Category Archives: 解雇

解雇212(東京アメリカンクラブ事件)

おはようございます。

今日は、懲戒解雇が無効とされ、未払賃金請求が一部認められた事案を見てみましょう。

東京アメリカンクラブ事件(東京地裁平成28年4月27日・労判ジャーナル53号29頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結した元従業員Xが、Y社に対し、①懲戒解雇が無効であると主張して、雇用契約上の地位確認及び賃金請求件に基づき未払賃金・賞与及び遅延損害金の支払を求め、②時間外労働をしたと主張して、賃金請求件に基づき割増賃金及び遅延損害金の支払を求め、③②についての付加金及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

また、反訴として、Y社は、Xに対し、賃金の過払い、通勤手当の不正受給があり、Xが悪意の受益者であると主張して、不当利得に基づく利得金返還請求権に基づき利得金等の支払を求めた。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

未払賃金請求は一部認容

付加金請求は棄却

不当利得返還請求は棄却

【判例のポイント】

1 有期雇用契約である本件雇用契約が契約期間の途中でされた本件懲戒解雇には、「やむを得ない事由」(労働契約法17条)が必要とされるところ、本件店舗の商品であるビールを飲酒したという職場規律違反を内容とする本件非違行為により、Xが担当する調理業務に支障が生じたことを認めるに足りる証拠はなく、Xの調理技術が高く、業績評価において数回、5段階評価で上から2番目の評価であるE評価を取得していること、Xには懲戒歴がなく、これまで飲酒行為について注意・指導を受けたことがないこと、Xと同様に、勤務時間中に飲酒したA及びBが3か月の賃金相当額の支払を受けて依願退職したが、懲戒処分を受けていないこと等の事情に照らすと、本件懲戒解雇は不当に重い処分であり、本件雇用契約を即時に解消しなければならない程度の「やむを得ない事由」があるということはできないから、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないから、権利を濫用したものとして無効であるというべきである。

2 Y社が本件本件訴訟提起後の和解において、割増賃金を含む相応金額を支払う姿勢を示していたこと、その他本件に顕れた事情を総合考慮すると、Y社に対し付加金の支払を命じるのは相当でないというべきである。

有期雇用契約で期間途中で解雇する場合には、「やむを得ない事由」が必要になります。

つまり、無期雇用で解雇する場合よりも要件がさらに厳しくなるわけです。

店舗の商品であるビールを飲酒したことは決していいことではありませんが、それをもって期間途中で懲戒解雇は、やはり処分としては重きに失すると判断されてしまいます。

解雇の理由があると思っても、相当性の要件がありますので、ご注意ください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇211(あじあ行政書士法人事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、解雇無効に基づく逸失利益についての損害賠償請求が一部認められた裁判例を見てみましょう。

あじあ行政書士法人事件(東京地裁平成28年4月20日・労判ジャーナル53号35頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員が、Y社から不当に解雇されたとして、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、上記解雇が不法行為に当たるとして、500万円の損害賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

地位確認等請求は棄却

損害賠償請求は一部認容

【判例のポイント】

1 本件雇用契約には6か月間の試用期間の定めがあり、解約権留保付労働契約とみるべきであるから、試用期間中にした本件解雇は、かかる留保解約権を行使した趣旨と認められるところ、本件解雇は、元従業員の入社後わずか2週間ほどでされたものであり、その解雇理由として挙げる元従業員の営業活動の実態といった点に対しても十分な事実確認、注意指導等を与えた経過が認められず、その他の解雇理由も、およそこのような時期に解雇(留保解約権の行使)を即断するに足りるような事情には当たらないのであって、これら本件解雇の時期、理由、経緯等に照らせば、本件解雇は、元従業員の労働者としての権利を不当に侵害する態様でされた違法なものというべきであり、かつ、Y社においてその点に故意・過失があるものというべきであるから、Y社は、本件解雇について不法行為責任を負い、元従業員に対し、本件解雇により生じた損害を賠償すべき責任を負うものと解するのが相当である。

2 Xは、ハローワークお求人票に月収が14万6000円から60万円と幅のある記載がされていたことから、入社後に自分の仕事ぶりや成果を踏まえて交渉し、50万円ほどの月収を得られるものと期待して入社したこと、仮に6か月間の試用期間中、変わらず月額20万円程度の賃金しか支払われないのであれば、試用期間経過後には自己の売上額の4分の1程度まで月収が上がる仕組みだったとしても、そのような条件でY社の下で働き続ける意思はなく、いずれにしても早期に退職する意向であったことが認められるのであって、そうだとすれば、Xに真にY社の下で就労する意思があるものとは認められないから、Xの上記地位確認請求は理由がないものといわざるを得ない

3 Xは、試用期間中の賃金が月額20万円程度にしかならないのであれば早期に退職する意向であったものであるから、仮に本件解雇がされなかったとしても、元従業員は2か月ほど勤務を続けた時点(最初の賃金を支給される頃)でY社を退職していた蓋然性が高いというべきであるところ、Xは、Y社から、在職中の賃金として10万7500円の支払いを受けていることが認められるから、逸失利益を算出するに当たっては上記受領済みの額を控除すべきであるから、本件解雇と相当因果関係のある元従業員の逸失利益の額は、・・・29万2500円と認められる。

解雇自体は違法だとしつつも、XにY社で継続的に就労する意思がないと認定し、わずかな金額だけを損害として認定した事案です。

解雇事案において、労働者の就労の意思が争点となることは珍しくありませんので、是非参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇210(野村證券事件)

おはようございます。

今日は、名誉等の毀損、顧客情報漏えいを理由とする懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

野村證券事件(東京地裁平成28年2月26日・労判1136号32頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社に対し、Y社による平成24年6月29日付け懲戒解雇は無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、労働契約に基づき、平成24年7月1日から同月31日までの間の月例賃金の残金(116万7000円から解雇予告手当として支給された98万9500円を控除した17万7500円。)、同年8月1日以降の月例賃金及び平成25年以降の賞与+遅延損害金の各支払を求め、また、上記懲戒解雇がXに対する不法行為を構成すると主張して、民法709条に基づき、慰謝料1000万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

 Xが、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 Y社は、Xに対し、17万7500円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、Xに対し、平成24年8月以降、本判決確定の日まで、毎月10日限り116万7000円+遅延損害金を支払え。
4 Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 以上のとおり、Y社の主張する懲戒事由のうち、第1懲戒事由については、Y社が援用する就業規則42条11号及び20号所定の懲戒事由に該当するものとは認められないが、第2懲戒事由については、その一部(本件会話)が就業規則42条14号及び20号所定の懲戒事由に該当するものと認められる。
そこで、上記懲戒事由に基づいて懲戒解雇をすることが相当であると認められるか否かについて検討すると、次の事情を指摘することができる。
証拠によって認められる本件会話及びその前後の会話内容によれば、本件会話のうち、別紙(通話記録)のものは、XがBに対し、Y社の顧客に対して特定の銘柄の株式の購入を勧誘すべきか否かを相談する文脈でされたものであり、その余の会話は、XがBとの間で市場動向等について議論する文脈でされたものであると認められ、XとBが顧客情報の伝達それ自体を主たる目的として会話をしていたとは認められず、Xが情報提供の見返りに金銭その他の経済的利益を得ようとするなどの背信的な意図を有していたとも認められない
証拠によれば、本件会話のうち、別紙(通話記録)記載5ないし9の会話は、XがY社の情報端末を見ながら表示される顧客情報を次々に開示するというものであり、開示された顧客情報の内容も、取引金額を含む具体的なものと認められ、その態様及び内容に照らして軽視することのできない違反行為というべきであるが、これらの会話は1回の通話の機会に連続してされたものであり、このような態様及び内容の会話が複数の日に反復継続して行われたとまで認めるに足りる的確な証拠はない
・・・Y社がXに対し、本件懲戒解雇より前に顧客情報の漏えいについて注意、指導をし、あるいは訓戒、譴責等を含む懲戒処分をした旨の主張立証はない(Y社の就業規則には、懲戒解雇よりも軽い懲戒処分として、訓戒、譴責、減給、出勤停止、降格及び諭旨解雇が定められていることが認められる。)。
そして、Xは上記認定に係る顧客情報の漏えいをその所属する機関投資家営業二部の執務室において行っていたところ、同室の配席状況に照らすと、上記顧客情報の漏えいに係るXの発言は同室の上司及び同僚にも聞こえていたと考えられるのであり、それにもかかわらず、Xは、顧客情報の漏えいに当たる会話をしたとして注意や指導を受ける機会がないまま、突如として、懲戒処分の中で最も重い懲戒解雇処分を受けたものであった
Y社がXに対し、本件懲戒解雇に先立って、第2懲戒事由の具体的内容を開示してXの弁解を聴取する機会を設けた旨の主張立証はない。すなわち、Xは、第2懲戒事由との関係では、何ら弁解の機会を付与されることなく懲戒解雇処分を受けたものであった。
以上の事実関係の下において、本件会話を懲戒事由として、懲戒処分の中で最も重い懲戒解雇処分を行うことは、重きに失することが明らかというべきであり、また、本件懲戒解雇は、懲戒事由に該当すると認められる事実について弁解の機会を全く与えることなく行ったという点において、手続的にも妥当を欠くものであったといわざるを得ない。
したがって、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認めることができず、懲戒権を濫用したものとして、無効であるというべきである。

2 本件懲戒解雇は無効であるが、懲戒解雇が無効であることから直ちに不法行為が成立するものではなく、別途、不法行為の成立要件を充足するか否かを検討すべきである。
ここで、Xには、第1懲戒事由に関連して、証券会社の営業に携わる者として著しく不適切な行為があったものといわざるを得ず、当該行為は、いかなる懲戒処分をもって相当とするかは別として、それ自体が懲戒事由に該当する可能性を否定できないものである。また、第2懲戒事由の一部(本件会話)については、複数の機会になされ、その中には複数の顧客の具体的な取引内容を次々に明らかにするものも含まれているのであって、懲戒事由に該当し、その情状も決して軽視することのできない違反行為というべきものである
・・・以上によれば、本件懲戒解雇が、社会的相当性を逸脱し、不法行為法上違法の評価を受けるものとまでは認めるに足りないというべきであるし、また、不法行為の成立要件である違法な権利侵害についての故意、過失のいずれについても認めるに足りないともいうべきである。したがって、原告の被告に対する損害賠償請求は、理由がないということになる。

相当性の要件で助けられています。

懲戒解雇はハードルが高いですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇209(医療法人社団Y事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、看護師らに対する不適切な言動等を理由とする医師に対する解雇が有効とされた裁判例を見てみましょう。

医療法人社団Y事件(東京高裁平成27年10月7日・判時2287号118頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結し、Y社が運営する病院に医師として勤務していたXが、①Y社に解雇されたが、当該解雇は解雇権の濫用で無効であると主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、②解雇後本判決確定の日まで毎月の未払給与の支払、③平成24年12月支給分の賞与+遅延損害金、④時間外割増賃金+遅延損害金、⑤付加金+遅延損害金、⑥Y社による解雇によって精神的苦痛を被ったなどと主張して、不法行為に基づき、損害賠償+遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は、Y社に対し、時間外割増賃金56万3380円+遅延損害金並びに付加金11万2334円+遅延損害金の各支払を命じ、その余の請求をいずれも棄却した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Xは、自らの看護師に対する指示が曖昧ないし不適切なものであったにもかかわらず、これに従った看護師を叱責したり、申請書の記載に不備があってその訂正を求められていたにもかかわらず、申請どおりに処理しなかった担当社を厳しく責めるなど、自己の責任を顧みることなく、他人を責めたりしたこと、看護師や研修医を指導する立場にありながら、その指導において相手の人格を否定するような発言をしたり、有形力を行使するなど、指導の方法が不適切であったこと、また、看護学生や患者がいる場所で、看護師を怒鳴ったり、看護師と言い合うなど、看護学生や患者をいたずらに不安にさせ、Y社病院の信用を低下させるおそれのある行為をしたこと、そのため、看護師においてXに報告や指示内容の確認をするのをためらうといった状況を生み、良質な医療の提供の前提となる看護師との連携を著しく困難にさせ、業務遂行に大きな支障を生じさせたことが認められるのであり、このようなXの言動は、医療の提供というY社病院の中枢の業務の遂行を困難ならしめるものであり、就業規則に定める勧告退職事由である「職務上やむを得ない都合による場合」に該当するところ、Xは、退職届の提出を拒んだのであるから、就業規則に定める解雇事由である「退職届の提出を拒んだ場合」に該当すること、そして、本件解雇が客観的に合理性を欠き社会通念上相当性を欠くものということはできず、解雇権の濫用には当たらないことは、いずれも前記判断のとおりである。

2 本件雇用契約及び本件時間外規程に基づき、XとY社が、本件時間外規程に基づき支払われる時間外労働賃金及び当直手当以外の通常の時間外労働賃金については、年俸に含まれる旨を合意したものであり、上記合意に係る本件雇用契約及び本件時間外規程は有効と認めるのが相当である。

上記判例のポイント2は珍しい判断ですね。

固定残業制度に関するこれまでの判例の一般的な流れからは外れる判断のように見えます。

Xの職業や給与額が関係しているようですが、あくまで例外的な判断と位置付けるほうがよさそうです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇208(三菱重工業事件)

おはようございます。

今日は、現住所から通勤できる職場を求め復職を拒否した労働者に対する解雇が有効とした裁判例を見てみましょう。

三菱重工業事件(東京地裁平成28年1月26日・労経速2279号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され愛知県内の事業所で勤務していたXが、私傷病による欠勤の後、復職には同居の家族の支援が不可欠であるとして埼玉県内の現住所から通勤可能な場所での復職を求めたのに対し、Y社から原職場での復職を命じられたため出社を拒否したところ、解雇されたとして、Y社に対し、上記解雇が解雇権の濫用により無効であることに基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、Y社から就労開始可能と判断された平成25年9月1日以後の給与として同年10月から本判決確定に至るまで、毎月20日限り22万3500円+遅延損害金を求めている事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却
→解雇は有効

【判例のポイント】

1 今回の復職命令の目的、性質の観点から検討すると、今回の復職命令は、再出勤審査会の答申を受け、Y社の職場復帰支援制度に基づき、第1段階として実施される短時間勤務であり、第2段階では短時間勤務中の出勤率及び職場での業務状況等を評価して再出勤(フルタイムの通常勤務)の可否を判定するものであり、その目的・性質からすると、当初の短時間勤務はできるだけ負荷をかけないためにも、周囲の理解やサポートを得るためにも原職場が望ましく、また、判定のためにも従前の勤務状況との比較が必要であり、原職場に復職することが望ましいこと、名古屋製作所の過去の実例でも、他の事業所に復職した社員はいないことに照らせば、Y社の職場復帰支援制度も原職場で短時間勤務を開始することを予定しているものと解される

2 Xは、復職には同居の家族による生活全般の支援が不可欠であるとして現住所から通勤可能な勤務場所を求めているが、業務内容や勤務時間等の就業上の配慮はともかくとして、Xの食事、選択、金銭管理等の生活全般の支援をどうするかは本来的に家族内部で検討・解決すべき課題である。これまでに名古屋製作所で実施された職場復帰支援による短時間勤務の実例でも、家族の方で同居するか頻繁に行き来するなどして私生活をサポートしている。しかも、本件でXが挙げる理由は、Xの実姉が働いているのでその子供らの世話を実母がしなければならず、これに伴いXも転居できないので現住所から通勤できる勤務地を求めるというものであり、家庭内の事情を優先した形で企業側に対応を求めている

3 以上から、Xが現住所から通勤可能な勤務地での復職を申し出ても、債務の本旨に従った労務の提供を申し出ているとはいえず、また、この申し出に対してY社が就労の現実的可能性のある業務を調査・検討すべき義務があるともいえず、Y社が原職場での復職を命じた復職命令は相当である。

リハビリ出勤における上記判例のポイント1の考え方は参考になりますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇207(学校法人杉森学園事件)

おはようございます。

今日は、勤怠不良等を理由とする整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人杉森学園事件(福岡地裁平成27年7月29日・労判1132号76頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の設置・運営するY高校におけるA科の教諭としてY社に雇用されていたXが、Y社に対し、Y社が平成25年3月31日付でXに対してした整理解雇は無効であると主張して、①雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、②本件解雇後の賃金+遅延損害金の支払いを求めるとともに、③本件解雇はXに対する不法行為に当たると主張して、民法709条に基づき損害賠償金合計330万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効→賃金支払

不法行為に基づく損害賠償請求は棄却

【判例のポイント】

1 平成25年3月末時点におけるY社の経営状態は、不採算部門の廃止等を通じた経営合理化が図られるべき状況にはあったものの、整理解雇による人件費削減等をしない限り、直ちに経営破たんに陥ってしまうような危機的状況にあったとまではいうことができない。このような状況の下における整理解雇が正当化されるためには、相応の解雇回避措置が尽くされていなければならないというべきである。

2 Y社の採り得る解雇回避措置として、新規採用の停止、従業員の賃金の減額及び希望退職者の募集等の措置を挙げることができるところ、従業員の賃金の減額については、団体交渉の場において本件組合側からの提案がされており、また、希望退職者の募集については、本件解雇の後である平成25年7月にA科を含む複数の教科の教員について行われているにもかかわらず、Y社は、本件解雇前には、これらの措置を一切講じていない
Y社は、本件解雇に先立ち、一定程度の人件費削減を行い、また、Xに対して、退職金の割増しを条件とする退職勧奨もしているが、本件解雇の当時におけるY社の経営状態に鑑みれば、本件解雇が正当化されるためには、これらに止まらず、本件解雇に先立って、希望退職者募集等の相応の解雇回避措置が尽くされていなければならないというべきであるところ、本件において、Y社が十分な解雇回避措置を尽くしたと評価することはできない。

整理解雇の必要性が高くない状況においては、解雇回避努力の程度についてかなり厳しく見られることになります。

過去の判例を検討し、どの程度、解雇回避措置を講ずればよいのかを十分に検討する必要があります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇206(日本放送協会事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、アナウンス業務等の担当者に対する業務委託契約の解除が無効とされた裁判例を見てみましょう。

日本放送協会事件(東京地裁平成27年11月16日・労経速2274号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社によるフランス語のラジオ放送においてアナウンス業務等を担当していたXが、主位的に、Y社との間で労働契約を締結していたところ、東日本大震災に際して業務を行わなかったことを理由に不当に解雇されたと主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに(請求1)、上記労働契約及び不法行為責任に基づき、賃金及び損害賠償金の支払を求め(請求2、3)、予備的に、Y社との間の契約が業務委託契約であったとしても、その解除及び更新拒絶は無効であるとして、上記業務委託契約及び不法行為責任に基づき、業務委託料及び損害賠償金の支払を求めた(請求2、3)事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、514万3100円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xがその業務遂行の方法等についてY社の指示・指導等を受けていたとは認められず、Xは、依頼された業務を第三者に再依頼することも許されており、また、就業する際の時間的・場所的拘束の程度も緩やかであったことからすれば、XがY社の指揮監督下で労務を提供していたとはいえない
報酬の支払方法や公租公課の負担等をみても、Xが労働基準法、労働契約法上の労働者であることの根拠となる事情は見当たらず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって、本件契約は労働契約とは認められず、前記業務の内容や業務遂行方法等におけるXの独立性の強さに照らすと、本件契約は、準委任契約としての性格を有する業務委託契約と解するのが相当である。

2 平成23年3月15日は、同月11日に福島第一原発事故が起き、いまだ事態は収束の様相を見せておらず、東日本在住の多くの者が不安を感じながら日々の暮らしを送っていたことは公知の事実に属するともいえ、駐日フランス大使館のように、日本に在留する自国民に対し国外等への避難を勧める国も少なくなく、実際に多数の在日外国人が国外へ避難していたことは証拠のとおりであって、そのような折に、Xが、Y社から受託していた業務より生命・身体の安全等を優先して国外へ避難したとしても、そのこと自体は強く責められるものではない
Xの他に少なくともフランス語担当者6名が国外等に避難し、その間Y社の業務に就かなかったところ、これらの6名のうち、Y社が契約を解除し、又は次年度の契約を締結しなかった者はいないのであって、Xが福島第一原発事故による影響等を考慮して同月15日に避難したことを捉えて、「本業務の実施内容が不十分又は不完全であり、改善の見込みがない」(本件契約書16条3項1号)又は「その他本件契約を継続し難い事由が生じた」(同条項5号)に当たるものと解するのは均衡を欠き相当でない。

3 Xが連絡した時刻が業務開始予定の直前であるという点も、当時、上記のような混乱した状況下であったことに照らすとやむを得ないところがある上、前記のとおり、Xは、Y社に連絡をする前にDに代役を依頼するなど、自分が当日の業務に就かないことについて一定の手当てをしたといえるのであって、Dが当時ニュース放送のアナウンス業務を担当していなかったことからすればXの代役として適役とはいえないものの、Y社の業務に与える影響を小さなものとするよう一定の配慮をしたと評し得るものである。
しかも、Xは、Bにかけた電話の中で、当日出局できないが、Dに代役を依頼したことを伝えたところ、Bから、「分かりました。」とだけ伝えられて電話が終わり、その後もY社から出局要請等を受けなかったことからすれば、こうしたY社側の応答を受けたXとしては、当日の申出がY社に了承されたものと考えたとしても無理からぬところがある。
こうした経緯を踏まえれば、連絡の時期等を含むXの対応は万全なものではないにせよ、無責任であるとして非難するのも酷なところがあるのであって、やはり上記解除事由に当たるとはいえないというべきである。

4 Y社は、公共放送・国際放送の重要性、取り分け東日本大震災が発生したような緊急時におけるその役割の大きさを強調し、Xが長年Y社の業務を続け、その重要性を認識しながら、突然職務を放棄したのは無責任であって、X・Y社間の信頼関係は完全に破壊されたとも主張する。
なるほど、緊急時の海外向け・フランス語聴取者向けの情報発信が極めて重要な役割を担っていることを否定するものではないが、東日本大震災及び福島第一原発事故発生当時の状況に照らすと、生命・身体の安全を危惧して国外等への避難を決断した者について、結果的に危険が生じなかったとしても、その態度を無責任であるとして非難することなど到底できない。
国際放送の重要性に思いを致し不安の中で職務を全うした者は大きな賞賛をもって報いられるべきであるが、そうした職務に対する過度の忠誠を契約上義務付けることはできないというべきである

会社としては難しい判断だったと思いますが、結論としては裁判所の判断に賛成です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇205(甲化工事件)

おはようございます。

今日は、遺失金着服を理由とする懲戒解雇処分が有効とされ、会社の損害賠償請求が認められた裁判例を見てみましょう。

甲化工事件(東京地裁平成28年2月5日・労経速2274号19頁)

【事案の概要】

第1事件は、Y社と雇用契約を締結したXが、Xは、Y社から、Y社において遺失金が発生したところXが本件遺失金を着服し、私的に費消したことを理由い、懲戒解雇処分を受け、平成26年9月1日をもってY社を解雇されたが、本件処分は無効である旨を主張して、Y社に対し、Xが本件契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め、あわせて、本件契約に基づき、給与及び賞与+遅延損害金の支払を請求した事案である。

第2事件は、Y社が、Y社において本件遺失金が発生したところXは本件遺失金を着服し、私的に費消した旨、また、上記本件遺失金が発生したのはXによる本件営業所の現金の管理等に過失があったからである旨を主張して、Xに対し、不法行為に基づき、平成24年3月30日から同年6月24日までの本件遺失金相当額及び弁護士費用+遅延損害金の支払を請求した事案である。

【裁判所の判断】

Xの請求をいずれも棄却

XはY社に対し、342万9210円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xは本件営業所の経理担当責任者として本件営業所の経理事務に従事していたところ、本件営業所において少なくとも平成24年3月30日から平成26年6月24日までの間に311万7464円の本券営業所の金員を故意に着服し、私的に費消したものというべきである。
Xの上記行為は、本件就業規則の規定にいう懲戒解雇の事由に当たるものというべきである。

2 XのY社における職位、Xが上記行為を行った期間及びXが着服、費消した金額にかんがみれば、XがY社から上記行為を理由に懲戒解雇を命じられることもやむを得ないというべきであって、本件処分の相当性に欠けるところはないというべきであるし、また、本件処分は労働基準法20条1項但書の「労働者の責に帰すべき事由に基づき解雇する場合」に当たるものというべきである。

3 仮にXがY社から本件ヒアリングにおいて本件退職届を作成して提出するよう強く要求されていたとしても、その後の時間の経過及びXの代理人弁護士の立会いをも勘案すれば、Xには、本件処分に関し、弁明の機会が十分に与えられていたというべきである

4 以上の検討に照らせば、本件処分は有効なものというべきである。

横領事案の場合には、社内のうわさに基づいて懲戒解雇をしてはいけません。

しっかりと調査をし、事実確認を行った上で、弁明の機会を与え、その上で、懲戒解雇をしましょう。

手続を行う際は、顧問弁護士等のアドバイスを受けることをおすすめいたします。

解雇204(Y社事件)

おはようございます。

今日は、痴漢行為を理由とする諭旨解雇処分が無効とされた裁判例を見てみましょう。

Y社事件(東京地裁平成27年12月25日・労経速2273号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結したXが、XはY社から懲戒処分である諭旨解雇処分を受け、平成26年4月25日付けでY社を解雇されたところ、本件処分は無効である旨を主張して、Y社に対し、Xが本件契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め、あわせて、本件契約に基づき、上記平成26年4月25日の翌日以降の各賃金+遅延損害金の支払を請求した事案である。

【裁判所の判断】

諭旨解雇処分は無効

【判例のポイント】

1 従業員の私生活上の非行であっても、会社の企業秩序に直接の関連を有するもの及び企業の社会的評価の毀損をもたらすと客観的に認められるものについては、企業秩序維持のための懲戒の対象となり得るものというべきである
Y社は、他の鉄道会社と同様、本件行為の当時、痴漢行為の撲滅に向けた取組を積極的に行っており、また、Xは、Xが、本件行為を行った当時、Y社の駅係員として勤務していたというのである。これらの点に照らせば、本件行為は、Y社の企業秩序に直接の関連を有するものであり、かつ、Y社の社会的評価の毀損をもたらすものというべきである
したがって、本件行為は、Y社における懲戒の対象となるべきものというべきである。

2 ・・・本件行為ないし本件行為に係る刑事手続についてマスコミによる報道がされたことはなく、その他本件行為が社会的に周知されることはなかったというのである。また、本件行為に関し、Y社がY社の社外から苦情を受けたといった事実を認めるに足りる証拠も見当たらない。
以上にかんがみれば、本件行為がY社の企業秩序に対して与えた具体的な悪影響の程度は、大きなものではなかったというべきである。

3 Xが本件においてXに対する処分が決定する具体的な手続が進行していることを知らされず、このような中でXが同手続において弁明の機会を与えられなかったことについては、本件処分に至る手続に不適切ないし不十分な点があったものといわざるを得ない。この点に、本件行為はXを諭旨解雇処分とするに十分な事実とはいい難いことを合わせ考えれば、本件処分の手続の相当性には看過し難い疑義があるものというべきである。

4 自らに対する懲戒手続が進行している最中であることを具体的に認識して行う弁明と、これを具体的に認識しないで行う弁明とでは、弁明を行う者の対応等にもおのずと差違が生じ得るものというべきである・・・。以上にかんがみれば、Y社の指摘する上記事実をもって、Xに対する本件行為に係る弁明の機会が十分に与えられていたとはいい難い

懲戒処分の内容が重すぎる、手続が不十分だということです。

従業員の私生活上の非違行為に対して懲戒処分を行う際、処分内容を判断するのは本当に難しいです。

「裁判所は労働者に甘いな~」と感じる方もいると思いますが、そのようなときは、そもそも懲戒処分が使用者に認められる趣旨を考えるといいと思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇203(本牧神社ほか事件)

おはようございます。

今日は、神社の神職らの免職等が有効とされた裁判例を見てみましょう。

本牧神社ほか事件(東京地裁平成28年1月25日・労経速2272号11頁)

【事案の概要】

本件は、宗教法人であるY社の神職であるXらが、免職され、あるいは、休職期間満了により退職扱いとされたこと等を巡り、XらとY社との間等で、雇用契約上の地位等の有無が争われ、併せて、パワーハラスメント等を理由とする損害賠償責任の有無や未払賃金の有無等が争われている事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社が主張する免職事由のうち、D代務者への不信をあおり、Y社からの排斥を企てた点と給与の無断増額の点については、Y社に生じた混乱や与えた損害の程度、意図的に行われたものであること等、その重大性や悪質な態様を勘案すれば、改めて注意・指導を与えその改善の機会を与えずとも、免職・解雇をするだけの客観的・合理的な根拠が認められるものというべきである。

2 確かにY社の定める懲戒規程によれば、神社の職員に職務上の義務違反があった場合には懲戒委員会の審査を経て懲戒処分を行うものとされている。しかし、X1の行為は、懲戒事由に当たるか否かにかかわりなく、本件規程の手続によることなく免職を行うことができる。また、弁明の機会の付与については、免職に当たり必ずその機会を付与しなければならないかはひとまずおくとしても、平成24年7月8日開催の責任役員会の席上、X1は部屋の外で聞いていたから免職の理由の説明は不要であるとして、これを制した上、免職の理由に対する意見・反論を述べていること、統理と県神社庁の長との間で協議を経ていないとする点についても、協議の方法や内容についての具体的な定めが見当たらないことからすれば、少なくともX1の免職に、それを無効とするような手続上の瑕疵は認められないというべきである。

懲戒処分をする際、一般的には適正手続(弁明の機会の付与)が保障されていることが有効要件とされていますが、今回の裁判例のように、若干心許ない状況にあっても、懲戒事由が存在することが明らかである場合には、裁判所は適正手続については大目に見てくれる傾向にありますね。

とはいえ、実務においては、適正手続を軽視するのはよくありません。

ちゃんと弁明の機会を与えるようにしましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。