Category Archives: 解雇

解雇103(報徳学園(雇止め)事件)

おはようございます。

さて、今日は、試用期間としての有期常勤講師制度と雇止めの可否に関する裁判例を見てみましょう。

報徳学園(雇止め)事件(大阪高裁平成22年2月12日・労判1062号71頁)

【事案の概要】

本件は、平成16年4月に約1年間の雇用期限付で、Y社の美術科常勤講師として採用され、その後も、同様の雇用契約を2度にわたり締結していたXが、Y社に、19年度の雇用契約の締結を拒絶(雇止め)されたことに関し、それが雇用契約の更新拒絶に該当するところ、同更新拒絶には合理的理由がなく解雇権濫用法理の適用または準用により無効であると主張して、XがY社に対し雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認および本件雇止め後である平成19年4月1日以降の賃金の支払を求めた事案である。

本件の争点は、本件雇止めの有効性である。具体的には、(1)本件各雇用契約に解雇権濫用の法理が適用または類推適用されるか、(2)解雇権濫用の法理の適用または類推適用が認められる場合、本件雇止めは客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認することができないか、である。

なお、第一審は、Xの地位確認請求等を認容した。

【裁判所の判断】

雇止めは有効

【判例のポイント】

1 有期雇用契約が多数回にわたって反復更新されるなどして期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態となり、当事者の合理的な意思解釈としては実質的に期間の定めのない契約を締結していたものと認定される場合、雇止めの意思表示は実質的には解雇の意思表示に相当し、その効力を判断するに当たり、解雇に関する法理を類推適用するときがある(最高裁昭和49年7月22日)。また、期間の定めのない契約と実質的に異ならないとまで認められない場合であっても、当該雇用関係がある程度の継続が期待されていたものであり、現に契約が何度か更新されているような場合、契約期間満了による雇止めには解雇に関する法理が類推されることがある(最高裁昭和61年12月4日)。そして、期間の定めのない雇用契約において、使用者の解雇権の行使が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、当該解雇権の行使は権利の濫用として無効となり(最高裁昭和50年4月25日)、上記類推適用の場合も同様と解されるが、ただ、期間の定めのない契約と実質的に異ならないとまで認められない場合には、雇止めの効力を判断すべき基準は、いわゆる終身雇用の期待の下に締結された期間の定めのない労働契約における解雇とは合理的な差異がある(最高裁昭和61年12月4日)。

2 Y社の常勤講師制度が、専任教諭の実質的試用期間とするために設けられたとは認められない。このような期間の定めのある教員の雇用は、一般に、職員構成の変動のほか、年度ごとの生徒数や教科編成の変動等に対応するためと認めるのが社会の実態を反映したものであるが、本件において、常勤講師契約やY社の内部規則等に常勤講師契約が専任教諭採用の手段であることを示す規定がある等、Y社がこれと異なるものとして上記制度を導入したと認めるに足りる事情はない。Y社が、常勤講師としての勤務状況を判断材料として、その中から専任教諭を採用した実例があったことは事実であるが、このような実例があったことは、上記のような常勤講師の制度を採用した目的ないし有期雇用契約であることと矛盾しない

3 ・・・このような経緯に照らすと、平成16年度雇用契約の時点では、Xが上記期待を持ったことの合理性があったかもしれないが、それは主としてB校長の言動に基づく主観的なものであって、常勤講師制度の目的等からの客観的根拠があったわけではない。そして、その後2年度にわたって専任教諭に採用されず、かえって、平成18年度雇用契約に先立ち、C校長及びG中学校長の上記告知を受け、さらに平成17年度限りで1名の常勤講師が雇止めとなったことを考慮すれば、少なくとも平成18年度には、Xの上記期待は減弱ないし消滅していたもの認めるのが相当であり、少なくとも合理的な根拠が乏しいものになっていたというべきである。

高裁で敗訴したXは、その後、最高裁に対し、上告受理申立てをしましたが、平成22年9月9日、不受理の決定が出されています。

本件では、Xの期待は主観的であり、客観的根拠があったわけではないとして法的に保護されるものではないという判断をされています。

雇止めに関する裁判例を相当数出てきており、企業が事前にかなり対策をとった上で、雇止めに踏み切っていることがうかがわれる事案も少なくありません。

本田技研工業事件がその典型ですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇102(ブランドダイアログ事件)

おはようございます。

さて、今日は情報サービス会社部長に対する懲戒解雇等の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

ブランドダイアログ事件(東京地裁平成24年8月28日・労判1060号63頁)

【事案の概要】

本件は、Y社のインタラクティブコミュニケーショングループ(ICG)2部の部長として雇用されたXが、平成22年4月にY社から受けた懲戒解雇処分が無効であるとして、Y社に対し、雇用契約上の地位確認および解雇後の賃金の支払いを求めるとともに、上記懲戒解雇に先立ち同年3月末に受けた降格・降給処分が無効であるとして、Y社に対し、上記部長の地位にあることおよび上記降格・降給処分前の地位にあることおよび上記降格・降給処分前の額である月額48万円の基本給の支払いを受ける地位にあることの確認ならびに賃金の支払を求め、さらに、上記懲戒解雇等がY社の不法行為に当たるとして、損害賠償を請求した事案である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

降格・降給処分も無効

不法行為の成立は否定

【判例のポイント】

1 一般に降格・降給処分のうちでも、使用者が労働者の職位や役職を引き下げることは、人事権の行使として、就業規則等に根拠規定がなくても行い得ると解される。しかし、使用者が有する人事権といえども無制限に認められるわけではなく、その有する裁量権の範囲を逸脱したり、またはその裁量権を濫用したと認められる場合には、その降格処分は無効となるというべきである。特に、降格に伴って労働者の給与も減額されるなど不利益を被る場合には、その降格に合理的な理由があるか否かは、その不利益の程度も勘案しつつ、それに応じて判断されるべきである

2 ・・・以上のとおり、Y社が本件降格・降給処分の理由として主張する具体的事実のうち、Xの責めに帰することができる事情は前記の宣伝メールに対する顧客からの苦情のみであって、他の事実についてはいずれもXの責めに帰するものと認めることはできない。しかも、上記宣伝メールの苦情といっても、どの程度広範囲の顧客に対し送信したかについては証拠上何ら明らかでないし、Xが、退会した顧客に対し故意にそのようなメールを送信する合理的な理由もないことからすれば、Y社が主張するように、これをスパムまがいと決めつけることは、およそ行き過ぎというべきである
他方で、本件降格・降給処分により、Xは、部長職から一般職員に降格され、役職手当相当額5万円を減額されている。この5万円という減額幅は相当に大きいものといわざるを得ず、Xの部長職からの降格がかような給与減額を伴う処分であることからすれば、使用者固有の権限としての人事権の行使といえども、相応の合理性が要求されるというべきであって、そのような合理性が認められない場合には、過度に不利益を課すものとして、裁量権の濫用に当たるというべきである。
しかるに、本件降格・降給処分の理由としてXの責めに帰すべき事情と認められるのは前記の限度であって、これのみでは、上記のような大きな不利益を伴う本件降格・降給処分の合理性を基礎付けることはできないというべきである。・・・したがって、本件降格・降給処分は、裁量権の濫用というべきものであって、これを無効と認めるのが相当である。

3 使用者による懲戒権の行使は、企業秩序維持の観点から労働契約関係に基づく使用者の権能として行われるものであるが、就業規則所定の懲戒事由該当事実が存する場合であっても、当該行為の性質や態様等の状況に照らし、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当性を欠くと認められる場合には権利の濫用に当たるものとして無効になる(労働契約法15条)。特に、懲戒解雇は、労働者にとって最も厳しい制裁手段であり、多くの局面で当該労働者に不利益を与えるのが実情であることにかんがみれば、上記の権利の濫用に当たるか否かについては、その行為により使用者側が受けた被害の重大性、回復可能性はもとより、そのような行動に出た動機や行為態様を子細に検討した上で判断する必要があるというべきである

4 ・・・以上にみたように、Xの本件顧客リスト送信行為が、Y社就業規則所定の懲戒事由に該当する行為であることは否定できないものの、その動機がY社における営業を推進するためであって不正なものとはいえないことや、Y社に実害が生じていないことなどをはじめとする諸事情を総合考慮すれば、Xを懲戒解雇に処することは酷に失するといわざるを得ない。したがって、本件懲戒解雇は、社会通念上相当であるということはできないから、懲戒権の濫用に当たり、無効と認めるのが相当である。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇101(大阪市(河川事務所職員・懲戒免職)事件)

おはようございます。 

さて、今日は、河川事務所技能職員に対する懲戒免職処分の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

大阪市(河川事務所職員・懲戒免職)事件(大阪地裁平成24年8月29日・労判1060号37頁)

【事案の概要】

本件は、大阪市長から平成22年12月、懲戒免職処分を受けた同市技能職員のXが、Y社(大阪市)に対し、本件処分はその理由としている事実の誤認に加え、裁量権の逸脱または濫用の違法があるから無効であるとして、同処分の取消しを求めた事案である。

【裁判所の判断】

懲戒免職処分は無効

【判例のポイント】

1 地方公務員につき、地方公務員法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、平素から庁内の事情に通暁し、職員の指揮監督に当たる懲戒権者の裁量に任されており、懲戒権者は、懲戒行為に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の当該行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を総合的に考慮して、懲戒処分を行うかどうか、行う場合にいかなる処分を選択すべきかを資料によって決定することができるものと解するべきである。したがって、裁判所が当該処分の適否を審査するに当たっては、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したと認められる場合に限り、違法であると判断すべきものである(最高裁平成2年1月18日)。
そして、懲戒免職処分は、被懲戒者の公務員たる地位を失わせるという重大な結果を招来するものであるから、懲戒処分として免職を選択するに当たっては、他の懲戒処分に比して特に慎重な配慮を要する

2 Xには本件処分理由である、本件領得行為及び本件粗暴行為が認められ、本件領得行為については、ジュース代領得行為及び物品領得行為のみならず、いわゆる不法領得の意思につき経済的用法に従って処分する意思を要しないとする立場(最高裁昭和24年3月8日)を前提とするとその全てについて遺失物横領罪が成立し、また、本件粗暴行為のうち、本件器物損壊行為については器物損壊罪が成立するものであり、また、本件暴言等についても、遅くとも平成21年秋ころから上司も含めた複数人に関する配船について、自己の意を通そうとするメールを送信するなど暴言や恫喝と評価せざるを得ない言動を繰り返しているものであって、その態様は悪質といわざるを得ず、これらのXの行為が公務員としての職務上の義務に違反し、Y社職員としてその職の信用を傷つけたことは明らかである

3 ・・・以上のとおり、本件処分理由の各事実はいずれも悪質であり、特に、その一部は、Y社において市立斎場事案やM川事務所事案といった組織的不祥事が続いて発覚したため服務規律の徹底に努めていた最中に行われたことを考慮したとしても、他方で、Xは従前懲戒処分歴がなく、上記各事実はいずれもそれだけでは直ちに懲戒免職処分に付されるべき重大な非違行為とまで評価できるものではなく、そもそも、Y社においても、上記各事実を招いたことについては、応分の帰責事由が認められるなど、処分量定上Xに有利な事情をも考慮すれば、他にXが主張する事情を考慮するまでもなく、懲戒処分歴のないXに厚生の機会を与えることなく直ちに懲戒免職とした本件処分は重きに失するものといわざるを得ず、社会通念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を逸脱しこれを濫用したものとして違法というべきである

行政に関する判断については、裁量権の逸脱濫用の有無を裁判所が判断する方法をとります。

また、当然のことながら、懲戒免職処分も、懲戒解雇と同様に、その有効性については厳格に判断されます。

本事案においては、Xについて一定の非違行為を認定しつつも、懲戒免職とするのは重きに失すると判断しました。

懲戒解雇事案でもこのような相当性を否定し、解雇を無効と判断されることがあります。

懲戒処分の選択の際は、十分注意してください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇100(日本通信事件)

おはようございます。

さて、今日は、社内ネットワークシステムに関するアクセス管理者権限の抹消命令拒否を理由とする懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本通信事件(東京地裁平成24年11月30日・労経速2162号8頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、社内ネットワークシステムに関するアクセス管理者権限を不正に保持していることを理由に、管理者権限の抹消を命じる業務命令を拒否したことを理由に懲戒解雇されたXが、当該懲戒解雇は無効な解雇であるとして、Y社に対し、地位確認並びに解雇後の平成23年10月9日以降の未払賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めて本訴を提起したところ、Y社が、Xらが行った社内ネットワークシステムに関するアクセス管理権限の不正及びその保持等の共同不法行為により、同システムの再構築等を余儀なくされ、これにより多大な損害を被ったとして、Xらに対し、上記共同不法行為に基づき、損害賠償金等の支払いを求めて反訴を提起したものである。

なお、Y社は、本件懲戒解雇の他に、懲戒解雇の意思表示には、予備的に就業規則に基づく普通解雇の意思表示も含まれる(本件普通解雇1)と主張し、また、平成23年4月13日付け答弁書をもって、仮に懲戒解雇が無効であるとしても本件業務命令を正当な理由もなく拒否する行為は、就業規則64条4号、5号に該当するとして予備的に普通解雇の意思表示を行った(本件普通解雇2)。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

本件普通解雇1の主張は意思表示自体が存在しない

本件普通解雇2は無効

【判例のポイント】

1 労契法15条は、(1)懲戒処分の根拠規定が存在していること(有効要件(1))を前提に、(2)懲戒事由(=「客観的に合理的な理由」があること。有効要件(2))、(3)処分の相当性(「社会通念上相当」と認められる場合であること。有効要件(3))の3つの有効要件から構成されているものと解されるところ(いわゆる抗弁説)、本件懲戒解雇においては、上記有効要件(1)を満たすことは争いがなく、したがって、上記有効要件(2)及び(3)を満たすか否かが問題となる。

2 使用者が懲戒解雇という極めて重大な制裁罰を科しうる実質的な根拠は、企業秩序を侵害する重大な危険性を有している点にあるものと考えられる。そうだとすると懲戒解雇権は、単に労働者が雇用契約上の義務に違反したというだけでは足りず、当該非違行為が企業秩序を現実に侵害する事態が発生しているか、あるいは少なくとも、そうした事態が発生する具体的かつ現実的な危険性が認められる場合に限り発動することができるものと解され、この理は、本件就業規則59条所定の懲戒解雇事由の判断にも妥当する。

3 当裁判所は、本件各業務命令違反について、Y社の企業秩序を現実に侵害し、あるいは、その具体的かつ現実的な危険性を有する行為であるとは認められないものと判断したが、ただ、本件管理者権限の重要性にかんがみると、これを不当に保持し、その抹消に応じようとしない本件各業務命令違反は、それ自体、本件社内ネットワークシステムに支えられたY社の企業秩序を現実に侵害する行為であるとの見解も成り立ち得ないものではない。しかし仮に、この見解を採用し、本件各業務命令違反について本件就業規則59条13号の実質的該当性を肯定したとしても、本件の場合、少なくとも客観的には、Xが本件管理者権限の抹消に応じない場合であっても、Y社は、本件各残務整理作業の責任者であるBに対し、パスワードの開示を求め、本件管理者権限の抹消を命じることにより、Xを含め第三者からの不正アクセスを防止、社団する手段を有していたことにかんがみると最終的に本件各業務命令違反に対して懲戒解雇という「最終の手段」(ultima ratio)を選択するか否かを決するに当たっても、実態的な相当性はもとより、手続的な相当性も考慮に入れ、より慎重な判断が求められるものというべきである

4 懲戒処分(とりわけ懲戒解雇)は、刑罰に類似する制裁罰としての性格を有するものである以上、使用者は、実質的な弁明が行われるよう、その機会を付与すべきものと解され、その手続に看過し難い瑕疵が認められる場合には、当該懲戒処分は手続的に相当性に欠け、それだけでも無効原因を構成し得るものと解されるところ、本件懲戒解雇に当たって、Y社は、Xに対し、実質的な弁明を行う機会を付与したものとはいい難く、その手続には看過し難い瑕疵があるものといわざるを得ない。

5 懲戒解雇と普通解雇は、いずれも労働契約の終了を法的効果としている点で共通する。しかし民法の解雇自由の原則の中で行われる中途解約の意思表示である普通解雇の意思表示と、独自の制裁罰である懲戒解雇の意思表示とは法的性質が異なるのであるから、仮に退職金制度が存在しないなど機能の点で実質的な差異は認められないにしても軽々に両者の間に無効行為の転換の法理を適用し、懲戒解雇が無効である場合であっても普通解雇としての効力維持を容認することは、法的に許されないものというべきである
もっとも、上記のとおり無効行為の転換の法理の適用は難しいとしても、事実認定ないし合理的な意思解釈の問題として、懲戒解雇の意思表示の中に普通解雇のそれが含まれてい るものと認める余地はないではない。しかし両者の法的性質上の差異を考慮すると、普通解雇の意思表示が含まれていることが明示されているか、あるいはこれと同視し得る特別の事情が認められる場合を除いて、懲戒解雇の意思表示の中に普通解雇のそれが含まれているものと認めることはできない

担当裁判官は伊良原裁判官です。

ここまで詳細に事実認定をするのは、本当にすごいと思います。

懲戒解雇に関する考え方がいっぱい詰まっており、非常に勉強になります。

是非、参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇99(学校法人専修大学事件)

おはようございます。

さて、今日は、労災保険給付の受給労働者に打切補償を支払って行った解雇に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人専修大学事件(東京地裁平成24年9月28日・労判1062号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y大学が、業務上疾病(頸肩腕症候群)により療養のため休業中で労災保険給付(療養補償給付、休業補償給付)を受けているXに対し、その休業期間満了後、Y大学の災害補償規程に基づき、労基法81条所定の打切補償を支払って行った平成23年10月31日付け解雇は解雇権の濫用にも当たらず有効であるとして、同日以降の地位不存在確認を求めて本訴を提起し、これに対し、Xは、同条所定の「労基法75条の規定によって補償を受ける労働者」に該当せず、本件解雇は労基法19条1項本文に違反し無効であるとして、Xが地位確認並びにリハビリ就労拒否、不当解雇等を理由とする損害賠償及びこれに係る遅延損害金の各支払を求めて反訴を提起したものである。

Y大学は、上記本訴を取り下げ、Xはこれに同意したため、本件請求は、上記反訴請求のみとなった。

本件の争点は、労基法19条1項但書前段にいう同法81条の打切補償の対象となる労働者とは、同条の文言どおり同法75条による使用者からの療養補償を受ける労働者に限られるのか(Xの主張)、労災保険法上の保険給付(療養補償給付)を受ける労働者も含まれるか(Y大学の主張)である

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 労災保険の給付体系は、労基法の補償体系とは独自に拡充されることによって成立、発展を遂げた制度であって、労基法による災害補償制度から直接には派生したものではなく、両制度は、使用者の補償責任の法理を共通の基盤としつつも、基本的には、並行して機能する独自の制度であると解するのが相当であって、両制度がその基盤とする法律関係原理(補償責任の法理)を一にしており、かつ相互に法的関連性をうかがわせる規定(労災保険法12条の8第2項、労基法84条1項等)が存在するからといって、そのことから直ちに「労災保険給付を受けている労働者」と「労基法上の災害補償を受けている労働者」を軽々に同一視し、その法的取扱いを等しいとする必然性はない

2 労基法81条は、単に労基法19条1項本文の解雇制限を解除するための要件を定めるだけではなく、労基法19条1項本文違反の解雇を行った使用者を処罰するという公法的効力、すなわち処罰の範囲を画するための要件でもあるから、労基法81条にいう「(労基法)第75条の規定(療養補償)によって補償を受ける労働者」の範囲は、原則として文理解釈によって決せられるべきである(罪刑法定主義)。

3 労基法81条の打切補償制度の趣旨は、療養給付を必要とする労災労働者の生活上の需要よりも、補償の長期化によって使用者の負担を軽減することに重点があり、その意味で、使用者の個別補償責任を規定する労基法上の災害補償の限界を示すものと解されるところ、労災保険制度は、使用者の災害補償責任(個別補償責任)を集団的に補填する責任保険的機能を有する制度であるから、使用者は、あくまで保険者たる政府に保険料を納付する義務を負っているだけであり、これを履行すれば足りるのであるから、「労災保険法第13条の規定(療養補償給付)によって療養の給付を受ける労働者」との関係では、当該使用者について補償の長期化による負担の軽減を考慮する必要はなく、労基法81条の規定の「第75条の規定(療養補償)によって補償を受ける労働者」とは、文字通り労基法75条の規定により療養補償を受けている労働者に限るものと解され、明文の規定もないのに、上記「(労基法)第75条の規定(療養補償)によって補償を受ける労働者」の範囲を拡張し、「労災保険法第13条の規定(療養補償給付)によって療養の給付を受ける労働者」と読み替えることは許されない

4 Xは、労基法81条の規定の「第75条の規定(療養補償)によって補償を受ける労働者」には該当せず、本件打切補償金の支払は、労基法19条ただし書前段にいう「使用者が、第81条の規定によって打切補償を支払う場合」に該当しないこととなり、同項本文所定の解雇制限は解除されず、これに対する本件解雇は無効である。

5 本件業務災害・休職の期間満了直前に、XはY大学に対しリハビリ就労させるように求めているが、Y大学がそのような要求に応じるべき法的義務を負っていたものとは解されず、Y大学のリハビリ就労拒否は、不法行為を構成しない。

この争点については、まだ定説というものがありません。

文理解釈からすれば、上記判断になりますが、本件と同様の事案では、打切補償を支払って解雇することは相当難しくなります(事実上、ほとんど不可能なくらい現実的でない)。

控訴審がどのような判断を示すか注目しています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇98(ネッツトヨタ札幌(諭旨退職処分)事件)

おはようございます。 

さて、今日は営業スタッフに対する諭旨退職処分の効力に関する裁判例を見てみましょう。

ネッツトヨタ札幌(諭旨退職処分)事件(札幌地裁平成24年6月5日・労判1058号88頁)

【事案の概要】

本件は、Y社にサービス担当の総合職エンジニアとして採用され、営業スタッフとして勤務していたXが、Y社から諭旨退職処分とする旨の意思表示をされたが、(1)同処分に不可欠な退職届を提出することもなかったから、同処分が効果を生じておらず、未だY社との間の雇用契約は終了していないし、(2)諭旨退職処分の効力が生じているとしても、同処分には客観的に合理的な理由がなく、社会通念上も相当であるといえないから、同処分が懲戒権の濫用により無効であると主張し、雇用契約に基づいて、同契約上の地位の保全と給与の仮払いとを求めた事案である。

【裁判所の判断】

諭旨退職処分は無効

【判例のポイント】

1 ・・・上記通知には、「貴殿は、本日まで、退職届を出していません。そこで、通知人会社は、貴殿に対し、本書送達後5日以内に、書面で退職届を提出するように、改めて、通知します。もしこの期間内に、貴殿から諭旨退職届のないときには、直ちに懲戒解雇となりますので、御留意下さい。」と記載されていると疎明されるから、それ自体、停止条件付きの懲戒解雇の意思表示と解することもできないものではない。また、Y社における従業員の退職については、自己都合退職について「本人の都合により、退職を願い出て会社の承認があったとき」と定められているほか、「その他相当の理由があるとき」と定められていると疎明される一方、諭旨退職の手続については、「諭旨のうえ退職させる」と規定されているのみであるから、Y社においては、諭旨退職の手続について必ずしも退職届の提出が必須のものとされているものではないと考えられる。そうすると、本件諭旨退職処分については、退職届の提出期限である平成23年12月30日の経過をもって、その効果が発生したものと解するのが相当である

2 本件においては、Xに雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めるべき保全の必要性があることを疎明するに足りる主張も疎明資料もない。

3 疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、Xは、妻の外、Xの父及び兄とともに二世帯住宅において生活を送っているが、X夫婦とXの父及び兄とは別々に生計を立てていること、X及び妻は、夫婦の生活費の外、同住宅を取得する際の兄名義の住宅ローン月額13万円のうち8万円並びに同住宅の光熱費等のうち燃料代及び回線使用料等を負担していること、Xの妻は、本件諭旨退職処分の後、失業するに至っているほか、Xの父及び兄からの援助も期待することができないこと、Xに貯蓄等の蓄えもないことが疎明される。このようなXの生活状況等に照らすと、本件においては、Xが請求する月額賃金にほぼ相当する額の仮払いを命ずるだけの保全の必要性があるということができる(一方で、月額賃金を超えて賞与等の仮払いを命ずるだけの保全の必要性についての具体的な主張も疎明もない。)が、一方で、本案審理の見込みに照らすと、賃金の仮払いは、平成24年6月から平成25年5月までに限って認めることが相当である。

本件は、仮処分事案です。

上記判例のポイント1は、おもしろい認定のしかたをしていますね。

「まあ、そうとも解釈できるね」という感じでしょうか。

仮処分事案ですので、被保全権利と保全の必要性について疎明しないといけません。

現在、私も2件、労働事件の仮処分事件をやっています(1つは労働者側、1つは使用者側)。

賃金仮払いの仮処分が認められると、労働者側とすると非常に助かる反面、使用者側とすると非常につらいところです。

自ずと攻防も激しくなります。

訴訟とは異なるポイントを押さえつつ、全力で戦うのみです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇97(World LSK事件)

おはようございます。 

さて、今日は、中途採用の内定取消しに対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

World LSK事件(東京地裁平成24年7月30日・労判1057号160頁)

【事案の概要】

Y社は、LEDの販売等を営む会社である。

Xは、Y社への採用が内定したが、平成23年9月、同内定を取り消された。

なお、Xは、Y社の入社面接時、A社で勤務しており、Y社からの内定を受けて、A社を退職している。

【裁判所の判断】

内定取消しは違法

Y社に対し約133万円の支払を命じた

【判例のポイント】

1 Y社代表者は、8月8日には具体的に確定した雇用条件でXを採用する旨の意思表示をしており、同時点で本件労働契約が成立したと認めるのが相当である。

2 Y社は、本件労働契約が成立しているにもかかわらず、Xに対し、Xの就業開始日の翌日である9月2日に突然、採用を取り消す旨の意思表示をし、また、その点について何ら合理性のある理由を説明していないから、Xに対し、違法な採用内定の取消しを行ったというべきであり、これと相当因果関係を有する損害の賠償責任を負う。

3 本件労働契約の内容からすれば、Xは、本来であれば、平成23年9月1日からY社で就業を開始し、基本給月額50万円を得られたはずであった上記給与を得られなかったこと、Xは、10月1日、別の会社に就職することができ、同社での給与は月額39万6100円であること、Y社における給与額とXが就職した会社における給与額との差額は、月額10万3900円であること、本件労働契約においては試用期間が3か月と定められていたことが認められる。
そうすると、Xは、少なくとも3か月はY社に勤務することができ、月額50万円の給与を得ることができたと認めるのが相当であるから、その逸失利益は、9月分の給与50万円及び2か月分の差額20万7800円(10万3900円×2か月)の合計70万円7800円と認めるのが相当である

4 Xは、Y社の採用内定に基づきA社を退職したこと、Y社による採用内定取消し後、再就職先を探し、東京都内の会社に就職したことが認められる。Xは、G市内で再就職先が見つからなかった旨主張するが、G市内において、再就職先がまったくなかったとは考え難く、転居費用については、Y社の違法行為と相当因果関係のある損害とは認め難い(なお、転居したことについては慰謝料算定の一事情として考慮する。)。

5 Xは、Y社の採用内定に基づき、前勤務先であるA社を退職し、Y社での就業準備を行ってきたにもかかわらず、一方的に採用内定を取り消された上、Y社社長からこの点に関する説明もなく、不誠実な対応をされたことなどにより精神的苦痛を被ったことが認められる。このXの精神的苦痛に対する慰謝料としては50万円が相当である。

内定取消しに関する裁判例です。

採用内定を受けた者の不利益を考えると、やはり合理的な理由のない内定取消しは許されるべきではありません。

使用者としては、十分注意してください。

また、上記判例のポイント4は、損害論のところで問題となりますね。

個々の事案において、どこまでを相当因果関係の範囲と認めるのかという点です。

参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇96(甲タクシー事件)

おはようございます
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←先日、修習生3人と「キャトルプレジール」に行ってきました

写真は、定番の「ガーリックチキン」です。 秀逸です。

私も修習生のときは、いろんな先生に食事に連れて行っていただきました。

今は、その恩返しを後輩にしています。 

今日は、午前中は、打合せが2件入っています。

午後は、清水で大学生等を対象とした「JOBコン」に参加します。

最近の学生がどんなことを考えているのか、とても興味があります。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は、タクシー運転手に対する懲戒解雇処分に関する裁判例を見てみましょう。

甲タクシー事件(千葉地裁平成24年11月5日・労経速2161号21頁)

【事案の概要】

Xは、平成22年10月夜間、タクシーを運転して、一方通行道路を逆走し、前方を走行していた自転車に対し、道路の端によけさせえようとして、警音器を鳴らす等しておあり運転をし、また、逆送を継続しながら、自転車を追尾し、自転車が停止した後、そのわずか数十㎝手前でタクシーを停車させる行為をした。

なお、Xは、本件請求と同旨の労働審判等を求めたが、労働審判委員会は、Xの申立てに係る請求をいずれも棄却するとの労働審判をしたところ、Xが、異議申立てをした。

Xの請求内容は、地位確認、賃金の請求、慰謝料50万円の請求である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効

【判例のポイント】

1 ・・・以上によれば、Xのこれらの行為は、本事件の際に本件タクシーが本件自転車に衝突したか否かにかかわらず、道路交通法を遵守し、安全運転を行い、交通事故の防止に努めるべきとする本件就業規則及び本件服務規程の定めに違反する行為と認められる
また、Xは、本事件の前にも、本件出勤停止処分(1)及び(2)という懲戒を受けており、その懲戒理由は、それぞれ、乗車拒否及び不当な料金の収受という、本件就業規則の定める違反行為に当たることが認められる。すなわち、Xは、本事件の前、本件就業規則の定める違反行為を繰り返したものと認められる

2 さらに、Xは、本事件の後、Y社代表者がXに対して指導をしたにもかかわらず、本件女性が、本件自転車を道路の端に寄せるなどして後方の本件タクシーに道を譲るという、本来そのような義務のない行為をしなかったことを批判するばかりか、本件女性が本件自転車を本件タクシーに衝突させようとしたなどと、本件女性を非難するばかりで、上記のとおり、道路交通法に違反し、危険な運転をしたことについては、反省の意思を何ら示さず、かえって、Y社代表者を誹謗中傷する言動に及んだものであり、タクシー事業を経営するY社の規律を全く顧みない言動を繰り返したものと認められる
以上に述べたところによれば、Xのこれらの行為は、Y社の重要な服務規律に違反し、さらに、本件就業規則の定める違反行為を繰り返し、会社の秩序等を乱したものとして、本件就業規則の定める懲戒解雇の事由に当たると認められる。

3 また、Y社においては、これまで、人身事故を起こした労働者や、乗務前の飲酒検査において基準を超えるアルコール量が検知された労働者らに対しても、けん責の懲戒しかされていなかったことが認められる。しかしながら、上記懲戒処分を受けたY社の労働者らが、当該懲戒を受けた際、当該懲戒処分について反省の意思を示さなかったとの事実や、それまでに本件就業規則等の定めに違反する行為を繰り返していたとの事実を認めるに足りる証拠はないのに対し、Xは、・・・に照らせば、このことによっても、本件解雇が不公平な懲戒であるとまでは認めるに足りない

4 Y社がXに対してして本件解雇は、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であるとは認められないものとはいえず、かえって、合理的かつ相当であり、やむを得ない懲戒処分と認められる。

本件は、本人訴訟です。

参考にすべき点としては、上記判例のポイント3でしょうか。

原告としては懲戒処分の相当性について争ったわけですが、否定されています。

懲戒事案は、個別性が高いため、本件事案が従前の事案と完全に同一なものでないことは明らかです。

また、従前の事案に対する処分が適切であったかすら判然としないのが通例のため、結果、主張立証を重ねても、本件事案の解決には影響しないことがほとんどだと思われます。

解雇95(コアズ事件)

おはようございます。

さて、今日は、営業開発部長の降給・降格処分と解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

コアズ事件(東京地裁平成24年7月17日・労判1057号38頁)

【事案の概要】

Y社は、警備業務等を業とする会社である。

Xは、平成20年2月頃、Y社に採用された後、営業開発部長として就労してきたが、降給処分を受け、営業開発部長から降格された後、解雇された。

Xは、上記降給、降格の各処分および解雇がいずれも無効であると主張して、Y社を相手として提訴した。

なお、Xは、本件訴訟係属中に、破産手続開始の申立をしたため、途中から破産管財人が訴訟手続を受継した。

【裁判所の判断】

給与の減額は無効

第一営業部長から「独任官」と称する地位への降格は無効

解雇は無効

【判例のポイント】

1 賃金が、労働者にとって最も重要な権利ないし労働条件の1つであることからすれば、上記給与規程の定めが存するとはいえ、その変更を、使用者の自由裁量で行うことが許容されていると解することはできず、そのような賃金の減額が許容されるのは、労働者側に生じる不利益を正当化するだけの合理的な事情が必要であり、そのような事情が認められない以上、同賃金減額は無効になると解するのが相当である。そして、そのような賃金減額の合理性の判断に当たっては、減額によって労働者が被る不利益の程度、労働者の勤務状況等その帰責性の有無及び程度、人事評価が適切になされているかという点など、その他両当事者の折衝の事情を総合考慮して判断されるべきであると解される。

2 ・・・以上を総合するに、まず、本件給与減額1については、その減額幅は30万円を超えるもので著しく大きく、これによりXの受ける不利益には甚大なものがあるといわざるを得ない。他方、Xの帰責性という点に関し、Y社主張にかかる10名の営業部長の採用という業務については、それが実現されなかった場合に給与減額等につながることが合意されていたとはいえない上、実質的にも、Y社において、給与減額の理由とすることは明らかに不合理である。また、Xの勤務状況、勤務態度等についてみても、Y社主張の客観性が担保されているとはいえない状況であるのみならず、恣意的な人事が行われている状況も窺われることからすれば、いずれも、かような多額の給与減額の根拠とはなり得ないものである。
なお、Y社は、Xが本件給与減額1の後、約1年以上も明確な異議を申し立てていないことを挙げて、同Xが同給与減額に同意していた旨主張する。仮に、かようなXの態度をもって同意と評価することができるにしても、同給与減額が大幅な減額である以上、それなりの合理的な事情に基づくのでなければ、真意に基づく同意があるとは推認し難いところ、前記のとおり、そのような合理的な事情は認められないのであるから、これを真意に基づく同意であると認めることはできない
これらの事情によれば、本件給与減額1は無効と認めるのが相当である。

3 職位の引下げとしての降格については、使用者は、人事権の行使として、広範な裁量権を有するが、その人事権行使も、裁量権の逸脱、濫用に当たる場合には無効になると解される。
これを本件についてみるに、Xは、平成22年4月に、D本部長が「独任官」と称する部下のいない地位に降格されているが、Y社が特命事項と称する10名の営業部長の採用を実現できなかったことが降格の理由となり得ないことは明らかであるし、Xの勤務状況は、Y社が主張するほどに劣悪であったとは認められず、降格に値するような確たる非違行為があったわけでもないこと、Y社において恣意的な人事が行われている実態が窺われることなどに照らすと、Xに対する本件降格処分については裁量権の濫用があるというべきであって、これを無効と認めるのが相当である

4 以上にみたとおり、Xの本件特命事項の不履行、同Xの勤務成績、勤務状況の低劣さといった主張により、降給処分及び降格処分の有効性を基礎付けることはできないことからすれば、いわんやそれよりも重い処分である解雇の有効性を基礎付けることはできないのは明らかである。したがって、本件解雇は無効である。

給与減額については、それを使用者の裁量で行うことができる規定があったとしても、相当な合理性がなければ認められません。

また、この裁判例は、Y社において恣意的な人事が行われている実態が窺われることを間接事実として評価しています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇94(長崎県公立大学法人事件)

おはようございます。 また一週間が始まりましたね。今週もがんばっていきましょう!!
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←「いいことばんく2」が完成しました!

ほしい方は事務所までお越し下さい。

さて、今日は、大学教授が勤務時間中に企業経営に当たったことを理由とする懲戒処分に関する裁判例を見てみましょう。

長崎県公立大学法人事件(福岡高裁平成24年4月24日・判タ1383号228頁)

【事案の概要】

Xは、Y大学法人が運営する県立大学に勤務する教授である。

Xは、当時、県関係者の支援により設立されたベンチャー企業の代表取締役となった。

Y大学法人は、Xが大学の勤務時間内に必要な許可等を得ずにその経営に当たったことを理由に停職6月の懲戒処分に付した。

これに対し、Xは、本件懲戒処分の付着しない労働契約上の権利を有することの確認等を求めた。

なお、第1審は、本件懲戒処分は無効と判断した。

【裁判所の判断】

控訴棄却
→懲戒処分は無効

【判例のポイント】

1 本件懲戒処分の理由は、Xの多数かつ長時間に及ぶ無断欠勤及びY大学法人理事長がXに対し兼職従事の実施状況の報告を求めたにもかかわらずXはこれに従わなかったことであるところ、前者の無断欠勤については、その回数及び時間の程度が、本件就業規則47条所定の懲戒の種類の選択及び減給あるいは停職が選択された場合の金額あるいは期間を定めるに際し重大な影響を与えることから、その認定に際しては、Y大学法人が主張する各欠勤日ごとに、その有無、時間及び理由について、証拠並びにY大学法人の反論及び反証を踏まえた慎重な検討を行うことが必要である。

2 ・・・以上認定した事実によれば、Y大学法人は、Xの欠勤を理由とした本件懲戒処分を行うに際し、上記欠勤の具体的内訳(欠勤の日数、各日の欠勤時間)及びこれを検証することのできる資料を交付していないことに加え、弁明を行う日の通知から弁明の実施までわずか3日しかないことに鑑みれば、Xが独自に資料を入手するなどして、Y大学法人が主張する欠勤状況の正確性についての検討及び反論をすることはできなかったことが認められ、これがXにおける防御活動の妨げとなることは明らかである
そして、上記のとおり、欠勤を理由とした懲戒処分においては、欠勤の日数及び時間の程度が、本件就業規則47条所定の懲戒の種類の選択及び減給あるいは停職が選択された場合の金額あるいは期間を定めるに際し重大な影響を与えることからすれば、Y大学法人がXに対して行った本件懲戒処分に至る手続のうち、Xの欠勤の認定には、重大な瑕疵があり、乙8あるいは乙38記載の欠勤日数を、そのまま本件懲戒処分の相当性の判断の基礎とすることは許されないというべきである

3 ・・・以上を前提に本件懲戒処分の相当性について検討するに、本件懲戒処分における停職は、懲戒解雇に次ぐ重い処分であり、6か月という期間は最長期間である。そして、Xに対し停職処分が行われた場合には、処分それ自体によって同人の法的地位に一定の期間における職務の停止及び給与の全額の不支給という直接の職務上及び給与上の不利益が及び、将来の昇給等にも相応の影響が及ぶこと、同人の研究活動に重大な支障を来すことになることからすれば、その実施は慎重になされるべきものである。
すると、(1)バイオラボ事業は、長崎県及びY大学法人の並々ならぬ意向により開始されたものであり、Y大学法人における勤務時間の管理は形骸化していたことと併せると、Xにおいて勤務時間の振替申請や休暇届等の必要な手続を怠ったことについて、その全てをXの責任とするのは相当ではないこと、(2)Y大学法人主張の欠勤数をそのまま本件懲戒処分の前提とすることは許されないこと、(3)中国渡航による終日欠勤については、合計日数は59日となるものの、本件懲戒処分の対象となった平成15年10月から平成20年11月における年平均渡航日数は12日程度に過ぎないことに加え、(4)Y大学法人関係者は、本件懲戒処分後もなお、Xの欠勤による大学業務への支障は生じていなかった旨長崎県議会で答弁していること、他にXの欠勤により大学業務について相当な支障が生じたことを認めるに足る証拠はないことからすれば、文書提出についての職務命令違反を考慮しても、Xについて停職とすることは重きに失するというべきである。

本件は、解雇事案ではなく、停職処分ですが、一応解雇のグループに入れておきます。

控訴審でも、第1審同様に、懲戒処分は無効であると判断しました。

ちなみに、第1審は、大学関係者によるベンチャー企業創設に対する当時の県知事の意向、大学関係者の言動、会社におけるXの地位・役割、大学の勤務時間内に行われた会社に関する行事に大学関係者が多数回参加していたこと、Xの勤務時間内の兼業についてY大学法人は注意・警告をしなかったこと、勤務時間について、大学が実態として裁量労働制と同様の運用をしていたことを指摘して、本件時間内兼業について黙示の承認がなされていたという理由により、懲戒処分を無効と判断しました。

これに対し、第2審は、Y大学法人の黙示の承認については認めませんでした。

参考にすべきは、上記判例のポイント2の手続面に関する判断です。

懲戒処分を行う際は、手続面にも留意して慎重に行う必要があります。

是非、参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。