Category Archives: 解雇

解雇435 出社義務の不履行を理由とする解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れ様でした。

今日は、出社義務の不履行を理由とする解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

セールスフォース・ジャパン事件(東京地裁令和7年1月15日・労判ジャーナル160号50頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結して就労したが、解雇されたXが、Y社に対し、本件解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当でなく無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、労働契約に基づき、未払賃金等の支払と求めるとともに、上記解雇が不法行為を構成し精神的苦痛を被ったと主張して、不法行為に基づき、慰謝料160万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、Xが本件雇用契約上、出社義務を負っており、その不履行のみでも本件解雇の合理的かつ社会通念上相当な理由となる旨主張するところ、出社義務の不履行については、その出社回数、履行状況に加え、メールや書面などを通じ、複数回にわたり改善が求められていたにもかかわらず改善しなかったこと、また、出社していないことによって、Xの業務に関連する複数の人物から多数の懸念点が示されていたことに照らし、その程度が著しいというべきであり、上記不履行の程度に加え、Xは、いわば即戦力として採用されたものであり、その職務経歴経験等を活かした業務遂行が期待され、このことはX自身認識するところでもあり、変動賞与等とは別に基本給(年間)約1400万円との待遇も受けていたことを踏まえれば、本件解雇には、客観的合理的な理由があり、また、社会通念上も相当であるというべきであるから、本件解雇は有効である。

つまり、出社義務の不履行のみで解雇できるわけではない、ということです。

裁判例の結論部分だけを抜き出して、対応を誤らないように気を付けましょう。

日頃から労務管理については、顧問弁護士に相談しながら行うことが大切です。

解雇434 中途採用者の試用期間中の解雇の適法性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間がんばりましょう!

今日は、中途採用者の試用期間中の解雇の適法性に関する裁判例を見ていきましょう。

北野嘉哉事務所事件(東京地裁令和7年6月13日・労判1338号55頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結していたXが、Y社に対し、Y社による解雇は無効であると主張して、〈1〉労働契約上の地位確認、〈2〉民法536条2項に基づく解雇後の賃金(月額83万3333円)の支払、〈3〉解雇前の未払賃金42万5927円の支払をそれぞれ求める事案である(遅延損害金は、月額賃金の支払日の翌日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による。)。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 Y社は、Xに対し、30万円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、Xに対し、令和5年9月以降、本判決確定の日まで、毎月25日限り、66万6666円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、Y社の営業社員には、これまでの職歴等から、既に富裕層の人脈を持ち、さらなる人脈形成が得意な者であることを求めていたところ、Xは、本件名簿を提出して、掲載者と信頼関係があり、営業をかけることができる旨述べたが、実際はそのほとんどが知人ではなく、Xには超富裕層を紹介できる人物との人脈などないことが判明したから、留保解約権の行使には合理的理由がある旨主張する。
そこで検討するに、Y社の事業内容、営業社員の業務内容、求人広告の記載内容及びXの履歴書の記載を総合すれば、Y社は、Xを含む中途採用する営業社員に対し、従前の職歴を生かす等して、富裕層との繋がりを有する人物に接触しての営業活動を期待していたことが認められる。
しかしながら、Xは、二次面接において、本件名簿に掲載された者に対し積極的なアプローチをしていく旨述べているものの、本件名簿の掲載者との関係についてどのような説明をしていたかは、本件全証拠によっても明らかではない
また、Y社代表者は、Xが実際に知人に営業資料を渡したことを確認した後に二次面接を実施した一方で、二次面接においては、本件名簿の掲載者に営業を行うことができるかという質問をするものの、掲載者とXとの人的関係については確認していない
以上によれば、Xが、本件名簿の掲載者との間に人的関係がある旨の説明をしたと認めるには足りないし、Y社にとっても、Xと本件名簿の掲載者との人的関係の存在及び内容が、本件労働契約を締結する上で必要な条件であったとも認められない
そうすると、Xが富裕層との折衝経験を持っていなかった又は富裕層の人脈を持っていなかったとしても、そのことをもって、「従業員として勤務させることが不適格」(就業規則4条2項)であったり、「業務に適性を欠く」(本件労働契約・2条2項2号)ということはできず、留保解約権行使の客観的合理的理由ということはできない。

バックペイの金額を考えると、被告会社としては、手痛い判決内容かと思います。

被告会社の求める内容は理解できるところですが、解雇事由として、従業員としての適格性を欠くといえるためには、もう少し厳密に特定しておく必要があったということなのでしょう。

実際はなかなか難しいと思いますが。

日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。

解雇433 解雇無効判決後の自宅待機命令の違法性等(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 

今日は、解雇無効判決後の自宅待機命令の違法性等に関する裁判例を見ていきましょう。

西日本総合保険事件(福岡高裁令和6年6月25日・労判1337号79頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結したXが、Y社に対して、〈1〉雇用契約に基づき令和4年7月分から同年10月までの各月の未払賃金+遅延損害金の支払、〈2〉雇用契約に基づき令和4年11月から雇用契約終了までの間、毎月25日限り16万8000円の賃金+遅延損害金の支払、〈3〉雇用契約に基づき令和2年4月分から雇用契約終了までの間、毎月25日限り図書カードNEXT1000円分の交付、〈4〉賞与に係る期待権侵害(債務不履行又は不法行為)に基づき令和2年12月から雇用契約終了までの間の賞与相当損害金+遅延損害金の支払、〈5〉違法な自宅待機命令等(不法行為)に基づき慰謝料等及び同割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は、上記〈2〉、〈3〉、〈4〉のうち、判決確定日の翌日以降に履行期が到来する部分について、将来請求に係るもので訴えの利益がないとして訴えを却下し、上記〈4〉のうち、令和2年12月から令和3年12月までのものについて訴訟上の信義則に反し不適法であるとして訴えを却下し、上記〈1〉の請求を認容し、その余の上記〈2〉のうち令和4年11月から令和5年1月までの賃金の一部及び遅延損害金の支払並びに同年2月から判決確定までの間の月額賃金16万8000円及び遅延損害金の支払を認容し、その余を棄却し、その余の上記〈3〉、〈4〉の請求及び上記〈5〉の請求はいずれも理由がないとして棄却した。

【裁判所の判断】

1 本件控訴及び附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。
(1) 本件訴えのうち、本判決確定の日の翌日から毎月25日限り16万8000円及びこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員の支払を求める部分、本判決確定の日の翌日から毎月25日限り図書カードNEXT1000円分の交付を求める部分、令和2年12月25日、令和3年6月25日及び同年12月25日限り各10万8550円並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員の支払を求める部分、本判決確定の日の翌日から毎年6月25日及び12月25日限り各10万8550円並びにこれらに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員の支払を求める部分をいずれも却下する。
(2) Y社は、Xに対し、本判決別紙未払賃金一覧表の「未払賃金額」欄記載の各金員+遅延損害金を支払え。
(3) Y社は、Xに対し、令和6年4月から本判決確定の日までの間、毎月25日限り16万8000円+遅延損害金を支払え。
(4) Y社は、Xに対し、55万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 当裁判所も、本件自宅待機命令は、当初は業務上の必要性があり、Y社に対する不法行為を構成するものではなかったと判断する。
しかしながら、Y社は、もともと令和4年7月中にはXに復職後の担当業務を伝える予定であったものであり、にもかかわらず令和5年6月30日時点で本件自宅待機命令は1年にも及んでいるもので、上記の事情があることを考慮しても、Y社としては、同日までには検討を済ませ、Xを復職させていて然るべきであったといわざるを得ない。
したがって、本件自宅待機命令は、令和5年7月1日をもって、業務上の必要性を欠く違法なものとなっており、Xの雇用契約上の地位を脅かし、その人格権を侵害するものとして不法行為を構成するに至っているといわざるを得ない。

2 本件自宅待機命令が不法行為に転化した令和5年7月1日以降、Y社は月額16万8000円の賃金を支払い続けていることなども総合考慮すると、令和5年7月以降、Xが本件自宅待機命令により被った精神的損害に対する慰謝料としては50万円が相当と判断する。また、弁護士費用としては5万円を認めるのが相当である。

業務上の必要性を欠く自宅待機命令は、仮に賃金を支払い続けていたとしても、不法行為となり得ますのでご注意ください。

日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。

解雇432 調査協力指示違反等を理由とする普通解雇が有効された事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 

今日は、調査協力指示違反等を理由とする普通解雇が有効された事案を見ていきましょう。

X社事件(東京地裁令和7年2月7日・労経速2589号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され特定有料老人ホームの施設長等を務めていたXが、Y社に対し、雇用契約に基づき、①令和3年4月16日付でした同年5月30日をもって普通解雇する旨の意思表示が無効であると主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、②本件解雇前に支払われた令和3年4月分及び同年5月分の給与につき、されるべきであった昇給がされなかったと主張して、支払われた賃金と昇給後の賃金との差額1万円(各月5000円)+遅延損害金の支払、③民法536条2項に基づき、本件解雇後の賃金(令和3年6月分から本判決確定まで。ただし令和3年から令和6年まで毎年4月に月額5000円の定期昇給がされたとした場合の賃金額。)及び賞与(令和3年夏季から令和5年冬季)+遅延損害金の支払を、それぞれ求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xの上記各業務命令違反行為のうち、特に本件調査協力指示違反については、Y社の従業員に対する安全配慮義務の履行を困難にするものと言わざるを得ず、企業秩序の維持に重大な影響を与えたといえる。また、本件立入禁止命令違反についても、これまで良好な関係を維持していた重要な取引先である本件医療法人及びXグループとの関係を破壊しかねないものであり、実際、Y社が、本件病院から、口頭での叱責にとどまらず、院長名義の書面での抗議を受けたことからしても、その影響が小さいとはいえない。
したがって、違反の程度が軽度であるとは到底いうことができない

2 また、Xは、Y社から本件訪問1に係る報告書の提出を求められた際、B専務に対し、激しい口調で「よくこういうメールが来れるなと。報告書出せと。親分(判決注:A会長)のこと助けに行ったのが。」、「Aも守れない人たちだったら辞めたらどうですか。」と述べ、本件訪問1はA会長の妻であるDの依頼でA会長を助けたのであるから何ら問題はなく、むしろ報告書を出すように命令する社長やB専務がY社を辞めるべきである旨の発言をし、その後、報告書を求める理由(本件病院で混乱が生じたと聞いており、今後、本件訪問1について病院側から詳細な説明を求められた場合の対応として必要であること)を説明した上で出した2度にわたる提出命令に対しても、「報告書を提出するのであればDに提出する」などと独自の見解を述べてこれを拒否した。
また本件立入禁止命令のわずか3日後に本件訪問2を敢行し、その理由として、A会長の親族から「A会長が快適に療養生活を送れるよう、医師及び看護師の医療的ケアの及ばない精神的なケアをするように個人的に依頼」されたと回答し、「貴社がその内容をあれこれ詮索すべき範疇を超えていると考えられます。」として、Y社が本件訪問を制限する理由もなければ、報告を求める権限もないとの考えに固執し、全く歩み寄りの姿勢を見せることがなかった

3 さらに、本件調査に当たっても、Y社から、本件調査委員会が中立性及び公平性に配慮して組織されたこと、及びY社に安全配慮義務違反がなかったとの結論を得るためにはXによる事実・資料の提示が必要であることを説明され、協力を指示されたにもかかわらず、不公正な調査が行われているとの考えを変えることなく、本件調査委員会への協力を拒み、本件接触行為に至ったといえる。
このようなXの姿勢は、本件調査委員会による調査結果が出された後、Y社から、本件調査委員会の調査における言動やそれによってY社や役職員に与えた影響等について、どのように受け止めているかを回答するよう求められた際、「事前に関係者への接触については、株式会社Xより、禁止されていませんでした」、「お会いしてくれた方は自らの意思で応じてくれました。」、「私の言動が貴社や役職員へどのような影響を与えたのでしょうか。」と述べるなど、本件解雇に至るまで変わることがなかったと言わざるを得ない。
そうすると、Xは、今後も、Y社からの指揮命令に対し、自己の考えに固執し、歩み寄りをせず、これに従わない可能性が相当程度あると言わざるを得ない

4 さらに、Y社は、全従業員が60名程度の中小企業であり、東京本社(従業員8名程度)、本件秘書室、本件施設及び北海道A市にて営業する「グループホームX」で構成されているところ、Xが本件ハラスメント言動及び本件不適切言動をしたと認識している以上、Xを本件施設及び同様の介護施設である「グループホームX」に配置することはできず、本件秘書室も、本件病院が了承しないため、配属の可能性はない。そして、上記各業務命令違反はいずれも、Xを東京本社に配属し、社長及びB専務が上司として業務上の指揮命令を直接に及ぼす体制のもとにおいて生じたことからすれば、Xを配置可能な他の部署は見当たらず、配置転換によって解雇を回避することも困難であったと認められる。
そうすると、Y社において、今後も予想される、XがY社の指揮命令に従わないことによる業務上の支障を回避するために取り得る手段は乏しいものと評さざるを得ず、普通解雇という手段を選択することも、やむを得ないものであったと解される。

解雇事案においては、業務命令違反行為の悪質さのみならず、上記判例のポイント2、3のような視点も忘れないようにしましょう。

日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。 

解雇431 グループホームの従業員の懲戒解雇を有効した事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、グループホームの従業員の懲戒解雇を有効した事案について見ていきましょう。

社会福祉法人B会事件(千葉地裁令和7年3月21日・労経速2591号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社がした懲戒解雇は解雇権を濫用したもので無効である旨主張し、Y社に対し、以下の請求をするものである。
 (1) 労働契約上の権利を有する地位にあることの確認
 (2) 賃金請求権に基づき
 ア 解雇に先立つ自宅待機命令後の未払賃金として令和4年7月分及び8月分の合計50万4000円(月額25万2000円)の支払
 イ 解雇後の未払賃金として令和4年9月分から令和5年1月分の合計75万6000円(月額は25万2000円の6割)の支払
 ウ 上記ア、イの各支払日からの遅延損害金の支払
 エ 令和5年2月分以降の賃金として、令和5年3月から本判決確定の日まで、毎月25日限り25万2000円+遅延損害金の支払

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件では、Y社主張の懲戒解雇事由が認められるところ、Y社は、令和3年5月申立てに係る本件仮処分事件において、本件報告書により、勤務時間中の私的行為や食品の紛失を含むXの問題行動を指摘して、上記懲戒解雇事由に該当する行為について問題視していることを明確に伝えており、これに対して、Xは事実を認めなかったこと、令和3年10月の団体交渉に同様の指摘をするも、証拠を出すように求めて、事実を認めない態度に終始したこと、令和4年1月の団体交渉においても、同様の態度であって、「テレビを見たことはない」と明確に虚偽の回答をしたことが認められる。
Xは問題行動があることを再三指摘されながらこれがないと主張し、現認の上指摘されたことがあってもそれ自体を否定し、録画等の客観証拠の証拠がなければ指摘すること自体を名誉毀損であるとして相手を糾弾する態度に終始し、防犯カメラ映像が確認された後のXの対応を見ても、不合理な弁解を展開し、食事の試食やお菓子の持ち出しについてはI氏に責任を転嫁する方向に弁解を変遷させている。このようなXの対応を見ると、Xの基本的な姿勢につき指導・教育により改善をすることを期待し難く、短くない期間にわたって非違行為を継続してきたこと、この期に及んで反省をしていないことを踏まえると、本件懲戒解雇が重きに失するもので懲戒処分としての相当性を欠くものとはいえない。

懲戒解雇の相当性判断にあたっては、懲戒解雇事由に対する当該労働者の反省の態度の有無、弁解の不合理さ等も斟酌されますので、油断は禁物です。

懲戒解雇をする場合には事前に顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。

 

 

解雇430 解雇を争う労働者の他社での就労開始について、同社での試用期間が経過した時点で黙示の退職合意を認めた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、解雇を争う労働者の他社での就労開始について、同社での試用期間が経過した時点で黙示の退職合意を認めた事案について見ていきましょう。

フィリップ・ジャパン事件(東京高裁令和7年5月15日・労経速2587号3頁)

【事案の概要】

1 Xは、平成28年9月20日にパラリーガルとしてY社に雇用され、令和元年9月10日、司法試験に合格して司法修習のため休職し、令和3年2月1日に第一子を出産して、産前産後休業及び育児休業を取得し、同年5月1日にY社に復職して法務コンプライアンス部での業務に従事した。部長であったAは、同年7月頃から11月頃まで、Xに対し、業務改善計画(PIP)を実施し、人事本部長であるBとともに退職勧奨をしたが、Xがこれに応じなかったため、Y社は、同年12月13日、令和4年1月15日限りでXを解雇する旨の意思表示をした。Xは、本件解雇後、同年3月1日、C社に入社した。Y社は、その後、本件解雇を撤回したが、XがC社に入社した時点でY社に対する就労意思を喪失し、黙示の退職合意が成立したと主張し、Xは、これを争い、就労意思を喪失したのは令和6年1月31日である旨主張している。
本件は、Xが、Y社に対し、雇用契約に基づき、①本件解雇後の和4年3月1日から本判決確定の日までの月例賃金請求として、毎月25日限り月額51万5300円(基本給41万2200円及びみなし勤務
手当10万3100円の合計額)+遅延損害金及び②和4年分及び令和5年分の賞与請求として、合計125万7835円+遅延損害金の各支払を求めるとともに、③A及びBによる退職勧奨及びそれに伴う各言動が違法であると主張して、A及びBについては民法709条に基づき、Y社については民法715条に基づき、慰謝料300万円+遅延損害金の連帯支払を求める事案である。

2 原審は、①の月例賃金請求について、Xにおいては第一子の保育園の入所資格を確保し自らの職歴を確保するとの観点から直ちに就職活動を行う必要性に迫られA社に就職したものであるから、A社に就職した時点でY社への就労意思が喪失したものとは認め難く、Xが就労意思の喪失を自認した令和6年1月31日をもって黙示の退職合意が成立したと認めた上、C社から賃金月額77万9200円が支払われ、XがC社において令和5年7月6日から令和6年8月まで産前産後休業及び育児休業を取得したことから、令和4年3月から令和5年6月までの賃金について毎月25日限り月額51万5300円の6割に相当する30万9180円及び同年7月1日から同月5日までの5日分の賃金について同月25日限り日割計算した賃金の6割に相当する4万9868円+遅延損害金の支払を求める限度で認容し、②の賞与請求について、支給を求め得る具体的な請求権として発生しているとは認められないとして棄却し、③の慰謝料請求について、1審被告丙川による退職勧奨は、PIP の評価結果を踏まえたXの能力や適格性の不足を理由とするものであり、不当な動機・目的の下で行われたと認めるに足りる証拠はない、A及びBの言動も、Xの退職に係る自由な意思決定を侵害する違法があったとは認められず、X個人の力量や人格を非難する趣旨で発言をしたとは認められないなどとして、Xの請求をいずれも棄却した。X及びY社は、これに対し、それぞれの敗訴部分を不服として控訴し、Xは、当審において、①の月例賃金請求の終期を令和5年7月5日までとして不服の範囲を限定した。

【裁判所の判断】

1 Y社の本件控訴に基づき、原判決主文第1項を次のとおり変更する。
2 Y社は、Xに対し、令和4年3月から同年8月まで毎月25日限り月額30万9180円+遅延損害金を支払え。
3 Xのその余の請求を棄却する。
4 Xの本件控訴を棄却する。

【判例のポイント】

1 C社においても、就職後6か月間は試用期間とされており、同期間中にXに社内弁護士としての職務能力があるとはいえないと評価された場合には解雇される可能性もあったから、同期間が終了するまでは、XがY社における就労意思を喪失したということはできない。しかし、C社での6か月間の試用期間中に解雇や解雇予告がされなかったということは、C社においてXは社内弁護士としての職務能力があると評価されたといえるから、その後は職務能力がないことを理由として解雇されるおそれは相当低下したといえる。そして、C社におけるXの雇用条件は、賃金月額77万9200円であるなど、Y社における雇用条件(月額51万5300円)と比較して明らかに好待遇であり、第二子の出産育児のために、産前産後休業及び育児休業も取得できた一方で、Y社においては、PIP の結果、社内弁護土としての能力をいていると評価され、後に撤回されたとはいえ、解雇までされたことを考慮すると、C社での試用期間が終了した時点において、XがC社をあえて退職してまでY社で就労する意思があったと認めることはできない
以上によれば、Xは、C社での試用期間が終了した令和4年8月31日時点においてY社への就労意思を喪失したと認めるのが相当であり、同日時点において、XとY社との間での黙示の退職合意が成立したというべきである。

原審の判断が、就労意思の喪失時期に関する近年の裁判所の判断の主流ですが、控訴審では、原審よりも当該時期を早める判断をしました。

事案の特殊性から、どこまで一般化できるか定かではありませんが、考え方としては参考になりますね。

日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。

解雇429 機密情報へのアクセス等を理由とした解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、機密情報へのアクセス等を理由とした解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

Velocity Global Japan事件(東京地裁令和6年9月25日・労判1330号69頁)

【事案の概要】

(1)Xは、解雇が無効であると主張し、Y社に対し、Y社との間の雇用契約に基づき、次の各請求をしている。
ア 雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認
イ 令和5年1月支払分の賃金及びこれに対する支払期日の翌日以降の法定利率による遅延損害金の支払
ウ 令和5年2月から判決確定日まで各月支払分の賃金及びこれらに対する各支払期日の翌日以降の法定利率による遅延損害金の支払
(2)Xは、Y社による解雇が不法行為に当たると主張し、Y社に対し、不法行為に基づき、損害賠償金及びこれに対する訴状送達の日の翌日以降の法定利率による遅延損害金の支払を請求している。

【裁判所の判断】

1 解雇無効

2 Y社は、Xに対し、75万2349円+遅延損害金を支払え

3 Y社は、Xに対し、令和5年2月から本判決確定の日まで、毎月末日限り50万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Y社は、本件解雇の事由として、XがY社の顧客であるA社のサーバー内の資料にアクセスし、当該資料に記録された情報を業務以外の目的で使用しようとしたとして、このXの行為は就業規則49条12号及び13号に該当する懲戒事由であると主張する。
しかし、Xがアクセスした資料に記録された情報を業務以外の目的で使用しようとしたと認めるに足りる証拠はない

2 Y社は、Xがその業務との関係でアクセスを許されているのは原則として日本市場における治験業務関連の資料のみであり、それ以外の資料については業務との関連が薄いと主張する。
しかし、Xは、A社の日本における既存顧客及び新規顧客に対する営業活動を担っていたのであって、将来の顧客の要望に備えてA社の業務に関する幅広い知識を得ることは業務の一環といえる。実際に、顧客の要望に応じて説明や資料提供をする対象事項は治験部門に限られていなかったと認められる。そうすると、Xがアクセスした資料については、治験部門以外のものを含めて、Xの業務との関連が薄いとは認められない

社内規程等でアクセス権限が明確化されていない場合、業務目的か否かは解釈になってしまいます。

日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。

解雇428 経歴詐称等を理由とする解雇が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、経歴詐称等を理由とする解雇が認められた事案を見ていきましょう。

Aston Martin Japan事件(東京地裁令和6年11月27日・労判ジャーナル159号48頁)

【事案の概要】

本件は、イギリスに本社を置く自動車メーカーの日本法人であるY社との間で期間の定めのない雇用契約を締結した元従業員Xが、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認及び未払賃金等の支払、Y社がした解雇は無効であり、不法行為に当たるとして、これによる精神的苦痛に相当する200万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

損害賠償請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、本件解雇の理由として、Xが、〔1)英国籍であるにもかかわらず日本国籍であると偽ったこと、〔2〕前職における年間給与総額が約600万円にすぎないのに約700万円であると述べたこと、〔3〕経歴書に前職における地位(役職)が「デジタルプロジェクトマネージャー」であると記載したこと、〔4〕前職において秘密情報の持出しを行ったにもかかわらず、その事実を否認する本件誓約書を提出したことを主張するが、いずれも就業規則所定の解雇事由に該当すると評価することはできないか、仮に該当すると評価するとしても、これらをもって直ちに解雇につながる事由であるとはいえないから、本件解雇は客観的に合理的な理由があるということはできず、また、Y社がXを即日解雇とした時点においては、Xの経歴詐称や前職における情報の持出しを疑っていたにすぎない段階であり、Xに対してY社のかかる疑念を明示的に説明した上でその言い分を聴取するなどの手続も経ていないことや、Y社による書類の追加提出の求めに対し、その対応に不誠実な点があったとは認められないこと等を踏まえると、本件解雇が社会通念上相当であると認めることはできない。

2 Xは、本件解雇及び本件予備的解雇は不法行為であり、これにより精神的苦痛を受けたと主張するが、本件解雇及び本件予備的解雇は無効であるものの、解雇手続が別途Xに対する不法行為となるほどの違法性があるとは認められず、またXには賃金請求が認められることからすると、Xにおいてさらに填補すべき損害があるとは認めることができないから、Xの損害賠償請求は理由がない。

解雇に至る手続の履践が不十分であったことが敗因の1つとされています。

解雇をする際は、事前に顧問弁護士に相談をするようにしましょう。

解雇427 パソコンの私的利用等を理由とした解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、パソコンの私的利用等を理由とした解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

明和住販流通センター事件(東京地裁令和6年3月21日・労判1330号39頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結し従業員として勤務していたXが、Y社から令和4年8月30日付けで懲戒処分として降給降格されたこと、同年9月27日付けで普通解雇されたことについて、いずれも無効である旨主張して、Y社に対し、〈1〉労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、〈2〉本件降給降格処分前のクラス及び賃金を受ける地位にあることの確認、〈3〉平成29年法律第44号による改正前の民法536条2項に基づき本件解雇以降の賃金として令和4年11月以降月額33万4640円(本件降給降格処分前の時短調整後の金額。ただし、解雇予告手当37万8110円及び令和4年10月支払分の7万0160円を賃金として同月分及び同年11月分に充当してその残額を請求)及び同年12月及び同年7月の賞与各33万4640円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

1 Xが、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 Y社は、Xに対し、令和4年12月25日限り20万6530円及び令和5年1月から本判決確定の日まで、毎月25日限り、月額29万2320円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Y社は、Xが令和4年6月から8月までの間に、毎月300時間から600時間程度業務に関係なく私的にパソコンを使用していた旨主張し、証拠によって裏付けられる旨主張する。
しかしながら、上記主張は、Xが所定労働時間の数倍に及ぶ時間についてパソコンを私的に閲覧していたというものであり、現実的にあり得ない荒唐無稽な主張である。また、上記証拠については、その時間数からしても、パソコンで画面を表示した時間数が表示され、同時に表示している場合は重複した時間数が計上されているものと推認できる上、Y社が主張するものが真に業務に関係ない画面であるか否かも判然としない。したがって、上記証拠をY社が主張する上記事実を認定するための証拠として採用することはできず、他にY社主張の上記事実を認めるに足りる証拠はない。
また、仮に、Xが業務に関係ないことをしていたのであれば、Y社としては、注意指導をしてこれを改善させるべきであるところ、こうした事実を認めるに足りる証拠はないし、Xの担当業務が著しく滞っていたといった事実を認めるに足りる証拠もない。

2 Y社は、Xが他の従業員とトラブルを起こすことや病気療養中のRクラスであることから、Xに対し入力作業等の単純作業を行うことを指示せざるを得ない状況であった旨、居眠りが多かった旨主張する。
しかしながら、そもそも、証拠によれば、Xは、Y社から、常に中位であるB以上の評価を受けていたことが認められるから、解雇事由に該当するような職務能力の欠如があったと認めることはできない。また、Xと他の従業員との関係については、解雇事由に該当するようなものとはいえないし、病気療養中であることについては、Rクラスに位置づけられ賃金等の面でもそれ相応のものになっていたわけであるから、Rクラスであることを職務能力の欠如を表す事情として主張することは暴論である。さらに、居眠りについては、投薬の影響であることや徐々になくなってきていたことが認められるし、Xの居眠りによって業務に重大な支障が生じていたことを認めるに足りる証拠もない。

上記判例のポイント1のような主張立証では、争う前から結論は見えています。

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解雇426 普通解雇事由の「労働能率が劣悪であるか、または勤務成績不良であると認めたとき」に該当し、普通解雇を有効とした事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、普通解雇事由の「労働能率が劣悪であるか、または勤務成績不良であると認めたとき」に該当し、普通解雇を有効とした事案を見ていきましょう。

東武ビルマネジメント事件(東京地裁令和6年12月20日・労経速2584号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結して建物の設備管理等の業務に従事していたXが、Y社に対し、Y社による普通解雇は無効であると主張して、〈1〉労働契約上の地位確認を求め、〈2〉解雇後の賃金として令和5年1月分の賃金2万2582円及び同年2月分から判決確定日まで賃金月額20万9890円並びにこれらに対する遅延損害金(賃金の支払期日の翌日から支払済みまで、民法所定の年3分の割合による。)の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 項目7、15、18は、XがY社からの電話連絡に応答しなかったものであり、項目19は、Xが懲戒処分書を交付するための待機指示に従わなかったものであるが、いずれも勤務時間外の指示であって、Xがこれらに従うべき義務があるとはいえないから、いずれも解雇理由とされるべき事実とはいえない。
項目14は、Xのルーフドレン清掃に十分とはいえない点があったとしても、清掃前と清掃後の写真を比較すると落ち葉の量は明らかに減っており、Xが側溝の清掃作業自体を怠ったとは認められないこと、XがY社から指導を受けたのは3回にとどまることからすれば、解雇理由とされるほどの事実であるとはいえない。
その他、指示に反して施設内を通過したこと(項目1)、施設内の鍵の閉め忘れ(項目2)、無断欠勤(項目7及び15)は、いずれも同種の事実が頻発していたとは認められず、清掃をしていない場所について清掃をしたと回答したこと(項目20)は、Xの思い違いによる可能性も否定できず、いずれも解雇理由とされるほどの事実であるとはいえない。

2 他方で、Xは、本件管理所に異動してから間もなく、ブレーカートリップの故障対応を命じられながら何もせず、Y社にはあたかも対応済みであるかのような報告をし(項目3)、その後も、オートドレンの触診による固着確認を横着して実施せず、これに起因して施設に漏水事故を生じさせ(項目6)、さらにその後、メモリハイコーダに一見して確認できる異常表示が生じていたにもかかわらず、異常なしとの報告をし(項目8)、その後も、施設の蛍光灯のソケ社ト部を損壊し、しかもその事実をY社に報告しなかった(項目9)。このようにXは、過誤にとどまらない、業務の不実施、報告の不実施又は虚偽報告を繰り返しており、いずれも委託者である施設に損害を生じさせる、又は施設のY社に対する信用を低下させる行為である。こうした事情は、指示に従って設備を正確に点検するという、設備員としての基本的な役割を果たす能力及び適正の著しい欠如を推認させるものである。
 また、施設で勤務する他社の従業員からは、Xの対応や応答に問題があるとの指摘がされ、業務から外すことの要請も受けている(項目4、10)。Y社が挨拶について繰り返し指導していたことと相まって、他の職員との間で的確に意思疎通をする能力の不足を推認させるものである。
そして、Y社はXについて、主に軽作業を実施させつつ、業務内容を日々確認することとしたが、それでもXは、作業日誌を責任者に提出して了解を得るよう指示を受けながら、了解を得ずに退勤し(項目12)、整理整頓作業に際し明確な作業内容の指示を受けながら、合理的理由なく指示と異なる整理をし(項目13)、令和3年11月に厳重注意を受けた後も、エレベーターで待機しての案内業務に際し待機中に眠り込んで案内業務ができず(項目16)、使用禁止とされている施設の設備を使用し(項目17)、排水先を図面で確認するよう指示を受けながら図面での確認をせず(項目21)、フェンスの内側からの確認指示を受けながら不十分な装備でフェンスの外側に行く(項目22)というように、これらが単なる注意力不足に起因するのかは不明であるが、本件監督所での勤務期間を通じて、Y社の指示に従った行動を取ることができていない。これらの事情は、重大とまではいえない事情も含むものの、総合的に観察すれば、今後の指導や注意によっても、前記で認定した問題点の改善が困難であることを推認させるものである。
以上検討したところによれば、Xの設備員としての能力及び適性は著しく欠如しており、今後の改善も期待できない。よって、Xは、就業規則15条1項の「労働能率が劣悪であるか、または勤務成績不良であると認めたとき」に該当するから、本件解雇には客観的合理的理由があるというべきである。

勤務成績不良、能力不足を理由とする普通解雇がいかに大変かがよくわかりますね。

忍耐力がないとできません。

日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。