Author Archives: 栗田 勇

本の紹介2176 引き算する勇気#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、本の紹介です。

今から10年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

帯には、「シンプルは、パワフル!」と書かれています。

まさにタイトルのとおり、足し算ではなく、不要なものを削ぎ落していくことを推奨しています。

あとは、それをやる「勇気」があるか、だけですね。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

企業体の中にあって、何をやめるべきかが、非常に大切なことである。新しいよい分野に展開する秘訣は、必ず捨てなければならない分野のものを捨てることであろう。資力に限界があり、スペースに限度があり、特に能力のある人に限度があることを知らなければならない(ソニー創業者 井深大)」(63頁)

やるべきことを決めるよりも、やらないことを決めるほうが勇気が必要です。

限られたリソースで何かを成し遂げようとするならば、あれもこれも手を広げている余裕はありません。

今後ますます人手が足りなくなってきます。

今ですら、もう余計なことに人を割ける余裕は全くない状態ですから。

これまでのような過剰とも思えるサービスの提供は、早晩、考え直すときがくるものと思います。

無駄を削ぎ、やるべきことを絞り、本質に専念する、ということです。

労働時間113 警備員の待機時間について労働時間該当性が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、警備員の待機時間について労働時間該当性が認められた事案を見ていきましょう。

セントラル綜合サービス事件(東京地裁令和6年5月31日・労経速2568号16頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結したXらが、Y者に対し、雇用契約に基づき、令和2年7月から令和4年8月までの時間外労働に係る未払残業代として、各金員+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 Xら警備員の待機時間中の状況についてみると、警備員は、待機時間中、待機室で食事を取り、無線機を外すことなどができ、また、Cの建物外に設置された喫煙所で喫煙することが可能であった。しかし、待機室には、Bの無線機が設置され、待機室にいる待機時間中の警備員にも聞こえるようになっており、これは警備本部等から待機室への連絡等のためと考えられるし、警備員はCから自由に外出することができず、外出することが基本的になく、喫煙所に行く際もBから警備服の着用や無線機の携帯をするよう言われており、B等から指示があった場合には、速やかな対応が可能な状態にあった。平成26年度にH担当者が作成したCの警備要領には、「自分勝手な考えから、任務変更したり、勤務場所を離れてはならない。」とされ、勤務開始から勤務終了までの流れには、発払開始後は、「規定配置人員を残し待機」と記載されていた。

2 Y社がBから委託された警備業務の内容は、配置場所における来場客の整備誘導、苦情処理及びトラブル防止のほか、災害時における初期対応や避難誘導の実施等であり、突発的に生じるものが含まれており、自主警備計画には緊急時の対応として警備員を派遣する側は多めの人数を素早く送り出すとされており、B作成の「突発事案発生による開催中止時等の任務分担と流れ」と題する書面にも、同様の記載がされていた。警備員は、令和4年1月から令和5年3月までの間、3回、競馬レースの中止等を理由に全員配置とされたほか、令和4年4月から令和5年1月までの間、少なくとも10件(令和4年8月まではうち4件)、来場者の体調不良等が発生し、待機時間中の警備員を含む警備員全員が対応に当たった。加えて、警備員は、来場客のトラブル等の事案が発生した場合、Bから無線機で連絡を受け、その場合に待機時間中の警備員がこれに対応することがあった。そして、突発的に生じるものが含まれる上記警備業務の内容や、来場者数が延べ人数で1日平均2000人前後いること、A1が来場客のトラブル等が発生したことについての待機時間中の警備員への連絡が往々にしてあったと述べていることに加え、A1作成の給与支払明細書には、8時間勤務の場合には時間が「7.0」と、10時間勤務の場合には「8.0」と、Y社主張の待機時間と異なる労働時間が記載されていたにもかかわらず、Y社は、A1には7時間分の時給を支払い、Y社が日給と主張するその余のXらについても給与支払明細書記載の労働時間の訂正を指示せず、また、I作成の書面に8時間勤務の場合に7時間分の、10時間勤務の場合に8時間分の時給相当額の賃金を支給する趣旨が記載されており、Y社も、警備員が待機時間(Y社の主張では8時間勤務の場合が2時間05分、10時間勤務の場合が2時間55分)中にも相当程度業務に従事をしていた(労働時間である。)との認識を有していたと認められること(なお、証拠〔書証略〕によれば、5時間の勤務〔前記第2の2(2)エ〈3〉〕の場合にも待機時間が存在するにもかかわらず、その場合でもY社はA1に5時間分の時給を支払っていたと認められる。)も踏まえると、待機時間中の警備員がトラブル等の事案に対応するなどして、警備業務に従事することが少ないものではないといえる。

3 このように、Xらが、災害時における初期対応等が義務付けられていた上、待機時間中も待機室で無線機の内容が聞こえる状態にあり、喫煙以外にCから外出することが基本的になく、喫煙所に行く際も無線機を携帯して、警備要領には、発払開始後は、「規定配置人員を残し待機」などとされ、Bから無線機で連絡を受けるなどした際には対応しており、その頻度が少ないものではないことなどからすれば、Xらは、待機時間中、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価され、労働からの解放が保障されているとはいえず、Bから警備業務の委託を受けたY者の指揮命令下にあると認められるから、待機時間は全て労働時間と認めるのが相当である。

警備員の待機時間の労働時間該当性について争われた事例は数多く存在し、その多くは、本件同様の結論となっています。

今後ますます労働力が不足する中で、突発事案に緊急対応するとなれば、待機時間について労働から完全に解放させることはもはや不可能ではないでしょうか。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

本の紹介2175 常識をひっくり返せばメシの種はいくらでもある#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう!

今日は、本の紹介です。

今から10年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

「差別化」の重要性がこれでもかというくらいに書かれています。

それは、決して商品やサービスだけでなく、自分自身の差別化も含まれています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

みんながそうしてるから、世の中がそうだから・・・そんな理由で自分の生き方を決めるのが一番バカバカしいし、それではいつまでたっても、会社からコスト扱いされるのが関の山だ。・・・まずは自分自身がどう生きたいのかしっかり考え、自己研鑽することで”差別化”し、”自分自身のグローバル化”を目指すことだ。」(199頁)

みんながそうしているから自分もそうする、というのはいかにも平均的日本人の発想のように思いますが、高度経済成長期ならいざ知らず、このご時世、みんなと同じで本当に安心ですか?

みんなと同じだと逆に不安になります、わたし・・。

Be different.

賃金292 調整手当等に関する固定残業代該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、調整手当等に関する固定残業代該当性に関する裁判例を見ていきましょう。

ジャパンプロテクション事件(東京地裁令和6年5月17日・労経速2568号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結していたXが、Y社に対し、以下の金員の支払を求める事案である。
(1)雇用契約に基づき、割増賃金1055万5272円+遅延損害金
(2)労働基準法114条所定の付加金として、1055万5272円+遅延損害金

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、693万1129円+遅延損害金を支払え。
2 Y社は、Xに対し、付加金669万0110円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 変形労働時間制について、令和3年就業規則27条は、「本社管理職又は現業要員の就業時間については、始業及び終業の時刻並びに勤務の態様をその勤務場所毎に指示する。」、「本社管理職又は現業要員の就業時間等の取扱いは毎月1日を起算日とする1カ月単位(毎月1日~末日)を基準とした変形労働時間制を適用し、1カ月を平均して1週間40時間以内の労働時間とする。時間外労働及び休日労働については、時間外労働に関する協定届の範囲内で時間外労働をさせることがある。」と定めるものの、就業規則において、各勤務の始業終業時刻、各勤務の組合せの考え方、勤務割表の作成手続及び周知方法が定められているとは認められない
これに対し、Y社は、事業統括本部において事前に警備員稼働予定表を作成し、これをもって事前に各日の勤務時間を従業員に告知している旨主張するが、Y社の主張によっても、就業規則において、各勤務の始業終業時刻、各勤務の組合せの考え方、勤務割表の作成手続及び周知方法が定められていたと認められないから、この点は、労基法32条の2第1項に反するか否かの判断を左右するものといえない。
そうすると、Y社の変形労働時間制は、労基法32条の2第1項に反し、無効であるから、その余の点を判断するまでもなく、Xには適用されない。

2 基本給、職能給、役職手当及び隊長手当を合計した金額(令和2年3月分は基本給13万円及び役職手当3万円の合計16万円、同年4月分から令和3年8月分までは基本給13万円及び役職手当4万円の合計17万円)を月平均所定労働時間174時間で除すると、令和2年3月時点で920円、同年4月から令和3年8月までが977円となり、いずれも令和2年3月から令和3年8月までの当時の東京都の最低賃金である1013円を相当程度下回る。
Xが「調整手当(固定残業代)」と記載のある雇用契約書に署名したことがあることを考慮しても、Xがこのような労働条件を了承するとは考え難いし、Y社が、Xに対し、令和2年3月ないし令和3年8月当時、基本給及び役職手当の合計額を月平均所定労働時間で除すると、最低賃金を下回る旨の説明をしたとも認められない。また、平成21年給与規程13条及び平成29年給与規程13条では、基本給は、本給及び職能給をもって構成するとし、本給は、満年齢、本人の勤続、学歴等に応じて定める額とし、職能給は、本人の職務遂行能力に応じて定める額とするところ、Xの基本給は、平成23年契約書の12万4000円から令和4年4月の退職時の13万円までの間、10年以上勤務したにもかかわらず、6000円の増加にとどまっている。他方、Xの役職手当及び調整手当がそれぞれ増加しているところ、役職手当の増額は、Xの役職が、主任、課長へと昇格したことによるものと考えられるものの、調整手当が平成23年契約書の4万6000円から令和2年契約書の11万8000円まで7万円以上増額している。このようにXの基礎賃金となる額が、最低賃金の額を下回る上、勤続等を考慮するXの基本給がほとんど増額せず、調整手当が増額するなどのXの賃金の経過も踏まえると、調整手当には、固定残業代以外の通常の労働時間の賃金に当たる部分が含まれていると認めるのが相当であり、その部分については、時間外労働等に対する対価性を欠くといえる。
そうすると、調整手当について通常の労働時間の賃金に当たる部分と固定残業代に当たる部分とを判別することはできず、少なくとも令和2年3月分から令和3年8月分までの調整手当は、固定残業代の定めとして有効であるとは認められない

上記判例のポイント1のように、変形労働時間制が無効となる理由・パターンはだいたい決まっています。

判例のポイント2のように、固定残業制度については、おおよそ解釈は固まってきていますが、とにもかくにも「やりすぎ注意」ということを肝に銘じておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介2174 あっという間に人は死ぬから(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

サブタイトルは、「『時間を食べつくすモンスター』の正体と倒し方」です。

時間の浪費をいかになくし、やるべきことにいかに時間を使うか、ということです。

多くの人が、毎日、忙しすぎて、本をじっくり読む時間すらないのではないでしょうか。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

『人間は考える葦である』という言葉を残した、フランスの哲学者ブレース・パスカルは、『人間の悩みの大半は、結局自分が何を求めているか分からず、余計なことばかり欲してしまうからだ』と述べています。」(53頁)

自分の幸せの定義が明確になっている人は、幸せでないことにできるだけ時間を使わなければいいわけです。

「時間を食べつくすモンスター」の多くは、自分の選択によって誕生しています。

つまり、「自業自得」であることが圧倒的に多いです。

安請け合いをしないこと

一度始めたらなかなか途中でやめられないこと・やめるのに経済的・心理的負担がかかることを安易に始めないこと

この2つを意識するだけでも幸せ度はかなり違うと思います。

何をやるかの選択も大事ですが、何をやらないかの選択はもっと大事だと思います。

退職勧奨26 出社命令拒否等による懲戒解雇と長期の自宅待機命令の違法性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう!

今日は、出社命令拒否等による懲戒解雇と長期の自宅待機命令の違法性について見ていきましょう。

みずほ銀行事件(東京地裁令和6年4月24日・労経速2567号9頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結しY社において銀行員として勤務していたXが、Y社に対し、〈1〉Y社から令和3年5月28日付けで解雇されたことについて、本件解雇が無効である旨主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、〈2〉Xが令和3年2月に受けた出勤停止処分及び本件解雇が無効である旨主張して、令和3年2月分及び同年3月分の未払賃金(43万6346円)並びに本件解雇後から令和3年8月までに支払日が到来する賞与を含めた賃金(ただし、既払の解雇予告手当46万2630円を充当した残額である227万3834円)+遅延損害金の支払、〈3〉令和3年9月から本判決確定の日までに支払日が到来する賞与を含めた賃金+遅延損害金の支払、〈4〉Y社がXに対してした退職強要、自宅待機命令、厳重注意、懲戒処分(譴責、出勤停止)及び本件解雇がいずれも違法である旨主張して、不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)に基づく損害賠償請求として慰謝料1500万円と逸失利益1500万円と弁護士費用相当額300万円の合計3300万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、330万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、Y社から他の従業員に対する厳しい言動や、上司に対する反抗的な態度から問題のある社員であると認識され改善指導を受けており、最後のチャンスとしてE本部F部PB室に異動したものの、当該部署においても多くの関係者と衝突するなどしていたことから、退職勧奨を受けるに至ったといえる。Xは、平成28年3月25日及び同年4月7日、Y社のG参事役及びH参事役から退職勧奨を受け、さらに、同月8日以降被告から本件自宅待機命令を受けている。その後、同年5月12日、同月25日、同年6月9日、同月20日に行われた面談において、Xは、G参事役又はH参事役から、進退について判断するよう告げられ、また、Xの上司や同僚とのコミュニケーションに係る問題点やその改善方法についての認識が不十分であるとして、その認識を深めるよう求められた。そして、同年8月9日の面談において、Xが職場復帰を希望する旨述べたところ、G参事役は、Xの反省を求めるということについては終了したという認識を示した上で、ポストが用意できないため退職してもらったほうがよいと考えている旨伝えるなどした。その後、Y社は復帰先について提示することなく、令和2年10月15日付け「ご連絡」と題する書面及び同日付け「厳重注意」と題する書面によって、Y社から出社を命じるまでの約4年半もの長期間、明示的に出社を求めたり、自宅待機命令を終了する旨伝えたりすることはなかった

2 このような長期間の自宅待機命令は、通常想定し難い異常な事態というべきであり、退職勧奨に引き続いて自宅待機命令を受け、その間ポストを用意することが困難であるとして退職することを勧める発言がされつつ、復帰先も提示されないまま、長期間にわたり自宅待機の状態が続けられたことからすれば、Xについては、実質的にみて退職勧奨が継続していたというべきである。退職勧奨は任意のものでなければならず強制にわたることは許されないというべきであるところ、Xの勤務状況に問題があったことがY社の退職勧奨のきっかけとなったこと、その後Xが復帰先について希望どおりにならない場合であっても構わないか否かといったY社の問いに対し明言を避けたことが長期化の一因となった面が否定できないことを踏まえても、G参事役がXの反省を求めることについて終了したとの認識を示し、Xが復帰を明確に求めた平成28年8月9日の面談以降は、Xに退職の意思はないものとしてXの復帰先についての具体的調整を開始すべきといえる。そして、Y社は、同月にはXの職場復帰に関する調整を始めなければならない以上、Xに対し同年10月頃までには具体的な復帰先を提示すべきであったといえ、同月以降の本件自宅待機命令は、実質的にみて、Xに対し退職以外の選択肢を与えない状態を続けたものといえ、社会通念上許容される限度を超えた違法な退職勧奨であったといわざるを得ない
さらに、Y社は、その後、Xに対し、復帰先について特段の連絡をしていないばかりか、復帰先について検討したことを裏付けるに足りる客観的証拠もなく、Xを今後どのように処遇しようとしていたかすら不明であり、Xが本件自宅待機命令についてI次長に抗議したり内部通報をしたりしても、これに直ちに対応せず結果的に本件自宅待機命令が約4年半もの長期間に及んでおり、その対応は不誠実であるといわざるを得ない。
したがって、本件自宅待機命令は、平成28年10月頃以降前記のとおり令和2年10月15日に終了するまでの部分については、社会通念上許容される限度を超えた違法な退職勧奨として不法行為が成立する。

出勤されて社内の秩序を乱されるよりは給与を支払ってでも自宅待機してもらいたいと考える会社は、決して珍しくありません。

もっとも、不当に長期にわたる自宅待機命令は、本件事案のように違法と判断されることがありますので、給与さえ支払っていればよい、と考えないように注意しましょう。

自宅待機命令を出す際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

本の紹介2173 自分のままで突き抜ける 無意識の法則(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、本の紹介です。

結局、世の中は解釈でできている、ということを再確認できる本です。

同じものを見ても感じ方は人それぞれです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

うまくいっている人たちは、徹底した自分原因型なので、『自分が遭遇した病気や事故。これすらも、何らかの目的で自分がつくり出したものだ』と捉えます。」(168頁)

仕事において、ミスや失敗はつきものです。

しかし、だからといって、何度も同じミスや失敗をしていては進歩がありません。

反省するというよりは、ミスや失敗の傾向や根本的な原因を分析し、いかに同じようなミスや失敗を起こさない「仕組み」を作るか、ということがとっても重要です。

それでも同じようなミスは起こります(笑)

人間はせいぜいその程度の不完全な生き物だということです。

だからこそ、それを叱責しても仕方がなく、また、始末書を書かせても意味がないのです。

何度も起こる同じようなミスや失敗を「できる限り」防ぐ仕組みが必要なのです。

みんな、人間に多くを期待しすぎなのです。

労働時間112 割増賃金請求と変形労働時間制(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、割増賃金請求と変形労働時間制に関する裁判例を見ていきましょう。

社会福祉法人幹福祉会事件(東京高裁令和5年10月19日・労判1318号97頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結し、Y社において非常勤スタッフとして障害者居宅支援サービス等の業務に従事しているXが、Y社に対し、〈1〉平成30年6月支払分から令和2年4月支払分の深夜割増賃金のうち57万2922円と、〈2〉平成30年6月支払分から令和3年1月支払分までの深夜割増賃金を除く未払時間外割増賃金のうち47万2704円がいずれも未払であると主張して、〈1〉及び〈2〉の合計104万5626円+遅延損害金の支払を求めるともに、労基法114条に基づく付加金82万1365円(平成30年12月支払分以降の未払に係るもの)+遅延損害金の支払を求める事案である。

原審がXの請求をいずれも全部認容したため、Y社が控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 労基法32条の2第1項が所定労働時間の特定を求める趣旨は、変形労働時間制が労基法の定める原則的な労働時間制の時間配分の例外であって労働者の生活への負担が懸念されるため、労働時間の不規則な配分によって労働者の生活設計に与える不利益を最小限に抑えることにあることに照らすと、まずは就業規則において、月間スケジュールによる所定労働時間、始業・終業時刻の具体的な特定がどのようなものになる可能性があるか労働者の生活設計にとって予側が可能な程度の定めをする必要がある。
ところが、Y社の就業規則では月間スケジュールにより各就業日の勤務時間帯が定められるとするものであり、ケアスタッフにとっては前月25日までに月間スケジュールが交付されるまで労働時間が明らかではないから、労働者の生活設計の予側が可能とはいえず、その不利益は、月間スケジュールの作成後に個別に勤務時間を変更することによって解消されるというものではない介助サービスの利用者の都合によって就業時間が変化する実情があるとしても、それは、時間外勤務として扱われるべきであって、就業規則に就業時間の特定がおよそないものに変形労働時間制の適用を認めることはできない

2 Y社は、Xの時間外手当の請求が権利濫用である旨主張するが、Xの現実の労働時間が短いものであったとしても、変形労働時間制が適用されないとした場合に未払の時間外賃金が存在すれば、これを請求するのは労働者の権利であり、Y社の就業規則に不備があることは上記のとおりであるから、Xが変形労働時間制の適用を否定して時間外手当を請求することが権利の濫用であるということはできない。

3 Y社は、日中手当は日中の業務内容と介助者の負担の大きさに着目して付与することとしたものであるから、「通常の労働時間の賃金」には該当しない旨主張するが、割増賃金の算定基礎となる通常の賃金とは、当該深夜労働が、深夜ではない所定労働時間中に行われた場合に支払われるべき賃金と解されるところ、日中手当は、深夜労働時間帯以外の時間に労働をした場合に一律に支払われるものであり、通常の労働時間の賃金に含まれるというべきことは、引用する原判決のとおりである。
日中の時間帯における人手が不足したため、日中手当を導入した経緯があったとしても、そのために日中手当を通常の賃金から除外することは、深夜労働に関し一定の規制を定めた労基法37条4項の趣旨に整合せず、許されない。

変形労働時間制の有効要件を正確に理解し、かつ、運用している企業がどれほどあるでしょうか。

管理監督者性とともに変形労働時間制は、ある種、時限爆弾です。未払残業代請求訴訟で爆発する可能性が高いので、安易な導入は避けるべきです。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

本の紹介2172 CAN’T HURT ME(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう!

今日は、本の紹介です。

サブタイトルは「削られない心、前進する精神」です。

著者は、退役海軍特殊部隊員(ネイビーシール)の方です。

まさに、強いです。

今の時代に最も求められる力の一つです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

多くの人が、聞こえのいいことしか言わない取り巻きに囲まれている。失敗から立ち直ってまたチャレンジできるよう手を貸してくれる人じゃなく、甘い言葉で慰め、二度と挫折しないように守ってくれようとする人と一緒にいる。でも君に必要なのは、甘い言葉じゃなく、厳しいことを言ってくれる人、それでいて『不可能じゃない』と思わせてくれる人だ。」(407頁)

何か言えばすぐにパワハラだと言われ、モームリだと退職代行を使って光の速さで退職するこの時代に、こんな人はもうほとんどいません。

特に会社組織においては。

みんな、本当の意味での指導・教育なんてずっと前にあきらめているように思います。

若手社員の機嫌を損ねないように、辞められないように、やさしく、丁寧に、腫れ物に触るかのように接しているのが現状ではないでしょうか。

というわけで、仮に厳しいことを言ってくれる人、それでいて「不可能じゃない」と思わせてくれるメンターを求めるのであれば、雇用関係にない、会社の外に求めるしかないのかな、と思います。

職場の上司、先輩にそれを求めるのは、酷というものです。

賃金291 割増賃金請求の消滅時効の援用が権利濫用にあたり無効とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、割増賃金請求の消滅時効の援用が権利濫用にあたり無効とされた事案を見ていきましょう。

足利セラミックラボラトリー事件(仙台高裁令和5年11月30日・労判1318号71頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されているXが、Y社に対し、合意された基本給の支払がされていない、残業代の未払がある、違法な配転命令等のパワーハラスメントを受けたと主張して、各種金員の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 本件控訴及び附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
2 Y社は、Xに対し、133万3545円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、Xに対し、15万6569円+遅延損害金を支払え。
4 Y社は、Xに対し、110万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、1年間の変形労働時間制が採用されている旨主張する。しかしながら、平成29年の変形労働時間制に関する労使協定について、Xが過半数代表者の選出手続が存在しない旨主張したのに対し、Y社は、Cが、従前から労使協定の度に自ら過半数代表者となる旨立候補し、他の多くの従業員から人望があることに鑑み、過半数代表者となっていたとしか主張せず、労働基準法施行規則6条の2第1項2号に則って適式に選出された者であることの主張立証をしないことからすると、Cが労働基準法32条の4第1項にいう「過半数を代表する者」に当たるものと認めることはできない。また、平成30年については、労使協定の存在自体確認することができない
したがって、平成29年も平成30年も同条の要件を満たさず、Y社主張の変形労働時間制は無効である(原審判断)。

2 Y社は、令和2年6月30日に本件訴えが提起されていることから、平成29年4月支払分から平成30年5月支払分までのXの賃金債権は、遅くとも令和2年5月31日の経過により時効により消滅していると主張して消滅時効を援用する。
しかし、Y社は、求人票に「基本給与」が17万円であると記載しておきながら、求人票に記載されたY社の勤務条件や会社情報等を信頼し、採用試験を受け歯科技工士専門学校を卒業して就職したXに対し、就職後に給与を支払う段になって、給与明細書に、基本給13万3000円、超過勤務手当3万7000円と記載して給与を支払い、求人票に記載した「基本給与」17万円の中には、固定残業代3万7000円が含まれ、基本給月額13万3000円、固定残業代月額3万7000円という内容の労働契約が成立したなどと主張したのであり、このようなY社の求人、採用と給与支払の方法やこれに基づく労働契約の内容についての欺瞞的な主張は、Xのような社会的に未熟な求職者を騙して労働者を安い給料で働かせようとしたものと評価するほかはない
Y社は、基本給が17万円という労働契約を締結したはずではないかと求人票を信頼した主張をするXに対し、顧問の社会保険労務士を使って会社の主張を暗黙のうちに承認させようと説得を試みたり、Y社代表者において、Y社の主張に沿った雇用契約書に署名しないと勤務できなくなると脅したりして会社の主張を追認させようとするなど、Xの権利の行使を妨げてきた
求人票に記載した「基本給与」に固定残業代が含まれるなどという欺瞞的な方法により、求人票を信頼した労働者に対し、求人票の記載と明らかに異なる低額の基本給による労働契約の成立を主張し、その差額の基本給の支払を求め続けてきた労働者の権利行使を様々な手段を通じて妨害してきたY社が、入社直後から権利主張を続け、入社3年後には本件訴えを提起したXに対し、令和2年法律第13号による改正前の労働基準法115条に基づいて、2年の期間の経過による消滅時効を援用して権利の消滅を主張することは、労働契約上の信義に反し、権利の濫用にあたるから許されない

すごい言われ様です。

残業代の支払金額よりも、レピュテーションダメージのほうがはるかに影響が大きいのではないでしょうか。

和解で終わることはできなかったのでしょうか・・・。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。