解雇331 懲戒解雇を有効に行うために必要なこととは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、不正ダウンロード等を理由とする懲戒解雇等の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

本多通信工業事件(東京地裁令和元年12月5日・労判ジャーナル100号54頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、譴責、減給並びに諭旨退職及び懲戒解雇の各懲戒処分の無効確認を求めるとともに、労働契約に基づき、未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件懲戒解雇の有効について、本件メールは、Y社の代表取締役等の役員を誹謗中傷し、これらの者や賞罰委員会の構成員を威嚇又は挑発する内容のものというべきであり、また、Xは、Y社からの度重なる指示に従わず同様の行為を繰り返しており、Xが本件メールを送信した行為は、就業規則所定の「他人を中傷または誹謗し名誉・信用を傷つけ損ないもしくは秩序を乱す流言飛語を行ったとき」、「経営に著しく非協力なとき、もしくは業務上の指揮命令に不当に反抗し誠実に勤務しないとき」、「その他、再三注意するも規律、義務に違反したとき」に該当するというのが相当であり、また、Xは、私用であるヤフーメールにアクセスし、ヤフーメールを作成中の状態にした上で、ヤフーメールの添付ファイルとして、X社内パソコンの「PC纏め」という名のフォルダから、Y社の社内情報(Xの給与明細、Y社の経営方針、暗証番号等)をアップロードし、アップロードを完了した。当該アップロードは、就業規則所定の「経営に著しく非協力なとき、もしくは業務上の指揮命令に不当に反抗し誠実に勤務しないとき」、及び「その他、再三注意するも規律、義務に違反したとき」に該当するというのが相当である。

ポイントは、「度重なる指示に従わず同様の行為を繰り返しており」という点です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介1072 知らないと後悔する定年後の働き方(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は本の紹介です。

この本を定年後に読んでも完全に手遅れです(笑)

その前にどのような準備をしたらよいかという話です。

とてもわかりやすく書かれており、参考になります。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

誰しも『自分は大丈夫』とどうしても思いがちですが、現役時代に世間水準の年収を得ていた人でも、病気や事故、あるいは熟年離婚による財産分与、子どもの引きこもりなどの理由により、簡単に下流老人化する姿が本書ではリアルに描かれています。迫りくる年金改革に対応し(支給開始年齢の後ろ倒し化&支給水準の低下)、また、自分が下流老人とならないためにも、これからは国や会社に寄りかかるだけではなく、年齢にかかわらず働きつづけるシナリオを、各自持っておくことが必要不可欠といえるでしょう。」(24頁)

私は、早晩、「老後」という概念は消滅すると思っています。

トランプさんや麻生太郎さんのように元気なうちはずっとばりばり仕事をするというのが理想です。

定年も年金制度や労働力不足との関係でどんどん引き上げられますから、親の世代の「老後」とは状況が大きく異なります。

このような時代においては、元気でいること、自分の価値を高める努力を続けること、生き甲斐に思える仕事をすることが今まで以上に大切なのではないかと思います。

賃金196 固定残業制度が有効と判断される場合とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、固定残業手当の合意の有無と配転命令の可否に関する裁判例を見てみましょう。

ソルト・コンソーシアム事件(東京地裁令和元年12月6日・労判ジャーナル100号52頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、会社在職中の平成28年1月稼働分から平成29年8月稼働分までの間の時間外・深夜・休日労働の割増賃金に未払いがあるなどと主張して、Y社に対し、労働契約に基づき、割増賃金約680万円等の支払を求め、労働基準法114条に基づき、同額の付加金等の支払を求め、Xに対する違法な配転命令があったなどと主張して、不法行為に基づき、慰謝料100万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

未払割増賃金等請求は認容

配転命令に関する不法行為に基づく損害賠償請求は棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、本件固定残業代の合意が認められるべき旨主張するところ、証人Dは、Xの採用面接時に、Xに時間外手当等の説明をした旨証言するが、Xとの2度にわたる面接のいずれにおいても各手当の具体的な金額を説明していないことを自認し、かかる合意内容を証する雇用契約書や労働条件通知書の作成もしていないところであって、その証言はたやすく措信できるものではなく、また、Y社は、本件雇用契約書を作成したことによって、Xが本件固定残業代の合意を追認したとみるべきであるなどとも主張するが、本件雇用契約締結時において本件固定残業代の合意を認めることができない以上、その変更は労働者であるXの労働条件の不利益変更に該当し、その不利益性に係る変更内容の具体的説明のない本件において、これがXの自由な意思に基づいてされたものとは認め難く、かかる不利益変更を有効とみる余地もないから、いずれにしても会社の主張は採用できない。

2 Xは、X・Y社間に、職種等の限定を含む本件限定合意が成立していた旨を主張し、本件配転はこれに反するものであった旨主張するが、この点を裏付ける的確な証拠はないから、採用することができず、また、Xは、Y社において配転命令権の濫用があった旨の主張もするが、業務上の必要性がおよそなかったことやXに著しい不利益が生じたとみるべきことを根拠付けるに足らず本件配転の時期が、XがY社に残業代の請求をした後であったからといって直ちにこれが不当な動機・目的に出たものであったとも認めるに足りず、損害も認めるに足りないから、不法行為の成立をいうXの主張は採用することができない。

いまだに固定残業制度についての争いが数多く起こっています。

残業代の消滅時効が延びており、いずれ5年になった際に、今と同じように有効要件を欠く固定残業制度を使い続けている会社は、とんでもないことになります。

今のうちに制度を見直すことを強くおすすめします。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

本の紹介1071 フォーカス!(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

タイトルのとおり、「フォーカス」することの重要性をこれでもかという程に説いています。

表紙には「『製品ラインの拡大』『経営の多角化』はやがて企業を滅ぼす!」と書かれています。

フォーカスせよ!ということです。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

この世には、万人にアピールする製品やサービスは存在しない。他人と違っていたいと思う人や、多数派が欲しがらないものを選ぼうとする人が必ずいる。・・・万人にアピールしようとするのは、ビジネスが陥る最大のミスのひとつである。自分の得意分野を確保し、それ以外のすべて排除してしまうのが正解だ。」(372頁)

さまざまな本で書かれていることではありますが、実践できる人、会社はそれほど多くありません。

勇気をもってターゲットを絞ることによって、サービス内容にエッジが生まれるのです。

なにごとも中途半端が一番よくありません。

万人から好かれようとする体質を脱することができるかが鍵です。

万人から好かれるなんてのは、完全に幻想です。

賃金195 賃金引下げが有効と判断されるためには?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、賃金引下げ無効未払賃金等支払請求に関する裁判例を見てみましょう。

MASATOMO事件(東京地裁令和2年1月24日・労判ジャーナル100号44頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社から、在職中に無効な賃金額の引下げを受け、その引下げ相当額について未払があるほか、Y社において時間外・深夜労働に従事していたところ、時間外労働等に係る割増賃金に未払があるなどと主張して、労働契約に基づき、本件引下げに係る未払賃金92万円等、平成26年6月から平成28年5月までの間の稼働分に係る未払の割増賃金148万円等の支払を求めるとともに、労働基準法114条に基づき、付加金162万円等の支払いを求め、併せ、不法行為に基づき、不当解雇に基づく損害賠償金として損害金500万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、未払賃金179万6371円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、付加金31万7712円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、慰謝料40万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件賃金引下げは、従前Xが受領していた基本給額を約15パーセントも減らすものであったものであり、その下げ幅は大きく、しかも、その賃金引下げ措置が解かれる具体的な目処ないし期限も設けられておらず、恒久的措置としてとられたものと評価せざるを得ず、その不利益性は強いといわざるを得ないところであって、Xが基本給減額(既に発生している賃金の放棄を含む。)に同意し、かつ、その同意が原告の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとも認め難い
この点、Xが直ちに異議を申し述べてこなかった事実があったとしても、服属的関係にある労働者の使用者に対する地位ないし力関係にも鑑みれば、この点から直ちに原告が本件賃金引下げに同意したなどと推認することも相当とはいえない
 
2 Y社には就業規則は設けられておらず、本件労働契約において休職期間満了による退職制度が設けられていたとは認め難い
ところで、本件においてY社は、本件労働契約の終了原因につき、休職期間満了による通知(本件退職通知)が解雇であることは主張せず、その終了原因として休職期間を経過したことによる自動退職のみを主張するものであるところ、Y社には、従業員に対して一定の休職期間を一方的に定め、復職がないままその期間を満了したときに自動退職をさせることのできる労働契約上の権限があるということはできないから、本件退職措置は、権限なくされたものとして無効というほかない。もっとも、Y社は、本件において本件退職措置により本件労働契約が平成28年8月末日をもって終了する旨主張しているところ、Xも、現時点において、その契約終了の効力を争うものではないから、本件労働契約はその時点をもって終了したと認めるのが相当というべきところ、前判示したところに照らせば、これはY社の違法な本件退職措置によるものと認めるべきであり、かつ、本件労働契約上、そのような退職措置をとるべき根拠がないことはY社においても自明で、その認識を持ち得べきものといえるから、そのような行為に及んだ点につき、過失があることも明らかである。
したがって、Y社は、Xに対し、不法行為に基づき、かかる違法な所為によりXについて生じた損害を賠償すべき責任原因があるというべきである。

上記判例のポイント1は、労働条件の不利益変更における裁判所の典型的な判断方法です。

労働事件では頻出の争点ですので、しっかり押さえておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介1070 コロナショック・サバイバル(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。

まだまだ長引きそうなコロナショックをいかにサバイブするのか。

暴風雨の中、いかに船を転覆、沈没させないで乗り切るかが書かれています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

一般社員からの目や人望を気にして、急に社員食堂で食事を始めたり、現場社員との車座行脚を始めたり、電車で通勤したりする経営者はヤバい。会社や事業の生死がかかっている、自分や家族の生活や人生がかかっている時に、社員は経営者が『いい人』かどうか、『人望』があるかどうかに関心なんて持っていない。この窮地をリアルに脱する的確な判断力、行動力、胆力のありそうな人物についていくものだ。」(62頁)

ですって(笑)

まあ確かに「いい人」で「人望」があっても、船を沈没させては船員としては元も子もありません。

波が穏やかなときは、誰でも船長は務まります。

荒波のときこそ、船長の舵取りにかかっているのです。

まさに的確な判断力、行動力、胆力が試されていると言えます。

解雇330 試用期間中の解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、試用期間中の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

MAIN SOURCE事件(東京地裁令和元年12月20日・労判ジャーナル100号46頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結していたXが、試用期間中に行われたY社による解雇が無効であると主張して、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、雇用契約に基づく賃金支払請求として平成30年8月以降本判決確定日まで毎月10日限り月額20万円(ただし,平成30年7月分については既払額を控除した残額である19万0480円)+遅延損害金の支払を求め、併せて、本件解雇が不法行為に該当し、また、Y社には職場環境配慮義務違反があると主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として110万円(慰謝料100万円、弁護士費用10万円)の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、作業日報の記載方法や記載内容について説明を受けていたにもかかわらず、作業日報の問題点欄や今後の対策欄に何の記載もしなかったり「なし」とのみ記載したり、予定作業内容欄に簡略な記載しか行わないなど、Y社が求める記載方法や記載内容とは異なる方法で作業日報を作成しており、これについてBマネージャーやCからの指示、指導がされても改善されないといったことがあったことに加え、作業日報の作成時間等を巡ってY社側と意見を対立させた挙句、平成30年6月1日にはY社代表者に対して原田メソッドがXの思想良心の自由を侵害する違法なものであるから紹介をやめるよう求め、意見を聞き入れなければ訴える等と告げているのであって、BマネージャーがXの作業日報に記載しているXに対する肯定的な評価を踏まえても、Xに協調性がないとY社が判断したことはやむを得ないものといえる。
加えて、XがY社への就職内定後、Y社から借りた本件トラックを使用中に、結果として100万円以上の損害をY社に被らせた本件物損事故を起こしたにもかかわらず、事故後速やかな警察への連絡も、Y社への連絡、報告、相談も行っておらず、その後、本件トラックの損傷状況がY社に明らかになった後も、Y社からの要請があって初めて具体的な事故状況の報告を行ったり、本件物損事故の現場の調査を行っているといった不十分な対応しかとっていないことを、その後のXの作業日報に関するやりとりと併せて考えれば、Y社において大切なこととされている「報告・連絡・相談」をXが適切に行うことができないものと評価することもやむを得ないといえる。

2 Y社における業務内容が、複数の工程を限られた従業員(平成30年9月当時の従業員数は9人にすぎない)で分担して行うものであって、また、作業内容が技術的事項にわたるものであってOJTによる習熟を前提としていることからすれば、協調性や、適切な報告・連絡・相談の実施は、Y社の従業員として求められる適性であると解されるのであって、平成30年4月16日の採用内定後に発覚した上記事情によりXが上記適性を欠くと評価できる以上、Y社が留保解約権を行使することには客観的に合理的な理由が存在し、また、上記経緯に照らせば、その行使は社会通念上も相当と認められる。

3 Y社は原田メソッドの考え方をY社の経営理念、経営方針に取り入れているにすぎず、また、作業日報は、Y社従業員の作業実態を踏まえ、各従業員の作業内容及び進捗状況の確認、作業時間、作業結果等に基づく習熟度の把握、業務の効率化等の就業意識の向上等を目的として作成を義務付けられているものであり、求められている記載内容も、Y社従業員において、日々の業務において気づく力を養い、自らの技術の精度を向上させ、より質の高い製品の製作を実現するとともに、各従業員を自立型社員へと育成するためのものであって、営利企業であるY社において上記目的をもって上記記載を求めることは必要なものと言えるから、不要、困難な記載を求めるものでも、思想良心の自由を侵害するものでもない。その他に、Y社が職場環境配慮義務に違反していることを認めるに足りる証拠はない

上記判例のポイント1のような事情についてしっかり証拠化しておくことが大切です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介1069 ポートフォリオワーカー(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

サブタイトルは「『副業より複業』で幸せなお金持ちになる方法」です。

複数の仕事をしている著者が複数の収入源を持つメリットを説いています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

・・・では、なぜ彼らはすぐに行動できるのでしょうか。それは、過去に、失敗を恐れずたくさんのことにチャレンジしたおかげで、膨大な失敗のデータベースと自信を得ているからです。過去の経験に基づいて『やるべきかどうか』と『やった場合の勝算』、そして『失敗したときのダメージ』を瞬時に判断できるからです。」(79頁)

瞬時かどうかはさておき、これらのことを意識、無意識問わず、比較的速やかにやるわけです。

決断力がないと、ここで右往左往します。

取れるリスクならどんどん取って挑戦すればいいのです。

10打数10安打を狙おうとするから、バットを振っていいのか悩むのです。

バットを振らないとヒットは打てません。

有期労働契約96 5年ルール適用回避と不更新条項(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

博報堂事件(福岡地裁令和2年3月17日・労判ジャーナル99号22頁)

【事案の概要】

本件は、Xにおいて、XがY社との間で、昭和63年4月から、1年毎の有期雇用契約を締結し、これを29回にわたって更新、継続してきたところ、原・被告間の有期雇用契約は、労働契約法19条1号又は2号に該当し、Y社がXに対し、平成30年3月31日の雇用期間満了をもって雇止めしたことは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないから、従前の有期雇用契約が更新によって継続している旨主張して、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに、本件雇止め後の賃金として、平成30年4月から毎月25日限り月額25万円+遅延損害金の支払、本件雇止め後の賞与として、平成30年6月から毎年6月25日及び12月25日限り各25万円+遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 Y社は、平成25年4月1日付の雇用契約書において、平成30年3月31日以降は契約を更新しないことを明記し、そのことをXが承知した上で、契約書に署名押印をし、その後も毎年同内容の契約書に署名押印をしていることや、転職支援会社への登録をしていることから、Xが平成30年3月31日をもって雇用契約を終了することについて同意していたのであり、本件労働契約は合意によって終了したと主張する。
確かに、Xは、平成25年から、平成30年3月31日以降に契約を更新しない旨が記載された雇用契約書に署名押印をし、最終更新時の平成29年4月1日時点でも、同様の記載がある雇用契約書に署名押印しているのであり、そのような記載の意味内容についても十分知悉していたものと考えられる
ところで、約30年にわたり本件雇用契約を更新してきたXにとって、Y社との有期雇用契約を終了させることは、その生活面のみならず、社会的な立場等にも大きな変化をもたらすものであり、その負担も少なくないものと考えられるから、XとY社との間で本件雇用契約を終了させる合意を認定するには慎重を期す必要があり、これを肯定するには、Xの明確な意思が認められなければならないものというべきである
しかるに、不更新条項が記載された雇用契約書への署名押印を拒否することは、Xにとって、本件雇用契約が更新できないことを意味するのであるから、このような条項のある雇用契約書に署名押印をしていたからといって、直ちに、Xが雇用契約を終了させる旨の明確な意思を表明したものとみることは相当ではない
また、平成29年5月17日に転職支援会社であるキャプコに氏名等の登録をした事実は認められるものの、平成30年3月31日をもって雇止めになるという不安から、やむなく登録をしたとも考えられるところであり、このような事情があるからといって、本件雇用契約を終了させる旨のXの意思が明らかであったとまでいうことはできない。むしろ、Xは、平成29年5月にはEに対して雇止めは困ると述べ、同年6月には福岡労働局へ相談して、Y社に対して契約が更新されないことの理由書を求めた上、Y社の社長に対して雇用継続を求める手紙を送付するなどの行動をとっており、これらは、Xが労働契約の終了に同意したことと相反する事情であるということができる。
以上からすれば、本件雇用契約が合意によって終了したものと認めることはできず、平成25年の契約書から5年間継続して記載された平成30年3月31日以降は更新しない旨の記載は、雇止めの予告とみるべきであるから、Y社は、契約期間満了日である平成30年3月31日にXを雇止めしたものというべきである

2 Y社の主張するところを端的にいえば、最長5年ルールを原則とし、これと認めた人材のみ5年を超えて登用する制度を構築し、その登用に至らなかったXに対し、最長5年ルールを適用して、雇止めをしようとするものであるが、そのためには、前記で述べたようなXの契約更新に対する期待を前提にしてもなお雇止めを合理的であると認めるに足りる客観的な理由が必要であるというべきである
この点、Y社の主張する人件費の削減や業務効率の見直しの必要性というおよそ一般的な理由では本件雇止めの合理性を肯定するには不十分であると言わざるを得ない。また、Xのコミュニケーション能力の問題については、上記に述べるような指摘があることを踏まえても、雇用を継続することが困難であるほどの重大なものとまでは認め難い。むしろ、Xを新卒採用し、長期間にわたって雇用を継続しながら、その間、Y社が、Xに対して、その主張する様な問題点を指摘し、適切な指導教育を行ったともいえないから、上記の問題を殊更に重視することはできないのである。そして、他に、本件雇止めを是認すべき客観的・合理的な理由は見出せない。
以上によれば、Xが本件雇用契約の契約期間が満了する平成30年3月31日までの間に更新の申込みをしたのに対し、Y社が、当該申込みを拒絶したことは、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないことから、Y社は従前の有期雇用契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなされる

上記判例のポイント1はしっかり押さえておきましょう。

これまでの裁判所の考え方からすれば、特に驚く内容ではありません。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介1068 おもてなし幻想(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

サブタイトルは、「デジタル時代の顧客満足と収益の関係」です。

タイトルからわかるとおり、必要以上のおもてなしは収益につながらないから意味がない、という内容です。

おもてなしをすればするほどCSが上がると思われがちがちですが、実際は効果なしとのことです(笑)

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

・・・あなたの業界でも同じような悪習がないだろうか?もしあるなら、より一層のおもてなしを積み重ねていくのではなく、どれだけ顧客の足元から不便を取り除けるか?それに目を向けなければ、『おもてなし日本』は、私たちの意図とは逆に、顧客の流出を加速させてしまうことになりかねない。」(11頁)

サービスが「お・も・て・な・し」ではなく「お・せ・っ・か・い」ではないかと考え直すいい機会ですね。

おもてなしを得意とする国ですが、この本では、それらはCSにはほとんどつながっていないということが説かれています。

自分が顧客の立場であればわかることが、いざサービスを提供する側にまわると空回りしてしまうのはよくあることです。

一度、サービスの「あ・た・り・ま・え」を見直してみてもいいかもしれませんね。