Category Archives: 解雇

解雇22(N事件)

おはようございます。

さて、今日は、整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

N事件(東京地裁平成22年3月15日・労判1009号78頁)

【事案の概要】

Y社は、カーテンその他の室内装飾品の輸入販売等を業とする会社であり、大阪、名古屋、福岡および札幌に支店または営業所を有している。

Xは、Y社の正社員として、百貨店内において、Y社が輸入する室内装飾品の販売業務に従事していた。

Y社は、Xが勤務している百貨店の販売業務を代理店に委託することに伴い、Xを解雇した。

Xは、本件解雇は、解雇権を濫用するものであり、また、男女雇用機会均等法6条4号の規定に違反するから無効であると主張するとともに、本件解雇を通知する際のY社従業員の言動が不法行為にあたると主張し、不法行為に基づく損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

解雇は無効。

不法行為にはあたらない。

【判例のポイント】

1 いわゆる整理解雇は、雇用調整及び人員削減の方法の中でいわば最終的な手段ともいうべきものであり、また、労働者に帰責事由がないにもかかわらず、使用者の都合による一方的な意思表示により雇用関係を終了させるものであって、賃金を生活の基盤とする当該労働者に著しい影響を及ぼし得るものである。したがって、整理解雇は、当該企業を経営する立場からする合理的な判断のみから直ちにし得るものではなく、手続的な観点をひとまず措くとしても、人員削減の必要性に加え、(1)人員削減の手段として解雇を選択することの必要性及び合理性があるか否か、(2)被解雇者の選定が客観的に合理的な基準に従って公正にされているか否かという観点から、やむを得ないものと認められることが必要であり、このように認めることができない場合には、当該解雇は客観的に合理的な理由を欠き、また、社会通念上も相当であると認められないものというべきである。

2 本件雇用契約においては、Xの就業場所が特定されておらず、Y社において、本件撤退に当たり他の販売担当者に対する退職勧奨や雇止めを含め、Xの配転先を探すべく真摯に努力することは解雇回避努力として必須のものと評価しうるところ、Y社はそのような努力をしていないから、人員削減の手段として解雇を選択することの必要性と合理性があるとはいえない

3 また、Xが解雇の対象となったのは撤退することになった店舗の販売担当者であったということに尽きるのであって、被解雇者の選定が客観的に合理的な基準に従って公正にされているともいえない

4 Xは、Y社部長らが、差別的で理不尽な本件解雇を通知した際、Xに対し、その勤務態度が不良であるというXの名誉を著しく損なうような虚偽の事実をもって本件解雇を正当化する本件書面を突きつけ、それに沿った説明をしたと主張する。
しかしながら、・・・このような事情に照らすと、本件書面に記載された自らの勤務態度に係る事実関係を強く否定するXの供述があることのみをもって、就業先から原告の勤務態度に関する報告があった等とする本件書面に記載された内容が全くの虚偽であり、これをY社があえて記載したとまで認めることはできない。

5 Xは、本件解雇が男女雇用機会均等法6条4号の規定に違反すると主張するが、平成20年3月から平成21年8月までの間に現に解雇されたY社の従業員はXのみであり、また、Y社において退職勧奨の対象者を女性に限っていたと認めることもできない。したがって、本件解雇が同号の規定に違反するということはできず、整理解雇である本件解雇が無効であるからといって、直ちに本件解雇をしたこと自体が不法行為に当たるとまでいうこともできない。

オーソドックスな整理解雇の事案です。

解雇回避努力が甘いと、簡単に無効と評価されてしまいます。

会社が整理解雇を選択する場合、よほどしっかり準備をしなければ、有効にならないことは、多くの裁判例から明らかです。

この裁判例でも言われているとおり、整理解雇は、リストラの「最終的な手段」です。

リストラ=整理解雇では、まず有効とは判断されませんのでご注意ください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇21(フィリップ・モリス・ジャパン事件)

おはようございます。

さて、今日は、コンプライアンス規定に違反した等の理由でなされた諭旨退職処分に関する裁判例を見てみましょう。

フィリップ・モリス・ジャパン事件(東京地裁平成22年2月26日・判時2077号158頁)

【事案の概要】

Y社は、たばこの販売促進業務等を目的とする会社である。

Xは、Y社の正社員であり、退職するまで、たばこのルート営業等に従事していた。

Xは、当時、Y社の首都圏リージョン内ユニットマネージャーの地位にあり、同ユニットに在籍する7人のテリトリーセールスマネージャーの管理監督をしていた。

Xは、Y社の職務倫理規定に違反した。また、Xの部下に対し、上司らが暴力行為をしたなどという虚偽の報告をするよう働きかけたりした。

Y社は、Xに対し、自宅待機命令と他の社員との連絡を禁じる旨の命令をはしたが、Xは、自宅待機中、部下らに電話をかけた。

事態を重く見たY社は、コンプライアンス委員会において審議し、(1)Xがコンプライアンス調査について守秘義務を課されたにもかかわらず、周囲にその内容を漏らしたこと、(2)Xが部下に対し上司について虚偽の報告をするよう求めたこと、(3)Xが他の社員との連絡を禁じる旨の命令に違反して、部下に電話をかけたこと、(4)Xが部下に対しパックレールの使用を指示した事実が発覚したことに基づき、Xを諭旨退職とするという意思決定をした。

Xは、Y社に対し、退職願を提出して退職の意思表示をしたことについて、この意思表示は、諭旨退職事由がないのにY社の人事部長の強迫により強制されたものであるからこれを取り消すなどと主張して、仮の地位確認と賃金仮払いを求めた。

【裁判所の判断】

諭旨退職処分は有効

【判例のポイント】

1 Xは、・・・会社諸規程・方針に違反したものということができる。特に、Xは、Y社が奨励する「スピークアップ」を悪用して、Y社のコンプライアンス調査を誤らせようとしたものと考えられるのであり、その違反の程度は重大というべきである。

2 コンプライアンスやインテグリティ(高潔さ、廉直さ)を重視するY社において、ユニットマネージャーであるXが、部下に対しパックレールの使用を指示しておきながら関与を認めず、さらにこれを交通事故のようなものというのは、Y社の方針等に合わない無責任な態度といわざるを得ない。

この裁判例で、注目すべきなのは、上記判例のポイント2です。

裁判所が、Y社は「コンプライアンスやインテグリティ(高潔さ、廉直さ)を重視する会社」であることを認めています

訴訟になったときに、裁判所から、このような評価をしてもらうことは会社にとっては非常にありがたいことです。

判決理由を読むと、フィリップ・モリス・ジャパンのコンプライアンスに対する姿勢がわかります。

会社としては、日頃、どのような対策をとれば、裁判所からこのような評価をしてもらえるのか、じっくり検討するべきだと思います

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇20(ビー・エム・シー・ソフトウェア事件)

おはようございます。

さて、今日は整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ビー・エム・シー・ソフトウェア事件
(大阪地裁平成22年6月25日・労判1011号84頁)

【事案の概要】

Y社は、コンピュータソフトウェアの開発、販売および保守業務等を業とする会社である。

アメリカ合衆国のA社は、Y社の100%の株主である。

Xは、Y社の従業員であり、Y社の関西営業所において、営業事務職員として勤務していた。

Y社は、Xに対し、「先般来の日本における業務縮小により、事業の運営上やむを得ない事情により従業員の減員が必要となったためという理由等を記載した解雇予告通知書を送付し、Xについて、解雇する旨の意思表示をした。

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 いわゆる整理解雇の有効性については、人員削減の必要性が認められることを前提として、解雇回避のためにいかなる措置が講じられたか、対象者の人選に合理性があるか否か、当該労働者との協議あるいは当該労働者に対する説明の程度といった諸事情を総合的に勘案して判断するのが相当であると解される

2 まず、Y社に人員削減の必要性があったか否かという点についてみる。たとえ外資系グループ企業において就労しているとはいえ、わが国で就労している労働者は、原則として、わが国の労働市場において労働の機会を確保し、生活を維持していく必要があることにかんがみれば、わが国における外資系グループ企業が、親会社の意向を受けて整理解雇を行う場合であったとしても、わが国における企業の収益の状況等を問わず。本社からの人員削減の指示・意向のみをもって、人員削減の必要性があったと認めるのは相当とはいえない。したがって、たとえ外資系グループ企業であったとしても、人員削減の必要性があるか否かという点については、親会社の意向もさることながら、我が国と親会社との関係、親会社の収益状況、我が国企業の業務内容及び収益状況、今後の見通し等初犯の事情を勘案して判断するのが相当である

3 本件解雇時点において、(1)Y社には2億7800万円の利益が発生していること、(2)米国本社に関しても、特段利益が減少するなどの状況にあるとはいえないこと、(3)Xが就労していた関西営業所については、本件解雇が決定した後に事務所規模を縮小していること、(4)東京本社の営業部において新規募集をしていること、以上の点が認められ、このうち、特に、本件解雇時点におけるY社の利益額の点及び米国本社の経営状況にかんがみると、人員削減の必要性の有無が経営上の判断を伴うものであることを考慮してもなお、果たしてY社において人員削減の必要性があったといえるのか疑問があるといわざるを得ない。

4 次にY社の解雇回避努力の点についてみる。Xに対しては、雇用継続に向けたその他の措置についての提案はなされていないこと、Y社は本件解雇に先立って、希望退職者を募集していないこと、Xが勤務していた関西営業所の事業縮小(事務所移転)は、本件解雇後に行われたこと、賃金の減額等の人員削減以外の解雇回避措置がなされたことを認めるに足りる的確な証拠はないことの諸事情を勘案すると、本件解雇にあたって、Y社は解雇回避努力に努めたとは認め難い

外資系だろうと、特別扱いはしませんよ、という裁判例です。

判断内容は、オーソドックスそのものです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇19(ウップスほか事件)

おはようございます。

さて、今日は、子会社解散と同族企業グループ内での雇用責任に関する裁判例を見てみましょう。

ウップスほか事件(札幌地裁平成22年6月3日・労判1012号43頁)

【事案の概要】

Y社は、生コンクリートの製造販売事業、コンクリート製品の製造販売事業等を主な目的とする会社であり、同族会社である。

Y社は、いわゆるアイザワグループの中核的な企業である。

Z社は、貨物自動車運送事業等を主な目的とする会社であり、アイザワグループのグループ企業となった後は、同グループの運送部門として運営されてきた。

A社は、生コンクリート及びコンクリート製品の製造、販売とその輸送業務等を主な目的とする会社であり、アイザワグループのグループ会社である。

Xは、Z社に雇用され、コンクリートミキサー車のミキシングオペレーター(MO)としての業務に従事してきた。

Z社に雇用されている従業員のうち、Xを含む33名のMOは、全員がA社に出向する形で労務を提供していた。

Z社は、Xを、ミーティングでの不規則発言や人事担当者に対する威圧的言動等を理由に懲戒解雇した(第1次解雇)。

Z社は、Xを相手方として、労働審判を申し立て、その中で、Xを普通解雇にする旨の意思表示をした(第2次解雇)。

その後、Z社は、Xに対し、Z社の解散を理由として解雇した(第3次解雇)。

A社においてMO業務を行っていた従業員については、Xを除いた大部分の従業員が、A社のセンター長が設立したB会社に雇用され、A社におけるMO業務に従事するようになった。

Xは、第1次解雇ないし第3次解雇はいずれも無効であるとして、地位確認等を求めた。

【裁判所の判断】

いずれの解雇も無効。

【判例のポイント】

1 Xは、労働契約締結にあたり、Z社の人間とは一切接触がなかったこと、労働条件もA社により決定され、A社の指揮命令・監督の下で労務が提供されていたこと、人件費は実質的にA社が負担していたこと、解雇が実質的にはZ社ないしY社の判断で行われていたことからすると、解雇通知と解雇理由証明書がZ社名義で発行されたほかは、Z社の実質的な関与をうかがわせるような事情が見当たらず、A社を雇用主とし、Xをその労働者とする事実上の使用従属関係が存在していたことは明らかというべきである

2 Z社からの出向は形式的なもので、Z社はXらMOとの関係では、給与の支払いと明細書の発行等を行う代行機関にすぎなかったのであり、出向関係が実質的に存在しているとはいえないから、客観的な事実関係から推認し得るXとA社の実質的な合理的意思解釈としては、XとA社との間の黙示の労働契約の成立が認められるというべきであり、Xは、A社のMOとして採用され、A社との間で労働契約を締結したものと認めるのが相当である。

3 仮処分事件や別訴において、XがZ社を雇用主とする前提で解雇無効を主張していたとしても、形式的な雇用主に対応したものであって、Z社との労働契約関係とA社とのそれが両立しえないものではない。

4 Xの言動はただちに懲戒事由に当たるとは言いがたく、これをもって懲戒解雇とすることもできないから、第1次解雇、第2次解雇は無効である。

5 第3次解雇は、A社との実質的な労働契約関係の下での形式的な雇用主にすぎないZ社の解散が、XとA社との間の実質的な労働契約関係を解消する理由とはならないというべきであり、A社において、Xを解雇しなければならない具体的な経営上の必要性については、これを認めるに足りる具体的な主張立証はない。
したがって、第3次解雇は、XとA社との間の労働契約関係に影響を及ぼすものとはいえないというべきである。

ざっくり言うと、「形式」よりも「実質」を重視したということです。

経営主体の移転後に、新たな経営主体との労働契約関係の存続ないし承継が争われるケースにおいて、移転前と移転後の経営主体の実質的同一性を認めた裁判例はあまりありません。

本件では、当初から「実質的な労働契約関係」がA社にあるとして、労働契約の承継の問題とせず、A社の雇用責任を認めています。

これは、Z社、A社を含む関係企業すべてがY社を中心としたグループ企業であり、各社の経営管理、人事管理をY社に管理されているなど、Z社が事実上企業の一部門にすぎない状態であったという事情が重視されたものであると考えられます。

非常にめずらしいケースですが、いつかどこかで参考になるでしょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇18(静岡第一テレビ事件)

おはようございます。

さて、今日は、有効でない懲戒解雇の不法行為該当性について判断した裁判例を見てみましょう。

静岡第一テレビ事件(静岡地裁平成17年1月18日・労判893号135頁)

【事案の概要】

Y社は、放送法によるテレビジョンその他の一般放送事業等を営む株式会社である。

Xは、Y社に雇用され、その後、本社営業部長や編成部ライブラリー室担当部長の職にあった者である。

Xは、Y社から解雇されたものの、その後、当該解雇は相当性を欠くとして無効とする判決の確定により、Y社に復職した。

Xは、Y社に対し、本件解雇は、その理由とされた就業規則違反の事実が認められず、さらに、平等性、相当性及び適正手続を欠いている違法な処分であり、不法行為を構成すると主張した。

【裁判所の判断】

当該解雇は不法行為にはあたらない。

【判例のポイント】

1 懲戒解雇(諭旨解雇を含む)は、・・・それが客観的に合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合に初めて権利の濫用として無効になると解するのが相当である。

2 しかしながら、権利濫用の法理は、その行為の権利行使としての正当性を失わせる法理であり、そのことから直ちに不法行為の要件としての過失や違法性を導き出す根拠となるものではないから、懲戒解雇が権利の濫用として私法的効力を否定される場合であっても、そのことで直ちにその懲戒解雇によって違法に他人の権利を侵害したと評価することはできず、懲戒解雇が不法行為に該当するか否かについては、個々の事例ごとに不法行為の要件を充足するか否かを個別具体的に検討の上判断すべきものである

3 そして、従業員に対する懲戒は、当該従業員を雇用している使用者が、行為の非違性の程度、企業に与えた損害の有無、程度等を総合的に考慮して判断するものであって、どのような懲戒処分を行うのかは、自ずから制約はあるものの、当該事案に対する使用者の評価、判断と裁量に委ねられていること、他方、雇用契約は労働者の生活の基盤をなしており、使用者の懲戒権の行使として行われる重大な制裁罰としての懲戒解雇は、被用者である労働者の生活等に多大な影響を及ぼすことから、特に慎重にすべきことが雇用契約上予定されていると解されることを対比勘案するならば、懲戒解雇が不法行為に該当するというためには、使用者が行った懲戒解雇が不当、不合理であるというだけでは足らず、懲戒解雇すべき非違行為が存在しないことを知りながら、あえて懲戒解雇をしたような場合、通常期待される方法で調査すれば懲戒解雇すべき事由のないことが容易に判明したのに、杜撰な調査、弁明の不聴取等によって非違事実(懲戒解雇事由が複数あるときは主要な非違事実)を誤認し、その誤認に基づいて懲戒解雇をしたような場合、あるいは上記のような使用者の裁量を考慮してもなお、懲戒処分の相当性の判断において明白かつ重大な誤りがあると言えるような場合に該当する必要があり、そのような事実関係が認められて初めて、その懲戒解雇の効力が否定されるだけでなく、不法行為に該当する行為として損害賠償責任が生じ得ることになるというべきである

4 本件解雇は、Xに軽微とはいえない就業規則違反の事実があったこと、Xおよび関係者に対する事情聴取等を経たうえで行われた等に照らせば、Y社の解雇の相当性判断に明白かつ重大な過失があったとはいえない。

「解雇権の濫用にあたるか」という問題と「不法行為に該当するか」という問題は別の問題ですので、当然、要件は異なります。

この裁判例は、具体的に有効でない解雇が不法行為に該当する場合の要件について判断しています。

「懲戒解雇の相当性の判断において、明白かつ重大な誤りがあると言えるような場合」といっています。

また、その具体例もあげています。

会社としては、非常に参考になりますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇17(宮崎信金事件)

おはようございます。

さて、今日は、解雇無効判決確定後に注意すべき事項について参考になる裁判例を見てみましょう。

宮崎信金事件(宮崎地裁平成21年9月28日・判タ1320号96頁)

【事案の概要】

Xは、Y会社と雇用契約を締結し、Y社において勤務していた。

Y社は、宮崎新聞社代表取締役からY社の内部資料が外部に流出していることを告げられたのを契機に、流出文書調査委員会を発足させてXらの調査を行った。

Y社は委員会から調査結果および意見を受け、本件文書の外部流出についてはXらの関与が明らかであるとして、Xを懲戒解雇した。

本件懲戒解雇に伴い、社会保険事務所に対してXが社会保険資格を喪失したことを届け出るとともに、厚生年金基金に対してもXが加入員資格を喪失したことを届け出た。

これに対し、Xが懲戒解雇の無効確認等を求めて提訴し、最高裁において解雇無効で確定した。

Xは、Y社に復職した。Y社は、Xの復職に伴い、社会保険事務所から社会保険の加入方法について復職時から2年分のみ遡って加入する方法と復職時から再加入する方法がある旨の説明を受け、Xに対し、同様の説明を行った。

しかし、その後、Y社は社会保険事務所から以前の説明には誤りがったとして、社会保険の加入方法については以前説明した2つの方法のほか、解雇時に遡って加入する方法があり、従業員に対する解雇の無効が確定した場合には、解雇時に遡って加入するのが原則となる旨の説明を受けた。ところが、Y社はこの説明をXにしなかった

Xは、復職時から厚生年金に加入する旨をY社に伝え、Y社もその手続をとった。このためY社は懲戒解雇時から復職時までに対応する社会保険の使用者負担分の負担を免れている。

Xは、Y社がXの年金資格を遡及回復させなかったこと等が債務不履行ないし不法行為を構成するとして、損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

Xらは解雇時に遡って厚生年金の被保険者資格、厚生年金基金の加入員資格を回復していた場合の年金の受給見込額と、復職時に被保険者資格、加入員資格を再取得していた場合の受給見込額の差額から、Xが負担すべきであった保険料を控除した額等の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 厚生年金保険法は、同法所定の強制適用事業所及び厚生年金基金の設立事業所の労働者は厚生年金保険及び厚生年基金に加入するものとし(同法9条、122条)、また、被保険者資格等は、使用者との間の使用関係が消滅するなどの事情がない限り存続するものとした上で、使用者が虚偽の資格喪失届出をすること等に罰則を設けている(同法13条、14条、102条、123条、124条、187条)。そして、社会保険事務所においても、解雇の無効が確定した場合には、厚生年金保険について、原則として、被保険者の資格喪失の処理を取り消し、解雇時から継続して加入していたものとする扱いがとられている。このような被保険者資格等に関する規定及び運用に照らすと、労働者は、使用者との雇用関係が消滅するなどの特段の事情のない限り、被保険者資格が存続するものと考え、また、加入期間に対応する年金を受給し得ると期待するのが通常である。

2 以上のような厚生年金保険法の規定及び労働者の年金受給に対する期待等に加え、年金が労働者の年金受給に対する期待等に加え、年金が労働者の老後の生活保障に重要な役割を担うことを併せ考慮すると、労働者に対する解雇の無効が確定した場合には、使用者は、労働者の年金資格の回復方法について労働者の選択に委ねる余地があるとしても、使用者は、雇用契約に付随する義務として、当該労働者に対し、労働者が資格の回復方法について合理的に選択できるよう、被保険者資格等の回復に必要な費用及び回復により得られる年金額等、各加入方法の利害得失について具体的に説明する義務を負うものと解するのが相当である

3 Y社は、Xに対し、被保険者資格については解雇時に遡って加入する方法をのぞく2つの方法及び2年分遡及加入した場合に必要となる費用のみを説明し、加入者資格については復職時からの再加入する方法のみを説明するにとどまっているのであるから、Y社には、上記説明を怠った過失があるといわざるを得ない。

本件では、年金資格を遡及回復させなかったことの債務不履行ないし不法行為該当性が問題となりました。

裁判所は、解雇後の被保険者資格の回復について、使用者の「説明義務違反」を理由とする損害賠償請求が認容されました。

選択肢の説明義務があり、本件では、最も原則的な選択肢について説明がなされていなかったため、問題となりました。

会社としては、解雇無効確定後、従業員に対する説明内容については、顧問弁護士に確認した上で、ミスがないようにしたいところです。

解雇16(通販新聞社事件)

おはようございます。

さて、今日は、職場規律違反での解雇に関する裁判例を見てみましょう。

通販新聞社事件(東京地裁平成22年6月29日・労判1012号13頁)

【事案の概要】

Y社は、通信販売業界新聞「週刊通販新聞」等を発行している会社である。

Xは、Y社との間で雇用契約を締結して、平成18年から、通販新聞の編集長を務めていた。

Xは、A社との間で「図解入門業界研究 最新 通販業界の動向とカラクリがよ~くわかる本」という書籍の執筆・出版について著作物印税契約を締結した。そして、Y社が作成して業界紙に掲載したグラフやランキング表を13項目にわたり本件書籍に使用した。

Xは、Y社代表者に原稿がほぼ完成したことを報告したところ、同人は特に何も言わなかった。また、同人に完成した本件書籍を渡した際も、同人は聞いた覚えがないと疑問を呈しながらも、「売れるかな」などと冗談を言って、とがめるような態度を示さなかった

しかし、翌日、Y社代表者は、前日とは打って変わって立腹した様子で「カラクリという表現が業界の印象を悪くする。著作権を侵害した」などと言い出して、本件書籍の回収を命じた。

そして、Y社代表者は、本件書籍の出版により、Y社の信用を損なったなどという理由で、Xに対し懲戒解雇を通告し、また、紙面にXが懲戒解雇された旨を社告として掲載し、同紙のウェブ版にも同様の記事を掲載した。

Xは、労働契約上の地位確認および賃金支払、不当な懲戒解雇ないし名誉棄損に基づく慰謝料、および謝罪広告の掲載を求めて提訴した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効。

慰謝料として200万円の支払いを命じた。

Xの名誉回復措置として同紙1面に1回、同ウェブ版に1か月間の謝罪広告の掲載を命じた。

【判例のポイント】

1 Xが本件書籍を、通販業界の動向等を公平な立場から俯瞰的に執筆した本と説明していること、Y社代表者も、本件書籍の内容は問題がないと述べていること、Xは、「通販新聞執行役編集長」の肩書で本件書籍を執筆し、本件図表等の出典を明記していること、Xの印税収入は約20万円であり、約3か月をかけて仕事の報酬としてそれほど多額とはいえないことなどを考慮すると、Xは、本件書籍の執筆に際して、本来Y社に帰属すべき本件書籍の印税収入を私物化して経済的利益を図り、しかも、著作の名声を独占しようという身勝手な動機を有していたと認めることができない。また、前記のとおり、Xは、Y社代表者から、本件図表等の使用の許諾を得ていたと認めるのが相当であるから、Xが本件図表等を無断で使用したとは認められない
そうだとすると、Xが本件図表等を本件書籍に使用したことは、Y社の社会的信用や企業秩序を害するものではないというべきであるから、本件の懲戒事由には該当しない。

2 本件懲戒事由該当事実は存在しないのに、Y社はこれを断行したから、Y社には不法行為が成立する。

3 また、本件社告等の内容が、Xの社会的評価を低下させるものであること、本件社告等が通販業界をはじめとして、広く公表されたことは明らかであり、名誉棄損の不法行為も成立する。

裁判所は、名誉棄損の違法性の重大さに加え、本件懲戒事由該当事実が存在しないことから、本件懲戒解雇自体の違法性もかなり重大なものというべきであると判断し、慰謝料200万円、謝罪広告を認めています。

従業員が、謝罪広告の掲載を求めたいと思う場合、どのような請求をすればよいか等、参考になる裁判例です。

会社としては、懲戒解雇のハードルの高さを認識する必要があります。

その意味では、参考になる裁判例です。

この事件は、控訴されていますので、高裁の判断が待たれます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇15(ネスレ日本事件)

おはようございます。

さて、今日は、長期間経過後の懲戒処分に関する最高裁判例を見てみましょう。

ネスレ日本事件(最高裁平成18年10月6日・労判925号11頁)

【事案の概要】

Y社は、外資系食品メーカーである。

Xらは、Y社の従業員として工場に勤務していた。

Y社は、Xらを諭旨退職処分とし、退職願を提出すれば自己都合退職とし退職金全額を支給するが、提出しないときは懲戒解雇するとした。

Xらは、退職願を提出しなかったため、Y社から懲戒解雇された。

本件懲戒解雇の理由とされたのは、7年以上前の暴行、暴言、業務妨害などである。

Xらは、本件懲戒解雇は権利の濫用であり、無効であるとして、Y社に対して労働契約上の従業員たる地位にあることの確認を求めた。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効。

【判例のポイント】

1 懲戒処分が本件事件から7年以上経過した後になされたことについて、Y社は、警察および検察庁に被害届や告訴状を提出していたことから、これらの操作の結果を待って処分を検討することとしたという。
しかしながら、本件各事件は職場で就業時間中に管理職に対して行われた暴行事件であり、被害者である管理職以外にも目撃者が存在したのであるから、上記の捜査の結果を待たずとも処分を決めることは十分に可能であったものと考えられ、長期間にわたって懲戒権の行使を留保する合理的な理由は見いだし難い。
しかも、捜査の結果を待ってその処分を検討することとした場合においてその捜査の結果が不起訴処分となったときには、使用者においても懲戒解雇処分のような重い懲戒処分は行わないこととするのが通常の対応と考えられるところ、捜査の結果が不起訴処分となったにもかかわらず、実質的には懲戒解雇処分に等しい本件諭旨解雇処分のような重い懲戒処分を行うことは、その対応に一貫性を欠くものといわざるを得ない。

2 本件各事件以降期間の経過とともに職場における秩序は徐々に回復したことがうかがえ、少なくとも本件諭旨解雇処分がされた時点においては、企業秩序維持の観点から懲戒解雇処分ないし諭旨退職処分のような重い懲戒処分を行うことを必要とするような状況にはなかったものということができる

3 以上の諸点にかんがみると、本件各事件から7年以上経過した後にされた本件諭旨退職処分は、処分時点において企業秩序維持の観点からそのような重い懲戒処分を必要とする客観的に合理的な理由を欠くものといわざるを得ず、社会通念上相当なものとして是認することはできない

最高裁判例です。

1審は、Y社のXらに対する諭旨退職処分は、懲戒権の濫用にあたり無効であるとしました。

これに対し、原審は、事件発生から諭旨退職処分がされるまでには相当な期間が経過しているが、Y社は捜査機関による捜査の結果を待っていたもので、いたずらに懲戒処分をしないまま放置していたわけではないから、本件懲戒解雇は有効であるとしました。

原審(東京高裁)では、Y社の主張通りに判断されています。

不起訴処分の通知を受けてから懲戒処分をするまで1年程経過していますが・・・。

いずれにせよ、長期間経過後の懲戒処分が直ちに懲戒権の濫用となるわけではありません。

とはいえ、長期に及べば及ぶほど、懲戒処分に着手しないことの正当性はどんどん乏しくなっていきます。

労働判例百選[第8版]60では、以下のとおり解説されています。

濫用の成否については、長期の経過に至った諸般の事情や必要性を苦慮する必要があり、(1)長期の経過に至った必然性、(2)その間の当事者の姿勢、(3)長期の経過による企業秩序の形成、(4)長期の経過による事実関係の把握の困難などの要素について慎重に検討されるべきである

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇14(ニュース証券事件)

おはようございます。

さて、今日は、試用期間中の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ニュース証券事件(東京高裁平成21年9月15日・労判991号153頁)

【事案の概要】

Xは、Y社(証券会社)に営業職の正社員として中途採用された。

Y社には、6か月の試用期間がある。

勤務開始後におけるXの手数料収入は、Y社の期待を下回るものであった。

Y社は、試用期間中(3か月強)に、Xを試用期間中に不適と認められたとして解雇した。

Xは、Y社に対し、解雇無効を理由とする地位確認及び賃金請求をした。

【裁判所の判断】

解雇無効(控訴棄却)

【判例のポイント】

1 本件雇用契約書には、本件雇用契約におけるXの試用期間を6か月とする規定が置かれているところ、試用期間満了前に、Y社はいつでも留保解約権を行使できる旨の規定はないから、XとY社との間で、Xの資質、性格、能力等を把握し、Y社の従業員としての適性を判断するために6か月間の試用期間を定める合意が成立したものと認めるべきである

2 そして、試用期間が経過した時における解約留保条項に基づく解約権の行使が、解約につき客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当と是認され得る場合に制限されることに照らせば、6か月の試用期間の経過を待たずしてY社が行った本件解雇には、より一層高度の合理性と相当性が求められるものというべきである

3 Y社が、Xは適格性を有しないと判断して本件解雇をすることは、試用期間を定めた合意に反してY社の側で試用期間をXの同意なく短縮するに等しいものというべきであって、Xが業務上横領等の犯罪を行ったり、Y社の就業規則に違反する行為を重ねながら反省するところがないなど、試用期間の満了を待つまでもなくXの資質、性格、能力等を把握することができ、Y社の従業員としての適性に著しく欠けるものと判断することができるような特段の事情が認められるのであれば格別、合意した試用期間である6か月におけるXの業務能力又は業務遂行の状態を考慮しないでY社が行った本件解雇(留保解約権の行使)は、客観的に合理的な理由がなく社会通念上相当として是認することはできない

この裁判例は、以前検討したニュース証券事件(東京地裁平成21年1月30日判決・労判980号18頁)の控訴審判決です。

結論としては、一審の判断が維持されました。

試用期間満了前に解雇をする場合には、「より一層高度の合理性と相当性」が必要であるといっています。

ここまで言われると、会社としては試用期間の途中で解雇することは非常に困難ですね。

従業員としては、この裁判例の理由付けは使えると思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇13(和光商事事件)

おはようございます。

今日も引き続き、部下が不正行為を行った場合における上司の責任に関する裁判例を見ていきます。

和光商事事件(大阪地裁平成3年10月15日・労判598号62頁)

【事案の概要】

Y社は、金融業等を目的とする株式会社である。

Xは、Y社の常務取締役として、代表取締役に次ぐ地位にあり、Y社の主たる営業である貸付業務の全体を統括し、併せて従業員に対する教育管理等を行っていた。

Xの部下は、抵当権設定登記を行わないまま顧客に貸付けを実行し、その結果、946万3740円を回収することが不可能となった。

Y社は、Xが常務取締役として、Y社に対し、部下の業務遂行を監督し、これを指導すべき職務上の義務を負っていたにもかかわらず、部下の報告を虚偽と知りながら黙認し、さらに、事実の報告を押しとどめることによって未回収金を発生させるに至った行為は、上記義務に違反する行為であるとして、Xを懲戒解雇した

Xは、懲戒解雇の効力を争った。

Y社は、これに対抗し、Xに対し、未回収金相当額の損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効。

Y社のXに対する損害賠償請求は、請求額の3分の1の限度で認容。

【判例のポイント】

1 Xは、Y社の業務体制が整備されていれば、抵当権未設定の事実はXからの報告がなくても容易に知り得たはずであるとして、Xの義務違反の程度は軽微であったと主張した。
これに対し、裁判所は、「仮にY社の業務体制に不備があったとしても業務を統括する立場にあったXの責任がこれを理由に軽減されるはずがない。体制に不備があれば、X個人が果たすべき役割はそれだけ重大になりその責任は重くなる。」と判断した。

2 Xが賠償すべき具体的金額については、雇用関係における信義則及び公平の見地から諸事情を慎重に検討し、決定すべきである。

(1)Y社のように金銭貸付を業務とする企業の従業員は、その給与からみて容易に返済できない額の貸付を担当しているのが通常であることから、仮に従業員の落ち度で未回収となった金銭のすべてを当該従業員個人が賠償すべきとすることは、従業員にとって余りにも酷な結果をもたらす。

(2)Y社就業規則にも「従業員が故意または過失によって会社に損害を与えたときは、その全部または一部の損害賠償を求めることがある」との規定があり、全額請求することが原則であるとは定められていない。

(3)Y社の貸付金利は、利息制限法に違反するものであった疑いが強い。

(4)本件懲戒解雇が有効であり、これによりXは本件貸付について十分な制裁を受けたと評価できる。

やはり、上司が部下の不正行為を黙認し、会社に報告せず、会社に損害が発生した場合には、責任を負うことになってしまいます。

もっとも、よほどのことがない限り、会社が被った損害の全部を賠償する、ということにはなりません。

上司のみなさん、くれぐれも黙認しないようにしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。