Category Archives: 解雇

解雇210(野村證券事件)

おはようございます。

今日は、名誉等の毀損、顧客情報漏えいを理由とする懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

野村證券事件(東京地裁平成28年2月26日・労判1136号32頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結していたXが、Y社に対し、Y社による平成24年6月29日付け懲戒解雇は無効であると主張して、労働契約上の権利を有する地位の確認を求めるとともに、労働契約に基づき、平成24年7月1日から同月31日までの間の月例賃金の残金(116万7000円から解雇予告手当として支給された98万9500円を控除した17万7500円。)、同年8月1日以降の月例賃金及び平成25年以降の賞与+遅延損害金の各支払を求め、また、上記懲戒解雇がXに対する不法行為を構成すると主張して、民法709条に基づき、慰謝料1000万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

 Xが、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 Y社は、Xに対し、17万7500円+遅延損害金を支払え。
3 Y社は、Xに対し、平成24年8月以降、本判決確定の日まで、毎月10日限り116万7000円+遅延損害金を支払え。
4 Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 以上のとおり、Y社の主張する懲戒事由のうち、第1懲戒事由については、Y社が援用する就業規則42条11号及び20号所定の懲戒事由に該当するものとは認められないが、第2懲戒事由については、その一部(本件会話)が就業規則42条14号及び20号所定の懲戒事由に該当するものと認められる。
そこで、上記懲戒事由に基づいて懲戒解雇をすることが相当であると認められるか否かについて検討すると、次の事情を指摘することができる。
証拠によって認められる本件会話及びその前後の会話内容によれば、本件会話のうち、別紙(通話記録)のものは、XがBに対し、Y社の顧客に対して特定の銘柄の株式の購入を勧誘すべきか否かを相談する文脈でされたものであり、その余の会話は、XがBとの間で市場動向等について議論する文脈でされたものであると認められ、XとBが顧客情報の伝達それ自体を主たる目的として会話をしていたとは認められず、Xが情報提供の見返りに金銭その他の経済的利益を得ようとするなどの背信的な意図を有していたとも認められない
証拠によれば、本件会話のうち、別紙(通話記録)記載5ないし9の会話は、XがY社の情報端末を見ながら表示される顧客情報を次々に開示するというものであり、開示された顧客情報の内容も、取引金額を含む具体的なものと認められ、その態様及び内容に照らして軽視することのできない違反行為というべきであるが、これらの会話は1回の通話の機会に連続してされたものであり、このような態様及び内容の会話が複数の日に反復継続して行われたとまで認めるに足りる的確な証拠はない
・・・Y社がXに対し、本件懲戒解雇より前に顧客情報の漏えいについて注意、指導をし、あるいは訓戒、譴責等を含む懲戒処分をした旨の主張立証はない(Y社の就業規則には、懲戒解雇よりも軽い懲戒処分として、訓戒、譴責、減給、出勤停止、降格及び諭旨解雇が定められていることが認められる。)。
そして、Xは上記認定に係る顧客情報の漏えいをその所属する機関投資家営業二部の執務室において行っていたところ、同室の配席状況に照らすと、上記顧客情報の漏えいに係るXの発言は同室の上司及び同僚にも聞こえていたと考えられるのであり、それにもかかわらず、Xは、顧客情報の漏えいに当たる会話をしたとして注意や指導を受ける機会がないまま、突如として、懲戒処分の中で最も重い懲戒解雇処分を受けたものであった
Y社がXに対し、本件懲戒解雇に先立って、第2懲戒事由の具体的内容を開示してXの弁解を聴取する機会を設けた旨の主張立証はない。すなわち、Xは、第2懲戒事由との関係では、何ら弁解の機会を付与されることなく懲戒解雇処分を受けたものであった。
以上の事実関係の下において、本件会話を懲戒事由として、懲戒処分の中で最も重い懲戒解雇処分を行うことは、重きに失することが明らかというべきであり、また、本件懲戒解雇は、懲戒事由に該当すると認められる事実について弁解の機会を全く与えることなく行ったという点において、手続的にも妥当を欠くものであったといわざるを得ない。
したがって、本件懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認めることができず、懲戒権を濫用したものとして、無効であるというべきである。

2 本件懲戒解雇は無効であるが、懲戒解雇が無効であることから直ちに不法行為が成立するものではなく、別途、不法行為の成立要件を充足するか否かを検討すべきである。
ここで、Xには、第1懲戒事由に関連して、証券会社の営業に携わる者として著しく不適切な行為があったものといわざるを得ず、当該行為は、いかなる懲戒処分をもって相当とするかは別として、それ自体が懲戒事由に該当する可能性を否定できないものである。また、第2懲戒事由の一部(本件会話)については、複数の機会になされ、その中には複数の顧客の具体的な取引内容を次々に明らかにするものも含まれているのであって、懲戒事由に該当し、その情状も決して軽視することのできない違反行為というべきものである
・・・以上によれば、本件懲戒解雇が、社会的相当性を逸脱し、不法行為法上違法の評価を受けるものとまでは認めるに足りないというべきであるし、また、不法行為の成立要件である違法な権利侵害についての故意、過失のいずれについても認めるに足りないともいうべきである。したがって、原告の被告に対する損害賠償請求は、理由がないということになる。

相当性の要件で助けられています。

懲戒解雇はハードルが高いですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇209(医療法人社団Y事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、看護師らに対する不適切な言動等を理由とする医師に対する解雇が有効とされた裁判例を見てみましょう。

医療法人社団Y事件(東京高裁平成27年10月7日・判時2287号118頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結し、Y社が運営する病院に医師として勤務していたXが、①Y社に解雇されたが、当該解雇は解雇権の濫用で無効であると主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、②解雇後本判決確定の日まで毎月の未払給与の支払、③平成24年12月支給分の賞与+遅延損害金、④時間外割増賃金+遅延損害金、⑤付加金+遅延損害金、⑥Y社による解雇によって精神的苦痛を被ったなどと主張して、不法行為に基づき、損害賠償+遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は、Y社に対し、時間外割増賃金56万3380円+遅延損害金並びに付加金11万2334円+遅延損害金の各支払を命じ、その余の請求をいずれも棄却した。

【裁判所の判断】

控訴棄却

【判例のポイント】

1 Xは、自らの看護師に対する指示が曖昧ないし不適切なものであったにもかかわらず、これに従った看護師を叱責したり、申請書の記載に不備があってその訂正を求められていたにもかかわらず、申請どおりに処理しなかった担当社を厳しく責めるなど、自己の責任を顧みることなく、他人を責めたりしたこと、看護師や研修医を指導する立場にありながら、その指導において相手の人格を否定するような発言をしたり、有形力を行使するなど、指導の方法が不適切であったこと、また、看護学生や患者がいる場所で、看護師を怒鳴ったり、看護師と言い合うなど、看護学生や患者をいたずらに不安にさせ、Y社病院の信用を低下させるおそれのある行為をしたこと、そのため、看護師においてXに報告や指示内容の確認をするのをためらうといった状況を生み、良質な医療の提供の前提となる看護師との連携を著しく困難にさせ、業務遂行に大きな支障を生じさせたことが認められるのであり、このようなXの言動は、医療の提供というY社病院の中枢の業務の遂行を困難ならしめるものであり、就業規則に定める勧告退職事由である「職務上やむを得ない都合による場合」に該当するところ、Xは、退職届の提出を拒んだのであるから、就業規則に定める解雇事由である「退職届の提出を拒んだ場合」に該当すること、そして、本件解雇が客観的に合理性を欠き社会通念上相当性を欠くものということはできず、解雇権の濫用には当たらないことは、いずれも前記判断のとおりである。

2 本件雇用契約及び本件時間外規程に基づき、XとY社が、本件時間外規程に基づき支払われる時間外労働賃金及び当直手当以外の通常の時間外労働賃金については、年俸に含まれる旨を合意したものであり、上記合意に係る本件雇用契約及び本件時間外規程は有効と認めるのが相当である。

上記判例のポイント2は珍しい判断ですね。

固定残業制度に関するこれまでの判例の一般的な流れからは外れる判断のように見えます。

Xの職業や給与額が関係しているようですが、あくまで例外的な判断と位置付けるほうがよさそうです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇208(三菱重工業事件)

おはようございます。

今日は、現住所から通勤できる職場を求め復職を拒否した労働者に対する解雇が有効とした裁判例を見てみましょう。

三菱重工業事件(東京地裁平成28年1月26日・労経速2279号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され愛知県内の事業所で勤務していたXが、私傷病による欠勤の後、復職には同居の家族の支援が不可欠であるとして埼玉県内の現住所から通勤可能な場所での復職を求めたのに対し、Y社から原職場での復職を命じられたため出社を拒否したところ、解雇されたとして、Y社に対し、上記解雇が解雇権の濫用により無効であることに基づき、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、Y社から就労開始可能と判断された平成25年9月1日以後の給与として同年10月から本判決確定に至るまで、毎月20日限り22万3500円+遅延損害金を求めている事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却
→解雇は有効

【判例のポイント】

1 今回の復職命令の目的、性質の観点から検討すると、今回の復職命令は、再出勤審査会の答申を受け、Y社の職場復帰支援制度に基づき、第1段階として実施される短時間勤務であり、第2段階では短時間勤務中の出勤率及び職場での業務状況等を評価して再出勤(フルタイムの通常勤務)の可否を判定するものであり、その目的・性質からすると、当初の短時間勤務はできるだけ負荷をかけないためにも、周囲の理解やサポートを得るためにも原職場が望ましく、また、判定のためにも従前の勤務状況との比較が必要であり、原職場に復職することが望ましいこと、名古屋製作所の過去の実例でも、他の事業所に復職した社員はいないことに照らせば、Y社の職場復帰支援制度も原職場で短時間勤務を開始することを予定しているものと解される

2 Xは、復職には同居の家族による生活全般の支援が不可欠であるとして現住所から通勤可能な勤務場所を求めているが、業務内容や勤務時間等の就業上の配慮はともかくとして、Xの食事、選択、金銭管理等の生活全般の支援をどうするかは本来的に家族内部で検討・解決すべき課題である。これまでに名古屋製作所で実施された職場復帰支援による短時間勤務の実例でも、家族の方で同居するか頻繁に行き来するなどして私生活をサポートしている。しかも、本件でXが挙げる理由は、Xの実姉が働いているのでその子供らの世話を実母がしなければならず、これに伴いXも転居できないので現住所から通勤できる勤務地を求めるというものであり、家庭内の事情を優先した形で企業側に対応を求めている

3 以上から、Xが現住所から通勤可能な勤務地での復職を申し出ても、債務の本旨に従った労務の提供を申し出ているとはいえず、また、この申し出に対してY社が就労の現実的可能性のある業務を調査・検討すべき義務があるともいえず、Y社が原職場での復職を命じた復職命令は相当である。

リハビリ出勤における上記判例のポイント1の考え方は参考になりますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇207(学校法人杉森学園事件)

おはようございます。

今日は、勤怠不良等を理由とする整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人杉森学園事件(福岡地裁平成27年7月29日・労判1132号76頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の設置・運営するY高校におけるA科の教諭としてY社に雇用されていたXが、Y社に対し、Y社が平成25年3月31日付でXに対してした整理解雇は無効であると主張して、①雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、②本件解雇後の賃金+遅延損害金の支払いを求めるとともに、③本件解雇はXに対する不法行為に当たると主張して、民法709条に基づき損害賠償金合計330万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効→賃金支払

不法行為に基づく損害賠償請求は棄却

【判例のポイント】

1 平成25年3月末時点におけるY社の経営状態は、不採算部門の廃止等を通じた経営合理化が図られるべき状況にはあったものの、整理解雇による人件費削減等をしない限り、直ちに経営破たんに陥ってしまうような危機的状況にあったとまではいうことができない。このような状況の下における整理解雇が正当化されるためには、相応の解雇回避措置が尽くされていなければならないというべきである。

2 Y社の採り得る解雇回避措置として、新規採用の停止、従業員の賃金の減額及び希望退職者の募集等の措置を挙げることができるところ、従業員の賃金の減額については、団体交渉の場において本件組合側からの提案がされており、また、希望退職者の募集については、本件解雇の後である平成25年7月にA科を含む複数の教科の教員について行われているにもかかわらず、Y社は、本件解雇前には、これらの措置を一切講じていない
Y社は、本件解雇に先立ち、一定程度の人件費削減を行い、また、Xに対して、退職金の割増しを条件とする退職勧奨もしているが、本件解雇の当時におけるY社の経営状態に鑑みれば、本件解雇が正当化されるためには、これらに止まらず、本件解雇に先立って、希望退職者募集等の相応の解雇回避措置が尽くされていなければならないというべきであるところ、本件において、Y社が十分な解雇回避措置を尽くしたと評価することはできない。

整理解雇の必要性が高くない状況においては、解雇回避努力の程度についてかなり厳しく見られることになります。

過去の判例を検討し、どの程度、解雇回避措置を講ずればよいのかを十分に検討する必要があります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇206(日本放送協会事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、アナウンス業務等の担当者に対する業務委託契約の解除が無効とされた裁判例を見てみましょう。

日本放送協会事件(東京地裁平成27年11月16日・労経速2274号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社によるフランス語のラジオ放送においてアナウンス業務等を担当していたXが、主位的に、Y社との間で労働契約を締結していたところ、東日本大震災に際して業務を行わなかったことを理由に不当に解雇されたと主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに(請求1)、上記労働契約及び不法行為責任に基づき、賃金及び損害賠償金の支払を求め(請求2、3)、予備的に、Y社との間の契約が業務委託契約であったとしても、その解除及び更新拒絶は無効であるとして、上記業務委託契約及び不法行為責任に基づき、業務委託料及び損害賠償金の支払を求めた(請求2、3)事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、514万3100円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Xがその業務遂行の方法等についてY社の指示・指導等を受けていたとは認められず、Xは、依頼された業務を第三者に再依頼することも許されており、また、就業する際の時間的・場所的拘束の程度も緩やかであったことからすれば、XがY社の指揮監督下で労務を提供していたとはいえない
報酬の支払方法や公租公課の負担等をみても、Xが労働基準法、労働契約法上の労働者であることの根拠となる事情は見当たらず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって、本件契約は労働契約とは認められず、前記業務の内容や業務遂行方法等におけるXの独立性の強さに照らすと、本件契約は、準委任契約としての性格を有する業務委託契約と解するのが相当である。

2 平成23年3月15日は、同月11日に福島第一原発事故が起き、いまだ事態は収束の様相を見せておらず、東日本在住の多くの者が不安を感じながら日々の暮らしを送っていたことは公知の事実に属するともいえ、駐日フランス大使館のように、日本に在留する自国民に対し国外等への避難を勧める国も少なくなく、実際に多数の在日外国人が国外へ避難していたことは証拠のとおりであって、そのような折に、Xが、Y社から受託していた業務より生命・身体の安全等を優先して国外へ避難したとしても、そのこと自体は強く責められるものではない
Xの他に少なくともフランス語担当者6名が国外等に避難し、その間Y社の業務に就かなかったところ、これらの6名のうち、Y社が契約を解除し、又は次年度の契約を締結しなかった者はいないのであって、Xが福島第一原発事故による影響等を考慮して同月15日に避難したことを捉えて、「本業務の実施内容が不十分又は不完全であり、改善の見込みがない」(本件契約書16条3項1号)又は「その他本件契約を継続し難い事由が生じた」(同条項5号)に当たるものと解するのは均衡を欠き相当でない。

3 Xが連絡した時刻が業務開始予定の直前であるという点も、当時、上記のような混乱した状況下であったことに照らすとやむを得ないところがある上、前記のとおり、Xは、Y社に連絡をする前にDに代役を依頼するなど、自分が当日の業務に就かないことについて一定の手当てをしたといえるのであって、Dが当時ニュース放送のアナウンス業務を担当していなかったことからすればXの代役として適役とはいえないものの、Y社の業務に与える影響を小さなものとするよう一定の配慮をしたと評し得るものである。
しかも、Xは、Bにかけた電話の中で、当日出局できないが、Dに代役を依頼したことを伝えたところ、Bから、「分かりました。」とだけ伝えられて電話が終わり、その後もY社から出局要請等を受けなかったことからすれば、こうしたY社側の応答を受けたXとしては、当日の申出がY社に了承されたものと考えたとしても無理からぬところがある。
こうした経緯を踏まえれば、連絡の時期等を含むXの対応は万全なものではないにせよ、無責任であるとして非難するのも酷なところがあるのであって、やはり上記解除事由に当たるとはいえないというべきである。

4 Y社は、公共放送・国際放送の重要性、取り分け東日本大震災が発生したような緊急時におけるその役割の大きさを強調し、Xが長年Y社の業務を続け、その重要性を認識しながら、突然職務を放棄したのは無責任であって、X・Y社間の信頼関係は完全に破壊されたとも主張する。
なるほど、緊急時の海外向け・フランス語聴取者向けの情報発信が極めて重要な役割を担っていることを否定するものではないが、東日本大震災及び福島第一原発事故発生当時の状況に照らすと、生命・身体の安全を危惧して国外等への避難を決断した者について、結果的に危険が生じなかったとしても、その態度を無責任であるとして非難することなど到底できない。
国際放送の重要性に思いを致し不安の中で職務を全うした者は大きな賞賛をもって報いられるべきであるが、そうした職務に対する過度の忠誠を契約上義務付けることはできないというべきである

会社としては難しい判断だったと思いますが、結論としては裁判所の判断に賛成です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇205(甲化工事件)

おはようございます。

今日は、遺失金着服を理由とする懲戒解雇処分が有効とされ、会社の損害賠償請求が認められた裁判例を見てみましょう。

甲化工事件(東京地裁平成28年2月5日・労経速2274号19頁)

【事案の概要】

第1事件は、Y社と雇用契約を締結したXが、Xは、Y社から、Y社において遺失金が発生したところXが本件遺失金を着服し、私的に費消したことを理由い、懲戒解雇処分を受け、平成26年9月1日をもってY社を解雇されたが、本件処分は無効である旨を主張して、Y社に対し、Xが本件契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め、あわせて、本件契約に基づき、給与及び賞与+遅延損害金の支払を請求した事案である。

第2事件は、Y社が、Y社において本件遺失金が発生したところXは本件遺失金を着服し、私的に費消した旨、また、上記本件遺失金が発生したのはXによる本件営業所の現金の管理等に過失があったからである旨を主張して、Xに対し、不法行為に基づき、平成24年3月30日から同年6月24日までの本件遺失金相当額及び弁護士費用+遅延損害金の支払を請求した事案である。

【裁判所の判断】

Xの請求をいずれも棄却

XはY社に対し、342万9210円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xは本件営業所の経理担当責任者として本件営業所の経理事務に従事していたところ、本件営業所において少なくとも平成24年3月30日から平成26年6月24日までの間に311万7464円の本券営業所の金員を故意に着服し、私的に費消したものというべきである。
Xの上記行為は、本件就業規則の規定にいう懲戒解雇の事由に当たるものというべきである。

2 XのY社における職位、Xが上記行為を行った期間及びXが着服、費消した金額にかんがみれば、XがY社から上記行為を理由に懲戒解雇を命じられることもやむを得ないというべきであって、本件処分の相当性に欠けるところはないというべきであるし、また、本件処分は労働基準法20条1項但書の「労働者の責に帰すべき事由に基づき解雇する場合」に当たるものというべきである。

3 仮にXがY社から本件ヒアリングにおいて本件退職届を作成して提出するよう強く要求されていたとしても、その後の時間の経過及びXの代理人弁護士の立会いをも勘案すれば、Xには、本件処分に関し、弁明の機会が十分に与えられていたというべきである

4 以上の検討に照らせば、本件処分は有効なものというべきである。

横領事案の場合には、社内のうわさに基づいて懲戒解雇をしてはいけません。

しっかりと調査をし、事実確認を行った上で、弁明の機会を与え、その上で、懲戒解雇をしましょう。

手続を行う際は、顧問弁護士等のアドバイスを受けることをおすすめいたします。

解雇204(Y社事件)

おはようございます。

今日は、痴漢行為を理由とする諭旨解雇処分が無効とされた裁判例を見てみましょう。

Y社事件(東京地裁平成27年12月25日・労経速2273号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と雇用契約を締結したXが、XはY社から懲戒処分である諭旨解雇処分を受け、平成26年4月25日付けでY社を解雇されたところ、本件処分は無効である旨を主張して、Y社に対し、Xが本件契約上の権利を有する地位にあることの確認を求め、あわせて、本件契約に基づき、上記平成26年4月25日の翌日以降の各賃金+遅延損害金の支払を請求した事案である。

【裁判所の判断】

諭旨解雇処分は無効

【判例のポイント】

1 従業員の私生活上の非行であっても、会社の企業秩序に直接の関連を有するもの及び企業の社会的評価の毀損をもたらすと客観的に認められるものについては、企業秩序維持のための懲戒の対象となり得るものというべきである
Y社は、他の鉄道会社と同様、本件行為の当時、痴漢行為の撲滅に向けた取組を積極的に行っており、また、Xは、Xが、本件行為を行った当時、Y社の駅係員として勤務していたというのである。これらの点に照らせば、本件行為は、Y社の企業秩序に直接の関連を有するものであり、かつ、Y社の社会的評価の毀損をもたらすものというべきである
したがって、本件行為は、Y社における懲戒の対象となるべきものというべきである。

2 ・・・本件行為ないし本件行為に係る刑事手続についてマスコミによる報道がされたことはなく、その他本件行為が社会的に周知されることはなかったというのである。また、本件行為に関し、Y社がY社の社外から苦情を受けたといった事実を認めるに足りる証拠も見当たらない。
以上にかんがみれば、本件行為がY社の企業秩序に対して与えた具体的な悪影響の程度は、大きなものではなかったというべきである。

3 Xが本件においてXに対する処分が決定する具体的な手続が進行していることを知らされず、このような中でXが同手続において弁明の機会を与えられなかったことについては、本件処分に至る手続に不適切ないし不十分な点があったものといわざるを得ない。この点に、本件行為はXを諭旨解雇処分とするに十分な事実とはいい難いことを合わせ考えれば、本件処分の手続の相当性には看過し難い疑義があるものというべきである。

4 自らに対する懲戒手続が進行している最中であることを具体的に認識して行う弁明と、これを具体的に認識しないで行う弁明とでは、弁明を行う者の対応等にもおのずと差違が生じ得るものというべきである・・・。以上にかんがみれば、Y社の指摘する上記事実をもって、Xに対する本件行為に係る弁明の機会が十分に与えられていたとはいい難い

懲戒処分の内容が重すぎる、手続が不十分だということです。

従業員の私生活上の非違行為に対して懲戒処分を行う際、処分内容を判断するのは本当に難しいです。

「裁判所は労働者に甘いな~」と感じる方もいると思いますが、そのようなときは、そもそも懲戒処分が使用者に認められる趣旨を考えるといいと思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇203(本牧神社ほか事件)

おはようございます。

今日は、神社の神職らの免職等が有効とされた裁判例を見てみましょう。

本牧神社ほか事件(東京地裁平成28年1月25日・労経速2272号11頁)

【事案の概要】

本件は、宗教法人であるY社の神職であるXらが、免職され、あるいは、休職期間満了により退職扱いとされたこと等を巡り、XらとY社との間等で、雇用契約上の地位等の有無が争われ、併せて、パワーハラスメント等を理由とする損害賠償責任の有無や未払賃金の有無等が争われている事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社が主張する免職事由のうち、D代務者への不信をあおり、Y社からの排斥を企てた点と給与の無断増額の点については、Y社に生じた混乱や与えた損害の程度、意図的に行われたものであること等、その重大性や悪質な態様を勘案すれば、改めて注意・指導を与えその改善の機会を与えずとも、免職・解雇をするだけの客観的・合理的な根拠が認められるものというべきである。

2 確かにY社の定める懲戒規程によれば、神社の職員に職務上の義務違反があった場合には懲戒委員会の審査を経て懲戒処分を行うものとされている。しかし、X1の行為は、懲戒事由に当たるか否かにかかわりなく、本件規程の手続によることなく免職を行うことができる。また、弁明の機会の付与については、免職に当たり必ずその機会を付与しなければならないかはひとまずおくとしても、平成24年7月8日開催の責任役員会の席上、X1は部屋の外で聞いていたから免職の理由の説明は不要であるとして、これを制した上、免職の理由に対する意見・反論を述べていること、統理と県神社庁の長との間で協議を経ていないとする点についても、協議の方法や内容についての具体的な定めが見当たらないことからすれば、少なくともX1の免職に、それを無効とするような手続上の瑕疵は認められないというべきである。

懲戒処分をする際、一般的には適正手続(弁明の機会の付与)が保障されていることが有効要件とされていますが、今回の裁判例のように、若干心許ない状況にあっても、懲戒事由が存在することが明らかである場合には、裁判所は適正手続については大目に見てくれる傾向にありますね。

とはいえ、実務においては、適正手続を軽視するのはよくありません。

ちゃんと弁明の機会を与えるようにしましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇202(学校法人矢谷学園ほか事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、内部告発を理由とする懲戒解雇・解任の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人矢谷学園ほか事件(広島高裁平成27年5月27日・労判1130号33頁)

【事案の概要】

本件は、(1)Y社と雇用契約を締結したXが、平成22年10月15日に懲戒解雇されたところ、X1が、本件解雇を不服として、Y社に対し、雇用契約上の地位を有することの確認、本件解雇後の賃金+遅延損害金の支払を求めるとともに、Y社の理事長であったAと元鳥取県議会議員であったBが、X1に対し、共同して、違法な退職勧奨及び違法な本件解雇をした旨主張して、A及びBに対しては、共同不法行為による損害賠償請求権に基づき、Y社に対しては、私立学校法29条・一般社団法人及び一般財団法人に関する法律78条に基づき、連帯して、損害金550万円+遅延損害金の支払を求め、また、(2)Y社の理事であったX2が、平成22年10月15日に懲戒解任されたところ、本件解任を不服として、Y社に対し、本件解任後の報酬+遅延損害金の支払を求めるとともに、違法な本件解任をしたY社及び本件解任を主導したAに対し、共同不法行為による損害賠償請求権に基づき、連帯して220万円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

X1が、Y社に対し、雇用契約上の地位を有することを確認する。
→Y社はXに対し賃金+遅延損害金を支払え。

Y社はX1に対し、Aと連帯して110万円+遅延損害金を支払え。

Y社はX2に対し、平成22年11月から平成23年9月まで、月額3万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 Aが、Xに対し、不法行為に該当するような退職勧奨行為等をしていたことが認められることからすると、Xにおいて、Aを理事長兼校長から退任させようとしたことや、Aが理事長兼校長の地位にあるY社に対して反抗する姿勢を示したことには、酌量されるべき相応の理由があったと認められる。また、Aらが相談をしたBは、形式的には、Y社の部外者ではあるが、本件以前にY社を巡り教職員と経営側が紛争となった際に解決に尽力した者であったことに照らすと、Xらが本件手紙及び29枚の文書を交付して説明した内容を他の部外者に漏らす可能性は極めて低かったものと認められ、実際、Bが、上記内容を他の部外者に漏らしたものとは認められず、XらがBに対して本件手紙及び29枚の文書を交付してした説明及び相談した行為によって、Y社に多少の混乱を生じさせ、また、Aの心情を害したことは否定できないものの、Y社及びAにXを懲戒免職処分にすべき程の重大な実害が生じたとまでは認められない。これらの事情を総合考慮すれば、Y社が、Xを懲戒免職とすることは、重きに失し、著しく不合理であり、社会通念上相当なものとして是認することができないというべきである。
したがって、本件解雇は、解雇権の濫用として無効になるものといわざるを得ない。

2 第1次雇用契約が黙示に更新されたことは前記のとおりであるところ、黙示の更新について定める民法629条が、1項後段において、各当事者は、期間の定めのない雇用の解約の申入れに関する同法627条の規定により解約の申入れをすることができると定めていることに照らせば、雇用契約が黙示に更新された場合、更新された雇用契約は、期間の定めのないものになると解するのが相当である
そして、本件管理職規程では、Y社に採用されたXのような管理職の任用期間は2年以内とされているが、他方で、その任用期間を更新することができるとされているから、本件管理職規程をもって、上記と異なる法理が適用されるとも認め難く、XとY社との間の雇用契約は、第1次雇用契約の黙示の更新によって、平成20年4月1日以降、期間の定めのないものになったというべきである。

上記判例のポイント2は要注意です。

そんなことはあるのか・・・?と思ってしまうのですが、高裁がそのように判断しております・・・。

民法629条1項は以下のように規定されています。

雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第627条の規定により解約の申入れをすることができる。

民法627条1項は以下のとおりです。

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇201(税理士事務所 地位確認請求事件)

おはようございます。

今日は、退職合意の成立は認められないとされた裁判例を見てみましょう。

税理士事務所 地位確認請求事件(東京地裁平成27年12月22日・労経速2271号23頁)

【事案の概要】

本件は、税理士事務所を営むYに税理士業務の補助として雇用されていたXが、Yから既に合意退職していることを理由に労務提供を拒否されているとして労働契約上の権利を有する地位の確認、平成26年2月分以降の賃金+遅延損害金、並びに違法な退職強要による不法行為に基づく損害賠償金56万2353円+遅延損害金の支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

XがYに対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

YはXに対し、平成26年3月10日から本判決確定の日まで、毎月10日限り月額16万円の割合による金員+遅延損害金を支払え。

その余の請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 Yは、平成25年12月4日に本件退職合意が成立した旨主張しているところ、確かに、Xは、同日の午前中にY事務所において、Yとの会話の中で、翌年1月末に退職する旨発言し、同じ日に同僚である他の事務員らにも同旨を口頭で伝え、帰宅後にはYに対して退職を前提にしたメールを送信し、同月5日、翌6日の勤務時間中は何事もなく推移し、同日の退職間際に退職しない意思を表明し本件退職合意の存在を否認しているため、外形的には同月4日に本件退職合意が成立して同月6日に退職の申出を撤回しようとしているようにも見える
しかし、本件で確定的な退職申し出の意思表示があるか否かを検討するに、平成25年12月4日当時、XはこれまでYから退職勧奨を受けたことはなく、退職に関して全く問題意識がないままYとの面談を開始していること、面談中もX自らが退職を発言するまで退職の話題は全く出ていないこと、当時は正社員としてY事務所に勤務していたものであり、簡単に退職を決意するような動機も見当たらないこと、その発言に至る経緯を見ると、同日、Xは出勤した際にYから前日の電話保留時間の件や勤務態度の件で問題点を指摘され反省を求められ、これを素直に受け入れることができないでいる中で突如として退職の申し出を述べているのであり、熟慮の上で発言しているとは考えられず、むしろ自己の非を指摘されてその反発心から突発的になされた発言と理解するのが素直であること、発言後の経緯を見ても、同日午後、Xは他の事務員にも退職する旨を伝えているが、同時に、上記保留時間の件に関係するCに対して謝罪し、自分が退職するのはCが原因ではない、これから確定申告の時期で繁忙期なのに申し訳ないなど、他の事務員との関係を修復しようとする態度が強調され、また、同日帰宅後にYに対してメールを送信しているところ、その内容は、Yに対し、時間を割いてもらい感謝する意思を丁重に表明した上、Cを含む他の事務員にも迷惑をかけたことを謝罪する内容であり、XがYから指摘された問題点を反省して今後は努力する旨をあえて強調している様子が窺われ、この状況からは軽率に退職を発言したことを後悔しつつも自分からは退職申し出の撤回を言い出すことができず、周囲が自分を理解して退職を引き留めてくれるのを期待している心情も読み取れること、同日に退職する旨発言してから、翌5日は通常どおり勤務し、翌6日の夕刻に退職しない旨発言しているところ、その間に退職を前提とした手続が取られた形跡はないことに鑑みると、本件では、Yの発言をもって確定的な退職の意思表示があるとはいえず、本件退職合意の成立は認められない

2 Xは、平成25年12月6日の退職直後にY事務所内で話し合いをしていた際、Yが突然席から立ち上がり、Xを室外に追い出すためにその身体に1回どんと突いた上、力ずくで押しやるという不法な有形力を行使し、これにより全治約10日間の右胸部打傷を負わせた旨主張する。
・・・この状況からすると、YはXに退職勧奨する中でかかる行動に出たというよりも、その日はXに早く退勤してもらいたいと思う中で、Xに対して言葉で懇請する際に付随する行為として多少身体に触れたものと推認され、それほど強い有形力の行使があったものとは考えがたい。また、右胸部打傷の診断書が提出されているが、上記会話を見ても、押された際にそれほど痛がっている気配はない上、それどころかその後もXとYの会話が継続している状況であり、上記診断書記載のとおりの負傷をしているとはにわかに考えがたい。したがって、YがXの身体を多少押した程度の有形力を行使したとしても、違法といえる程度の有形力の行使があるとは認められない

確定的な退職の意思表示があったか否かが争われています。

ぎりぎりの判断ですので、担当する裁判官によっては判断が異なっていたと思われます。

また、有形力の行使がなされ、被害者が診断書を証拠として提出してきたとしても、それだけで当然に違法性や損害が認定されるものではありません。

なんでもかんでも不法行為とは評価されないわけですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。