Category Archives: 労働時間

労働時間34(オリエンタルモーター事件)

おはようございます。

 

さて、今日は、労務提供の義務付け等は認められないとして時間外労働の未払賃金請求等を認めなかった裁判例を見ていきましょう。

オリエンタルモーター事件(東京高裁平成25年11月21日・労経速2197号3頁)

【事案の概要】

本件は、XがY社に対し、①平成22年7月から12月までの間、常時1時間ないし5時間程度の残業をしたとして未払賃金及び労基法114条に基づく付加金の支払いを、②退職時に法律上の原因なく金銭の支払いを強要されたとして不当利得に基づく支払金の返還を、③飲み会への参加や一気飲みを強要されて自律神経失調症を発症したとして使用者責任に基づく損害賠償金の支払いをそれぞれ求める事案である。

なお、原審(長野地裁松本支部平成25年5月24日)は、①の未払賃金及び付加金請求の一部を認容し、その余の請求を棄却した。

【裁判所の判断】

原判決中控訴人敗訴部分(上記①)を取り消す。

上記の取消部分に係る被控訴人の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 Xは、ICカードの使用履歴によれば、Xが平成22年7月1日から10月31日まで連日残業をしていたことが認められると主張する。しかし、ICカードは施設管理のためのものであり、その履歴は会社構内における滞留時間を示すものに過ぎないから、履歴上の滞留時間をもって直ちにXが時間外労働をしたと認めることはできない。そこで、上記ICカード使用履歴記載の滞留時間にXが時間外労働をしていたか否かについて検討する。

2 Xは、残業の内容として日報を作成していた旨主張する。しかし、日報が実習の経過を示すものであって会社の業務に直接関係するものではないこと、提出期限も特になく、必ず当日中に提出しなければならないとの決まりもなかったこと、Xの実習スケジュールにおいては実習メニューとは別に概ね35分ないし65分間の日報作成の時間が取られていたことは認定したとおりである。実習期間中には設けられた日報作成時間が5分間である日が3日あるが、上記のとおり日報について提出期限がなく、当日提出の決まりもなかったのであるから、この3日間について残業が必要であったということもできない。

3 Xは、時間外労働として翌日訪問する営業先の下調べ等をしていた旨主張するが、Xは、Y社に出社していた間は実習中であって、販売目標その他の営業ノルマを課されたこともなく、平成22年12月になるまでは1人で営業先に赴くこともなかったというのであるから、仮にXがその主張するような下調べをしていたとしても、これをもって労務の提供を義務付けられていたと評価することはできない

4 Xは、残業として発表会への参加を強制されていた旨主張するので検討する。・・・しかし、これらの発表会は実習中の新人社員が自己啓発のために同僚や先輩社員に対し実習成果を発表する場として設定されたものであり、会社の業務として行われたものではなく、これに参加しないことによる制裁等があったとも認められないから、Y社が業務として発表会への参加を指揮命令したものということはできない。

5 以上によれば、XがICカード使用履歴記載の滞留時間に残業して時間外の労働をしていたものとは認められないから、XのICカード使用履歴に基づく主張は理由がない

残業代請求の実務に一石を投じる判例ですね。

使用者側は、この裁判例を参考にして主張を展開するべきです。

労働者側は、これまでのように、タイムカード等の打刻時間のみから残業時間を算定するという安易な方法だと、足下をすくわれる可能性がありますので、注意が必要です。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間33(Y本舗事件)

おはようございます。 

今日は、休日出勤手当の請求の一部等が認められた裁判例を見てみましょう。

Y本舗事件(東京地裁平成25年12月25日・労経速2196号21頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社に対し、①未払の早出出勤(始業時刻前の出勤)手当、休日出勤手当、賞与の支払を求めると共に、労働基準法114条に基づく付加金の支払いを求める事案、②不法行為に基づいて、未払の早出出勤手当、残業手当、休日出勤手当、賞与相当額の損害賠償を求める事案、③主位的には正社員を定年退職した後に嘱託社員としての地位を有することの確認を求め、予備的には期間雇用の契約社員としての地位を有することの確認を求めるとともに賃金と遅延損害金の支払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社に対し、休日出勤手当の一部である12万9722円及びこれと同額の付加金の支払いを命じた。

その余の請求は棄却。

【判例のポイント】

1 そもそも、労働基準法上の労働時間に該当するか否かは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであり、使用者の指揮命令下にあるか否かについては、労働者が使用者の明示又は黙示の指示によりその業務に従事しているといえるかどうかによって判断されるべきである

2 そして、終業時刻後のいわゆる居残残業と異なり、始業時刻前の出社(早出出勤)については、通勤時の交通事情等から遅刻しないように早めに出社する場合や、生活パターン等から早く起床し、自宅ではやることがないために早く出社する場合などの労働者側の事情により、特に業務上の必要性がないにもかかわらず早出出勤することも一般的にまま見られるところであることから、早出出勤については、業務上の必要性があったのかについて具体的に検討されるべきである
本件では、Y社の企業時刻は8時30分であるところ、Xは常にそれよりも1時間も早い、7時30分前後に出社していたとのことであるが、そもそも1時間も早く職場に来る必要性があったことを認めるに足りる証拠はない。また、X自身、タイムカード打刻後、食堂でいろいろ話をすることがあったとか、常時やらなければならない仕事があったわけでもないと述べている。さらに、Y社は、平塚労基署からXの上長が早出出勤しているときは、早出出勤の必要性があったとして、早出出勤分の残業代を支払うよう指導を受け、これに従い、6万0340円の時間外手当を支払っている。そうすると、Xが残業代を請求している早出出勤については、労働時間に該当すると認めるに足りる証拠はないものといわざるを得ず、Xの請求は認められない

3 Xは、2年の短期消滅時効によって消滅している早出出勤手当、残業手当、休日出勤手当、賞与相当額を不法行為に基づいて請求している。
2年の短期消滅時効にかかる早出出勤手当、残業手当、休日出勤手当、賞与相当額を不法行為に基づいて請求するについては、Xにおいて、Y社の不法行為の内容、それによってXのいかなる権利が侵害され、Xがいかなる損害を被ったのか、不法行為と損害との因果関係の存在、Y社の故意又は過失を主張立証する必要がある
ところで本件にXは、①Y社が黙示的に時間外勤務を命じながら、時間外割増賃金を支払わなかったとか、②Y社が本件労働契約どおりに賃金を支払う意思がなく無給でXを勤務させた等と主張しているが、①については単なる時間外割増賃金の債務不履行を述べているだけであって、不法行為責任の発生根拠について具体的な主張立証がなされているとは認めがたい。また、②については、Y社は本件労働契約どおりに基本給(月額)を支払っており、無給でXを勤務させたとは認めがたい。

上記判例のポイント2の早出出勤に関する判断は、使用者側としては押さえておきたいところです。

また、広島高裁でのとある判決が出て以降、よく消滅時効にかかった分について不法行為に基づいて請求することがありますが、そう簡単にはいきませんね。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間32(レガシィほか事件)

おはようございます。

今日は税理士法人以外の会社も兼務する税理士の補助業務者に対する専門業務型裁量労働制の適用に関する裁判例を見てみましょう。

レガシィほか事件(東京地裁平成25年9月26日・労経速2194号20頁)

【事案の概要】

本件は、Y社ら双方に雇用されていたXが、Y社らに対し、時間外労働についての割増賃金の未払があるなどとして、割増賃金、遅延損害金、付加金等を求めた事案である。

Y社らは、Xには裁量労働制が適用されるなどと主張して争った。

【裁判所の判断】

裁量労働制の適用を否定
→Y社らに対し、約200万円の割増賃金の支払+20万円の付加金の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 労働基準法38条の3所定の専門業務型裁量労働制は、業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務を対象とし、その業務の中から、対象となる業務を労使協定によって定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使協定によりあらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度である。・・・ここで「税理士の業務」を専門業務型裁量労働制の対象と定めるが、ここで「税理士の業務」とは、法令に基づいて税理士の業務とされている業務をいい、税務相談がこれに該当すると解するのが相当である。

2 ・・・Y社らは、このような税理士以外の従業員による事実上の税務書類の作成等の業務について、実質的に「税理士の業務」を行うものと評価して、専門業務型裁量労働制の対象と認め得ることを前提に、Xに専門業務型裁量労働制が適用されると主張するものであると理解される(なお、Xによる業務が、税理士又は税理士法人が行うべき税務書類の作成等の業務でなく、単なる税理士の補助的業務であるというのであれば、そもそも実質的に「税理士の業務」を行うものと評価する前提を欠くといわざるを得ない。)。
しかしながら、・・・税理士以外の従業員による事実上の税務書類の作成等の業務を専門型裁量労働制の対象と認め得るためには、少なくとも、その業務が税理士又は税理士法人を労務の提供先として行われるとともに、その成果が当該税理士又は税理士法人を主体とする業務として顕出されることが必要であるというべきである。
これを本件についてみると、・・・専門型裁量労働制を適用することはできないというべきである。

3 Y社らは、いくつかの事情を摘出して、Xの割増賃金請求が信義則に違反する旨を主張するが、いずれの事情をもってしても、Xの請求が信義則違反であると評価するに足りない。
特に、Y社らは、Xが背信的意図に基づく機密保持義務違反行為に及んだことを強調するが、仮に、XにY社ら摘示の事実があり、それによりY社らが損害を被ったとしても、それをもってXの賃金請求が信義則違反である旨を主張することは、Xに対する債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求権を自働債権としてXの賃金債権を相殺するものにほかならず、賃金全額払の原則(相殺禁止の趣旨を包含する。)を定めた労働基準法24条1項本文の趣旨を潜脱するものであることが明らかである

4 Y社らは、労働基準法の規定に違反して、Xに対する時間外労働等についての割増賃金の支払をしなかったものであるところ、その違反の程度や態様については、専門業務型裁量労働制に係る法令の解釈適用を誤ったことに起因するものであり、必ずしも悪質であるとはいえない。他方、Y社らは、本件訴訟に至って以降、賃金全額払の原則を定めた労働基準法24条1項本文の趣旨を潜脱するものであることが明らかな主張を重ねるなどして、Xに対する未払割増賃金の支払をしようとしなかったという事情も存する。これらの諸般の事情を総合考慮すれば、本件においては、Y社らに対し、同法114条ただし書所定の期間内の付加金として、20万円の支払を命じるのが相当である。

相続関係でよく名前が出てくる税理士事務所の事件です。

税理士事務所では、税理士資格を持っていない従業員が、税理士業務を行っているところが多いと思いますが、労基法の文理解釈からすると、この裁判例の判断は妥当であるということになります。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間31(ロア・アドバタイジング事件)

おはようございます。

さて、今日は、元企画営業部長からの残業代等請求に関する裁判例を見てみましょう。

ロア・アドバタイジング事件(東京地裁平成24年7月27日・労判1059号26頁)

【事案の概要】

Y社は、昭和45年8月に設立され、広告製作、広告代理業等を事業内容とする会社である。

Xは、平成20年1月にY社に入社し、その後、企画営業部部長となったが、仕入超過取引に伴う個人的利益享受が疑われ、企画営業部部長代理に降格され、その頃にうつ病を発症し、休職状態となり、22年9月、自主退職した。

Xは、Y社に対し、未払割増賃金(時間外・休日)および遅延損害金ならびに付加金の支払いを求めた。

【裁判所の判断】

Y社に対して約1130万円の支払を命じた。

付加金として700万円を認めた。

【判例のポイント】

1 ・・・Xに対する本件賞与は、Y社給与規程11条に依拠してではなく、Y社代表者が諸般の事情を考慮して、その裁量により随意決定していたものであると認められ、そうだとすると、このようにして決定される賞与(的な金員)を「臨時に支払われた賃金」(労基法施行規則21条4号)ないしは「一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金」(同条5号)に当たるものとして、労基法37条1項所定の「通常の労働時間の賃金」から除外することは相当ではない。そうすると本件基礎賃金1の中には当然上記賞与部分も含まれることになり、したがって、本件請求期間1における単価は、本件年俸(最低800万円)を年間の本件所定労働時間数(160時間×12か月)で除すことにより算定すべきものと解される(なお菅野和夫著「労働法[第9版]」235頁参照)。

2 出張に伴う移動時間について、果たすべき別段の用務を命じられておらず、具体的な労務に従事していたと認めるに足る証拠がない場合には、労働時間に該当しない

3 納品物の運搬それ自体を出張の目的としている場合には、使用者の指揮命令下に置かれているものと評価することができるとして、労働時間に該当すると判断し、また、ツアー参加者の引率業務のサポートという具体的な労務の提供を伴っている場合には、労働時間に該当する

4 休日労働として行われた出張中の業務につき、場所的拘束性に乏しいうえ、当該業務の実施方法、時間配分等について直接的かつ具体的な指示等を欠いていた場合には、当該業務は労基法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」に該当する。休日労働が法定外休日であって所定労働時間の定めがなくても、同条項の趣旨を類推して「所定労働時間労働したもの」とみなされる

5 出張(事業場外労働)の前後に事業場内においても業務従事がなされた場合に、当該事業場外の労働が1日の所定労働時間の一部を用いて行われているときには、当該事業場内・外を併せて労基法38条の2第1項が適用されて「所定労働時間労働したもの」とみなされる

6 内勤業務が出張時の業務(事業場外労働)に付随する業務であるとみることができるときには、一連の業務に事業場内・外を併せて労基法38条の2第1項が適用され、他方、内勤業務が出張時の業務(事業場外労働)に付随してそれと一体のものとして行われたことを認めるに足りる証拠がないときには、当該内勤業務は別途通常の労働時間として把握計算されるべきであり、この場合の「労働時間」は労基法38条の2第1項にいう「みなし労働」と「内勤労働時間」を合算することにより算定される。

労働時間の解釈については、本件のように残業代請求事件でよく問題となります。

使用者の指揮命令下に置かれていたか否かという抽象的な規範だけではどのように解釈してよいのか迷ってしまうことも多々あると思います。

そのような場合には、本件裁判例のように過去の裁判例がどのような解釈をしているのかを調べてみると、何かのヒントになると思います。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間30(ジェイアール総研サービス事件)

おはようございます。

今日は、守衛の休憩・仮眠時間中の割増賃金等に関する最高裁判決を見てみましょう。

ジェイアール総研サービス事件(最高裁平成24年9月6日・労判1052号97頁)

【事案の概要】

Y社は、財団法人Aのビル管理等を目的等する会社であって、AからAの研究所における守衛業務を受託していた。

Xは、平成15年3月、Y社に嘱託社員として雇用され、同年4月には社員として総務部守衛室勤務を命じられた。

A研究所における守衛の業務は、守衛室において、受付、鍵の保管、火災報知器への対応、巡回、異常の有無の確認、門扉の施錠等のほか、地震や火災報知器の発報などに臨機に対応するものであった。

守衛の勤務は、一昼夜交代勤務で、休憩時間合計4時間、仮眠時間4時間であり、2人の守衛が交代で休憩・仮眠をとっていた。

Xは、平成17年1月18年12月までの間の休憩時間および仮眠時間が労働時間に当たると主張して、労働時間または労働基準法37条に基づき割増賃金等の支払を求めた。

これに対し、東京高裁は、休憩時間及び仮眠時間は、労基法上の労働時間に当たると判断した。

Y社は、これを不服として、上告・上告受理申立てをした。

【裁判所の判断】

上告棄却、上告受理申立て不受理

【判例のポイント】

労働時間24(ジェイアール総研サービス事件)参照。

以前、紹介した高裁判決が、最高裁でも維持されました。

会社側は、この判例に不満を言っても始まりません。

裁判になれば、このような判断が出ることを前提とした労務管理を行う必要があります。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間29(阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第3)事件)

おはようございます。

さて、今日は、国内・海外旅行添乗員の事業場外みなし時間制適用に関する高裁判決を見てみましょう。

阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第3)事件(東京高裁平成24年3月7日・労判1048号・26頁)

【事案の概要】

Y社は、募集型企画旅行において、主催旅行会社A社から添乗員の派遣依頼を受けて、登録型派遣添乗員に労働契約の申込みを行い、同契約を締結し、労働者を派遣するなどの業務を行う会社である。

Y社は、募集型企画旅行の登録型派遣添乗員として、Xらを雇用した。

Xらは、A社が作成した行程表に従って業務を遂行するとともに、実際の旅程結果について添乗員日報を作成して報告するように指示されていた。また、携帯電話が貸与されており、随時電源を入れておくように指示されていた。

Y社では、事業場外みなし労働時間制が採用されていた。

Xは、Y社に対し、(1)派遣添乗員には、労働基準法38条の2が定める事業場外労働のみなし制の適用はなく、法定労働時間を超える部分に対する割増賃金が支払われるべきである、(2)7日間連続して働いた場合には、最後の1日は休日出勤したものとして休日労働に対する割増賃金が支払われるべきであると主張し、未払時間外割増賃金、付加金等を求めた。

【裁判所の判断】

事業場外みなし労働時間制の適用を受ける場合にあたらない。

【判例のポイント】

1 この制度は、労働者が事業場外で行う労働で、使用者の具体的な指揮監督が及ばないため、使用者による労働時間の把握が困難であり、実労働時間の算定が困難な場合に対処するために、実際の労働時間にできるだけ近づけた便宜的な労働時間の算定方法を定めるものであり、その限りで使用者に課されている労働時間の把握・算定義務を免除するものと解される。
そして、使用者は、雇用契約上、労働者を自らの指揮命令の下に就労させることができ、かつ、労基法上、時間外労働に対する割増賃金支払義務を負う地位にあるのであるから、就労場所が事業場外であっても、原則として、労働者の労働時間を把握する義務を免れないのであり(労基法108条、同規則54条参照)、同法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」とは、当該業務の就労実態等の具体的事情を踏まえて、社会通念に従って判断すると、使用者の具体的な指揮監督が及ばないと評価され、客観的にみて労働時間を把握することが困難である例外的な場合をいうと解するのが相当である。
本通達は、事業場外労働でも「労働時間を算定し難いとき」に当たらない場合についての、発出当時の社会状況を踏まえた例示であり、本件通達除外事例(1)(2)(3)に該当しない場合であっても、当該業務の就労実態等の具体的事情を踏まえ、社会通念に従って判断すれば、使用者の具体的な指揮監督が及びものと評価され、客観的にみて労働時間を把握・算定することが可能であると認められる場合には、事業場外労働時間のみなし制の適用はないというべきである

2 指示書等の記載は確定的なものではなく、合理的な理由による変更可能性を有するものというべきである。しかし、指示書等は、募集型企画旅行契約に基づき参加者に対して最終日程表に記載された旅行日程どおりの旅行サービスを提供する義務を負っている旅行主催会社である阪急交通社が、その義務を履行するために、添乗員に対して最終日程表に記載された旅行日程に沿った旅程管理をするよう業務指示を記載した文書であるものと認めるのが相当であって、上記変更可能性を有するからといって指示書等の添乗員に対する拘束力そのものが否定されるべきものではないことは明らかである。

3 ・・・そうすると、本件添乗業務においては、指示書等により旅行主催会社である阪急交通社から添乗員であるXに対し旅程管理に関する具体的な業務指示がなされ、Xは、これに基づいて業務を遂行する義務を負い、携帯電話を所持して常時電源を入れておくよう求められて、旅程管理上重要な問題が発生したときには、阪急交通社に報告し、個別の指示を受ける仕組みが整えられており、実際に遂行した業務内容について、添乗日報に、出発地、運送機関の発着地、観光地や観光施設、到着地についての出発時刻、到着時刻等を正確かつ詳細に記載して提出し報告することが義務付けられているものと認められ、このようなXの本件添乗業務の就労実態等の具体的事情を踏まえて、社会通念に従って判断すると、Xの本件添乗業務には阪急交通社の具体的な指揮監督が及んでいると認めるのが相当である

やはり適用範囲はかなり狭いですね。

むやみにみなし制度を使うとやけどしますので注意しましょう。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間28(阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第2)事件)

おはようございます。

今日は、海外旅行派遣添乗員の事業場外みなし時間制適用の可否に関する控訴審判決を見てみましょう。

阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第2)事件(東京高裁平成24年3月7日・労判1048号6頁)

【事案の概要】

Y社は、募集型企画旅行において、主催旅行会社A社から添乗員の派遣依頼を受けて、登録型派遣添乗員に労働契約の申込みを行い、同契約を締結し、労働者を派遣するなどの業務を行う会社である。

Y社は、フランス等への募集型企画旅行の登録型派遣添乗員として、Xを雇用した。日当は1万6000円であり、就業条件明示書には、労働時間を原則として午前8時から午後8時とする定めがあった。

Y社では、従業員代表との間で事業場外みなし労働時間制に関する協定書が作成されており、そこでは、派遣添乗員が事業場外において労働時間の算定が困難な添乗業務に従事した日については、休憩時間を除き、1日11時間労働したものとみなす旨の記載があった。

Xは、Y社に対し、未払時間外割増賃金、付加金等を求めた。

【裁判所の判断】

事業場外みなし労働時間制の適用を受ける場合にあたらない。

【判例のポイント】

1 この制度は、労働者が事業場外で行う労働で、使用者の具体的な指揮監督が及ばないため、使用者による労働時間の把握が困難であり、実労働時間の算定が困難な場合に対処するために、実際の労働時間にできるだけ近づけた便宜的な労働時間の算定方法を定めるものであり、その限りで使用者に課されている労働時間の把握・算定義務を免除するものと解される。
そして、使用者は、雇用契約上、労働者を自らの指揮命令の下に就労させることができ、かつ、労基法上、時間外労働に対する割増賃金支払義務を負う地位にあるのであるから、就労場所が事業場外であっても、原則として、労働者の労働時間を把握する義務を免れないのであり(労基法108条、同規則54条参照)、同法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」とは、当該業務の就労実態等の具体的事情を踏まえて、社会通念に従って判断すると、使用者の具体的な指揮監督が及ばないと評価され、客観的にみて労働時間を把握することが困難である例外的な場合をいうと解するのが相当である。
本通達は、事業場外労働でも「労働時間を算定し難いとき」に当たらない場合についての、発出当時の社会状況を踏まえた例示であり、本件通達除外事例(1)(2)(3)に該当しない場合であっても、当該業務の就労実態等の具体的事情を踏まえ、社会通念に従って判断すれば、使用者の具体的な指揮監督が及びものと評価され、客観的にみて労働時間を把握・算定することが可能であると認められる場合には、事業場外労働時間のみなし制の適用はないというべきである

2 ・・・そうすると、本件添乗業務においては、指示書等により旅行主催会社である阪急交通社から添乗員であるXに対し旅程管理に関する具体的な業務指示がなされ、Xは、これに基づいて業務を遂行する義務を負い、携帯電話を所持して常時電源を入れておくよう求められて、旅程管理上重要な問題が発生したときには、阪急交通社に報告し、個別の指示を受ける仕組みが整えられており、実際に遂行した業務内容について、添乗日報に、出発地、運送機関の発着地、観光地や観光施設、到着地についての出発時刻、到着時刻等を正確かつ詳細に記載して提出し報告することが義務付けられているものと認められ、このようなXの本件添乗業務の就労実態等の具体的事情を踏まえて、社会通念に従って判断すると、Xの本件添乗業務には阪急交通社の具体的な指揮監督が及んでいると認めるのが相当である

3 労基法32条の労働時間とは、労働者が使用者(本件では派遣先の阪急交通社。)の指揮命令下に置かれている時間をいい(最高裁平成12年3月9日判決)、労働者が実作業に従事していない時間であっても、労働契約上の役務の提供を義務付けられていると評価される場合には、使用者の指揮命令下に置かれているものであって、当該時間に労働者が労働から離れることを保証されていて初めて、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないものと評価することができると解するのが相当である(最高裁平成14年2月28日判決)。
本件添乗業務の内容によれば、添乗員は、実際にツアー参加者に対する説明、案内等の実作業に従事している時間はもちろん、実作業に従事していない時間であっても、ツアー参加者から質問、要望等のあることが予想される状況下にある時間については、ツアー参加者からの質問、要望等に対応できるようにしていることが労働契約上求められているのであるから、そのような時間については、労働契約上の役務の提供を義務付けられているものであって、労働からの解放が保障されておらず、労基法上の労働時間に含まれると解するのが相当である

なかなか厳しい判断ですが、裁判所の判断傾向からすれば驚く話ではありません。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間27(阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第1)事件)

おはようございます。

さて、今日から、3回連続で、派遣添乗員の労働時間算定に関する高裁判決を見ていきます。

今日は、国内旅行派遣添乗員の事業場外みなし時間制適用の可否に関する控訴審判決を見てみましょう。

阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第1)事件(東京高裁平成23年9月14日・労判1036号14頁)

【事案の概要】

Y社は、旅行その他旅行関連事業を行うことを等を業とする会社である。

Xは、Y社の派遣添乗員として、阪急交通社に派遣され、同社の国内旅行添乗業務に従事している。

Y社では、派遣添乗員につき、事業場外みなし労働時間制が採用されている。

Xは、Y社に対し、未払時間外割増賃金、付加金等を求めた。

【裁判所の判断】

事業場外みなし労働時間制の適用を受ける場合にはあたらない。

【判例のポイント】

1 事業場外みなし労働時間制は、使用者の指揮監督の及ばない事業場外労働については使用者の労働時間の把握が困難であり、実労働時間の算定に支障が生ずるという問題に対処し、労基法の労働時間規制における実績原則の下で、実際の労働時間にできるだけ近づけた現実的な算定方法を定めるものであり、その限りで労基法上使用者に課されている労働時間の把握・算定義務を免除するものということができる
そして、使用者は、雇用契約上従業員を自らの指揮命令の下に就労させることができ、かつ、労基法上時間外労働に対する割増賃金支払義務を負う地位にあるのであるから、就労場所が事業場外であっても、原則として、従業員の労働時間を把握する義務があるのであり、労基法38条の2第1項にいう「労働時間を算定し難いとき」とは、就労実態等の具体的事情を踏まえ、社会通念に従い、客観的にみて労働時間を把握することが困難であり、使用者の具体的な指揮監督が及ばないと評価される場合をいうものと解すべきこと及び旧労働省の通知が発出当時の社会状況を踏まえた「労働時間を算定し難いとき」の例示であることは、原判決の判示するとおりである

2 確かに、使用者の指揮監督が及んでいなくとも、従業員の自己申告に依拠した労働時間の算定が可能な限りは「労働時間を算定し難いとき」に当たらないというのであれば、「労働時間を算定し難いとき」はほとんど想定することができず、事業場外みなし労働時間制が定められた趣旨に反するというべきである。しかし、本件で問題となっているのは、自己申告に全面的に依拠した労働時間の算定ではなく、社会通念上、事業場外の業務遂行に使用者の指揮監督が及んでいると解される場合に、補充的に従業員の自己申告を利用して労働時間が算定されるときであっても、従業員の自己申告が考慮される限り、「労働時間を算定し難いとき」に当たると解すべきかということであり、事業場外みなし労働時間制の趣旨に照らすと、使用者の指揮監督が及んでいるのであれば、労働時間を算定するために補充的に自己申告を利用する必要があったとしてもそれだけで直ちに「労働時間を算定し難いとき」に当たると解することはできず、当該自己申告の態様も含めて考慮し、「労働時間を算定し難いとき」に当たるか否かが判断されなければならない

3 添乗員による行程管理が指示書の記載に捕らわれず、その場の事情に応じた臨機応変なものであることを要求されるという意味では、添乗員の行程管理がその裁量に任されている部分があるといえるとしても、添乗員の裁量はその限りのものであって、そのような裁量があることを理由に添乗員が添乗業務に関する阪急交通社の指揮監督を離脱しているということはできない。また、添乗日報は、添乗員が指示書により指示された行程を実際に管理した際の状況を記載して報告した文書であり、一部に記載漏れや他の記載との若干の齟齬はみとめられるものの、その記載は詳細であって、事実と異なる記載がされ、あるいは事実に基づかないいい加減な記載がされているというような事実は認められない。なお、指示書の記載と異なる点が多くある理由は前記のとおりであって、指示書の記載と異なる点が多いからといって、添乗日報の記載の信用性は減殺されない。
・・・添乗員の行程管理については多くの現認者が存在しており、添乗日報の到着時刻や出発時刻について虚偽の記載をすればそれが発覚するリスクは大きく、その点も添乗日報の記載の信用性を高める状況の一つということができる。そして、現に、Xが作成した本件各ツアーに係る添乗日報の信用性を疑うべき事情は何ら認められない。

4 ・・・社会通念上、添乗業務は指示書による阪急交通社の指揮監督の下で行われるもので、Y社は、阪急交通社の指示による行程を記録した添乗日報の記載を補充的に利用して、添乗員の労働時間を算定することが可能であると認められ、添乗業務は、その労働時間を算定し難い業務には当たらないと解するのが相当である

上記判例のポイント1、2の規範はしっかり押さえておきましょう。

かなり適用範囲は狭いので注意が必要です。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間26(ドワンゴ事件)

おはようございます。

今日は、専門型裁量労働制に関する裁判例を見てみましょう。

ドワンゴ事件(京都地裁平成18年5月29日・労判920号57頁)

【事案の概要】

Y社は、コンピュータ及びその周辺機器、ソフトウェア製品の企画、開発、製造、販売、輸出入及び賃貸などを業務内容とする会社である。

Xは、平成15年9月、Y社との間で雇用契約を締結し、平成16年7月、退職した。

Xは、Y社に対し、未払い残業代を請求した。

Y社は、専門型裁量労働制が適用されると主張した。

【裁判所の判断】

専門型裁量労働制の適用はない。

【判例のポイント】

1 専門型裁量労働制について、労基法38条の3第1項は事業場の過半数組織労働組合ないし過半数代表者の同意(協定)を必要とすることで当該専門型裁量労働制の内容の妥当性を担保しているところ、当事者間で定めた専門型裁量労働制に係る合意が効力を有するためには、同協定が要件とされた趣旨からして少なくとも、使用者が当該事業場の過半数組織労働組合ないし過半数代表者との間での専門型裁量労働制に係る書面による協定を締結しなければならないと解するのが相当である。また、それを行政官庁に届け出なければならない(労基法38条の3第2項、同法38条の3第3項)。
同条項の規定からすると、同適用の単位は事業場毎とされていることは明らかである。ここでいう事業場とは「工場、事務所、店舗等のように一定の場所において、相関連する組織の基で業として継続的に行われる作業の一体が行われている場」と解するのが相当である。
Y社の大阪開発部は、その組織、場所からすると、Y社の本社(本件裁量労働協定及び同協定を届出た労働基準監督署に対応する事業場)とは別個の事業所というべきであるところ、本件裁量労働協定はY社の本社の労働者の過半数の代表者と締結されたもので、また、その届出も本社に対応する中央労働基準監督署に届けられたものであって、大阪開発部を単位として専門型裁量労働制に関する協定された労働協定はなく、また、同開発部に対応する労働基準監督署に同協定が届け出られたこともない。そうすると、本件裁量労働協定は効力を有しないとするのが相当であって、それに相反するY社の主張は理由がない。
そうすると、Xに対しての裁量労働制の適用がない。したがって、Y社は、Xに時間外労働や休日労働があれば、それに応じた賃金をXに支払うべき義務を負っているというべきである。

2 Y社は、Xが深夜労働の申告承認の手続をとっていなかったため、同人の深夜労働に係る割増賃金支払義務を負っていない旨主張する。しかし、Y社は、Y社のタイムカードの記載からXが深夜に労働をしていたことを認識することができ、実際にもXが上記認定した範囲で深夜労働をしていたことからすると、上記手続の成否は深夜労働に係る割増賃金請求権の成否に影響を与えないものというべきである。そうすると、Y社の上記主張は理由がない

裁量労働時間制に関する珍しい裁判例ですが、内容としては形式的な要件をみたしていないからダメよ、という話だけです。

上記判例のポイント2については、よくあるパターンですね。

残業に関して許可制を採用し、仮に従業員が許可をとらずに残業をしていたとしても、会社が、従業員の残業を認識し得た場合には、このような結論となります。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。

労働時間25(エーディーディー事件)

おはようございます。

今日は、専門業務型裁量労働制に関する裁判例を見てみましょう。

エーディーディー事件(京都地裁平成23年10月31日・労判1041号49頁)

【事案の概要】

Y社は、コンピュータシステムおよびプログラムの企画、設計、開発、販売、受託等を主な業務とする会社である。

Xは、Y社の立ち上げのときに誘われ、平成13年5月の成立当初から従業員であった。

Y社では、システムエンジニアについて専門業務型裁量労働制を採用することとし、平成15年5月、労働者の代表者としてXとの間で、書面による協定を締結し、そのときは労基署に届出をしたが、それ以降は届出をしていない。

協定によれば、対象労働者はシステムエンジニアとしてシステム開発の業務に従事する者とし、みなし労働時間を1日8時間とするものである。

Y社においては、平成20年9月に組織変更があり、その頃から、カスタマイズ業務について不具合が生じることが多くなり、その下人はXやXのチームのメンバーのミスであることが多かった。Xは、上司から叱責されることが続き、自責の念に駆られるなどして医院で受診したところ、「うつ病」と診断されたため、平成21年3月に退職した。

なお、Xは、うつ病について労災を申請し、労災認定され休業補償給付がされた。

Y社は、Xに対して、業務の不適切実施、業務未達などを理由に2034万余円の損害賠償請求訴訟を提起した。

これに対し、Xは、Y社に対し、未払時間外手当および付加金の支払等を求めて反訴した。

【裁判所の判断】

Y社のXに対する損害賠償請求は棄却

Y社に対し約570万円の未払残業代の支払を命じた。

Y社に対し同額の付加金の支払を命じた。

【判例のポイント】

1 専門業務型裁量労働制とは、業務の性質上その遂行方法を労働者の裁量に委ねる必要があるものについて、実際に働いた時間ではなく、労使協定等で定められた時間によって労働時間を算定する制度である。その対象業務として、労働基準法38条の3、同法施行規則24条の2の2第2項2号において、「情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であってプログラムの設計の基本となるものをいう。)の分析又は設計の業務」が挙げられている。そして、「情報処理システムの分析又は設計の業務」とは、(1)ニーズの把握、ユーザーの業務分析等に基づいた最適な業務処理方法の決定及びその方法に適合する機種の選定、(2)入出力設計、処理手順の設計等のアプリケーション・システムの設計、機械構成の細部の決定、ソフトウェアの決定等、(3)システム稼動後のシステムの評価、問題点の発見、その解決のための改善等の業務をいうと解されており、プログラミングについては、その性質上、裁量性の高い業務ではないので、専門業務型裁量労働制の対象業務に含まれないと解される。営業が専門業務型裁量労働制に含まれないことはもちろんである。

2 Y社は、Xについて、情報処理システムの分析又は設計の業務に携わっており、専門業務型裁量労働制の業務に該当する旨主張する。
確かに、Xにおいては、A社からの発注を受けて、カスタマイズ業務を中心に職務をしていたということはできる。
しかしながら、本来プログラムの分析又は設計業務について裁量労働制が許容されるのは、システム設計というものが、システム全体を設計する技術者にとって、どこから手をつけ、どのように進行させるのかにつき裁量性が認められるからであると解される。しかるに、A社は、下請であるXに対し、システム設計の一部しか発注していないのであり、しかもその業務につきかなりタイトな納期を設定していたことからすると、下請にて業務に従事する者にとっては、裁量労働制が適用されるべき業務遂行の裁量性はかなりなくなっていたということができる。また、Y社において、Xに対し専門業務型裁量労働制に含まれないプログラミング業務につき未達が生じるほどのノルマを課していたことは、Xがそれを損害として請求していることからも明らかである。さらに、Xは、部長からA社の業務の掘り起こしをするように指示を受けて、A社を訪問し、もっと発注してほしいという依頼をしており、営業活動にも従事していたということができる
以上からすると、Xが行っていた業務は、労働基準法38条の3、同法施行規則24条の2の2第2項2号にいう「情報処理システムの分析又は設計の業務」であったということはできず、専門業務型裁量労働制の要件を満たしていると認めることはできない。

3 時間外手当の額について検討するに、平成20年5月以降は、タイムカードを廃止し、それ以前のものは廃棄しているので、Xの労働時間を証する客観的な証拠は存在しない。
Xは、平成20年10月以降の作業日報とそれに基づく労働時間表を提出する。この期間の作業日報は具体的なものであって、Xはそれに記載された労働時間につき労働したものと認めることができる
Xは、平成20年10月1日以前については、上記期間の平均労働時間の80%に相当する時間外労働をしていたと推定しているところ、上記認定のXの業務内容や労働災害認定においても毎月80時間を超える時間外労働があったと認定されていることなどからすると、この推定は一定の合理性を有しているということができ、X主張のとおりの時間外労働時間を認めることができる

上記判例のポイント1には注意が必要です。

入口部分で負けると割増賃金がどえらいことになります。

労働時間に関する考え方は、裁判例をよく知っておかないとあとでえらいことになります。事前に必ず顧問弁護士に相談することをおすすめいたします。