Category Archives: 解雇

解雇182(アールインベストメントアンドデザイン事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、解雇制限に関連する裁判例を見てみましょう。

アールインベストメントアンドデザイン事件(東京高裁平成22年9月16日・判タ1347号153頁)

【事案の概要】

甲事件は、Y社の従業員であるXが、Y社による解雇が無効であると主張し、Y社に対し、①雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認と②平成20年6月から毎月末日限り賃金30万円の支払を求めた事案である。

乙事件は、Y社の代表取締役であるAが、Xらによる街宣活動の際、プライバシーと肖像権を侵害されたと主張し、Xらに対 し、不法行為に基づく損害賠償請求権として、連帯して、慰謝料300万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は、甲事件について、Xの請求のうち、本判決確定日の翌日以 降の賃金の支払を求める部分の請求にかかる訴えを却下し、その余の請求をいずれも棄却し、乙事件について、Aの請求を、Xらに対し、 連帯して、慰謝料70万円及び遅延損害金の支払を求める限度で認 容し、その余の請求をいずれも棄却した。

【裁判所の判断】

Xらは、Aに対し、連帯して30万円及び遅延損害金を支払え。

XのY社に対する控訴を棄却する。

【判例のポイント】

1 労働基準法18条の2(現労働契約法16条)は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする。」と規定し、他方、同法19 条1項は、「労働者が業務上の疾病の場合の療養を安心してなし得るよ うに解雇制限を行ない、但書で例外として、使用者が、同法81条の規定による打切補償を支払う場合にこの限りではない」と規定している。 これらの規定によれば、労働基準法19条1項が業務上の疾病によって療養している者の解雇を制限している趣旨は、労務提供の対価としてその報酬を支払うという労働契約の性質上、一般に労働者の労務提供の 不能や労働能力の喪失が認められる場合には、解雇に合理的な理由が認められ、特段の事情がない限り社会通念上も相当と認められるというべきところ、業務上の疾病による労務不提供は自己の責めに帰すべき事由による債務不履行とはいえないことから、労働者が労働災害補償としての療養のための休業を安心して行えるよう配慮して、例外として解雇を制限したところにあるというべきである。
そして、同項但書は、さらにその例外として、労働基準法81条に定める打切補償を支払う場合(労働者が療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合において、使用者が平均賃金の1200日分の打ち切り補償を行った場合)には、労働基準法19条1項本文の解雇制限に服することなく労働者を解雇することができると定めているものである。
この打切補償とは、業務上の負傷または疾病に対する事業主の補償義務を永久的なものとせず、 療養開始後3年を経過したときに相当額の補償を行うことにより、その後の事業主の補償責任を免責させようとするものであり、上記のような労働基準法各条の解釈に照らすと、打切補償の要件を満たした場合には、雇用者側が労働者を打切補償により解雇することを意図し、業務上の疾病の回復のための配慮を全く欠いていたというような、打切補償制度の濫用ともいうべき特段の事情が認められない限りは、解雇は合理的理由があり社会通念上も相当と認められることになるというべきである

2  確かに、証拠及び弁論の全趣旨によれば、Xが本件打切補償による解雇の理由とされた業務上の疾病に罹患するに至った原因は、Xが、Y社の親会社である株式会社Cにおいて過重な労働を行っていたことに あると認められるが、その労働の実態は、他の社員とともに会社の当面の業務課題について、プロジェクトチームを作って集中的に仕事を行うというもので、株式会社Cが意図的にXに対して過重な労働を強要したとまで認めることはできない。
そして、株式会社C及びY社は、Xが自宅療養に入って以降、平成17年1月まで1年7か月余りにわたって、Xの自宅での療養を静観し、休業補償として給料の6割を支給していたものであり、この時点までの経緯をみる限りでは、Y社において、Xを打切補償により解雇することを意図していたようなことは窺えないし、また、 業務上の疾病の回復のための配慮を欠いていたというような事情も認められないものである

解雇制限と打切補償の争点については、先日、学校法人専修大学事件で最高裁判決が出ました。

今回のこの裁判例のうち、「打切補償の要件を満たした場合には、雇用者側が労働者を打切補償により解雇することを意図し、業務上の疾病の回復のための配慮を全く欠いていたというような、打切補償制度の濫用ともいうべき特段の事情が認められない限りは、解雇は合理的理由があり社会通念上も相当と認められることになるというべきである」との規範は、非常に重要ですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇181(X高等学校事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、諭旨解雇は無効だが普通解雇は有効とされた裁判例を見てみましょう。

X高等学校事件(東京地裁平成27年2月18日・労経速2245号15頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結して労務を提供していたXが、Y社がした諭旨解雇及び普通解雇がいずれも無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、雇用契約に基づく賃金請求権に基づく、諭旨解雇後の未払賃金及び遅延損害金の支払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、246万3809円+244万3930円に対する遅延損害金を支払え

Xのその余の請求を棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、本件非違行為には、都条例18条の6違反の犯罪が成立する旨主張する。しかし、本件非違行為は、本件被疑事実とは、日時・場所及び態様を異にする行為であり、本件諭旨解雇事由における都条例18条の6に違反する行為であると認めることはできない。

2 Y社就業規則72条1項ただし書は、出勤停止以上の懲戒に該当すると判断されるときは、査問のため調査委員会を設ける旨を定める。この点、懲戒が、Y社の懲戒権の発動として行われる不利益な処分であり、これが正当化されるためには、当該懲戒を受ける者に対し、特段の支障なき限り、弁明の機会が与えられる必要があるというべきであり、そのような観点からすれば、Y社就業規則が定める調査委員会の査問は、特段の支障なき限り、Xに対して直接なされることを要求しているものと解するのが自然かつ妥当であると解される
これを本件についてみると、調査委員会は、本件諭旨解雇に当たり、Xに対する査問を行っておらず、本件諭旨解雇には、Y社就業規則72条1項ただし書が規定する手続違反があるというべきである。・・・加えて、Y社が懲戒処分通知書において、本件諭旨解雇事由における非違行為の内容を明らかにしておらず、本件訴訟で、当初、本件諭旨解雇事由として主張した本件非違行為が、本件被疑事実とは、日時、場所及び態様を異にする行為であったことからすれば、Y社(調査委員会)は、本件諭旨解雇を決定する手続において、本件被疑事実自体を把握しておらず、Xが実際に行った行為を確定しないままに、本件諭旨解雇をしたことが強く推認され、そのことからも、本件諭旨解雇の手続面における相当性を認めることはできないというべきである

3 ・・・ところで、Xが民法536条2項により、本件諭旨解雇後の賃金を請求するためには、XがY社に対する就労の能力及び意思を保持していることが必要であるところ、Xは、平成25年4月1日から、本件学校とは別の高等学校において、常勤講師として勤務し、平成26年4月からは、常勤専任講師として勤務しており、同校の社会保険にも加入していることが認められ、このことからすれば、Xは、Y社が主張するとおり、平成25年4月1日の時点で、Y社に対する就労の意思と能力を保持していたと認めることはできない

懲戒解雇につき、適正手続違反を認定した裁判例です。 参考になります。

また、上記判例のポイント3は、解雇後、別の会社に就職した場合に問題となります。

復職の意思がない判断されないように労働者側としては注意しなければなりません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇180(アメックス(休職期間満了)事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

さて、今日は、就業規則の変更に伴う復職拒否・退職扱いの有効性に関する裁判例を見てみましょう。

アメックス(休職期間満了)事件(東京地裁平成26年11月26日・労判1112号47頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約(労働契約)を締結した後、業務外傷病(うつ状態)により傷病休暇及び療養休職を取得したXが、療養休職期間満了時に休職事由が消滅したから、X・Y社間の雇用契約がY社の就業規則により終了するものではないなどと主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、雇用契約に基づく賃金支払請求権に基づき、休職期間満了日(雇用契約終了日)の翌日である平成24年12月21日以降の賃金及び遅延損害金の支払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

Xが、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

賃金+遅延損害金の支払いを命じる

【判例のポイント】

1 Y社は、労働契約法10条により、本件就業規則24条3項がXを拘束する旨主張する。
しかし、本件就業規則24条3項は、従来規定されていない「健康時と同様」の業務遂行が可能であることを、療養休職した業務外傷病者の復職の条件として追加するものであって、労働条件の不利益変更に当たることは明らかであるY社において、従前から上記復職条件が業務外傷病者の復職条件として労使間の共通認識となっていたことや、本件変更前から本件内規の本件判定基準9項目により、上記の復職条件を満たすか否かを判断する運用をしていたことを認めるに足りる証拠はない
そして、業務外傷病のうち特に精神疾患は、一般に再発の危険性が高く、完治も容易なものではないことからすれば、「健康時と同様」の業務遂行が可能であることを復職の条件とする本件変更は、業務外傷病者の復職を著しく困難にするものであって、その不利益の程度は大きいものである一方で、本件変更の必要性及びその内容の相当性を認めるに足りる事情は見当たらないことからすれば、本件変更が合理的なものということはできない
したがって、本件変更は、労働契約法10条の要件を満たしているということはできず、本件就業規則24条3項がXを拘束する旨のY社の主張を採用することはできない。

2 業務外傷病により休職した労働者について、休職事由が消滅した(治癒した)というためには、原則として、休職期間満了時に、休職前の職務について労務の提供が十分にできる程度に回復することを要し、このことは、業務外傷病により休職した労働者が主張・立証すべきものと解される。

3 休職制度が、一般的に業務外の傷病により債務の本旨に従った労務の提供ができない労働者に対し、使用者が労働契約関係は存続させながら、労務への従事を禁止又は免除することにより、休職期間満了までの間、解雇を猶予するという性格を有していることからすれば、使用者が休職制度を設けるか否かやその制度設計については、基本的に使用者の合理的な裁量に委ねられているものであるとしても、厚生労働省が公表している「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」から、本件内規中に掲げた本件判定基準9項目を全て満たした場合にのみ復職を可能であるとする運用を導くことは困難である。
また、本件内規は、平成23年7月頃、Y社人事部において、業務外傷病により傷病休暇及び療養休職を取得した従業員の復職判断のための内部資料として作成されたものにすぎず、従業員には開示されていないから、上記の運用が本件雇用契約の内容として、Xの復職可否の判断を無条件に拘束するものではない

4 そして、本件情報提供書は「軽度日中の眠気が出現する以外は気分、意欲とも改善している」、「当初は時間外勤務は避ける必要がある。又、質量ともに負担の軽い業務からスタートして徐々にステップアップすることが望ましい。」との所見の趣旨はD医師が述べるとおりであり、Y社としては、本件診断書及び本件情報提供書の内容について矛盾点や不自然な点があると考えるならば、本件療養休職間満了前のXの復職可否の判断の際にD医師に照会し、Xの承諾を得て、同医師が作成した診療録の提供を受けて、Y社の指定医の診断も踏まえて、本件診断書及び本件情報提供書の内容を吟味することが可能であったということができる
Y社は、そのような措置を一切とることなく、何らの医学的知見を用いることなくして、D医師の診断を排斥し、本件判定基準9項目のうち、・・・を満たしていないと判断しているところ、そのようなY社の判断は、Xの復職を著しく困難にする不合理なものであり、その裁量の範囲を逸脱又は濫用したものというべきである

非常に重要な裁判例です。

休職期間に関連する問題は、会社としても対応がとても難しいですね。

「正解」がよくわからない中で、できる限りの対応をするという姿勢が求められます。

顧問弁護士や顧問社労士とともに対応していくことが強く求められます。

解雇179(コンチネンタル・オートモーティブ事件)

おはようございます。

今日は、休職期間満了時に復職可能であったと判断できないとして賃金の仮払いが認められなかった裁判例を見てみましょう。

コンチネンタル・オートモーティブ事件(横浜地裁平成27年1月14日・労経速2244号3頁)

【事案の概要】

本件は、XがY社に対し、休職事由が消滅したにもかかわらず、休職事由が消滅していないとして休職期間満了による退職の扱いをしているのは不当として、未だXはY社との間で労働契約が継続していることを前提に、賃金の仮払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

申立て却下

【判例のポイント】

1 Y社は、復職が可能という主治医の診断書は、Xの強い意向に従って作成されたものであるから全く信用できないと主張している。
確かに主治医の平成26年10月27日から通常勤務に問題がない旨の診断書は、Y社からXに対し、休職期間満了の通知が届き、「焦って目が覚めたと言ってきて、会社に戻りたい、頑張ろうと思う」との話があったため、希望どおりに書いたというものである。これは、医学的に軽快したということが理由になっているのではなく、Xの強い意向によることが理由と考えざるを得ない。そうすると、Y社からXに宛てて出された平成26年10月10日付けで送付された休職期間が満了して退職となる旨の通知をXが受領する以前に示された診断書が、前記認定した主治医がY社代理人に述べたXに関する病状とも整合しており、医学的にみたXの病状を示しているといえる
すると、Xについては、平成26年10月29日の休職期間満了時に復職可能であったと判断することはできず、就業規則第49条第1項に該当するとは認められない。したがって、被保全権利の存在は疎明されていない。

2 Xは、平成26年10月末の時点で預金を26万ほどしか有していなかったとしても、その後、Xは、1年6か月は受給できる傷病手当金の受給申請を行い、月25万円を超える傷病手当金を受給し、今後も受給できる状況である。・・・Xについて、賃金の仮払いを受けなければ生活が困窮し、回復し難い損害を被るおそれがあるとは疎明されないので、保全の必要性は疎明されていない

3 以上からすると、被保全権利の存在及び保全の必要性いずれについても疎明がされているとはいえないから、本件申立ては却下することとする。

休職期間満了時の対応は、簡単ではありません。

労使ともに、留意すべき点が多々あります。

複数の裁判例から実務におけるヒントを拾い出し、応用することが求められます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇178(甲社事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、内部告発を理由とする解雇についての裁判例を見てみましょう。

甲社事件(東京地裁平成27年1月14日・労経速2242号3頁)

【事案の概要】

本件は、被告を解雇された原告が、解雇が無効であるとして、労働契約上の地位の確認並びに賃金及び遅延損害金を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 Xは、Y社の就業規則の周知方法は、労働基準法106条に定める方法(常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付すること)に当たらず、周知性を満たさないと主張する。しかしながら、同条はいわゆる取締規定であり、Y社の周知方法が同条の周知方法を満たしていない場合であっても、実質的に見て事業場の労働者集団に対して当該就業規則の内容を知りうる状態に置いていたといえれば、就業規則の効力の発生要件たる周知性は満たすといえるため、Xの主張は採用できない。

2 本件解雇における解雇理由②は、Xが世田谷保健所に虚偽の通報を行ったことを理由とするものであり、いわゆる内部告発を理由とするものといえる。かかる労働者の内部告発は、みだりに労働者が負っている使用者の利益を害しないようにするいわゆる誠実義務に違反するものとして懲戒解雇の対象となることはもちろんである。しかしながら、他方で、労働者による内部告発が使用者による法令違反行為の是正・抑止を促進することにもつながるものであり、正当な内部告発であれば、これを保護する必要がある。したがって、内部告発の有効性については、①労働者の行った通報対象事実の根幹部分が真実であるか、労働者が真実であると信ずるにつき相当の理由があるか否か(真実または真実相当性)、②その目的が公益性を有しているか否か(目的の公益性)、③通報を行った手段、態様が必要かつ相当なものであるか否か(手段または態様の相当性)を総合的に考慮して、労働者の行った通報が正当と認められる場合には、通報の違法性は阻却され、これを理由とする懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上も相当とはいえず、無効になると解される。

3 ・・・以上からすると、本件においては、Xの行った具体的な通報内容には、その存在が認められなかった部分も多くあるもののその根幹部分であるY社の衛生状態について問題がある、あるいはY社の従業員の食品衛生に対する意識が低いという点については、少なくともXがそのように信じるについて相当な理由がなかったとまではいえない。また、通報の目的についても、私怨を晴らす目的があったとまでは認めることはできず、食中毒を発生させないという公益をはかる目的があったといえる。さらに、手段または態様についても、若干執拗な嫌いもあるが行政機関に対する通報に留まっていることも勘案すれば、相当性を欠くとまではいえない。
以上を総合的に考慮すれば、解雇理由②は、客観的に合理的な理由であるとは認め難い。

ぎりぎりセーフですね。

「通報の根幹部分」の解釈をかなり緩やかにしてくれたため、なんとかなっていますが、裁判官によっては内部告発の有効性を否定することも十分考えられます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇177(WILLER EXPRESS西日本事件)

おはようございます。

今日は、バス運転士2名に対する複数の懲戒処分に関する裁判例を見てみましょう。

WILLER EXPRESS西日本事件(大阪地裁平成26年10月10日・労判1111号17頁)

【事案の概要】

本件は、バス運転士としてY社に勤務していたXらが、Y社に対し、Y社がXらに行った車庫待機の処分並びに出勤停止及び懲戒解雇の各懲戒処分がいずれも無効であると主張して、労働契約上の地位確認、賃金及び不法行為に基づく損害賠償の支払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

いずれの懲戒処分も違法無効

【判例のポイント】

1 本件第1次処分のうち「自宅謹慎」は、その間、無給であったこと、「車庫待機」は、その間、基本給のみが支給され、歩合給である諸手当は支給されなかったことが認められる。そうすると、このように賃金の全部又は一部の不支給を伴う処分は、労働者に対する不利益処分にあたるから、使用者は、業務命令として行うことはできず、懲戒処分として行わなければならない
Y社は、Xらに対し、平成20年6月10日の乗務の後、直ちに就業規則63条に基づき勤務待機(ただし、勤務したものとして取り扱われる。)を命じた上、賞罰委員会における審査を経て、懲戒処分を行うことが可能であったにもかかわらず、これを行わなかったにすぎない。
したがって、本件第1次処分は、違法な不利益処分といわなければならない。

2 使用者が、被用者に対し、企業秩序違反行為を理由として違法な不利益処分を行った後に、改めて有効な懲戒処分を行うことができるかどうかが問題となる。使用者の懲戒権の行使は、企業秩序維持の観点から労働契約関係に基づく使用者の機能として行われるものであるが、制裁罰にほかならないから、同一の行為について重ねて懲戒権を行使することは、その権利を濫用したものとして無効とされる。そして、この理は、企業秩序違反行為についてなされた先行する不利益処分が有効な懲戒処分であるか否かに関わらないというべきであるから、使用者が、企業秩序違反行為を行った被用者に対し、違法な不利益処分を行った場合、当然に懲戒処分をやり直すことができるというわけではない。このような場合、使用者は、被用者に対し、先行する不利益処分を撤回するとともに、当該処分によって被った不利益をてん補した後でなければ、改めて懲戒権を行使することはできないと解される。しかも、当該企業秩序違反行為から期間が経過するにつれて、企業秩序維持の観点から懲戒権を行使する必要性が低減していくことも考慮しなければならない

3 Xらは、平成20年6月10日、乗務の数時間前に飲酒を行うという運転手としてあるまじき行為を行ったものであり、懲戒解雇処分を受けてもやむを得ない立場にあったものであるが、そうであるからといって、違法な本件各処分を受けなければならない理由はない。そして、Xらは、Y社から多数回かつ長期間にわたる違法な本件各処分を受けたことにより、労働契約上の地位確認や賃金の支払を受けただけではてん補され得ない精神的苦痛が生じたと認められ、これを慰謝するには、Xらそれぞれについて50万円をもって相当とする。

懲戒処分に関する非常に重要な裁判例です。

是非、参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇176(とうかつ中央農協事件)

おはようございます。

今日は、虚偽事実記載文書配布等を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

とうかつ中央農協事件(東京高裁平成25年10月10日・労判1111号53頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、平成21年3月12日付けで懲戒解雇されたところ、解雇は無効であって、それを前提として平成24年3月末日限り定年退職したと主張して、Y社に対し、雇用契約に基づき、退職金1734万3000万円および遅延損害金を求めるとともに、未払賃金合計1312万9140円並びに遅延損害金の支払うを求める事案である。

原審は、Y社のした懲戒解雇が無効であるとして、Xの本件請求を認容した。

Y社は、原審判決を不服として控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】(以下、原審・控訴審判決両方を含む)

1 本件就業規則第97条5号の内容は必ずしも判然としないが、Y社は、本件就業規則第97条5号「組合の経営上若しくは業務上の重大な秘密又は職務に関連して知りえた組合員等の個人情報を組合外に漏らしたとき」と同趣旨であることを前提としていると解されるところ、仮に同趣旨であると解したとしても、当該文書の内容は、主としてXの不平不満を述べるものに過ぎず、また、「組合の経営上若しくは業務上の重大な秘密」又は「職務に関連して知りえた組合員等の個人情報」に当たる記載があるとは解されない。よって、Y社の主張する本件就業規則第97条5号の内容を前提としても、本件文書配布行為が同号に該当するとはいえない

2 Y社は、本件欠勤には正当な理由がなかった旨主張する。 しかし、Xが本件欠勤の理由とした腰椎椎間板ヘルニアが業務上の疾病でなく、業務外の事由により発症したいわゆる私病であるとしても、本件欠勤に正当な理由が腰椎椎間板ヘルニアの症状の程度がXの業務に耐えうる程度であったとしても、Xは、医師の診察を受け、Xの腰椎椎間板ヘルニアの程度が業務に耐えないとの医師の診断に従い、欠勤していたこと、Y社がXに電話で症状についての説明を受けるにとどまり、Xに出勤を促すことはあったものの出勤命令を出したことはなく、Xに対して本件就業規則第42条2項ただし書により医師を指定してその診断を受けることを命ずることもなかったことに鑑みれば、Xが積極的にD社の建物やY社の本店に出向いて、業務の従事等について相談することがなかったことを考慮しても、本件解雇は合理的相当性を欠き解雇権の濫用であって無効であるといわざるを得ない

懲戒解雇の場合、就業規則の記載内容と懲戒解雇事由との関係について、厳密に判断されます。

文言解釈として無理がある場合には、会社側としては厳しい戦いを強いられます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇175(有限会社X設計事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、試用期間中の解約権行使に関する裁判例を見てみましょう。

有限会社X設計事件(東京地裁平成27年1月27日・労経速2241号19頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結し、設計図面の作製等の業務に従事していたXが、解雇等の効力を争い、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と平成23年6月分から本判決が確定するまでの間の給与月額各18万円及び遅延損害金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 いかにXが設計業務に一定の経験を有することを前提に採用されたにせよ、Y社代表者は入社から間もないXに対していきなり本件橋梁の配筋図の作製を指示しながら、それ以上に作業の手順、作業を進める上でA組の意向をどの程度確認すべきか、その場合に連絡はどうやって行うかなどの点について具体的な指示をした形跡は見当たらないのであって、入社早々指示を受け約2週間でXが提出した当初提出配筋図につきA組から不備を指摘されたことを捉えて設計業務に従事する適性を欠くものと結論付けるのは酷なところがある何よりも、A組・Y社代表者から指示を受けてXが修正作業に取り組み、完成させた修正後配筋図に特段の問題はなく、続けて作製した2ブロック分の配筋図も同様であったという経過をみる限り、Xが入社後最初に担当した作業は不慣れなところもあって手直しが必要なものであったが、その後は支持に従って要求どおりの作業を完成させることができたというのが、大局的にみた事のてんまつであって、これらの経過から、Xに基本的な設計図面の作製能力がなくその適性を欠いていたなどとは認め難いというべきである。

2 Y社は、XがY社代表者の指示に反してA組との打ち合わせに参加しなかったこと、電話の応対を拒否したこと、電子メールに自分の名前を示さなかったこと、指示・会話等に応答せず、コミュニケーションをとるよう指導しても改善がみられなかったこと、共同作業を指示してもこれを行わなかったこと等の勤務態度を問題とする。確かに・・・。しかし、これらの点について、Y社代表者らから明確かつ具体的な指示・指導があったにもかかわらず、Xがかたくなに従わなかったなどの事情があるというのであればともかく、そうした事情も見当たらないことからすると、Y社が指摘する点を捉えて、Xの勤務態度が不良であるとまではいえず、Y社の業務に具体的な支障を来したとも認め難い。また、・・・それによってどれだけ作業が遅れ、業務に支障を来したかは明らかでないというべきである。

3 以上みてきたところによれば、Y社の主張するXの業務遂行能力及び勤務態度のいずれの点をみても、試用期間中に判明した事実につき、解約権を行使する客観的に合理的な理由が存在するとは認められない。

業務遂行能力不足や勤務態度不良を理由とする解雇は、そう簡単にはできません。

使用者側の適切な指示・指導・教育を裏付ける必要があります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇174(日本ハウズイング事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、マンションの住込管理人の管理人室退去をもって自主退職と評価することの可否に関する裁判例を見てみましょう。

日本ハウズイング事件(東京地裁平成26年12月24日・労経速2239号25頁)

【事案の概要】

本件は、Y社から雇用されていたA、Bが、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認とバックペイの支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

A、Bともに労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

【判例のポイント】

1 8月2日の段階で、C課長は、本件マンションの管理人を交代することになる旨告げているものの、退職届を書くようにAらに告げているに留まる。それ以外に同日において、Y社から明確にAらを解雇するとの意思表示はなされたと認めるに足りる事実はない。また、C課長が、同日、Aらが解雇されたことを認めたという事実も証拠上、認められない。・・・以上からすると、本件労働契約について、Y社がAらに対して解雇の意思表示をしたと認めることはできない。

2 そもそも意思表示は、表意者が一定の効果を意欲する意思を表示し、法律がこの当事者の意欲した効果を認めてその達成に努力するものとされているから、自主退職(労働者から一方的に労働契約を解消すること)の意思表示についても自主退職という法律効果を意欲する意思が表示されたものと評価できるかが問題となる。そして、労働者にとって労働契約は、生活の糧を稼ぐために締結する契約であり、かつ、社会生活の中でかなりの時間を費やすことになる契約関係であることからすれば、かかる労働契約を労働者から解消して自主退職するというのは、労働者にとって極めて重要な意思表示となる。したがって、かかる労働契約の重要性に照らせば、単に口頭で自主退職の意思表示がなされたとしても、それだけで直ちに自主退職の意思表示がなされたと評価することには慎重にならざるを得ない。特に労働者が書面による自主退職の意思表示を明示していない場合には、外形的にみて労働者が自主退職を前提とするかのような行動を取っていたとしても、労働者にかかる行動を取らざるを得ない特段の事情があれば、自主退職の意思表示と評価することはできないものと解するのが相当である

3 確かに、本件においてY社が解雇の意思表示をしたという事実は認められず、Y社から解雇されたことが明確になっていない段階において、Aらにおいても退職届の作成を拒否し、自主退職もしていないのであれば、Aらとしては、管理人室を退去する必要まではなかったともいえ、管理人室を退去したことは自主退職を前提とするかのような行動であるともいえる。
しかしながら、Aらが本件マンションを退去した理由としては、本件マンションの管理人であれば、家賃を払わなくても済むが、8月2日のC課長やD主任とのやりとりで、管理人を解雇されたと思い、解雇されたのであれば居住権はなくなり、家賃を支払わなければならないと考え、やむなく退去したとのことであり、Y社から退職届を書くよう求められていた当時の状況からすれば、Xらがかかる認識に至ったのも無理からぬところといえる
以上からすると、Xらが本件マンションを退去したことだけをもって自主退職の意思表示をしたと評価することはできない。

解雇の意思表示も自主退職の意思表示もないから、雇用契約は今まで通り、続いているという判断です。

まさかの展開です。

上記判例のポイント2の解釈は参考になりますね。 是非、押さえておきましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇173(学校法人金蘭会学園事件)

おはようございます。

今日は、学校閉鎖等を理由とする大学教員に対する解雇に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人金蘭会学園事件(大阪高裁平成26年10月7日・労判1106号88頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が経営する千里金蘭大学の教授であったXが、次年度に担当する授業科目がなく、従事する職務がないことを理由として、Y社から平成23年3月31日限り解雇されたことにつき、解雇権の濫用に当たり無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認と、本件解雇後の平成23年4月から本判決確定の日まで、毎月21日限り賃金60万5090円及び遅延損害金の支払いを求めた事案である。

原審は、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとはいえないとし、無効であると判断した。

Y社は、これを不服として控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、平成21年度には教育研究活動のキャッシュフローの黒字化を早くも達成し、学納金に占める人件費比率も平成19年度の約199%から約93%にまで低下し、帰属収支差額の赤字も解消には及ばないにせよ一定程度は圧縮できていたのであり、経営改善計画の目標達成までは未だ道半ばであったとはいえ、着実に成果を上げつつあったということができるから、Y社が、本件解雇当時、年間約2億円以上の人件費の削減の必要があったものと認めることができない

2 Y社の経営改善計画が着実に成果を上げつつあった過程で行われた短期大学部や現代社会学部の募集停止に際しても、Y社がその所属社員を「過員」として人員整理の対象とすることを検討した形跡は窺われず、むしろ、選考を経た者についてはB機構に配置し、教養科目の授業担当者及び教養教育改革の管理責任主体として雇用を継続することとし、平成22年4月からB機構を発足させ、その後同年6月21日に本件希望退職募集に踏み切るまでの間に、当時の千里金蘭大学の兼務者を除く教員数88名の4分の1近い21名もの教員を人員削減の対象としなければならないほどの財政面での異変が生じた事実も窺われないのであるから、本件希望退職募集や本件解雇の時点で、財政面の理由からも、21名に及ぶ教員を対象とする人員削減の必要があったとは認められない。そうすると、平成22年6月時点において、Y者が21名もの教員を対象として人員削減を行うことについて、Y社の合理的な運営上やむを得ない必要性があったと認めることはできない。

3 本件希望退職募集については解雇回避措置としての位置づけが可能であること、Y社が、本件希望退職募集の開始後、対象者に対する説明会を開催し、労働組合の申入れによる団体交渉に応じたことなど、納得を得るための手続を一応は履践していること、Y社が、退職に応じた者の不利益を緩和すべく、平成23年度限り特任教員として再雇用し、退職金の加算を提案するなどの措置をとっていること等を考慮しても、本件解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められず、その権利を濫用したものとして無効というべきである。

整理解雇の必要性が否定された事例です。

労働者側で整理解雇を争う場合には、決算書等を正確に理解し、本当に整理解雇を行う必要性が存在するのかを具体的かつ詳細に主張することが求められます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。