Category Archives: 解雇

解雇200(キングスオート事件)

おはようございます。

今日は、シニアマネージャーの解雇が有効とされた裁判例を見てみましょう。

キングスオート事件(東京地裁平成27年10月9日・労経速2270号17頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、試用期間満了日である平成26年3月31日付けで留保解約権の行使により解雇されたところ、Y社に対し、本件解雇の無効及び賃金の未払等を主張して、労働契約に基づき、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認、②未払賃金の支払、③未払割増賃金の支払、及び労働基準法114条に基づき、④付加金の支払を求めるとともに、Y社従業員らのパワーハラスメント等及び違法な本件解雇により精神的苦痛を被ったなどと主張して、⑤不法行為又は労働契約上の債務不履行に基づき、損害賠償(合計220万円)の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、13万5681円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、付加金として13万5681円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xは、管理部の責任者としての地位に見合う水準の能力を発揮することが求められていたにもかかわらず、インプット作業のような単純作業も適切に遂行することができず、管理職としての姿勢に疑問を抱かせるような態度もあったのであり、Y社において、部下の指導や評価を含む管理部門の統括業務、内部統制整備業務に係るXの業務遂行能力に疑問を抱き、Eの出向が解除される平成26年3月以降、Xに管理部の責任者としての業務を行わせることができないと判断したことには合理的な理由があるというべきである。

2 Xには管理部の責任者として高い水準の能力を発揮することが求められていたところ、十分な時間をかけて指導を受けたにもかかわらず、インプット作業のような単純作業を適切に行うことができないなど、基本的な業務遂行能力が乏しく、管理職としての適格性に疑問を抱かせる態度もあったこと、Xのインプット作業によりGらの業務が停滞して苦情が出され、インターネット閲覧についても女性従業員から苦情が出されるなど、Y社の業務に支障が生じていたこと、前任者としてXに引き継ぎ、指導を行うべきEが平成26年2月末には出向解除によりP社に戻る予定であり、上記のような状態でXが適切に管理部の統括業務を遂行することができず、管理部の業務により大きな支障が生じるおそれがあると判断されてもやむを得ない状態であったことが認められる。
これに加えて、Y社の規模やXの採用条件によれば配置転換等の措置をとるのは困難であったとも認められること、Xは当時試用期間中であり、インプット作業の問題について繰り返し指導を受けるなど、改善の必要性について十分認識し得たのであるから、改めて解雇の必要性を告げて警告することが必要であったとはいえないこと等の事情も考慮すると、本件解雇が試用期間の経過を待たずに決定されたものであること、Xが同年2月22日に抑うつ状態と診断されていること等、Xが主張する事情を考慮しても、本件解雇が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合に当たるものとは認められない。

能力不足を理由とする解雇は、一般的にはハードルが高いですが、裁判所が求める解雇までのプロセスを経ること、能力不足を裏付けるエビデンスを揃えることという基本姿勢があれば、有効に行うことも十分可能です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇199(Y社事件)

おはようございます。

今日は、法的に根拠のない大幅な給与の減額をし従業員を退職に追い込んだことが不法行為とされた事案を見てみましょう。

Y社事件(東京高裁平成25年8月28日・判タ1420号93頁)

【事案の概要】

Xは、個人でY社の保険代理店を営んでいたが、その後、同代理店を廃業してY社に入社した。その際、Xは、顧客との間の保険契約(いわゆる手持ち契約)をY社に持ち込んだ。
本件は、Xが、この保険契約は一種の無体財産権であり、その持ち込みによって、Y社が売上高を増加させて、Y社における高位の保険代理店の資格を得ることができたにもかかわらず、その後、正当な理由なくXの給与を減額して、XをY社から退社せざるを得ない状況に追い込んで、上記保険契約を奪取し、Z社もこれを補佐したなどと主張して、Y社及びZ社に対し、次のとおりの請求をした事案である。

すなわち、Xは、主位的に、①Y社及びZ会社に対し、共同不法行為に基づき、上記保険契約を失ったことによる財産的損害の損害賠償の内金として4000万円+遅延損害金の連帯支払、②Y社に対し、不法行為に基づき、慰謝料300万円及び労働契約に基づき、平成22年5月分から同年8月分までの未払給与50万円+遅延損害金の支払を求めた。
また、Xは、予備的に、Y社に対し、③Y社がXに対してした平成22年8月20日付け解雇(以下「本件解雇」という。)が無効であることの確認、④労働契約に基づき、平成22年5月分から平成23年2月分までの未払給与230万円+遅延損害金の支払、⑤平成23年3月からXが満65歳に達する月までの給与として、毎月25日限り30万円の支払を求めた。

原審は、Xの主位的請求①及び②をいずれも棄却し、予備的請求については、③及び④を認容し、⑤については、平成23年3月1日から判決確定の日まで毎月25日限り月額30万円の割合による金員+遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余の請求に係る訴えを却下した。

これに対して、Xは、主位的請求の認容又は予備的請求の全部認容を求めて控訴し、Y社は、Y社の敗訴部分に係るXの請求の棄却を求めて控訴した。なお、Xは、当審において、主位的請求①のうち、Y社に対し不当利得に基づく請求を追加した。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、249万3733円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Y社は、Xが入社した後の平成21年7月付けで業務ランクがそれまでの上級代理店(現在の1級代理店)から特級代理店(現在の新特級代理店)に昇格しているところ、XがY社に移管した本件保険契約の保険料収入が加わらなければ、新特級代理店への昇格のための必要条件の1つが満たされなかったものであるから、XのY社に対する寄与は少なくなかったといえる。
それにもかかわらず、Y社は、それまで月額30万円であったXの給与を、Xの同意なく、一方的に、同年11月分から段階的に引き下げ、平成22年5月分以降は月額17万4000円と大幅な減給という労働条件の不利益変更を実施した
そして、このような法的に根拠のない大幅な労働条件の引下げが行われ、これに不満を抱いた控訴人が、Y社を退社するに至っているが、これはまさにY社が、Xを退社せざるを得ない状況に追い込んだということができるから、Y社は、このことにつき不法行為責任を免れないというべきであり、当該判断を覆すに足りる証拠はない。
なお、Y社は、Xの給与を減額したことの合理性等を縷々主張するが、それらによって上記のような一方的かつ大幅な減給の正当性が認められることにはならないのは、前記でみてきたとおりである。

2 Xは、同人が本件保険契約から得られるべき収入相当額や本件保険契約を第三者に引き継いだ場合の代償金相当額が、上記の不法行為による財産的損害又は不当利得になる旨主張している。
確かに、XがY社に入社し、その後、退社するに至るまでの前記経緯に鑑みれば、実質的に、Y社がXから本件保険契約を奪ってしまったと評価する余地があることは否定できない。
しかしながら、XからY社への本件保険契約の移管手続は適法に行われていることが認められ、また、XがY社を退社した場合の本件保険契約の取扱いについて、関係当事者間で別段の合意がされていたとは認められない以上、上記手続により、本件保険契約は、XからY社に移管され、その後、XがY社を退社したからといって、Y社がXに対して本件保険契約を返還すべき義務又は(その返還に代えて)代償金を支払うべき義務が発生する法的根拠はない
そして、Xの退社について、Y社に不法行為責任が認められる場合であっても、そのことから直ちに、上記各義務が生じるということにもならない。
そうすると、Y社の不法行為によって、Xが主張するような財産的損害が生じたということはできず、また、被Y社が法律上の原因なくして、本件保険契約に係る利益を利得し、これによってXが損失を被ったということもできないから、財産的損害及び不当利得については、いずれも認められない。
他方、Xは、Y社の不法行為によって、不本意な退社を余儀なくされた以上、精神的苦痛を受けたと認められる。そして、本件退職の原因となった本件給料減額は無効なものであること、前述したとおり、財産的損害としてはとらえられないものの、本件は、実質的に、Y社がXの本件保険契約を奪ってしまったと評価する余地のある事案であることなども勘案すると、上記精神的苦痛を慰謝するための金額は200万円とするのが相当であり、当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。

合理的理由を欠く大幅な給与減額により自主退職に至った場合に、不法行為に該当する可能性があることを示しています。

もっとも、いつもそうですが、慰謝料の金額がそれほど多額にならないので、あまり抑止力にはなっていません。

また、本件では、Xの保険契約がY社に移管されており、原告の請求金額から考えると、慰謝料わずか200万円だけ認められても、Xの財産的損害はほとんど填補されていないのでしょうね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇198(日本航空(客室乗務員)事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、休職をしていた客室乗務員に対する整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

日本航空(客室乗務員)事件(大阪地裁平成27年1月28日・労判1126号58頁)

【事案の概要】

本件は、被告の会社更生手続中に更生管財人が行った整理解雇の対象となった原告が、整理解雇は無効であるとして、①労働契約上の地位にあることの確認と、解雇後、平成23年1月支払期から本判決確定までの賃金の支払を求めるとともに、②原告に対する整理解雇や退職勧奨が違法なものであったとして、損害賠償を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

【判例のポイント】

1 本件整理解雇は、対象とされる労働者に解雇されるに足りる責めに帰すべき事由がないにもかかわらず行われるものである以上、仮に人員削減の必要性が肯定できるとしても、解雇されるか否かを分ける本件人選基準の設定については、もちろん使用者側の裁量が認められることは否定できないものの、恣意的なものであってはならず、解雇されなかった労働者との比較において、当該労働者に解雇を受忍させるに足りる合理性が必要というべきである。
本件整理解雇における人選基準は、(a)病欠・休職等基準(復帰日基準も含む)、(b)人事考課基準、(c)年齢基準で構成されている。
病欠・休職等基準については、客観的な基準をもって対象者を選定するものであり、Y社の恣意性が入る余地がないほか、私傷病等による休職・病欠がある者については、客観的な事実として、現実に一定期間就労していないのであるから、当該期間に休職・病欠することなく現実に勤務していた他の労働者と比較した場合に、Y社の業務に従事していないという点において、Y社に対する貢献度が劣ると評価せざるを得ないし(これは、当該労働者の業務遂行能力が、他の労働者と比較して劣るということを意味するものではない。)、また、将来の貢献度を想定するにあたっても、過去に休職・病欠がある者は、ない者と比較した場合に、相対的に劣る可能性があると判断することも、あながち不合理ともいえない

2 病欠・休職等基準該当者の中でその後に乗務復帰している者については整理解雇の対象から除外するという新たな対象者を絞る要件(復帰日基準)を付加した以上、その基準日については、手続的にできるだけ本件解雇通知に近い遅い時期とするのが合理的であり、同基準を付加した本件人選基準を示した本件人選基準変更日(同年11月15日)とすることに技術的・現実的な支障があることもうかがわれないにもかかわらず、少なくとも復帰日基準の基準日とした同年9月27日から復帰日基準を公表した同年11月15日の間に乗務復帰した者を、依然として、本件整理解雇の対象にとどめることには合理的な理由がないといわざるを得ない
・・・本件人選基準については、基準日の前後で本件整理解雇の対象になるか否か重大な差異が生じるからこそ、基準日の設定の合理性はより厳格に審査しなければならないのであって、そのことがY社の主張するような基準日の設定に関するY社の広範な裁量を根拠づけることにはならない。しかも、前記で判示したことは、単に基準日の前後で復帰日基準の適用の効果が分かれて不合理であるというのではなく、同基準を付加した趣旨とその基準日の設定が整合していないから不合理であるというものであって、Y社の上記主張は理由がない。

3 整理解雇が無効であり、雇用契約上の地位を有することが確認され、いわゆるバックペイが支払われることで、労働者としての地位が回復され、また、経済的損害も填補されることからすれば、整理解雇が解雇権の濫用に当たるとして無効となる場合であっても、そのことをもって直ちに不法行為が成立することになるものではなく、当該整理解雇が、当該労働者を排除することのみを目的としたり、当該労働者に対する嫌がらせとして行われたものであるなど、その手段・態様に照らし、著しく社会的相当性に欠けるものである場合に、不法行為に当たると解するのが相当である。
これを本件についてみると、本件整理解雇が解雇権の濫用として無効となるのは、Y社が当初の人選基準案を公表した後、その後、労働組合からの要望を受けて、復職日基準を追加して本件人選基準を公表したものの、復職日基準の基準日を人選基準が確定した日ではなく、当初の人選基準案を発表した日とした点が合理性を欠くと判断されたためであるものの、Y社によるそのような復職日基準の基準日の設定が、Xに対する嫌がらせであるなど著しく社会的相当性を欠くとまではいえず、ほかに、本件整理解雇が、著しく社会的相当性に欠けるものであることをうかがわせる事情があることを認めるに足りる証拠もない

ぎりぎりのところで無効となっている感じがします。

上記判例のポイント3に書かれているとおり、裁判所は、人選基準に合理性がないというところで解雇を無効としています。

裁判体が変われば解雇が有効と判断される可能性は十分残されていると思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇197(泉北環境整備施設組合事件)

おはようございます。

今日は、不正アクセス等を理由とする懲戒・分限処分の取消請求に関する裁判例を見てみましょう。

泉北環境整備施設組合事件(大阪地裁平成27年1月19日・労判1124号33頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に勤務する公務員であるXが、Y社の情報ネットワークシステムを構築し、その管理運営の最高責任者であった立場を利用し、人事異動後もその閲覧権限を不適正に使用し、他の職員のフォルダへ侵入していたとの理由で、処分行政庁から、地方公務員法29条1項各号に基づき20日間の停職とする旨の懲戒処分及び同法28条1項3号に基づき課長から主幹へ降任する旨の分限処分を受けたことについて、いずれの処分も、Xは本件システム上の権限を不適正に使用したことはないことや、他の関与者に対する懲戒・分限処分との比較等からすれば重きに失する点で実体法上違法であり、本件各処分に係る手続に関与すべきでない者が関与している点で手続上も違法であると主張して、その取消しを求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 公務員に対する懲戒処分は、当該公務員において国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において、公務員としてふさわしくない職務上の義務違反その他の非行がある場合に、その責任を確認し、公務員関係の秩序を維持するために科される制裁である。そして、地公法は、同法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒権者が懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選択すべきかについて、具体的な基準を設けていないから、その決定は懲戒権者の裁量に任されているものと解されるところであり、懲戒権者がこの裁量権の行使としてした懲戒処分は、これが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、違法とならないものというべきである(最判昭和52年12月20日・神戸税関事件)。

2 地公法28条の分限制度は、公務の能率の維持及びその適正な運営の確保の目的から、同条に定める処分権限を任命権者に認める一方、公務員の身分保障の見地から、その処分権限を発動し得る場合を限定したものである。分限制度のこのような趣旨・目的に照らし、かつ、同条に掲げる処分事由が、被処分者の行動、態度、性格、状態等に関する一定の評価を内容として定められていることを考慮すると、同条に基づく分限処分については、任命権者にある程度の裁量権は認められるが、分限制度の上記目的と関係のない目的や動機に基づいて分限処分を行うことが許されないのはもちろん、処分事由の有無の判断についても恣意にわたることは許されず、考慮すべき事項を考慮せず、考慮すべきでない事項を考慮して判断するとか、また、その判断が合理性のある判断として許容される限度を超えた不当なものであるときは、裁量権の行使を誤った違法なものとの評価を免れないというべきである

3 そして、地公法28条1項3号にいう「その職に必要な適格性を欠く場合」とは、当該職員の簡単に矯正することのできない持続性を有する素質、能力、性格等に起因してその職務の円滑な遂行に支障があり、又は支障を生ずる高度の蓋然性が認められる場合をいうと解されるが、この意味における適格性の有無は、当該職員の外部に現れた行動、態度に徴してこれを判断するほかはなく、その場合、個々の行為、態度につき、その性質、態様、背景、状況等の諸般の事情に照らして評価すべきことはもちろん、それら一連の行動、態度については相互に有機的に関連付けてこれを評価し、さらに当該職員の経歴や性格、社会環境等の一般的要素を含む諸般の要素を総合的に検討した上、当該職に要求される一般的な適格性の要件との関連において判断しなければならない。そして、降任の場合における適格性の有無については、公務の能率の維持及びその適正な運営の確保の目的に照らし、裁量的判断を加える余地を比較的広く認めても差し支えないものと解される(最判昭和48年9月14日・広島権教委事件)。

公務員の場合、通常の労働事件の場合とは異なる規範を用います。

行政事件でよく用いられる裁量権の逸脱・濫用の有無を判断する規範が用いられています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇196(エスケーサービス事件)

おはようございます。

今日は、定年制、定年慣行の存在は認められないとした裁判例を見てみましょう。

エスケーサービス事件(東京地裁平成27年8月18日・労経速2261号26頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に勤務していたXが、Y社に対し、労働契約上の地位を有することの確認、同地位を前提とした賃金等の支払を求め、これに対し、Y社が、定年又は解雇による雇用終了を主張するなどして、Xの請求を争っている事案である。

【裁判所の判断】

地位確認、賃金請求ともに認容

【判例のポイント】

1 本件就業規則には60歳定年制が定められているところ、Xの就業場所である本件会館内に本件就業規則が備え置かれていなかったことは当事者間に争いがなく、Y社は、本件契約締結時にXに対して就業規則の存在を明示し、本店所在地に本件就業規則を備置していたので、周知性(労働契約法7条)の要件を満たす旨主張する。
しかし、Y社が本件就業規則を備え置いたとする本店所在地は、いずれも本件会館とは別の建物であるところ、本件契約締結時及びそれ以降、Y社において、Xに対して本店所在地に本件就業規則がある旨告げたと認めるに足りる証拠はなく、また、XをはじめY社の従業員において本件就業規則が本店所在地に存在することを知っていたと認めるに足りる証拠もない
このような状態では、Y社の主張のとおり、本件契約締結の際にY社においてXに「貴社の就業規則・・・を守のは勿論・・・」との記載のある誓約書を提示してその文言を読み聞かせ、Xにおいて誓約書に署名押印し、かつ、本件就業規則がY社の本店所在地に備え置かれていたとしても、これらは、結局のところ、本件契約締結時、Xに対してY社に就業規則が存在することを認識させたにとどまり、本件就業規則につき、労働者がその内容を知ろうと思えばいつでも就業規則の内容を知ることができる状態にあるとは認めることができず、周知性の要件を欠くというべきである。よって、本件就業規則が本件契約の内容になっているとはいえない

2 Y社が60歳定年慣行の徴表として指摘する従業員の退職や再雇用等につき、Dについては、60歳到達日以降、Y社がDとの間で再雇用契約を締結したと認めるに足りる契約書等の的確な証拠はない。また、Eについては、60歳到達日以降、65歳に到達する月に属する平成25年7月4日に至るまで、Y社とEとの間で再雇用契約を締結したと認めるに足りる契約書等の的確な証拠はない。
そうすると、Y社において、従業員は60歳で定年により退職し、再雇用基準を満たした者が再雇用されるという事例が複数あると認めることはできないため、60歳定年慣行の存在は認められず、ひいてはXがこれを黙示に承諾していたとも認められない

就業規則の周知性が争点となっています。

本件のような状態では周知性の要件は満たされていないと判断されますので、注意しましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇195(ブルームバーグ・エル・ピー(強制執行不許等)事件)

おはようございます。

今日は、前訴判決に基づく強制執行の不許等請求と反訴損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

ブルームバーグ・エル・ピー(強制執行不許等)事件(東京地裁平成27年5月28日・労判1121号38頁)

【事案の概要】

1 本訴事件

本訴事件は、Xを雇用していたY社が、Xに対し、主位的に、XのY社に対する平成22年9月1日以降の賃金請求等を認容した前訴判決について、同日から平成25年5月9日までの分の賃金請求に対しては、弁済による賃金請求権の消滅を、同月10日以降の分の賃金請求に対しては、解雇による雇用契約の終了を、それぞれ請求異議の事由として、前訴判決に基づく強制執行の不許を求める(主位的請求(1))とともに、雇用契約の不存在の確認を求め(主位的請求(2))、また、Y社が上記解雇の後にXに賃金として支払った金員について、法律上の原因を欠くものであり、Xは悪意の受益者であったと主張して、不当利得の返還及び利息の支払を求め(主位的請求(3))、予備的に、XにY社の東京支局のReporter(記者)以外の職で勤務することを命じることができる雇用契約上の権利の確認を求める(予備的請求)事案である。

2 反訴事件
反訴事件は、Xが、Y社による上記解雇及び本訴事件の訴え提起等が被告に対する不法行為に該当すると主張して、慰謝料300万円及びこれに対する上記解雇の日以降の遅延損害金の支払を求める(反訴請求(1))とともに、平成22年9月支給分から平成25年4月支給分までの賃金に対する遅延損害金の支払を受けていないとして、雇用契約に基づき、未払の遅延損害金167万1725円の支払を求める(反訴請求(2))事案である。

【裁判所の判断】

 XからY社に対する地位確認等請求事件の判決主文第2項に基づく強制執行は、平成25年5月25日限り47万9032円及び同年6月から毎月25日限り67万5000円を超える部分については、これを許さない。

 Y社は、Xに対し、167万1725円を支払え。

 Y社のその余の主位的請求をいずれも棄却する。

 Y社の予備的請求に係る訴えを却下する。

5 Xのその余の反訴請求を棄却する。

【判例のポイント】

1 本件提案は、その通知書に「下記のとおり提案します。」と明記され、また、提示された復職の条件のうち、復職先の職種、賃金の額、復職日のいずれも具体的に特定されていないことから明らかなとおり、飽くまで復職条件等に関する提案にすぎず、就労義務の履行としての復職を催告し、あるいは、業務命令権の行使として復職を命じる趣旨であると評価する余地のないものである
したがって、Xにおいて、本件提案を応諾し、本件提案に係る復職条件を前提とする協議に応じる法律上の義務を負うとか、そうでなくても、協議に応じてしかるべきであったなどと解すべき根拠は乏しい

2 この点、使用者が、労働者に対し、使用者としての立場で、当該労働者の配置先等の労働条件について協議するよう求めたときには、労働者がこれに応じ、誠実に協議すべき義務を負うと解すべき場合もあり得る。
しかしながら、本件において、Y社は、Xとの間で第1次解雇の有効性についての争いがあり、いまだ前訴事件が控訴審に係属している状況の中で、飽くまでも第1次解雇が有効であり、したがってY社がXの使用者ではないことを前提に、Y社が第1次解雇の撤回に応じることの条件として、本件提案に係る復職条件に同意することを求めたものであるから、本件提案は、紛争の当事者という立場で和解を提案する趣旨に出たというべきものであり、本件提案について、Y社が使用者として有する業務命令権等の権限を行使したものであったと評価することはできない(換言すれば、Y社は、Xの使用者ではないという立場を維持しつつ本件提案をしたものであるから、本件提案に雇用契約上の権利の行使という側面があったと評価する余地はない。)
そうすると、本件提案に応じるか否かは、基本的には、Xの自由な判断に委ねられるべきものであり、Xがこれに応じない旨の意思を明らかにしたからといって、そのこと自体に何ら責められるべき点はないというべきである。

3 本訴事件の予備的請求は、Y社がXに対し、東京支局のReporter(記者)以外の職で勤務することを命じることのできる雇用契約上の権利を有することの確認を求めるというものである。
しかしながら、本件権利は、これを行使することによりY社とXとの間の法律関係を変動させる効果を生じさせるものであるが、いまだ行使されておらず、将来行使されるか否かも現在は明らかでない。また、Y社が本件権利を有していても本件権利の行使が権利の濫用に当たる場合はその効力を生じないことから明らかなように、本件権利の存否を確定することによって将来本件権利が行使されたときの法律関係が明確になるということもできない
そうすると、本件権利を巡る紛争は、Y社において、本件権利を行使した後、これにより生じた法律効果を前提として給付や確認の訴えを提起することによって解決するのが適切であり、行使されるか否かも明らかでない現時点において、本件権利それ自体の存在の確認を求める訴えは、即時確定の利益を欠くというべきである。

労働判例としては、あまりお目に掛からない訴訟内容です。

上記判例のポイント1、2の判断は賛成です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇194(アイガー事件)

おはようございます。

今日は、内定取消しに対する損害賠償請求と反訴損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

アイガー事件(東京地裁平成24年12月28日・労判1121号81頁)

【事案の概要】

本件は、(1)Y社の採用内定を受けていたXが、Y社に対し、Y社から違法な①黙示の内定取消しまたは②内定辞退の強要を受けたことにより、内定辞退の意思表示を余儀なくされたとして、不法行為に基づく損害賠償金合計461万9120円(特例措置による留年費用、慰謝料、逸失利益、弁護士手数料)+遅延損害金の支払を求め本訴を提起したのに対し、

(2)Y社が、Xに対し、(ア)Xの上記内定辞退は著しく信義に反するものとして、不法行為または債務不履行に基づく損害賠償金合計118万1784円(無駄になった新卒採用費用、中途採用費用)および(イ)上記本訴請求はいわゆる不当訴訟に当たるものとして、不法行為に基づく損害賠償金245万3498円(本訴反訴の弁護士手数料)+遅延損害金の支払を求め反訴を提起した事案である。

【裁判所の判断】

Xの請求及びY社の反訴請求をいずれも棄却する

【判例のポイント】

1 本件労働契約のように入社日を「効力発生の始期」と定めるものと解した場合、使用者が内定期間中に実施する研修等は、その業務命令に基づくものではなく、あくまで就労の準備行為の一つとして、内定者の任意の参加意思(同意)に基づき実施される性質のものであるから、当然のことながら参加内定者の予期に著しく反するような不利益を伴うものであってはならない
そうだとすると本件各プレゼン研修においても、使用者であるY社は、Xが行ったプレゼンテーションの実演内容が不出来で、一定のレベルに達しないものであったとしても、そのことを理由として本件内定を(明示又は黙示に)取消す旨の意思表示をしたり、当該内定辞退を強要する行為に及ぶことは許されず、Y社は、本件各プレゼン研修に当たって、そのような各行為に及ばぬよう配慮すべき信義則上の義務を負っているものと解され、かかる注意義務に著しく違反する場合には、不法行為に基づく損害賠償責任を免れないものというべきである。

2 本件第3回プレゼン研修におけるE課長の上記一連の発言は、あまりやる気の感じられない入社目前のXに対し危機感を募らせ、予め入社後予定されている営業活動の厳しさにつき体感させることを目的として行われた指導的な発言にとどまるものと認めるのが相当である。
以上によれば、E課長の上記一連の発言は、社会通念に照らし客観的にみる限り、本件内定を辞退するか否かに関するXの自由な意思形成を著しく阻害するような性質のものであったとはいい難く、本件内定辞退の強要に当たるものと評価することはできない

内定取消しに関する裁判例は、それほど多く目にすることがありませんので、是非、考え方を参考にしてください。

就労前の段階でいろいろな研修をする際は、十分にご注意ください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇193(日本電気事件)

おはようございます。

今日は、休職期間満了による自然退職の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

日本電気事件(東京地裁平成27年7月29日・労経速2259号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され、業務外の傷病により休職し、就業規則の定めに基づき休職期間満了により退職を告知されたXが、休職期間満了時において就労が可能であったと主張して、休職期間満了後の賃金及び賞与、遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件休職命令は、解雇の猶予が目的であり、就業規則において復職の要件とされている「休職の事由が消滅」とは、XとY社の労働契約における債務の本旨に従った履行の提供がある場合をいい、原則として、従前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合、又は当初軽易作業に就かせればほどなく従前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合をいうと解される。また、労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても、当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務を提供することができ、かつ、その提供を申し出ているならば、なお債務の本旨に従った労務の提供があると解するのが相当である(片山組事件最高裁判決参照)。

2 ・・・Xの従前の業務である予算管理の業務は、対人交渉の比較的少ない部署であるが、指導を要する事項について上司とのコミュニケーションが成立しない精神状態で、かつ、不穏な行動により周囲に不安を与えている状態では、同部署においても就労可能とは認め難い
したがって、本件休職期間満了時において、Xが従前の職務である予算管理業務を通常の程度に行える健康状態、又は当初軽易作業に就かせればほどなく当該職務を通常の程度に行える健康状態になっていたとは認められない。

復職の可否については、多分に事実認定に依拠しているため、判断の有効性に関する予測可能性が極めて低いと言えます。

もっとも、これは労働事件の多くのケースがそうであるため、復職の可否に限ったことではありませんが・・。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇192(K社事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、経歴詐称等を理由とする労働者に対する解雇、損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

K社事件(東京地裁平成27年6月2日・労経速2257号3頁)

【事案の概要】

本件本訴事件は、平成25年12月からY社で稼働していたところ、経歴能力の詐称等を理由として平成26年4月25日限りで解雇されたXが、本件解雇は解雇権の濫用として無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、未払賃金・遅延損害金の支払を求め、さらには、本件解雇後3か月分の賃金合計180万円+遅延損害金の支払を求めた。

一方、本件反訴事件は、Y社が、Xは職歴、システムエンジニアとしての能力及び日本語の能力を詐称してY社を欺罔しY社を誤解させて雇用契約を締結させたものであり、これは詐欺に当たるところ、Y社はXに支払った賃金合計230万4885円のほか、Xに代わり業務を行う者の派遣を受けて支払った2か月分の派遣料合計244万2825円とXに支払った2ヶ月分の賃金120万円との差額124万2825円の損害を受けたと主張して、不法行為による損害賠償として前記230万4885円と124万2825円の合計354万7710円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Xの請求をいずれも棄却する。

Xは、Y社に対し、74万8600円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 企業において、使用者は、労働者を雇用して、個々の労働者の能力を適切に把握し、その適性等を勘案して労働力を適切に配置した上で、業務上の目標達成を図るところ、この労使関係は、相互の信頼関係を基礎とする継続的契約関係であるから、使用者は、労働力の評価に直接関わる事項や企業秩序の維持に関係する事項について必要かつ合理的な範囲で申告を求め、あるいは確認をすることが認められ、これに対し、労働者は、使用者による全人格的判断の一資料である自己の経歴等について虚偽の事実を述べたり、真実を秘匿してその判断を誤らせることがないように留意すべき信義則上の義務を負うものと解するのが相当である
そうすると、労働者による経歴等の詐称は、かかる信義則上の義務に反する行為であるといえるが、経歴等の詐称が解雇事由として認められるか否かについては、使用者が当該労働者のどのような経歴等を採用に当たり重視したのか、また、これと対応して、詐称された経歴等の内容、詐称の程度及びその詐称にようr企業秩序への危険の程度等を総合的に判断する必要がある

2 そもそも雇用関係は、仕事の完成に対し報酬が支払われる請負関係とは異なり、労働者が使用者の指揮命令下において業務に従事し、この労働力の提供に対し使用者が賃金を支払うことを本質とするものであり、使用者は、個々の労働者の能力を適切に把握し、その適性等を勘案して労働力を適切に配置した上で、指揮命令等を通じて業務上の目標達成や労働者の能力向上を図るべき立場にある。
そうすると、労働者が、その労働力の評価に直接関わる事項や企業秩序の維持に関係する事項について必要かつ合理的な範囲で申告を求められ、あるいは確認をされたのに対し、事実と異なる申告をして採用された場合には、使用者は、当該労働者を懲戒したり解雇したりすることがあり得るし、労働者が指揮命令等に従わない場合にも同様であるとしても、こういった労働者の言動が直ちに不法行為を構成し、当該労働者に支払われた賃金が全て不法行為と相当因果関係のある損害になるものと解するのは相当ではない
また、使用者が業務上の目標とした仕事について労働者の能力不足の故に不測の支出を要した場合であっても、当該支出をもって不法行為による損害とするのは相当ではない。労働者が、前記のように申告を求められ、あるいは確認をされたのに対し、事実と異なる申告をするにとどまらず、より積極的に当該申告を前提に賃金の上乗せを求めたり何らかの支出を働きかけるなどした場合に、これが詐欺という違法な権利侵害として不法行為を構成するに至り、上乗せした賃金等が不法行為と相当因果関係のある損害になるものと解するのが相当である

丁寧に一般論を説明してくれています。

経歴詐称の事案において、非常に参考になる裁判例ですね。

是非、参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇191(オクダソカべ事件)

おはようございます。

今日は、営業所閉鎖による合意解約ないし整理解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

オクダソカべ事件(札幌地裁平成27年1月20日・労判1120号90頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結していたXが、雇用契約上の地位を有することの確認を求めるとともに、Y社に対し、平成25年6月分の給与の未払分+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 同僚であるC作成の本件提案書の内容の了承をもって、Xが、退職という生活に重大な影響を及ぼす事項にかかる意思表示を行ったと認めることは困難であるといわざる得ない。
・・・Y社は、Xが、平成25年5月末までに、Cに対して引継ぎを行ったと主張する。しかしながら、仮にそのような事実があったとしても、退職についてY社からの具体的な提示がなされていない中で、Xにおいて、Y社から示された条件によっては退職に応じることもあり得るとの前提のもとで行動していたと考えることもでき、上記の判断を左右するほどの事情とはいえない。

2 Y社は、A営業所の閉鎖に伴うX及びCの転勤を指示したが、両名はこれを断ってきたことから、最終的な手段として本件解雇を行ったと主張する。しかしながら、B所長が転勤の可能性について行ってきた行動は、平成20年6月頃の話し合いの際の確認的なものや、Cを通じての打診にすぎず、これをXに対する転勤の指示や勧奨と評価することはできないから、上記Y社の主張はその前提を欠くといわざるを得ない。

3 また、Y社は、A営業所の閉鎖問題については、平成21年からの経緯があり、長年にわたって経理を担当してきたXに対して丁寧な説明は必要ではなく、手続の妥当性を欠くことはないと主張するが、当裁判所が、手続の妥当性に見出している問題点は、上記のとおり、解雇の回避に向けたXとの直接の協議の欠如や、本件回答後にY社の方から積極的に行動を取らなかった点であって、これらの点については、XがA営業所の状況を熟知していたとしても、手続の不当性が治癒されることにはならない

4 以上のとおり、本件解雇については、Xとの直接の協議を欠き、正式な転勤命令を出すなどの措置も怠った点にXの解雇の回避に向けた努力の不十分さがあり、その点や本件解雇通知に至る経緯にはY社のXに対する不誠実な対応も見受けられ、また、Y社において全社的な人員整理の必要性はなかったのであるから、最終的にXとCの2名のうちXに本件解雇通知をした人選について相応の理由があると考えられることを考慮しても、本件解雇が「やむを得ない事業上の都合による」ものであるということはできない

解雇する際の途中のプロセスを軽視することは避けなければなりません。

本件のような整理解雇事案では、一層慎重に手続を進める必要があります。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。