Category Archives: 労働時間

労働時間118 残業代請求と管理されていない労働時間(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、残業代請求と管理されていない労働時間に関する裁判例を見ていきましょう。

大栄青果事件(福岡地裁小倉支部令和5年6月21日・労判1323号86頁)

【事案の概要】

本件は、〈1〉X組合を除くXら(以下「原告個人ら」という。)が、Y社との間で、それぞれ期間の定めのない雇用契約を締結して稼働していたところ、時間外労働・深夜労働により割増賃金が発生したにもかかわらず、Y社においてこれを支払わない旨を主張して、Y社に対し、本件各雇用契約に基づき、各未払割増賃金の各元本額+遅延損害金の支払、並びに、労基法114条に基づき、付加金+遅延損害金の支払を求め、また、〈2〉X3及びX4が、Y社の就業規則所定の退職金が発生したにもかかわらず、Y社においてこれを支払わない旨を主張して、被告に対し、各退職金+遅延損害金の支払を求め、さらに、〈3〉X組合が、Y社による団体交渉拒否は、X組合に対する不法行為を構成する旨を主張して、Y社に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として10万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、X2に対し、660万1721円+遅延損害金を支払え。
2 Y社は、X2に対し、付加金472万4440円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、X3に対し、592万4328円+遅延損害金を支払え。
4 Y社は、X3に対し、付加金423万7944円+遅延損害金を支払え。
5 Y社は、X4に対し、569万5327円+遅延損害金を支払え。
6 Y社は、X4に対し、付加金407万6478円+遅延損害金を支払え。
7 Y社は、X5に対し、608万5853円+遅延損害金を支払え。
8 Y社は、X5に対し、付加金435万0307円+遅延損害金を支払え。
9 Y社は、X6に対し、197万8108円+遅延損害金を支払え。
10 Y社は、X6に対し、付加金141万6350円+遅延損害金を支払え。
11 Y社は、X7に対し、248万8884円+遅延損害金を支払え。
12 Y社は、X7に対し、付加金178万2560円+遅延損害金を支払え。
13 Y社は、X8に対し、630万1597円+遅延損害金を支払え。
14 Y社は、X8に対し、付加金448万6192円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 X個人らの主張する始業時刻及び終業時刻については、基本的には、おおよその記憶に基づく概括的な主張となっているところ、Y社において始業時間及び終業時間の管理を目的とするタイムカード等が全く採用されていなかったことにも鑑みれば、客観的な証拠に反し、または明らかに不合理な内容を含むといった場合には格別、そうでない限りは、上記のように概括的な主張に沿って認定することも許容され得るとするのが相当である。
これを本件について見るに、X個人らの業務は、午前7時に開始されるセリに向けての準備から始まり、セリを経て、商品を販売先に配達する準備や在庫管理を行い、販売先への配達業務を行うという流れになっているところ、これら業務の流れからすれば、X個人らの主張する始業時刻及び終業時刻は明らかに不合理な内容を含んでいるとは認められず、また、請求期間全体としてみた場合において、客観的な証拠に反するとまでは認められない
そうすると、始業時刻及び終業時刻については、X個人らの主張どおり認めるのが相当である。

2 Y社は、従業員が労働時間の大半を事業場外で従事すること、定まった始業時刻、終業時刻がなく従業員の判断で業務を進められることから、「労働時間を算定し難いとき」(労基法38条の2第1項本文)に該当し、Y社には事業場外労働のみなし労働制が適用される旨を主張する。
しかしながら、労働時間を算定し難いか否かの判断に際しては、勤務の状況を具体的に把握することが困難であったか否かが重要となるところ、本件において、X個人らの業務は、各労働日ごとに被告の事務所を出発し、必ずY社の事務所に戻ってくるというものであり、直行直帰が常態化していた等の事情も認められないことからすれば、客観的にみて勤務の状況を具体的に把握することが困難であったとは認め難い。

労働時間の管理は、労務管理の基本中の基本です。

全ての会社は、上記判例のポイント1を十分に理解しておく必要があります。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間117 航空機客室乗務員の休憩時間(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、航空機客室乗務員の休憩時間に関する裁判例を見ていきましょう。

ジェットスター・ジャパン事件(東京地裁令和7年4月22日・労判ジャーナル159号8頁)

【事案の概要】

本件は、航空運送事業を営むY社との間で労働契約を締結し、客室乗務員として勤務していたXらが、Y社から労基法34条1項の定める休憩時間が付与されない勤務を命じられ、これに従事したことにより精神的苦痛を受けたと主張して、Y社に対し、選択的に債務不履行(安全配慮義務違反)又は不法行為に基づく損害賠償金(慰謝料及び弁護士費用)として、X各自につき55万円+遅延損害金の支払を求めるとともに、現在客室乗務員としてY社に勤務しているXらが、将来にわたって継続的に、Y社から労基法34条1項の定める休憩時間が付与されない勤務を命じられるおそれがあると主張して、人格権に基づき、上記勤務を命ずることの差止めを求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xら各自に対し、各11万円+遅延損害金を支払え。
2 Y社は、Xらに対し、労働時間が6時間を超える場合においては少なくとも45分、8時間を超える場合においては少なくとも1時間の休憩時間を付与しない勤務(ただし、労働基準法施行規則32条2項所定の時間の合計が上記休憩時間に相当する場合を除く。)を命じてはならない。

【判例のポイント】

1 客室乗務員は、機長の指揮監督下で客室の安全の確保に関する業務を行うことがその責務の一つとされており、急病人の発生等の事態が生じた場合、必要に応じて、クルーレストを中断して業務を行う必要があったほか、客室乗務員は、クルーレスト中であったとしても、インターホンが鳴れば、これに応答していたというのである。そして、客室乗務員にクルーレストが付与された事実は機長に伝達されないため、機長は各客室乗務員のクルーレストの有無、時期、時間等を把握しておらず、機長からの指揮監督の密度等について、客室乗務員がクルーレスト中か否かによって、有意的な変化があるとはいい難い。
以上によれば、クルーレストは、停車時間、折返しによる待合せ時間のように実際に乗務しない時間と同程度に精神的肉体的に緊張度が低いと認められる時間に該当するとはいえないため、労基規則32条2項所定の「その他の時間」には該当し得ない

2 労基法34条は、ある程度労働時間が継続した場合に蓄積される労働者の心身の疲労を回復させ、その健康を維持するため、労働時間の途中に休憩時間を与えるべきことを規定したものと解されるところ、Y社がXらに対して同条に違反する勤務を命じたことは、労働者の健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)に違反するというべきであるから、Y社は、これによりXらに生じた損害について賠償する責任を負う。

2 Xらに命じられていた勤務は、発着陸回数や勤務時間等の点において、Xごとに特に偏りがあったわけではなく、別紙4「勤務状況一覧表」に記載の勤務以外にも、本件各勤務パターンと1日の発着陸回数が同じで、勤務時間がより長く、便間時間が同じか、より短い勤務を命じられたことがあったのは前記認定のとおりである上、その後、勤務パターンが、労基法34条1項の休憩時間又は労基規則32条2項所定の時間が確保されていると認められるものに変更されたといった事情も見当たらず、かえって、令和6年11月以降も、各便間時間から便間業務時間である35分を差し引くと、業務外便間時間の合計時間が労基法34条1項所定の休憩時間数に達しておらず、休憩時間及び労基規則32条2項所定の時間が確保されていない勤務が行われていることが認められることに照らすと、将来にわたって、Y社が、現職Xらに対し、同様の勤務を命ずることで、現職Xらの人格権を侵害する行為が継続する蓋然性も認められる。そうすると、当該行為を差し止める必要性が認められる。

これまで当たり前のように提供を受けていたサービスは、今後、受けられなくなりますね。

なお、労基則32Ⅱは、以下のとおりです。

「第三十二条 使用者は、法別表第一第四号に掲げる事業又は郵便若しくは信書便の事業に使用される労働者のうち列車、気動車、電車、自動車、船舶又は航空機に乗務する機関手、運転手、操縦士、車掌、列車掛、荷扱手、列車手、給仕、暖冷房乗務員及び電源乗務員(以下単に「乗務員」という。)で長距離にわたり継続して乗務するもの並びに同表第十一号に掲げる事業に使用される労働者で屋内勤務者三十人未満の日本郵便株式会社の営業所(簡易郵便局法(昭和二十四年法律第二百十三号)第二条に規定する郵便窓口業務を行うものに限る。)において郵便の業務に従事するものについては、法第三十四条の規定にかかわらず、休憩時間を与えないことができる
② 使用者は、乗務員で前項の規定に該当しないものについては、その者の従事する業務の性質上、休憩時間を与えることができないと認められる場合において、その勤務中における停車時間、折返しによる待合せ時間その他の時間の合計が法第三十四条第一項に規定する休憩時間に相当するときは、同条の規定にかかわらず、休憩時間を与えないことができる。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間116 割増賃金請求と管理されていない労働時間算定(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、割増賃金請求と管理されていない労働時間算定に関する裁判例を見ていきましょう。

T4U事件(東京地裁令和6年3月28日・労判1331号87頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社に対し、以下の請求をする事案である。
(1)Y社代表取締役は時間外勤務手当を支払う意思がなかったにもかかわらず、Xに対し、時間外労働を命じ長時間労働をさせたが時間外勤務手当を支払わず、時間外勤務手当相当額の損害を加えたとして、会社法350条に基づく損害賠償請求及びこれに対する遅延損害金の請求として、割増賃金請求権としては時効消滅した平成27年12月11日から平成29年1月10日の間の割増賃金相当損害金+遅延損害金
(2)Xが時間外労働をしたにもかかわらず割増賃金が支払われなかったとして、労働契約に基づく割増賃金及びこれに対する遅延損害金の請求として
ア 平成29年1月11日から平成30年11月23日までの間の割増賃金+確定遅延損害金の合計953万0389円+遅延損害金
イ 平成30年11月24日から同年12月10日までの間の割増賃金+確定遅延損害金の合計45万8340円+遅延損害金
(3)労基法114条に基づく付加金請求及びこれに対する遅延損害金請求として

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、別紙1認容目録の「認容額」欄及び各「組入れ額」欄記載の各金員+遅延損害金を支払え。
2 Y社は、Xに対し、156万5223円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 XとY社との間の雇用契約書には、「残業代を含む」と記載されているのみである。Y社の就業規則39条4号には、「月間40時間が契約上の勤務時間に含まれるとみなしている」とあるものの、記載からしてその趣旨が明確であるとはいえない。また、年俸制なので残業代は不支給(年俸制規定12条)とされていることなども併せ考えると、基本年俸の中に月当たり40時間分の固定残業代が支払われていると認めることはできない。そうすると、就業規則や上記雇用契約書においてXの賃金における割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかったというべきであり、本件全証拠によっても、Xに支払われた年俸について通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができるとは認められない。
これに対しY社は、社内ルールでは退社時間は遅くとも午後9時までとされており、これが上記雇用契約書における「残業代を含む」の内容を示しているとして、本件労働契約に基づき月額支給する金額の中には午後6時30分から午後9時(休憩時間30分含む。)までの1日2時間、月40時間分が固定残業代として含まれていた旨主張する。
しかしながら、そもそも社内ルールは就業規則ではない。この点を措くとしても、「退社時間は遅くともPM9時まで」とする旨の記載も、その趣旨が不明確である上、社内ルールに「PM9:00を超える作業実施は人事評価(給与査定)での評価が下がる要因となります」とされていることからすれば、午後9時までの退社は人事評価の観点からの趣旨であるとも解し得、また、休憩時間30分についてはなんらの言及もないことからすれば、午後6時30分から午後9時までの間、休憩時間30分を除いて1日2時間、月40時間分が固定残業代として含まれていたと解することはできない。よって、Y社の主張は採用できない。

2 Xは、〈1〉請求の趣旨第1項及び第2項について、令和4年4月23日までの間に発生した遅延損害金を複数回に分けて順次元本に組み入れる旨、〈2〉請求の趣旨第4項について、令和4年4月23日までの間に発生した遅延損害金について元本に組み入れる旨の意思表示をしたとして、上記各意思表示で組み入れるとした期間に対応する遅延損害金を元本に組み入れた後、組入れ額も含めた元本についてさらに年14.6%の遅延損害金が発生しているとした上で算出した割増賃金元本及び遅延損害金を請求している。
民法405条はいわゆる法定重利を認めた規定であるが、同条は遅延損害金についても準用されると解される(大審院昭和17年2月4日判決・民集21巻3号107頁参照。)。
そして、Xは訴状において平成29年1月11日から平成30年12月10日までの間の割増賃金(ただし、実際に算出しているのは平成30年11月23日まで。)及びこれに対する各支払日の翌日から平成30年12月31日までの改正前商法所定の商事法定利率年6%と平成31年1月1日から支払済みまで賃確法所定の年14.6%の割合による遅延損害金の支払を求めているところ、これはかかる金員の支払の催告に当たり、本件訴訟の係属中は同催告が継続していたものと解するのが相当である。
なお、Xは、組み入れられた金員に対しても年14.6%の割合による遅延損害金を請求し、これにより発生した遅延損害金をさらに組み入れ、それに対しても年14.6%の遅延損害金を請求する旨主張する。しかしながら、組入れにより組み入れられた金員は、もともと賃金ではなく、組入れによって賃金としての性質を有することになるものでもなく、単に重利の対象となったにすぎないから、これについて賃確法6条1項、同法律施行令1条を適用することはできず、これに対する遅延損害金の利率は民法の法定利率年3%によるのが相当である。

この事案でも、固定残業制度が無効と判断されています。

有効要件を満たすことはそれほど難しくありませんので、しっかりと準備をしておけば防げる紛争類型です。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

労働時間115 テレビ番組制作業における事業場外労働時間みなし制度の適否等(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

テレビ番組制作業における事業場外労働時間みなし制度の適否等について見ていきましょう。

テレビ東京制作事件(東京地裁令和5年6月29日・労判1324号61頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されている労働者であるXが、Y社に対し、未払残業代等を請求した事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 番組制作は、企画、取材、撮影及び編集の過程があるところ、企画の段階及び取材の初期の段階では、どのような取材対象者をどの程度取材することになるか、どのような調査を行う必要があるかをあらかじめ決め難い場合があると認められる。また、Xは、制作業務を一人で担当しており、企画、取材及び撮影は、被告の事業場外での労働が中心であり、編集についても事業場外の編集所で行う場合が多く、全体として、おおむね直行・直帰により行われていたものであり、上司などの管理者の目視できる場所で作業が行われることは少なかった。
他方で、企画及び取材における初期の段階でも、管理者が、Xから、その日行った作業内容の結果を報告させることは可能であったといえる。さらに、一つの番組は2~8箇月といった比較的長い時間をかけて制作されるものであり、一旦企画書が採用された後は、企画書によって、取材及び撮影の対象、内容及び方法が一定範囲に定まるものであると認められるから、企画書が採用された後は、上司において、企画書などに基づき、Xから報告された日々の作業内容に基づいて進捗を確認し、指揮命令を行うことができるといえる。
また、始業・終業時刻については、携帯できる端末でどの場所からでも入力できる勤怠管理のシステム(本件システム)で報告することとされており、同システムには、ボタン操作により即時記録される始業・終業時刻はもちろん、始業・終業時刻を手動で入力編集した時刻も逐一記録されるものであったから、上司において、始業・終業時刻を確認したり、入力状況を確認したりすることができた。
本件システムの備考欄によって取材先が報告されることがあるほか、首都圏以外は出張届で事前に届出がされ、首都圏内でも交通費の申請がされ、上司において、取材場所の確認が可能であった。また、Xが撮影した全ての映像には、撮影時刻及び撮影対象が逐一記録されていたから、撮影の作業の裏付け確認を行うことも可能であった。放送局及び取材先との会合費は月ごとに領収証とともに報告がされていたから、これによりXの報告した作業内容の真実性を確認することもできた。また、映像の編集を行う編集所からは、番組ごとの利用日及び時間帯がY社に報告されていたから、これにより、Xの編集作業時間を確認することが可能であった。
さらに、Xは、Y社から社用の携帯電話を所持するよう指示されており、Y社からいつでも呼出し確認ができる状態となっていた。
以上のことからすれば、Xの制作業務は、おおむね事業場外の労働であったといえるが、Xの上司において、上記の方法で、Xの労働時間を把握するため具体的な指揮監督を及ぼすことが可能なものであったといえる。
したがって、制作業務は、その労働態様が、使用者が労働時間を十分把握できるほど使用者の具体的な指揮監督を及ぼし得ない場合であったとは認められず、労基法38条の2「労働時間を算定し難い場合」とはいえない

2 Y社は、Xが、Y社が当初指示したとおり、始業・終業の都度、本件システムのボタンを打刻する方法で報告を行わず、半月又は1箇月分をまとめて入力し、その後修正をすることを繰り返しており、入力内容の正確性を担保する手段がなかったため、労働時間を算定し難いといえる旨主張する。
しかし、証拠によれば、Y社においては、本件システムで報告された社員の1箇月間の所定時間外労働が一定の時間数を超過した場合、管理職らが、当該社員に対し、本件システムの入力内容の正確性の確認を求め、当該社員が労働時間を修正して再報告することがあるなど、労働時間を1箇月程度まとめて報告をすることは、許容されていたことが認められる。また、管理職らの上記指示内容からは、Y社において、始業・終業の都度のボタン操作で打刻した数値のみが正確であると捉えていたわけではないこともうかがえる。そして、Xが、本件システムに始業・終業の都度打刻をしていないことについて、平成30年5月より前に、Y社が、Xに対し、労働時間を把握するため、その都度入力に改めるよう指導した形跡は見当たらない。
そうすると、Xが半月又は1箇月分をまとめて本件システムに入力していたのは、Y社が、Xに対し、始業・終業時刻をその都度入力するよう指導を徹底していなかったことに原因の一つがあるといえる。
以上のことから、Xの上記報告の態様をもって、客観的に、労働時間を把握できるほど具体的な指揮監督を及ぼし得ない労働態様であったと認めることはできない。

上記判例のポイント1を読む限り、もはや今の時代、技術的に、労働時間を把握できるほど具体的な指揮監督を及ぼし得ない労働態様なんてほとんどないと思います。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間114 変形労働時間制が無効と判断された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、変形労働時間制が無効と判断された事案を見ていきましょう。

サカイ引越センター事件(東京高裁令和6年5月15日・労判ジャーナル151号40頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員として引越運送業務に従事していたXらが、Y社に対し、時間外労働に係る割増賃金(割増賃金)等が未払であると主張して、Xらそれぞれが以下の各支払を求める事案である。

原審は、時間外労働に係る割増賃金(割増賃金)の算定に当たって、Y社がXらに支給している業績給A(売上給)、業績給A(件数給)、業績給B、愛車手当、無事故手当、アンケート手当、その他・その他2はいずれも基礎賃金に含まれ、控訴人東京D支社において採用している1年単位の変形労働時間制は労基法32条の4の要件を充足しないとした。

Y社及びXらは、上記判断を不服として、それぞれ控訴及び附帯控訴をした。

【裁判所の判断】

本件各控訴、附帯控訴をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 Y社は、現業職全員が同じシフト時間であり間違えることはないこと、シフト時間に変更があった場合には全現業職に通知しており、いつから当該シフトが適用されるのかを全現業職が把握していることを挙げて、Y社の変形労働時間制が有効である旨主張する。
しかし、変形労働時間制において、労働時間の特定を求める趣旨は、労働時間の不規則な配分によって労働者の生活に与える影響を小さくすることにあることからすれば、労基法32条の4及び89条の趣旨に照らし、十分な特定が必要である。Y社は、実務運用によれば、シフト時間は全現業職が把握していたことを指摘するが、Y社においては、公休予定日が出勤日に変更される実態が認められ、こうした点を踏まえると、現業職の生活設計に支障を生じさせ得る状態であることは否定できず、結局、労働時間の特定に関する上記趣旨に合致せず、採用することはできない。

2 「出来高払制その他の請負制」(労基法27条及び労基法施行規則19条1項6号)とは、労働者の賃金が労働給付の成果に一定比率を乗じてその額が定まる賃金制度をいうものと解するのが相当であり、出来高払制賃金とは、そのような仕組みの下で労働者に支払われるべき賃金のことをいうと解するのが相当である(この点は、東京高裁平成29年判決も同旨であると解される。)。控訴人において引越運送業務に従事する現業職は、引越荷物の積卸作業及び引越荷物の運搬を担っているのであり(以下、これらの業務を「作業等」という。)、労働内容の評価にあたっては、作業量や運搬距離をもってし、作業量や運搬距離をもって労働給付の成果というのが相当である。
Y社は、業績給A(売上給)につき、「成果」は「売上額(車両・人件費値引後額)」である旨主張するところ、Y社が主張するように、「売上額(車両・人件費値引後額)」をもって労働給付の成果というのであれば、「売上額(車両・人件費値引後額)」は現業職が給付する労働内容、すなわち作業量等に応じたものであるべきである。ところが、本件においては、上記の売上額は必ずしも作業量等と一致しないことは補正の上引用する原判決が説示するとおりである。
また、Y社は、業績給A(件数給)については「作業件数」及び「車格」が、業績給Bについてはポイント表に記載された各項目が、愛車手当は洗車等を行ったことが、無事故手当はその支給条件である各事項を満たすことがそれぞれ「成果」である旨主張する。しかし、業績給A(件数給)につき、担当した件数が必ずしも作業量等と連動していないことは、補正の上引用する原判決説示のとおりである。また、業績給Bについて、ポイント表記載の作業を行った場合に支給される点で、当該作業を行っていない場合に比して、支給額が加算されるという関係にあるものの、他方で、ポイント表記載の各作業も具体的案件に応じて内容が異なるものであることからすれば、作業量等と連動しているものといえない。さらに、愛車手当は支給上限が定められていること、無事故手当の支給はそもそも支給条件を充足するか否かによって決まることからすれば、「成果」とはいえない。
なお、Y社は、業績給A(売上給)等が作業量と相関関係にあり、現業職間の実質的公平に資するものであるから、出来高払制賃金に該当すると主張し、証拠を提出する。Y社が出来高払制と主張するものには、その性質上、作業量と相関するものがあり、それに沿う証拠はあるが、法の予定する出来高払制というためには、このような緩やかな相関関係では不十分であることは、出来高払制賃金に係る原判決及びこの判決の説示のとおりである。

出来高払制賃金を導入している会社は少なくありませんが、それが本当に労基法が予定するものであるかについては慎重に検討する必要があります。

本裁判例を含めて、いくつか重要な裁判例が出されていますので、顧問弁護士に相談しながら対応してください。

労働時間113 警備員の待機時間について労働時間該当性が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、警備員の待機時間について労働時間該当性が認められた事案を見ていきましょう。

セントラル綜合サービス事件(東京地裁令和6年5月31日・労経速2568号16頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結したXらが、Y者に対し、雇用契約に基づき、令和2年7月から令和4年8月までの時間外労働に係る未払残業代として、各金員+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 Xら警備員の待機時間中の状況についてみると、警備員は、待機時間中、待機室で食事を取り、無線機を外すことなどができ、また、Cの建物外に設置された喫煙所で喫煙することが可能であった。しかし、待機室には、Bの無線機が設置され、待機室にいる待機時間中の警備員にも聞こえるようになっており、これは警備本部等から待機室への連絡等のためと考えられるし、警備員はCから自由に外出することができず、外出することが基本的になく、喫煙所に行く際もBから警備服の着用や無線機の携帯をするよう言われており、B等から指示があった場合には、速やかな対応が可能な状態にあった。平成26年度にH担当者が作成したCの警備要領には、「自分勝手な考えから、任務変更したり、勤務場所を離れてはならない。」とされ、勤務開始から勤務終了までの流れには、発払開始後は、「規定配置人員を残し待機」と記載されていた。

2 Y社がBから委託された警備業務の内容は、配置場所における来場客の整備誘導、苦情処理及びトラブル防止のほか、災害時における初期対応や避難誘導の実施等であり、突発的に生じるものが含まれており、自主警備計画には緊急時の対応として警備員を派遣する側は多めの人数を素早く送り出すとされており、B作成の「突発事案発生による開催中止時等の任務分担と流れ」と題する書面にも、同様の記載がされていた。警備員は、令和4年1月から令和5年3月までの間、3回、競馬レースの中止等を理由に全員配置とされたほか、令和4年4月から令和5年1月までの間、少なくとも10件(令和4年8月まではうち4件)、来場者の体調不良等が発生し、待機時間中の警備員を含む警備員全員が対応に当たった。加えて、警備員は、来場客のトラブル等の事案が発生した場合、Bから無線機で連絡を受け、その場合に待機時間中の警備員がこれに対応することがあった。そして、突発的に生じるものが含まれる上記警備業務の内容や、来場者数が延べ人数で1日平均2000人前後いること、A1が来場客のトラブル等が発生したことについての待機時間中の警備員への連絡が往々にしてあったと述べていることに加え、A1作成の給与支払明細書には、8時間勤務の場合には時間が「7.0」と、10時間勤務の場合には「8.0」と、Y社主張の待機時間と異なる労働時間が記載されていたにもかかわらず、Y社は、A1には7時間分の時給を支払い、Y社が日給と主張するその余のXらについても給与支払明細書記載の労働時間の訂正を指示せず、また、I作成の書面に8時間勤務の場合に7時間分の、10時間勤務の場合に8時間分の時給相当額の賃金を支給する趣旨が記載されており、Y社も、警備員が待機時間(Y社の主張では8時間勤務の場合が2時間05分、10時間勤務の場合が2時間55分)中にも相当程度業務に従事をしていた(労働時間である。)との認識を有していたと認められること(なお、証拠〔書証略〕によれば、5時間の勤務〔前記第2の2(2)エ〈3〉〕の場合にも待機時間が存在するにもかかわらず、その場合でもY社はA1に5時間分の時給を支払っていたと認められる。)も踏まえると、待機時間中の警備員がトラブル等の事案に対応するなどして、警備業務に従事することが少ないものではないといえる。

3 このように、Xらが、災害時における初期対応等が義務付けられていた上、待機時間中も待機室で無線機の内容が聞こえる状態にあり、喫煙以外にCから外出することが基本的になく、喫煙所に行く際も無線機を携帯して、警備要領には、発払開始後は、「規定配置人員を残し待機」などとされ、Bから無線機で連絡を受けるなどした際には対応しており、その頻度が少ないものではないことなどからすれば、Xらは、待機時間中、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価され、労働からの解放が保障されているとはいえず、Bから警備業務の委託を受けたY者の指揮命令下にあると認められるから、待機時間は全て労働時間と認めるのが相当である。

警備員の待機時間の労働時間該当性について争われた事例は数多く存在し、その多くは、本件同様の結論となっています。

今後ますます労働力が不足する中で、突発事案に緊急対応するとなれば、待機時間について労働から完全に解放させることはもはや不可能ではないでしょうか。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間112 割増賃金請求と変形労働時間制(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、割増賃金請求と変形労働時間制に関する裁判例を見ていきましょう。

社会福祉法人幹福祉会事件(東京高裁令和5年10月19日・労判1318号97頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結し、Y社において非常勤スタッフとして障害者居宅支援サービス等の業務に従事しているXが、Y社に対し、〈1〉平成30年6月支払分から令和2年4月支払分の深夜割増賃金のうち57万2922円と、〈2〉平成30年6月支払分から令和3年1月支払分までの深夜割増賃金を除く未払時間外割増賃金のうち47万2704円がいずれも未払であると主張して、〈1〉及び〈2〉の合計104万5626円+遅延損害金の支払を求めるともに、労基法114条に基づく付加金82万1365円(平成30年12月支払分以降の未払に係るもの)+遅延損害金の支払を求める事案である。

原審がXの請求をいずれも全部認容したため、Y社が控訴した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 労基法32条の2第1項が所定労働時間の特定を求める趣旨は、変形労働時間制が労基法の定める原則的な労働時間制の時間配分の例外であって労働者の生活への負担が懸念されるため、労働時間の不規則な配分によって労働者の生活設計に与える不利益を最小限に抑えることにあることに照らすと、まずは就業規則において、月間スケジュールによる所定労働時間、始業・終業時刻の具体的な特定がどのようなものになる可能性があるか労働者の生活設計にとって予側が可能な程度の定めをする必要がある。
ところが、Y社の就業規則では月間スケジュールにより各就業日の勤務時間帯が定められるとするものであり、ケアスタッフにとっては前月25日までに月間スケジュールが交付されるまで労働時間が明らかではないから、労働者の生活設計の予側が可能とはいえず、その不利益は、月間スケジュールの作成後に個別に勤務時間を変更することによって解消されるというものではない介助サービスの利用者の都合によって就業時間が変化する実情があるとしても、それは、時間外勤務として扱われるべきであって、就業規則に就業時間の特定がおよそないものに変形労働時間制の適用を認めることはできない

2 Y社は、Xの時間外手当の請求が権利濫用である旨主張するが、Xの現実の労働時間が短いものであったとしても、変形労働時間制が適用されないとした場合に未払の時間外賃金が存在すれば、これを請求するのは労働者の権利であり、Y社の就業規則に不備があることは上記のとおりであるから、Xが変形労働時間制の適用を否定して時間外手当を請求することが権利の濫用であるということはできない。

3 Y社は、日中手当は日中の業務内容と介助者の負担の大きさに着目して付与することとしたものであるから、「通常の労働時間の賃金」には該当しない旨主張するが、割増賃金の算定基礎となる通常の賃金とは、当該深夜労働が、深夜ではない所定労働時間中に行われた場合に支払われるべき賃金と解されるところ、日中手当は、深夜労働時間帯以外の時間に労働をした場合に一律に支払われるものであり、通常の労働時間の賃金に含まれるというべきことは、引用する原判決のとおりである。
日中の時間帯における人手が不足したため、日中手当を導入した経緯があったとしても、そのために日中手当を通常の賃金から除外することは、深夜労働に関し一定の規制を定めた労基法37条4項の趣旨に整合せず、許されない。

変形労働時間制の有効要件を正確に理解し、かつ、運用している企業がどれほどあるでしょうか。

管理監督者性とともに変形労働時間制は、ある種、時限爆弾です。未払残業代請求訴訟で爆発する可能性が高いので、安易な導入は避けるべきです。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

労働時間111 ビル設備管理業務と変形労働時間制等(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう!

今日は、ビル設備管理業務と変形労働時間制等に関する裁判例を見ていきましょう。

大成事件(東京高判令和6年4月24日・労判1318号45頁)

【事案の概要】

 本件は、Y社の従業員であったX1~X3が、Y社に対し、それぞれ労基法37条に基づく割増賃金、同法114条に基づく付加金及び遅延損害金の各支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

変形労働時間制の適用は無効

【判例のポイント】(原審判決内容)

1 労基法32条の2の定める1箇月単位の変形労働時間制は、使用者が、就業規則その他これに準ずるものにより、一箇月以内の一定の期間(単位期間)を平均し、一週間当たりの労働時間が週の法定労働時間を超えない定めをした場合においては、法定労働時間の規定にかかわらず、その定めにより、特定された週において一週の法定労働時間を、又は特定された日において一日の法定労働時間を超えて労働させることができるというものであり、この規定が適用されるためには、単位期間内の各週、各日の所定労働時間を就業規則において特定する必要があるものと解される。
また、具体的勤務割である勤務シフトによって変形労働時間制を適用する要件が具備されていたというためには、作成される各書面の内容、作成時期や作成手続等に関する就業規則等の定めなどを明らかにした上で、就業規則等による各週、各日の所定労働時間の特定がされていると評価し得るか否かを判断する必要があると解される(前記最高裁平成14年2月28日第一小法廷判決参照)。

2 本件において、Y社就業規則には、変形労働時間制における具体的な所定労働時間につき、日直勤務が午前9時から翌朝9時までの勤務で休憩は仮眠を含み8時間(労働時間は休憩を除き16時間)であること、日勤勤務が午前8時から午後5時までの勤務で休憩は1時間であることが規定され、他には、「その他」として、「本条の勤務時間の範囲で、始業・終業・休憩時間を決める。」との規定があるのみ(23条)であり、本件タワーでの勤務表における日勤勤務の始業時刻(午前9時)及び終業時刻(午後6時)並びに日直勤務の労働時間(休憩・仮眠を除き17時間。)は、そもそも就業規則の規定と一致していない。Bセンター現業所では、時期によって変わる、多数のシフトパターンの組み合わせにより勤務表が作成されており、就業規則とは全く一致していない
また、Y社就業規則において、本件タワー及びBセンター現業所のいずれについても、勤務割に関して作成される書面の内容、作成時期や作成手続等について定めた規定は見当たらず、勤務表の作成によって、就業規則等による各週、各日の所定労働時間の特定がされていると評価することもできない。

3 Y社は、当初から就業規則上に完全な勤務シフトを記載することはおよそ困難であり、シフトパターンを変更することになった場合に、その都度就業規則を変更する手続を経ることは、現実的でないなどと主張する。
しかし、具体的な勤務シフトを当初から就業規則に記載することは確かに困難であるとはいえるものの、少なくとも本件タワーにおいては、勤務表上のシフトパターンが、日勤勤務及び宿直勤務(宿直明番)並びに一回の勤務でその双方を行う宿直明日勤の勤務シフトがあるのみで比較的単純であり、当該シフトパターンのほか、勤務表の具体的な作成時期や作成手続等も含めて就業規則に規定することは困難とはいい難いにもかかわらず、Y社はそれすら行っていない

変形労働時間制が有効要件を満たさず無効と判断される例は枚挙に暇がありません。

上記判例のポイント3のような会社側の主張は採用してくれませんので、愚直に有効要件を満たす準備をするほかありません。

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労働時間110 運行開始前点検行為に基づく未払割増賃金等請求が一部認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、運行開始前点検行為に基づく未払割増賃金等請求が一部認められた事案を見ていきましょう。

トーコー事件(大阪地裁令和6年3月8日・労判ジャーナル149号58頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社に対し、以下の請求をした事案である。

(1)有期労働契約の更新をせず雇止めしたことは違法である(労働契約法19条により更新される)旨主張し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求(請求1)
(2)(1)を前提に、労働契約に基づき、雇止め後である令和3年7月分から令和4年10月分まで(16か月分)の、月額11万円の賃金(合計176万円)の支払請求(請求2)
(3)(1)を前提に、労働契約に基づき、令和4年11月支払分(末日締め、翌月15日払)から本判決確定の日までの、月額11万円の賃金の支払請求(請求3)
(4)時給1300円との合意を口頭でしたにもかかわらず時給1100円しか支払われなかったと主張し、労働契約に基づき、未払賃金合計20万円の支払請求(請求4)
(5)令和2年9月分の賃金につき、被告の責めに帰すべき事由により労務の提供ができなかったと主張し、労働基準法26条に基づき、又は労働契約に基づく民法536条2項による、1か月分の給与11万円の支払請求(請求5)
(6)始業時刻前に、アルコールチェック等の作業を指示され、1日当たり30分の残業が生じていた旨主張し、労働契約に基づき、合計9万9000円の支払請求(請求6)

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、1万4300円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xは、渋滞等のアクシデントに備えて早めに出勤していたことはうかがえる。しかし、出勤後から始業時刻までの間、常に労務を提供していたことを裏付ける証拠はなく、Xの供述によっても、出勤後から始業時刻までの間、継続して作業を行っていたものとは認められない。また、FがXに対して交付した文書には「①は7:00出発、②は7:15出発。皆さんはそれに間に合うように出社されています。」と記載されているのであって、被告が、業務命令として出発時刻の30分前の出社を指示していたことを認めるに足る的確な証拠はない
もっとも、出発時刻である午前7時又は午前6時50分より前に、バスの乗務という労務提供の前提となる作業として、アルコールチェック、運行開始前点検(車両を目視及び運転席で確認する。)、運転前チェック項目のチェック等の作業があることが認められ、これらは被告の指揮命令下における労働時間と評価できる。これらの作業に必要な時間は1勤務当たり5分と認める。
原告が勤務したと証拠上認められる日における出発時刻前の労務提供の前提となる作業に要した時間は以下のとおり、合計13時間となり、これに対する未払賃金は1万4300円となる。

アルコールチェック、運航開始前点検、運転前チェック項目のチェックは労働にあたりますので、運送会社の皆様、ご注意ください。

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労働時間109 飲食店における非混雑時間帯の休憩時間該当性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、飲食店における非混雑時間帯の休憩時間該当性に関する裁判例を見ていきましょう。

月光フーズ事件(東京地裁令和3年3月4日・労判1314号99頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結し就労していたXらが、Y社に対し、労働契約に基づき、X1につき①平成28年10月分から平成30年9月分までの未払割増賃金合計1999万9769円並+遅延損害金、②平成30年6月分から平成30年9月分の未払月額賃金合計20万円+遅延損害金及び③上記未払割増賃金に係る労基法114条に基づく付加金として平成29年4月分から平成30年9月分までの法外割増賃金相当額である1468万1415円+遅延損害金の支払を求め、また、X2につき④平成29年5月1日から平成30年12月31日までの期間分の未払割増賃金から既払額を差し引いた残額合計492万6670円+遅延損害金及び⑤上記未払割増賃金に係る労基法114条に基づく付加金として平成29年11月分から平成30年9月分までの法外割増賃金相当額である455万8363円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、X1に対し、2072万0714円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X1に対し、20万円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X1に対し、1468万1415円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X2に対し、489万1905円+遅延損害金を支払え。
 Y社は、X2に対し、453万0871円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 労基法32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、同労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。
本件においては、ランチタイムの営業時間とディナータイムの営業時間の間においても、Xらが業務に当たっており、業務以外の理由で店舗を離れることはできなかったことからすると、当該時間はXらがY社の指揮命令下にあった時間帯というべきであり、労働時間に該当すると解するのが相当である。

2 本件就業規則及び本件給与規程の施行日の月日は空欄となっており、また、X1及びX2ともに本件就業規則等を見たことがなくその説明を受けたこともないと述べていることからすると、本件就業規則及び本件給与規程がいつから施行されたものであるのか、現に施行されているのか、周知がなされているのか、明らかでないと言わざるを得ない。そして、仮に本件就業規則が有効であるとしても、本件就業規則においては毎月1日を起算日とし、所定労働時間を1か月を平均して週40時間以内とする1か月単位の変形労働時間制による労働をさせることがある旨規定されているが、各日、各週の労働時間は前月末日までに勤務表を作成して従業員に周知することとされており、それ以上の詳細な定めはないため、各日の勤務時間やその組み合わせ等が勤務表においてどのように定められるのか就業規則から推認することができない。また、本件雇用契約書及び本件労働条件通知書にも1か月単位の変形労働時間制に関する記載があるが、本件就業規則以上の詳細な規定はない。さらに,実際に作成されているシフト表を見ると、各従業員の各日について記号が付されているものの各記号の示す始業時間及び終業時間並びに休憩時間がシフト表上一義的に明らかでなく、各日の勤務時間がシフト表上明らかにされているとはいいがたい上、仮にシフト表上「○」と記載されている部分の一日の勤務時間を8時間と解したとしても、例えば平成29年10月分のシフト表ではX1につき「○」が27日あり合計216時間、X2につき「○」が24日あり合計192時間となり、1か月の変形労働時間制における労働時間の総枠(1か月31日の月では177.1時間)を超えたシフト表が組まれている
これらの点からすれば、Y社の主張する変形労働時間制が有効であるとは認められない。

休憩時間、管理監督者、変形労働時間制、固定残業制度のいずれも否定されました。

特に管理監督者と変形労働時間制は有効に運用するのは至難の業です。

また、飲食店において、上記判例のポイント1のような運用がなされていることは珍しくありませんが、法的には休憩時間とは評価されません。わかっていてもマンパワー的に無理なことも理解しております・・。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。