Category Archives: 解雇

解雇129(東京都(M局職員)事件)

おはようございます。

さて、今日は約3年間で72回に及ぶ遅刻等を理由とする停職処分の有効性に関する裁判例を見てみましょう(解雇事案ではありませんが、懲戒処分のカテゴリーがないので、便宜的に解雇のカテゴリーに入れました。)。

東京都(M局職員)事件(東京地裁平成25年6月6日・労判1081号49頁)

【事案の概要】

本件は、Y社がその職員であるXに対し停職3月の懲戒処分を行ったところ、Xが、Y社に対し、本件停職処分の取消しを求めるとともに、本件停職処分等に伴う減収分や慰謝料等として557万0198円の損害賠償の支払いを求めている事案である。

なお、本件停職処分は、Xが、平成18年4月1日から平成21年7月15日までの間に、少なくとも72回にわたり、電車の遅延等を理由として出勤時限に遅れた上、72回のうち71回について、部下の職員に指示して、出勤記録を出勤の表示に修正させたことが地方公務員法32条及び35条の規定に違反し、同法29条1項1号から3号までの規定に該当することを根拠とするものである。

【裁判所の判断】

停職処分は無効
→停職処分に伴う減収分および慰謝料等として386万1239円の支払いを命じた

【判例のポイント】

1 ・・・以上によれば、Y社が本件停職処分の対象とした72回の出勤時限に遅れたとの事実は、本件全証拠によっても、その全てが客観的事実であると認めるに足りないものといわざるを得ない。確かにそのうちの一定の部分については客観的事実に沿うものであることがうかがわれ、この点はX自身も自認するところではある。しかしながら、Xが出勤時限に遅れたことがいつ、いかなる回数あったのかについて、具体的に特定することは困難といわざるを得ない

2 Y社が本件停職処分の対象とした72回にわたり出勤時限に遅れたとの事実及び71回にわたる出勤記録の出勤の表示への修正指示の事実は、Xが出勤時限に遅れたことが一定の回数あったことが認められるに止まり、その回数や日付を具体的に特定することは困難であると認められる。また、具体的な修正指示があったことを認めることは困難であるから、結局、本件停職処分は、その根拠となる主要な事実の存在を認めるに足りないものというほかなく、違法な処分として取り消されるべきものである

3 Y社が本件停職処分に至ったのは、Y社の担当職員がXの弁明にもかかわらず、職務上通常尽くすべき調査義務に違反して、漫然と本件停職処分の根拠となる72回の出勤時限の遅参と71回の出勤記録の修正指示を認定したことにあるといわざるを得ないから、Y社による本件停職処分は国家賠償法上も違法であり、Y社はこれによりXが被った損害を賠償する責任があるというべきである。
また、Y社は、M局の45歳の男性副参事に対し本件停職処分を行ったことを報道機関及びY社ホームページ等に講評し、本件停職処分の対象者として、Xの実名こそ報道されなかったものの、所属局名、職層、年齢、性別が報道されたことが認められるが、Y社による本件停職処分の公表も、Y社が通常尽くすべき調査義務に違反して、漫然と本件停職処分が行われたことによるものと認められるから、Y社はこれによりXが被った損害についても賠償する責任があるというべきである

「72回の遅刻と71回の出勤記録の修正指示をしたにもかかわらず、停職処分は無効なんて・・・」と考えるのは早計です。

会社側が調査を十分に尽くすことなく、懲戒処分に踏み切ったことから、訴訟になり、懲戒処分の対象事実を立証できなかったわけです。

解雇理由をはじめとして、懲戒処分をする際は、十分な調査をした上で、慎重に処分をすることをおすすめします。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇128(エヌエスイー事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう!!

さて、今日は、「業務上の都合による」解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ファニメディック事件(東京地裁平成25年7月23日・労判1080号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、平成23年10月31日付でY社から解雇されたが、これが無効であると主張して、就労期間23年11月1日(解雇日翌日)から24年5月15日(雇用期間満了日)までの賃金合計149万5000円およびこれに対する遅延損害金ならびに不当解雇等による不法行為に基づく損害賠償(慰謝料)として100万円およびこれに対する遅延損害金の各支払を求めた事案である。

なお、Y社は、金融系システムオペレーション、金融システム開発、研修サービス、翻訳業、労働者派遣業等を営む会社である。

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 ・・・特に、本件質問メールに対しY社が本件返信メールを送信するとともに本件契約終了説明書面を交付した事実によれば、Y社は、Xに対し、平成23年10月31日付けで本件雇用契約における雇用契約書6条4号の「やむを得ない会社の業務上の都合によるとき」により解雇する旨の意思表示をしたものと認められる。

2 Y社は、本件契約終了説明書面には、実際にはXの自己都合による就業終了であることが明記されている旨主張し、本件契約終了説明書面には、Y社としてはXを契約社員として雇用継続すべく、先般2案件を紹介したが、Xが契約社員として雇用を継続することに不安を感じていることを理由に辞退した旨が記載されているが、Xは、平成23年9月30日において、Y社からの2つの案件の紹介に対し、本件雇用契約の内容が不安であることを理由として同日時点でその諾否について回答できない旨を述べたことは認められるが、そのことをもって直ちにXからY社に対して本件雇用契約の合意解約の申込や辞職の意思表示がされたとは認められず、前記記載をもってXの自己都合による就業終了であることが明記されているとは評価できないというべきであるから、Y社の前記主張は採用できない。

3 平成24年2月頃、Y社からXに対し、双方の代理人弁護士を通じて、Xの再雇用が可能である旨の連絡をしたが、Xがこれを拒絶したことが認められるが、Y社の当該連絡はあくまでも平成23年10月31日付け退職を前提とした再雇用の申出であって、Xによる当該拒絶をもって本件雇用契約に基づくXの就労意思の欠缺を基礎付ける事実と評価すべきではない

4 本件解雇は、XがY社から紹介を受けた2つの紹介先を検討すらしないまま辞退したことを踏まえ、Y社においてXに就労意思がないものと判断したことに端を発していると認められるところ、Y社がXの就労意思ないし退職意思を慎重に検討しないまま本件解雇に至っているという点は相当でないものと認められるが、上記事実経過によれば、本件解雇日後の不就労期間の賃金が填補されることとなることを前提として、さらに慰謝料等の請求を認めるべき程の不法行為法上の違法性があるとまでは認められないというべきである。

上記判例のポイント3の視点は参考になりますね。

バックペイとは別に慰謝料を認めないのは、通常の裁判例と同様です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇127(財団法人日本相撲協会事件)

おはようございます。 

さて、今日は、故意による無気力相撲を行ったことを理由とする引退勧告に応じなかった力士の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

財団法人日本相撲協会事件(東京地裁平成24年5月24日・判タ1393号138頁)

【事案の概要】

本件は、力士であるXが故意による無気力相撲を行ったことを理由とする引退勧告に応じなかったことがY社の秩序を乱す行為であるとして、Y社がXを解雇したところ、Xが本件解雇は無効であると主張して、Y社に対し、地位確認及び解雇後の給与等の支払並びに不法行為又は債務不履行に基づく慰謝料等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 本場所相撲は、力士の技量を審査するためのものであり、その勝星により当該力士の階級順位の昇降が決定され、当該力士の給与額等その待遇を左右するものであり、Y社に所属する各力士は、それが故に若いころから日々厳しい鍛錬に耐えて階級順位を上げるために全力を尽くすのである。またそうであるが故にY社が興行する本場所相撲は、わが国で国技と称せられる相撲のうちの最高水準のものであるとして、世間から注目され、国民の間に人気を保っているのであって、本場所相撲の興行をしているY社にとって、特に「故意による無気力相撲懲罰規定」と相撲競技監察委員会を設けて本場所相撲における故意による無気力相撲を禁止することは、何物にも替え難い重要な意味を持っているといわなければならない。そうすると、Xが本場所相撲である本件取組において、故意による無気力相撲を行ったことは、Y社の存立基盤に影響を与え得るものであって、X・Y社間の信頼関係を大きく損ねる事情にほかならず、継続的な契約関係である本件役務提供契約の維持を困難にすると認めるだけの合理的な理由に当たるものということができるのである。

2 Xは、過去に故意による無気力相撲を行った力士がある程度の数いたのに、これを理由として解雇された者がいないのであって、Y社が故意による無気力相撲を行うことを黙認していたと主張する。確かに、C及びBの各供述のみを見ても、X(ないしこの機会に処分を受けた力士)以外にも、過去に故意による無気力相撲を行った力士がいたことは、はなはだ遺憾ながら充分に窺うことができる。しかしながら、上記のようなY社にとって故意による無気力相撲の有する意味あいを考慮すれば、過去に、又はXの他に、故意による無気力相撲に関与した者がいるからといって、そこから直ちにXに対する本件解雇が、社会通念上相当でないと断ずることはできないし、Y社としては、具体的な取組に関して、証拠もない力士に対して、故意による無気力相撲に関与したとして処分を行うことはできない以上、結果として故意による無気力相撲に関与した力士が見逃されたとしても、それから直ちに、本件解雇が違法性を帯びると評価することはできない

上記判例のポイント1の評価のしかたは参考になります。

解雇の合理性を主張するために、これでもかというくらい掘り下げる姿勢は勉強になります。

また、解雇事件では、労働者側が相当性を争う際、過去の事案との比較をすることがあります。

しかし、事案がそれぞれ異なるのが普通ですので、過去の事案と比べて処分が重いということだけで簡単に解雇が無効になるわけではありません。

なお、原告は、控訴しましたが、控訴審でも解雇は有効と判断されています(控訴棄却)。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇126(財団法人日本相撲協会事件)

おはようございます。 あけましておめでとうございます。

本日から事務所が動きます。 本年もよろしくお願いいたします。

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←毎年12月31日、母親を連れて、法多山に行きます。母が元気なうちは、一緒に行くと決めています。

法多山の階段をゆっくり上っている母を見ていると、年をとったな、と思います。

歩けなくなったら、おんぶして連れて行こうと思います。 いつまでも元気でいてください。

今日は午前中は、債務整理の打合せが1件入っています。

午後は、成年後見の打合せが1件、新規相談が1件入っています。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は野球賭博への関与等を理由とする力士の懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

財団法人日本相撲協会事件(東京地裁平成25年9月12日・労経速2191号11頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で力士所属契約を締結したY社所属の力士であるXが、Y社がした懲戒処分としての解雇が無効であると主張して、Y社に対し、主位的請求として、Xの番附階級が大関であることの確認並びに未払賃金、旅費及び日当、交通費の支払等を求め、Xの番附階級が大関であることの確認請求が認容されない場合に備えて予備的請求1として、Y社の寄附行為36条に定める力士としての権利を有することの確認を求め、主位的請求及び予備的請求1ががいずれも認容されない場合に備えた予備的請求2として、本件所属契約が終了したことを前提とする力士老金及び勤続加算金、預かり懸賞金の支払等を求める事案である。

なお、Y社のXに対する処分事由は、①野球賭博を行ったこと、②①について理事会での事情聴取における虚偽申告、③自らの野球賭博に関する恐喝事件の現場での暴力団関係者と疑われるものとの協議である。これらの事由により、相撲の本質をわきまえず、Y社の信用もしくは名誉を毀損するがごとき行動をなしたとして、Y社理事会の決議によりXに対し、本件解雇の意思表示をしたものである。

【裁判所の判断】

請求棄却
→懲戒解雇は有効

【判例のポイント】

1 Y社理事会は、Y社及び特別調査委員会による調査結果にXの弁明を加味した上で、本件処分事由がいずれもあると認定し、Xに酌むべき事情があるかどうかを含めて討議した結果、Xに対する懲戒処分として解雇(退職金は全額支給するが、功労金は支給しない。)が相当であると議決し、Y社は、Xに対し、本件解雇の意思表示をしたことが認められるところ、本件処分事由の非違行為としての重大性に加えて、Y社所属の力士の頂点である大関という地位にあったXの立場、本件処分事由がY社に及ぼした結果及び社会的影響の大きさに照らせば、XにはY社における懲戒処分歴がないこと、その他本件に顕れたすべての事情を考慮しても、Y社が、Xに対し、Y社寄附行為施行細則93条が規定する懲戒処分として本件解雇をしたことは相当であるというべきである

2 Xは、本件解雇が、Xとの間の本件所属契約の解雇件又は解除権を放棄するとの合意に反し、あるいは、本件野球賭博に関与したとの申告をすれば、厳重注意にとどめるという利益誘導又は偽計を用いたものであるから、禁反言に反し、信義則に反すると主張する。
・・・しかし、・・・厳重注意で済ませるとの誘引をしたことがあるとしても、その誘引の対象には、Xが含まれていなかったものと認めるのが合理的である。
仮に、Xが、同日までに本件野球賭博への参加を申告すれば、厳重注意にとどまるのではないかとの期待を有していたとしても、Xについては、すでに公表された本件記事においてその中心人物として名前が記載され、Y社理事会からの事情聴取を受けるなどしており、客観的にみても、Y社が厳重注意という措置の前提としていた自主申告をすることを許容される状況にあったとはいえないことY社は、Xが恐喝被害を相談した警察等の情報から、Xの本件野球賭博への参加につき既に疑いを有しており、Xからの申告の有無が、現にXが行っていた本件野球賭博への参加に対してY社が何らかの処分を行うための必須の要素であったとはいい難いことを考慮すると、Xが、仮に上記のような期待を有していたとしても、それは、Y社の懲戒権限を制約するなどして保護しなければならないものとはいえず、また、本件処分を違法、無効たらしめるような手続き違背に当たるともいい難い。

力士に対する処分に関する裁判例をいくつか出ています。

今回の事案では、上記判例のポイント2での裁判所の切り返しが参考になりますね。

非常に雄弁です。

解雇125(秋本製作所事件)

おはようございます。 今年最後の1週間ですね。今週もがんばっていきましょう。

さて、今日は、分会長に対する非違行為等を理由とする降格・解雇等に関する裁判例を見てみましょう。

秋本製作所事件(千葉地裁松戸支部平成25年3月29日・労判1078号48頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、Y社から降格処分を受けて賃金及び賞与を減額された上、普通解雇されたことについて、①賃金減額及び賞与減額は、そもそもY社にその権限がなく、仮に権限があったとしても人事権を濫用してされたものであるから無効であり、②上記普通解雇は、解雇事由が存在せず、仮に存在したとしても解雇権を濫用してされたものであり、不当労働行為にも該当するものであるから無効であるなどと主張して、Y社に対し、(1)雇用契約上の地位にあることの確認を求めるとともに、(2)平成20年8月以降減額されたことによる賃金未払分(月額15万円)及びこれに対する遅延損害金、(3)平成19年以降減額されたことによる賞与未払分及びこれに対する遅延損害金などの支払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

降格処分、解雇はいずれも無効

賞与の減額分の支払請求は棄却

【判例のポイント】

1 人事権の行使としての降格処分は、労働者を特定の職務やポストのために雇い入れるのではなく、職業能力の発展に応じて各種の職務やポストに配置していく長期雇用システムの下においては、雇用契約上、使用者の権限として当然に予定されているということができ、その権限の行使については、使用者に裁量権が認められるというべきである。そうすると人事権の行使としてされた本件降格処分の有効性については、その人事権の行使に裁量権の逸脱又は濫用があるか否かという観点から判断していくべきである。そして、その判断は、使用者側の人事権の行使についての業務上・組織上の必要性の有無・程度、労働者がその職務・地位にふさわしい能力・適性を有するか否か、労働者の受ける不利益の性質・程度等の諸点を総合してされるべきものである

2 本件解雇事由(ア)(懲戒処分後の就労拒否)及び(イ)(出勤停止期間中の出勤等)に係るXの行為は、ずれもY社の業務上の指示・命令に従わず、会社の秩序を乱すものであって、本件解雇に至る経緯に照らしても、本件解雇の主たる理由になったものということができる。
しかしながら、本件解雇事由(ア)については、本件解雇の際にXに示された事実自体についてはこれを認めることができないのであり、就業規則所定の解雇事由に該当する行為として認められるのは、懲戒処分2で既に制裁を受けた行為であって、解雇の理由としてこれを重視するのは相当でないというべきである
・・・以上の点を考慮すると、本件解雇事由として認められるXの行為は、いずれも解雇を相当とする重大なものではないのであって、これらの事実を総合し、かつ、本件情状事由を考慮しても、Xに対して解雇をもって対処するのは著しく不合理で、社会通念上相当性を欠くといわざるを得ない。したがって、本件解雇は、解雇権を濫用したものである。

本件では、Y社が数多くの解雇事由を主張しましたが、その多くが就業規則所定の解雇事由とは認められていません。

また、解雇事由と認められた数少ない事実についても、それだけで解雇とするのは不十分なものであるため、相当性を欠くという理由から解雇は無効と判断されています。

解雇事由については、単純な足し算ではないので、1つ1つの事実が解雇事由とはならない場合には、何百個主張しても、解雇は有効にはなりません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇124(北港観光バス(休職期間満了)事件)

おはようございます。 今週も一週間がんばっていきましょう!!

さて、今日は、休職期間満了による自然退職扱いに関する裁判例を見てみましょう。

北港観光バス(休職期間満了)事件(大阪地裁平成25年1月18日・労判1077号84頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結していたXが、Y社から休職期間満了を理由とする退職通知を受けたのに対し、Y社から休職を命じられたことはないこと、仮に命じられたとしても休職期間の終期は定まっていなかったから休職期間満了に当たらないこと、さらに、仮に休職期間が満了していたとしてもその事件で復職は可能であったことから、当該退職通知は、実質的には無効な解雇の意思表示であることを理由として、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認および退職扱いを受けた後の賃金の支払を求めるとともに、Y社のかかる取扱いが不法行為に当たるとして、慰謝料の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

自然退職扱いは無効

慰謝料請求は棄却

【判例のポイント】

1 使用者が、休職期間満了により労働者を退職扱いとするためには、労働者に就業規則上の休職事由が存在すること、使用者が休職命令を発したこと及び休職期間が満了したことが必要であり、これらの要件を満たす場合に、労働者が休職期間満了による退職の効果を否定するためには、休職期間満了の時点で就労が可能であったことを立証する必要がある。

2 Xが通勤中に事故に遭い、翌日から欠勤していたが、職場復帰の申出をしたところ、XからY社に診断書の提出がされなかったとして、Y社が本件事故の5か月後である平成23年2月2日をもって、Xが休職期間満了で自然退職扱いとされたことにつき、Xの本件事故はY社就業規則の休職事由に該当するが、Y社がXに対し、明示的に就業規則に基づく休職を命じた事実は認められないし、仮に、黙示的に休職命令が発せられていたと評価できるとしても、そのことから当然に、休職期間が平成23年2月2日で満了したと認められるものではなく、さらに、2人の医師が就労が可能であったことを証明しているのであり、他方、Xが復職を申し出ているのであるから、Xは休職期間満了時に復職が可能であったといえる。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇123(学校法人専修大学事件)

おはようございます。

さて、今日は、休業期間満了後になされた打切補償による解雇に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人専修大学事件(東京高裁平成25年7月10日・労判1076号93頁)

【事案の概要】

本件は、Y大学が、業務上疾病(頸肩腕症候群)により療養のため休業中で労災保険給付(療養補償給付、休業補償給付)を受けているXに対し、その休業期間満了後、Y大学の災害補償規程に基づき、労基法81条所定の打切補償を支払って行った平成23年10月31日付け解雇は解雇権の濫用にも当たらず有効であるとして、同日以降の地位不存在確認を求めて本訴を提起し、これに対し、Xは、同条所定の「労基法75条の規定によって補償を受ける労働者」に該当せず、本件解雇は労基法19条1項本文に違反し無効であるとして、Xが地位確認並びにリハビリ就労拒否、不当解雇等を理由とする損害賠償及びこれに係る遅延損害金の各支払を求めて反訴を提起したものである。

Y大学は、上記本訴を取り下げ、Xはこれに同意したため、本件請求は、上記反訴請求のみとなった。

本件の争点は、労基法19条1項但書前段にいう同法81条の打切補償の対象となる労働者とは、同条の文言どおり同法75条による使用者からの療養補償を受ける労働者に限られるのか(Xの主張)、労災保険法上の保険給付(療養補償給付)を受ける労働者も含まれるか(Y大学の主張)である

【裁判所の判断】

控訴棄却(解雇は無効)

【判例のポイント】

1 労基法81条は、同法の「第75条の規定によって補償を受ける労働者」が療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病が治らない場合において、打切補償を支払うことができる旨を定めており、労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付を受けている労働者については何ら触れていない。また、労基法84条1項は、労災保険法に基づいて災害補償に相当する給付がなされるべきものである場合には、使用者はこの災害補償をする義務を免れるものとしているにとどまり、この場合に使用者が災害補償を行ったものとみなすなどとは規定していない。そうすると、労基法の文言上、労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付を受けている労働者が労基法81条所定の「第75条の規定によって補償を受ける労働者」に該当するものと解することは困難というほかはない

2 このように解すると、使用者は、療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病が治らずに労働ができない労働者に対し、災害補償を行っている場合には打切補償を支払うことにより解雇することが可能となるが、労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付がなされている場合には打切補償の支払によって解雇することができないこととなる。しかし、労基法19条1項ただし書前段の打切補償の支払による解雇制限解除の趣旨は、療養が長期化した場合に使用者の災害補償の負担を軽減することにあると解されるので、このような差が儲けられたことは合理的といえる。もっとも、労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付がなされている場合においても、雇用関係が継続する限り、使用者は社会保険料等を負担し続けなければならない。しかし、使用者の負担がこうした範囲にとどまる限りにおいては、症状が未だ固定せず回復する可能性がある労働者について解雇制限を解除せず、その職場への復帰の可能性を維持して労働者を保護する趣旨によるものと解されるのであって、使用者による社会保険料等の負担が不合理なものとはいえない

3 また、前記のように解すると、療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病が治らずに労働ができない労働者について、傷病補償年金の支給がされている場合には打切補償を支払ったものとみなされて解雇が可能となるのに対し、療養補償給付及び休業補償給付の支給がなされているにとどまる場合には使用者が現実に打切補償を支払っても解雇することができないという大きな差が生じることとなる。しかし、症状が厚生労働省令で定める重篤な傷病等級に該当する場合においては、復職の可能性が低いものとして雇用関係を解消することを認めるのに対し、症状がそこまで重くない場合には、復職の可能性を維持して労働者を保護しようとする趣旨によるものと解されるのであって、上記のような差異も合理的というべきである
したがって、法は、以上のような趣旨から、療養開始後3年を経過しても負傷又は疾病が治らずに労働が出来ない労働者が労災保険法に基づく療養補償給付及び休業補償給付を受給している場合においては、使用者が打切補償を支払うことにより解雇することはできないものと定めているものと解するのが相当である。

一審の判決については、こちらを参照。

文理解釈に徹しています。

そして、文理解釈によると不合理な結果についても、ちゃんと説明をし、不合理ではないと結論付けています。

無理な解釈をするよりも誠実だと思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇122(伊藤忠商事事件)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

さて、今日は、双極性障害に罹患して休職・退職した労働者について、休職期間満了までに回復したとは認められないとされた裁判例を見てみましょう。

伊藤忠商事事件(東京地裁平成25年1月31日・労経速2185号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、双極性障害に罹患して休職したものの、休職期間満了前に復職可能な程度にまで回復したなどと主張して、Y社に対し、雇用契約上の地位確認を求めるとともに、雇用契約に基づく未払賃金等を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、休職期間満了時の復職不能の主張・立証は、使用者側であるY社がすべきであると主張する。しかし、雇用契約上の傷病休暇・休職の制度が、使用者が業務外の傷病によって長期間にわたって労働者の労務提供を受けられない場合に、雇用契約の終了を一定期間猶予し、労働者に治療・回復の機会を付与することを目的とする制度であると解すべき一方、労働者の治療・回復に係る情報は、その健康状態を含む個人情報であり、原則として労働者側の支配下にあるものであるから、休職期間の満了によって雇用契約は当然に終了するものの、労働者が復職を申し入れ、債務の本旨に従った労務提供ができる程度に病状が回復したことを立証したときに、雇用契約の終了の効果が妨げられると解するのが相当である

2 XがY社の総合職として雇用されたことは、前記のとおりであり、Xの復職可能性を検討すべき職種は、Y社の総合職ということになる
ところで、総合商社であるY社の総合職の業務は、Xが休業開始前に従事していた営業職においては、国内外の取引先間において、原材料や製品の売買の仲介を行うことが中心であり、具体的には、市況や需要等に関する様々な情報を収集・分析し、仕入先及び販売先に取引内容案を提示して交渉を進めるとともに、取引先の信用調査を行い、取引先への与信限度を社内で申請・設定し、仕入先及び販売先と合意に至れば契約書を締結し、その後、商品の引渡し、代金の支払、回収・運搬・通関手配、為替予約のための相場確認等を行うものであり、海外の取引先等を含め社内外の関係者との連携・協力が不可欠であるから、これを円滑に実行することができる程度の精神状態にあることが最低限必要とされることが認められる。また、営業職以外の管理系業務においても、社内外の関係者との連携・協力が必要であることは営業職と同様であるから、いずれの職種にしても、業務遂行には、対人折衝等の複雑な調整等にも堪え得る程度の精神状態が最低限必要とされることが認められる。

使用者側は、業務の大変さを丁寧に説明することが功を奏しました。

この手の事案は、ドクターの診断書や意見書が出されても、それだけで復職の可否が判断されることはありません。あくまで一考慮要素にすぎません。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇121(ヒタチ事件)

おはようございます。

さて、今日は配転命令拒否を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ヒタチ事件(東京地裁平成25年3月6日・労経速2186号11頁)

【事案の概要】

本件は、Y社が解雇されたXが、解雇が無効であるとして、労働契約上の地位の確認とバックペイの支払を求め、また、配転打診から始まるY社の一方的な振る舞いは、重い持病で苦しむXが安心して主治医のもとで療養を受ける環境を破壊するものであり、これにより精神的損害を被ったとして慰謝料300万円の支払を求め、さらに、Y社の対応によってXは源泉徴収票を受領することができなかった慰謝料として300万円の支払を求めたもの(本訴事案)と、Y社が、Xに対し、従業員の社宅として転貸借としている建物について、解雇によってXが従業員としての地位及び転借権を失ったものとして、本件建物の明渡しと、解雇日以後の賃料相当額の不当利得返還を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇は有効
→Xの請求はいずれも棄却

Xに対し、社宅明け渡しまでの賃料相当額の支払を命じた

【判例のポイント】

1 ・・・ところで、Xは、うつ病で医療機関に継続的に通院していることが認められる。確かに、うつ病患者が信頼関係を醸成している精神科に継続的に通院する必要性はそれなりに尊重されるべきといえる。また、生活状況が変わることによって、うつ病を患っているXに社会生活上の支障が生じうる可能性も認められる。しかしながら、本件配転命令は、大宮営業所への配転(埼玉県大宮市所在)であり、他の医療機関への転院は避けられないとしても、医療機関への通院自体が困難な地域とは言い難い。また、本件配転命令は避けることができないところ、かかる業務上の必要性に比べれば、Xに生じる社会生活上の不利益は、受忍すべき限度内にあるといえる

2 Xは、過去に種々のトラブルを発生させていることが認められる。Xの多くのトラブルに共通してみられる点は、Xが自己の言動の正当性に過剰なまでに拘泥し、相手方が非を認めXに謝罪しているようなトラブル、摩擦であったとしても、時に社外関係者をも巻き込んだトラブルに発展させるといった点である。
Xの起こしてきたトラブル、摩擦に対して、Y社は、Xに対する教育指導を行ったり、業務内容を変更したり、Xへの対応方法を配慮するなど、様々な措置をとり、また配慮を行って、Xの就労の機会を確保してきたといえる。また、Y社は、Xに対し、直ちに懲戒解雇や諭旨解雇を行うのではなく、教育指導や譴責などの処分を行い、Xに対し、反省改善を促しているところでもあるが、Xの問題の根本的な解決には至っていない
そして、本件配転命令は、Xの就労の機会を確保するために高度の必要性が認められ有効なものであるが、Xは、不当にこれを拒否し、本件配転命令に従わなかったものである。
以上からすると、Y社は、Xの配転命令違反を受け、Xの過去の勤務態度等を併せて考慮した結果、Y社における勤務継続は、もはや不可能と判断し、Y社就業規則87条3号の懲戒事由に該当するとしてXを諭旨解雇としたものであり、本件解雇は、客観的に合理的な理由があるといえ、解雇という選択肢をとったことについても社会通念上相当な措置であるといえる

3 本件解雇は有効である。そして、本件建物は、社宅すなわち本件労働契約の存続を前提として、Y社アXに転貸して居住させていたものであるところ、本件解雇によって転貸借契約の前提となる本件労働契約は終了し、Xは本件建物に住み続ける法的根拠を失った。したがって、XはY社に対し、本件建物を明け渡さなければならない

配転命令が解雇回避の手段として用いられたことがむしろ評価されています。

一般的に配転命令の有効性を判断する上で考慮される「通常甘受すべき程度の不利益」は、かなり緩く判断されます。今回も肯定されていますね。

また、判例のポイント3は、労働者側が解雇を争う場合に注意しなければいけないポイントです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇120(三郡福祉会(虹ヶ丘学園・損害賠償)事件

おはようございます。

さて、今日は、廃園を理由に職員らを解雇した理事長等に対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

三郡福祉会(虹ヶ丘学園・損害賠償)事件(福岡地裁飯塚支部平成25年3月27日・労判1074号18頁)

【事案の概要】

本件は、知的障害者通所授産施設虹ヶ丘学園で勤務していたXらが、本件学園を経営していた社会福祉法人三郡福祉会の理事長であったA、同会理事であったB、C及びD並びに本件学園の保護者会会長であったEに対して、同人らが、もっぱらXらを解雇するために、本件学園の利用者らに虚偽の説明をして、本件学園と次年度の契約を締結しない旨の署名を徴収し、本件学園を廃園としてXらを解雇したことが解雇権の濫用に該当するとし、かかる事情を承知しつつ適切な指導を行わず、Xらの解雇を助長した福岡県も同様に責任を負うとして、各被告らに不法行為による損害賠償を求めた事案である。

なお、Xらの請求は、Xら主張の総損害額(X1につき合計約6900万円、X2につき合計約3560万円、X3につき合計約5720万円)に対する各一部請求である。

【裁判所の判断】

A、B、C、D及びEは、連帯して、X1に対し約260万円を、X2に対し約360万、X3に対し約250万円を支払え。

福岡県に対する請求は棄却

【判例のポイント】

1 Eが、他の理事らと協議のうえ、本件組合を兵糧攻めにすることを企図し、利用者24名のうち23名から翌年度の支援契約を結ばないことを記した申出書を取り付けて、三郡福祉会の経営が困難である外形を作出したうえで施設を閉鎖することを決定し、本件組合に所属するXらを含む職員を年度末をもって解雇したことにつき、本件申出書の作成はXらを退職させるか、本件組合から脱退させるという目的のために綿密に連携してなされた行動の一部と評価できるものであるとされ、もっぱら前記の目的に基づき、Eおよび理事らが共謀して本件学園の廃園と本件解雇を行ったものと推認することができる。そして、かかる本件解雇を主導し、実施したE及び理事らの不法行為責任は免れないものというべきである。

2 社会福祉法は、福祉サービスの利用者の利益の保護及び地域における社会福祉の推進等を図る手段として、社会福祉事業従事者の処遇、すなわち労働条件や労働環境等を改善することをもその趣旨及び目的としているが、これは、福祉サービスの利用者の利益の保護や地域における社会福祉の推進等という、より高次の目的達成のための手段にとどまるものであるから、これに対応して、社会福祉事業従事者の労働条件や労働環境等の改善に関し、所轄庁に付与されている権限も、指導及び助言にとどまり、不当労働行為の存否や解雇の有効性等の個別の労働問題について公権的に介入する権限までは付与されていない。
そうすると、被告県に社会福祉事業従事者の労働条件や労働環境等に配慮する義務があるとしても、その内容・程度は相当に限定的なものといわざるを得ず、被告県が、社会福祉法人の労働条件や労働環境等に問題があることを認識しながら、社会福祉法91条に基づく指導又は助言を行うことなく放置し、かえって問題状況を容認しこれを助長する処分を行うがごとき特段の事情がない限り、同義務に違反することを理由として、被告県の行為が不法行為を構成することはないと解される。

3 Xらは、未払賃金相当額の逸失利益として、それぞれの定年までの就労継続を前提とする得べかりし賃金等の請求をしているものの、本件解雇がなかったとしても、Xらの定年まで三郡福祉会が事業を継続し、かつ、Xらが定年まで三郡福祉会で勤務を続けるという高度の蓋然性が認められるものではない。他方、本件学園は定員割れの状況であったものの、支援費の支給が期待できることなども考慮すれば、E会長及び理事らによる本件学園の廃園及び本件解雇がなければ、最低でも1年は本件学園の事業の継続は可能であり、かつ、Xらが本件学園で勤務を継続することも確実であったと考えられ、また、本件解雇後、通常再就職に要する期間としても、長くとも1年程度と考えられることなどに照らせば、不法行為と相当因果関係の認められる損害の範囲としては、1年分の給与相当額を限度とするのが相当である
また、本件解雇による財産的損害として、相当期間の未払賃金相当額が認められる本件においては、さらに、精神的損害である慰謝料を認めるのは相当ではない。
さらに、Xらは、仮処分により三郡福祉会から賃金請求権の一部の支払を受けているところ、後の本案訴訟の確定判決を得て、支払の効果が確定している。したがって、Xらの損害賠償請求権と実質的に競合する前記賃金請求権の回収分については、Xらに損害が発生していないというべきであるから、これを前記の1年分の給与等相当額損害額から控除すべきものである。

非常に珍しいタイプの解雇事案ですね。

立証のハードルが通常の解雇事案よりも数段高いことは容易に理解できます。

学園が廃園している以上、学園を被告としても回収できないため、不法行為構成とし、被告を法人ではなく理事等にしたわけです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。