Category Archives: 解雇

解雇99(学校法人専修大学事件)

おはようございます。

さて、今日は、労災保険給付の受給労働者に打切補償を支払って行った解雇に関する裁判例を見てみましょう。

学校法人専修大学事件(東京地裁平成24年9月28日・労判1062号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y大学が、業務上疾病(頸肩腕症候群)により療養のため休業中で労災保険給付(療養補償給付、休業補償給付)を受けているXに対し、その休業期間満了後、Y大学の災害補償規程に基づき、労基法81条所定の打切補償を支払って行った平成23年10月31日付け解雇は解雇権の濫用にも当たらず有効であるとして、同日以降の地位不存在確認を求めて本訴を提起し、これに対し、Xは、同条所定の「労基法75条の規定によって補償を受ける労働者」に該当せず、本件解雇は労基法19条1項本文に違反し無効であるとして、Xが地位確認並びにリハビリ就労拒否、不当解雇等を理由とする損害賠償及びこれに係る遅延損害金の各支払を求めて反訴を提起したものである。

Y大学は、上記本訴を取り下げ、Xはこれに同意したため、本件請求は、上記反訴請求のみとなった。

本件の争点は、労基法19条1項但書前段にいう同法81条の打切補償の対象となる労働者とは、同条の文言どおり同法75条による使用者からの療養補償を受ける労働者に限られるのか(Xの主張)、労災保険法上の保険給付(療養補償給付)を受ける労働者も含まれるか(Y大学の主張)である

【裁判所の判断】

解雇は無効

【判例のポイント】

1 労災保険の給付体系は、労基法の補償体系とは独自に拡充されることによって成立、発展を遂げた制度であって、労基法による災害補償制度から直接には派生したものではなく、両制度は、使用者の補償責任の法理を共通の基盤としつつも、基本的には、並行して機能する独自の制度であると解するのが相当であって、両制度がその基盤とする法律関係原理(補償責任の法理)を一にしており、かつ相互に法的関連性をうかがわせる規定(労災保険法12条の8第2項、労基法84条1項等)が存在するからといって、そのことから直ちに「労災保険給付を受けている労働者」と「労基法上の災害補償を受けている労働者」を軽々に同一視し、その法的取扱いを等しいとする必然性はない

2 労基法81条は、単に労基法19条1項本文の解雇制限を解除するための要件を定めるだけではなく、労基法19条1項本文違反の解雇を行った使用者を処罰するという公法的効力、すなわち処罰の範囲を画するための要件でもあるから、労基法81条にいう「(労基法)第75条の規定(療養補償)によって補償を受ける労働者」の範囲は、原則として文理解釈によって決せられるべきである(罪刑法定主義)。

3 労基法81条の打切補償制度の趣旨は、療養給付を必要とする労災労働者の生活上の需要よりも、補償の長期化によって使用者の負担を軽減することに重点があり、その意味で、使用者の個別補償責任を規定する労基法上の災害補償の限界を示すものと解されるところ、労災保険制度は、使用者の災害補償責任(個別補償責任)を集団的に補填する責任保険的機能を有する制度であるから、使用者は、あくまで保険者たる政府に保険料を納付する義務を負っているだけであり、これを履行すれば足りるのであるから、「労災保険法第13条の規定(療養補償給付)によって療養の給付を受ける労働者」との関係では、当該使用者について補償の長期化による負担の軽減を考慮する必要はなく、労基法81条の規定の「第75条の規定(療養補償)によって補償を受ける労働者」とは、文字通り労基法75条の規定により療養補償を受けている労働者に限るものと解され、明文の規定もないのに、上記「(労基法)第75条の規定(療養補償)によって補償を受ける労働者」の範囲を拡張し、「労災保険法第13条の規定(療養補償給付)によって療養の給付を受ける労働者」と読み替えることは許されない

4 Xは、労基法81条の規定の「第75条の規定(療養補償)によって補償を受ける労働者」には該当せず、本件打切補償金の支払は、労基法19条ただし書前段にいう「使用者が、第81条の規定によって打切補償を支払う場合」に該当しないこととなり、同項本文所定の解雇制限は解除されず、これに対する本件解雇は無効である。

5 本件業務災害・休職の期間満了直前に、XはY大学に対しリハビリ就労させるように求めているが、Y大学がそのような要求に応じるべき法的義務を負っていたものとは解されず、Y大学のリハビリ就労拒否は、不法行為を構成しない。

この争点については、まだ定説というものがありません。

文理解釈からすれば、上記判断になりますが、本件と同様の事案では、打切補償を支払って解雇することは相当難しくなります(事実上、ほとんど不可能なくらい現実的でない)。

控訴審がどのような判断を示すか注目しています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇98(ネッツトヨタ札幌(諭旨退職処分)事件)

おはようございます。 

さて、今日は営業スタッフに対する諭旨退職処分の効力に関する裁判例を見てみましょう。

ネッツトヨタ札幌(諭旨退職処分)事件(札幌地裁平成24年6月5日・労判1058号88頁)

【事案の概要】

本件は、Y社にサービス担当の総合職エンジニアとして採用され、営業スタッフとして勤務していたXが、Y社から諭旨退職処分とする旨の意思表示をされたが、(1)同処分に不可欠な退職届を提出することもなかったから、同処分が効果を生じておらず、未だY社との間の雇用契約は終了していないし、(2)諭旨退職処分の効力が生じているとしても、同処分には客観的に合理的な理由がなく、社会通念上も相当であるといえないから、同処分が懲戒権の濫用により無効であると主張し、雇用契約に基づいて、同契約上の地位の保全と給与の仮払いとを求めた事案である。

【裁判所の判断】

諭旨退職処分は無効

【判例のポイント】

1 ・・・上記通知には、「貴殿は、本日まで、退職届を出していません。そこで、通知人会社は、貴殿に対し、本書送達後5日以内に、書面で退職届を提出するように、改めて、通知します。もしこの期間内に、貴殿から諭旨退職届のないときには、直ちに懲戒解雇となりますので、御留意下さい。」と記載されていると疎明されるから、それ自体、停止条件付きの懲戒解雇の意思表示と解することもできないものではない。また、Y社における従業員の退職については、自己都合退職について「本人の都合により、退職を願い出て会社の承認があったとき」と定められているほか、「その他相当の理由があるとき」と定められていると疎明される一方、諭旨退職の手続については、「諭旨のうえ退職させる」と規定されているのみであるから、Y社においては、諭旨退職の手続について必ずしも退職届の提出が必須のものとされているものではないと考えられる。そうすると、本件諭旨退職処分については、退職届の提出期限である平成23年12月30日の経過をもって、その効果が発生したものと解するのが相当である

2 本件においては、Xに雇用契約上の権利を有する地位にあることを仮に定めるべき保全の必要性があることを疎明するに足りる主張も疎明資料もない。

3 疎明資料及び審尋の全趣旨によれば、Xは、妻の外、Xの父及び兄とともに二世帯住宅において生活を送っているが、X夫婦とXの父及び兄とは別々に生計を立てていること、X及び妻は、夫婦の生活費の外、同住宅を取得する際の兄名義の住宅ローン月額13万円のうち8万円並びに同住宅の光熱費等のうち燃料代及び回線使用料等を負担していること、Xの妻は、本件諭旨退職処分の後、失業するに至っているほか、Xの父及び兄からの援助も期待することができないこと、Xに貯蓄等の蓄えもないことが疎明される。このようなXの生活状況等に照らすと、本件においては、Xが請求する月額賃金にほぼ相当する額の仮払いを命ずるだけの保全の必要性があるということができる(一方で、月額賃金を超えて賞与等の仮払いを命ずるだけの保全の必要性についての具体的な主張も疎明もない。)が、一方で、本案審理の見込みに照らすと、賃金の仮払いは、平成24年6月から平成25年5月までに限って認めることが相当である。

本件は、仮処分事案です。

上記判例のポイント1は、おもしろい認定のしかたをしていますね。

「まあ、そうとも解釈できるね」という感じでしょうか。

仮処分事案ですので、被保全権利と保全の必要性について疎明しないといけません。

現在、私も2件、労働事件の仮処分事件をやっています(1つは労働者側、1つは使用者側)。

賃金仮払いの仮処分が認められると、労働者側とすると非常に助かる反面、使用者側とすると非常につらいところです。

自ずと攻防も激しくなります。

訴訟とは異なるポイントを押さえつつ、全力で戦うのみです。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇97(World LSK事件)

おはようございます。 

さて、今日は、中途採用の内定取消しに対する損害賠償請求に関する裁判例を見てみましょう。

World LSK事件(東京地裁平成24年7月30日・労判1057号160頁)

【事案の概要】

Y社は、LEDの販売等を営む会社である。

Xは、Y社への採用が内定したが、平成23年9月、同内定を取り消された。

なお、Xは、Y社の入社面接時、A社で勤務しており、Y社からの内定を受けて、A社を退職している。

【裁判所の判断】

内定取消しは違法

Y社に対し約133万円の支払を命じた

【判例のポイント】

1 Y社代表者は、8月8日には具体的に確定した雇用条件でXを採用する旨の意思表示をしており、同時点で本件労働契約が成立したと認めるのが相当である。

2 Y社は、本件労働契約が成立しているにもかかわらず、Xに対し、Xの就業開始日の翌日である9月2日に突然、採用を取り消す旨の意思表示をし、また、その点について何ら合理性のある理由を説明していないから、Xに対し、違法な採用内定の取消しを行ったというべきであり、これと相当因果関係を有する損害の賠償責任を負う。

3 本件労働契約の内容からすれば、Xは、本来であれば、平成23年9月1日からY社で就業を開始し、基本給月額50万円を得られたはずであった上記給与を得られなかったこと、Xは、10月1日、別の会社に就職することができ、同社での給与は月額39万6100円であること、Y社における給与額とXが就職した会社における給与額との差額は、月額10万3900円であること、本件労働契約においては試用期間が3か月と定められていたことが認められる。
そうすると、Xは、少なくとも3か月はY社に勤務することができ、月額50万円の給与を得ることができたと認めるのが相当であるから、その逸失利益は、9月分の給与50万円及び2か月分の差額20万7800円(10万3900円×2か月)の合計70万円7800円と認めるのが相当である

4 Xは、Y社の採用内定に基づきA社を退職したこと、Y社による採用内定取消し後、再就職先を探し、東京都内の会社に就職したことが認められる。Xは、G市内で再就職先が見つからなかった旨主張するが、G市内において、再就職先がまったくなかったとは考え難く、転居費用については、Y社の違法行為と相当因果関係のある損害とは認め難い(なお、転居したことについては慰謝料算定の一事情として考慮する。)。

5 Xは、Y社の採用内定に基づき、前勤務先であるA社を退職し、Y社での就業準備を行ってきたにもかかわらず、一方的に採用内定を取り消された上、Y社社長からこの点に関する説明もなく、不誠実な対応をされたことなどにより精神的苦痛を被ったことが認められる。このXの精神的苦痛に対する慰謝料としては50万円が相当である。

内定取消しに関する裁判例です。

採用内定を受けた者の不利益を考えると、やはり合理的な理由のない内定取消しは許されるべきではありません。

使用者としては、十分注意してください。

また、上記判例のポイント4は、損害論のところで問題となりますね。

個々の事案において、どこまでを相当因果関係の範囲と認めるのかという点です。

参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇96(甲タクシー事件)

おはようございます
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←先日、修習生3人と「キャトルプレジール」に行ってきました

写真は、定番の「ガーリックチキン」です。 秀逸です。

私も修習生のときは、いろんな先生に食事に連れて行っていただきました。

今は、その恩返しを後輩にしています。 

今日は、午前中は、打合せが2件入っています。

午後は、清水で大学生等を対象とした「JOBコン」に参加します。

最近の学生がどんなことを考えているのか、とても興味があります。

今日も一日がんばります!!

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さて、今日は、タクシー運転手に対する懲戒解雇処分に関する裁判例を見てみましょう。

甲タクシー事件(千葉地裁平成24年11月5日・労経速2161号21頁)

【事案の概要】

Xは、平成22年10月夜間、タクシーを運転して、一方通行道路を逆走し、前方を走行していた自転車に対し、道路の端によけさせえようとして、警音器を鳴らす等しておあり運転をし、また、逆送を継続しながら、自転車を追尾し、自転車が停止した後、そのわずか数十㎝手前でタクシーを停車させる行為をした。

なお、Xは、本件請求と同旨の労働審判等を求めたが、労働審判委員会は、Xの申立てに係る請求をいずれも棄却するとの労働審判をしたところ、Xが、異議申立てをした。

Xの請求内容は、地位確認、賃金の請求、慰謝料50万円の請求である。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は有効

【判例のポイント】

1 ・・・以上によれば、Xのこれらの行為は、本事件の際に本件タクシーが本件自転車に衝突したか否かにかかわらず、道路交通法を遵守し、安全運転を行い、交通事故の防止に努めるべきとする本件就業規則及び本件服務規程の定めに違反する行為と認められる
また、Xは、本事件の前にも、本件出勤停止処分(1)及び(2)という懲戒を受けており、その懲戒理由は、それぞれ、乗車拒否及び不当な料金の収受という、本件就業規則の定める違反行為に当たることが認められる。すなわち、Xは、本事件の前、本件就業規則の定める違反行為を繰り返したものと認められる

2 さらに、Xは、本事件の後、Y社代表者がXに対して指導をしたにもかかわらず、本件女性が、本件自転車を道路の端に寄せるなどして後方の本件タクシーに道を譲るという、本来そのような義務のない行為をしなかったことを批判するばかりか、本件女性が本件自転車を本件タクシーに衝突させようとしたなどと、本件女性を非難するばかりで、上記のとおり、道路交通法に違反し、危険な運転をしたことについては、反省の意思を何ら示さず、かえって、Y社代表者を誹謗中傷する言動に及んだものであり、タクシー事業を経営するY社の規律を全く顧みない言動を繰り返したものと認められる
以上に述べたところによれば、Xのこれらの行為は、Y社の重要な服務規律に違反し、さらに、本件就業規則の定める違反行為を繰り返し、会社の秩序等を乱したものとして、本件就業規則の定める懲戒解雇の事由に当たると認められる。

3 また、Y社においては、これまで、人身事故を起こした労働者や、乗務前の飲酒検査において基準を超えるアルコール量が検知された労働者らに対しても、けん責の懲戒しかされていなかったことが認められる。しかしながら、上記懲戒処分を受けたY社の労働者らが、当該懲戒を受けた際、当該懲戒処分について反省の意思を示さなかったとの事実や、それまでに本件就業規則等の定めに違反する行為を繰り返していたとの事実を認めるに足りる証拠はないのに対し、Xは、・・・に照らせば、このことによっても、本件解雇が不公平な懲戒であるとまでは認めるに足りない

4 Y社がXに対してして本件解雇は、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であるとは認められないものとはいえず、かえって、合理的かつ相当であり、やむを得ない懲戒処分と認められる。

本件は、本人訴訟です。

参考にすべき点としては、上記判例のポイント3でしょうか。

原告としては懲戒処分の相当性について争ったわけですが、否定されています。

懲戒事案は、個別性が高いため、本件事案が従前の事案と完全に同一なものでないことは明らかです。

また、従前の事案に対する処分が適切であったかすら判然としないのが通例のため、結果、主張立証を重ねても、本件事案の解決には影響しないことがほとんどだと思われます。

解雇95(コアズ事件)

おはようございます。

さて、今日は、営業開発部長の降給・降格処分と解雇の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

コアズ事件(東京地裁平成24年7月17日・労判1057号38頁)

【事案の概要】

Y社は、警備業務等を業とする会社である。

Xは、平成20年2月頃、Y社に採用された後、営業開発部長として就労してきたが、降給処分を受け、営業開発部長から降格された後、解雇された。

Xは、上記降給、降格の各処分および解雇がいずれも無効であると主張して、Y社を相手として提訴した。

なお、Xは、本件訴訟係属中に、破産手続開始の申立をしたため、途中から破産管財人が訴訟手続を受継した。

【裁判所の判断】

給与の減額は無効

第一営業部長から「独任官」と称する地位への降格は無効

解雇は無効

【判例のポイント】

1 賃金が、労働者にとって最も重要な権利ないし労働条件の1つであることからすれば、上記給与規程の定めが存するとはいえ、その変更を、使用者の自由裁量で行うことが許容されていると解することはできず、そのような賃金の減額が許容されるのは、労働者側に生じる不利益を正当化するだけの合理的な事情が必要であり、そのような事情が認められない以上、同賃金減額は無効になると解するのが相当である。そして、そのような賃金減額の合理性の判断に当たっては、減額によって労働者が被る不利益の程度、労働者の勤務状況等その帰責性の有無及び程度、人事評価が適切になされているかという点など、その他両当事者の折衝の事情を総合考慮して判断されるべきであると解される。

2 ・・・以上を総合するに、まず、本件給与減額1については、その減額幅は30万円を超えるもので著しく大きく、これによりXの受ける不利益には甚大なものがあるといわざるを得ない。他方、Xの帰責性という点に関し、Y社主張にかかる10名の営業部長の採用という業務については、それが実現されなかった場合に給与減額等につながることが合意されていたとはいえない上、実質的にも、Y社において、給与減額の理由とすることは明らかに不合理である。また、Xの勤務状況、勤務態度等についてみても、Y社主張の客観性が担保されているとはいえない状況であるのみならず、恣意的な人事が行われている状況も窺われることからすれば、いずれも、かような多額の給与減額の根拠とはなり得ないものである。
なお、Y社は、Xが本件給与減額1の後、約1年以上も明確な異議を申し立てていないことを挙げて、同Xが同給与減額に同意していた旨主張する。仮に、かようなXの態度をもって同意と評価することができるにしても、同給与減額が大幅な減額である以上、それなりの合理的な事情に基づくのでなければ、真意に基づく同意があるとは推認し難いところ、前記のとおり、そのような合理的な事情は認められないのであるから、これを真意に基づく同意であると認めることはできない
これらの事情によれば、本件給与減額1は無効と認めるのが相当である。

3 職位の引下げとしての降格については、使用者は、人事権の行使として、広範な裁量権を有するが、その人事権行使も、裁量権の逸脱、濫用に当たる場合には無効になると解される。
これを本件についてみるに、Xは、平成22年4月に、D本部長が「独任官」と称する部下のいない地位に降格されているが、Y社が特命事項と称する10名の営業部長の採用を実現できなかったことが降格の理由となり得ないことは明らかであるし、Xの勤務状況は、Y社が主張するほどに劣悪であったとは認められず、降格に値するような確たる非違行為があったわけでもないこと、Y社において恣意的な人事が行われている実態が窺われることなどに照らすと、Xに対する本件降格処分については裁量権の濫用があるというべきであって、これを無効と認めるのが相当である

4 以上にみたとおり、Xの本件特命事項の不履行、同Xの勤務成績、勤務状況の低劣さといった主張により、降給処分及び降格処分の有効性を基礎付けることはできないことからすれば、いわんやそれよりも重い処分である解雇の有効性を基礎付けることはできないのは明らかである。したがって、本件解雇は無効である。

給与減額については、それを使用者の裁量で行うことができる規定があったとしても、相当な合理性がなければ認められません。

また、この裁判例は、Y社において恣意的な人事が行われている実態が窺われることを間接事実として評価しています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇94(長崎県公立大学法人事件)

おはようございます。 また一週間が始まりましたね。今週もがんばっていきましょう!!
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ほしい方は事務所までお越し下さい。

さて、今日は、大学教授が勤務時間中に企業経営に当たったことを理由とする懲戒処分に関する裁判例を見てみましょう。

長崎県公立大学法人事件(福岡高裁平成24年4月24日・判タ1383号228頁)

【事案の概要】

Xは、Y大学法人が運営する県立大学に勤務する教授である。

Xは、当時、県関係者の支援により設立されたベンチャー企業の代表取締役となった。

Y大学法人は、Xが大学の勤務時間内に必要な許可等を得ずにその経営に当たったことを理由に停職6月の懲戒処分に付した。

これに対し、Xは、本件懲戒処分の付着しない労働契約上の権利を有することの確認等を求めた。

なお、第1審は、本件懲戒処分は無効と判断した。

【裁判所の判断】

控訴棄却
→懲戒処分は無効

【判例のポイント】

1 本件懲戒処分の理由は、Xの多数かつ長時間に及ぶ無断欠勤及びY大学法人理事長がXに対し兼職従事の実施状況の報告を求めたにもかかわらずXはこれに従わなかったことであるところ、前者の無断欠勤については、その回数及び時間の程度が、本件就業規則47条所定の懲戒の種類の選択及び減給あるいは停職が選択された場合の金額あるいは期間を定めるに際し重大な影響を与えることから、その認定に際しては、Y大学法人が主張する各欠勤日ごとに、その有無、時間及び理由について、証拠並びにY大学法人の反論及び反証を踏まえた慎重な検討を行うことが必要である。

2 ・・・以上認定した事実によれば、Y大学法人は、Xの欠勤を理由とした本件懲戒処分を行うに際し、上記欠勤の具体的内訳(欠勤の日数、各日の欠勤時間)及びこれを検証することのできる資料を交付していないことに加え、弁明を行う日の通知から弁明の実施までわずか3日しかないことに鑑みれば、Xが独自に資料を入手するなどして、Y大学法人が主張する欠勤状況の正確性についての検討及び反論をすることはできなかったことが認められ、これがXにおける防御活動の妨げとなることは明らかである
そして、上記のとおり、欠勤を理由とした懲戒処分においては、欠勤の日数及び時間の程度が、本件就業規則47条所定の懲戒の種類の選択及び減給あるいは停職が選択された場合の金額あるいは期間を定めるに際し重大な影響を与えることからすれば、Y大学法人がXに対して行った本件懲戒処分に至る手続のうち、Xの欠勤の認定には、重大な瑕疵があり、乙8あるいは乙38記載の欠勤日数を、そのまま本件懲戒処分の相当性の判断の基礎とすることは許されないというべきである

3 ・・・以上を前提に本件懲戒処分の相当性について検討するに、本件懲戒処分における停職は、懲戒解雇に次ぐ重い処分であり、6か月という期間は最長期間である。そして、Xに対し停職処分が行われた場合には、処分それ自体によって同人の法的地位に一定の期間における職務の停止及び給与の全額の不支給という直接の職務上及び給与上の不利益が及び、将来の昇給等にも相応の影響が及ぶこと、同人の研究活動に重大な支障を来すことになることからすれば、その実施は慎重になされるべきものである。
すると、(1)バイオラボ事業は、長崎県及びY大学法人の並々ならぬ意向により開始されたものであり、Y大学法人における勤務時間の管理は形骸化していたことと併せると、Xにおいて勤務時間の振替申請や休暇届等の必要な手続を怠ったことについて、その全てをXの責任とするのは相当ではないこと、(2)Y大学法人主張の欠勤数をそのまま本件懲戒処分の前提とすることは許されないこと、(3)中国渡航による終日欠勤については、合計日数は59日となるものの、本件懲戒処分の対象となった平成15年10月から平成20年11月における年平均渡航日数は12日程度に過ぎないことに加え、(4)Y大学法人関係者は、本件懲戒処分後もなお、Xの欠勤による大学業務への支障は生じていなかった旨長崎県議会で答弁していること、他にXの欠勤により大学業務について相当な支障が生じたことを認めるに足る証拠はないことからすれば、文書提出についての職務命令違反を考慮しても、Xについて停職とすることは重きに失するというべきである。

本件は、解雇事案ではなく、停職処分ですが、一応解雇のグループに入れておきます。

控訴審でも、第1審同様に、懲戒処分は無効であると判断しました。

ちなみに、第1審は、大学関係者によるベンチャー企業創設に対する当時の県知事の意向、大学関係者の言動、会社におけるXの地位・役割、大学の勤務時間内に行われた会社に関する行事に大学関係者が多数回参加していたこと、Xの勤務時間内の兼業についてY大学法人は注意・警告をしなかったこと、勤務時間について、大学が実態として裁量労働制と同様の運用をしていたことを指摘して、本件時間内兼業について黙示の承認がなされていたという理由により、懲戒処分を無効と判断しました。

これに対し、第2審は、Y大学法人の黙示の承認については認めませんでした。

参考にすべきは、上記判例のポイント2の手続面に関する判断です。

懲戒処分を行う際は、手続面にも留意して慎重に行う必要があります。

是非、参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇93(ライトスタッフ事件)

おはようございます。

さて、今日は、分煙措置を求めた試用労働者の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ライトスタッフ事件(東京地裁平成24年8月23日・労経速2158号3頁)

【事案の概要】

本件は、試用期間中のXが受動喫煙による健康被害を理由に休職処分を受けるなどした後に解雇されたことを不当とし、併せて受動喫煙に関する安全配慮義務違反に基づく損害賠償を請求した事案である。

Y社は、生命保険の募集に関する業務及び損害保険の代理業等を業とする会社である。

【裁判所の判断】

解雇は無効

安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求は棄却

【判例のポイント】

1 留保解約権の行使は、留保解約権の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し、社会通念上相当として是認され得る場合にのみ許されると解するのが相当であるところ、本件採用拒否は、(1)Y社就業規則61号に定める解雇事由(解約事由)に該当する事実が存在し(「適法要件A」)かつ、(2)その行使が社会通念上相当として是認される場合(「適法要件B」)に限り許されるものというべきである。

2 留保解約権の行使は、実験・観察期間として試用期間の趣旨・目的に照らして通常の解雇に比べ広く認められる余地があるとしても、その範囲はそれほど広いものではなく、解雇権濫用法理の基本的な枠組みを大きく逸脱するような解約権の行使は許されない

3 本件解約権行使が「解約権留保の趣旨・目的に照らして、社会通念上相当として是認されるか」(適法要件B)の有無は、解約権の留保の趣旨・目的に照らしつつ、(1)解約理由が重大なレベルに達しているか、(2)他に解約を回避する手段があるか、そして(3)労働者側の宥恕すべき事情の有無・程度を総合考慮することにより決すべきである。

4 本件解約権の行使が正当化されるためには、通常の解雇ほどではないとしても、それ相応の解約回避のための措置が執られていることが必要と解されるところ(要素2)、XがY社代表者等から受動喫煙に曝される場所でY社の保険業務を行っていたことは紛れもない事実であるから、Y社代表者は、使用者の責務として(労契法5条)、他覚的知見の提出の有無にかかわらず、Xに対し、より積極的に分煙措置の徹底を図る姿勢を示した上、あくまで保険営業マンとしての就労を促し、その勤務を続けさせ、その中で、改めて体調の回復具合や保険営業マンとしての能力、資質等を観察し、Y社社員としての適格性を見極める選択肢もあることに思いを致す必要があったのに、Xが本件休職合意を選択したのを機に、事実上とはいえXをY社事務所から締め出すに等しい措置を講じるとともに、Xの本件対応の拙さが認められるや直ちに、間髪を入れず、本件解約権を行使したのは、これを正当化するに足る解約回避のための措置が十分に講じられていなかったものと言わざるを得ないので、本件解約権の行使は、解約権留保の趣旨・目的に照らして、社会通念上相当として是認される場合には当たらず、適法要件Bを満たさない

5 労働契約に基づく労働者の労務を遂行すべき債務の履行につき、使用者の責めに帰すべき事由によって、上記債務の履行が不能になったときは、労働者は、使用者に対して、賃金の支払を請求することができ(民536条2項)、使用者が労働者の就労を事前に拒否する意思を明確にしているときも、上記労働者の労務を遂行すべき債務は履行不能となるものと解されるが、その場合であっても当該労働者は、その履行不能が使用者の責めに帰すべき事由によるものであることを主張立証することを要し、その前提として、自らは客観的に就労する意思と能力を有しており、使用者が上記就労拒絶(労務の受領拒絶)の意思を撤回したならば、直ちに債務の本旨に従った履行の提供を行い得る状態にあることを主張立証する必要があるものと解するのが相当であるところ、Xは本件再就職を機に、Y社において就労する意思と能力を有しているとは認められない状態に至ったものというべきである

6 もっとも、この点、Xは、同日以降もY社において就労する意思と能力がある旨主張し、その尋問でも、これに沿う供述をしている。しかし上記のとおりXは、正社員としてY社とは全く異なる職種の税理士法人に本件再就職しており、その勤務時間や業務内容は、Y社における就労と両立し得るものでないことは明らかである上、Y社と比べ月額給与の額(額面額)は遜色なく、賞与として給与の1.5か月分が支払われる約束であること、そして、Xは、本件再就職までの間にCFPのほかに、社会保険労務士の資格を取得しており、敢えて受動喫煙の有害性について理解に乏しいものと思われる使用者の下で保険業務の仕事を続けなければならない理由は見当たらず、むしろ新たな職場(本件再就職先)で心機一転を計ろうとするのが通常と思われること、などの事情を指摘することができる。これらの事情に照らすと、少なくとも客観的にみる限り、本件再就職の時点でもなおY社において就労する意思と能力を有していたことを認めるに足る証拠はない

非常に参考になる判例です。

まず、試用期間中の留保解約権の行使(解雇)について、「試用期間中だから解雇も認められやすい」と簡単に考えている方は、上記判例のポイント2は注目すべきです。

また、解雇後、別会社で就職した場合における取り扱いについては、上記判例のポイント6での判断は頭に入れておくべきです。

実際の訴訟においても、復職の意思が有無という形で争いになることがありますが、労働者側とすれば、注意すべき点です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇92(F社事件)

おはようございます。

さて、今日は、精神疾患により休職した者の退職扱いに関する裁判例を見てみましょう。

F社事件(東京地裁平成24年8月21日・労経速2156号22頁)

【事案の概要】

本件は、Y社(コンピュータのソフトウェアの作成及び販売等を目的とする会社)に正社員として勤務していたXが、Xの休職は業務上の傷病によるものであるにもかかわらず、Y社は、これを業務上の疾病によるものでないとして扱った結果、平成21年12月31日をもって休職期間満了による事前退職扱いとしたものであって、当該退職は無効である旨を主張して、Y社に対し、雇用契約上の権利を有する地位の確認を求めた事案である。

なお、Xは、自分が精神疾患による休職を余儀なくされたのは、(1)Y社の従業員Cからパワーハラスメントを受けたこと、(2)Y社の産業医Dが産業医として不当ないし不適切な行為をしたこと、(3)Y社健康保険組合がXの傷病を「私傷病」として取り扱ったこと、(4)Y社労働組合が、Xの力とならず会社側の立場で行動したこと、及び(5)XがA社の業務に従事していた際に、A社から過重労働を強いられたことが原因であると主張して、各被告らに対し、不法行為ないし使用者責任に基づき慰謝料の支払をも求めている。

【裁判所の判断】

本件退職扱いは有効

慰謝料請求はいずれも棄却

【判例のポイント】

1 Y社の就業規則においては、業務外の傷病による欠勤が引き続き6か月に及んだときは、その翌日から一定期間休職とするものとされており、さらに、休職となった者が休職期間満了までに休職事由が消滅しないときは同日をもって自動的に退職とするものとされているところ、休職期間満了時に休職事由たる精神疾患が寛解していたと認めるに足りる証拠はないから、Xは、Y社を自動的に退職したというべきである

2 平成16年2月にXが「うつ状態」との診断を受ける直前の6か月間のうち、100時間を超える残業のあった月が5か月あったことなど、Xの精神疾患が業務に起因するものであることを疑わせる事情も認められないではないが、少なくとも当該事実のみによっては、Xの傷病が業務上のものであると直ちに断定することはできない

3 Xは、当裁判所の再三の釈明にもかかわらず、業務と傷病との間の相当因果関係の存在について具体的な主張及び立証(特に医学的な見地からの主張立証)をしようとしないから、本件においては、Xの傷病につき業務起因性を認めるに足りる証拠はないといわざるを得ず(なお、Xは、多数の人証申請をしているが、いずれも上記相当因果関係の立証との関係では取調べの必要性が認められない。)、結局、本件退職扱いの無効をいうXの上記主張は採用の限りではないというべきである。

4 Xは、Cのパワーハラスメントが原因となって、本件退職扱いの結果が生じた旨を主張する。しかしながら、仮にX主張に係るCの行為の全部ないし一部が存在すると認められたとしても(ただし、現時点において、Cの行為がパワーハラスメントに該当すると評価するに足りる証拠はない。)、当該行為と本件退職扱いの結果との間に相当因果関係があると認めるに足りる証拠はないから、その余の点につき検討するまでもなく、Cのパワーハラスメントを理由とするXの慰謝料請求は理由がない。

5 Xは、Dが産業医として不当・不適切な行為をしたため、Xは職場に復帰することもできず、本件退職扱いという結果が生じた旨を主張する。しかしながら、仮にX主張に係るDの行為の全部ないし一部が存在すると認められたとしても(ただし、現時点において、Dの行為が産業医として不当ないし不適切であったと評価するに足りる証拠はない。)、当該行為と本件退職扱いの結果との間に相当因果関係があると認めるに足りる証拠はないから、その余の点につき検討するまでもなく、XのDに対する慰謝料請求は理由がない。

この事案では、原告は、考えられるあらゆる相手の行為を損害賠償の対象としましたが、すべて棄却されています。

なかには、さすがに難しいだろう・・・と思われるものもありますが、代理人の考えがあってのことだと思います。

うつ状態になったことは、労災であるから、事前退職扱いは無効であるという主張はあり得る主張です。

今回は、業務起因性が否定されたため棄却されましたが、争点としてはよく見かけるものです。

うつ状態になる直前半年間のうち5か月は残業が100時間を超えているようですが、裁判所は、この事実だけでは業務起因性を肯定することはできないと判断しました。

裁判所としては、残業時間が多いのはわかったから、協力医の意見書を提出する等、医学的見地からの立証もしてほしいと求めましたが、難しかったようですね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇91(甲社事件)

おはようございます。

今日は、勤務態度不良を理由とする解雇に関する裁判例を見てみましょう。

甲社事件(東京地裁平成24年7月4日・労経速2155号9頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、同社の行った解雇が無効であるとして、雇用契約上の地位の確認と未払給与、賞与の支払を求めるとともに、上司らが共謀して、Xに対する嫌がらせ・ハラスメント(虐待行為)を行ったとして、上司らに対し、共同不法行為に基づく損害賠償請求を求め、また、Y社に対して安全配慮義務違反による債務不履行もしくは不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。

なお、Y社は、主にコンピューターソフトウェアの設計、販売及び輸出入を業とする会社である。

Xは、平成18年11月にY社に採用された。職務内容は、顧客に対するサポートシステムの保守及び新規機能追加の対応業務、各種プロジェクトの計画、進捗管理、ドキュメント作成、下請け業者のマネジメント業務であった。

【裁判所の判断】

解雇は有効

【判例のポイント】

1 本件解雇の具体的な理由として上げられている上記(1)ないし(3)の点については、上記のとおり、いずれもこれを認めることができる。具体的に、(1)に関して、Xは、これまでの業績が評価されて昇進したCに対して嫉妬し、Cのみならず、Dに対しても上司に対する尊厳を欠いたような発言を繰り返している。
また、(2)に関して、Xは、組織変更前の問題があるとされる仕事の進め方にこだわり、組織変更後の新しい方針を受け入れないまま、何事も自分が担当するプロジェクトが最優先で行おうとして、Dの指示や指導に従わなかったことが認められる。
さらに、(3)に関して、Xは、保守・サポート課に異動した後も、Y社の開催するワークショップに対して、根拠なく批判的な態度を取る、Navi2.2プロジェクトをたびたび紛糾させるといった行動を取る、E課長やDの指示や指導に従わない姿勢を取る、E課長から態度を改めないとPMの仕事に携わることはできないと指導されても、これに理解を示さず、自己の能力をアピールし続け、PMとしての仕事をさせて欲しいと要望し続ける等し、周囲の社員から一緒に仕事をしにくい人であるといった評価を受けていることが認められる。

2 以上からすると、Xには、Y社が求めている協調性が欠けており、また指導されても、自分の姿勢を改めようとしなかったことは明らかであり、かかるXの協調性不足を解雇の理由とした本件解雇については、客観的に合理的な理由があるといえる

3 次に、本件解雇が、社会通念上相当といえるかについて検討する。
・・・以上からすると、本件解雇に至るまでに、Y社は、Xに対して、再三にわたって指導注意を行った上で、それに応じようとしないXに対し、BA部以外の他部署への異動を勧奨し、さらに退職勧奨を行い、合意による退職の方途を探っており、Xとかなり時間を掛けて協議を行っていることが認められる。しかしながら、他部署への異動については、Xにやる気がなかったことなどから実現しなかったものである。また、退職勧奨についても、Xが、C、Dの謝罪の仕方にこだわったため、これが実現しなかったものである。なお、CやDについては、Xが主張するような事実自体認められない、あるいはパワーハラスメントとして評価しうるような行為はなかったものであり、C及びDが不法行為責任を負うものではない。
そして、Xが、Qに対して、Y社から他部署への異動のための面接を受けるよう指示されたことについて「この会社あほ???」と述べたり、他部署へ異動を命じられると「和解金も取れないし、パワハラも訴えられない」と述べていることからすれば、Xは、Y社の本件解雇を回避するために取られた他部署への異動打診といった措置をあざ笑うかのように不誠実な対応をとり続けたことは明らかであり、Xにやる気がみられないとして他部署からの受け入れを断られたものもXに原因があるといわざるを得ない。かかるXに対して、退職勧奨を経た上で行われた本件解雇は、やむを得ないものとして社会通念上相当といえる。

勤務成績不良を理由とする解雇を有効に行うことは、一般的にはハードルが高いといえます。

正直なところ、私は、その原因が使用者側にあると考えています。

勤務成績不良を理由とする解雇が無効になってしまう主な理由は、使用者の労働法や判例に関する知識不足にあります。

労使紛争に長けている顧問弁護士等がいる場合であればともかくとして、そうでない場合、使用者は、所定の手続を踏むことなく、すぐに解雇してしまう。そうすると、多くの場合、解雇は無効と判断される。

今回の裁判例を読むだけでも、どのようなことを事前にすべきかを読み取ることは十分に可能であると思います。

是非、参考にしてください。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

解雇90(シーテック事件)

おはようございます。

さて、今日は、派遣労働者に対する整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

シーテック事件(横浜地裁平成24年3月29日・労判1056号81頁)

【事案の概要】

Y社は、持株会社であるR社のグループ会社として労働者派遣事業を営む会社である。

Xは、Y社との間で労働契約を締結し、派遣労働者として就労していた。

Y社は、平成21年6月末、Xを整理解雇した。

Xは、本件整理解雇は要件を満たしておらず無効であると主張し争った。

【裁判所の判断】

整理解雇は無効

【判例のポイント】

1 本件解雇は、労働者の私傷病や非違行為など労働者の責めに帰すべき事由による解雇ではなく、使用者の経営上の理由による解雇(整理解雇)であるから、その有効性については慎重に判断するのが相当である。そして、整理解雇の有効性の判断に当たっては、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性及び手続の相当性という4要素を考慮することが相当である。

2 ・・・これらの事情を考慮すると、本件解雇当時、Y社において、支出の相当割合を占める人件費を削減することが求められていたというべきであり、Y社が、R社に対する貸付けを放棄し、R社に対する経営指導料等の支払債務とR社に対する貸付金の相殺を行っていないことを考慮すると、切迫性には検討の余地はあるものの、Y社において、人員削減の必要性が生じていたことは否定し難い

3 Y社は、平成20年10月以降、間接部門の従業員を対象に希望退職の募集をしたり、技術社員の一時帰休を実施したり、新規採用中止を決定したり、事務消耗品購入の禁止、時間外労働の削減などにより経費を削減し、また、利益がない場合であっても派遣先との契約を締結する方針を取るなどして契約数を増やすための努力をしていたことが認められる
しかし、Y社は、Xを含む技術社員に対しては希望退職の募集を行わないまま、平成21年3月10日時点で待機社員であった技術社員及びそれ以降に待機社員となる全ての技術社員を対象に、整理解雇を実施することを決定し、同年3月17日以降、技術社員が待機社員になる都度、解雇通知を行っていたのであって、Y社が整理解雇の実施に当たって削減人数の目標を定めていたかも明らかではない。また、Y社では、本件解雇の通知前である同年4月に整理解雇により2774人及び同年1月ないし同年4月に退職勧奨等により1309人の人員削減が終了していたところ、それ以降、さらに整理解雇を実施する必要性があるか否かについて真摯に検討したことが証拠上窺われない。これらの事情からすれば、Y社が、本件解雇当時、人員削減の手段として整理解雇を行うことを回避する努力を十分に尽くしていたとは認めることができない
この点、Y社は、技術社員に対して希望退職の募集をしなかった理由を、優秀な技術社員が流出することでかえって資金繰りを悪化させるおそれがあったためと主張するが、Y社が、個々の技術社員の有する技術や経歴等を一切考慮することなく、待機社員であることのみをもって整理解雇の対象としたことからみても、上記Y社の主張は、不合理というほかない

4 Y社は、本件解雇の有効性の判断に当たっては、労働者派遣事業の特殊性について考慮すべきであると主張する。派遣労働者が派遣先企業における業務の繁閑等に対応するための一時的臨時的な労働力の需給調整システムとして雇用の調整弁としての役割を担っていることは理解できるところである。しかしながら、本件で問題になっているのは、労働者派遣事業を営む者と派遣労働者との間の労働契約であって、派遣労働者が派遣先企業において労働力の需給調整システムとして雇用の調整弁としての役割を担っていることから直ちに労働者派遣事業を営む者と派遣労働者との間の労働契約が不安定なものであることは導かれない。労働者派遣事業を営む者は、自ら雇用する派遣労働者が派遣先企業の雇用の調整弁となり、労働を提供することができないことがあり得るというリスクを負担する一方で、派遣労働者を企業に派遣することで利益を得ている側面を否定できないから、派遣労働者が派遣先企業との間の派遣契約の終了により一時的に仕事を失っても、そのことだけから直ちに解雇できないことはいうまでもない。労働者派遣事業を営む者としても、その雇用する派遣労働者との間の雇用期間を定めるなど、前記リスクを軽減することは可能である上、労働者派遣事業法30条も「派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者又は派遣労働者として雇用しようとする労働者について、各人の希望及び能力に応じた就業の機会及び教育訓練の機会の確保、労働条件の向上その他雇用の安定を図るために必要な措置を講ずることにより、これらの者の福祉の増進を図るように努めなければならない。」と定め、派遣労働者の雇用の安定を図るように求めているところである。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。