良であると認めたとき」に該当し、普通解雇を有効とした事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、普通解雇事由の「労働能率が劣悪であるか、または勤務成績不良であると認めたとき」に該当し、普通解雇を有効とした事案を見ていきましょう。

東武ビルマネジメント事件(東京地裁令和6年12月20日・労経速2584号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結して建物の設備管理等の業務に従事していたXが、Y社に対し、Y社による普通解雇は無効であると主張して、〈1〉労働契約上の地位確認を求め、〈2〉解雇後の賃金として令和5年1月分の賃金2万2582円及び同年2月分から判決確定日まで賃金月額20万9890円並びにこれらに対する遅延損害金(賃金の支払期日の翌日から支払済みまで、民法所定の年3分の割合による。)の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 項目7、15、18は、XがY社からの電話連絡に応答しなかったものであり、項目19は、Xが懲戒処分書を交付するための待機指示に従わなかったものであるが、いずれも勤務時間外の指示であって、Xがこれらに従うべき義務があるとはいえないから、いずれも解雇理由とされるべき事実とはいえない。
項目14は、Xのルーフドレン清掃に十分とはいえない点があったとしても、清掃前と清掃後の写真を比較すると落ち葉の量は明らかに減っており、Xが側溝の清掃作業自体を怠ったとは認められないこと、XがY社から指導を受けたのは3回にとどまることからすれば、解雇理由とされるほどの事実であるとはいえない。
その他、指示に反して施設内を通過したこと(項目1)、施設内の鍵の閉め忘れ(項目2)、無断欠勤(項目7及び15)は、いずれも同種の事実が頻発していたとは認められず、清掃をしていない場所について清掃をしたと回答したこと(項目20)は、Xの思い違いによる可能性も否定できず、いずれも解雇理由とされるほどの事実であるとはいえない。

2 他方で、Xは、本件管理所に異動してから間もなく、ブレーカートリップの故障対応を命じられながら何もせず、Y社にはあたかも対応済みであるかのような報告をし(項目3)、その後も、オートドレンの触診による固着確認を横着して実施せず、これに起因して施設に漏水事故を生じさせ(項目6)、さらにその後、メモリハイコーダに一見して確認できる異常表示が生じていたにもかかわらず、異常なしとの報告をし(項目8)、その後も、施設の蛍光灯のソケ社ト部を損壊し、しかもその事実をY社に報告しなかった(項目9)。このようにXは、過誤にとどまらない、業務の不実施、報告の不実施又は虚偽報告を繰り返しており、いずれも委託者である施設に損害を生じさせる、又は施設のY社に対する信用を低下させる行為である。こうした事情は、指示に従って設備を正確に点検するという、設備員としての基本的な役割を果たす能力及び適正の著しい欠如を推認させるものである。
 また、施設で勤務する他社の従業員からは、Xの対応や応答に問題があるとの指摘がされ、業務から外すことの要請も受けている(項目4、10)。Y社が挨拶について繰り返し指導していたことと相まって、他の職員との間で的確に意思疎通をする能力の不足を推認させるものである。
そして、Y社はXについて、主に軽作業を実施させつつ、業務内容を日々確認することとしたが、それでもXは、作業日誌を責任者に提出して了解を得るよう指示を受けながら、了解を得ずに退勤し(項目12)、整理整頓作業に際し明確な作業内容の指示を受けながら、合理的理由なく指示と異なる整理をし(項目13)、令和3年11月に厳重注意を受けた後も、エレベーターで待機しての案内業務に際し待機中に眠り込んで案内業務ができず(項目16)、使用禁止とされている施設の設備を使用し(項目17)、排水先を図面で確認するよう指示を受けながら図面での確認をせず(項目21)、フェンスの内側からの確認指示を受けながら不十分な装備でフェンスの外側に行く(項目22)というように、これらが単なる注意力不足に起因するのかは不明であるが、本件監督所での勤務期間を通じて、Y社の指示に従った行動を取ることができていない。これらの事情は、重大とまではいえない事情も含むものの、総合的に観察すれば、今後の指導や注意によっても、前記で認定した問題点の改善が困難であることを推認させるものである。
以上検討したところによれば、Xの設備員としての能力及び適性は著しく欠如しており、今後の改善も期待できない。よって、Xは、就業規則15条1項の「労働能率が劣悪であるか、または勤務成績不良であると認めたとき」に該当するから、本件解雇には客観的合理的理由があるというべきである。

勤務成績不良、能力不足を理由とする普通解雇がいかに大変かがよくわかりますね。

忍耐力がないとできません。

日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。

本の紹介2202 人生、何を成したかよりどう生きるか#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

今から4年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

内村鑑三の「後世への最大遺物」について著者の解説が記載されています。

現代語訳されているのでとても読みやすいです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

お金を持っていると、ある程度、自由に生きることができます。そして、そのお金を稼ぐこと、お金をもうけることは決して汚いことでも下品なことでもいやしいことでもありません。お金がほしいと思うことは健全な欲望です。」(151頁)

記載のとおり、お金はないよりあったほうがいいでしょう。

物欲0の私でもそう思います。

ただし、お金があればあるほど幸せかと問われれば、そうでないことは明白です。

一定のレベルまで行くと、それ以上はもう変わりません。

特に物欲0の人にとっては。

お金を稼ぐために日々、忙殺されるような生活よりも、時間に余裕があり、何事にも追われず、バランスのとれた生き方のほうがはるかに幸福度が高いです。

賃金296 タクシー乗務員の歩合給の出来高払制賃金の該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間がんばりましょう。

今日は、タクシー乗務員の歩合給の出来高払制賃金の該当性に関する裁判例を見ていきましょう。

正和自動車事件(東京地裁令和6年11月29日・労経速2582号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結したXが、Y社に対して、以下の金員の支払を求める事案である。
(1)雇用契約に基づき、168万7611円+遅延損害金
(2)付加金+遅延損害金
(3)不当利得に基づき、6万円+遅延損害金

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、15万4273円+遅延損害金を支払え。
2 Y社は、Xに対し、11万9729円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 労基法27条及び労基則19条1項6号の「出来高払制その他の請負制」とは、労働者の賃金が労働給付の成果に応じて一定比率で定められている仕組みを指すものと解するのが相当であり、出来高払制賃金とは、そのような仕組みの下で労働者に支払われる賃金のことをいうものと解される。また、出来高に対する賃金比率が完全に相関する形で定められていないとしても、その賃金支払合意が、労基法等の法令に反しない内容で労使間で合意されている場合には、そのような賃金支払合意も出来高払制賃金の支払合意と認めて差し支えないと解される。

2 本件雇用契約は、原告の賃金について給与規定を適用する旨が定められており、給与規定が本件雇用契約の内容となっていると認めるのが相当である。そして、給与規定13条では、歩合給の計算方法について(1)歩合給=営業収入×歩率×業務比率とし、(2)歩率について、〈1〉営業収入のうち38万円以下の部分(49%)、38万0001円以上42万円以下の部分(91%)、42万0001円以上46万円以下の部分(95%)、46万0001円以上の部分(100%)ごとに定め、〈2〉ただし、歩合給の額が営業収入の62%を超える場合、歩率全体が62%となる、(3)業務比率について、総労働時間を、総労働時間、みなし残業時間に0.25を乗じた時間及びみなし深夜時間に0.25を乗じた時間の合計で除して算出すると定められている。

3 次に、上記の歩合給の計算に関し、みなし残業時間が3時間、みなし深夜時間が7時間であることが、本件雇用契約の内容となっているかについて検討するに、給与規定14条は、みなし残業時間及びみなし深夜時間を各人ごとに定めるものの、給与規定にそれ以上の定めはなく、被告から、原告に対し、原告のみなし残業時間3時間及びみなし深夜時間7時間であることの説明がされていないこと自体は、当事者間に争いがない
しかし、証拠及び弁論の全趣旨によれば、Y社が、上記で計算する場合に、給与規定13条の定める最大歩率62%ではなく、61%で計算していたことがあったことがうかがわれるものの、基本的に給与規定13条の計算式に基づいて計算がされていたと認められ、これに対し、Xが歩合給の計算額に異議を述べていたという事情はうかがわれず、Xは、Y社の計算式に基づく歩合給を受領していたと認められる。
そうすると、みなし残業時間3時間及びみなし深夜時間7時間であることは、本件雇用契約の内容となっていると認めるのが相当である。

4 上記の計算式に加え、みなし残業時間が3時間であること及びみなし深夜時間が7時間であることが本件雇用契約の内容となっていることからすれば、歩合給は、営業収入という労働者の成果に応じて一定比率で定められているといえる。
これに対し、Xは、原告の営業収入の額と歩合給の額が正比例の関係にない、また、歩合給の計算に、労働者の勤務日数という成果以外の計算要素が影響すると主張する。
しかし、上記からすれば、出来高払制賃金について賃金が労働給付の成果と正比例の関係にあることを要するとはいえず、この点をもって、歩合給が出来高払制賃金でないとはいえない
また、総労働時間が一定である場合、みなし残業時間及びみなし深夜時間が増えれば増えるほど(みなし残業時間とみなし深夜時間は、勤務日数が増えれば、これに比例して増える。)、業務比率の割合が減ることになるものの、勤務日数が増えれば総労働時間もそれに合わせて増えることが多く、勤務日数の増減に応じて直ちに業務比率が増減する関係にあるとはいえない。勤務日数によって業務比率の割合が影響を受ける関係にあり、出来高に対する賃金比率が完全に相関する形で定められていないものの、このことによって、歩合給が労働給付の成果に応じて一定比率で定められている賃金と評価することができないとまではいえない。また、このような本件雇用契約の内容が、労基法等の趣旨に反しているとまでは評価できない。
そうすると、歩合給は、労働給付の成果に応じて一定比率で定められている仕組みの下で労働者に支払われる賃金のことをいうものと解され、出来高払制賃金に該当すると認めるのが相当である。
よって、歩合給は、出来高払制賃金であると認められる。

上記判例のポイント3の認定は、やや危うい感じがしますがいかがでしょうか。

出来高払制賃金を採用している会社は少なくありませんが、実際には、法律上のそれに該当しないケースも散見されますのでご注意ください。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介2201 「言葉にできる」は武器になる。#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、本の紹介です。

今から8年前に紹介した本ですが、再度読み返してみました。

表紙には「『言葉にできない』ことは、『考えていない』のと同じである。」と書かれています。

言語化が上手な人というのは、それだけもう素敵ですよね。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

人間は、その人の思考の産物にすぎない。人は思っている通りになる。 マハトマ・ガンディー」(62頁)

思考は知識の上に成り立ちます。

知らないことは考えようがないからです。

また、思考は日々の訓練によっていくらでも鍛えることができます。

逆に、車のエンジン同様、使わないといざという時に動かなくなってしまいます。

日々、正解がないことについて考え抜く訓練・習慣が大切なのだと思います。

セクハラ・パワハラ97 会社の代表者によるパワハラ発言による慰謝料の金額(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、会社の代表者によるパワハラ発言による慰謝料の金額に関する裁判例を見ていきましょう。

NJH事件(東京地裁令和6年7月25日・労判ジャーナル156号44頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社の代表取締役であるC及びDからそれぞれ違法な退職勧奨、パワー
ハラスメント、名誉毀損行為を受け、また、Y社から令和4年8月分以降の月額給与を毎月2万円ずつ違法に減額されたと主張して、C及びDに対しては共同不法行為に基づく損害賠償として、Y社に対しては会社法350条又は不法行為に基づく損害賠償として、慰謝料等330万円等の連帯支払を求め、また、XとY社との間の令和4年11月20日をもって退職する旨の合意は有効に成立していないにもかかわらず、退職扱いとされたと主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、XとY社との間の雇用契約に基づく未払賃金請求として、Y社に対し、違法に減額された未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

合意退職は有効

C及びDのパワハラ→慰謝料10万円

【判例のポイント】

1 本件面談において、Cは、Xに対し、Xの経理部での仕事ぶりに対するCの認識に関する発言の域や、Xの経理部での働きぶりに対してXに反省を求める発言の域を超えて、「うーん。すごい人だね、あなたね。心の中、のぞいてみたいよね。夜叉だよ、夜叉。そんなことをね、言う人はね、普通じゃないって」などと、Xに対する個人的な人格非難と評価されてもやむを得ない発言をするとともに、「もうあなたに給料出す気はないし、早く、1日でも早く辞めてほしい。いなくなってほしい」、「有休マックスなんか、取れると思っちゃ、大間違いだからね。言っとくけど。大間違い」などと、有給休暇の取得を否定する発言をしたことが認められ、本件面談においてCが行った発言のうち、少なくとも上記各発言に関しては、Xに対する選法なパワーハラスメントとして不法行為を構成する。

2 Dは、本件面談に同席し、本件面談を通じて、CがXに対して各発言をすることを制することもな<、かえって、「最後に正義が勝つんだなって、僕、思ってるし、なぜE君(元社長)がこういうふうに精神的に追い詰められたかって、今、自分でもずっと考えてて。うん。その理由は、まあ、本人の問題もあるだろうけど、うん、Aちゃん(Xのこと)もあるんじゃないかなと思います」などと、Cに同調する発言もしていたことからすると、CとともにXに対して共同不法行為責任を負うものと解するのが相当である。

いろいろとあったことは容易に想像できます。

とはいえ、このご時世、仮に心の中で思っていたとしても、それを1度でも口に出したらこのような問題に発展してしまいます。

慰謝料額よりもレピュテーションダメージのほうがはるかに大きいです。

労務管理に関する抜本的な改善については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。

本の紹介2200 自分を信じ抜く100の言葉#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、本の紹介です。

今から8年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

周りに流されず、自分の生きたいように生きることが幸せというものです。

いつしか自分の幸せの定義すら忘れて、気づけば1日が終わっている、なんて人も多いのではないでしょうか。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

多くの人が、自意識で自分自身を縛り付け、あたかも『牢獄』に入っているように不自由に生きています。その方が、楽なように思えるからです。さらに困ったことに、その生き方を目下の下や年下の人に強要する人もいます。前例や慣例にこだわる人は、無意識のうちに自らの『牢獄』に他人を引きずりこもうとしているのかもしれません。」(15頁)

人は、自分の状況に不満を抱いたとしても、なんとかこじつけても、正当化しようとする生き物です。

そして、「みんなそうしているよ」とか「こうやるのが常識だ」とかなんとか言って、自分の状況に他人を引きずりこもうとします。

自分の頭で考えず、誰かの言いなりになって生きるなんて、考えただけ眩暈がします。

1度きりの人生にもかかわらず、あたかも牢獄で生活しているかのような窮屈で不自由な生活なんて、まっぴらです。