Author Archives: 栗田 勇

本の紹介2187 親は100%間違っている#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

今から5年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

まあ、タイトルは大袈裟ですが、本を読めば、言わんとしていることはよくわかります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

目の前にあるチャンスに気づけないから、チャンスをつかめないんだよ。だから、最初はみんなチャンスに気づけない。まずはチャンスを教えてもらわないといけないわけよ。そのときに重要なのが、『理不尽』を受け入れることなんだ。これもよく言うんだけど、人生は上の次元の人に引っ張り上げてもらうことでしか上のステージに行くことはできない。だから、ここで重要なのが『理不尽』なんだよ。一見、何のメリットもないようなことを一生懸命やっていると、上の人に気に入られていくようになるんだよ。」(198頁)

今の時代に、このことを共感できる人がどれほどいるでしょうか。

まあ、パワハラだの老害だの言われるのが関の山ですかね。

ジェネレーションギャップを受け入れ、多様な価値観を排斥しない寛容さこそが、今の時代に必要な素養ではないかと思っています。

理不尽や居心地の悪さを受け入れられる、もしくは受け流すことができる人は、どんどん上のステージに引き上げられることでしょう。

今の時代は、理不尽さや当たりの強さみたいなものに対する耐性が明らかに下がってきているので、このような鈍感力、レジリエンスを持ち合わせた人が、相対的にますます重宝されることでしょう。

配転・出向・転籍58 職種限定合意成立時における配転の違法性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、職種限定合意成立時における配転の違法性に関する裁判例を見ていきましょう。

社会福祉法人滋賀県社会福祉協議会(差戻審)事件(大阪高裁令和7年1月23日・労判1326号5頁)

【事案の概要】

公の施設(地方自治法244条)である滋賀県立長寿社会福祉センター(本件事業場)の一部である滋賀県福祉用具センター(本件福祉用具センター)においては、福祉用具についてその展示及び普及、利用者からの相談に基づく改造及び製作並びに技術の開発等の業務を行うものとされており、本件福祉用具センターが開設されてから平成15年3月までは財団法人滋賀県レイカディア振興財団(レイカディア)が、同年4月以降はレイカディアの権利義務を承継した被控訴人が、指定管理者(同法244条の2第3項)等として上記業務を行っていた。
Xは、平成13年4月、本件福祉用具センターにおける上記の改造及び製作並びに技術の開発(以下「本件業務」という。)に係る技術職としてレイカディアに雇用されて以降、上記技術職として勤務していた。また、XとY社との間には、控訴人の職種及び業務内容を上記技術職に限定する旨の合意(本件合意)があった。

Y社は、Xに対し、その同意を得ることなく、平成31年4月1日付けで総務課施設管理担当への配置転換を命じた(本件配転命令)。また、Y社は、新たな人事評価制度に基づく人事評価において、Xを5段階評価のうち最低ランクに位置付け、Xの基本給を月額3000円減額するという不利益変更を行った(本件不利益変更)。

本件は、Xが、Y社に対し、〈1〉安全性に重大な問題のある福祉用具(障害児向け入浴介助用具)について安全面を確保するため寸法の一部変更を行うよう提案したものの採用されず、従前の寸法で製作するよう求められたがこれを拒否したところ、Y社から業務命令拒否等を理由に訓戒書の交付を受けたこと等により、Xは精神疾患を発病して休職に至ったとして、労働契約上の安全配慮義務違反による損害賠償請求権に基づき、通院慰謝料184万円、弁護士費用18万4000円の合計202万4000円+遅延損害金の支払を、〈2〉平成25年2月1日に復職した後も、上司のXに対する言動がパワーハラスメントに該当するとして内部相談窓口に通報したにもかかわらず、Y社は、詳細な検討を行うことなく、パワーハラスメントに該当しないとの回答を繰り返すほか、本件配転命令を強行し、本件不利益変更を行ったことにより、Xは精神疾患を再発し、再び休職に至ったとして、労働契約上の安全配慮義務違反又は不法行為による損害賠償請求権に基づき(選択的併合)、通院慰謝料52万円、弁護士費用5万2000円の合計57万2000円(一部請求)+遅延損害金の支払を、〈3〉本件配転命令は、当事者間の本件合意に反するなどとして、債務不履行又は不法行為による損害賠償請求権に基づき(選択的併合)、慰謝料100万円、弁護士費用10万円の合計110万円+遅延損害金の支払(以下「本件損害賠償請求」という。)をそれぞれ求めるとともに、〈4〉本件不利益変更は、Y社による人事権の濫用に当たり、違法、無効であって、Xの賃金は、令和元年6月度支給分が9000円、同年7月度支給分が3000円の未払になるとして、労働契約による賃金請求権に基づき、上記未払賃金合計1万2000円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

原判決中、110万円+遅延損害金の支払請求に関する部分を次のとおり変更する。
(1) Y社は、Xに対し、88万円+遅延損害金を支払え。
(2) Xのその余の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 Y社は、本件合意があったにもかかわらず、Xに対してその同意を得ることなく違法な本件配転命令を行ったものであり、しかも、Y社は、事前に本件面談において、Xに対し、同人が長年従事していた本件業務に係る技術職を廃止する旨の説明をしたり、他の職種へ変更することの同意を得るための働き掛けをするなど、違法な配転命令を回避するために信義則上尽くすべき手続もとっていないこと、Xは、これにより、長年従事していた本件業務に係る技術職以外の職種へ変更することを余儀なくされ、相当程度の精神的苦痛を受けたこと、その他、本件に現れた一切の事情を総合考慮すると、本件配転命令によって控訴人が被った精神的損害に対する慰謝料の額は80万円とするのが相当である。

判断枠組み自体は、特段、目新しい点はありません。

雇用契約において、職種の限定がされているか否かは、雇用契約書の記載だけからは判断ができない場合がありますので注意しましょう。

配転命令を行う場合には、事前に顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

本の紹介2186 キーエンス流 性弱説経営(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、本の紹介です。

サブタイトルは、「人は善でも悪でもなく弱いものだと考えてみる」です。

文脈的には「性悪説」という用語でも十分意味は通じると思いますが、あえて「性弱説」とする意図は理解できます。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

『そんなに大事なら事前にアドバイスしてくれればいいのに』という部下の思いは切実です。できる前提で何もしないのではなく、大事なことであればあるほど、漏れがないように確認すべきだというのが性弱説的な考え方です。そういうアドバイスをしないで後から怒る上司に限って、部下のほうから確認しようとすると『それくらい自分で考えて動け』と言うものです。」(80頁)

いつの世も、このようなコミュニケーションギャップが存在します。

「そのくらいわかるでしょ」という察する力を相手に期待しないことです。

お相手は、あなたのコピー人間ではないのですし、能力も考え方も異なります。

立場の優位性に乗じ、自身の言葉足らずを棚に上げるのはもうやめましょう。

そして、他人に対して、過度な期待をするのはやめましょう。

Expectation is the root of all heartache.

変えるべきは、他人ではなく、仕組みです。

メンタルヘルス14 適応障害は回復し、復職可能であるとの主治医の診断結果を認め、休職期間満了による自然退職を無効とした事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、適応障害は回復し、復職可能であるとの主治医の診断結果を認め、休職期間満了による自然退職を無効とした事案について見ていきましょう。

東京都葬祭業協同組合事件(東京地裁令和6年9月25日・労経速2575号3頁)

【事案の概要】

(1)Xは、休職期間満了による自然退職の効力を争い、Y社との間の労働契約が終了していないなどと主張し、労働契約に基づき、次の各請求をしている。
ア 労働契約上の地位を有することの確認
イ 令和3年12月から判決確定の日まで各月の賃金(令和3年12月分は同月1日から同月20日までの20日間の日割り)及び各支払期日の翌日以降の法定利率による遅延損害金の支払
ウ 令和3年12月から判決確定の日まで毎年6月及び12月支払の賞与並びに各支払期日の翌日以降の法定利率による遅延損害金の支払(予備的に不法行為に基づき、同額の損害賠償を請求している。)
(2)Xは、正当な理由のない自己都合退職等と記載した離職票の発行が不法行為に当たると主張し、不法行為に基づき、損害賠償金及び不法行為日以降の法定利率による遅延損害金の支払を請求している。

【裁判所の判断】

1 Xが、Y社に対し、労働契約上の地位を有することを確認する。
2 Y社は、Xに対し、21万5883円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、Xに対し、令和4年1月から本判決確定の日まで、毎月25日限り33万4620円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、令和3年4月6日に本件主治医の診察を受け、不眠、吐き気、食欲不振、震え、恐怖心の症状が出現した旨を訴え、適応障害と診断され、以後、通院を続け、抑うつ、不眠、全身倦怠感が持続しているため休務を要する旨の診断を受けていたが、同年11月24日の受診時には症状が改善して同年12月1日から復職可能である旨の診断を受けており、本件主治医において、同年12月1日時点で休職事由となる疾病は治癒したと判断されている。
Xの症状について、Xは、本人尋問において、5月頃には吐き気、食欲不振、震え、恐怖心の症状はなくなっていたと述べ、夏頃には不眠の症状も軽減し、10月下旬以降はほとんど毎日眠れていた旨を述べているところ、診療録上も、当初は様々な症状の訴えがみられるが、同年8月11日の受診時には「笑うことができるようになっている」とされるなど改善の傾向がみられ、同年10月以降の受診時には具体的な症状の訴えがみられなくなっている。
これらのことからすれば、Xの適応障害の症状は、令和3年12月1日時点で、従前の職務を通常の程度に行うことができる程度にまで回復していたと認められる。

2 これに対して、Y社は、Xの症状について、情動安定な状態と情動不安定な状態を繰り返している、薬を飲まなくてもよい状態に回復していたとはいえない、Xは令和4年3月2日に終診とされており、令和3年12月時点では精神科を受診し続けなければならない状態であったなどと主張する。
しかし、傷病が従前の職務を通常の程度に行うことができる程度にまで回復していれば、休職事由は消滅したといえ、それ以上に、症状が消失することや通院・服薬の必要がなくなることまで求められるわけではない。そして、Xの症状の経過は前記認定のとおりであるから、Y社が指摘する事情はいずれも前記の判断を左右するものとはいえない。

3 さらに、Y社は、Y社の就業規則では就労の可否は専らY社が指定した医療機関での受診結果を基にして行うこととなるところ、本件指定医はXが従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していない旨を診断していると主張する。また、Y社は、本件指定医は、Xの主訴だけでなく、服薬状況や過去及び現在の症状等の事情、親族との関係等を聴取した上で診断しており、その診断の信用性は高いとも主張する。
しかし、休職期間満了時に休職事由が消滅しているかどうかは自然退職の効力に直結する事項であるから、就業規則の内容にかかわらず、主治医の診断書等の資料が提出されている場合にY社が指定した医療機関での受診結果のみをもって直ちに休職事由が消滅していないものと取り扱うことは許されない。そして、本件指定医は一時的な回復の可能性が考えられるとして就労が困難である旨を診断しているが、Xが、本件指定医に対して、不眠等の症状がない旨を述べ、服薬状況について「1か月内服していない」「眠れない時だけ、1か月間は飲んでいる」旨を述べていることに加えて、診療レポートには令和3年4月から同年11月までのXの症状の経過は特に記載されておらず、本件指定医がXの症状の経過を詳細に聴取したとはうかがわれないことを踏まえると、一時的な回復の可能性というのは抽象的な懸念を指摘するものとみるべきであって、この診断をもってXの症状が従前の職務を通常の程度に行うことができる程度にまで回復していたことを否定するのは相当でない。

4 Y社は、本件指定医の診断書等を参照して休職事由が消滅していないと判断し、Xを休職期間満了による自然退職としたのであって、Xに対する嫌がらせであるとはいえない。また、失業保険金の給付の判断は、離職票の記載のみに基づいて行われるものではなく、離職票の記載は事業主の主張にとどまるから、Y社が休職事由の消滅に関する判断を誤って離職票を発行したからといって、そのことが不法行為に当たるとはいえない。

本件では、指定医ではなく、主治医の判断が採用されています。

裁判所は、両医師の判断過程、根拠について実質的に比較検討します。

また、上記判例のポイント3の第2段落は誤解しがちな点ですので、しっかりと押さえておきましょう。

使用者としていかに対応すべきかについては、顧問弁護士の助言の下に判断するのが賢明です。

本の紹介2185 仕事ができる人できない人の成功心理術(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間がんばりましょう!

今日は、本の紹介です。

今から20年以上前に出版された本ですが、再度、読んでみました。

いわゆる仕事ができる人とそうでない人でどのような思考の傾向があるのかということがとてもわかりやすく書かれています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

小さなミスをするたびに『同じミスはくり返さない!』と反省する人はいい。しかし、根拠もないのに『小さいミスだから大したことはない』とか『上司の指示が悪かった』などと言い訳してしまう人は自分を変えるきっかけを失っている。こういった心理を専門用語で『合理化』という。」(33頁)

私は少し違う意見です。

人間は誰しも大小様々なミスをします。

ミスをしたときに「同じミスはくり返さない!」と反省したところで、どうせまた同じミスをします。

人間なんてせいぜいその程度の不完全な生き物なのです。

反省をするのではなく、どのような仕組みを作ったら、同じようなミスが起こる確率を少しでも減らすことができるか、を考えるほうがはるかに有益です。

それでも、ミスは起こるのですから。

みんな、他人に期待しすぎなのです。

同一労働同一賃金29 有期・無期労働者間の基本給格差の不合理性と無期転換後の格差の違法性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、有期・無期労働者間の基本給格差の不合理性と無期転換後の格差の違法性について見ていきましょう。

学校法人明徳学園事件(京都地裁令和7年2月13日・ジュリ1608号4頁)

【事案の概要】

Xは、平成22年4月、Y社が運営するA高校の常勤講師として1年の有期労働契約でY社に雇用され、その後、XとY社は契約更新を繰り返した。
令和4年2月、XはY社に無期労働契約転換申込書を提出し、同年4月1日から無期契約に転換した。Y社はXに対し、同日付けで常勤講師から常勤嘱託(事務職員)への配転を命じた。
Xの賃金(基本給)月額は、勤続1年目(年齢33歳)は24万9400円(同年齢・同勤続年数の専任教員の年齢給〔基本給〕の約78%)、勤続5年目以降は29万4600円で昇給なし(同年齢・同勤続年数の専任教員の年齢給との比率は5年目約82%,10年目約74%、12年目約71%)であった。
Xは、Y社に対し、①本件配転命令は無効であるとして常勤講師としての労働契約上の地位(または常勤嘱託として勤務する義務の不存在)の確認、および、②Y社の専任教員と常勤講師間の賃金差は違法であるとして不法行為に基づく損害賠償を求めて、本件訴えを提起した。

【裁判所の判断】

1 配転命令は有効

2 賃金格差は違法

【判例のポイント】

1 専任教員には長期雇用を前提として年功的な貸金制度を設け、1年以内の雇用期間を定める常勤講師に専任教員と異なる賃金制度を設ける制度設計には一定の合理性がある。しかし、A高校では、常勤講師の契約更新を5年に制限するわけではなく、Xを含む常勤講師の勤務実態は短期雇用にとどまっていない。専任教員の年齢給の性質・目的に照らせば、少なくとも5年を超えて勤務する常勤講師には、専任教員と同様に、年齢による部分、職務遂行能力による職能給、継続的勤務への功労報酬という性質・目的は妥当するものといえる。にもかかわらず、常勤講師の賃金は、5年を限度とした職能給および勤続給としての性質にとどまるものであって、賃金の性質・目的から合理的とはいい難い。

2 採用方法の違いに基づく管理職登用の相違は将来的かつ潜在的な可能性にとどまり、業務内容・責任の程度の差として現れているとはいい難い。Xが常勤講師として在任した時期には、常勤講師であるXと管理職でない専任教員との間に、職務内容の明らかな差異は認められない。職務内容・配置の変更の範囲についても、両者の間に有意な差があるとはいえない。

3 Xと同年齢・同時期に採用された専任教員の賃金を比較すると、6年目以降は常勤講師の賃金は
昇給しないため、賃金差は広がっていくばかりとなる。Xは5年を超えて勤務し、専任教員の年齢給の性質・目的が妥当する上、管理職でない専任教員の間には、業務内容・責任の程度、職務内容・配置の変更の範囲において上記賃金差を設けるほどの違いは認められない。以上によれば、Xと同年齢・同時期に採用された専任教員との間に賃金差が生じ、年を経るごとに拡大していくことは不合理である。

賃金格差が違法であると判断されています。

職務内容や配置変更の範囲、責任の程度に大きな違いがないがその理由です。

同種の問題は、様々な企業において存在するので注意が必要です。

同一労働同一賃金の原則を意識した労務管理を行うためには、日頃から顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

本の紹介2184 外資の流儀#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

今から6年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

サブタイトルは、「生き残る会社の秘密」です。

もう外資とは、何から何まで企業文化が全く違うことがよくわかります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

人の生産性が問われるサービス業において、日本企業の低い生産性を悪い意味で支えているのが、日本企業独特の習慣です。
新卒採用
年功序列
終身雇用」(8頁)

もうこれはかなり前から言われていることですね。

生産性が上がるわけがない制度であることは誰もが認めるところかと思います(笑)

いつまでもあると思うな、親と会社と年金制度。

有名な大企業でも気づけば倒産しているという例は決して珍しくありません。

どんな環境においても、最後は「自分」という武器で戦っていけるように、日々、研鑽・準備を続けていくことが大切です。

セクハラ・パワハラ95 上司のセクハラ及びパワハラに基づく損害賠償請求が一部認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、上司のセクハラ及びパワハラに基づく損害賠償請求が一部認められた事案を見ていきましょう。

キャドワークス事件(東京地裁令和6年4月19日・労判ジャーナル153号34頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのない雇用契約を締結していたXが、A社及びA社の元代表取締役Yに対し、Yからセクハラを受けたとして損害賠償を請求するとともに、休職期間満了による自然退職の効力を争い、地位確認等を求めた事案だる。

【裁判所の判断】

YらはXに対し、110万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Yは、配偶者がいながら、Xに対し、異性として好意を抱いていることを伝え・・・、Xから否定的な返答を受けた後も、二人での旅行、オペラ鑑賞、登山及び寿司といった、業務とは無関係の外出に繰り返し誘い、Xは二人での外出を断っていた・・・ものである。これらの行為は、A社の代表者という立場から、部下であるXに対し、A社の代表者と従業員という関係を超えた交際を求めるものであり、要求を断った場合の職場での不利益を懸念させ、Xの職場環境を害する行為である。さらに、Yが、A社の従業員にXとの関係を問い質したこと・・・は、Xに交際を求めることと相まってXの職場環境を害する行為であり、Xに従業員との関係を問い質したことは、Xを困惑させ不快感を与える行為である。

2 Yは、Xに対する好意から、Xから拒否されているにもかかわらず交際を申込み、他の従業員にXとの関係を問い質す等してXの職場環境を悪化させ、さらに本件展示会でのG及びXの対応に苛立った挙句、業務の適正な範囲を超えてXにYや取引先への不合理な謝罪を命じ、Xに不快感や屈辱感を与えたものであり、こうしたYの一連の行為は、Xの人格権を侵害する違法な行為であり、不法行為に該当するというべきである。

3 Yの不法行為の内容や期間、頻度に加え、Xが適応障害を発症したこと、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、Xの精神的苦痛を慰謝するための慰謝料額は100万円、弁護士費用はその1割の金額として10万円と認めるのが相当である。

上司・部下の関係において、上司が部下に対して恋愛感情を持つと、最後はこうなってしまいます。

今に上司部下間恋愛禁止法ができるのではないかとすら感じます。

労務管理に関する抜本的な改善については顧問弁護士に相談の上、適切に対応しましょう。

本の紹介2183 ドラッカーのリーダー思考(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

リーダーシップとは何かということについて説かれています。

今の時代にどう落とし込むかを考えると悩ましい点がいくつもあります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

コマギレの時間を積み重ねたって、何ら実のある成果は生まれない。一日のうちで本当に有意義に使える時間は、せいぜい一時間そこそこ。しかも、人間にとって気力、体力ともに充実している時間は、一日のうちでよくて1~2時間。そうしたゴールデンタイムをAクラスの貴重な課題に向けて、中断されることなく、ドカーンとまとめて使わない限り成果は生まれないのだ。」(130~131頁)

断然おすすめなのは、早朝です。

毎朝4時に起きて、勉強と運動と栄養補給を続けていれば、知力・気力・体力ともに万全の状態をキープできます。

年齢は関係ありません。

自分の商品価値を継続的に向上させるためには、日々の準備と鍛錬が必要です。

ローマと成功は1日にしてならず、ですから。

不当労働行為320 不当労働行為に基づく組合の損害賠償請求が一部認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間がんばりましょう!

今日は、不当労働行為に基づく組合の損害賠償請求が一部認められた事案について見ていきましょう。

川上屋事件(岐阜地裁令和6年7月5日・労判ジャーナル152号20頁)

【事案の概要】

本件は、①X組合が、Y社の不当労働行為により非財産的損害を被ったと主張して、Y社に対し、不法行為に基づく損害賠償として110万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めるとともに、②X2が、Y社の安全配慮義務違反によって中等症うつ病エピソード等を発症するに至ったと主張して、Y社に対し、債務不履行に基づく損害賠償として185万3703円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、X組合に対し、33万円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X2に対し、22万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 とりわけ先行配転命令の一部撤回及びその後本件配転命令に至るまでの人員配置の経緯等に照らせば、a店の喫茶部門から本店の製造部門への本件配転命令について、合理的な必要性があったとは認め難い。このことに加え、従前からのXらとY社の緊張関係、Y社による本件誓約書の徴求、安全衛生委員会の不開催(被告は、開催する時間的余裕がなかった旨主張するが、平成28年1月から同年7月までに計5回開催された同委員会がその後全く開催されなくなったことにつき、合理的な説明がされたとはいい難い。)といった経緯も考慮すれば、Y社による本件配転命令は、前訴判決の認定・判断のとおり、X組合の運営に介入してXらの影響力を低下させようとするものであって、労働組合法7条3号所定の支配介入に当たると認めるのが相当である。
そして、そのような本件配転命令について、X組合との関係で故意・過失や違法性を否定すべき特段の事情があることはうかがわれない。
以上によれば、本件配転命令は、故意又は過失によりX組合の法的利益を違法に侵害するものとして、不法行為にあたるというべきである。

2 X2は、本件要請書の内容に納得がいかず、他の従業員らが本当にそのように認識しているのかどうか、確かめようとしたものと解される。このような行為は、本件要請書に係る申告者に不安感等を抱かせかねず、ひいては以後のハラスメント申告等を思いとどまらせかねないものであって、問題がないとはいえないものの、申告者探しであるとまで断ずることも困難であり、当該申告者との関係で、その「プライバシー」(就業規則72条6項)を侵害するとか、「相談をしたこと…を理由として不利益な取扱い」(同項)をするとか、「職権等の立場または職場内の優位性を背景にして…人格や尊厳を侵害」(就業規則69条14項)するものであるなどと評価することはできず、懲戒事由にあたるとは認め難い

不当労働行為による組合等に対する損害賠償額のある程度の相場がわかります。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。