Category Archives: 不当労働行為

不当労働行為296 横領等を理由とする組合の分会長を懲戒解雇処分としたことが不当労働行為にあたるとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、横領等を理由とする組合の分会長を懲戒解雇処分としたことが不当労働行為にあたるとされた事案を見ていきましょう。

樽本機工事件(大阪府労委令和3年1月22日・労判1266号122頁)

【事案の概要】

本件は、横領等を理由とする組合の分会長を懲戒解雇処分としたことが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 F分会長が本件解体下架工事においてQから支払われたスクラップ代金の一部をG次長から受け取ったことが、懲戒解雇処分に値する着服、横領であると判断するには、なお証拠不十分であると言わざるを得ず、そうした会社の判断が妥当であるかどうかについては、疑問の残るところである。

2 本件懲戒解雇処分は、団交において労使関係の運営に係る事項を中心に労使間の主張の相違が解消されない中で、会社が組合に対して一方的に否定的な感情及び警戒感を抱いている状況において、当日行われる予定の第3回団交を意識してF分会長に通知され、かつ、分会結成通知の翌日から準備を始めて、3か月足らずという極めて近接した時期になされ、その理由の合理性については疑問が残り、その手続が合理性を欠き、さらに、その結果として、組合員でない他の4名の従業員に対する処分との間には大きな不均衡が存在するのであるから、会社の不当労働行為意思に基づいてなされたものとみるべきであって、組合員であるが故の不利益取扱いに当たり、労働組合法第7条第1号に該当する不当労働行為である。

組合員に対する懲戒解雇の不当労働行為該当性は、一般的な懲戒解雇の有効性判断と特に大きな違いはありません。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

不当労働行為295 組合の申し入れた団交に対し、法人が団交開催時刻および団交開催場所を指定したこと等が不当労働行為に当たらないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡) 

おはようございます。

今日は、組合の申し入れた団交に対し、法人が団交開催時刻および団交開催場所を指定したこと等が不当労働行為に当たらないとされた事案を見ていきましょう。

学校法人スバルが丘学園事件(大阪府委令和3年2月15日・労判1266号121頁)

【事案の概要】

本件は、組合の申し入れた団交に対し、法人が団交開催時刻および団交開催場所を指定したこと等が不当労働行為にあたるかが争われた事案を見ていきましょう。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたらない

【命令のポイント】

1 法人は、就業時間内に団交を行うことで差しさわりがある点を示している一方、組合は、法人が提案する午後6時からの団交開始により、いかなる不利益や不都合があるかを具体的に示すことなく、就業時間内での団交開催を求め続けていたといえ、かかる組合の対応は、就業時間内での団交開催時刻が合意に達しなかったことについて、法人のみに責任があるとはいえない

2 法人が神戸市勤労会館を団交開催場所として提案したことは合理的であったといえ、また、神戸市勤労会館で団交を開催することにより、組合又は少なくとも本件組合員3名に対し格別の不利益をもたらすとはいえず、さらに、法人は、組合が提案する場所以外を指定する理由を組合に一定説明していたといえるのであるから、法人が提案した神戸市勤労会館も団交の開催場所として認め得るところである。
したがって、法人が、神戸市勤労会館での団交開催を主張し、組合の本校内会議室での開催の求めに応じなかったからといって、かかる法人の対応を不合理であったということはできない
組合は、本校会議室以外の場所で団交を開催することで、組合又は組合員が、いかなる不利益を被るかについて具体的に提示することなく、本校会議室での団交開催を求め続けたといえ、かかる組合の対応は、団交の開催場所について労使で協議して決定するという姿勢に欠けていたといわざるを得ない
以上のことからすると、団交開催場所について合意に達しなかったことについて、法人のみ責任があるとはいえない。

開催時間や開催場所を巡って紛争化するケースは少なくありません。

一般的な考え方は、上記命令のポイントのとおりですので、しっかり押さえておきましょう。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

不当労働行為294 法人が組合を批判する内容の文書を全職員に配布したことの不当労働行為該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、法人が組合を批判する内容の文書を全職員に配布したことが不当労働行為にあたるとされた事案を見ていきましょう。

社会福祉法人千歳会事件(千葉県労委令和3年7月27日・労判1266号116頁)

【事案の概要】

本件は、法人が組合を批判する内容の文書を全職員に配布したことが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 法人は、B1理事長名で12月20文書を、給与明細と共に全職員に配布した。そして、12月20日文書は、①「真摯に業務に励まれる職員の皆様」を対象としているが、全職員に配布した事実の下では全職員を対象にしたといえ、②12月20日文書の記載内容は、組合の提出した統一要求書に対する法人の回答を報告する内容のほか、組合を批判し、組合と組合に加入していない職員・法人とを対立させるものであり、③12月20日文書の配布時期は、本件不当労働行為救済申立てがなされた後であり、④12月20日文書の名義は、法人の代表者である理事長であり、⑤12月20日文書の内容をみるに、当該文書は、組合の要求内容及び活動は不適当であり、当該要求が受けられた場合は組織が衰退し消滅するとの印象を法人職員に与え、組合への不信感を抱かせるものであるから、法人職員の組合への加入を抑止し、組合活動への指示を失わせるとともに、組合の活動を委縮させる効果を生じさせるものといえる。
これらのことから総合して考えると、12月20日文書の配布は、組合員に対し威嚇的効果を与え、組合の組織、運営に影響を及ぼすものであるといえる。
以上のことから、・・・支配介入に当たり、労組法7条3号に当たる不当労働行為である。

労働組合法(不当労働行為)のルールを把握しておらず、かつ、事前にレクチャーする専門家がいない場合には、このような紛争に発展しがちです。お気をつけください。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

不当労働行為293 組合員2名を含む新入職員7名に対し、組合加入の事実関係等について確認したことが支配介入にあたるとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、法人が、組合員2名を含む新入職員7名に対し、組合加入の事実関係等について確認したことが支配介入にあたるとされた事案を見ていきましょう。

一般財団法人日本モーターボート競走会事件(東京都労委令和3年12月21日・労判1266号113頁)

【事案の概要】

本件は、法人が、組合員2名を含む新入職員7名に対し、組合加入の事実関係等について確認したことが支配介入にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

支配介入にあたる

【命令のポイント】

1 本件ヒアリングは、組合員のB及びCとその同期である非組合員5名を訓練後に養成所の教官室に呼び出し、D人事課長が各人と電話で話をする方法で行われている。このように法人が、新入職員7名を教官室に一斉に呼び出し、養成所の職員ではなく本部の人事課長が、組合の勧誘方法、組合加入の経緯又は加入の意思、他の職員の組合加入状況などを詳細に質問すれば、新入職員は、法人が、職員の組合加入の動向等を取り分け注視していることを知るとともに、法人の対応に動揺することは容易に想像できるところである。
そうだとすれば、本件ヒアリングは、組合加入者を動揺させ、組合未加入者に対しては、組合加入を躊躇させるものであったといわざるを得ない。
以上のとおり、本件ヒアリングは、新入職員に対して、法人が職員の組合加入を注視していることを意識させ、組合加入を躊躇させるものであったことから、組合の組織運営に対する支配介入に当たる。

会社の気持ちはわかりますが、これでは不当労働行為になってしまいます。

組合に加入するなとストレートに言わなくても、不当労働行為に当たりますのでご注意ください。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

不当労働行為292 合意成立の見込みのない誠実交渉命令が労働委員会による裁量権の範囲を逸脱しないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、合意成立の見込みのない誠実交渉命令が労働委員会による裁量権の範囲を逸脱しないとされた事案を見ていきましょう。

山形大学事件(最高裁令和4年3月18日・労経速2479号3頁)

【事案の概要】

本件は、労働組合Xから、使用者であるY社の団体交渉における対応が労働組合法7条2号の不当労働行為に該当する旨の申立てを受けた処分行政庁が、労働組合Xの請求に係る救済の一部を認容し、その余の申立てを棄却する旨の命令を発したところ、処分行政庁が、Y社を相手に、本件命令のうち上記の認容部分の取消しを求める事案である。

原審は、要旨次のとおり判断し、本件認容部分は違法であるとして、その取消しを求めるY社の請求を認容すべきものとした。
本件命令が発せられた当時、昇給の抑制や賃金の引下げの実施から4年前後経過し、関係職員全員についてこれらを踏まえた法律関係が積み重ねられていたこと等からすると、その時点において、本件各交渉事項につきY社と労働組合Xとが改めて団体交渉をしても、労働組合Xにとって有意な合意を成立させることは事実上不可能であったと認められるから、仮にY社に本件命令が指摘するような不当労働行為があったとしても、処分行政庁が本件各交渉事項についての更なる団体交渉をすることを命じたことは、その裁量権の範囲を逸脱したものといわざるを得ない。

【裁判所の判断】

破棄差戻し

【判例のポイント】

1 労働委員会は、救済命令を発するに当たり、不当労働行為によって発生した侵害状態を除去、是正し、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図るという救済命令制度の本来の趣旨、目的に由来する限界を逸脱することは許されないが、その内容の決定について広い裁量権を有するのであり、救済命令の内容の適法性が争われる場合、裁判所は、労働委員会の上記裁量権を尊重し、その行使が上記の趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたると認められるものでない限り、当該命令を違法とすべきではない(最高裁昭和52年2月23日大法廷判決参照)。

2 労働組合法7条2号は、使用者がその雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由なく拒むことを不当労働行為として禁止するところ、使用者は、必要に応じてその主張の論拠を説明し、その裏付けとなる資料を提示するなどして、誠実に団体交渉に応ずべき義務を負い、この義務に違反することは、同号の不当労働行為に該当するものと解される。
そして、使用者が誠実交渉義務に違反した場合、労働者は、当該団体交渉に関し、使用者から十分な説明や資料の提示を受けることができず、誠実な交渉を通じた労働条件等の獲得の機会を失い、正常な集団的労使関係秩序が害されることとなるが、その後使用者が誠実に団体交渉に応ずるに至れば、このような侵害状態が除去、是正され得るものといえる。
そうすると、使用者が誠実交渉義務に違反している場合に、これに対して誠実に団体交渉に応ずべき旨を命ずることを内容とする救済命令を発することは、一般に、労働委員会の裁量権の行使として、救済命令制度の趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたるものではないというべきである。

3 ところで、団体交渉に係る事項に関して合意の成立する見込みがないと認められる場合には、誠実交渉命令を発しても、労働組合が労働条件等の獲得の機会を現実に回復することは期待できないものともいえる。
しかしながら、このような場合であっても、使用者が労働組合に対する誠実交渉義務を尽くしていないときは、その後誠実に団体交渉に応ずるに至れば、労働組合は当該団体交渉に関して使用者から十分な説明や資料の提示を受けることができるようになるとともに、組合活動一般についても労働組合の交渉力の回復や労使間のコミュニケーションの正常化が図られるから、誠実交渉命令を発することは、不当労働行為によって発生した侵害状態を除去、是正し、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図ることに資するものというべきである
そうすると、合意の成立する見込みがないことをもって、誠実交渉命令を発することが直ちに救済命令制度の本来の趣旨、目的に由来する限界を逸脱するということはできない
また、上記のような場合であっても、使用者が誠実に団体交渉に応ずること自体は可能であることが明らかであるから、誠実交渉命令が事実上又は法律上実現可能性のない事項を命ずるものであるとはいえないし、上記のような侵害状態がある以上、救済の必要性がないということもできない。
以上によれば、使用者が誠実交渉義務に違反する不当労働行為をした場合には、当該団体交渉に係る事項に関して合意の成立する見込みがないときであっても、労働委員会は、誠実交渉命令を発することができると解するのが相当である。

有名な最高裁判決ですので押さえておきましょう。

労働委員会には広範な裁量が認められていることの帰結です。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

不当労働行為291 組合が労組法の規定に適合せず、労組法上の救済を受ける資格を有しないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、組合が労組法の規定に適合せず、労組法上の救済を受ける資格を有しないとされた事案を見ていきましょう。

グランティア事件(東京都労委令和2年6月16日・労判1262号97頁)

【事案の概要】

本件は、組合が労組法の規定に適合するかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

労組法の規定に適合しない。
→申立て却下

【命令のポイント】

1 組合においては、役員以外の一般の組合員に組合の「すべての問題に参与する権利」があるとはいえず、役員は「組合員の直接無記名投票により選挙」されておらず会計報告は「組合員に公表」されていないから、労働組合法5条2項の要件を欠いている

2 加えて、組合の実態としても一般の個々の組合員が、組合を自主的に組織する主体であるということは困難であり、組合は、「労働者が主体となって自主的に・・・組織する」という労働組合法第2条の要件を欠いているといわざるを得ない。

3 したがって、組合が、労働組合法に規定する手続きに参与し、同法による救済を受ける資格を有するものであると認めることはできない

法適合組合とは認められないと判断された事案です。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

不当労働行為290 派遣元会社が、解雇の撤回等を議題とする団交申入れに応じなかったことが不当労働行為とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、派遣元会社が、解雇の撤回等を議題とする団交申入れに応じなかったことが不当労働行為とされた事案を見ていきましょう。

アウトソーシング事件(中労委令和3年9月15日・労判1262号95頁)

【事案の概要】

本件は、派遣元会社が、解雇の撤回等を議題とする団交申入れに応じなかったことが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 本件団体交渉申入れの交渉事項は、Aが会社に解雇されたものと理解した上で、①会社に対し解雇の撤回を求め、併せてこれに関する会社の見解の説明を求めるものとし、②会社に対し、Z社に働きかけてAの職場復帰を早期に実現させるように努めることを求め、併せてこれに関する会社の見解の説明を求めるものと解される。これらの交渉事項は、Aの待遇に関する事項で、かつ、会社が実行したり説明したりすることが可能なものであるから、義務的団交事項に当たる。
したがって、Aの雇用主である会社は、本件団体交渉申入れに対し、原則として速やかに団体交渉に応じて、労使双方が同席する場で、交渉事項に関する会社の立場ないし見解を組合に直接伝達して協議及び交渉を行う義務を負うものと解される。

2 会社は、Aを解雇しておらず、雇用契約が継続しているから、解雇の撤回という交渉事項は、会社が処分可能なものではなく、義務的団交事項に当たらないから、本件団体交渉申入れに応じなかったとしても、不当労働行為に当たらないと主張する。
しかし、解雇の撤回を求めるとの交渉事項は、義務的団交事項に当たる。しかるところ、会社は、Aとの雇用契約の途中解除に関する組合の認識が誤りであるというのであるから、本件団体交渉申入れに応じて、団体交渉の場で、組合に対し会社の見解を示して説明すべきであった。したがって、会社の上記主張は採用することができない。

解雇の撤回を求めるとの交渉事項が義務的団交事項に当たることは明らかです。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

不当労働行為289 団交拒否にかかる審査申立てと「一連の継続する行為」の意義(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、団交拒否にかかる審査申立てと「一連の継続する行為」の意義に関する事案を見ていきましょう。

一般社団法人日本港運協会事件(東京都労委令和3年7月20日・労判1260号93頁)

【事案の概要】

本件は、団交拒否にかかる審査申立てに関連して「一連の継続する行為」の意義が争点となった事案を見ていきましょう。

【労働委員会の判断】

本件申立ての1年以上前の団交にかかる申立ては却下

【命令のポイント】

1 組合は、平成30年2月7日付団体交渉申入れに対し、法人が同月19日に会員に文書を交付したことは本件申立てよりも1年以上前であるが、申立て前1年以内の団体交渉と一連の継続する行為に当たることから、本件審査の対象となると主張する。
しかし、団体交渉の申入れや団体交渉は、その都度別個の行為であり、同様の行為が続いているからといって、全体を1つの継続する行為とみることはできない
したがって、組合の主張は採用することができず、本件申立てより1年以降前の平成31年2月9日以前の団体交渉に係る申立ては、却下せざるを得ない。

不当労働行為の救済申立ては、不当労働行為と思われる行為がなされてから1年以内に行う必要があります。

同様の行為が繰り返し行われている場合は、「一連の行為」が最後に行われた時点を基準にして、1年以内かどうかを判断します。

「一連の行為」の判断は、解釈に委ねられますので、予測可能性が高くありませんので注意が必要です。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

不当労働行為288 仮処分命令後に横断幕等を撤去したため、被保全権利がすでに存在しないとされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、仮処分命令後に横断幕等を撤去したため、被保全権利がすでに存在しないとされた事案を見ていきましょう。

オハラ樹脂工業事件(名古屋地裁令和3年11月25日・労経速2473号29頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が、Y社の従業員らが加入する労働組合及びその上部団体であるXらに対し、所有権、施設管理権等を被保全権利として、XらがY社本社の敷地内に設置した横断幕及びのぼり旗の撤去を求める仮処分命令の申立てをしたところ、当裁判所が、上記各物件の撤去を命じる仮処分命令をしたため、Xらが保全異議を申し立てた事案である。

【裁判所の判断】

仮処分決定を取り消す。

【判例のポイント】

1 Xらは、原決定後に本件のぼり旗等を撤去したことから、審理終結時において、本件のぼり旗等の設置により、Y社が被保全権利として主張する所有権、施設管理権が侵害され、債権者の名誉、信用が毀損されているとは認められない。
したがって、審理終結時において、Y社の所有権又は施設管理権に基づく本件のぼり旗等の撤去請求権の存在は認められない。

2 これに対し、Y社は、Xらによる撤去が仮装であり、Xらは原決定取消後、再度のぼり旗等を設置する蓋然性が高く、被保全権利はなお存在すると主張する。
しかし、Xらが撤去後にも本件のぼり旗等の設置の正当性を主張して争っていること、Xらが本件申立て以前にも、のぼり旗を設置し、Y社がのぼり旗の撤去を求める仮処分の申立てをした後に撤去したとの経緯があったとしても、本件申立ては、所有権又は施設管理権に基づく妨害物排除請求であることからすれば、現に所有権又は施設管理権が侵害されていない以上、Y社の仮処分申立てを認めることはできない

上記判例のポイント2に記載されているY社の懸念は理解できるところですが、要件事実的には上記結論になります。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。

不当労働行為287 会社とアドバイザリー業務契約を締結した社労士及び共済組合の行為が不当労働行為とされた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、会社とアドバイザリー業務契約を締結した社労士及び共済組合の行為が不当労働行為とされた事案を見ていきましょう。

オーダースーツSADAほか1社事件(宮城県労委令和2年9月26日・労判1258号88頁)

【事案の概要】

本件は、会社とアドバイザリー業務契約を締結した社労士及び共済組合の行為等が不当労働行為にあたるかが争点となった事案である。

【労働委員会の判断】

不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 B氏による脱退届用紙の配布は、Y社の指揮命令権の及ぶ昼礼の機会に、Y社がB氏と一体となって行っているものと評価でき、「使用者」による行為であると言わざるを得ない。
「使用者」が労働組合の脱退届用紙を配付して脱退を勧奨する行為は、脱退という組合員が自主的に判断して行動すべき事項(内部運営事項)に介入するものであり、X組合の団結力・組織力を損ねるおそれのある行為であるから、支配介入に該当する。

2 Y社がチェック・オフ停止の根拠としている脱退届は、Y社とB氏が一体となって脱退届用紙を配付して脱退を勧奨するという支配介入行為によって、A執行委員長を除く全組合員が署名したものである。この不当な支配介入行為によって署名された脱退届においては、組合員は自らの自由な意思でX組合を脱退したのか疑わしい状況であったことが認められる。
本件においては、Y社の不当な支配介入行為によって脱退届が提出されていたという特殊な状況であったことを踏まえると、Y社がチェック・オフの停止を行ったことは、X組合の弱体化を意図した一連の行為の一部であると評価でき、X組合の組織運営に支配介入しようとしたものと言わざるを得ない。

会社とアドバイザリー業務契約を締結した社労士の行為であったとしても、「使用者」による行為と評価されてしまうので注意しましょう。

労働組合との対応については、日頃から顧問弁護士に相談しながら進めることが肝要です。