Category Archives: 賃金

賃金6(リンガラマ・エグゼティブ・ラングェージ・サービス事件)

おはようございます。

さて、今日は、割増賃金に関する裁判例について見ていきましょう。

リンガラマ・エグゼクティブ・ラングェージ・サービス事件(東京地裁平成11年7月13日・労判770号120頁)

【事案の概要】

Y社は、語学研修等を業とする会社である。

Xは、Y社の従業員である。

Xは、全国一般労組を通じてY社に対し残業代を請求した。

Y社は、Xに残業を命じたわけではないとして、割増賃金の支払義務を負わないと主張し争った。

【判例のポイント】

残業代の請求は棄却。

【判例のポイント】

1 使用者が労働者に対し労働時間を延長して労働することを明示的に指示していないが、使用者が労働者に行わせている業務の内容からすると、所定の勤務時間内では当該業務を完遂することはできず、当該業務の納期などに照らせば、所定の勤務時間外の時間を利用して当該業務を完遂せざるを得ないという場合には、使用者は当該業務を指示した際に労働者に対し労働時間を延長して労働することを黙示に指示したものというべきであって、したがって、当該労働者が当該業務を完遂するために所定の勤務時間外にした労働については割増賃金の支払を受けることができるというべきである。

2 Xが行っていた業務の内容からすると、Xの所定の勤務時間内では当該業務を完遂することはできず、当該業務の納期などに照らせば、所定の勤務時間外の時間を利用して当該業務を完遂せざるを得ないということは困難であり、仮に所定の勤務時間外の時間を利用して当該業務を完遂せざるを得なかったと認め得るとしても、Xが果たしてXの主張するとおりの時間数だけ残業したことあるいは少なくともXが確実に残業をしていたといえる残業時間数を認めることはできないというべきである
そうすると、その余の点について判断するまでもなく、Xの残業代の請求は理由がない。

この裁判例は、いろんな点で参考になります。

まずは、時間外労働を「黙示」に指示したと判断される場合があり得るという点。

この点は、従業員としては、認識しておくメリットが高いですね。

問題は、訴訟になった場合の立証方法です。

実際には、「黙示」の指示なんてものは存在しないわけですから、裁判所に認定してもらう必要があるわけです。

今回のケースでも、一般論としては、裁判所は、「黙示」の指示という解釈があり得ると判断しましたが、本件に関しては、「黙示」の指示の存在を否定しています。

そんなに簡単ではないということです。

少なくともざっくりとした立証では、「黙示」の指示は認定してもらえないということですね。

この点は、従業員、会社双方にとって重要なポイントです。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金5(日本セキュリティシステム事件)

おはようございます。

さて、今日は、割増賃金に関する裁判例について見ていきましょう。

日本セキュリティシステム事件(長野地裁佐久支部平成11年7月14日・労判770号98頁)

【判例のポイント】

1 Y社の賃金規定は、時間外手当および深夜手当について、基本給のみを基準とする旨の規定があるが、労基法37条に照らし、基準賃金に基本給のほか、職能給、物価手当(夜勤手当)、安全手当、常駐手当、食事手当を含めて算定すべきである

2 時間外手当及び深夜手当は、賃金台帳、タイムカード、現実の勤務を記載した警備勤務表に基づいて、就業規則に基づく賃金規定に定められた複雑な計算方法により算定すべきものであるところ、これらの書類はY社において所持し、XらはY社から交付された各月の給料明細書を所持しているに過ぎないから、Xらにおいて容易に算定することができないことは明らかである。このような場合、消滅時効中断の催告としては、具体的な金額及びその内訳について明示することまで要求するのは酷に過ぎ
請求者を明示し、債権の種類と支払期を特定して請求すれば時効中断のための催告として十分である

3 Xらは、組合結成後、数回の団体交渉、労働委員会での斡旋手続、催告の手続を行い、最終的に本件訴訟の提起に至ったものであり、必ずしも、権利の上に眠っていたというものではない。また、労働組合結成後いきなり訴えを提起せず、右の各手続を履行したことは、労使対等の原則に基づく労使間の自主的な紛争解決を期待する憲法、労働組合法の基本理念に合致するものである。
その上、Xらには、給与明細書のほかは時間外手当、深夜手当を算出すべき資料がなく、時間外手当、深夜手当の計算に相当程度の準備期間を要することはY社においても十分に了知していたはずである。
このような経過のなかで、Y社が、提訴後2年4か月を経て時効を援用することは信義にもとり権利濫用として許されないものというべきである

このケースでは、裁判所は、Xらの請求を全面的に認容し、Y社に総額約3000万円の支払いを命じました。

参考になる点は、消滅時効中断の催告に関する点と消滅時効を援用することを権利濫用とした点です。

この裁判では、Xらは、在職当時の平成2年11月支払分から平成5年4月支払分までの間の時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金を請求しています。

とても参考になる裁判例ですね。

不法行為という主張と時効援用は権利濫用であるという主張は、従業員にとっては大きな武器になります。

会社にとっては、予め防御しておかなければいけない重要なポイントです。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金4(ディバイスリレーション事件)

おはようございます。

さて、今日も引き続き割増賃金に関する裁判例を見ていきます。

ディバイスリレーションズ事件(京都地裁平成21年9月17日・労判994号89頁)

【判例のポイント】

1 時間外・深夜労働の手当を支払わないことについて、使用者に不法行為が成立し得るのは、使用者がその手当(賃金)の支払義務を認識しながら、労働者による賃金請求が行われるための制度を全く整えなかったり、賃金債権発生後にその権利行使をことさら妨害したなどの特段の事情が認められる場合に限られる

2 もっとも、Xらは、消滅時効が成立しない期間の未払時間外・深夜労働の手当については、労働契約に基づきY社に賃金請求権に基づいて請求できるのであるから、未払時間外・深夜労働の手当相当額の損害が発生したとはいえず、不法行為が成立する余地はない

3 消滅時効の援用が権利濫用となり得るのは、債務者がその態度・言動により債務の弁済が確実になされるであろうとの信頼を惹起させ、債権者に時効中断の措置を採ることを怠らせるなどした後、時効期間が経過するや態度を変えて時効を援用するなど、例外的な事情が認められる場合に限られると解される。
→Y社にこのような事情は認められない。

4 付加金の請求について、Y社は、Xらの実労働時間を少なく算定したり、Xらの就業月報を改ざんするなど、Xらの実労働時間を短くする悪意うな行為をしており、Xらに支払うべき賃金を不当に少なくしようという姿勢が顕著である。そして、Y社は、現在に至るまでXらに対し、時間外・深夜労働に対する賃金を支払っていない。
もっとも、証拠によれば、Y社は、Xら代理人からの請求に応じ、本来支払われるべき額よりも低い額ではあるが、一定程度の金額を支払おうとする意思もあったことは認められる

以上の諸事情を考慮し、Y社に対し、未払賃金の8割に相当する付加金の支払いを命じるのが相当である

この裁判例は、参考になる点がたくさんあります。

割増賃金を支払わないことが不法行為に該当するかについて判断しており、参考になります。

杉本商事事件と比較すると、不法行為が成立する範囲は狭いです。

このケースでは、結果的には、不法行為の成立を認めませんでした。

・Y社は、時間外・深夜労働に対する手当の支払義務を認識していた。
・Y社は、実労働時間や休憩時間がXらに不利に算定していた。
・Y社は、Xらの就業月報を改ざんし、Xらの未払時間外・深夜割増手当の請求を妨害した。

このような事情があったにもかかわらず、裁判所は不法行為の成立を認めませんでした。

付加金も全額ではなく、8割のみ認められています。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金3(ゴムノイナキ事件)

おはようございます。

さて、今日は、昨日に引き続き割増賃金に関する裁判例を見ていきます。

ゴムノナイキ事件(大阪高裁平成17年12月1日・労判933号69頁)

【判例のポイント】

1 労基法上の労働時間とは、労働者が使用者の明示又は黙示の指揮命令ないし指揮監督の下に置かれている時間であると解すべきところ(最高裁判所平成12年3月9日判決参照)、Xの超過勤務自体、明示の職務命令に基づくものではなく、その日に行わなければならない業務が終業時刻までに終了しないためやむなく終業時刻以降も残業せざるを得ないという性質のものであるため、Xの作業のやり方等によって、残業の有無や時間が大きく左右されることからすれば、退社時刻から直ちに超過勤務時間が算出できるものではない

 しかし、他方、タイムカード等による出退勤管理をしていなかったのは、専らY社の責任によるもので、これをもってXに不利益に扱うべきではないし、Y社自身、休日出勤・残業許可願を提出せずに残業している従業員の存在を把握しながら、これを放置していたことがうかがわれることなどからすると、時間外労働の立証が全くされていないとして扱うのは相当ではない

3 以上によれば、本件で提出された全証拠から総合判断して、ある程度概括的に時間外労働時間を推認するほかない
Xが主張する午後7時30分以降の業務は毎日発生するものではないこと、X自身、繁忙期以外の時期には、やろうと思えば午後10時には退社できたことを自認していること、Xの上司である営業所所長作成の文書では、Xは、午後9~12時頃には退社していた旨の記載があること等から、Xは、平成13年5月以降平成14年6月までの間、平均して午後9時までは就労しており、同就労については、超過勤務手当の対象となるとされ、概ね午後7時30分までの超過勤務を認定した一審判決が変更された。

4 Xは、休日に出勤していたとしても、休日に超過勤務手当の対象となる労基法上の労働がされたとまでは認めがたい。

5 Y社自身、タイムカードを導入しないなど自ら出退勤について手当が支給されずに放置されていたこと、現に、労働基準監督署からその旨の是正勧告も受けていることなどの事情を考慮すると、Y社が主張する事由を考慮しても、付加金の支払いを命ずる

タイムカード等により労働時間の管理が正確になされていない場合には、日記やメモにより始業時間と終業時間を残しておきましょう。

従業員のみなさんは、この裁判例を大いに参考にするべきです。

労働時間の管理をしっかりしていない社長は、対策を講じましょう。

多くの裁判例を見ていると、いろんなヒントが出てきます。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金2(杉本商事事件)

おはようございます。

さて、今日は、割増賃金についての裁判例を見てみましょう。

杉本商事事件(広島高裁平成19年9月4日・労判952号33頁)

【判例のポイント】

1 Y社の広島営業所においては、平成16年11月21日までは出勤簿に出退勤時刻が全く記載されておらず、管理者において従業員の時間外勤務時間を把握する方法はなかったが、時間外勤務は事実としては存在し、Xの時間外勤務時間は1日当たり平均約3時間30分に及ぶものであった。
同営業所の管理者は、Xを含む部下職員の勤務時間を把握し、時間外勤務については労働基準法所定の割増賃金請求手続を行わせるべき義務に違反したと認められる。
Y社代表者においても、広島営業所に所属する従業員の出退勤時刻を把握する手段を整備して時間外勤務の有無を現場管理者が確認できるようにするとともに、時間外勤務がある場合には、その請求が円滑に行われるような制度を整えるべき義務を怠ったと評することができる。
Xは、不法行為を理由として平成15年7月15日から平成16年7月14日までの間における未払時間外勤務手当相当分をY社に請求することができるというべきである

2 付加金支払義務は、裁判所の命令が確定することによって発生するものである。そして、裁判所が付加金の支払を命ずるには、過去のある時点において不払事実が存在することが必要であると解するのが相当である(最高裁第二小法廷昭和35年3月11日判決、同第二小法廷昭和51年7月9日判決参照)。なぜなら、付加金制度は、労働基準法違反に対する制裁という面とともに、手当の支払確保という目的を有するものであるから、同法違反があっても、義務違反状態が消滅した後においては、裁判所は付加金支払を命ずることはできないと解するのが相当であるからである。
本件において、原判決後、Y社が未払時間外勤務手当の全額を支払ったことは先に述べたとおりである。 
よって、Xの付加金請求は理由がない

この裁判例のポイントは2つです。
1 時間外手当請求権が労基法115条によって時効消滅した後においても、使用者側の不法行為を理由として未払時間外勤務手当相当損害金の請求が認められた
2 使用者が口頭弁論終結時点までに未払時間外勤務手当全額を支払った場合には、裁判所は、労基法114条の付加金の支払を命ずることができない。 

特に1が大きいですね。

割増賃金の請求権の時効は2年です。

不法行為の時効は3年です。1年分多く請求できるわけです。

裁判においても、時効を考慮して2年分を請求する例が多いので、非常に大きな意義があります。

従業員としては、この裁判例を大いに参考にすべきです。

すべての割増賃金未払い事件で、会社の不法行為責任が認められるわけではありませんが、本件で、不法行為と判断される特段の事情があったかというと、それほど特殊な事情はありません。

よくあるケースだと思いますが・・・。

それゆえに会社としては、嫌な裁判例です。気をつけましょう。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

賃金1(遅刻者が残業したら・・・)

遅刻した従業員が、その日、残業した場合に、残業時間に対する割増賃金を支払う必要があるか?

例えば、午前8時~午後5時(途中1時間休憩)の勤務で、従業員が午前9時に出勤し、午後6時まで勤務した場合、午後5時から6時までの勤務は、割増賃金の対象となるでしょうか?

割増賃金は支払う必要がありません。

割増賃金を支払うのは、法定労働時間(8時間)を超える労働をした場合です。
午前9時から午後6時までの勤務(途中1時間休憩あり)では、法定労働時間の8時間を超えていません。
よって、割増賃金は支払う必要はないわけです。