Category Archives: 労働時間

労働時間14(阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第2)事件)

おはようございます。

さて、今日は、事業場外みなし労働時間制に関する裁判例を見てみましょう。

阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第2)事件(東京地裁平成22年7月2日・労判1011号5頁)

【事案の概要】

Y社は、募集型企画旅行において、主催旅行会社A社から添乗員の派遣依頼を受けて、登録型派遣添乗員に労働契約の申込みを行い、同契約を締結し、労働者を派遣するなどの業務を行う会社である。

Y社は、フランス等への募集型企画旅行の登録型派遣添乗員として、Xを雇用した。日当は1万6000円であり、就業条件明示書には、労働時間を原則として午前8時から午後8時とする定めがあった。

Y社では、従業員代表との間で事業場外みなし労働時間制に関する協定書が作成されており、そこでは、派遣添乗員が事業場外において労働時間の算定が困難な添乗業務に従事した日については、休憩時間を除き、1日11時間労働したものとみなす旨の記載があった。

Xは、Y社に対し、未払時間外割増賃金、付加金等を求めた。

【裁判所の判断】

事業場外みなし労働時間制の適用を受ける場合にあたる。

付加金として、割増賃金と同額を認容した。

【判例のポイント】

1 事業場外みなし労働時間制は、事業場外業務に従事する労働者の実態に即した合理的な労働時間の算定が可能となるように整備されたものであり、言い換えると、事業場外での労働は労働時間の算定が難しいから、できるだけ実際の労働時間に近い線で便宜的な算定を許容しようという趣旨である。これは、労働の量よりも質に注目した方が適切と考えられる高度の専門的裁量的業務について実際の労働時間数にかかわらず一定労働時間だけ労働したものとみなす裁量労働制(労基法38条3)とは異なった制度である。

2 みなし労働時間制が適用される「労働時間を算定し難いとき」とは、労働時間把握基準(平成13.4.6基発339号)が原則とする、使用者による現認およびタイムカード等の客観的な記録を基礎とした確認、記録により労働時間を確認できない場合を指し、自己申告制によって労働時間を算定できる場合であっても、「労働時間を算定し難いとき」に該当する場合がある

3 Xは単独で業務を行い、Y社が貸与した携帯電話を所持していたものの、随時連絡等はしていないこと、直行直帰していること、Xは現場の状況により予定変更をしており、アイテナリー(行程表)等による具体的指示があったとは評価できないことなどから、本件添乗業務は「労働時間を算定し難いとき」に該当する

4 労基法38条の2第1項ただし書の「業務の遂行に通常必要とされる時間」は、平均的にみて当該業務の遂行に必要とされる時間を意味すると解されるところ、本件では、Xの添乗日報の記載を重視してこれを算定するべきである。
→空港発着および搭乗前後、食事、オプショナルツアー等の時間を検討のうえ、本件における「業務に通常必要とされる時間」は11時間であるとして、8時間を超える部分についての時間外割増賃金支払義務、および法定休日の労働の存在と休日割増賃金の支払義務を認めた。

5 Y社は、時間外割増賃金及び休日割増賃金合計12万3700円を支払っていないところ、これに対し制裁としての付加金を課することを不相当とする特段の事由は認められず、同額の付加金の支払を命ずるのが相当である。

事業場外みなし労働時間制の適用が肯定されました。

阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第1)事件では、事業場外みなし労働時間制の適用が否定されています。

もっとも、本件では、割増賃金と付加金の請求を命じています。

労基法38条の2第1項は以下のとおり。

労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。

裁判所は、この「業務の遂行に通常必要とされる時間」がXの場合、11時間であると判断しました。

つまり、1日あたりの残業時間は3時間となるため、その分の割増賃金の支払いを命じたわけです。

この点、Y社は、Xの日当に3時間分の時間外割増賃金が含まれていると主張しました。

しかし、裁判所は、所定労働時間8時間分の賃金と時間外労働3時間分の割増賃金に当たる部分との明確な区分、および割増賃金がこれを上回る場合の差額支払いについての合意がないとして否定しました

事業場外みなし労働時間制を採用している会社として参考にすべき点ですね(注:明確な区分が必要であるという点は、事業場外みなし労働時間制特有の問題ではなく固定残業代を採用している場合にも問題となります)。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間13(労基法上の労働時間該当性その1)

おはようございます。

さて、今日は、手待ち時間の労働時間制に関する裁判例を見てみましょう。

山本デザイン事務所事件(東京地裁平成19年6月15日・労判944号42頁)

【事案の概要】

Y社は、広告・印刷物に関する企画・製作、グラフィックデザインの制作及び販売等を業とする会社である。

Xは、Y社に入社し、コピーライターとして勤務し、入社から約2年半後、解雇された。

Xは、Y社に対し、時間外労働、休日労働および深夜労働に対する割増賃金の支払いを求めた。

【判例のポイント】

1 作業の合間に生じる空き時間は、広告代理店の指示があれば直ちに作業に従事しなければならない時間であると認められ、広告代理店の指示に従うことはY社の業務命令でもあると解されるから、その間はY社の指揮監督下にあると認めるのが相当であり、労働時間に含まれると認められる。

2 作業と作業の合間に一見すると空き時間のようなものがあるとしても、その間に次の作業に備えて調査したり、待機していたことが認められるのであり、なおY社の指揮監督下にあるといえるから、そのような空き時間も労働時間であると認めるべきであり、Xが空き時間にパソコンで遊んだりしていたとしても、これを休憩と認めることは相当ではない。

いわゆる「手待ち時間」も、労基法上の労働時間です。

問題は、待機している時間が「手待ち時間」といえるか否かです。

使用者の指揮命令下から現実に解放されているか否かがポイントですが、この基準も明確とはいえません。

どのような場合に、指揮命令下から現実に解放されているといえるのかについては、裁判例を検討し、把握するしかありません。

本件では、Xが空き時間にパソコンで遊んだりしていても、労働時間であると判断しました。

賛否両論あるところだと思います。

なお、このケースでは、未払割増賃金として、約910万円の支払いを命じられています(既払額控除前は約990万円)。

さらに、これに加えて、付加金として、500万円の支払いを命じられています。

合計約1500万円・・・すごい金額ですね

付加金に関する裁判所の判断は以下のとおりです。

Xをはじめとする従業員からY社に対して時間外勤務手当の支給及び人員不足の改善についての申入れがされていたにもかかわらず、ごく少額の休日手当等を支払ったことがあるだけで、Y社がそのいずれにも応じてこなかったこと、他方、労働基準監督署の是正勧告を受けた後は時間外勤務についての届出をするとともに、時間外勤務手当の支給についての是正が図られるに至ったこと等の事情に照らすと、労基法114条に基づく付加金として、500万円の支払を命ずるのが相当である。

労基署の是正勧告に従ったことから、付加金は約半分になりました。

やはり、労基署には逆らわない方がいいようです。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間12(変形労働時間制その5)

おはようございます。

さて、今日は、変形労働時間制に関する裁判例を見てみましょう。

日本レストランシステム(割増賃金等)事件(東京地裁平成22年4月7日・労判1002号85頁)

【事案の概要】
 Y社は、多業態型レストランチェーンの経営を主な目的とする会社である。Y社は、「洋麺屋五右衛門」「にんにくや五右衛門」「卵と私」などを経営している。

Y社の就業規則には、1か月単位の変形労働時間制が規定されている。

Xは、Y社のアルバイト店員として、接客・調理を担当していた。

Xは、Y社に対し、未払残業代・賃金を請求した。

Y社は、「半月単位の変形労働時間制」を適法に導入しており、その点は労基署にも確認してもらったので、残業代の未払いはない、実労働時間はタイムカードではなくシフト表で把握しているので本給の未払いはない、と主張し争った。

【裁判所の判断】

未払残業代、未払時間給、付加金の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Y社は、変形労働時間制を採用していた旨主張する。しかしながら、Y社が採用していた変形労働時間制は就業規則によれば1か月単位のそれであったのに、半月ごとのシフト表しか作成せず、変形期間全てにおける労働日及びその労働時間等を事前に定めず、変形期間における期間の起算日を就業規則等の定めによって明らかにしていなかったものであって、労基法に従った変形労働時間制の要件を遵守しておらず、かつ、それを履践していたことを認めるに足りる証拠もないから、変形労働時間制の適用があることを前提としたY社の主張は採用できない。

1か月単位の変形労働時間制の導入要件については、こちらを参照してください。

Y社(に限りませんが)としては、当日の来客数等に応じて、アルバイト従業員を臨機応変に使いたいと考えたのでしょう。

そのように考えるのは、使用者としては当然です。

ただ、残業代を支払いたくないからといって、要件を満たさないのに変形労働時間制を採用したのがまずかったわけです。

Y社が主張している労基署の確認ですが、労基署は、「就業規則にある1ヶ月単位の変形としては無効だが、実態としての半月単位の変形労働としては有効の可能性がある」と判断したそうです。

Y社の就業規則には、1か月単位の変形労働時間制が規定されている以上、実態がどうであろうと関係ありません。

会社としては、できるだけ残業代を支払いたくないという気持ちはわかります。

でも、要件を満たしていないで、形だけ変形労働時間制を採用しても、いつか従業員から裁判を起こされます。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間11(事業場外みなし労働時間制その7)

おはようございます。

さて、今日は、事業場外みなし労働時間制についての新しい裁判例を見てみましょう。

阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第1)事件(東京地裁平成22年5月11日・労判1008号91頁)

【事案の概要】

Y社は、旅行その他旅行関連事業を行うことを等を業とする会社である。

Xは、Y社の派遣添乗員として、阪急交通社に派遣され、同社の国内旅行添乗業務に従事している。

Y社では、派遣添乗員につき、事業場外みなし労働時間制が採用されている。

Xは、Y社に対し、未払時間外割増賃金、付加金等を求めた。

【裁判所の判断】

事業場外みなし労働時間制の適用を受ける場合にはあたらない。

付加金として、割増賃金と同額を認容した。

【判例のポイント】

1 Y社は派遣添乗員に対しY社作成にかかる国内添乗マニュアルを交付して、派遣添乗員の業務について詳細に説明・指示している。

2 派遣先の阪急交通社から渡される行程表ないし指示書によってツアーの旅行管理がされる

3 ツアー当日はモーニングコールをして添乗員の遅刻を防ぐ措置を講じ、添乗員からも連絡をさせている。

4 派遣添乗員が提出する派遣報告書ないし添乗日報には、行程記入欄に着時刻、発時刻を分単位で記入することが求められ、また、夕食、朝食が宴会か、バイキングかも記入することになっている。

5 派遣先旅行会社は全添乗員にツアー毎に携帯電話を貸与し随時電源を入れておくよう指示されている

6 Y社は派遣添乗員の深夜割増賃金を支給するときには添乗報告書等を参考にしている。

7 Y社及び阪急交通社は、国内旅行について、試験的という位置づけではあるが、自己申告により就労時間の把握をした取り組みを開始している。

8 これらの事実からすると、添乗員が立ち寄り予定地を立ち寄る順番、各場所で滞在する時刻についてある程度の裁量があるとしても、Y社が、添乗員の添乗報告書や添乗日報、携帯電話による確認等を総合して、派遣添乗員の労働時間を把握することは社会通念上可能であるというのが相当である。

個人的には、上記2、4、5が決め手になっているように思います。

1番の「国内添乗マニュアル」がどのようなものかわかりませんが、一般的なマニュアル書であるならば、就労時間の把握には関係ないように思います。

3番も、あまり関係ないように思いますが・・・。

なお、この事案では、付加金について満額認められています。

付加金についての裁判所の判断は以下のとおりです。

Y社は、Xを含む派遣添乗員の就労について労基法38条の2の適用はないとする労働基準監督署の指導に従っていないし、国内旅行について就労時間の把握をしようとしているけれども、いまだ「試験的」という位置づけを崩していないから、労基法37条に従った過去分の割増賃金を支払う姿勢があるともいえない。したがって、労基法114条に基づき、Y社に対し、付加金の支払を命ずるのが相当である。」

労基署の指導に従わないと、付加金の支払いを命じられるリスクがありますので、ご注意を。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間10(事業場外みなし労働時間制その6)

おはようございます。

さて、今日は、事業場外みなし労働時間制に関する珍しい裁判例を見てみましょう。

日本インシュアランスサービス事件(東京地裁平成21年2月16日・労判983号51頁)

【事案の概要】

Y社は、生命保険会社が行う各種の確認業務を受託する会社である。

Xらは、Y社の従業員として、保険に関する各種確認業務を行っている。

Xらは、Y社から宅急便やメール等で送付される確認業務に関する資料を自宅で受領し、指定された確認項目に従い、自宅から確認先等(保険契約者等)を訪問して事実関係の確認を行い、結果を確認報告書にまとめてY社に郵送やメール等で送付する態様で、自宅を起点に直行・直帰で業務従事しており、情報共有等の目的で原則月1度出社するほかは、Xらが出社することはなかった

Xらの確認業務の遂行については、報告期限は定められていたが、労働時間配分、業務処理の優先順位付け等の作業の段取りは各従業員の裁量に委ねられ、Y社が個別具体的な指示を行うことはなかった

Y社の就業規則では、日曜日が「休日」と定められていた。また、Y社では、事業場外みなし労働時間制が採用されている

Y社は、休日労働に対する割増賃金について、一定の算定方法に基づいて支払ってきた。

Xらは、休日労働について、実労働時間に応じて割増賃金を支払うべきである等と主張し、休日労働手当等の支払いを求めた。

【裁判所の判断】

請求棄却(控訴)

【判例のポイント】

1 Y社の従業員の業務執行の態様は、その労働のほとんど全部が使用者の管理下で行われるものではなく、本質的にXらの裁量に委ねられたものである。したがって、本件における雇用契約では、使用者が労働時間を厳密に管理することになじみにくい。

2 本件では、休日労働のあり方も、平日のそれと本質的な差異はないのであるから、休日労働の時間の算定も、平日同様、みなし労働時間制によることが、その業務執行の態様に本質的に適っている
ただ、休日は、「「所定労働時間」や「通常所定労働時間」(労基法38条の2第1項)といったものが存在しないので、みなすべき労働時間が存在せず、これによることができないということすぎない。平日の労働にみなし労働時間制が採用されている場合でも、休日労働は実労働時間によらねばならないという格別の要請が労基法上存在するとは解されない

3 Xらの業務執行の態様からすれば、一定の算定方法に基づき、概括的に休日労働の時間を算定することについても合理性が存する。
この算定方法についての定めは、休日労働に対する時間外手当を支払うという法的な権利の存在を前提とし、それをどのように算定するか、という技術的・細目的な事柄に属するものであり、本質的に使用者に制定する権限があり、その裁量に委ねられている
→この定めについては、恣意にわたるような定め方や、時間外手当請求権を実質的に無意味としかねないような裁量権の逸脱が存するか否かに限って審査すべきである
→裁量権の逸脱があるとまではいえない。

事業場外みなし労働時間制の適用を肯定した裁判例です。

私の知る限り、肯定したのは、この裁判例が初めてです。

また、この裁判例は、平日の労働に事業場外みなし労働時間制の適用がある場合、休日労働についても同制度の適用があると判断しています。

ここからが問題です。

休日には、「所定労働時間」が設定されていないため、どのように労働時間をみなすのかが問題となります。

事業場外みなし労働時間制の適用を肯定する裁判例がなかったので、これまであまり問題とならなかった点です。

この裁判例では、使用者が概括的にみなすことを原則として許容し、裁量権の逸脱の有無に限り審査するという方法をとっています。

平日の所定労働時間とみなす方法でもよい気がしますが・・・。

この事件は控訴されていますので、高裁がどのような判断をするのか楽しみです。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間9(変形労働時間制その4)

おはようございます。

さて、今日は、1カ月単位の変形労働時間制に関する裁判例を見てみましょうう。

まず、前回も書きましたが、就業規則上は変形労働時間制の基本的内容と勤務制の作成手続を定めるだけで、使用者が労働時間を任意に決定できるような制度は違法です。

この点に関する裁判例として、岩手第一事件(仙台高裁平成13年8月29日・労判810号11頁)があります。

同事件で、裁判所は、以下のとおり判断しています。

労基法32条の2の1カ月単位の変形労働時間制の定めは、就業規則等において変形期間内における毎労働日の労働時間を特定するか、少なくとも始業・終業の時刻を異にするいくつかの労働パターンを設定して勤務割がその組合せのみで決まるようにすべきであり、法定労働時間を超える日や週をいつにするか、その日・週の労働時間を何時間にするかについて使用者が無制限に決定できる定めは、違法、無効である。

また、JR西日本事件(広島高裁平成14年6月25日・労判835号43頁)では、以下のようにも判断しています。

労基法32条の2の要件からは、他の日および週の労働時間をどれだけ減らして超過時間分を吸収するかを示す必要があるため、法定労働時間を超過する勤務時間のみならず、変形期間内の各日および週の所定労働時間をすべて特定する必要があるから、就業規則において、変形期間内の毎労働日の労働時間を、始業時刻、終業時刻とともに定めなければならない

次に、いったん特定された労働時間を変更することは原則として許されませんが、予定した業務の大幅な変動等の例外的限定的な事由に基づく変更は許されるものと考えられます

この点に関し、JR東日本事件(東京地裁平成12年4月27日・労判782号6頁)で、裁判所は、以下のとおり判断しています。

変形労働時間制は、労働者の生活設計を損なわない範囲内において労働時間を弾力化する制度であるから、各週・各日の変形労働時間をできる限り具体的に特定することを要するが、変形期間開始後に就業規則上の変更条項は、労働者が予測可能な程度に変更事由を具体的に定めることを要する。それを充たさない変更条項は、違法・無効となる。

また、上記JR西日本事件においては、以下のとおり判断しています。

勤務時間の延長、休養時間の短縮およびそれに伴う生活設計の変更により労働者の生活に影響を与え不利益を及ぼす恐れがあるから、勤務変更は、業務上のやむを得ない必要がある場合に限定的かつ例外的措置として認められるにとどまるものと解するのが相当であり、使用者は、いったん特定された労働時間の変更が使用者の恣意によりみだりに変更されることを防止するとともに労働者にどのような場合に勤務変更が行われるかを了知させるため、変更が許される例外的、限定的事由を具体的に記載し、その場合に限って勤務変更を行う旨定めることを要する

このように、一度特定した労働時間を変更するのはとても大変です。

やむを得ず変更する場合には、
1 どのような事情が生じた場合に労働時間の変更があるのかをあらかじめ具体的に定めておく

2 あらかじめ労働者に通知する

3 やむを得ない場合に限った運用をする

という3点に気を付けてください。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間8(変形労働時間制その3)

おはようございます。

さて、今日も、昨日に引き続き、1カ月単位の変形労働時間制について見ていきましょう。

1カ月の変形労働時間制で時間外労働となる時間は、以下の3つです。

1 1日については、就業規則その他これに準ずるものにより8時間を超える時間を定めた日はその時間、それ以外の日は8時間を超えて労働した時間

2 1週間については、就業規則その他これに準ずるものにより40時間を超える時間を定めた週はその時間、それ以外の週は40時間を超えて労働した時間(1で時間外労働となる時間を除く)

3 変形期間については、変形期間における法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(1または2で時間外労働となる時間を除く)

なお、3に関して、1カ月以内の変形期間の労働時間の総枠は、以下のとおりです。

1カ月の暦日数  労働時間の総枠
   28日      160.0時間
   29日      165.7時間
   30日      171.4時間
   31日      177.1時間
(計算式:40時間(週法定労働時間)×(変形期間の暦日数÷7日)

では、1カ月単位の変形労働時間制において、他の週に休日を振り替えた結果、あらかじめ定めたその週の労働時間を超えた場合はどのように対応したらよいでしょうか。

この場合には、1日8時間、1週40時間を超える労働となる場合には、その超える時間は時間外労働として扱うこととされています。

就業規則での規定方法としては、大きく2つの方法が考えられます。

1 業務の繁忙期・閑散期に応じて、従業員の所定労働時間を一律に定める方法

2 従業員ごとに勤務シフトを指定して運用する方法

2の方法をとる場合、対象となる変形期間の開始前に、必ず勤務シフト表などで、従業員に各日の労働時間を事前に周知することが必要ですので注意してください。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間7(変形労働時間制その2)

おはようございます。

さて、今日から数回にわたり、1ヵ月単位の変形労働時間制について見ていきたいと思います。

1ヵ月単位の変形労働時間制とは、期間を1ヵ月以内とし、一定期間を平均して週40時間の法定労働時間以内であれば、1日あるいは1週間の法定労働時間を超えて労働させることができる制度です。

つまり、法定労働時間を超えた時間でも所定労働時間とすることができ、時間外労働にはならないわけです。
 
例えば、所定労働時間が7時間で、隔週で週休2日制とする場合、1週間の労働時間は42時間(7時間×6日)と35時間(7時間×5日)を交互に繰り返すことになります。 

42時間の週については、1週間の法定労働時間(40時間)を超えてしまうため、変形労働時間制を採用する必要があります。 

導入要件は以下のとおりです。

就業規則に、(1)1ヵ月以内の一定の期間(変形期間)、(2)変形期間を平均し1週間当たりの労働時間が法定労働時間を超えないこと、(3)変形期間の起算日、(4)変形期間の各日および各週の労働時間等の所定事項を定めて労働基準監督署に届け出ることが必要です。

ポイントは、(4)です。

通達によれば、就業規則において、各日の労働時間の長さだけではなく、始業及び終業の時刻も定める必要があるとされていますので、注意してください。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間6(変形労働時間制その1)

10月スタート!!

今月もはりきっていきましょう!!

さて、変形労働時間制について見ていきましょう。

今日は、概要です。

労基法の労働時間に関する規制の基本は、1日8時間、1週40時間の法定労働時間です(労基法32条)。

変形労働時間制は、これを1ヵ月単位、1年単位などの一定期間の総労働時間の規制に置き換えて、業務の繁閑に応じて所定労働時間を弾力的に配分させる制度です。

変形労働時間制には、以下の3つがあります。

1 1ヵ月単位の変形労働時間制(労基法32条の2)

2 1年単位の変形労働時間制(労基法32条の4)

3 1週間単位の変形労働時間制(労基法32条の5)

変形労働時間制を採用した場合、変形期間内を平均して週の法定労働時間を超えない限り一定の日や週に法定労働時間を超える所定労働時間を設定しても時間外労働にはなりません

なお、満18歳未満の年少者については、原則として、これら3種類の変形労働時間制は適用されません(労基法60条1項)。

満15歳以上満18歳未満の者については、満18歳に達するまでの間、1週間について48時間、1日について8時間を超えない範囲内において、1ヵ月単位の変形労働時間制、1年単位の変形労働時間制を適用することができます(労基法60条3項2号)。

また、妊産婦が請求した場合には、1週または1日の法定労働時間を超えて労働させてはいけません(労基法66条1項)。

また、上記3つの変形労働時間制とは若干性質が異なりますが、フレックスタイム制(労基法32条の3)もあります。

フレックスタイム制とは、従業員が各日の始業・終業時刻を自ら決定することができる制度です。

次回以降、各制度を詳しく見ていきましょう。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間5(事業場外みなし労働時間制その5)

おはようございます。

今日は、事業場外みなし労働時間制に関する裁判例を見てみましょう。

和光商事事件(大阪地裁平成14年7月19日・労判833号22頁)

【事案の概要】

Y社は、金融業を営む会社である。

Xは、Y社の営業社員として外勤勤務を行っていた。

Xは、Y社退職後、未払いの時間外労働割増賃金の支払いなどを求めた。

Y社は、事業場外みなし労働時間制により所定労働時間労働したものとみなされるから、Xに時間外労働時間は存在しないと主張した。

【裁判所の判断】

事業場外みなし労働時間制の適用を受ける場合にはあたらない。

【判例のポイント】

1 Y社では、営業社員について勤務時間を定めており、基本的に営業社員は朝Y社に出社して毎朝実施されている朝礼に出席し、その後外勤勤務に出て、基本的に午後6時までに帰社して事務所内の掃除をして終業となる。

2 Xは、メモ書き程度の簡単なものとはいえ、その日の行動内容を記入した予定表を会社に提出し、外勤中に行動を報告したときは会社が予定表の該当欄を抹消していた。 

3 営業社員全員に会社所有の携帯電話を持たせている。

以上の事情から、裁判所は、「労働時間が算定し難いとき」にはあたらないと判断しました。

なお、Y社は、上記の携帯電話の件について、「顧客から担当者にかかってきた電話を転送するためである」と主張しました。しかし、裁判所は、Y社が営業社員に対して携帯電話を使用して指示を与えていたこともあったことをX本人の尋問内容から認定し、Y社の主張を認めませんでした。

やはりよほど自由な外勤勤務でないと、「労働時間が算定し難いとき」にはあたらないようです。

これまでの裁判例を参考に、「うちの会社もこの程度だったら把握しているな」と思われる場合には、事業場外みなし労働時間制は使わないほうが無難です。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。