Category Archives: 賃金

賃金185 時間外勤務指示書がなくても残業の指揮命令は認められる?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、割増賃金、退職金、パワーハラスメントを理由とした慰謝料など約2800万円の支払いを認めた裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人Y会事件(福岡地裁令和元年9月10日・労経速2402号12頁)

【事案の概要】

本訴請求は、X1~X5が、Y社と労働契約を締結していたところ、①Y社に対し、労働契約に基づき、未払割増賃金+遅延損害金の支払、②Y社の代表者であるAに対し、Aが労働時間を把握して労働基準法37条1項を遵守すべき義務を負うにもかかわらず、Bによるタイムカードの廃止によってXらの労働時間を正確に把握できない状況を放置した違反があると主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、上記①の未払割増賃金相当額の損害金+遅延損害金の支払、③Y社に対し、労基法114条所定の付加金+遅延損害金の支払、④Y社に対し、基本給の減額が違法無効であると主張して、労働契約に基づき、減額された未払賃金+遅延損害金、⑤Y社に対し、労働契約に基づき、退職金+遅延損害金、⑥B及びY社に対し、XらがBからそれぞれパワーハラスメントを受けたと主張して、Bについては不法行為による損害賠償請求権に基づき、Y社については使用者責任に基づき、それぞれ連帯して各200万円たす遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。

反訴請求は、Y社らが、Xらに対し、Xの本訴の提起が不当訴訟であると主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づき、連帯して、損害賠償+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

1 Y社は、X1:340万8905円、X2:371万5927円、X3:120万8421円、X4:271万2304円、X5:325万7237円+遅延損害金を支払え

2 Y社は、X1:166万8935円、X2:249万2624円、X3:23万9911円、X4:161万8196円、X5:151万6285円+遅延損害金を支払え

3 Y社は、X1:13万9200円、X2:10万円、X3:7万6728円、X4:32万9142円、X5:32万9142円+遅延損害金を支払え

4 Y社は、X1:168万5670円、X2:28万7260円、X3:35万6647円、X4:139万8840円、X5:67万2956円+遅延損害金を支払え

5 B及びY社は、連帯して、X1:15万円、X2:15万円、X3:15万円、X4:15万円、X5:30万円+遅延損害金を支払え

6 Y社らの反訴請求はいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 時間外勤務指示書による時間外労働の指示がされたものはいずれも所定の終業時刻後の時間外労働であって、所定の始業時刻前の業務について時間外勤務指示書が提出されていたと認めるに足りる証拠はない上、時間外勤務時指示書記載の理由はいずれも会議ないし全体会議を理由としたものであり、かつ時間外労働の開始時刻はいずれも所定の終業時刻から時間的間隔があるが、これについて時間外労働として処理した証拠はないことを併せ考えると、時間外勤務指示書による時間外労働は、会議等が所定労働時間外に設定されるなど時間外労働の指示が明示されたものについて主に使用されていたと認めるのが相当であり、同指示書の提出がないからといって、それ以外の始業時刻前及び終業時刻後の時間外労働の存在を否定するものとはいえないというべきである。

2 Aは、Y社の業務執行の任に当たる理事であったところ、CやDの職員の労働管理については、Bが施設長としてその責任を有していたこと、Bは、職員の労働時間管理に用いられていたタイムカードを廃止し、職員に時間外勤務指示書を提出させることによって時間外労働を把握しようとしていたことが認められる。そうすると、AがBの施設長として管理業務にどの程度の関与をしていたかは証拠上も明らかではないものの、Y社では時間外勤務指示書の提出による時間外労働の把握に努めていたと考えられるのであって、その適不適の問題は措くとしても、Bにおいて、Xらの割増賃金請求を妨害した、あるいは、Xらに割増賃金が具体的に発生していることを認識しながらあえてこれを支払わなかったとまでいうことはできず、Xらに対する割増賃金の未払について、Bに不法行為上の故意又は過失があったとまでは認められない。

3 X1がBへの報告を懈怠したことが就業規則18条の懲戒事由に該当するとして、訓告の懲戒処分として反省文を提出させたのであれば、それをもって懲戒処分としては終了したとみられる上、さらに減給というより重い懲戒処分をしなければならない必要性・相当性を認めるに足りる証拠はなく、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められない

みなさん、2800万円、払えます?

日頃から顧問弁護士の指示の下で適切に労務管理をしたほうが絶対に費用対効果がいいです。

まあ、多くの人は、病気にならないと健康のありがたさはわからないのです。

賃金184 横領行為と退職金不支給(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、横領行為に基づき不支給とされた未払退職金請求に関する裁判例を見てみましょう。

日本郵便事件(大阪地裁令和元年10月29日・労判ジャーナル95号20頁)

【事案の概要】

本件は、Y社と労働契約を締結して勤務していたXが、横領行為を理由に懲戒解雇され、退職手当についても不支給とされたが、Xによる横領行為は全ての功労を抹消するほどの背信行為ではなく、少なくとも300万円の範囲では退職手当を受領する権利があるとして退職手当300万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件横領行為は、正にXが当時従事していたY社の中心業務の1つの根幹に関わる最もあってはならない不正かつ犯罪行為であり、出来心の範疇を明らかに超えたY社に対する直接かつ強度の背信行為であって、極めて強い非難に値し、被害額も多額に上り、その後の隠ぺいの態様も悪質性が高く、動機に酌むべき点も見当たらないから、XとY社との間の労働契約における退職手当は賃金の後払い的な性質をも併せ持つこと、被害については隠ぺい工作の一環によるもの及び金銭の支払いによるものにより回復されていること、Xは、旧郵政省時代から通算して約24年8か月余りの間、大過なく職務を務めており、本件横領行為を行ったc郵便局在勤中お歳暮の販売額に関するランキングで5位以上であったこと、Xが、Y社による事情聴取に応じ、最終的には非を認めて始末書や手記を提出し、本件横領行為の態様、隠ぺい工作、動機等についても明らかにしていることを十分に考慮しても、Xによる本件横領行為は、Xの従前の勤続の功を抹消するほど著しい背信行為といわざるを得ないから、Xは、退職手当規程の本件退職手当不支給条項の適用を受け、Y社に対し、退職手当の支給を求めることができない。

完全に比較衡量の問題ですので、結論としてどちらに流れるかは、担当する裁判官によって異なり得るところです。

もっとも、過去の裁判例を参考におおよその検討はつきますので、それらを参考にしながら退職金の支払いの是非、程度を判断しましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金183 固定残業代の有効要件を満たしていないと判断される場合とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、早出時間と固定残業代の成否に関する裁判例を見てみましょう。

清和プラメタル事件(大阪地裁令和元年8月22日・労判ジャーナル93号22頁)

【事案の概要】

本件は、プラスチック製品の製造、加工及び販売等を目的とするY社の元従業員XがY社に対し、労働契約に基づき、未払の時間外割増賃金等計約148万円等の支払、また、労働基準法114条に基づき、上記未払賃金のうち約84万円と同額の付加金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 割増賃金等(固定残業代)支払の有無について、Y社は、Xに対し、平成27年4月頃、所定の始業時間(午前8時)より早く出勤する早出時間について、固定残業手当として月額5万円の「その他手当」を支給し、午後5時以降の時間を別途残業時間として算定することを説明し、その了解を得た旨主張するが、「その他手当」の名目からはその性質がわからない上、それが固定残業代であることを示す契約書や就業規則等の定めは存しないし、また、Xが平成27年5月頃に残業手当がないことについて質問していることからすると、その時点でXが「その他手当」を残業代であると認識していなかったことが窺われ、さらに、Xの労働実態に差がないにもかかわらず、平成27年3月以前の残業手当の額より同年4月以降の残業手当と「その他手当」の合計額が相当程度高くなっていることからしても、「その他手当」に従前の残業手当以外のものが含まれることが窺われること等から、Y社による割増賃金等(固定残業代)支払の主張は理由がない。

また固定残業制度の運用ミスです。

もう裁判所の判断が固まってきていますので、奇を衒わず、有効要件を意識すれば、それほど難しい問題ではありません。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金182 総合職加算・勤務手当が法内残業の対価?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、総合職加算及び勤務手当が法内残業の対価であると認められた裁判例を見てみましょう。

富国生命保険事件(仙台地裁平成31年3月28日・労経速2395号19頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で労働契約を締結し、総合職として勤務したXが、退職後にY社に対し、在職中に時間外労働をしたと主張して、賃金請求権に基づく割増賃金+遅延損害金の支払を求めるとともに、上記割増賃金の不払について労働基準法114条に基づく付加金+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、17万0063円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 内務職員給与規定において、総合職加算についても、勤務手当についても、その支給対象者は法内残業時間に対する時間外勤務手当の支給対象外とされていることに照らすと、総合職加算も勤務手当も、法内残業時間に対する時間外勤務手当としての性質を有していると解するのが相当である。
この点、Xは、Xのように法内残業が恒常化している者の場合には、総合職加算の額も勤務手当の額も法所定の残業代に満たないから、これらを法内残業手当とみることはできないと主張する。
しかしながら、所定労働時間を超えていても、法定労働時間を超えていない法内残業に対する手当については、労働基準法37条の規制は及ばない。また、所定労働時間内の労働に対する対価と所定労働時間外の労働に対する対価を常に同一にしなければならない理由はないから、清算の便宜等のために残業時間にかかわらず法内残業手当の額を固定した結果、法内残業をした日の多寡によっては、法内残業に対する時間当たりの対価が、所定労働時間内の労働に対する時間当たりの対価を下回る結果となったとしても、それだけで直ちに違法ということはできない

各種手当に関するルールをしっかり理解して運用すれば、裁判所はしっかり認めてくれます。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金181 固定残業制度の有効要件とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、実際の時間外労働時間数との間に相当程度の差異がある時間外手当が固定残業代として有効とされた裁判例を見てみましょう。

飯島企画事件(東京地裁平成31年4月26日・労経速2395号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結した労働者であるXが、Y社に対し、①時間外労働等に係る割増賃金+遅延損害金、②労働基準法114条に基づく付加金+遅延損害金、③月例賃金の減額に同意していないとして、減額前後の月例賃金の差額分合計26万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件雇用契約における時間外手当は、本件雇用契約締結当初から設けられたものであり、その名称からして、時間外労働の対価として支払われるものと考えることができる上に、実際の時間外労働時間を踏まえて改定されていたことを認めることができる
これらの事実によれば、時間外手当は、時間外労働に対する対価として支払われるものということができ、また、時間外手当と通常の労働時間の賃金である基本給とは明確に区分されているから、時間外手当について、有効な固定残業代の定めがあったということができる。

2 これに対し、Xは、固定残業手当について、時間当たりの単価や、予定する時間外労働等に係る時間数が示されていないため、通常の労働時間の賃金である部分と時間外労働に対する対価である部分とが明確に区別されていないと主張する。
しかし、有効な固定残業代の定めであるためには、必ずしもXが指摘する各点を示すことは必要ないと解されるので、Xの上記主張を採用することはできない。

3 Xは、Y社が主張する実際の時間外労働に係る時間数と、上記の時間数が著しく異なるため、時間外手当は、時間外労働の対価としての性質を有しないとも主張する。そして、確かに、Y社が給与計算において考慮した時間外労働等に係る時間数と、上記時間数は相当程度異なるが、上記の各事実が認められることのほか、Y社の給与計算においてコース組みに要した時間が含まれていないこと、Y社の給与計算によっても平成28年2月16日から同年3月15日の間に38時間以上、平成30年1月16日から同年2月15日の間に47時間以上時間外労働をしていたことを考慮すると、上記判断は左右されない。

最近は、上記判例のポイント2のような判断が主流ですね。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金180 長時間労働を理由とする精神疾患未発症事案における損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、長時間労働に従事させたことに対し、疾患未発症でも損害賠償請求が認められた裁判例を見てみましょう。

狩野ジャパン事件(長野地裁大村支部令和元年9月26日・ジュリ1539号4頁)

【事案の概要】

Xは、Y社と、平成24年5月ないし6月に無期労働契約を締結し、Y社の製麺工場で小麦粉をミキサーに手で投入する作業等を行っていた。

Xは、平成27年6月から平成29年6月までの間、平成28年1月と平成29年1月を除く全ての月で月100時間以上(平成28年1月と平成29年1月も月90時間以上、長いときには月160時間以上)の時間外等労働を行っていた。

Xは、Y社に対し、①時間外、休日、深夜労働等に対する未払賃金、②労基法114条に基づく付加金、③長時間労働による精神的苦痛に対する慰謝料等の支払いを求めて提訴した。

【裁判所の判断】

請求一部認容

【判例のポイント】

1 Xは、2年余にわたり、長時間の時間外等労働を行った。Y社は36協定を締結することなく、または、法定の要件を満たさない無効な36協定を締結して、Xを時間外労働に従事させていた上、タイムカードの打刻時刻から窺われるXの労働状況について注意を払い、Xの作業を確認し、改善指導を行うなどの措置を講じることもなかったことによれば、Y社には、安全配慮義務違反があったといえる。

2 Xが長時間労働により心身の不調を来したことを認めるに足りる医学的な証拠はないが、Xが結果的に具体的な疾患を発症するには至らなかったとしても、Y社は安全配慮義務を怠り、2年余にわたり、Xを心身の不調を来す危険があるような長時間労働に従事させたものであるから、Xの人格的利益を侵害したものといえる。Xの精神的苦痛に対する慰謝料は、30万円をもって相当と認める。

上記判例のポイント2は押さえておきましょう。

金額は大きくありませんが、担当裁判官によってはこのような事案でも未払賃金の他に慰謝料も認めます。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金179 変形労働時間制を有効に運用するためには?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、未払割増賃金等支払請求と供託に関する裁判例を見てみましょう。

東洋テック事件(大阪地裁令和元年7月4日・労判ジャーナル92号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員らが、Y社に対し、労働契約に基づき、それぞれ平成24年10月から、元従業員Cについては平成26年7月まで、元従業員Bについては同年8月まで、元従業員A及びDについては同年10月まで、それぞれ毎月25日を支払期日とする労働基準法37条1項所定の割増賃金等の支払、同法114条に基づく付加金の支払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 1か月以内の期間の変形労働時間制は、法定労働時間の規定にもかかわらず、特定の日又は特定の週において、法定労働時間を超えて、労働者に労働させることができるとするものであるから、変形労働時間制が労基法の要件を満たさず、その効力を生じない場合には、法定労働時間を超えて、労働者に労働させることができなくなるにとどまるものであって、当事者間の契約内容となっている月間の所定労働時間数に影響を及ぼすものではないと解するのが相当であるところ、本件では、元従業員らは、無効とされる1か月以内の期間の変形労働時間制によって定められた勤務シフトに従って、勤務をしているが、Y社が、給与規則中の割増賃金額の計算や、労働組合との労使協定の締結において、月所定労働時間数が163時間であることを前提としていることに照らすと、Y社とその従業員との間の契約内容は、月所定労働時間数が163時間となり、かかる内容は、変形労働時間制が無効であっても影響を受けるものではないから、労働基準法施行規則19条1項4号にいう「月における所定労働時間数」は、本件の場合、163時間であると認められる。

2 Y社は、元従業員らに対して支払うべき割増賃金額全てにつき、供託を行っているから、Y社は元従業員らに対する割増賃金等の支払債務を免れることができる。

変形労働時間制を採用しつつ、法定の要件を満たしていない会社は山ほどあります。

固定残業制度と同様、やるのであれば、中途半端にやらないことがとても大切です。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

賃金178 固定残業制度が無効とされるのはどんなとき?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。
96日目の栗坊トマト。もうそろそろ終了ですかね。

今日は、固定残業代としての賃金増額とその後の減額の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

メディカルマネージメントコンサルタンツ事件(大阪地裁令和元年7月16日・労判ジャーナル92号20頁)

【事案の概要】

本件は、Y社で勤務している従業員Xが、平成27年10月分からの基本給増額分が、平成28年10月支払分の賃金から減額されたが、同減額は無効であるなどとして、減額分の賃金(基本給及び賞与の減額分)等の支払を求め、時間外労働に対する賃金が支払われていないとして、未払時間外手当等の支払を求めるとともに、労働基準法114条本文に基づく付加金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

賃金減額分等支払請求認容

未払賞与等支払請求一部認容

未払割増賃金等支払請求認容

付加金等支払請求一部認容

【判例のポイント】

1 平成27年9月分までのXの給与支払明細書には、基本給が18万円である旨記載され、試用期間が経過した平成27年10月分以降のXの給与支払明細書には、基本給が20万円である旨記載されていることが認められ、そして、Y社代表者は、平成27年10月分からの基本給の増額について、Xに対し、「試用期間も終了して・・・残業していただくことになるから・・・残業代も込みで2万円増額しますという臨時昇給の旨を申し渡し」たと供述するところ、同供述によれば、当該2万円の増額は、残業代込みでの臨時昇給であると認められ、そうすると、平成27年10月分からの基本給の増額分には、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とが混在していることになるから、上記基本給の2万円の増額全部が残業代見合いのものであると認めることはできないし、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することもできないから、平成27年10月分からの基本給2万円の増額分は、残業代であるとみることはできず、給与支払明細書記載のとおり、基本給であるとみるほかないから、Xの、Y社に対する、平成28年10月分以降の基本給2万円の減額分の未払賃金の請求は、理由がある。

いつもながら固定残業制度の運用ミスです。

そんなに難しくないのですが、まだまだ単純なミスがとっても多いです。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金177 当直時間帯の仮眠時間は労働時間?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

81日目の栗坊トマト。現在、実が4つできています。

今日は、当直時間帯の労働時間性に関する裁判例を見てみましょう。

KSP・WEST事件(大阪地裁令和元年5月30日・労判ジャーナル91号40頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社に対し、労働契約に基づき、平成27年10月から平成28年9月まで毎月20日を締日とし、翌月5日を支払期日とする労働基準法37条1項所定の未払割増賃金合計約602万円等の支払、平成28年9月21日から同年10月20日までの未払割増賃金約17万円等の支払、労働基準法114条所定の付加金等の支払をそれぞれ求めた事案である。

【裁判所の判断】

一部認容

【判例のポイント】

1 XとY社との間で交わされた雇用契約書には、基本給月額25万円、職種手当月額3万円であると記載されていることからすると、Xの賃金は、基本給月額25万円、職種手当月額3万円の合計28万円であると認められ、本件賃金規程は、職務手当について、割増賃金として支払う旨を定めているものの、職種手当については、何ら言及されていないから、Xの労働契約の内容上、職種手当が、労基法37条1項所定の割増賃金について支払われる趣旨のものであるとは認められない。

2 当直時間帯における仮眠時間について、仮眠時間中の保安警備は、仮眠中に起こされて業務に従事するよう命じられることはなかったことから、Xは、所定の仮眠時間において、労働契約上の役務の提供を義務付けられていなかったものと評価することができ、また、当直時間帯における食事休憩について、当直勤務においては、労働契約上、30分の食事休憩が予定されているから、かかる時間については、労働契約上役務の提供を義務付けられているとはいえず、そして、その他の休憩時間について、Xは、雇用契約書によると、労働契約上、午前9時から午後5時45分の時間帯において、1時間の休憩を取得することが予定されており、労働契約上、役務の提供を義務付けられているということができず、以上より、当直時間帯における仮眠時間及び食事休憩時間並びに午前9時から午後5時45分の勤務時間帯のうち1時間については、労働時間に該当しない。

上記判例のポイント1はもったいないですね。

「職種手当」と「職務手当」。似て非なる手当。固定残業代として認められるか、基礎賃金に含まれるか・・・大きな違いです。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金176 固定残業制度が有効と判断される場合とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

47日目の栗坊トマト。この休日中に成長を加速させたようです!

今日は、プランナーにおける定額残業代の割増賃金該当性に関する裁判例を見てみましょう。

結婚式場運営会社A事件(東京高裁平成31年3月28日・労判1204号31頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社に対し、Y社との間の雇用契約に基づいて、未払賃金等512万1111円(残業代483万3379円、遅延損害金28万7732円)+遅延損害金+付加金の支払を求めた事案である。

原審は、法内残業代87万2095円、時間外割増賃金224万1433円+遅延損害金並びに155万1380円+遅延損害金の支払を求める限度でXの請求を認容したところ、X及びY社が、同判決を不服として控訴した。

【裁判所の判断】

1 Y社は、Xに対し、3万9565円+遅延損害金を支払え

2 Xのその余の請求を棄却する。

3 Xの本件控訴を棄却する。

【判例のポイント】

1 被用者が時間外労働等を立証した場合に時間外労働手当等が発生するかどうかと、定額残業代の約定として効力を有するかどうかとは、別の問題であって、使用者の労働時間管理の有無によって定額残業代の効力が左右されるものとはいえない

2 本件特約によれば、職能手当は、時間外・休日・深夜割増賃金として支給されるものであって、基本給と明確に区分されており、その割合賃金に適用される基礎賃金の1時間当たりの金額(残業単価)を具体的に算定することも可能であるから、明確性の要件に欠けることはないというべきである。

3 本件雇用契約書及び本件特約によれば、職能手当相当額と労働基準法所定の割増賃金との差額精算の合意は存在している上、支給が行われた場合に、その超過分について割増賃金が別途支払われることは労働基準法上当然に求められるから、差額の精算合意を定額残業代の定めの有効要件とする必要はない

4 職能手当が約87時間分の時間外労働等に相当することをもって、給与規程及び本件雇用契約書において明確に定額残業代と定められた職能手当につき、時間外労働等の対価ではなく、あるいはそれに加えて、通常の労働時間内の労務に対する対価の性質を有すると解釈する余地があるというには足りない。

5 Y社は、実際に行われた時間外労働等の時間に基づいて計算した割増賃金の額が、職能手当で定めた定額割増賃金の額に満たない月があったとして、Xに対し、その差額を請求する権利があることを前提に相殺の主張をするが、一般に、定額残業代に関する合意がされた場合についての当事者の合理的意思解釈としては、実際に行われた時間外労働等の時間に基づいて計算した割増賃金の額があらかじめ定められた定額割増賃金の額に満たない場合であっても、満額支払われると解するのが相当である。XとY社との間の本件雇用契約においても同様であって、差額を請求しない旨の合意があったと解するのが相当であるから、Y社の差額請求及びその存在を前提とする相殺の主張は認められない。

いつも言っていることですが、しっかり要件を満たしながら運用している限り、裁判所はちゃんと固定残業制度を認めてくれます。

是非、痛い目に合う前に、ちゃんと賃金制度を運用するようにしましょう。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。