Category Archives: 解雇

解雇132(I式国語教育研究所代表取締役事件)

おはようございます。

さて、今日は、解雇を理由とする会社法上の代表取締役の損害賠償責任に関する裁判例を見てみましょう。

I式国語教育研究所代表取締役事件(東京地裁平成25年9月20日・労経速2197号16頁)

【事案の概要】

本件は、Xらが、Y社の代表取締役であったAに対し、Aが、Y社をして①Xらを不当に解雇させたこと、②Xらへの賃金の仮払いを命じた仮処分決定に従わなかったことが、AのY社に対する任務懈怠ないしXらに対する不法行為に当たるとして、会社法429条1項ないし民法709条に基づき、損害賠償請求をした事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 ・・・以上検討したとおり、Aの主張する解雇事由たる事実は、当該事実自体が認められないか、事実は認められるものの、解雇の客観的に合理的な理由とまではいうことができないものである。このように、本件解雇は、客観的に合理的な理由がないにもかかわらず行われたものであり、労働契約法16条に反し、解雇権を濫用するものとして無効である

2 Aは、本件解雇当時、Y社の代表取締役として、同社に対して善管注意義務を負っていたが、その中には労働法規を含む各法令を遵守する義務も含まれると解されるところ、本件解雇は無効であるため、Aは、客観的には上記義務に違反しているといえる。もっとも、Aは特段労働法規に通じていたわけではなく、本件解雇が無効であることを知りながら、故意に本件解雇を行うこととしたまではいうことができない
また、Aが、Xに対し、Aにおいて解雇に足ると考えた事由を記載した始末書への署名を求め、これを得た後に本件解雇の通知を発している事実を踏まえると、Aとしては取り得る手段をとったと認識しているのも無理からぬところであり、弁護士等に相談をしなかったことを考慮に入れてもなお、Y社が本件解雇を行ったことが、Aの重過失に基づくものであるとまでは評価することは困難である
よって、本件解雇については、Aの故意又は重過失によるということはできず、この点に関して、Aには会社法429条1項に基づく損害賠償責任は認められない。

3 本件解雇について、A自身が不法行為責任を負うかであるが、本件解雇はあくまでもAとは別に法人格を有する本件会社が行ったものであり、A自身のXに対する不法行為を観念することはできない。
よって、本件解雇について、AのXに対する不法行為責任は認められない

4 一般的に、会社に対し、金員の仮払いを命じる仮処分が発せられた場合、これに従わなければ、当該仮処分決定を債務名義として、会社の有する債権等、会社財産の差押えが行われ、その結果、会社の業務に支障を来す事態(預金債権の差押えを受けた場合が顕著である。)も想定しうるところである。よって、このような事態を避けるため、会社の取締役は、会社に仮払いを行わせる義務を負うというべきであるが、他方、会社の資金繰り状況等に照らし、仮払いを行うことによって会社の業務継続が困難になるような場合もありうるところであり、このような場合についてまで上記義務を負うと解されることは相当ではない
・・・よって、当該任務懈怠によってXらに損害が生じている場合には、Aは会社法429条1項に基づき、これを賠償する責任を負う。

5 Xは、Aの任務懈怠により、上記仮払金の支払をY社から受けることができなかったため、直接的に賃金相当額の損害を被ったと主張する。しかしながら、仮払いを受けられなかったとしても、Xは、なお本件会社への賃金請求権を有しており、Y社の破産等、その行使が不可能となるような事情も見出せないのであって、当該債権が直接的に損なわれ、損害を被ったとみることは困難である
したがって、この点についてのXの主張には、理由がない。
・・・Xの主張する精神的苦痛とは、結局、金銭的な負担に外ならず、これを賃金と別個の利益を侵害されたものととらえることは相当でない。したがって、この点についてのXの主張には理由がない

解雇事案で、役員の任務懈怠責任や不法行為責任を問われた珍しい事案です。

解雇自体は無効であるとの判断ですが、上記判例のポイントのとおり、代表者の責任は否定されています。

特に判例のポイント2は参考になりますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇131(X建設事件)

おはようございます。

さて、今日は、労災事故発生事実の隠ぺいを理由とする諭旨退職処分に関する裁判例を見てみましょう。

X建設事件(東京地裁平成25年9月27日・労経速2196号3頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社が行った諭旨退職処分及びそれに引き続くXの退職の意思表示は無効であると主張し、その後自ら退職した日までの賃金、賞与及び退職金(諭旨退職処分により20%減額された分)等の支払を求めた事案である。

本件懲戒の理由は、Xが、事務所の所長として、所管工事全般の責任及び所管現場事業所所属員の業務執行を指揮監督する職責を担っており、当該工事現場において労災事故が発生した場合、所定の手続を取らなければならなかったにもかかわらず、本件事故発生当日にその事実を知りながら約3年5か月にわたり所定の報告をせず、また、被災者の直接雇用主をして療養補償給付たる療養の給付請求等を提出させることもしなかったこと等である。

【裁判所の判断】

諭旨退職処分は有効

【判例のポイント】

1 Y社において諭旨退職とした事例のうち最近の3件の概要は、前記のとおりであると認められ、これらの事実によれば、Y社の本社及び支店主張所における各不正発注事案2件及びY社の支店における地下鉄工事の談合事案であるというのである。このうち、各不正発注事案については、Y社に対して直接に金銭的損害を与える行為ではあるものの、必ずしもY社の対外的な信用を大きく損なう行為ではないと認められること、談合事案については、Y社の対外的信用を大きく損なう行為ではあるものの、事実上談合に協力せざるを得ない状況の下での行為であると認められること等が斟酌され、Y社はいずれも諭旨退職処分としたというのである。
一方、本件は、行為そのものの企業秩序侵害の程度は大きく、Y社において経済的損害及び対外的信用の損失も相応に生じているのであって、Xに対する関係では諭旨退職よりも軽い処分でなければ前記3件と比較して均衡を失するとまではいい難い

2 懲戒処分に至るまでの手続が短期間で行われたことそのものは、処分の量定の適正さとは何ら関係のない事情というべきであるし、本件諭旨退職処分の理由となる事実及び情状事実を総合しても、本件諭旨退職処分が重きに失すると認めるに足りる事情がないことは既に説示したとおりであって、Y社において、本件諭旨退職処分を迅速に発することにより、結果的に行政処分を免れ、又は軽い処分で済むことがあり得ることを予測していた可能性は否定することができないものの(なお、このこと自体は何ら不当なものではないというべきである。)、それを超えて、国土交通省が行政処分を課すかどうか及びその内容を検討するに当たり有利な情状として利用するために、ことさらに短期間に、かつことさらに重い懲戒処分を課す意図があったとまで認めるに足りる証拠はない

3 確かに、本件諭旨退職処分により、Xは、退職届を提出して退職するか、さもなくば懲戒解雇となるという状況において、諭旨退職処分の方が懲戒解雇よりもXに有利な処分であること、本件就業規則59条1号には、懲戒解雇の場合には原則として退職金が支給されない旨が規定されていることに照らせば、利害得失の観点からは、退職届を提出するかどうかの選択の余地がある程度制約されていたと認められる。しかしながら、このことにより、直ちに本件退職の意思表示がXの自由な意思や真意に基づくものでないことまで認められるものでないし、他に本件退職の意思表示をする際、Xの自由な選択を妨げる事情があったとは認められない。したがって、その余の点を検討するまでもなく、この点に関するXの主張は理由がない。

懲戒事案では、他の事案との不均衡さを争点とすることがあります。

もっとも、それぞれ事案が異なることから、そう簡単には不均衡・不相当であるとの判断には結びつきません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇130(乙山商会事件)

おはようございます。

さて、今日は、外付けHDDの持ち帰りを理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

乙山商会事件(大阪地裁平成25年6月21日・労判1081号19頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが懲戒解雇されたが、当該懲戒解雇は解雇権の濫用であり無効であるとして、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに解雇後の賃金及び遅延損害金の支払いを求めるとともに、違法・無効な懲戒解雇により損害を受けたとして、その賠償を求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効
→平成24年1月18日から本判決確定の日まで、毎月25日限り、月額24万1400円の割合による金員+6%の遅延利息を支払え。

慰謝料請求は棄却

【判例のポイント】

1 ・・・Y社の就業規則44条7号は、28条から37条までの規定に違反した場合であって、その事案が重篤なときは、懲戒解雇に処すると定めており、29条4項は、服務心得として、会社の業務上の機密及び会社の不利益となる事項を外に漏らさないことを定めている。
これを本件についてみると、Xが本件ハードディスクをXの自宅に持ち帰った事実は認められるものの、本件ハードディスクに保存された情報が外部に流出したことは確認されていないのであるから、Xが本件ハードディスクを自宅に持ち帰った行為が29条4項に該当するとはいえない

2 ・・・懲戒解雇は、懲戒処分の中でも従業員の身分を奪う最も重い処分であるから、懲戒解雇事由の解釈については厳格な運用がなされるべきであり、拡大解釈や類推解釈は許されず情報が外部に流出する危険性を生じさせただけで、情報を「外に漏らさないこと」という服務規律に違反したことと同視して懲戒解雇ができるとのY社の主張は採用できない
なお、仮にY社の主張を前提としても、就業規則44条7号は、服務規律違反の「事案が重篤なとき」に懲戒解雇に処すると定めているところ、情報漏洩の事実を認めるに足りる証拠がない以上、服務規律違反の「事案が重篤なとき」に当たらないことは明らかであるから、いずれにしても就業規則29条4項違反を理由とする本件懲戒解雇には理由がない

3 Y社は、Xによるハードディスクの無断持帰り及びY社の業務上の秘密及びY社に不利益となる事項を外に漏らした行為が普通解雇事由にも該当するとして、予備的に普通解雇の意思表示をしたものであるが、本件ハードディスクの無断持帰りによって、Y社に不利益となる情報が外部に漏洩した事実は認められないから、情報漏洩を理由とする普通解雇には理由がない。 

非常に参考になる裁判例です。

懲戒解雇の難しさがよくわかりますね。

就業規則の規定を素直に読めば、上記のような判断になるのでしょうね。

会社が、機密情報については、漏洩のリスクを極力回避するため、従業員に対して外部への持ち出しを禁止することは合理性があります。

問題は、このルールに違反した場合に、懲戒解雇を選択できるのか、という点です。

今回の裁判例は、漏洩の事実がないことを重視し、解雇を無効と判断しています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇129(東京都(M局職員)事件)

おはようございます。

さて、今日は約3年間で72回に及ぶ遅刻等を理由とする停職処分の有効性に関する裁判例を見てみましょう(解雇事案ではありませんが、懲戒処分のカテゴリーがないので、便宜的に解雇のカテゴリーに入れました。)。

東京都(M局職員)事件(東京地裁平成25年6月6日・労判1081号49頁)

【事案の概要】

本件は、Y社がその職員であるXに対し停職3月の懲戒処分を行ったところ、Xが、Y社に対し、本件停職処分の取消しを求めるとともに、本件停職処分等に伴う減収分や慰謝料等として557万0198円の損害賠償の支払いを求めている事案である。

なお、本件停職処分は、Xが、平成18年4月1日から平成21年7月15日までの間に、少なくとも72回にわたり、電車の遅延等を理由として出勤時限に遅れた上、72回のうち71回について、部下の職員に指示して、出勤記録を出勤の表示に修正させたことが地方公務員法32条及び35条の規定に違反し、同法29条1項1号から3号までの規定に該当することを根拠とするものである。

【裁判所の判断】

停職処分は無効
→停職処分に伴う減収分および慰謝料等として386万1239円の支払いを命じた

【判例のポイント】

1 ・・・以上によれば、Y社が本件停職処分の対象とした72回の出勤時限に遅れたとの事実は、本件全証拠によっても、その全てが客観的事実であると認めるに足りないものといわざるを得ない。確かにそのうちの一定の部分については客観的事実に沿うものであることがうかがわれ、この点はX自身も自認するところではある。しかしながら、Xが出勤時限に遅れたことがいつ、いかなる回数あったのかについて、具体的に特定することは困難といわざるを得ない

2 Y社が本件停職処分の対象とした72回にわたり出勤時限に遅れたとの事実及び71回にわたる出勤記録の出勤の表示への修正指示の事実は、Xが出勤時限に遅れたことが一定の回数あったことが認められるに止まり、その回数や日付を具体的に特定することは困難であると認められる。また、具体的な修正指示があったことを認めることは困難であるから、結局、本件停職処分は、その根拠となる主要な事実の存在を認めるに足りないものというほかなく、違法な処分として取り消されるべきものである

3 Y社が本件停職処分に至ったのは、Y社の担当職員がXの弁明にもかかわらず、職務上通常尽くすべき調査義務に違反して、漫然と本件停職処分の根拠となる72回の出勤時限の遅参と71回の出勤記録の修正指示を認定したことにあるといわざるを得ないから、Y社による本件停職処分は国家賠償法上も違法であり、Y社はこれによりXが被った損害を賠償する責任があるというべきである。
また、Y社は、M局の45歳の男性副参事に対し本件停職処分を行ったことを報道機関及びY社ホームページ等に講評し、本件停職処分の対象者として、Xの実名こそ報道されなかったものの、所属局名、職層、年齢、性別が報道されたことが認められるが、Y社による本件停職処分の公表も、Y社が通常尽くすべき調査義務に違反して、漫然と本件停職処分が行われたことによるものと認められるから、Y社はこれによりXが被った損害についても賠償する責任があるというべきである

「72回の遅刻と71回の出勤記録の修正指示をしたにもかかわらず、停職処分は無効なんて・・・」と考えるのは早計です。

会社側が調査を十分に尽くすことなく、懲戒処分に踏み切ったことから、訴訟になり、懲戒処分の対象事実を立証できなかったわけです。

解雇理由をはじめとして、懲戒処分をする際は、十分な調査をした上で、慎重に処分をすることをおすすめします。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇128(エヌエスイー事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう!!

さて、今日は、「業務上の都合による」解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ファニメディック事件(東京地裁平成25年7月23日・労判1080号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、平成23年10月31日付でY社から解雇されたが、これが無効であると主張して、就労期間23年11月1日(解雇日翌日)から24年5月15日(雇用期間満了日)までの賃金合計149万5000円およびこれに対する遅延損害金ならびに不当解雇等による不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)として100万円およびこれに対する遅延損害金の各支払を求めた事案である。

なお、Y社は、金融系システムオペレーション、金融システム開発、研修サービス、翻訳業、労働者派遣業等を営む会社である。

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 ・・・特に、本件質問メールに対しY社が本件返信メールを送信するとともに本件契約終了説明書面を交付した事実によれば、Y社は、Xに対し、平成23年10月31日付けで本件雇用契約における雇用契約書6条4号の「やむを得ない会社の業務上の都合によるとき」により解雇する旨の意思表示をしたものと認められる。

2 Y社は、本件契約終了説明書面には、実際にはXの自己都合による就業終了であることが明記されている旨主張し、本件契約終了説明書面には、Y社としてはXを契約社員として雇用継続すべく、先般2案件を紹介したが、Xが契約社員として雇用を継続することに不安を感じていることを理由に辞退した旨が記載されているが、Xは、平成23年9月30日において、Y社からの2つの案件の紹介に対し、本件雇用契約の内容が不安であることを理由として同日時点でその諾否について回答できない旨を述べたことは認められるが、そのことをもって直ちにXからY社に対して本件雇用契約の合意解約の申込や辞職の意思表示がされたとは認められず、前記記載をもってXの自己都合による就業終了であることが明記されているとは評価できないというべきであるから、Y社の前記主張は採用できない。

3 平成24年2月頃、Y社からXに対し、双方の代理人弁護士を通じて、Xの再雇用が可能である旨の連絡をしたが、Xがこれを拒絶したことが認められるが、Y社の当該連絡はあくまでも平成23年10月31日付け退職を前提とした再雇用の申出であって、Xによる当該拒絶をもって本件雇用契約に基づくXの就労意思の欠缺を基礎付ける事実と評価すべきではない

4 本件解雇は、XがY社から紹介を受けた2つの紹介先を検討すらしないまま辞退したことを踏まえ、Y社においてXに就労意思がないものと判断したことに端を発していると認められるところ、Y社がXの就労意思ないし退職意思を慎重に検討しないまま本件解雇に至っているという点は相当でないものと認められるが、上記事実経過によれば、本件解雇日後の不就労期間の賃金が填補されることとなることを前提として、さらに慰謝料等の請求を認めるべき程の不法行為法上の違法性があるとまでは認められないというべきである。

上記判例のポイント3の視点は参考になりますね。

バックペイとは別に慰謝料を認めないのは、通常の裁判例と同様です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇127(財団法人日本相撲協会事件)

おはようございます。 

さて、今日は、故意による無気力相撲を行ったことを理由とする引退勧告に応じなかった力士の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

財団法人日本相撲協会事件(東京地裁平成24年5月24日・判タ1393号138頁)

【事案の概要】

本件は、力士であるXが故意による無気力相撲を行ったことを理由とする引退勧告に応じなかったことがY社の秩序を乱す行為であるとして、Y社がXを解雇したところ、Xが本件解雇は無効であると主張して、Y社に対し、地位確認及び解雇後の給与等の支払並びに不法行為又は債務不履行に基づく慰謝料等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 本場所相撲は、力士の技量を審査するためのものであり、その勝星により当該力士の階級順位の昇降が決定され、当該力士の給与額等その待遇を左右するものであり、Y社に所属する各力士は、それが故に若いころから日々厳しい鍛錬に耐えて階級順位を上げるために全力を尽くすのである。またそうであるが故にY社が興行する本場所相撲は、わが国で国技と称せられる相撲のうちの最高水準のものであるとして、世間から注目され、国民の間に人気を保っているのであって、本場所相撲の興行をしているY社にとって、特に「故意による無気力相撲懲罰規定」と相撲競技監察委員会を設けて本場所相撲における故意による無気力相撲を禁止することは、何物にも替え難い重要な意味を持っているといわなければならない。そうすると、Xが本場所相撲である本件取組において、故意による無気力相撲を行ったことは、Y社の存立基盤に影響を与え得るものであって、X・Y社間の信頼関係を大きく損ねる事情にほかならず、継続的な契約関係である本件役務提供契約の維持を困難にすると認めるだけの合理的な理由に当たるものということができるのである。

2 Xは、過去に故意による無気力相撲を行った力士がある程度の数いたのに、これを理由として解雇された者がいないのであって、Y社が故意による無気力相撲を行うことを黙認していたと主張する。確かに、C及びBの各供述のみを見ても、X(ないしこの機会に処分を受けた力士)以外にも、過去に故意による無気力相撲を行った力士がいたことは、はなはだ遺憾ながら充分に窺うことができる。しかしながら、上記のようなY社にとって故意による無気力相撲の有する意味あいを考慮すれば、過去に、又はXの他に、故意による無気力相撲に関与した者がいるからといって、そこから直ちにXに対する本件解雇が、社会通念上相当でないと断ずることはできないし、Y社としては、具体的な取組に関して、証拠もない力士に対して、故意による無気力相撲に関与したとして処分を行うことはできない以上、結果として故意による無気力相撲に関与した力士が見逃されたとしても、それから直ちに、本件解雇が違法性を帯びると評価することはできない

上記判例のポイント1の評価のしかたは参考になります。

解雇の合理性を主張するために、これでもかというくらい掘り下げる姿勢は勉強になります。

また、解雇事件では、労働者側が相当性を争う際、過去の事案との比較をすることがあります。

しかし、事案がそれぞれ異なるのが普通ですので、過去の事案と比べて処分が重いということだけで簡単に解雇が無効になるわけではありません。

なお、原告は、控訴しましたが、控訴審でも解雇は有効と判断されています(控訴棄却)。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇126(財団法人日本相撲協会事件)

おはようございます。 あけましておめでとうございます。

本日から事務所が動きます。 本年もよろしくお願いいたします。

__

←毎年12月31日、母親を連れて、法多山に行きます。母が元気なうちは、一緒に行くと決めています。

法多山の階段をゆっくり上っている母を見ていると、年をとったな、と思います。

歩けなくなったら、おんぶして連れて行こうと思います。 いつまでも元気でいてください。

今日は午前中は、債務整理の打合せが1件入っています。

午後は、成年後見の打合せが1件、新規相談が1件入っています。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は野球賭博への関与等を理由とする力士の懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

財団法人日本相撲協会事件(東京地裁平成25年9月12日・労経速2191号11頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で力士所属契約を締結したY社所属の力士であるXが、Y社がした懲戒処分としての解雇が無効であると主張して、Y社に対し、主位的請求として、Xの番附階級が大関であることの確認並びに未払賃金、旅費及び日当、交通費の支払等を求め、Xの番附階級が大関であることの確認請求が認容されない場合に備えて予備的請求1として、Y社の寄附行為36条に定める力士としての権利を有することの確認を求め、主位的請求及び予備的請求1ががいずれも認容されない場合に備えた予備的請求2として、本件所属契約が終了したことを前提とする力士老金及び勤続加算金、預かり懸賞金の支払等を求める事案である。

なお、Y社のXに対する処分事由は、①野球賭博を行ったこと、②①について理事会での事情聴取における虚偽申告、③自らの野球賭博に関する恐喝事件の現場での暴力団関係者と疑われるものとの協議である。これらの事由により、相撲の本質をわきまえず、Y社の信用もしくは名誉を毀損するがごとき行動をなしたとして、Y社理事会の決議によりXに対し、本件解雇の意思表示をしたものである。

【裁判所の判断】

請求棄却
→懲戒解雇は有効

【判例のポイント】

1 Y社理事会は、Y社及び特別調査委員会による調査結果にXの弁明を加味した上で、本件処分事由がいずれもあると認定し、Xに酌むべき事情があるかどうかを含めて討議した結果、Xに対する懲戒処分として解雇(退職金は全額支給するが、功労金は支給しない。)が相当であると議決し、Y社は、Xに対し、本件解雇の意思表示をしたことが認められるところ、本件処分事由の非違行為としての重大性に加えて、Y社所属の力士の頂点である大関という地位にあったXの立場、本件処分事由がY社に及ぼした結果及び社会的影響の大きさに照らせば、XにはY社における懲戒処分歴がないこと、その他本件に顕れたすべての事情を考慮しても、Y社が、Xに対し、Y社寄附行為施行細則93条が規定する懲戒処分として本件解雇をしたことは相当であるというべきである

2 Xは、本件解雇が、Xとの間の本件所属契約の解雇件又は解除権を放棄するとの合意に反し、あるいは、本件野球賭博に関与したとの申告をすれば、厳重注意にとどめるという利益誘導又は偽計を用いたものであるから、禁反言に反し、信義則に反すると主張する。
・・・しかし、・・・厳重注意で済ませるとの誘引をしたことがあるとしても、その誘引の対象には、Xが含まれていなかったものと認めるのが合理的である。
仮に、Xが、同日までに本件野球賭博への参加を申告すれば、厳重注意にとどまるのではないかとの期待を有していたとしても、Xについては、すでに公表された本件記事においてその中心人物として名前が記載され、Y社理事会からの事情聴取を受けるなどしており、客観的にみても、Y社が厳重注意という措置の前提としていた自主申告をすることを許容される状況にあったとはいえないことY社は、Xが恐喝被害を相談した警察等の情報から、Xの本件野球賭博への参加につき既に疑いを有しており、Xからの申告の有無が、現にXが行っていた本件野球賭博への参加に対してY社が何らかの処分を行うための必須の要素であったとはいい難いことを考慮すると、Xが、仮に上記のような期待を有していたとしても、それは、Y社の懲戒権限を制約するなどして保護しなければならないものとはいえず、また、本件処分を違法、無効たらしめるような手続き違背に当たるともいい難い。

力士に対する処分に関する裁判例をいくつか出ています。

今回の事案では、上記判例のポイント2での裁判所の切り返しが参考になりますね。

非常に雄弁です。

解雇125(秋本製作所事件)

おはようございます。 今年最後の1週間ですね。今週もがんばっていきましょう。

さて、今日は、分会長に対する非違行為等を理由とする降格・解雇等に関する裁判例を見てみましょう。

秋本製作所事件(千葉地裁松戸支部平成25年3月29日・労判1078号48頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社から降格処分を受けて賃金及び賞与を減額された上、普通解雇されたことについて、①賃金減額及び賞与減額は、そもそもY社にその権限がなく、仮に権限があったとしても人事権を濫用してされたものであるから無効であり、②上記普通解雇は、解雇事由が存在せず、仮に存在したとしても解雇権を濫用してされたものであり、不当労働行為にも該当するものであるから無効であるなどと主張して、Y社に対し、(1)雇用契約上の地位にあることの確認を求めるとともに、(2)平成20年8月以降減額されたことによる賃金未払分(月額15万円)及びこれに対する遅延損害金、(3)平成19年以降減額されたことによる賞与未払分及びこれに対する遅延損害金などの支払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

降格処分、解雇はいずれも無効

賞与の減額分の支払請求は棄却

【判例のポイント】

1 人事権の行使としての降格処分は、労働者を特定の職務やポストのために雇い入れるのではなく、職業能力の発展に応じて各種の職務やポストに配置していく長期雇用システムの下においては、雇用契約上、使用者の権限として当然に予定されているということができ、その権限の行使については、使用者に裁量権が認められるというべきである。そうすると人事権の行使としてされた本件降格処分の有効性については、その人事権の行使に裁量権の逸脱又は濫用があるか否かという観点から判断していくべきである。そして、その判断は、使用者側の人事権の行使についての業務上・組織上の必要性の有無・程度、労働者がその職務・地位にふさわしい能力・適性を有するか否か、労働者の受ける不利益の性質・程度等の諸点を総合してされるべきものである

2 本件解雇事由(ア)(懲戒処分後の就労拒否)及び(イ)(出勤停止期間中の出勤等)に係るXの行為は、ずれもY社の業務上の指示・命令に従わず、会社の秩序を乱すものであって、本件解雇に至る経緯に照らしても、本件解雇の主たる理由になったものということができる。
しかしながら、本件解雇事由(ア)については、本件解雇の際にXに示された事実自体についてはこれを認めることができないのであり、就業規則所定の解雇事由に該当する行為として認められるのは、懲戒処分2で既に制裁を受けた行為であって、解雇の理由としてこれを重視するのは相当でないというべきである
・・・以上の点を考慮すると、本件解雇事由として認められるXの行為は、いずれも解雇を相当とする重大なものではないのであって、これらの事実を総合し、かつ、本件情状事由を考慮しても、Xに対して解雇をもって対処するのは著しく不合理で、社会通念上相当性を欠くといわざるを得ない。したがって、本件解雇は、解雇権を濫用したものである。

本件では、Y社が数多くの解雇事由を主張しましたが、その多くが就業規則所定の解雇事由とは認められていません。

また、解雇事由と認められた数少ない事実についても、それだけで解雇とするのは不十分なものであるため、相当性を欠くという理由から解雇は無効と判断されています。

解雇事由については、単純な足し算ではないので、1つ1つの事実が解雇事由とはならない場合には、何百個主張しても、解雇は有効にはなりません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇124(北港観光バス(休職期間満了)事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう!!

さて、今日は、休職期間満了による自然退職扱いに関する裁判例を見てみましょう。

北港観光バス(休職期間満了)事件(大阪地裁平成25年1月18日・労判1077号84頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結していたXが、Y社から休職期間満了を理由とする退職通知を受けたのに対し、Y社から休職を命じられたことはないこと、仮に命じられたとしても休職期間の終期は定まっていなかったから休職期間満了に当たらないこと、さらに、仮に休職期間が満了していたとしてもその事件で復職は可能であったことから、当該退職通知は、実質的には無効な解雇の意思表示であることを理由として、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認および退職扱いを受けた後の賃金の支払を求めるとともに、Y社のかかる取扱いが不法行為に当たるとして、慰謝料の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

自然退職扱いは無効

慰謝料請求は棄却

【判例のポイント】

1 使用者が、休職期間満了により労働者を退職扱いとするためには、労働者に就業規則上の休職事由が存在すること、使用者が休職命令を発したこと及び休職期間が満了したことが必要であり、これらの要件を満たす場合に、労働者が休職期間満了による退職の効果を否定するためには、休職期間満了の時点で就労が可能であったことを立証する必要がある。

2 Xが通勤中に事故に遭い、翌日から欠勤していたが、職場復帰の申出をしたところ、XからY社に診断書の提出がされなかったとして、Y社が本件事故の5か月後である平成23年2月2日をもって、Xが休職期間満了で自然退職扱いとされたことにつき、Xの本件事故はY社就業規則の休職事由に該当するが、Y社がXに対し、明示的に就業規則に基づく休職を命じた事実は認められないし、仮に、黙示的に休職命令が発せられていたと評価できるとしても、そのことから当然に、休職期間が平成23年2月2日で満了したと認められるものではなく、さらに、2人の医師が就労が可能であったことを証明しているのであり、他方、Xが復職を申し出ているのであるから、Xは休職期間満了時に復職が可能であったといえる。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇123(学校法人専修大学事件)

おはようございます。

さて、今日は、休業期間満了後になされた打切補償による解雇に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人専修大学事件(東京高裁平成25年7月10日・労判1076号93頁)

【事案の概要】

本件は、Y大学が、業務上疾病(頸肩腕症候群)により療養のため休業中で労災保険給付(療養補償給付、休業補償給付)を受けているXに対し、その休業期間満了後、Y大学の災害補償規程に基づき、労基法81条所定の打切補償を支払って行った平成23年10月31日付け解雇は解雇権の濫用にも当たらず有効であるとして、同日以降の地位不存在確認を求めて本訴を提起し、これに対し、Xは、同条所定の「労基法75条の規定によって補償を受ける労働者」に該当せず、本件解雇は労基法19条1項本文に違反し無効であるとして、Xが地位確認並びにリハビリ就労拒否、不当解雇等を理由とする損害賠償及びこれに係る遅延損害金の各支払を求めて反訴を提起したものである。

Y大学は、上記本訴を取り下げ、Xはこれに同意したため、本件請求は、上記反訴請求のみとなった。

本件の争点は、労基法19条1項但書前段にいう同法81条の打切補償の対象となる労働者とは、同条の文言どおり同法75条による使用者からの療養補償を受ける労働者に限られるのか(Xの主張)、労災保険法上の保険給付(療養補償給付)を受ける労働者も含まれるか(Y大学の主張)である

【裁判所の判断】

控訴棄却(解雇は無効)

【判例のポイント】

1 労基法81条は、同法の「第75条の規定によって補償を受ける労働者」が療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病が治らない場合において、打切補償を支払うことができる旨を定めており、労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付を受けている労働者については何ら触れていない。また、労基法84条1項は、労災保険法に基づいて災害補償に相当する給付がなされるべきものである場合には、使用者はこの災害補償をする義務を免れるものとしているにとどまり、この場合に使用者が災害補償を行ったものとみなすなどとは規定していない。そうすると、労基法の文言上、労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付を受けている労働者が労基法81条所定の「第75条の規定によって補償を受ける労働者」に該当するものと解することは困難というほかはない

2 このように解すると、使用者は、療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病が治らずに労働ができない労働者に対し、災害補償を行っている場合には打切補償を支払うことにより解雇することが可能となるが、労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付がなされている場合には打切補償の支払によって解雇することができないこととなる。しかし、労基法19条1項ただし書前段の打切補償の支払による解雇制限解除の趣旨は、療養が長期化した場合に使用者の災害補償の負担を軽減することにあると解されるので、このような差が儲けられたことは合理的といえる。もっとも、労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付がなされている場合においても、雇用関係が継続する限り、使用者は社会保険料等を負担し続けなければならない。しかし、使用者の負担がこうした範囲にとどまる限りにおいては、症状が未だ固定せず回復する可能性がある労働者について解雇制限を解除せず、その職場への復帰の可能性を維持して労働者を保護する趣旨によるものと解されるのであって、使用者による社会保険料等の負担が不合理なものとはいえない

3 また、前記のように解すると、療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病が治らずに労働ができない労働者について、傷病補償年金の支給がされている場合には打切補償を支払ったものとみなされて解雇が可能となるのに対し、療養補償給付及び休業補償給付の支給がなされているにとどまる場合には使用者が現実に打切補償を支払っても解雇することができないという大きな差が生じることとなる。しかし、症状が厚生労働省令で定める重篤な傷病等級に該当する場合においては、復職の可能性が低いものとして雇用関係を解消することを認めるのに対し、症状がそこまで重くない場合には、復職の可能性を維持して労働者を保護しようとする趣旨によるものと解されるのであって、上記のような差異も合理的というべきである
したがって、法は、以上のような趣旨から、療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病が治らずに労働が出来ない労働者が労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付を受給している場合においては、使用者が打切補償を支払うことにより解雇することはできないものと定めているものと解するのが相当である。

一審の判決については、こちらを参照。

文理解釈に徹しています。

そして、文理解釈によると不合理な結果についても、ちゃんと説明をし、不合理ではないと結論付けています。

無理な解釈をするよりも誠実だと思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。