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今日は、調整手当等に関する固定残業代該当性に関する裁判例を見ていきましょう。
ジャパンプロテクション事件(東京地裁令和6年5月17日・労経速2568号3頁)
【事案の概要】
本件は、Y社と雇用契約を締結していたXが、Y社に対し、以下の金員の支払を求める事案である。
(1)雇用契約に基づき、割増賃金1055万5272円+遅延損害金
(2)労働基準法114条所定の付加金として、1055万5272円+遅延損害金
【裁判所の判断】
1 Y社は、Xに対し、693万1129円+遅延損害金を支払え。
2 Y社は、Xに対し、付加金669万0110円+遅延損害金を支払え。
【判例のポイント】
1 変形労働時間制について、令和3年就業規則27条は、「本社管理職又は現業要員の就業時間については、始業及び終業の時刻並びに勤務の態様をその勤務場所毎に指示する。」、「本社管理職又は現業要員の就業時間等の取扱いは毎月1日を起算日とする1カ月単位(毎月1日~末日)を基準とした変形労働時間制を適用し、1カ月を平均して1週間40時間以内の労働時間とする。時間外労働及び休日労働については、時間外労働に関する協定届の範囲内で時間外労働をさせることがある。」と定めるものの、就業規則において、各勤務の始業終業時刻、各勤務の組合せの考え方、勤務割表の作成手続及び周知方法が定められているとは認められない。
これに対し、Y社は、事業統括本部において事前に警備員稼働予定表を作成し、これをもって事前に各日の勤務時間を従業員に告知している旨主張するが、Y社の主張によっても、就業規則において、各勤務の始業終業時刻、各勤務の組合せの考え方、勤務割表の作成手続及び周知方法が定められていたと認められないから、この点は、労基法32条の2第1項に反するか否かの判断を左右するものといえない。
そうすると、Y社の変形労働時間制は、労基法32条の2第1項に反し、無効であるから、その余の点を判断するまでもなく、Xには適用されない。
2 基本給、職能給、役職手当及び隊長手当を合計した金額(令和2年3月分は基本給13万円及び役職手当3万円の合計16万円、同年4月分から令和3年8月分までは基本給13万円及び役職手当4万円の合計17万円)を月平均所定労働時間174時間で除すると、令和2年3月時点で920円、同年4月から令和3年8月までが977円となり、いずれも令和2年3月から令和3年8月までの当時の東京都の最低賃金である1013円を相当程度下回る。
Xが「調整手当(固定残業代)」と記載のある雇用契約書に署名したことがあることを考慮しても、Xがこのような労働条件を了承するとは考え難いし、Y社が、Xに対し、令和2年3月ないし令和3年8月当時、基本給及び役職手当の合計額を月平均所定労働時間で除すると、最低賃金を下回る旨の説明をしたとも認められない。また、平成21年給与規程13条及び平成29年給与規程13条では、基本給は、本給及び職能給をもって構成するとし、本給は、満年齢、本人の勤続、学歴等に応じて定める額とし、職能給は、本人の職務遂行能力に応じて定める額とするところ、Xの基本給は、平成23年契約書の12万4000円から令和4年4月の退職時の13万円までの間、10年以上勤務したにもかかわらず、6000円の増加にとどまっている。他方、Xの役職手当及び調整手当がそれぞれ増加しているところ、役職手当の増額は、Xの役職が、主任、課長へと昇格したことによるものと考えられるものの、調整手当が平成23年契約書の4万6000円から令和2年契約書の11万8000円まで7万円以上増額している。このようにXの基礎賃金となる額が、最低賃金の額を下回る上、勤続等を考慮するXの基本給がほとんど増額せず、調整手当が増額するなどのXの賃金の経過も踏まえると、調整手当には、固定残業代以外の通常の労働時間の賃金に当たる部分が含まれていると認めるのが相当であり、その部分については、時間外労働等に対する対価性を欠くといえる。
そうすると、調整手当について通常の労働時間の賃金に当たる部分と固定残業代に当たる部分とを判別することはできず、少なくとも令和2年3月分から令和3年8月分までの調整手当は、固定残業代の定めとして有効であるとは認められない。
上記判例のポイント1のように、変形労働時間制が無効となる理由・パターンはだいたい決まっています。
判例のポイント2のように、固定残業制度については、おおよそ解釈は固まってきていますが、とにもかくにも「やりすぎ注意」ということを肝に銘じておきましょう。
日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。