Author Archives: 栗田 勇

本の紹介2141 強者の流儀#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、本の紹介です。

今から4年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

朝倉未来さんから学ぶべきは、「結局、どれだけお金を手にしたところで、人は満たされることがない」というなのだと思います。

たくさんのお金を手にすれば何もかも満たされるという幻想を抱きがちですが、決してそうではないということがよくわかります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

僕が人生の中で求めているのは自由です。僕が欲しい強さというのは、ある意味で自由でいるための強さと言えますね。」(73頁)

これは、私を含め、多くの人が同じ感覚だと思います。

自由とは、選択できることを意味します。

これこそが私の幸せの定義です。

生きたいように生きる。

嫌なことを嫌といえる。

高価な車も時計も洋服も、何1つほしくありません。

そういうものでは、1ミリも幸福感は満たされないからです。

日々、ストレスなく、自由に生きることこそが、私の幸せです。

セクハラ・パワハラ91 職場いじめの有無と休憩室での録音(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、職場いじめの有無と休憩室での録音に関する裁判例を見ていきましょう。

ハイデイ日高事件(東京地裁令和5年2月3日・労判1312号66頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Yに対し、YのXに関する言動等が職場いじめに当たり、これにより精神的苦痛を受けたと主張して、不法行為に基づき、慰謝料200万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Yの発言は、「いやだ」、「気持ち悪い」、「大っ嫌い」等と主としてYのXに対する主観的な感情・評価を吐露するものにすぎず、Xに係る個別具体的な事実を摘示し、これによりXが社会から受ける客観的な評価を低下させるようなものであったとはいえないし、具体的な事実に基づく論評・評価に当たるものであったともいえない。そして、Xは、Yが出勤する日はほぼ毎日のように録音し、その数は500件以上であるところ、Yの発言中、Xに対する否定的評価が含まれるものは上記2日間のものに限られ、本件全証拠を精査しても、Yによる継続的な言動があったと認めるに足りないし、いずれもX不在の本件店舗の休憩室における一時的な会話であり、Xが秘密録音したことによって、Xの知るところとなったにすぎないのである。このような行為4の1及び行為4の2に係る具体的な状況を踏まえてみると、これがXに対する不法行為に当たるものとまでは解されない。

2 Yは、平成29年3月14日及び同月28日の各会話を録音した媒体及びその反訳書について、違法収集証拠に該当するから証拠能力がないと主張するが、上記録音媒体は、Xが、本件店舗の従業員が共同して使用する本件店舗の休憩室での会話を、Yが知らない間に録音したというにとどまり、その録音の手段・方法に照らして、著しく反社会的な手法で人格権を侵害して取得されたとまでは認められないのであり、証拠能力は否定されないというべきである。

上記判例のポイント2のように、秘密録音については、よほど秘密性の高い会話を除き、違法収集証拠とは評価されません。

なお、証拠能力の問題とは別に、プライバシーや個人情報保護の観点から、社内での録音は禁止と就業規則等に規定し、周知することをおすすめいたします。

社内のハラスメント問題については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。

本の紹介2140 身銭を切れ(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

身銭を切ること(skin in the game)がいかに結果を出すために必要であるかよくわかります。

帯には、「魂を捧げた先にしか、価値ある『生』はない。」と書かれています。

没頭して、熱中して、魂を捧げた先にこそ、生きている実感を味わえるのだと思います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

自分の意見に従ってリスクを冒さない人間は、何の価値もない。」(68頁)

右にならえで安全・安定な生活を是とする人もいると思います。

それはそれで、その人の生き方ですから、とやかく言われる筋合いはありません。

他方で、リスクを冒して、チャレンジングなことに没頭しているときこそ、生を感じるという人もいます。

最初から成功が保証されているようなゲームはちっとも楽しくありません。

どうなるかわからないからこそ懸命に努力をし、アドレナリンが出るのです。

昨日と同じ今日、今日と同じ明日では、生きている心地がしないのです。

競業避止義務35 競業避止条項および退職金減額規定の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、競業避止条項および退職金減額規定の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

日本産業パートナーズ事件(東京高裁令和5年11月30日・労判1312号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結していたが退職したXが、Y社に対し、①退職金規程に基づく業績退職金525万4000円+遅延損害金、②平成31年3月支給分の賞与(業績年俸)の未払額245万4400円+遅延損害金の支払を求める事案である。
原審は、Xの請求を棄却したところ、Xが控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Xは、競業避止義務を課す合理性が、情報やノウハウの他社への流出により転職先が利益を受け得ることの防止にあるというのであれば、X退職時には、B株式会社に対しどのような提案を行うかなど、案件がある程度具体化しており、Xがそれを知っていたことが重要であるが、本件においてそのような事実はなかったなどとして、Xに悪質な競業避止義務違反があったとはいえないと主張する。
しかし、Xは、Y社に在職中、B株式会社への提案資料等の作成を担当し、令和元年12月にはB株式会社・C株式会社の案件に提案先の優先順位として最も高いランク付けをした資料を社内で共有するなど、Y社が引き続きB株式会社・C株式会社の案件に高い関心を有していることを認識しながら、転職活動中であった同年11月ないし12月に、B株式会社・C株式会社関連を含む提案資料等を大量に印刷して社外に持ち出し、Y社を退職した直後である令和2年2月に競合他社に転職して、同年夏頃から転職先でB株式会社・C株式会社のカーブアウト案件を担当し、転職先の同案件についての提案が採用されるに至っている事実が認められることは前記引用に係る原判決説示のとおりであり、上記の事実に照らせば、Xに悪質な競業避止義務違反があったというべきことは明らかであって、Xが退職した時点において、Y社においてB株式会社・C株式会社の案件につき具体的な提案内容が定まっていたかどうか、また、その内容を控訴人が知っていたかどうかによって上記判断は左右されない。

一般的な同業他社への転職が、競業避止義務違反と判断されることはまずありません。

本件のようにプラスアルファとしてより悪質な事情がある場合には競業避止義務違反と評価されるのが一般的です。

競業避止義務の考え方については顧問弁護士に相談をし、現実的な対策を講じる必要があります。

本の紹介2139 折れないハートをつくる7つの秘訣#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、本の紹介です。

今から8年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

12年前に出版された本ですが、今読んでも、全く色褪せない内容です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

仲間といると知らないうちに起こっているのが”無意識の伝染”。だからこそ、自分を成長させたいなら、『誰と一緒に過ごすか』の見極めが大切。自分が誰といたら、成長できるか?輝けるのか?決めるのはあなた自身。」(77頁)

これは昔からずっと言われ続けていることですが、まわりの環境が極めて重要であることを物語っています。

未成年のうちは、事実上、親の選択に従わざるを得ない場面が多いと思いますが、成人してからは、どのような環境に身を置くかについては、多くの場合、自分の選択によります。

「無意識の伝染」はプラスにもマイナスにも働きます。

成長したいのなら、コンフォートゾーンから抜け出し、自分が「こうなりたい」と思う人とできるだけ時間を共にすることです。

守秘義務・内部告発13 公益通報と認められる内部告発を行った労働者の解雇を無効とした事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、公益通報と認められる内部告発を行った労働者の解雇を無効とした事案を見ていきましょう。

水産業協同組合A事件(水戸地裁令和6年4月26日・労経速2556号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXらが、Y社に普通解雇されたことに関し、以下の請求をした事案である。
(1)X1が、Y社に対し、Y社によるX1の解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものであって、権利を濫用したものとして無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める(請求1(1))とともに、令和4年3月から判決確定日まで毎月25日限り賃金30万6000円+遅延損害金の支払(請求1(2))、並びに、労働契約に基づき、本件解雇1以前の令和3年の冬季賞与98万6000円及びこれに対する弁済期の翌日である令和3年12月14日から支払済みまで上記同旨の遅延損害金の支払を求めたもの。
(2)X2が、Y社に対し、Y社によるX2の解雇は、原告Bが業務上の疾病にかかり療養するために休業する期間内になされたものであるから労基法19条1項に反し、又は、権利を濫用したものとして無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、令和4年3月から判決確定日まで毎月25日限り賃金25万円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで上記同旨の遅延損害金の支払、並びに、労働契約に基づき、本件解雇2以前の令和3年の冬季賞与87万8400円及びこれに対する弁済期の翌日である令和3年12月14日から支払済みまで上記同旨の遅延損害金の支払を求めたもの。

【裁判所の判断】

1 X1が、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 Y社は、X1に対し、令和4年3月から本判決確定の日まで、毎月25日限り30万6000円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、X1に対し、13万7000円+遅延損害金を支払え。
4 X2が、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
5 Y社は、X2に対し、令和4年3月から同年10月まで、毎月25日限り25万円+遅延損害金を支払え。
6 Y社は、X2に対し、令和4年11月から令和5年12月まで、毎月25日限り15万円+遅延損害金を支払え。
7 Y社は、X2に対し、令和6年1月から本判決確定の日まで、毎月25日限り25万円+遅延損害金を支払え。
8 Xらのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 本件記事の内容は、「茨城県加工シラス放射能“基準超え”数値はなぜ消えた」との題名のもと、本件書面に数値修正の書き込みがあり、修正後の数値を県が公表したこと、本件会議において放射性物質の検査結果が改ざんされた疑惑が生じたとの記載がある一方で、本件会議においてY社の幹部職員が説明した内容、Y社及び県に対する取材結果も同様に記載され、茨城県の数値は健康に影響が出るレベルではなかったと締めくくっているのであるから、これを読んだ一般読者においては、Y社が何らの根拠なく隠蔽目的で放射性物質分析結果数値を修正し、改ざんしたとの印象を抱くとまではいえず、Y社の信用低下は仮にあるとしても限定的なものにとどまる

2 X1が、本件書面の記載内容から、Y社あるいは茨城県が、漁獲物の流通を確保するために、実際の放射性物質検査結果の数値よりも低い数値を公表したのではないかとの疑念を抱くことは必ずしも不合理なことではないというべきである。
したがって、X1が、週刊誌記者からの取材に対して、本件書面及び本件会議の録音音声を提供し、実際の放射性物質分析結果とは異なる数値が公表された可能性があるとの認識を回答していたとしても、それが、故意に虚偽の情報を提供したものであったということはできず、およそ合理的な理由なくY社の信用を毀損する行為であったということもできない
以上に説示したところによれば、X1が取材に応じたことは、不合理にY社の信用を低下させるものであったとは認められず、解雇の有効性を基礎付ける客観的合理的な理由たり得ないというべきである。

多分に評価が含まれることから、現場において、解雇の是非を判断することは至難の業かと思います。

日頃から顧問弁護士に相談をする体制を整えておき、速やかに相談することにより敗訴リスクを軽減することが重要です。

本の紹介2138 成功する偶然を味方にする(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間がんばりましょう。

今日は、本の紹介です。

帯には、「『努力と才能は報われる』という幻想」と書かれています(笑)

著者は、ささいな偶然がきわめて重要であると説いています。

とはいえ、ある出来事を偶然と捉えるか必然と捉えるかは単なる解釈の違いであり、たいした問題ではありません。

読み物としてとてもおもしろいです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

生産とコミュニケーションにおける新たな手法が偶然の影響を増幅し、勝者と敗者の差を著しく拡大させたのである。他者より1%がんばって働く人や、1%多く才能がある人が、1%多い所得を得るというならばわかりやすいが、そうではない。小さな違いが何千倍もの収入の違いにつながるのだ。だから、偶然はきわめて重要なものになる。」(34頁)

仮に偶然がきわめて重要であるとして、多くの人は「で、どうすればいいの?」と思うはずです。

ずっと宝くじを買い続けていればいいのかと。

そういう話ではないですよね。

仮に偶然が重要であるとしても、結局のところ、私たちにできることといえば、日々、努力と工夫を積み重ねるほかないのです。

その結果、まわりまわって、偶然と思えるような形で、実を結ぶのです。

解雇413 日本語能力の欠如等を理由とする外国人労働者の試用期間中の留保解約権行使を無効とした事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、日本語能力の欠如等を理由とする外国人労働者の試用期間中の留保解約権行使を無効とした事案を見ていきましょう。

R&L事件(東京地裁令和5年12月1日・労経速2556号23頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と期間の定めのある雇用契約を締結していたXが、Y社のXに対する解雇が無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約に基づき、660万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効
Y社はXに対し、587万7144円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 本件雇用契約時にXの日本語能力は「中級」であることが前提とされていたが、「中級」の基準が明確に定まっていたとまではいえない。ただし、Y社のX採用に至るまでの経緯に照らせば、「中級」とは、少なくとも採用面接時にXがY社と日本語でやり取りした程度の日本語能力をいい、これを前提に本件雇用契約が締結されたと認めるのが相当である。したがって、Xが妻の名前を漢字で書くことができなかった点や、Xの兄が死亡した際にY社従業員の「葬式はどこでやるのか。」という質問の意図が理解できなかったこと等をもって、Xが「中級」程度の日本語能力を欠くとまでは認められない。

2 本件雇用契約には3か月の試用期間が設けられており、仮にXの日本語能力に十分でない部分があったとしても、Xが、日本語教育研究所の評価する日本語能力を有し、かつ、Y社の提供する週1回の日本語教室に通うなどの意欲を示していたことからすれば、上記試用期間3か月のうち約1か月しか経過していない11月25日の時点で、試用期間が満了する令和4年1月24日の時点においても本件雇用契約で前提とされていた「中級」の日本語能力を有さないことが見込まれる状態にあったとは認められない。

能力不足を理由とする解雇の場合、上記判例のポイント2のように判断されることがありますので、注意が必要です。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

本の紹介2137 ビジネスで一番、大切なこと#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

今から12年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

サブタイトルは、「消費者のこころを学ぶ授業」です。

顧客置き去りの差別化が横行している現状を省みるにはとてもいい本です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

不思議なことに、市場の他の商品に比べて必ずしも優れているとは限らないが、差別化には成功している。顧客と特別な関係を築き、群れから抜きん出ている。・・・差別化を実現するためには、競争ではなく、競争からの完全な脱却が必要なのだ。」(80頁)

そのとおりです。

この意味を理解していないと、ますます顧客そっちのけの差別化が横行します。

意識していないと、手段が目的化してしまうのです。

「競争からの脱却」が何を意味するのか、そのためには何をすべきかを深く考える必要があります。

解雇412 試用期間中に逮捕勾留された旨を連絡せず、5日半欠勤した従業員の解雇を認めた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、試用期間中に逮捕勾留された旨を連絡せず、5日半欠勤した従業員の解雇を認めた事案を見てきましょう。

シービーアールイーCMソリューションズ事件(東京地裁令和5年11月16日・労経速2555号35頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結しY社において勤務していたXが、Y社から試用期間中に留保された解約権を行使されたことについて、本件解雇が無効である旨主張して、Y社に対し、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、②令和4年12月支払分の賃金45万9346円及び遅延損害金の支払、③令和5年1月支払分から本判決確定の日までの賃金毎月月額116万6667円+遅延損害金の支払、④不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料200万円と弁護士費用相当額20万円の合計220万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 5日半の欠勤については、労働者の労働契約における最も基本的かつ重要な義務である就労義務を放棄したものとしてそれ自体重大な違反であるといえる。Xは、5日半の欠勤に先立ち有給休暇及び振替休日を取得しているものの、本件逮捕勾留という事の性質上、引継ぎ等がされたとは考え難いから、これらを含めれば、Y社において、Xが突然長期間不在になったことによって多大な迷惑を被りその穴を埋めるために対応を余儀なくされたことは明らかである。また、Xは、Y社から欠勤について事情の説明を求められても、Y社に対し、個人的事情によるものとしか説明していない。犯罪による身柄拘束といった高度にプライバシーに関わる事項であるものの、それを知らないY社から欠勤について事情の説明を求められるのは当然である。Xは、本件解雇後、Y社に対し、欠勤の理由が本件逮捕勾留であることを伝えているものの、それであれば、欠勤する際に伝えるべきであり、本件逮捕勾留についてY社に対し一切伝えないといった当時の対応は不適切であったといえる。Xは、Y社において勤務を開始したばかりでY社との間の信頼関係を徐々に構築していく段階であったところ、Y社に対し、欠勤の理由について個人的事情によるものとしか回答しない状態であったから、Y社からすれば、Xの就労意思すら不明であるし、Xについて仮に本採用をしても理由を明らかにしないで突然長期間の欠勤をする可能性がある無責任な人物と考えるのは当然である。
これらによれば、Xの上記対応によって、XとY社との間の労働契約の基礎となるべき信頼関係は毀損されたといえる。なお、Xの欠勤が逮捕勾留によるものといった当時判明していなかった事実を考慮しても、不起訴処分後に起訴することは妨げられないこと、犯罪の内容等によっては逮捕勾留の事実も社会的に半ば有罪と同視されてマスコミ報道等で取り上げられY社の社会的評価が毀損されることもあり得ることによれば、Xを本採用することは、Y社においてなおさらリスクが高かったといえる。
これらについては、Y社において、本件労働契約締結当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実であるといえるし、Y社において引き続き雇用しておくのが適当でないと判断することが相当であるともいえる。
したがって、Xは、試用期間中の解雇事由について定めた就業規則における「正当な理由のない無断欠勤が3日以上に及んだ場合」(8条1項2号)に該当するといえるし、欠勤すること自体の連絡があったことから「無断欠勤」とはいえないと解する余地があったとしても、少なくとも「社員としての本採用が不適当と認められた場合」(本条柱書)及び「その他前各号に準ずる程度の事由がある場合」(同条1項11号)に該当するといえる。

逮捕勾留されたことを素直に会社に伝えられない気持ちはよくわかります。

伝えたら伝えたで難しい状況になりますので。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。