Category Archives: セクハラ・パワハラ

セクハラ・パワハラ44 パワハラの認定方法とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、パワーハラスメントは存在しないとして不法行為に基づく損害賠償請求が否定された事案を見てみましょう。

三栄製薬事件(東京地裁平成30年3月19日・労経速2358号28頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、①Xの意思に反して平成28年9月30日付け自己都合退職と扱われたことにより、同年10月1日から同月20日まで就労不能になったとして、民法536条2項に基づき、同年10月分の未払賃金14万1034円の支払、②Y社の専務であるB2からパワーハラスメントを受けたなどとして、民法709条及び同法715条に基づき、968万2658円の損害賠償金の支払、③労働契約に基づき、平成27年6月3日から平成28年9月29日までの未払割増賃金45万0418円+遅延損害金、④労働基準法114条に基づき、未払割増賃金45万0418円と同額の付加金の支払を各求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、18万6501円+遅延損害金を支払え

Xのその余の請求をいずれも棄却する

【判例のポイント】

1 本件パワハラ等の事実を認めることができないのは上記のとおりであるから、本件パワハラ等の事実が存在することを前提とするXの上記供述はにわかに採用することはできない。また、Xは、本件合理的配慮を記載したメモを作成してY社に交付したと述べるが、同メモの存在を裏づける的確な証拠はなく、本件カルテにも、XがY社に本件合理的配慮を要望していたことを窺わせる記載はない上、Xは診断書すらY社に提出しておらず、通院状況や服薬状況について、Y社との間で情報交換をしていたことを窺わせる事情も存在しないことからすれば、XとY社との間で本件合理的配慮を提供することの合意があったと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

2 確かに、Xは、同月5日に行われたY社との話し合いにおいて、労務の提供を申し出ているが、その理由は、XとY社との間で、既に合意されていた平成28年10月20日付の退職を撤回して、引き続き、Y社で勤務し続けたいというものであった。Xは、本件労働契約について、平成28年10月20日付で合意解約するとの申込みをし、Y社は承諾の意思表示をしているため、合意解約は有効に成立している。したがって、Xは、既に合意解約の申込みの意思表示を撤回することができない状況にあったにもかかわらず、一方的に同月20日付退職を撤回するとして労務の提供を申し出たものであることからすれば、Y社において、既に退職が決まっているXに行わせる業務はCへの引継業務以外にはなく、Xの退職の撤回を受け入れることはできないとして、その就労を拒絶したことには合理的な理由があったといえる。また、Y社は、本件口論後のXの言動を踏まえて、Xが同年9月30日付で退職の申込みをしたものと考え、同日付合意退職の扱いにしたものであるところ、本件口論後、XはCへの引継業務を行うことを強く拒絶していたことからすれば、Y社において、本件労働契約が同年9月30日付で合意解約されたものと判断し、そのような処理をしたこともやむを得ないものであったということができる。
以上に照らすと、Xが平成28年10月1日から同月20日までの間、就労不能となったことについて、Y社の責めに帰すべき事由があると認めることはできないから、平成28年10月分の未払賃金請求については、その余の点を判断するまでもなく理由がない。

上記判例のポイント2の経緯は実際にあり得ることです。

微妙な判断が求められる場面ですが、この裁判例を参考にしてください。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ43 退職勧奨のパワハラ該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、パワハラによる適応障害発症と休職期間満了後の退職の可否に関する裁判例を見てみましょう。

公益財団法人周南市医療公社事件(山口地裁周南支部平成30年5月28日・労判ジャーナル78号22頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社との間で雇用契約を締結し、Y社の事務局内で勤務していたところ、Y社の代表理事であるA、Y社の理事兼事務局長であるB、Y社の経営アドバイザーであったC、Y社の事務部総務課課長補佐であったD及びY社の事務部総務課主任であるEから、平成25年3月22日から平成27年1月14日まで、パワーハラスメント行為を受けたことにより、適応障害に罹患して休職するに至り、給料、期末手当及び勤勉手当を減額されて、その後、休職期間満了により退職扱いされたとして、(1)Y社に対しては、①休職期間満了により退職扱いされたことについて、これが無効であるとして労働契約上の地位の確認、②休職後の民法536条2項に基づく給料、期末手当及び勤勉手当の合計82万2161円+遅延損害金の支払い、③退職扱い後の民法536条2項に基づく給料(月額28万5762円)、6月期末手当、勤勉手当(年額55万6337円)及び12月期末手当、勤勉手当(年額60万8090円)+遅延損害金の支払い、④Y社自身の不法行為による民法709条、Aらの不法行為による民法715条又はXとの雇用契約の債務不履行に基づき、損害賠償金1134万9023円+遅延損害金について、Aらとの連帯支払いを求めるとともに、(2)Aらに対しては、⑤Aらの共同不法行為による民法709条、719条に基づき、損害賠償金1134万9023円+遅延損害金について、Y社との連帯支払いをそれぞれ求めた事案である。

【裁判所の判断】

1 XがY社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
 Y社は、Xに対し、82万2161円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、Xに対し、平成27年2月から本判決確定の日まで、毎月21日限り28万5762円、毎年6月30日限り55万6337円、毎年12月10日限り金60万8090円+遅延損害金を支払え。
 Y社、A及びBは、Xに対し、連帯して、574万9023円(うち300万円についてはCと連帯して、うち200万円についてはDと連帯して、うち100万円についてはEと連帯して)+遅延損害金を支払え。
 Cは、Xに対し、Y社、A及びBと連帯して、300万円+遅延損害金を支払え。
 Dは、Xに対し、Y社、A及びBと連帯して、200万円+遅延損害金を支払え。
 Eは、Xに対し、Y社、A及びBと連帯して、100万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Bは、本件退職勧奨に際し、Xに対し、「自分の生かせるところへ行ったらどうかね」「今までどおりというふうにはいかないから場所を出てもらうようになる」「会議室もないし、ここのところに場所がないから。そういうところで仕事やってもらうし」「あなたの人件費も浮くんだから」「出ていかないというからじゃね、それに見合った仕事に」「仕事をみつけなさいよちゅうて」「自分で探してこいって」「まともな場所はここしかないからじゃね、あとは部屋と呼べるようなところはないから、今度はここが出たら、もうどっか空いてるスペースに行ってもらう」「ここでお前は嫌われている。誰も一緒に仕事をしたくない。他の仕事を探せ」「エッジにおるんよ」「廊下で作るわけにはいかんじゃろうがね、パソコンやら。だからそういう仕事はできなくなる」などと発言した。
退職勧奨に際して、労働者の自発的な退職意思を形成する本来の目的実現を超えて、当該労働者に対して、不当な心理的圧力を加えたり、又は、その名誉感情を不当に害するような言辞を用いたりした場合には、違法なものとなるというべきである。
これを本件についてみると、まず、Bは、Xが退職すればXの人件費が浮く、Xは嫌われていて、誰も一緒に仕事をしたくないなどと、名誉感情を不当に害するような言辞を用いており、精神的な攻撃を加えるものである
また、Xは、そもそも、経歴、資格を見込まれた管理職候補として採用されており、これまでいわゆる現業には従事していなかったところ、Bの上記各発言は、Xに執務場所も、デスクワークの仕事も与えずに、X自ら仕事を探すことを求めるものであり、人間関係から切り離して隔離したり、過小な要求をしたりするなどして、不当な心理的圧力を加えるものである
そうすると、Bが行った本件退職勧奨は、違法、不当なパワハラ行為であると認められる。

2 本件駐車場管理命令は、本件病院の駐車場の管理、植栽、施肥、草引き(除草作業)、清掃作業、駐車料金の回収等の業務を行うことを命ずるものであるところ、①Xが経歴や資格を見込まれた管理職候補として採用されており、Xがこれまで現業に従事した経歴がなかったこと、②Y社では、平成26年2月以前から、総務課職員が、駐車場の料金の回収は行っていたものの、除草作業や清掃作業等は行っていなかったことからすれば、本件駐車場管理命令は、業務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた仕事を命じるものであり、違法、不当なパワハラ行為であったといえる

3 Aらのパワハラ行為があったと認められること、証拠によれば、Xの主治医であるB医師が、Aらのパワハラ行為によって適応障害を発症した旨詳細な意見書を作成しており、その信用性を疑わせる事情がないことからすれば、Xの上記主張を認めることができる。
そうすると、Xの適応障害は、労働基準法19条の定める「業務上の疾病」にあたり、被告公社によるXの退職扱いは解雇制限を定める同条に反し、無効であるから、Xは,Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にある。

上記判例のポイント2の視点は押さえておきましょう。

従業員の資質・経歴からして、業務上の合理性のない業務命令や配置転換等をすると違法と判断される可能性がありますので注意しましょう。

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セクハラ・パワハラ42 休職期間満了に伴う復職の可否の判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、パワハラに基づく損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

ビーピーカストロール事件(大阪地裁平成30年3月29日・労判ジャーナル76号40頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社に在籍中、上司Aからパワーハラスメントの被害を受けたとして、Y社及び上司Aに対し、不法行為に基づき、慰謝料等を請求し、また、上司Aのパワハラによってうつ病を発症し、会社を休職しており、その後に復職できる状況となったが、Y社が職場環境調整義務を怠ったため、復職をすることができず賃金相当額の損害が毎月発生しているとして、不法行為に基づき、賃金相当損害金を請求し、さらに、復職の許可を受けたものの会社に復職しなかったことを理由にY社から解雇されたが、Xが、Y社が職場環境調整義務を怠ったため復職できなかったものであり、当該解雇は無効であるとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を請求した事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 休職期間中であった従業員が復職するに際しては、使用者においては、復職のための環境整備等の適切な対応を取ることが求められるが、もっとも、その個別具体的な内容については、法令等で明確に定められているものではなく、使用者が事業場の実情等に応じて、個別に対応していくべきものといえるところ、Xについて、一応の業務軽減が図られていること、Xは、直行直帰を主たる勤務形態とする営業担当従業員であり、業務の遂行はX自身の判断で調整可能であったこと、d支店における営業担当従業員の業務が特に負担の重い業務であるとまではいえず、Xが休職中は、4名で行っていた業務を3名で対処できていたこと、取引先に対し、同行しての引継は予定されていなかったが、平成28年5月17日のやり取りからすれば、Xが同行しての引継を求めれば、上司も対応する余地があったと考えられ、このような措置が取られなかったのは、Xからの要望がなかったためであること等から、本件において、Y社において、法的義務に違反したとまでは認められない。

2 Xは、休職期間満了後も会社に出勤せず、Y社は、再三にわたって出勤を求め、欠勤を続けた場合は解雇とすることもあり得ることまで明示したものの、Xは出勤しなかったものであり、かかる行為は、Y社の就業規則における解雇事由に該当し、そして、労務の提供は、労働契約における労働者の中核をなす債務であるところ、Xは自らの意思でそれを行わず、しかもその期間が半年以上の長期にわたっていること等の本件の事情を総合すれば、本件においてY社がした解雇が解雇権を濫用したものとは認められないから、本件解雇は有効である。

休職期間満了後の復職に関する問題です。

会社としてどのような対応をとるべきかについてはなかなか判断が難しいと思いますので、弁護士と方針について検討しながら進めていきましょう。

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セクハラ・パワハラ41 職場環境配慮義務違反が否定されるために求められる具体的内容(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、自死した亡従業員の会社等に対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

関西ケーズデンキ事件(大津地裁平成30年5月24日・労判ジャーナル77号22頁)

【事案の概要】

本件は、亡従業員Xの遺族らが、Xが勤務していたY社運営の本件店舗の店長が、Xに対し、注意書の徴求、競合店舗の価格調査の強要等のパワハラを行ったことにより、同人が自死したとして、店長には不法行為が成立し、また、店長の使用者であるY社には使用者責任又は安全配慮義務違反を原因とする債務不履行が成立すると主張し、Xの遺族らが、店長に対しては不法行為に基づき、Y社に対しては主位的に使用者責任に基づき損害賠償金約3508万円等の連帯支払を求め、Y社に対して予備的に債務不履行に基づき、損害賠償金同額の損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

慰謝料100万円を認容

【判例のポイント】

1 店長がXに本件配置換えについての意向を打診した際に説明した価格調査業務の内容は、Y社の親会社であるA社が編成するマーケットリサーチプロジェクトチームの業務内容に匹敵する業務量であるにもかかわらず、これをフルタイムで勤務する時給制の非正規雇用労働者1人が地域で競合する1店舗のみに専従するという意味において、極めて特異な内容のものであり、たとえ、店長に、Xに対して積極的に嫌がらせをし、あるいは、本店店舗を辞めさせる意図まではなかったとしても、本件配置換えの結果、Xに対して過重な内容の業務を強いることになり、この業務に強い忌避感を示すXに強い精神的苦痛を与えることになるとの認識に欠けるところはなかったというべきであるから、店長による本件配置換え指示は、Xに対し、業務の適正な範囲を超えた過重なものであって、強い精神的苦痛を与える業務に従事することを求める行為であるという意味で、不法行為に該当すると評価するのが相当であるから、Xに対する店長の行為のうち、本件配置換え指示については、Xに対する不法行為を構成する。

2 Y社においては、店長等の管理職従業員に対してパワハラの防止についての研修を行っていることパワハラに関する相談窓口を人事部及び労働組合に設置した上でこれを周知するなど、パワハラ防止の啓蒙活動、注意喚起を行っていることが認められるし、本件においても、Xは店長からの本件配置換え指示について、パワハラに関する相談窓口となっているY社労働組合の書記長に対して相談したところ、書記長は、これを受けて部長に対して本件配置換えを実行させないように指示されたいとの連絡をしているのであって、Y社における相談窓口が実質的に機能していたことも認められるから、Y社としては、パワハラを防止するための施策を講じるとともに、パワハラ被害を救済するための従業員からの相談対応の体制も整えていたと認めるのが相当であるから、Y社の職場環境配慮義務違反を認めることはできない

たとえ、積極的に嫌がらせをする意図まではなかったとしても、不法行為に該当することは当然あり得ます。

また、ハラスメントに対する対応策については、上記判例のポイント2が参考になります。

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セクハラ・パワハラ40 セクハラを理由とする懲戒解雇と相当性要件(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、女子大教授のセクハラに基づく懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人渡辺学園事件(東京地裁平成29年10月20日・労判ジャーナル73号28頁)

【事案の概要】

本件は、女子大学を経営する学校法人であるY社の男性である元教授Xが、女性職員や女子生徒に対して性的な発言等のセクシャル・ハラスメント等をしたことを懲戒事由として懲戒解雇されたことから、Y社に対し、本件懲戒解雇は懲戒事由の事実を欠き又は懲戒権を濫用したものとして無効であるなどと主張して、労働契約上の地位の確認、賃金、賞与、不当解雇による慰謝料300万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

賃金一部認容

賞与認容

慰謝料請求は棄却

【判例のポイント】

1 Y社が主張する懲戒事由のうち、懲戒事由に該当する行為の存在とハラスメントの該当性が認められるものは懲戒事由(10)(Xが、Aなど特定の女性職員に対する呼びかけやメールなどで、下の名前で呼び捨て、あるいは様付けで呼び、また「東方三美人」等と呼称したこと)のみであって、懲戒事由(1)から(9)まで及び(11)は行為の存在が認められないか又は行為があってもハラスメントに当たるとは認め難く、そして、懲戒事由(10)がそれほど悪質なものとはいえないこと、Xにこれまで懲戒処分歴はないことに照らすと、懲戒解雇は重きに失し、相当性が認められないから、本件懲戒解雇は無効である。

2 Y社と教職員組合の協議の結果、Y社の教職員の平成27年度賞与は、俸給を基にした一定の計算式で算出された額を支給され、以降の賞与も同程度であったと認められるから、Xは、Y社に対し、・・・の賞与支払請求権を有している。

3 懲戒処分された労働者が被る精神的損害は、当該懲戒処分が無効であることを確認され、懲戒処分中の賃金が支払われることにより慰謝されるのが通常であり、これによってもなお償えない特段の精神的損害を生じた事実が認められる時に初めて慰謝料請求権が発生するところ、Xには懲戒事由に該当する事実が存在することを考慮すると、本件において、上記特段の精神的苦痛を生じた事実は認められないから、Xの慰謝料請求は理由がない。

めずらしく賞与請求が認容されています。

それはさておき、上記判例のポイント1のように、たくさんのハラスメント行為を列挙しても、それらが違法性を有する程重大なものかを冷静に判断しなければなりません。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ39 パワハラによるうつ病発症と慰謝料額(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、パワハラに基づく元上司と会社に対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

東建コーポレーション事件(名古屋地裁平成29年12月5日・労判ジャーナル72号25頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社において元上司Aからパワーハラスメント行為を受け、うつ病となり、退職を余儀なくされたなどと主張して、Aに対し不法行為に基づく損害賠償として、Y社に対し使用者責任又は安全配慮義務違反の債務不履行責任に基づく損害賠償として、約752万円等の連帯支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 Aの言動は、Xに対する嫌がらせ、いじめ、あるいは過大な要求と捉えざるを得ないものであって、強度の心理的負担をXに与えていたといえ、そして、Xは、平成26年3月頃から、手先のしびれと震え、倦怠感、記憶の不安定がみられるようになって内科を受診し、さらには同年5月以降、精神科を受診して同年4月頃にうつ病を発症したと診断され、休職に至ったものであり、上記の経緯と照らし合わせても、Xは、Aの言動によって同月頃にはうつ病を発症し、休職に至ったものといえ、本件パワハラ行為のころ、Xは家庭内で妻と別々に過ごす時間が多くなっていた事実が認められるが、これが深刻なものであったことをうかがわせる事情は見当たらず、これがXのうつ病発症の原因となったとは認められないから、Aの本件パワハラ行為一覧表記載の一連の言動は、Xに対するパワハラ行為といえ、不法行為を構成するものというべきである。

2 XがY社に入社した時点において、Aには既に他の従業員に対する威圧的な言動が時にみられたところであるが、そのようなAに対する指導等が本件パワハラ行為以前にされた形跡はうかがわれないこと、AのXに対する本件パワハラ行為について、他の従業員が相談窓口に連絡した形跡もうかがわれず、抜き打ち調査等でも把握されなかったことなどに照らすと、Y社の前記措置は、実際には必ずしも奏功しているものではなく、実際にAの本件パワハラ行為が数箇月にわたって継続していたことからしても、Y社は、Aの選任、監督につき相当の注意をしたとはいえないものというべきであるから、Y社は、Xに対し、Aのした本件パワハラ行為について使用者責任を負い、Aと連帯して損害賠償義務を負う。

3 ・・・本件パワハラ行為により、Xは就労困難なうつ病に罹患したものであって、その程度は決して軽いものではなく、Y社はXが休むようになった平成26年6月以降、本件パワハラ行為等について調査を行うなど一定の対応をしているとはいえるものの、労災認定がされるまではこれをパワハラとは判断しなかったものであって、結果的にその対応は十分なものであったとはいえず、また、Aについても、現在に至るまでXに対し特段の対応をしていないこと等から、本件パワハラ行為によりXに生じた精神的苦痛を慰謝するための慰謝料の金額は、100万円を下らない。

ハラスメント事案における会社の対応方法については、各社でしっかり手順を理解しておくことは必須です。

事前の予防と事後の対応をしっかり準備しておきましょう。

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セクハラ・パワハラ39 グループ会社の就労者に対する相談体制整備・対応義務の有無(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、グループ会社の就労者に対する相談体制整備と信義則上の対応義務に関する判例を見てみましょう。

イビデン事件(最高裁平成30年2月15日・ジュリ1517号4頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の子会社の契約社員としてY社の事業場内で就労していたXが、同じ事業場内で就労していた他の子会社の従業員Aから、繰り返し交際を要求され、自宅に押し掛けられるなどしたことにつき、国内外の法令、定款、社内規程及び企業倫理の遵守に関する社員行動基準を定め、自社及び子会社等から成る企業集団の業務の適正等を確保するための体制を整備していたY社において、上記体制を整備したことによる相応の措置を講ずるなどの信義則上の義務に違反したと主張して、Y社に対し、債務不履行又は不法行為に基づき、損害賠償を求める事案である。

原審は、上記事実関係等の下において、要旨次のとおり判断し、Y社に対する債務不履行に基づく損害賠償請求を一部認容した。
(1)従業員Aは、本件行為につき、不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
また、勤務先会社は、Xに対する雇用契約上の付随義務として、使用者が就業環境に関して労働者からの相談に応じて適切に対応すべき義務を負うところ、課長らは、Xから本件行為1について相
談を受けたにもかかわらず、これに関する事実確認や事後の措置を行うなどの対応をしなかったのであり、これによりXが勤務先会社を退職することを余儀なくさせている。そうすると、勤務先会社は、本件行為1につき、課長らがXに対する本件付随義務を怠ったことを理由として、債務不履行に基づく損害賠償責任を負う。

(2)Y社は、法令等の遵守に関する社員行動基準を定め、本件相談窓口を含む本件法令遵守体制を整備したことからすると、人的、物的、資本的に一体といえる本件グループ会社の全従業員に対して、直接又はその所属する各グループ会社を通じて相応の措置を講ずべき信義則上の義務を負うものというべきである。
これを本件についてみると、Xを雇用していた勤務先会社において、上記(1)のとおり本件付随義務に基づく対応を怠っている以上、Y社は、上記信義則上の義務を履行しなかったと認められる。また、Y社自身においても、平成23年10月、従業員BがXのために本件相談窓口に対し、本件行為2につきXに対する事実確認等の対応を求めたにもかかわらず、Y社の担当者がこれを怠ったことによりXの恐怖と不安を解消させなかったことが認められる。
以上によれば、Y社は、Xに対し、本件行為につき、上記信義則上の義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償責任を負うべきものと解される。

【裁判所の判断】

破棄自判
→原判決中Y社敗訴部分を破棄する。
前項の部分につき、Xの控訴を棄却する。

【判例のポイント】

1 Xは、勤務先会社に雇用され、本件工場における業務に従事するに当たり、勤務先会社の指揮監督の下で労務を提供していたというのであり、Y社は、本件当時、法令等の遵守に関する社員行動基準を定め、本件法令遵守体制を整備していたものの、Xに対しその指揮監督権を行使する立場にあったとか、Xから実質的に労務の提供を受ける関係にあったとみるべき事情はないというべきである。また、Y社において整備した本件法令遵守体制の仕組みの具体的内容が、勤務先会社が使用者として負うべき雇用契約上の付随義務をY社自らが履行し又はY社の直接間接の指揮監督の下で勤務先会社に履行させるものであったとみるべき事情はうかがわれない。
以上によれば、Y社は、自ら又はXの使用者である勤務先会社を通じて本件付随義務を履行する義務を負うものということはできず、勤務先会社が本件付随義務に基づく対応を怠ったことのみをもって、Y社のXに対する信義則上の義務違反があったものとすることはできない

2 もっとも、・・・Y社は、本件当時、本件法令遵守体制の一環として、本件グループ会社の事業場内で就労する者から法令等の遵守に関する相談を受ける本件相談窓口制度を設け、上記の者に対し、本件相談窓口制度を周知してその利用を促し、現に本件相談窓口における相談への対応を行っていたものである。その趣旨は、本件グループ会社から成る企業集団の業務の適正の確保等を目的として、本件相談窓口における相談への対応を通じて、本件グループ会社の業務に関して生じる可能性がある法令等に違反する行為を予防し、又は現に生じた法令等違反行為に対処することにあると解される。
これらのことに照らすと、本件グループ会社の事業場内で就労した際に、法令等違反行為によって被害を受けた従業員等が、本件相談窓口に対しその旨の相談の申出をすれば、Y社は、相応の対応をするよう努めることが想定されていたものといえ、上記申出の具体的状況いかんによっては、当該申出をした者に対し、当該申出を受け、体制として整備された仕組みの内容、当該申出に係る相談の内容等に応じて適切に対応すべき信義則上の義務を負う場合があると解される。
これを本件についてみると、Xが本件行為1について本件相談窓口に対する相談の申出をしたなどの事情がうかがわれないことに照らすと、Y社は、本件行為1につき、本件相談窓口に対する相談の申出をしていないXとの関係において、上記の義務を負うものではない。

3 また,・・・Y社は、平成23年10月、本件相談窓口において、従業員BからXのためとして本件行為2に関する相談の申出を受け、発注会社及び勤務先会社に依頼して従業員Aその他の関係者の聞き取り調査を行わせるなどしたものである。
本件申出は、Y社に対し、Xに対する事実確認等の対応を求めるというものであったが、本件法令遵守体制の仕組みの具体的内容が、Y社において本件相談窓口に対する相談の申出をした者の求める対応をすべきとするものであったとはうかがわれない。
本件申出に係る相談の内容も、Xが退職した後に本件グループ会社の事業場外で行われた行為に関するものであり、従業員Aの職務執行に直接関係するものとはうかがわれない。
しかも、本件申出の当時、Xは、既に従業員Aと同じ職場では就労しておらず、本件行為2が行われてから8箇月以上経過していた。
したがって、Y社において本件申出の際に求められたXに対する事実確認等の対応をしなかったことをもって、Y社のXに対する損害賠償責任を生じさせることとなる上記の義務違反があったものとすることはできない

一般論として応用可能性があるのは、上記判例のポイント2の部分です。

本件同様の制度をつくった場合には、つくりっぱなしにせず、適切に運用していくことが求められます。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ38 セクハラと慰謝料の金額(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、市議会議員のセクハラに対する職員の損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

市議会議員(セクハラ)事件(宇都宮地裁平成29年10月25日・労判ジャーナル71号26頁)

【事案の概要】

本件は、小山市の職員が、同市議会議員から、議員や同議会事務局職員などが参加する懇親会において、議員の席の隣に職員が座っていた際に、背中全体をなでるように触られたり、耳元に口を近づけたりされた、ステージ上でデュエットをする際に、職員の体を議員の方に引き寄せられ、職員の耳元に口を近づけたりされた、同懇親会終了後に電話で男女関係を強要されたなどのセクハラを受けたと主張して、議員に対し不法行為に基づく慰謝料200万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

慰謝料30万円を認容

【判例のポイント】

1 事実1(議員が、本件懇親会において、議員の席の隣に座って選曲のためにカラオケの本を見ていた職員に対し、職員の背中や腰に手を回したり、背中全体をなでるように触ったり、職員の耳元に口を近づけたりした事実)は認められるが、事実2(議員が、本件懇親会において、職員と議員のデュエット中に、職員の体を議員のほうに引き寄せ、職員の耳元に口を近づけてきた事実)及び事実3(議員が、本件懇親会の終了後、職員に対し、電話で「俺の女になってくれ」などと言った事実)は認められず、事実1が職員の意に反して行われたことは、行為のとき職員が背中をそらすなどして不快感を示していることや本件懇親会後あまり期間が経過していない時期に他の職員や弁護士に話をしていることなどから明らかであり、事実1の行為は、相手の意に反する深いな性的言動と認められ、セクハラに該当するものであり、これは職員の性的自由ないし人格権を侵害するものであるから、不法行為が成立し、このような議員の職員に対するセクハラの態様・程度、職員がその後不安障害になったと診断されていること等から、職員が被った精神的苦痛を慰謝する金額は30万円をもって相当と判断する。

一般的なハラスメント事案については、裁判所は多額の慰謝料を認めてくれません。

ハラスメント事案については、そもそもそのような事実が存在したのか自体が争われることもあるため、原告としてはどのようにして立証するかを提訴前に十分検討しなければなりません。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ37 懲戒処分の事情聴取の方法が違法と判断される場合とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、懲戒処分及び異動の処分無効確認請求と会社の使用者責任に関する裁判例を見てみましょう。

京王電鉄バス事件(東京地裁平成29年3月10日・労判ジャーナル70号52頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社での勤務中、Y社から受けた懲戒及び異動の処分並びにこれらに関連する調査等の措置が違法なものであったと主張して、懲戒処分又は使用者責任に基づき損害賠償金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒処分の無効確認請求は却下

Y社及びAに対する慰謝料等支払請求を一部認容(10万円)

【判例のポイント】

1 Xは、既にY社を退職し、XとY社との間の雇用関係は解消されているから、本件降職の効力の存否は、もはやXとY社との間の雇用関係上の権利義務又は法律関係に影響を及ぼすことはなく、Y社及び上司だったAに対する不法行為等に基づく損害賠償請求権に関しては、まさに本件訴訟で請求されているように現在の権利に関する給付の訴えによることで足り、その請求原因事実に関連する過去の法律行為の効力の存否に関する確認の訴えによる必要はなく、名誉回復のための民法723条に基づく原状回復措置の請求は給付の訴えにほかならず、確認の訴えの利益を基礎づけるものではないこと等から、本件訴えのうち本件降職の無効確認を求める請求の部分は、確認の訴えの利益を欠き、不適法であり、却下すべきである。

2 本件降職及び本件異動は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上も相当なもので、不法行為が成立する違法性はないが、ただし、Aは、事情聴取で真実を供述させようとするあまり、又は1通で事実関係を網羅した顛末書を作成しようとすることにこだわり過ぎて妥当性に疑問のある大半は同じ文章を繰り返す顛末書及び始末書の作成を続けさせている状況下で、Xにとってかなり不利益が危惧される下車勤務、事情聴取又は顛末書等作成指示が際限なく継続する意思を告知する脅迫的な要素のある発言をしており、この発言で、社会通念上相当な範囲を超えて、Xの心理的平穏を違法に害し、Xには精神的苦痛が生じて損害が発生しているものと推認されるから、この限度で不法行為の成立を免れないというべきであり、このAの不法行為は、高速バスセンター所長の立場におけるY社の事業の執行についてのものであるから、Y社も使用者責任を免れず、心理的平穏を害されたことによるXの精神的苦痛を慰謝するに要する慰謝料は金10万円とすることが相当である。

上記判例のポイント2は参考にしてください。

慰謝料額はわずかですが、事情聴取で度を越したやり方をすると違法行為になり得ることを頭に入れておきましょう。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

セクハラ・パワハラ36 パワハラ・セクハラを理由とする懲戒解雇と相当性判断(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、パワハラ・セクハラを理由とした懲戒解雇処分が無効とされた裁判例を見てみましょう。

国立大学法人甲大学事件(前橋地裁平成29年10月4日・労経速2329号9頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社によるXのパワーハラスメント及びセクシュアルハラスメント等を理由とする解雇は無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、賃金請求として平成27年1月1日から毎月17日限り58万1975円、期末手当及び勤勉手当の支払請求として平成26年12月10日から毎年6月30日限り114万6249円、毎年12月10日限り79万8393円及びこれらに対する各支払日の翌日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め、さらに、Y社がXに対する諭旨解雇処分を懲戒解雇処分に強行的に切り替えた行為により、意思決定の機会を奪われ、精神的損害を被ったと主張して、Y社に対し、民法709条に基づく損害賠償請求として、慰謝料100万円及びこれに対する不法行為の日である同年11月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

1 Xが、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
 本件訴えのうち、本判決確定の日の翌日から毎月17日限り58万1975円及びこれらに対する各支払日の翌日から各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める部分、本判決確定の日の翌日から毎年6月30日限り114万6249円及びこれらに対する各支払日の翌日から各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める部分並びに本判決確定の日の翌日から毎年12月10日限り79万8393円及びこれらに対する各支払日の翌日から各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める部分をいずれも却下する。
 Y社は、Xに対し、平成27年1月1日から本判決確定の日まで毎月17日限り58万1975円及びこれらに対する各支払日の翌日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
 Y社は、Xに対し、15万円及びこれに対する平成26年11月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

【判例のポイント】

1 ・・・以上によれば、本件懲戒解雇は、同日の時点では、Xが退職願の提出の「勧告に応じない」と断定できないにもかかわらず行われたものであり、解雇手続が就業規則45条1項2号の規定に違反した違法な処分であると言わざるを得ない
もっとも、解雇手続に違法があっても、Xを諭旨解雇を経ずに直ちに懲戒解雇とすることが相当であるといえるだけの悪質な、あるいは多数の懲戒事由が認められるとか、既に諭旨解雇に応じるか否か検討する十分な時間を与えられていたなどの特段の事情があり、軽微な違法にとどまる場合には懲戒解雇は有効と解するのが相当である
本件懲戒解雇においては、そもそも全く懲戒事由が存在しないのに懲戒解雇したというような場合ではなく、諭旨解雇から懲戒解雇への切替えが不相当であったに留まる。諭旨解雇か懲戒解雇かにより、退職金の支給の有無などの経済的待遇の違いが生じる余地はあっても、いずれにしても、Y社の教職員としての地位を喪失させる処分という点では異なるところはない。
したがって、Y社としては、Xが勧告に応じれば諭旨解雇として、勧告に応じなければ懲戒解雇として、XのY社の教職員としての地位を喪失させる処分をするという結論自体に変わりはなかったものである。そうすると、平成26年11月20日の本件懲戒解雇の手続が違法であったとしても、Y社は、Xが諭旨解雇の勧告に応じるのに十分な時間が経過した後、日時を改めて、懲戒解雇することになるだけであるから、本件懲戒解雇における手続的瑕疵は軽微なものであったというべきである。

2 Xは、訴訟の段階で平成25年8月29日に行われたXを対象者として行われた聞き取り調査の結果であるハラスメントに係る事実確認調査書に記録されていない事実を懲戒事由として事後的に追加することは許されず、Y社が本件懲戒解雇の懲戒事由として主張できるのは、処分説明書に処分事由として記載されている限度にすぎないと主張する。
確かに、使用者が労働者に対して行う懲戒は、労働者の企業秩序違反行為を理由として、一種の秩序罰を課するものであるから、具体的な懲戒の適否は、その理由とされた非違行為との関係において判断されるべきものである。したがって、懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情のない限り、当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから、その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできない(最高裁判所平成8年9月26日第一小法廷判決・集民180号473号)。
もっとも、懲戒当時に使用者が認識していた非違行為については、それが、たとえ懲戒解雇の際の処分説明書に記載されていなかったとしても、処分説明書に記載された非違行為と実質的に同一性を有し、あるいは同種若しくは同じ類型に属すると認められるもの又は密接な関連性を有するものである場合には、それをもって当該懲戒の有効性を根拠付けることができると解するのが相当である。
前記のとおり、Y社は、平成25年8月6日以降、J助教、C講師、K助教及びE研究員からXの言動に関する申述書の提出を受け、また、同月29日以降、X、B講師ら5名及びE研究員に対して、それぞれ聞き取り調査を行っているところ、Y社主張欄記載のハラスメントは、いずれもY社が上記各手続により認識するに至った行為であるということができ、処分説明書に記載された非違行為と実質的に同一性を有し、あるいは同種若しくは同じ類型に属すると認められるもの又は密接な関連性を有するものであるということができる。よって、別紙主張証拠対照表のY社主張欄記載のハラスメントは、いずれも本件懲戒解雇の有効性を根拠付けることができるというべきであり、Xの上記主張は採用できない。

3 確かに、Xは、本件教室の教授という立場にありながら、本件教室の構成員であるC講師、J助教、K助教に対し、複数回にわたってパワーハラスメント及びセクシュアルハラスメントを行ったものであり、その他にもXのB講師ら5名に対する言動は、直ちに懲戒事由に該当するものではないとしても不適切といわざるを得ないものが相当程度含まれていることは既に説示したとおりである。Xが平成24年11月1日付けで本件教室に着任してから平成26年11月20日に本件懲戒解雇がなされるまで、E研究員を除く全ての構成員が退職ないし異動をしており、B講師、C講師、J助教及びK助教が何らかの精神疾患に罹患する結果に至っていることは決して軽視できるものではない
しかし、前記で説示のとおり、本件で提出された証拠によっては、Y社が主張する非違事由のほとんどが懲戒事由に該当するものとは認められないものであり、Xの懲戒事由に該当するハラスメントの内容及び回数は限定的である。その上、Xのパワーハラスメントはいずれも業務の適正な範囲を超えるものであるものの業務上の必要性を全く欠くものとはいい難いし、また、Xのセクシュアルハラスメントが殊更に嫌がらせをする目的に基づいてなされたものとはいえないことからすれば、Xのハラスメント等の悪質性が高いとはいい難い。また、C講師が、平成24年5月12日に起立性調節障害、不安緊張状態の診断を受けた後、欠勤を余儀なくされたような事情はないし、K助教は、平成25年5月16日、神経症により約2週間の自宅療養を要する旨の診断を受け、欠勤するに至っているものの、証人尋問においては、欠勤した理由について、医師から「病欠をすることで相手の出方が変わるかもしれないし、とりあえず一度様子をみてはどうか」と言われた旨を供述しており、神経症により直ちに就労が制限される状態であったということができないことも考慮すべきである。さらに、Xは、過去に懲戒処分を受けたことがあることをうかがわせる事情はないし、本人ヒアリング結果等において、ハラスメントの一部を認め、反省の意思を示していたことも認められる。
そうすると、教職員に対する懲戒処分として最も重い処分であり、即時に労働者としての地位を失い、大きな経済的及び社会的損失を伴う懲戒解雇とすることは、上記懲戒事由との関係では均衡を欠き、社会通念上相当性を欠くといわざるを得ない

相当性の判断で拾われていますね。

担当する裁判官によっては解雇を有効とする可能性もあるのではないでしょうか。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。