賃金201 変形労働時間制が有効と判断されるためには?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、賃金減額等の有効性及び固定残業代の定めの適法性に関する裁判例を見てみましょう。

木の花ホームほか1社事件(宇都宮地裁令和2年2月19日・労判1225号57頁)

【事案の概要】

本件は、Y社及びその親会社A社の従業員であったXが、(1)Y社に対し、雇用契約に基づき、①一方的な給与減額により生じた未払賃金24万9999円及び②未払の時間外手当(割増賃金)859万6109円+遅延損害金、③労働基準法114条に基づく付加金836万8740円+遅延損害金の支払、(2)A社に対し、雇用契約に基づき、①一方的な給与減額により生じた未払賃金等127万9496円及び②未払の時間外手当(割増賃金)662万5869円+遅延損害金の支払、③労働基準法114条に基づく付加金648万6036円+遅延損害金の支払、そして、(3)Y社らに対し、Y社ら代表取締役らからパワハラ被害を受けたとして、共同不法行為に基づき、連帯して、損害賠償金520万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、未払賃金24万9999円+遅延損害金を支払え

A社はXに対し、未払賃金122万3496円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、割増賃金551万3847円+遅延損害金を支払え

A社はXに対し、割増賃金555万1406円+遅延損害金を支払え

Y社はXに対し、付加金265万4516円+遅延損害金を支払え

A社はXに対し、付加金271万1931円+遅延損害金を支払え

被告らは、Xに対し、連帯して、慰謝料100万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 本件各雇用契約の内容として本件固定残業代の定めがあることは事実としても、その運用次第では、脳血管疾患及び虚血性心疾患等の疾病を労働者に発症させる危険性の高い1か月当たり80時間程度を大幅に超過する長時間労働の温床ともなり得る危険性を有しているものというべきであるから、「実際には、長時間の時間外労働を恒常的に行わせることを予定していたわけではないことを示す特段の事情」が認められない限り、当該職務手当を1か月131時間14分相当の時間外労働等に対する賃金とする本件固定残業代の定めは、公序良俗に違反するものとして無効と解するのが相当である。

2 本件変形労働時間制の適用が認められるためには、労使協定、就業規則又は就業規則に準ずるものにおいて、変形労働時間制の実施を定め、その中で、①労働時間の総枠の定め、②変形期間における労働時間の特定、③変形期間の起算日を明示することが必要であると解されるところ、本件全証拠によっても、Y社らにおいては、ただ単にカレンダーが作成されているだけで、具体的にどの日に何時から何時まで勤務するということの取決め等があったものとは認められず、本件変形労働時間制は、上記②の要件を欠き適法性を欠くものというよりほかはない。
よって、Y社らの本件変形労働時間制に関する主張は、その余の点を検討するまでもなく理由がない。

3 賃確法6条2項、賃確法施行規則6条4号にいう「合理的な理由により」とは、裁判所又は労働委員会において事業主が確実かつ合理的な根拠資料に基づく場合だけでなく、合理的な理由がないとはいえない理由により賃金の全部又は一部の存否を争っている場合も含むものと解するのが相当である。
・・・Xが本件各給与減額により生じた各未払賃金の支払を求めたのに対し、Y社らがこれを当庁において争うことには「合理的な理由」がないとはいえないし、また、前記で検討したとおり、本件において実労働時間の認定根拠とされる本件サイボウズの記載には信用性に問題がある部分が認められることに照らすと、Y社らが当庁においてXからの本件割増賃金の請求を争うことには「合理的な理由」がないとはいえない。

最高裁判例により、固定残業制度の要件論については終息したかのように思えましたが、ここに来て、再び、過度な固定残業制度について無効と判断する裁判例が散見されます。

「やりすぎ注意」という一般論は、労務管理(に限りませんが)においては常に持っておく必要があります。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介1097 できる人とできない人の小さな違い(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

帯にはこう書かれています。

能力やスキルの差ではない ただ”心の姿勢”を変えるだけ

そのとおりだと思います。

もともとのタイトルは「ATTITUDE IS EVERYTHING」です。

まさにそういうことです。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

聖書に『鏡は人の顔を映し出すが、その人が実際にどういう人物であるかは、どういう友人を選んでいるかに表れる』という言葉がある。・・・子どものころ、親はわが子の友だちに会って、ありとあらゆることを知ろうとした。なぜか?子どもが友だちの影響を非常に受けやすいことや、癖や言動が似てくる傾向があることなどを知っているからだ。なるほど、親が心配するのももっともだ。」(143頁)

環境が与える影響を過小評価しないことが大切です。

どのような人たちと時間を過ごすか、誰の影響を受けるかによって人生は良くも悪くも大きく変わります。

親、友人、同僚、メンター・・・すべては自分がこれまでに受けてきた影響の産物が今の自分なのです。

未成年の頃は難しいですが、大人になれば、環境は自ら選択して変えることができます。

環境を過小評価しないことです。

解雇333 出産後1年経過していない保育士に対する解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、出産後1年を経過していない保育士に対する解雇に関する裁判例を見てみましょう。

社会福祉法人緑友会事件(東京地裁令和2年3月4日・労判1225号5頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されていたXが、Y社がXに対してした平成30年5月9日付解雇が客観的合理的理由及び社会通念上相当性があるとは認められず、権利の濫用に当たり、また、均等法9条4項に違反することから無効であると主張して、Y社に対し、①労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、②労働契約に基づく賃金支払請求として、平成30年5月から平成31年4月まで及び令和2年6月以降、毎月25日限り、月額賃金22万1590円+遅延損害金の支払、③労働契約に基づく賞与支払請求+遅延損害金、④本件解雇が違法であり、不法行為に当たると主張して、慰謝料等220万円等+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

解雇無効

慰謝料等33万円認容

【判例のポイント】

1 均等法9条4項は、妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対する解雇を原則として禁止しているところ、これは、妊娠中及び出産後1年を経過しない女性労働者については、妊娠、出産による様々な身体的・精神的負荷が想定されることから、妊娠中及び出産後1年を経過しない期間については、原則として解雇を禁止することで、安心して女性が妊娠、出産及び育児ができることを保障した趣旨の規定であると解される。同項但書きは、「前項(9条3項)に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。」と規定するが、前記の趣旨を踏まえると、使用者は、単に妊娠・出産等を理由とする解雇ではないことを主張立証するだけでは足りず、妊娠・出産等以外の客観的に合理的な解雇理由があることを主張立証する必要があるものと解される
そうすると、本件解雇には、客観的合理的理由があると認められないことは前記のとおりであるから、Y社が、均等法9条4項但書きの「前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したとき」とはいえず、均等法9条4項に違反するといえ、この点においても、本件解雇は無効というべきである。

2 解雇が違法・無効な場合であっても、一般的には、地位確認請求と解雇時以降の賃金支払請求が認容され、その地位に基づく経済的損失が補てんされることにより、解雇に伴って通常生じる精神的苦痛は相当程度慰謝され、これとは別に精神的損害やその他無形の損害についての補てんを要する場合は少ないと解される。
もっとも、本件においては、育児休業後の復職のために第1子の保育所入所の手続を進め、保育所入所も決まり、復職を申し入れたにもかかわらず、客観的合理的理由がなく直前になって復職を拒否され、均等法9条4項にも違反する本件解雇をされた結果、第1子の保育所入所も取り消されるという経過をたどっている。このような経過に鑑みると、Xがその過程で大きな精神的苦痛を被ったことが認められ、賃金支払等によってその精神的苦痛が概ね慰謝されたものとみることは相当ではない

妊娠・出産・育休中の女性従業員に対する解雇事案は、本件同様、極めてハードルが高いことを認識しましょう。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介1096 破壊的新時代の独習力(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。

帯には「先輩から時代遅れをコピーするな」と書かれています(笑)

「俺の時代はなー」的なあれです。たいてい泥臭いあれです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

新時代においては格差がさらに拡大するといわれています。人材が、価値創造者(新時代のスマート蟻)と価値消費者(キリギリス)とに大きく分かれるという見方も出てきています。典型的ないい方をすれば、前者は今までよりもっと仕事をして、仕事を人生の中心的な楽しみにする人であり、後者は消費を中心にして仕事は必要悪の手段としてとらえる人です。」(40頁)

今後ますますあらゆることについて格差が生じることは目に見えています。

はみ出し者を排除する教育により徹底的に画一化されてきたので、大人になってから差別化と言われても、多くの人が何をどうしたらよいのかわからないわけです。

みんなが右に行くときに、自分だけ左に行くという習慣がついていないため、恐怖で体が言うことを聞かないのです。

個として選ばれる存在にならないと、これから先の時代は本当に生きていくのが大変になるでしょう。

有期労働契約99 無期転換前の就業規則改正による更新回数の上限設定は有効か?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、無期転換前の就業規則改正と看護師に対する雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

地方独立行政法人山口県立病院機構事件(山口地裁令和2年2月19日・労判1225号91頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのある労働契約を締結して、Y社の運営する病院で看護師として勤務していたXが、Y社に対し、平成30年4月1日以降、同契約が更新されなかったことは労働契約法19条に違反するとして、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める事案である。

【裁判所の判断】

雇止め無効

【判例のポイント】

1 ・・・このような契約更新手続の状況からすれば、Xは、平成23年4月以降、反復継続して本件労働契約を更新されてきたものであり、その手続は、形式的に更新の意思の確認が行われるのみであって、勤務態度等を考慮した実質的なものではなかったということができる。
また、Xが従事していた看護業務は、臨時的・季節的なものではなく、恒常的業務である上、本件全証拠によっても、本件病院における有期職員と契約期間の定めのない職員との間で、勤務実態や労働条件に有意な差があるものとは認められない
したがって、Xが本件労働契約の契約期間満了時に本件労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるといえ、当該合理的な期待は、平成29年4月1日以前から生じていたものというべきである。

2 本件就業規則の改正の有効性については措くとしても、平成29年4月1日以前の段階で、Xには既に本件労働契約更新について合理的期待が生じており、本件就業規則の改正によって更新上限条項が設けられたことをもって、その合理的期待が消滅したと解することはできず、また、証拠によれば、本件就業規則の改正についてY社からXに対して具体的な説明がされたのは、平成29年4月契約書が取り交わされた後である同月12日又は同月13日であることが認められ、Xが通算雇用期間の上限設定について認識していたとはいえないので、Xの本件労働契約更新に対する合理的期待が消滅したといえない。
・・・以上を総合すると、本件労働契約は、少なくとも労働契約法19条2号に該当する。

3 本件雇止めの原因は、B副部長の行った評価C(4点)にあるといえるので、B副部長の評価の客観的合理性を検討する必要があるところ、証拠によれば、B副部長がC(4点)と評価した根拠は、Xが過去に同僚とトラブルを起こしたことや、Xが異動の内示を受けてこれを拒否したことが2度あるとの認識のもと、Xが、自己の性格について、まじめで、気になることは見逃せず、協調性があり、まわりに柔軟に対応している旨を回答したことから、Xは自分の考えを押し通す性格で、協調性に問題があり、自分を客観的に評価できていないと判断した上、Xが異動について、納得ができれば異動できるが、納得できるまでは意見を言う旨を回答したことから、異動についての組織内の調整が難しいと判断したことにあると認められる。
しかし、Xの同僚との過去のトラブルについては、本件全証拠によっても、Xにどの程度の非が認められるのかが明らかではなく、また、Y社が主張するXの平成28年6月及び同年9月の異動の内示拒否の後にも、Xは平成29年4月に異動の内示を受け入れたことは当事者間に争いがない。また、証人Dによれば、Y社における異動命令は、当該職員が異動の内示を承諾することが前提とされていたことが認められるから、異動の内示は、異動命令に先立ち、異動を受諾するどうかについて検討する機会を与えるための事前の告知であり、その後に異動計画が撤回ないし変更される余地を残しているものと解される上、正規職員とは異なり、有期職員は内示の時点でしか異動の希望を述べることができなかったことが認められるため、Xの回答自体からB副部長のように判断することについて、必ずしも客観的合理性を有するものであるとはいえない(B副部長自身の問題ではなく、前記の判断のとおり、被告の行った本件面接試験自体が客観的合理性を担保されたものでないことが現実化したものである)。
したがって、B副部長が行ったC(4点)の評価についても、客観的合理性が欠けているといえ、本件雇止めは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない

上記判例のポイント2は注意が必要です。

5年ルールによる無期転換回避のためにやりがちなパターンなので気を付けてください。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介1095 なぜ星付きシェフの僕がサイゼリアでバイトするのか?(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

もうタイトルで掴みはOKですね。

飲食業でなくても、非常に参考になる考え方が書かれています。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

驕り高ぶらず、思考停止しないためにも、何でもいいから自分が一番下っ端になれる場をつくっておくのは大事です。例えばゼネコンの社員は、孫請けの土方に仕事を発注しますよね。もしその孫請け会社でバイトをしたら、そこで働く人の気持ちがわかるし、実際に現場がどう動いているのか体感として理解できるので、きっとよいリーダーになれると思います。」(114頁)

難しいですね(笑)

私で言いますと、ボクシングがそうですかね。

年が10も20も違う会員さんに教えてもらっていますからね。

できないことをできるようになりたいという欲求に年齢は関係ありません。

普段と違うことに挑戦して得ることもたくさんあるのですよ。

不当労働行為256 会社が決めたルールを強要してストライキの実施運用に介入する行為と不当労働行為(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、出席生徒数の減少を理由に非常勤講師である組合員2名の担当クラスを閉鎖したことが不当労働行為に当たらない、Y社がストを行う場合に事前予告を求める内容の文書をX労組に交付したことが不当労働行為とされた事案を見ていきましょう。

エヌ・シイ・シイ事件(東京都労委令和2年2月4日・労判1225号105頁)

【事案の概要】

本件は、①出席生徒数の減少を理由に非常勤講師である組合員2名の担当クラスを閉鎖したこと、及び、②Y社がストを行う場合に事前予告を求める内容の文書をX労組に交付したことが不当労働行為に該当するかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

①は不当労働行為にあたらない

②は不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 Y社が、出席生徒数が定員の3分の1にも満たないA3及びA4の担当クラスを閉鎖したことは、非組合員の場合と異なる対応であったとはいえず、Y社が、両人が組合員であることを理由に担当クラスを閉鎖したとまで認めることはできない。

2 本件要求書には、単に事前の予告を要請するだけではなく、その要請を受け入れない場合には、「正当なストライキではないと判断します」と記載されている。これは3日前までに予告のないストライキをした場合には、Y社が組合員に対して懲戒処分をするなどの可能性があることを示しているといえる。Y社の要請を受け入れなければ組合員へ不利益が生じる可能性があることを示しながらストライキの3日前までの事前予告を求める対応は、単なる要請ではなく、Y社が一方的に決めたルールを強要してストライキの実施運用に介入する行為であると評価せざるを得ない
したがって、Y社が組合に対し本件要求書を交付したことは、組合の運営に対する支配介入に当たる。

上記命令のポイント2は単なる要請であれば不当労働行為とは評価されないでしょうが、今回はそれを超えた内容であったため、不当労働行為と評価されています。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介1094 複業の思考法(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

シリコンバレー発スキルの掛け算で年収が増える複業の思考法」というタイトルです。

シリコンバレーの会社でソフトウェアエンジニアとして勤務されている方の本です。

シリコンバレーでの仕事の様子等も書かれており、刺激になります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

おそらくあなたは、100年も働きたくないんじゃないですか?私は100歳まで働くなんて、まっぴら御免です。早くリタイアして、南の島で一日中サッカーをしていたい。みなさん、自分に正直になりましょう。ラクをして豊かに暮らしたいなら、そういう生き方ができるように、キャリアを構築すればいいだけの話です。」(32頁)

人によって人生設計は異なりますが、この本の著者と同じように、早期リタイアを望んでいる方は、早い段階からそのような経済的準備をしていますね。

寿命がますます延び、年金がほとんどあてにならない状況から、通常は、働く期間はどんどん伸びていきます。

フローからストックへいかに移すか。

この発想がないと、早期リタイアは実現しません。

忙しさに流され、気が付いたら年老いていたなんて人生は送りたくありません。

自分の人生なのですから、生きたいように生きればいいのです。

賃金200 賃金減額についての労働者の同意の効力(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、賃金総額の25%減額への同意が労働者の自由な意思に基づくものでないとされた裁判例を見てみましょう。

O・S・I事件(東京地裁令和2年2月4日・労経速2421号22頁)

【事案の概要】

本件は、XがY社に対し、Y社は、Xを雇用していたが、Xがセクハラ等をしたとして、賃金を減額し、さらに、Xが行方不明となり連絡が取れなかったことにより退職したものとみなされたとしてXの就労を拒んだと主張して、雇用契約に基づき、①雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認(請求1)、②平成27年10月支給分の未払賃金(減額前の24万円から既払金を控除した残金1万7142円)及び同年11月分支給から平成30年3月支給分までの賃金(24万円の29か月分696万円)の合計697万7142円+遅延損害金の支払(請求2)、③平成30年4月から本判決確定の日まで弁済期である毎月10日限り賃金24万円+遅延損害金の支払(請求3)を求めるとともに、④会社法350条又は不法行為に基づき、慰謝料200万円+遅延損害金の支払(請求4)を求めた事案である。

【裁判所の判断】

XがY社に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

Y社は、Xに対し、131万9994円+遅延損害金を支払え。

Xのその余の請求をいずれも棄却する。

【判例のポイント】

1 労働契約の内容である労働条件は、労働者と使用者との個別の合意によって変更することができる。しかし、使用者が提示した労働条件の変更が賃金に関するものである場合には、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為があるとしても、労働者が使用者に使用されてその指揮命令に服するべき立場に置かれており、自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることに照らせば、当該行為をもって直ちに労働者の同意があったものとみるのは相当でなく、当該変更に対する労働者の同意の有無についての判断は慎重にされるべきである
そうすると、賃金の変更に対する労働者の同意の有無については、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく、当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも判断されるべきものと解するのが相当である(最高裁平成28年2月19日判決)。

2 本件契約書の内容は、Xを機能訓練指導員手当1か月1万円が支給される業務から外してその支給を停止するばかりでなく、その基本給を1か月23万円から18万円に減額し、賃金総額を25%も減じるものであって、これによりXにもたらされる不利益の程度は大きいというべきである。他方、Y社代表者はXに対し、本件合意に先立ち、XがY社に無断でアルバイトをしたとの旨や本件施設の女性利用者から苦情が寄せられている旨を指摘したのみであるといい、Y社代表者の陳述書や本人尋問における供述によっても、Y社代表者がXに対して上記のような大幅な賃金減額をもたらす労働条件の変更を提示しなければならない根拠について、十分な事実関係の調査を行った事実や、客観的な証拠を示してXに説明した事実は認められない
以上によれば、Xが本件契約書を交付された後いったんこれを持ち帰り、翌日になってからこれに署名押印をしたものをY社代表者に提出したという本件合意に至った経緯を考慮しても、これがXの自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するものとは認められない

3 以上の次第で、本件契約書の作成によっても、そこに記載された本件合意の内容へのXの同意があったとは認められないから、本件雇用契約に基づく賃金を基本給18万円のみに減額するとの本件合意の成立は認められない。

労働条件の不利益変更に際し、労働者の同意の効力が問題となることはよくあります。

同意書がありさえすればよいという発想が誤りであるということがよくわかる裁判例だと思います。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介1093 コンタクトレスアプローチ(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は本の紹介です。

サブタイトルは「テレワーク時代の営業の強化書」です。

コロナ以降、打合せの大半はZoom等により行われるようになったため、移動時間の無駄が大幅に削減されました。

営業もこれからはダイレクトなコンタクトが減っていきますので、やり方を変えていく必要があります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

最初にきっぱり断言しますが、営業会議のほとんどは『不要』です。私は『無駄の温床だから、いらない!』とまで感じています。当社は設立以来かれこれ30年になりますが、営業担当者を全員集めて行う営業会議を開いたことがありません。その時間がもったいないし、そもそもやる意味はあるのか、ということです。」(155頁)

いつも言っておりますが、世の中の会議の大半は無駄ですから。

その中でも特に無駄なのは、毎週とか毎月行われる定例会議です。

議題があろうがなかろうが開かれるあれです。

もはや会議をすることが目的になっていますので。

どれだけの時間を無駄にしているのでしょう。

幸い、私はそのような会議とは無縁の生活をしていますので関係ないのですが、組織というのは本当に無駄が好きですね。

保守的な会社であればあるほど、無駄だらけです。

会議に参加する時間があるなら、ジムで筋トレするほうがはるかに有意義です。