Category Archives: 解雇

解雇92(F社事件)

おはようございます。

さて、今日は、精神疾患により休職した者の退職扱いに関する裁判例を見てみましょう。

F社事件(東京地裁平成24年8月21日・労経速2156号22頁)

【事案の概要】

本件は、Y社(コンピュータのソフトウェアの作成及び販売等を目的とする会社)に正社員として勤務していたXが、Xの休職は業務上の傷病によるものであるにもかかわらず、Y社は、これを業務上の疾病によるものでないとして扱った結果、平成21年12月31日をもって休職期間満了による事前退職扱いとしたものであって、当該退職は無効である旨を主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位の確認を求めた事案である。

なお、Xは、自分が精神疾患による休職を余儀なくされたのは、(1)Y社の従業員Cからパワーハラスメントを受けたこと、(2)Y社の産業医Dが産業医として不当ないし不適切な行為をしたこと、(3)Y社健康保険組合がXの傷病を「私傷病」として取り扱ったこと、(4)Y社労働組合が、Xの力とならず会社側の立場で行動したこと、及び(5)XがA社の業務に従事していた際に、A社から過重労働を強いられたことが原因であると主張して、各被告らに対し、不法行為ないし使用者責任に基づき慰謝料の支払をも求めている。

【裁判所の判断】

本件退職扱いは有効

慰謝料請求はいずれも棄却

【判例のポイント】

1 Y社の就業規則においては、業務外の傷病による欠勤が引き続き6か月に及んだときは、その翌日から一定期間休職とするものとされており、さらに、休職となった者が休職期間満了までに休職事由が消滅しないときは同日をもって自動的に退職とするものとされているところ、休職期間満了時に休職事由たる精神疾患が寛解していたと認めるに足りる証拠はないから、Xは、Y社を自動的に退職したというべきである

2 平成16年2月にXが「うつ状態」との診断を受ける直前の6か月間のうち、100時間を超える残業のあった月が5か月あったことなど、Xの精神疾患が業務に起因するものであることを疑わせる事情も認められないではないが、少なくとも当該事実のみによっては、Xの傷病が業務上のものであると直ちに断定することはできない

3 Xは、当裁判所の再三の釈明にもかかわらず、業務と傷病との間の相当因果関係の存在について具体的な主張及び立証(特に医学的な見地からの主張立証)をしようとしないから、本件においては、Xの傷病につき業務起因性を認めるに足りる証拠はないといわざるを得ず(なお、Xは、多数の人証申請をしているが、いずれも上記相当因果関係の立証との関係では取調べの必要性が認められない。)、結局、本件退職扱いの無効をいうXの上記主張は採用の限りではないというべきである。

4 Xは、Cのパワーハラスメントが原因となって、本件退職扱いの結果が生じた旨を主張する。しかしながら、仮にX主張に係るCの行為の全部ないし一部が存在すると認められたとしても(ただし、現時点において、Cの行為がパワーハラスメントに該当すると評価するに足りる証拠はない。)、当該行為と本件退職扱いの結果との間に相当因果関係があると認めるに足りる証拠はないから、その余の点につき検討するまでもなく、Cのパワーハラスメントを理由とするXの慰謝料請求は理由がない。

5 Xは、Dが産業医として不当・不適切な行為をしたため、Xは職場に復帰することもできず、本件退職扱いという結果が生じた旨を主張する。しかしながら、仮にX主張に係るDの行為の全部ないし一部が存在すると認められたとしても(ただし、現時点において、Dの行為が産業医として不当ないし不適切であったと評価するに足りる証拠はない。)、当該行為と本件退職扱いの結果との間に相当因果関係があると認めるに足りる証拠はないから、その余の点につき検討するまでもなく、XのDに対する慰謝料請求は理由がない。

この事案では、原告は、考えられるあらゆる相手の行為を損害賠償の対象としましたが、すべて棄却されています。

なかには、さすがに難しいだろう・・・と思われるものもありますが、代理人の考えがあってのことだと思います。

うつ状態になったことは、労災であるから、事前退職扱いは無効であるという主張はあり得る主張です。

今回は、業務起因性が否定されたため棄却されましたが、争点としてはよく見かけるものです。

うつ状態になる直前半年間のうち5か月は残業が100時間を超えているようですが、裁判所は、この事実だけでは業務起因性を肯定することはできないと判断しました。

裁判所としては、残業時間が多いのはわかったから、協力医の意見書を提出する等、医学的見地からの立証もしてほしいと求めましたが、難しかったようですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇91(甲社事件)

おはようございます。

今日は、勤務態度不良を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

甲社事件(東京地裁平成24年7月4日・労経速2155号9頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、同社の行った解雇が無効であるとして、雇用契約上の地位の確認と未払給与、賞与の支払を求めるとともに、上司らが共謀して、Xに対する嫌がらせ・ハラスメント(虐待行為)を行ったとして、上司らに対し、共同不法行為に基づく損害賠償請求を求め、また、Y社に対して安全配慮義務違反による債務不履行もしくは不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。

なお、Y社は、主にコンピューターソフトウェアの設計、販売及び輸出入を業とする会社である。

Xは、平成18年11月にY社に採用された。職務内容は、顧客に対するサポートシステムの保守及び新規機能追加の対応業務、各種プロジェクトの計画、進捗管理、ドキュメント作成、下請け業者のマネジメント業務であった。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 本件解雇の具体的な理由として上げられている上記(1)ないし(3)の点については、上記のとおり、いずれもこれを認めることができる。具体的に、(1)に関して、Xは、これまでの業績が評価されて昇進したCに対して嫉妬し、Cのみならず、Dに対しても上司に対する尊厳を欠いたような発言を繰り返している。
また、(2)に関して、Xは、組織変更前の問題があるとされる仕事の進め方にこだわり、組織変更後の新しい方針を受け入れないまま、何事も自分が担当するプロジェクトが最優先で行おうとして、Dの指示や指導に従わなかったことが認められる。
さらに、(3)に関して、Xは、保守・サポート課に異動した後も、Y社の開催するワークショップに対して、根拠なく批判的な態度を取る、Navi2.2プロジェクトをたびたび紛糾させるといった行動を取る、E課長やDの指示や指導に従わない姿勢を取る、E課長から態度を改めないとPMの仕事に携わることはできないと指導されても、これに理解を示さず、自己の能力をアピールし続け、PMとしての仕事をさせて欲しいと要望し続ける等し、周囲の社員から一緒に仕事をしにくい人であるといった評価を受けていることが認められる。

2 以上からすると、Xには、Y社が求めている協調性が欠けており、また指導されても、自分の姿勢を改めようとしなかったことは明らかであり、かかるXの協調性不足を解雇の理由とした本件解雇については、客観的に合理的な理由があるといえる

3 次に、本件解雇が、社会通念上相当といえるかについて検討する。
・・・以上からすると、本件解雇に至るまでに、Y社は、Xに対して、再三にわたって指導注意を行った上で、それに応じようとしないXに対し、BA部以外の他部署への異動を勧奨し、さらに退職勧奨を行い、合意による退職の方途を探っており、Xとかなり時間を掛けて協議を行っていることが認められる。しかしながら、他部署への異動については、Xにやる気がなかったことなどから実現しなかったものである。また、退職勧奨についても、Xが、C、Dの謝罪の仕方にこだわったため、これが実現しなかったものである。なお、CやDについては、Xが主張するような事実自体認められない、あるいはパワーハラスメントとして評価しうるような行為はなかったものであり、C及びDが不法行為責任を負うものではない。
そして、Xが、Qに対して、Y社から他部署への異動のための面接を受けるよう指示されたことについて「この会社あほ???」と述べたり、他部署へ異動を命じられると「和解金も取れないし、パワハラも訴えられない」と述べていることからすれば、Xは、Y社の本件解雇を回避するために取られた他部署への異動打診といった措置をあざ笑うかのように不誠実な対応をとり続けたことは明らかであり、Xにやる気がみられないとして他部署からの受け入れを断られたものもXに原因があるといわざるを得ない。かかるXに対して、退職勧奨を経た上で行われた本件解雇は、やむを得ないものとして社会通念上相当といえる。

勤務成績不良を理由とする解雇を有効に行うことは、一般的にはハードルが高いといえます。

正直なところ、私は、その原因が使用者側にあると考えています。

勤務成績不良を理由とする解雇が無効になってしまう主な理由は、使用者の労働法や判例に関する知識不足にあります。

労使紛争に長けている顧問弁護士等がいる場合であればともかくとして、そうでない場合、使用者は、所定の手続を踏むことなく、すぐに解雇してしまう。そうすると、多くの場合、解雇は無効と判断される。

今回の裁判例を読むだけでも、どのようなことを事前にすべきかを読み取ることは十分に可能であると思います。

是非、参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇90(シーテック事件)

おはようございます。

さて、今日は、派遣労働者に対する整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

シーテック事件(横浜地裁平成24年3月29日・労判1056号81頁)

【事案の概要】

Y社は、持株会社であるR社のグループ会社として労働者派遣事業を営む会社である。

Xは、Y社との間で労働契約を締結し、派遣労働者として就労していた。

Y社は、平成21年6月末、Xを整理解雇した。

Xは、本件整理解雇は要件を満たしておらず無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

【判例のポイント】

1 本件解雇は、労働者の私傷病や非違行為など労働者の責めに帰すべき事由による解雇ではなく、使用者の経営上の理由による解雇(整理解雇)であるから、その有効性については慎重に判断するのが相当である。そして、整理解雇の有効性の判断に当たっては、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性及び手続の相当性という4要素を考慮することが相当である。

2 ・・・これらの事情を考慮すると、本件解雇当時、Y社において、支出の相当割合を占める人件費を削減することが求められていたというべきであり、Y社が、R社に対する貸付けを放棄し、R社に対する経営指導料等の支払債務とR社に対する貸付金の相殺を行っていないことを考慮すると、切迫性には検討の余地はあるものの、Y社において、人員削減の必要性が生じていたことは否定し難い

3 Y社は、平成20年10月以降、間接部門の従業員を対象に希望退職の募集をしたり、技術社員の一時帰休を実施したり、新規採用中止を決定したり、事務消耗品購入の禁止、時間外労働の削減などにより経費を削減し、また、利益がない場合であっても派遣先との契約を締結する方針を取るなどして契約数を増やすための努力をしていたことが認められる
しかし、Y社は、Xを含む技術社員に対しては希望退職の募集を行わないまま、平成21年3月10日時点で待機社員であった技術社員及びそれ以降に待機社員となる全ての技術社員を対象に、整理解雇を実施することを決定し、同年3月17日以降、技術社員が待機社員になる都度、解雇通知を行っていたのであって、Y社が整理解雇の実施に当たって削減人数の目標を定めていたかも明らかではない。また、Y社では、本件解雇の通知前である同年4月に整理解雇により2774人及び同年1月ないし同年4月に退職勧奨等により1309人の人員削減が終了していたところ、それ以降、さらに整理解雇を実施する必要性があるか否かについて真摯に検討したことが証拠上窺われない。これらの事情からすれば、Y社が、本件解雇当時、人員削減の手段として整理解雇を行うことを回避する努力を十分に尽くしていたとは認めることができない
この点、Y社は、技術社員に対して希望退職の募集をしなかった理由を、優秀な技術社員が流出することでかえって資金繰りを悪化させるおそれがあったためと主張するが、Y社が、個々の技術社員の有する技術や経歴等を一切考慮することなく、待機社員であることのみをもって整理解雇の対象としたことからみても、上記Y社の主張は、不合理というほかない

4 Y社は、本件解雇の有効性の判断に当たっては、労働者派遣事業の特殊性について考慮すべきであると主張する。派遣労働者が派遣先企業における業務の繁閑等に対応するための一時的臨時的な労働力の需給調整システムとして雇用の調整弁としての役割を担っていることは理解できるところである。しかしながら、本件で問題になっているのは、労働者派遣事業を営む者と派遣労働者との間の労働契約であって、派遣労働者が派遣先企業において労働力の需給調整システムとして雇用の調整弁としての役割を担っていることから直ちに労働者派遣事業を営む者と派遣労働者との間の労働契約が不安定なものであることは導かれない。労働者派遣事業を営む者は、自ら雇用する派遣労働者が派遣先企業の雇用の調整弁となり、労働を提供することができないことがあり得るというリスクを負担する一方で、派遣労働者を企業に派遣することで利益を得ている側面を否定できないから、派遣労働者が派遣先企業との間の派遣契約の終了により一時的に仕事を失っても、そのことだけから直ちに解雇できないことはいうまでもない。労働者派遣事業を営む者としても、その雇用する派遣労働者との間の雇用期間を定めるなど、前記リスクを軽減することは可能である上、労働者派遣事業法30条も「派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者又は派遣労働者として雇用しようとする労働者について、各人の希望及び能力に応じた就業の機会及び教育訓練の機会の確保、労働条件の向上その他雇用の安定を図るために必要な措置を講ずることにより、これらの者の福祉の増進を図るように努めなければならない。」と定め、派遣労働者の雇用の安定を図るように求めているところである。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇89(ジャストリース事件)

おはようございます。

さて、今日は、会社解散に伴う元代表取締役に対する解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ジャストリース事件(東京地裁平成24年5月25日・労判1056号41頁)

【事案の概要】

Y社は、リース・割賦販売事業、債券売買等を事業内容とする会社である。

Xは、18年12月、Y社の取締役に就任し、20年2月、同代表取締役に就任した。

Y社は、22年2月、解散し、同年4月、特別清算が開始された。

Xは、解散決議日に、Y社の代表取締役を退任し、22年3月、Y社との間で「雇用契約書」と題する書面を取り交わし、Y社の「本社 管理職」の地位に就き、従前と同様に、部下3名のチームリーダーとして、途上与信管理、管理債権処理(債権回収を含む)等の業務に従事した。

その後、Y社は、Xに対し、就業規則45条1項4号(「会社の経営戦略あるいは組織の変更に伴い、社員の職務の必要性がなくなったと会社が判断したとき」)および5号(「前各号に準ずる事由のあるとき」)に基づき、解雇する旨の意思表示をした。

【裁判所の判断】

解雇は無効

不当解雇を理由とする損害賠償請求は棄却

【判例のポイント】

1 労基法9条の「労働者」とは、「事業に使用される者で、賃金を支払われる者」、すなわち他人(使用者)のために労務を提供しその対価たる賃金等を得て生活する者をいい、これに該当するためには、法的従属関係すなわち労務提供全般にわたり使用者の一般的な指揮監督を受ける関係(法的従属性)が存在していることが必要である。

2 ・・・以上によると本件契約書は、Xが、平成22年3月1日から本社において、所定の休日を除いた就労日に、所定の就労時間(午前9時15分から午後6時)、管理職としての業務に従事することを定め、これに対しY社が所定の支給日に月次給月額87万5000円をXに支払うことを約した契約書面であると認められ、そうだとすると本件契約はまさに「労働契約」そのものであって、特段の事情が認められない限り、本件契約の一方当事者であるXは、使用者たるY社のために労務を提供し、その対価たる賃金等を得て生活する者、すなわち労基法上の「労働者」に該当するものというべきである

3 整理解雇は、労働者に何ら落ち度がないにもかかわらず、使用者側の経済的な理由により、一方的に労働者の生活手段を奪い、あるいは従来より不利な労働条件による他企業への転職を余儀なくさせるものであって、これを無制限に認めたのでは著しく信義に反する結果を招きかねないばかりか、労働者の生活に与える影響は深刻である。このような整理解雇の特性等に照らすと使用者は、いわゆる比例原則に則り、雇用契約上、他の解雇にもまして労働者の雇用の維持に努め、可能な限り、その不利益を防止すべき義務を負っているものと解され、そうだとすると、その効力の判定は、(1)当該整理解雇(人員整理)が経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づくか、ないしはやむを得ない措置と認められるか否か(要素1=整理解雇の必要性)、(2)使用者は人員の整理という目的を達成するため整理解雇を行う以前に解雇よりも不利益性の少なく、かつ客観的に期待可能な措置を行っているか(要素2=解雇回避努力義務の履行)及び(3)被解雇者の選定が相当かつ合理的な方法により行われているか(要素3=被解雇者選定の合理性)という3要素を総合考慮の上、解雇に至るのもやむを得ない客観的かつ合理的な理由があるか否かという観点からこれを決すべきものと解するのが相当である(なお当該整理解雇がその手続上信義に反するような方法等により実行され、労契法16条の「社会通念上相当であると認められない場合」に該当するときは解雇権を濫用したものとして、当該整理解雇の効力は否定されるものと解されるが、これらは整理解雇の効力の発生を妨げる事実(再抗弁)であって、その事由の有無は、上記就業規則45条3号所定の解雇事由が認められた上で検討されるべきものである。)。

4 ・・・確かにY社は、本件特別清算の開始決定時においては負債超過の状態にあった。しかし、本件解雇の直前のである平成23年2月末までには債権の回収が順調に進み、負債超過の状態から脱却に成功し、その後は資産超過の状態が継続していることが認められる。そうだとすると本件特別清算の予定期間が平成24年7月であることを考慮したとしても、本件解雇の時点(平成23年3月31日)では既に僅か4名しかいないY社従業員について人員整理を断行する必要性は既に消滅しているものと認めるのが相当である。してみると本件特別清算業務を円滑に遂行するために人員整理という最終的な手段を採用することが、客観的にみて合理性を有するものとはいい難く、本件解雇(整理解雇)は、その必要性に欠けるものといわざるを得ない。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇88(日本航空(パイロット等)事件)

おはようございます。

さて、今日は、運行乗務員に対する整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本航空(パイロット等)事件(東京地裁平成24年3月29日・労判1055号58頁)

【事案の概要】

Y社は、その子会社、関連会社とともに、航空運送事業及びこれに関連する事業を営む企業グループを形成し、国際旅客事業、国内旅客事業等の航空運送事業を展開する会社である。

Xらは、いずれもY社と期間の定めのない労働契約を締結し、航空機の機長または副操縦士として勤務してきたパイロットである。

Y社では、平成22年3月以降、退職金額の上乗せや一時金の支給などを条件に、二度にわたる特別早期退職措置を実施したほか、整理解雇の方針を表明する前後の4度にわたる希望退職措置を実施した。

しかし、こうした措置にもかかわらず、パイロットについては、稼動ベースで80名分が削減目標に達しなかった。

そこで、Y社は、Xらを整理解雇した。

【裁判所の判断】

整理解雇は有効

【判例のポイント】

1 会社更生法上、労働契約は双方未履行双務契約として、管財人が解除又は履行を選択し得る(同法61条1項)が、管財人は、労働契約上の使用者としての地位を承継している以上、管財人の上記の解除権は、解雇と性格づけられる。客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇は、権利濫用となる(労働契約法16条)のであるから、この権利濫用法理は、管財人が行った本件解雇についても、当然に適用されることになる。
そして、本件解雇は、使用者の経営上ないし経済上の理由によって行われた解雇なのであるから、上記の解雇権濫用法理の適用に当たっては、権利濫用との評価を根拠付ける又は障害する考慮要素として、人員削減の必要性の有無及び程度、解雇回避努力の有無及び程度、解雇手続の相当性等の当該整理解雇が信義則上許されない事情の有無及び程度というかたちで類型化された4つの要素を総合考慮して、解雇権濫用の有無を判断するのが相当である。このことは、当該更生手続がいわゆる事前調整型(プレパッケージ型)の企業再建スキームとして利用されるものであるか否かにより結論を異にする根拠はないのであり、本件更生手続が機構の支援と会社更生手続を併用して事業廃止を回避した事前調整型企業再建スキームであることは、上記結論を左右するものではない

2 Xらは、Y社がワークシェアリング、グループ内外への出向、転籍等の解雇を回避できる有効な手段があったにもかかわらず、それらの措置を真摯に検討・実施せず、また、運行乗務員の専門性、特殊性に照らすと、希望退職募集及び再就職支援の期間が短く、支援の内容も極めて不十分であったと主張する
しかし、上記のとおり、Y社は、更生手続開始決定の前後を通じて、・・・相対的には、手厚い解雇回避努力を尽くしているとの評価が可能である。同年11月の時点で組合から提案されたワークシェアリングの内容は、一時的な措置で問題を先送りする性質のものであるし、上記の解雇回避措置を行わなかったからといって、解雇回避努力が不十分であると評価することは困難であるというべきである。したがって、上記Xらの主張は、上記判断を覆すものとはいえない。

3 本件人選基準のうち、Xらに適用されたのは「病気欠勤・休職等による基準」「目標人数に達しない場合の年齢基準」である。これらはいずれも、その該当性を客観的な数値により判断することができ、その判断に解雇者の恣意が入る余地がない基準であり、このような基準であるということ自体に、一定の合理性が担保されているということができる。

4 Xらは、年齢に基づく不利益な取扱いは、世界各国で法律により禁止されており、中高年齢者の雇用確保という政策的観点と併せて、本件人選基準のうち年齢の高い順番によるという基準は、世界標準から逸脱した不合理なものであるとも主張するが、我が国では、定年制を採ることが、格別、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律のように、事業主が定年制を採用することを前提とした立法も存することに照らせば、年齢に基づく基準が不合理なものであると評価することはできない。年齢の高い者から順に目標人数に達するまでを対象とするという基準を他の人選基準では目標人数を満たさない場合の補助的な基準とすることに合理性があることは上記のとおりであり、中高年齢者の雇用保障という政策的観点を考慮しても、上記判断を左右するものではない。

JALの整理解雇事件です。

以前にもJALの事件を紹介しましたが、いずれも解雇は有効と判断されています。

解雇75(日本航空(整理解雇)事件)解雇77(日本航空運行乗務員解雇事件)参照。

会社更生手続中ということもあり、労働者側とすれば、かなり厳しい裁判であることは明らかです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇87(クラブメッド事件)

おはようございます。

さて、今日は、勤務成績不良を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

クラブメッド事件(東京地裁平成24年3月27日・労判1055号85頁)

【事案の概要】

Y社は、フランスのパリに本社を置く国際的なバカンスサービス会社の日本法人であり、国内および海外の系列ホテルへの送客業務およびこれに付随する一般観光等の企画、作成、販売ならびに斡旋等の各種業務を行う会社である。

Xは、平成2年、Y社に入社した。

Y社は、Xを勤務成績不良を理由として解雇した。

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 本件解雇は、Xの勤務成績不良を理由とする解雇であるところ、このような解雇については、当該労働者の勤務成績が単に不良であるというレベルを超えて、その程度が著しく劣悪であり、使用者側が改善を促したにもかかわらず改善の余地がないといえるかどうかや、当該勤務成績の不良が使用者の業務遂行全体にとって相当な支障となっているといえるかという点などを総合考慮して、その有効性を判断すべきと解するのが相当である。したがって、本件解雇に関する就業規則所定の解雇事由「技能、能力が極めて劣り、将来業務習得の見込みがないとき」という文言も、このような観点からその該当性が判断されるべきである。

2 ・・・以上を要するに、従前、Xの勤務成績が芳しくなかったことは否めないものの、サマー2010の期間に至って一定の向上をみたものであるから、もとよりその勤務成績が著しく劣悪であるとはいえないし、改善の余地がないということもできない。したがって、Xについて、Y社の就業規則所定の解雇事由「技能、能力が極めて劣り、将来業務習得の見込みがないとき」に該当するということはできないから、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上も相当と認めることはできず、無効というべきである。

3 これに対し、Y社は、上記の成績の向上は、Xが受電回数を上げるため、特段の事情がない限り禁じられている時間外労働を連日行ったことによるものであり、X業務の能率向上によるものではなかった旨主張するところ、Y社の人事担当から各部門のマネージャーに時間外労働を禁じる内容のメールが送信されるなど、Y社において、時間外労働が禁止されていたことを裏付ける証拠も存する。
しかしながら、Xの上司は、Xの労働時間を把握し、その時間外労働の状況を認識していたと推認されるにもかかわらず、当時、それを問題視して禁止した形跡が認められないもので、このような事情に照らすと、実際、各部門において、真に時間外労働の禁止が徹底されており、他のスタッフが時間外労働を行うことなく業務を処理していたかについては、疑義があるといわざるを得ない。したがって、時間外労働を行っていたことをもって、Xの勤務能率が向上していなかったというY社の主張については、これを採用することができない。

4 Xは、Y社においては、全従業員に対し、基本給の2.5か月分の賞与が一律に支給されていたとして、本件解雇後も基本給の2.5か月分に当たる55万3750円の賞与請求権を有する旨主張する。なるほど、証拠によれば、Xに対し、2回にわたって上記金額の賞与が支給されていることが認められる。しかし、仮に、Xが主張するように、全従業員に対し2.5か月分の賞与が支給される事実が存したとしても、個別の雇用契約書や賃金規程等により、2.5か月分の賞与という点がXとY社との間の雇用契約の内容となっていたことを窺わせる証拠は存しない。したがって、Xが、本件解雇後も、Y社に対し、月例賃金のみならず賞与についても請求権を有するということはできず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。

勤務成績不良を理由とする普通解雇については、この裁判例でも示しているとおり、改善可能性が考慮されます。

一時的な成績不良をもって解雇をすると無効になる可能性が高いです。

もう1つ。

上記判例のポイント4は、参考になりますね。

賞与の請求は、実際には、なかなか認められません。

今回のケースのように、一律基本給の2.5か月分を支給されていたとしても、それをもって、契約の内容となるほど甘くはありません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇86(学校法人M学園事件)

おはようございます。

さて、今日は、労働契約書への書面拒否を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人M学園事件(東京地裁平成24年7月25日・労経速2154号18頁)

【事案の概要】

Y社は、専門学校N医科学大学校等を設置し、これを運営する学校法人である。

Xは、視能訓練士の国家資格を有する者である。

Y社は、Xを労働契約書への署名拒否を理由として解雇した。

Xは、本件解雇は違法であり、これにより損害を被ったとして、不法行為による損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

本件解雇は不法行為にあたる。
→M学園に対し、約80万円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Y社は、試用期間中であるXに対し、本件規定に該当するとして、解雇予告通知書を交付することによりXを解雇する旨の意思表示をしている。Y社の就業規則には本件規定があるところ、Y社の上記所為は、試用期間中、使用者たるY社が本件規定に基づき留保していた解約権を行使する趣旨に出たものとみることができ、かかる認定を左右するに足る証拠はない。
もっとも、留保解約権の行使も、解約権留保の趣旨、目的に照らし、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認され得る場合にのみ許されるものと解される。

2 Y社が提示した契約書案では、平成23年1月24日までを試用期間とする旨の記載はあるものの、労働契約の期間について期間を定めないものとしており、賃金の額について試用期間中の賃金額である月額30万とするのみで、試用期間経過後の賃金について特段の条項が置かれているわけでもない。これによれば、X・Y社間の労働契約は、X・Y社間で新たに別途、労働契約書を作成しない限りは試用期間経過後の賃金額についても引き続き30万円とするものとして効力を有することになるとみることのできるものであったということができるのであって、XがCから重ねて受けていた労働条件に関する説明と沿わない点があったといわざるを得ない。
しかるところ、Xがこれを問題視する見地から訂正を求めたのに対し、Cは、試用期間が明記されているから上記賃金額が試用期間中のものであることは自ずと判断できる、みんなそれでやっているなどとしてこれに応じず、Xの申出を踏まえて真摯に契約書案の意味合い・内容の検討をし、あるいはしようとした形跡も窺われない。かえって、平成22年12月13日、Xが署名に応じないとみるや、用意させていた解雇予告通知書を交付している

3 ・・・以上の点に照らすと、上記解雇予告通知書に基づく解雇は、上記認定の経緯に照らし、早急に過ぎたものと評価せざるを得ないところであって、かつまた、Xが署名を拒んだのは、X・Y社間の賃金という労働契約の基本的要素に係る問題に出でたものであったことにも照らし、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認され得るものとみることは困難というべきである。
そして、以上の点に照らすと、少なくともY社に過失があったものと見ざるを得ない。してみると、他に的確な指摘のない本件においては、Y社は、不法行為に基づき、これによってXに生じた損害を賠償すべき責があると認めるが相当である。

4 Xは、以上のほか、本件解雇に伴い精神的苦痛を被ったとして慰謝料請求をしている。
しかしながら、解雇に伴う財産的損害の賠償のほか、精神的損害についてまでの賠償が認められるのは、解雇につき、財産的損害の賠償によっては慰謝するに足らない特段の事情の認められる場合に限られると解される。本件においてXに財産的損害の賠償を命じるべきことについては上記のとおりであるであるところ、・・・かかる指摘の点によっては上記特段の事項を肯認すべき事由があるとは評価し難く、これを認めるには足らない。したがって、Xの慰謝料請求は、これを肯認することができない

当然、この程度では、解雇は有効にはなりません。

今回は、地位確認を求めるのではなく、損害賠償を求めています。

個人的な感覚ですが、解雇事案では、地位確認と賃金請求という構成よりも、不法行為に基づく損害賠償請求という構成の方が、労働者側が得られる金額は少ない気がします。

このような理由から、労働者が復職する意思がなくても(ほとんどの場合、復職の意思はない)、前者の構成をとることになるのだと思いますがいかがでしょうか。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇85(南淡漁業協同組合事件)

おはようございます。

さて、今日は、信用業務(貯金業務)責任者に対する普通解雇に関する裁判例を見てみましょう。

南淡漁業協同組合事件(大阪高裁平成24年7月19日・労判1053号5頁)

【事案の概要】

Y社は、信漁連から貯金の入出金、貸付業務の取次ぎ等の業務の委託を受けていた。

Xは、Y社に勤務していた者であるが、Y社から重大な規律違反行為を理由として普通解雇された。

Xは、本件普通解雇は解雇権を濫用したものであり、無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 Y社に勤務している職員は本所で4名、H支所で1名にすぎず、それぞれの職務分担は一応定められているものの、互いの職務は関連しており、円滑な業務の遂行のためには、互いの連携、協力、連絡等が必要不可欠であるところ、Xは、理由は不明であるが、平成20年正月明けからほとんど他の職員と言葉を交わさなくなり、業務上必要な連絡もしないまま、仕事を行うようになったものである。このため、職場の雰囲気を著しく損ねるとともに、本所においてもH支所においても、Xが必要な連絡や伝達をしないことによる業務上の支障が生じることこととなった。そして、その結果、他の職員が困るだけでなく、Xのみが説明を受けたオンライン機器の操作方法を他の職員に教えなかったために、やむなく神戸から信漁連の職員に来てもらうというような事態まで生じたほか、貯金を引き出しに来た組合員に過少払をする結果となったり、組合員から依頼のあった燃油代金の引き落としの手続ができずに迷惑をかけるという結果まで生じていた。そして、Y社の組合員その他の関係者からも、Y社代表者に対して、Y社の本所の雰囲気が悪いとか、Xの窓口での応対が悪い状態が続いていることが告げられる状態にもなっていたものである
・・・XにはY社の職員としての職務上の義務に違背する行為があったものというべきである

2 Y社代表者は、XがY社の職場で他の同僚職員と会話をしないだけでなく、職務上必要な連絡や伝達さえもしなくなり、事務処理上さまざまな支障が生じていることについて3回にわたってXに注意をしたにもかかわらず、Xはこれを聞き入れようとせず、2回目の注意を受けた際には反発して午後には家に帰ってしまい、3回目の注意を受けた際には「ほっといてくれ」などと強く言い返して勤務態度を改めようとは全くしなかったものであるから、Y社の側でそれ以上の注意を重ねてもXの勤務態度の改善が期待できないものと判断したことはやむを得ないところであったというべきである

3 この点、Xは、本件解雇処分の前の段階で、Y社代表者らから、解雇を含めて厳しい処分を検討しているので職務態度を改善するようになどといった指導や警告を受けておらず、かかる指導や警告を受けたなら、Xが職務態度を改善した蓋然性があったと主張する。しかし、上記のとおりXが他の職員との会話をせず、職務上必要な連絡や伝達さえも行わない状態を長期間にわたって続けており、Y社代表者からの注意や指導に対しても、何らの説明や弁明をすることもなく、むしろ反発を強めるだけであった一連の態度に照らすと、Xの主張は到底採用することができない
また、段階的な処分を踏むべきであったとのXの主張についても、Y社代表者からの注意や指導に対して一向に態度を改めることがなく、かえって反発を強めるばかりであったXの一連の態度に照らすと、段階的な処分によってXが態度を改善させる可能性があったものとは認められないから、Xの主張は認められない

解雇事由に決定的な決め手のない普通解雇ですが、トータルでみて、解雇を有効と判断しています。

ポイントは、会社がXに対して、3回にわたって注意し改善を促したにもかかわらず、Xが勤務態度を改めなかった点です。

Xにも当然、そのような態度をとった理由があるはずですが、裁判所は、その点については重視しませんでした。

何度か改善を求めるという点は、参考にすべきですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇84(霞アカウンティング事件)

おはようございます。

さて、時機を失した懲戒解雇の有効性と割増賃金請求に関する裁判例を見てみましょう。

霞アカウンティング事件(東京地裁平成24年3月27日・労判1053号64頁)

【事案の概要】

Y社は、経理事務代行業等を目的とする会社である。

Xは、Y社の従業員である。

平成20年2月頃、職員の1人がY社代表者のところに来て、Xが、特定の女性職員にセクハラをしており、それが原因で、所属課の他の女性従業員らの猛反発を受けていると告げた。

Y社代表者はXから事情聴取したが、Xはセクハラの事実を否定した。

平成20年12月、Xは、21年4月付で課長職を解任する人事を告げられ、一般職員に降格された。

Xは、平成21年6月、上記降格と時間外手当等の不支給の問題について、労基署に相談したところ、同年8月、労基署からY者に指導が入った。しかし、その後も時間外手当等が支払われなかったため、22年4月、労基署に時間外手当等の不支給の事実を申告した。

同年7月、Xは、Y社から懲戒解雇する旨を告げられた。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

【判例のポイント】

1 使用者による懲戒権の行使は、企業秩序維持の観点から労働契約関係に基づく使用者の機能として行われるものであるが、就業規則所定の懲戒事由該当事実が存する場合であっても、具体的状況に照らし、それが客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当性を欠くと認められる場合には権利の濫用に当たるものとして無効になると解される。

2 Y社は、Xが部下の事情を一切考慮せずにスケジュールを入れたり、部下の意見を一切聞き入れないなど、協調性に欠けた言動を繰り返したと主張するが、これらの主張については、日時、相手方等の特定が全くされておらず、内容自体も抽象的であって、懲戒解雇事由の主張としては失当といわざるを得ない

3 ・・・仮にこのセクシャル・ハラスメントの事実が認定できるとしても、処分が遅延する格別の理由もないにもかかわらず約2年も経過した後に懲戒解雇という極めて重い処分を行うことは、明らかに時機を失しているということができる上、課長職からの解任との関連で言えば、二重処分のきらいがあることも否定できないところであって、これを本件懲戒解雇の理由とすることには、問題があるといわざるを得ない。

4 ・・・以上のとおり、Y社主張にかかる本件懲戒解雇事由については、いずれもその事実自体を認めることができないか、もしくはその客観的事実を認めることができても、懲戒解雇に相当する程悪質とはいえないか、懲戒解雇事由として採り上げるのは相当でない事由である。そして、後者の客観的事実自体を認めることのできる各事由を併せて考慮したとしても、未だ懲戒解雇の理由としては十分ではないというべきである。したがって、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会的にも相当とは認められないものであるから、懲戒権の濫用に当たり、無効というべきである。

5 本件懲戒解雇に至る過程で、Y社代表者は、平成22年4月から5月にかけて、2度にわたり、夜間、予告なくXの自宅を訪問したのみならず、同年7月には、予告なくXの実父を訪問するという常軌を逸した行為に出ているもので、これらがXの時間外手当等請求の阻止という目的に出た違法な行為であることは明らかであるから、Y社は、会社法350条、民法709条により、Xに生じた損害について賠償すべき責任を負う。・・・この精神的苦痛に対する慰謝料としては、30万円が相当である

本件では、懲戒解雇の有効性のほか、未払残業代の請求もされており、756万円あまりの支払いが認められています。

賃金と合わせるとえらい金額になりますね。

それはさておき、解雇が争われる際、会社側が主張する解雇理由があまりにも昔のことである場合、今回と同じようなことを言われてしまいます。

この際だからあれもこれも解雇理由にしておこうと考えるのは理解できますが、それぞれの理由がたいしたことがないものである場合には、結局、解雇は無効になってしまいます。

解雇をする際は、よくよく考えてから行うことをおすすめします。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇83(国(在日米軍従業員)事件)

おはようございます。

さて、今日は、傷病休暇期間満了による解雇に関する裁判例を見てみましょう。

国(在日米軍従業員)事件(東京地裁平成23年3月9日・労判1052号89頁)

【事案の概要】

Xは、傷病休暇を取得したが、休職期間満了時、職場復帰可能と判断しなかったYは、Xを解雇した。

Xは、本件解雇は無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 本件基本労務契約によれば、有給休暇を消費した後に、労働者の業務外の傷病による傷病休暇(無給)は1年6か月間認められ、X・Y間の労働契約は、Yによる解雇予告の手続を経ることにより、原則としてその最終日に終了するが、労働者が回復すれば、解雇予告の撤回を要求することができ、Yは、Xを勤務に戻すと定められている。そうすると、労働者が業務外の傷病により、1年6か月間の傷病休暇(無給)を取得した場合は、Yがその最終日に有効となる解雇予告をして、労働契約の終了を主張・立証するのが抗弁となり、労働者が、再抗弁として、復職を申し入れ、回復して就労が可能になったことを立証したときは、労働契約の終了という法的効果が妨げられるという攻撃防御方法の構造であると解すべきである。これは、労働契約上の傷病休暇の制度が、業務外の傷病による長期間に及ぶ労務の提供を受けられない状況に対する解雇猶予を目的とする制度であるから、労働契約上の猶予期間が終了することで、労働を終了とし得ることが原則となると考えるのが相当であること、Xは、本件訴訟の段階でカルテの証拠化を拒否しており、個人情報保護の観点からしても、労働者個人の健康状態に関する情報は、原則として当該労働者個人の支配領域にある情報であることという事情を考慮すれば、労働者に回復して就労可能であることの立証責任を負わせるのが合理的であるということができる。

2 そうすると、Xは、労働契約上猶予されている傷病休暇(無給)の終了日までに、復職することをYに申し入れ、回復して就労が可能になったことを客観的証拠を示す等して立証することになる。そして、・・・本件争点は、Xが、無給の傷病休暇の最終日までに自らが回復して就労可能な状態になったことを立証しているかという点に尽きることになる。

3 ・・・以上によれば、Xは、その立証責任を負う傷病休暇の休職理由が解消していることの立証を尽くしていないといわざるを得ず、そうすると、休職期間満了時に解雇するという内容の本件解雇は有効である

休職期間満了時のトラブルは、少なくありません。

会社側も、正直なところ、どのように対応してよいのかわからないのではないでしょうか。

この問題は、弁護士にとっても、簡単な問題ではありません。

本件裁判例では、健康状態が回復し、就労可能となったことについて、労働者側に立証責任を負わせるのが合理的であると判断しています。

参考にすべき点ですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。