Category Archives: 労働時間

労働時間113 警備員の待機時間について労働時間該当性が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、警備員の待機時間について労働時間該当性が認められた事案を見ていきましょう。

セントラル綜合サービス事件(東京地裁令和6年5月31日・労経速2568号16頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結したXらが、Y者に対し、雇用契約に基づき、令和2年7月から令和4年8月までの時間外労働に係る未払残業代として、各金員+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 Xら警備員の待機時間中の状況についてみると、警備員は、待機時間中、待機室で食事を取り、無線機を外すことなどができ、また、Cの建物外に設置された喫煙所で喫煙することが可能であった。しかし、待機室には、Bの無線機が設置され、待機室にいる待機時間中の警備員にも聞こえるようになっており、これは警備本部等から待機室への連絡等のためと考えられるし、警備員はCから自由に外出することができず、外出することが基本的になく、喫煙所に行く際もBから警備服の着用や無線機の携帯をするよう言われており、B等から指示があった場合には、速やかな対応が可能な状態にあった。平成26年度にH担当者が作成したCの警備要領には、「自分勝手な考えから、任務変更したり、勤務場所を離れてはならない。」とされ、勤務開始から勤務終了までの流れには、発払開始後は、「規定配置人員を残し待機」と記載されていた。

2 Y社がBから委託された警備業務の内容は、配置場所における来場客の整備誘導、苦情処理及びトラブル防止のほか、災害時における初期対応や避難誘導の実施等であり、突発的に生じるものが含まれており、自主警備計画には緊急時の対応として警備員を派遣する側は多めの人数を素早く送り出すとされており、B作成の「突発事案発生による開催中止時等の任務分担と流れ」と題する書面にも、同様の記載がされていた。警備員は、令和4年1月から令和5年3月までの間、3回、競馬レースの中止等を理由に全員配置とされたほか、令和4年4月から令和5年1月までの間、少なくとも10件(令和4年8月まではうち4件)、来場者の体調不良等が発生し、待機時間中の警備員を含む警備員全員が対応に当たった。加えて、警備員は、来場客のトラブル等の事案が発生した場合、Bから無線機で連絡を受け、その場合に待機時間中の警備員がこれに対応することがあった。そして、突発的に生じるものが含まれる上記警備業務の内容や、来場者数が延べ人数で1日平均2000人前後いること、A1が来場客のトラブル等が発生したことについての待機時間中の警備員への連絡が往々にしてあったと述べていることに加え、A1作成の給与支払明細書には、8時間勤務の場合には時間が「7.0」と、10時間勤務の場合には「8.0」と、Y社主張の待機時間と異なる労働時間が記載されていたにもかかわらず、Y社は、A1には7時間分の時給を支払い、Y社が日給と主張するその余のXらについても給与支払明細書記載の労働時間の訂正を指示せず、また、I作成の書面に8時間勤務の場合に7時間分の、10時間勤務の場合に8時間分の時給相当額の賃金を支給する趣旨が記載されており、Y社も、警備員が待機時間(Y社の主張では8時間勤務の場合が2時間05分、10時間勤務の場合が2時間55分)中にも相当程度業務に従事をしていた(労働時間である。)との認識を有していたと認められること(なお、証拠〔書証略〕によれば、5時間の勤務〔前記第2の2(2)エ〈3〉〕の場合にも待機時間が存在するにもかかわらず、その場合でもY社はA1に5時間分の時給を支払っていたと認められる。)も踏まえると、待機時間中の警備員がトラブル等の事案に対応するなどして、警備業務に従事することが少ないものではないといえる。

3 このように、Xらが、災害時における初期対応等が義務付けられていた上、待機時間中も待機室で無線機の内容が聞こえる状態にあり、喫煙以外にCから外出することが基本的になく、喫煙所に行く際も無線機を携帯して、警備要領には、発払開始後は、「規定配置人員を残し待機」などとされ、Bから無線機で連絡を受けるなどした際には対応しており、その頻度が少ないものではないことなどからすれば、Xらは、待機時間中、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価され、労働からの解放が保障されているとはいえず、Bから警備業務の委託を受けたY者の指揮命令下にあると認められるから、待機時間は全て労働時間と認めるのが相当である。

警備員の待機時間の労働時間該当性について争われた事例は数多く存在し、その多くは、本件同様の結論となっています。

今後ますます労働力が不足する中で、突発事案に緊急対応するとなれば、待機時間について労働から完全に解放させることはもはや不可能ではないでしょうか。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間112 割増賃金請求と変形労働時間制(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、割増賃金請求と変形労働時間制に関する裁判例を見ていきましょう。

社会福祉法人幹福祉会事件(東京高裁令和5年10月19日・労判1318号97頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結し、Y社において非常勤スタッフとして障害者居宅支援サービス等の業務に従事しているXが、Y社に対し、〈1〉平成30年6月支払分から令和2年4月支払分の深夜割増賃金のうち57万2922円と、〈2〉平成30年6月支払分から令和3年1月支払分までの深夜割増賃金を除く未払時間外割増賃金のうち47万2704円がいずれも未払であると主張して、〈1〉及び〈2〉の合計104万5626円+遅延損害金の支払を求めるともに、労基法114条に基づく付加金82万1365円(平成30年12月支払分以降の未払に係るもの)+遅延損害金の支払を求める事案である。

原審がXの請求をいずれも全部認容したため、Y社が控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 労基法32条の2第1項が所定労働時間の特定を求める趣旨は、変形労働時間制が労基法の定める原則的な労働時間制の時間配分の例外であって労働者の生活への負担が懸念されるため、労働時間の不規則な配分によって労働者の生活設計に与える不利益を最小限に抑えることにあることに照らすと、まずは就業規則において、月間スケジュールによる所定労働時間、始業・終業時刻の具体的な特定がどのようなものになる可能性があるか労働者の生活設計にとって予側が可能な程度の定めをする必要がある。
ところが、Y社の就業規則では月間スケジュールにより各就業日の勤務時間帯が定められるとするものであり、ケアスタッフにとっては前月25日までに月間スケジュールが交付されるまで労働時間が明らかではないから、労働者の生活設計の予側が可能とはいえず、その不利益は、月間スケジュールの作成後に個別に勤務時間を変更することによって解消されるというものではない介助サービスの利用者の都合によって就業時間が変化する実情があるとしても、それは、時間外勤務として扱われるべきであって、就業規則に就業時間の特定がおよそないものに変形労働時間制の適用を認めることはできない

2 Y社は、Xの時間外手当の請求が権利濫用である旨主張するが、Xの現実の労働時間が短いものであったとしても、変形労働時間制が適用されないとした場合に未払の時間外賃金が存在すれば、これを請求するのは労働者の権利であり、Y社の就業規則に不備があることは上記のとおりであるから、Xが変形労働時間制の適用を否定して時間外手当を請求することが権利の濫用であるということはできない。

3 Y社は、日中手当は日中の業務内容と介助者の負担の大きさに着目して付与することとしたものであるから、「通常の労働時間の賃金」には該当しない旨主張するが、割増賃金の算定基礎となる通常の賃金とは、当該深夜労働が、深夜ではない所定労働時間中に行われた場合に支払われるべき賃金と解されるところ、日中手当は、深夜労働時間帯以外の時間に労働をした場合に一律に支払われるものであり、通常の労働時間の賃金に含まれるというべきことは、引用する原判決のとおりである。
日中の時間帯における人手が不足したため、日中手当を導入した経緯があったとしても、そのために日中手当を通常の賃金から除外することは、深夜労働に関し一定の規制を定めた労基法37条4項の趣旨に整合せず、許されない。

変形労働時間制の有効要件を正確に理解し、かつ、運用している企業がどれほどあるでしょうか。

管理監督者性とともに変形労働時間制は、ある種、時限爆弾です。未払残業代請求訴訟で爆発する可能性が高いので、安易な導入は避けるべきです。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間111 ビル設備管理業務と変形労働時間制等(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう!

今日は、ビル設備管理業務と変形労働時間制等に関する裁判例を見ていきましょう。

大成事件(東京高判令和6年4月24日・労判1318号45頁)

【事案の概要】

 本件は、Y社の従業員であったX1~X3が、Y社に対し、それぞれ労基法37条に基づく割増賃金、同法114条に基づく付加金及び遅延損害金の各支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

変形労働時間制の適用は無効

【判例のポイント】(原審判決内容)

1 労基法32条の2の定める1箇月単位の変形労働時間制は、使用者が、就業規則その他これに準ずるものにより、一箇月以内の一定の期間(単位期間)を平均し、一週間当たりの労働時間が週の法定労働時間を超えない定めをした場合においては、法定労働時間の規定にかかわらず、その定めにより、特定された週において一週の法定労働時間を、又は特定された日において一日の法定労働時間を超えて労働させることができるというものであり、この規定が適用されるためには、単位期間内の各週、各日の所定労働時間を就業規則において特定する必要があるものと解される。
また、具体的勤務割である勤務シフトによって変形労働時間制を適用する要件が具備されていたというためには、作成される各書面の内容、作成時期や作成手続等に関する就業規則等の定めなどを明らかにした上で、就業規則等による各週、各日の所定労働時間の特定がされていると評価し得るか否かを判断する必要があると解される(前記最高裁平成14年2月28日第一小法廷判決参照)。

2 本件において、Y社就業規則には、変形労働時間制における具体的な所定労働時間につき、日直勤務が午前9時から翌朝9時までの勤務で休憩は仮眠を含み8時間(労働時間は休憩を除き16時間)であること、日勤勤務が午前8時から午後5時までの勤務で休憩は1時間であることが規定され、他には、「その他」として、「本条の勤務時間の範囲で、始業・終業・休憩時間を決める。」との規定があるのみ(23条)であり、本件タワーでの勤務表における日勤勤務の始業時刻(午前9時)及び終業時刻(午後6時)並びに日直勤務の労働時間(休憩・仮眠を除き17時間。)は、そもそも就業規則の規定と一致していない。Bセンター現業所では、時期によって変わる、多数のシフトパターンの組み合わせにより勤務表が作成されており、就業規則とは全く一致していない
また、Y社就業規則において、本件タワー及びBセンター現業所のいずれについても、勤務割に関して作成される書面の内容、作成時期や作成手続等について定めた規定は見当たらず、勤務表の作成によって、就業規則等による各週、各日の所定労働時間の特定がされていると評価することもできない。

3 Y社は、当初から就業規則上に完全な勤務シフトを記載することはおよそ困難であり、シフトパターンを変更することになった場合に、その都度就業規則を変更する手続を経ることは、現実的でないなどと主張する。
しかし、具体的な勤務シフトを当初から就業規則に記載することは確かに困難であるとはいえるものの、少なくとも本件タワーにおいては、勤務表上のシフトパターンが、日勤勤務及び宿直勤務(宿直明番)並びに一回の勤務でその双方を行う宿直明日勤の勤務シフトがあるのみで比較的単純であり、当該シフトパターンのほか、勤務表の具体的な作成時期や作成手続等も含めて就業規則に規定することは困難とはいい難いにもかかわらず、Y社はそれすら行っていない

変形労働時間制が有効要件を満たさず無効と判断される例は枚挙に暇がありません。

上記判例のポイント3のような会社側の主張は採用してくれませんので、愚直に有効要件を満たす準備をするほかありません。

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労働時間110 運行開始前点検行為に基づく未払割増賃金等請求が一部認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、運行開始前点検行為に基づく未払割増賃金等請求が一部認められた事案を見ていきましょう。

トーコー事件(大阪地裁令和6年3月8日・労判ジャーナル149号58頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社に対し、以下の請求をした事案である。

(1)有期労働契約の更新をせず雇止めしたことは違法である(労働契約法19条により更新される)旨主張し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求(請求1)
(2)(1)を前提に、労働契約に基づき、雇止め後である令和3年7月分から令和4年10月分まで(16か月分)の、月額11万円の賃金(合計176万円)の支払請求(請求2)
(3)(1)を前提に、労働契約に基づき、令和4年11月支払分(末日締め、翌月15日払)から本判決確定の日までの、月額11万円の賃金の支払請求(請求3)
(4)時給1300円との合意を口頭でしたにもかかわらず時給1100円しか支払われなかったと主張し、労働契約に基づき、未払賃金合計20万円の支払請求(請求4)
(5)令和2年9月分の賃金につき、被告の責めに帰すべき事由により労務の提供ができなかったと主張し、労働基準法26条に基づき、又は労働契約に基づく民法536条2項による、1か月分の給与11万円の支払請求(請求5)
(6)始業時刻前に、アルコールチェック等の作業を指示され、1日当たり30分の残業が生じていた旨主張し、労働契約に基づき、合計9万9000円の支払請求(請求6)

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、1万4300円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、渋滞等のアクシデントに備えて早めに出勤していたことはうかがえる。しかし、出勤後から始業時刻までの間、常に労務を提供していたことを裏付ける証拠はなく、Xの供述によっても、出勤後から始業時刻までの間、継続して作業を行っていたものとは認められない。また、FがXに対して交付した文書には「①は7:00出発、②は7:15出発。皆さんはそれに間に合うように出社されています。」と記載されているのであって、被告が、業務命令として出発時刻の30分前の出社を指示していたことを認めるに足る的確な証拠はない
もっとも、出発時刻である午前7時又は午前6時50分より前に、バスの乗務という労務提供の前提となる作業として、アルコールチェック、運行開始前点検(車両を目視及び運転席で確認する。)、運転前チェック項目のチェック等の作業があることが認められ、これらは被告の指揮命令下における労働時間と評価できる。これらの作業に必要な時間は1勤務当たり5分と認める。
原告が勤務したと証拠上認められる日における出発時刻前の労務提供の前提となる作業に要した時間は以下のとおり、合計13時間となり、これに対する未払賃金は1万4300円となる。

アルコールチェック、運航開始前点検、運転前チェック項目のチェックは労働にあたりますので、運送会社の皆様、ご注意ください。

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労働時間109 飲食店における非混雑時間帯の休憩時間該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、飲食店における非混雑時間帯の休憩時間該当性に関する裁判例を見ていきましょう。

月光フーズ事件(東京地裁令和3年3月4日・労判1314号99頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結し就労していたXらが、Y社に対し、労働契約に基づき、X1につき①平成28年10月分から平成30年9月分までの未払割増賃金合計1999万9769円並+遅延損害金、②平成30年6月分から平成30年9月分の未払月額賃金合計20万円+遅延損害金及び③上記未払割増賃金に係る労基法114条に基づく付加金として平成29年4月分から平成30年9月分までの法外割増賃金相当額である1468万1415円+遅延損害金の支払を求め、また、X2につき④平成29年5月1日から平成30年12月31日までの期間分の未払割増賃金から既払額を差し引いた残額合計492万6670円+遅延損害金及び⑤上記未払割増賃金に係る労基法114条に基づく付加金として平成29年11月分から平成30年9月分までの法外割増賃金相当額である455万8363円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、X1に対し、2072万0714円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X1に対し、20万円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X1に対し、1468万1415円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X2に対し、489万1905円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X2に対し、453万0871円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 労基法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、同労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。
本件においては、ランチタイムの営業時間とディナータイムの営業時間の間においても、Xらが業務に当たっており、業務以外の理由で店舗を離れることはできなかったことからすると、当該時間はXらがY社の指揮命令下にあった時間帯というべきであり、労働時間に該当すると解するのが相当である。

2 本件就業規則及び本件給与規程の施行日の月日は空欄となっており、また、X1及びX2ともに本件就業規則等を見たことがなくその説明を受けたこともないと述べていることからすると、本件就業規則及び本件給与規程がいつから施行されたものであるのか、現に施行されているのか、周知がなされているのか、明らかでないと言わざるを得ない。そして、仮に本件就業規則が有効であるとしても、本件就業規則においては毎月1日を起算日とし、所定労働時間を1か月を平均して週40時間以内とする1か月単位の変形労働時間制による労働をさせることがある旨規定されているが、各日、各週の労働時間は前月末日までに勤務表を作成して従業員に周知することとされており、それ以上の詳細な定めはないため、各日の勤務時間やその組み合わせ等が勤務表においてどのように定められるのか就業規則から推認することができない。また、本件雇用契約書及び本件労働条件通知書にも1か月単位の変形労働時間制に関する記載があるが、本件就業規則以上の詳細な規定はない。さらに,実際に作成されているシフト表を見ると、各従業員の各日について記号が付されているものの各記号の示す始業時間及び終業時間並びに休憩時間がシフト表上一義的に明らかでなく、各日の勤務時間がシフト表上明らかにされているとはいいがたい上、仮にシフト表上「○」と記載されている部分の一日の勤務時間を8時間と解したとしても、例えば平成29年10月分のシフト表ではX1につき「○」が27日あり合計216時間、X2につき「○」が24日あり合計192時間となり、1か月の変形労働時間制における労働時間の総枠(1か月31日の月では177.1時間)を超えたシフト表が組まれている
これらの点からすれば、Y社の主張する変形労働時間制が有効であるとは認められない。

休憩時間、管理監督者、変形労働時間制、固定残業制度のいずれも否定されました。

特に管理監督者と変形労働時間制は有効に運用するのは至難の業です。

また、飲食店において、上記判例のポイント1のような運用がなされていることは珍しくありませんが、法的には休憩時間とは評価されません。わかっていてもマンパワー的に無理なことも理解しております・・。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間108 夜勤勤務の休憩時間に関する未払割増賃金等支払請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、夜勤勤務の休憩時間に関する未払割増賃金等支払請求に関する裁判例を見ていきましょう。

医療法人みどり会事件(大阪地裁令和5年12月25日・労判ジャーナル147号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結し、介護老人保健施設において介護職員として勤務していたXが、Y社に対し、未払時間外割増賃金等の支払並びに労基法114条に基づく付加金等の支払を求め、また、同法39条の年次有給休暇の取得を申請していないのに、Y社が、Xに無断でこれを取得したこととしてその残日数を減少させたとして、不法行為に基づき、当該日数の賃金相当額の損害賠償等の支払を求め、さらに、令和3年度上半期及び下半期の賞与の算定にあたって、合理的な理由なく最低評価をしたとして、不法行為に基づき、それぞれ減額分2万円の損害賠償等の支払等を求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払割増賃金等支払請求一部認容

損害賠償等請求一部認容

【判例のポイント】

1 夜勤時の休憩時間に関して、本件運用変更前について、Xが、夜勤において、夜勤者2名の間で休憩に関する取り決めがなく、相勤者がナースコール等に対応するとは限らなかった以上、Xは、当該待機時間中、常にこれに対応する必要があったというほかなく、そして、ナースコール等の回数は、毎回の夜勤ごとに相当の回数に及んでおり、これがごく稀であって実質的に対応の必要が乏しかったとみることもできないから、Xは労働からの解放が保障されていたとはいえず、Y社の指揮命令下に置かれていたと評価するのが相当であり、本件運用変更後も、本件施設の介護職員は、夜勤時に休憩を取得すべきとされる時間帯においても、相勤者が巡視やナースコール等への対応を行っている間に利用者から重複ナースコール等があった場合における対応を免除する旨の指示を受けておらず、このような事態がごく稀であって実質的に対応をする必要がなかったともいえないから、休憩時間とされる時間についても、労働からの解放が保障されていたとはいえず、Y社の指揮命令下に置かれていたといわざるを得ないから、本件運用変更の前後を問わず、本件請求期間中のXの夜勤については、休憩時間を取得することができたものとは認められない

2 Y社の就業規則には、1か月単位の変形労働時間制を採用する旨の記載があるが、Y社の就業規則において、Y社が実際に作成した勤務割表の労働時間に対応する各日・各週の労働時間の特定がされているとは認められず、当該変形労働時間制は、労働基準法32条の2第1項所定の要件を欠くものといわざるを得ない。

上記判例のポイント1の理屈は異論のないところかと思います。

看護師に限らず、警備員等についても、同様の議論が妥当します。

法律の考え方はわかっていても、人手不足の昨今、実際にどのように労務管理をしたらよいのか悩ましいところです。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間107 不活動仮眠時間について労働時間該当性が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、不活動仮眠時間について労働時間該当性が認められた事案について見ていきましょう。

大成事件(東京地裁令和5年4月14日・労経速2549号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されて東京都内のビル内での設備管理業務に従事したXらが、Y社は労働基準法所定の割増賃金を支払っていないと主張して、Y社に対し、それぞれ次の各支払を請求する事案である(以下略)。

【裁判所の判断】

Y社は、
①X1に対し、708万2791円+遅延損害金を支払え
②X1に対し、付加金462万9917円+遅延損害金を支払え。
③X2に対し、835万2375円+遅延損害金を支払え。
④X2に対し、付加金557万3823円+遅延損害金を支払え。
⑤X3に対し、427万2058円+遅延損害金を支払え。
⑥X3に対し、381万9861円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 勤務の実態として、当直設備員2名のうちいずれかの仮眠時間に当たる時間帯においても、当直設備員らは、トラブル等に複数名で対応していたもので、2名以上で対応した件数は、平成29年2月から令和元年8月までの2年6か月間に少なくとも46件、Xらが対応したものだけでも33件に上り、その頻度は、1か月間に1件を上回るものであった。

2 設備控室に内線電話、緊急呼出装置、インターフォンが設置されていたほか、設備員は、勤務中、休憩・仮眠の時間であっても館内PHSの携帯を義務付けられ、仮眠時間中であっても、防災センターから容易に連絡を取ることができる状況にあり、仮眠に入る際、寝間着等ではなく、洗濯後の別の制服に着替えていたことをも踏まえれば、仮眠時間中の設備員も労働から離れることはできていなかったと認められ、Xらは、本件仮眠時間中、労働時間に基づく義務として、設備控室における待機とトラブル等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けされていたと認めることができる。

上記の事情が認められる以上、仮眠時間が労働時間にあたることは、過去の裁判例から明らかです。

警備員の労働時間の長さゆえに、結果として高額な未払残業代が認定されています。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間106 就業時間前後における制服の更衣時間の労働時間性が肯定された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、就業時間前後における制服の更衣時間の労働時間性が肯定された事案について見ていきましょう。

日本郵便事件(神戸地裁令和5年12月22日・労経速2546号16頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXらが、Y社から着用を義務付けられていた制服の更衣に要する時間は労働基準法上の労働時間に該当するにもかかわらず、Y社はこれを労働時間として扱わず、更衣に要する時間に応じた割増賃金を支払っていない旨主張して、Y社に対し、①〈ア〉主位的に、不法行為に基づく損害賠償請求として、平成29年12月から令和2年11月までの間の未払賃金相当損害金及び弁護士費用相当損害金の合計である各Xに係る別紙の「請求額」欄記載の金員+遅延損害金の支払を求め、〈イ〉予備的に、(a)雇用契約に基づく賃金請求として、令和元年7月から令和2年11月までの間の未払賃金である各Xに係る別紙の「請求額」欄記載の金員+遅延損害金の支払を求めるとともに、(b)労働基準法114条に基づく付加金請求として、上記各Xに係る別紙1の「請求額」欄記載の金員と同額の付加金+遅延損害金の支払を求め、また、②雇用契約に基づく賃金請求として、令和2年12月から令和4年3月までの間の未払賃金である各原告に係る別紙の「請求額」欄記載の金員+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 C3郵便局、C1郵便局、C2郵便局、C6郵便局、C5郵便局、C4郵便局、C7郵便局、C8郵便局、C9郵便局及びC10郵便局には、いずれも更衣室が設置されている。そして、このうち、C3郵便局、C2郵便局、C6郵便局、C5郵便局、C4郵便局、C7郵便局、C8郵便局及びC9郵便局においては、制服を着用して通勤していることが確認できるのは、調査対象者のうちのごく一部であり、これらの郵便局においては、ほとんどの従業員が、各郵便局内に設置された更衣室で更衣を行っているのが実態であるということができる。
また、Y社が作成した「郵便業務のコンプライアンス指導教材(2016年1月期①)」には、「2016年1月1日(金)~31日(日)の間に、対象者(=郵便業務を担当する部署に所属する社員及び総務部に所属し郵便業務に携わる社員)全員に対し、本研修教材を用いて指導してください。」との記載とともに、「勤務時間外のユニフォーム着用・ユニフォーム通勤の禁止」、「お客さまから見た『ユニフォームを着用している社員』は『勤務時間中である』と認識され、ユニフォームを着用したままの飲食店での飲酒等は会社のイメージ低下に繋がるため、勤務時間外のユニフォーム着用の禁止」、「ユニフォームに郵便物・現金等を隠して事務室から持ち出し、窃取等する犯罪を防止するため、ユニフォーム通勤の禁止」との記載があるところ、これらの記載は、Y社として、ユニフォームを着用しての通勤を禁止していたということを窺わせるものである。
さらに、会計事務マニュアルにおいても、平成29年5月付けで改訂される前の会計事務マニュアルには、勤務時間外のユニフォーム着用の禁止が明示的に記載され、同月付けの改訂後においても、これを基本的には控えさせる旨が記載されているのであり、このような記載も、Y社として、ユニフォームを着用しての通勤を禁止していたことを窺わせるものといえる。
他方、C3郵便局、C1郵便局、C2郵便局、C6郵便局、C5郵便局、C4郵便局、C7郵便局、C8郵便局、C9郵便局及びC10郵便局のそれぞれにおいて、ユニフォームを着用しての通勤が許されている旨がY社から各従業員に対して告知されたことはこれまでないことが認められる。
以上のとおり、Y社がユニフォームを着用しての通勤を禁止していたことを窺わせるY社作成の資料があるほか、ほとんどの従業員が、各郵便局内に設置された更衣室で更衣を行っていたという実態がある一方で、Y社からユニフォームを着用しての通勤が許される旨の告知がされたことはないのであるから、Y社は、C3郵便局、C1郵便局、C2郵便局、C6郵便局、C5郵便局、C4郵便局、C7郵便局、C8郵便局、C9郵便局及びC10郵便局の各郵便局内の更衣室において、制服を更衣するよう義務付けていたものと認めるのが相当である。

古典的な論点ですね。

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労働時間105 専門業務型裁量労働制における労使協定締結が無効として残業代等の支払いが命じられた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、専門業務型裁量労働制における労使協定締結が無効として残業代等の支払いが命じられた事案

学校法人松山大学事件(松山地裁令和5年12月20日・労経速2544号3頁)

【事案の概要】

本訴事件は、①Y大学法学部法学科に所属する教授職にあるXらが、専門業務型裁量労働制を導入した就業規則の変更が無効であり、時間外労働、休日及び深夜労働に係る賃金が支払われていないと主張して、未払賃金支払請求権に基づき、Y大学に対し、X甲野に509万1326円+遅延損害金、X乙山に407万6623円+遅延損害金の支払を求め(以下、これらの請求を「本訴請求①」という。)、②X甲野が、〈ア〉Y丁田によるハラスメント申立て並びにY大学による同申立についての審議及びハラスメント認定がいずれも不当労働行為に該当する、〈イ〉Y大学及びY丁田が、労働者の過半数代表者の選出に当たって不当に介入したことが違法であると主張して、Yらに対し、共同不法行為に基づく損害賠償として、連帯して100万円+遅延損害金の支払を求め(以下、これらの請求を「本訴請求②」という。)、③Xらが、Y大学の、〈ア〉労働者の労働時間を把握管理しなければならない義務及び出退勤時刻を把握する手段を整備しなければならない義務違反、〈イ〉休日及び深夜の研究室の利用の原則禁止処分、〈ウ〉休日・深夜勤務申請書及び休日・深夜勤務報告書の受付拒否、〈エ〉注意文書等の発出行為がいずれも不当労働行為に該当するとして、Y大学に対し、不法行為に基づく損害賠償として、X甲野に75万円+遅延損害金、X乙山に100万円+遅延損害金の支払を求め(以下、これらの請求を「本訴請求③」という。)、④Xらが、Y大学に対し、上記①に係る付加金として、X甲野に421万2988円+遅延損害金、X乙山に270万9640円+遅延損害金の支払を求めた(以下、これらの請求を「本訴請求④」という。)事案である。

【裁判所の判断】

1 Y大学は、X甲野に対し、351万9733円+遅延損害金を支払え。
2 X大学は、X甲野に対し、140万円+遅延損害金を支払え。
3 X大学は、X乙山に対し、284万9534円+遅延損害金を支払え。
4 Y大学は、X乙山に対し、90万円+遅延損害金を支払え。
5 Y大学は、X丙川に対し、720万1813円+遅延損害金を支払え。
6 Y大学は、X丙川に対し、250万円+遅延損害金を支払え。
7 Y丁田は、X甲野に対し、10万円+遅延損害金を支払え。
8 X甲野は、Y丁田に対し、11万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 専門業務型裁量労働制を採用するに当たっては、「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定」を締結する必要があり(労働基準法38条の3第1項)、過半数代表者の選出手続は、「法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続」である必要がある(労働基準法施行規則6条の2第1項2号)。
そして、過半数代表者は、使用者に労働基準法上の規制を免れさせるなどの重大な効果を生じさせる労使協定の当事者であり、いわゆる過半数労働組合がない場合に過半数労働組合に代わってその当事者となることが定められていることを踏まえると、過半数代表者の選出手続は、労働者の過半数が当該候補者の選出を支持していることが明確になる民主的なものである必要があると解される。

2 Y大学において、平成29年度の過半数代表者の選出は、選挙により、A教授の信任投票が行われているところ、選挙権者数は493名、信任票が124票であったことから、A教授の選出を明確に支持している労働者は、選挙権者全体の約25パーセントにすぎない。
したがって、A教授は、「労働者の過半数を代表する者」とは認められないことから、A教授とY大学との間で締結された平成30年度の専門業務型裁量労働制に関する労使協定は無効である。
なお、Y大学は、平成29年度の過半数代表者の選出が有効にされたことの根拠として、本件過半数代表者選出規程15条2項が、信任投票において選挙権者が投票しなかった場合は有効投票による決定に委ねたものとみなす旨規定していること、選挙に先立ち、選挙権者に対して上記規定が周知されていたことなどを指摘する。しかしながら、本件において、労働者は、上記規程の下においても、有効投票による決定の内容を事前に把握できるものではなく、また信任の意思表示に代替するものとして投票をしないという行動をあえて採ったとも認められないから、上記規程によっても、投票しなかった選挙権者がA教授の選出を支持していることが明確になるような民主的な手続がとられているとは認められず、この点についてのY大学の主張は採用することができない。

労働時間の例外規定については、その要件を厳格に解釈することになります。

安易に採用すると後から大変なことになりますのでご注意ください。

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労働時間104 三六協定が過半数要件を満たさなかったこと等に基づく慰謝料請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、三六協定が過半数要件を満たさなかったこと等に基づく慰謝料請求に関する裁判例を見ていきましょう。

オーエスティ物流事件(大阪地裁令和5年11月16日・労判ジャーナル145号28頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社従業員であるCから職場において大声で脅されるなどの行為をされ、これに対してY社が適切な対応をとらなかった旨や、Y社が労働組合との間で締結した三六協定やいわゆるユニオン・ショップ協定について、要件を欠いているのにこのことを周知しなかったなどと主張して、Y社に対し、不法行為又は使用者責任に基づき、①Cらによるパワハラやいじめをやめさせるように求めるとともに、②慰謝料として550万円を求めた事案である。

【裁判所の判断】

①は却下、②は棄却

【判例のポイント】

1 三六協定が過半数要件を満たさなかったとしても、特別の事情がない限り、このことによって、労働者の権利又は法律上保護される利益が侵害されるものということはできず、本件違反がXに対する不法行為を構成するとは認められず、また、Xは、Y社が本件違反を周知しなかったことが、労働基準法106条に違反し、不法行為に当たる旨も主張するが、本件違反があったとしてもこれがXに対する権利又は法律上保護される利益を侵害するものとはいえないから、Y社がXに対して本件違反を通知する義務を負っていたとはいえず、労働基準法106条1項は、そもそも公法上の義務を定めるものであって、使用者の労働者に対する私法上の周知義務等を基礎付ける規定ではないし、その文言上、使用者が同条所定の協定を締結したなどの場合に、当該協定等を周知すべき義務を課すものであって、その効力が失われた場合にこれを周知すべき旨までを定めたものと解することはできないから、不法行為が成立するとは認められない

法律違反がすべて不法行為に該当するわけではありません。

公法と私法という視点も忘れずに押さえておきましょう。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。