不当労働行為244 タイムカードの提供拒否と不当労働行為(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、組合員の未払残業代を議題とする団交において、未払残業代が発生していないとする理由を具体的に説明しなかったこと、および同人のタイムカードの写しを提供しない理由を説明しなかったことがいずれも不当労働行為とされた事案を見てみましょう。

光明土地改良区事件(大阪府労委平成31年1月11日・労判1218号92頁)

【事案の概要】

本件は、組合員の未払残業代を議題とする団交において、未払残業代が発生していないとする理由を具体的に説明しなかったこと、および同人のタイムカードの写しを提供しない理由を説明しなかったことが不当労働行為にあたるかが争われた事案である。

【労働委員会の判断】

いずれも不当労働行為にあたる

【命令のポイント】

1 29.7.20団交において、組合が、A2組合員の未払残業代が発生していない根拠として、管理監督者であること、固定残業代として既に支払っていること、残業は一切していなかったことの3点しか考えられないが、どれに当たるのか尋ねたのに対し、Y社は、残業に必要な手続を踏んでいないことを付け加え、4つとも当てはまる場合もあると思う旨等回答していることが認められる。
Y社は、上記をもって誠実な回答を行った旨主張するが、法人は、そもそも残業代を支払っていない旨答えており、残業代を支払わなかった理由を具体的に答えることが可能であったのだから、一般論で、しかも4つとも当てはまる場合もあると思うなどと答えたことをもって、誠実に対応したということはできない

2 29.7.20団交において、Y社が、給与規程に基づき残業手当を支払わず、管理職手当を支払っている旨述べたことに対し、組合は、①給与規程には、管理職手当について、固定残業代を含む旨の記載は一切なく、何を根拠に法人が固定残業代と言うのか不明である旨、②管理職手当等が固定残業代には当たらないという認識であるが、残業代を請求するにしても、きちんと計算をして請求したいと考えている旨等述べていることからすると、29.7.20団交で、組合は、本件タイムカードの写しを要求する根拠を具体的に述べていると解するのが相当である。
組合は、本件タイムカードの写しを要求する根拠を具体的に説明しているといえるにもかかわらず、Y社が、本件タイムカードの写しを提供すべき理由を理解できないと繰り返すだけであったことは、組合の主張に対して、提供できない理由を具体的に説明したとみることはできず、Yのこのような回答は不誠実といわざるを得ない

3 29.7.20団交において、Y社が、A2組合員の未払残業代が発生していないことについて具体的な説明を一切行わなかったこと及びA2組合員のタイムカードの写しを提供できない理由の説明を行うことなく、A2組合員のタイムカードの写しの提供を拒否したことは、誠実な対応を通じて合意達成の可能性を模索する誠実団交義務を尽くしたとはいうことができないことから、不誠実団交に当たるといえ、労働組合法第7条第2号の不当労働行為に該当する。 

会社側が「タイムカードの写しを提供すべき理由を理解できない」という主張を繰り返しているようですが、全く生産的ではなく、また、このような主張が認められる可能性はゼロです。

組合との団体交渉や組合員に対する処分等については、まずは事前に顧問弁護士から労組法のルールについてレクチャーを受けることが大切です。決して素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介1047 サードドア 精神的資産のふやし方(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

サードドアとは、「成功への抜け道」を指しています。

一読しても、著者が言いたいことがすぐにわかる本ではありません(笑)

根気強く読んでいく本です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

小さな決断によって、誰もが人生を大きく変えることができる。みんなが並んでいるからと何となく行列に加わり、ファーストドア(正面入り口)の前で待つのも自由だ。行列から飛び出して裏道を走り、サードドアをこじ開けるのも自由だ。誰もが、その選択肢を持っている。これまでの旅で学んだ教訓が1つあるとすれば、どのドアだって開けられるということだ。」(435頁)

みんなが並んでいるから自分も並ぶという発想では、群れから抜け出すことはできません。

みんなが右に行くなら、自分は左に行ってみるのです。

日々の小さな決断がやがて習慣となり、その総体が人生となります。

何事にも縛られず、自由に生きたいと思うであれば、自分に力をつけることです。

その準備を毎日コツコツやり続けるしかありません。

メンタルヘルス4 休職命令等の措置をとらずに解雇は有効?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、休職命令等の措置をとらずに行った解雇が有効とされた裁判例を見てみましょう。

ビックカメラ事件(東京地裁令和元年8月1日・労経速2406号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結し、販売員等として勤務していたXが、平成28年4月15日付けでされた解雇は無効であるとして、Y社に対し、①雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、②平成28年5月分から平成30年3月分までの賃金として合計526万7376円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

Xは、Y社は、Xが精神疾患にり患している可能性を把握できたにもかかわらず、早期に専門的な医療機関の受診を指示せず、また、休職命令等の措置をとることなく、Xの問題行動が多くなったことを理由に、強制的に心療内科を受診させ、懲戒処分を続けたりしたものであり、かかる対応は不適切である旨主張する。
しかしながら、Y社は、Xの問題行動を確認するようになった後、Xに産業医との面談を行わせ、精神科医を受診させたほか、社員就業規程に基づき精神科医への受診及び通院加療を命じるなどしているのであるから、Xの問題行動が精神疾患による可能性について、相当の配慮を行っていたものと認められる
確かに、Y社は、Xに対して休職の措置をとることなく本件解雇を行ったものであるが、Xから休職の申出がされたことは窺われない上、Y社の社員就業規程においては、Y社が休職を命じるためには、業務外の傷病による勤務不能のための欠勤が引き続き1か月を超えたこと、又は、これに準じる特別な事情に該当することや、医師の診断書の提出が必要とされているところ、Xが1か月を超えて欠勤した事実は認められず、また、証拠によれば、Y社は、原告に対して精神科医の受診を命じた上で、診察した医師に対して病状等を照会したものの、Xの精神疾患の有無や内容、程度及びXの問題行動に与えた影響は明らかにならなかったというべきであるから、Xに対して休職を命じるべき事情は認められない
そして、Y社は、Xの問題行動に対して懲戒処分や指導を行っていたほか、精神科医への受診及び通院加療等を命じるなどしているのに対し、Xは、継続的な通院を怠り、問題行動を繰り返しているのであるから、これらの事情を考慮すると、Y社において休職の措置をとることなく本件解雇に及んだとしても、解雇権を濫用したものということはできない
したがって、Xの上記主張は、採用することができない。

会社としては、本裁判例同様、就業規則に基づき、精神科医への受診や通院加療を命じるというプロセスを踏むケースがあり得ることを認識しておきましょう。

この分野は本当に判断が難しいです。必ず顧問弁護士に相談の上、慎重に進めていくことが求められます。

本の紹介1046 アナロジー思考(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は本の紹介です。

サブタイトルは、「『構造』と『関係性』を見抜く」です。

たとえ話が上手いとかあだ名をつけるの上手いというのは、一種のアナロジー思考ですね。

著者が言うところの「抽象化思考力」が高いことを指します。

異なる2つの概念の類似点を即座に見つけ出せるというのは、頭の良さを測る1つの基準になると思います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

アナロジー思考力の強い人はありとあらゆることを関連付けて考え、すべての事象を学びの対象にすると同時にすべての事象をアウトプットの対象にする。それに対して、アナロジー思考に弱い人は、『これはこれ、あれはあれ』とすべての事象を別々に考えるためにまったく応用が利かない。アウトプットもすべて一から考えるために効率が非常に悪いばかりでなく、新しい発想へと膨らんでいくこともない。」(2頁)

これができる人は、もはや無意識レベルで習慣的に「connecting the dots」をしています。

「これって、あれと考え方同じだよね」という感じです。

だからこそ、他業種から多くの学びを得ることができるのです。

一見すると全く自分の仕事と関係がないように思えても、切り口を変えると関連性を見出せるのです。

有期労働契約95 契約更新手続きの厳格さと労働者の更新に対する期待の合理性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、雇用継続の合理的期待がないとして有期労働契約の期間満了時の雇止めが有効とされた裁判例を見てみましょう。

学校法人A学園(雇止め)事件(那覇地裁令和元年11月27日・労経速2407号7頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で期間の定めのある労働契約を締結していたXが、Y社の雇止めは、客観的に合理的な理由及び社会通念上の相当性を欠くものであり、労働契約法19条によりXとY社との間の労働契約は従前と同一の内容で更新されたなどと主張して、Y社に対し、地位保全及び賃金仮払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

本件申立てをいずれも却下する。

【判例のポイント】

1 Xは、看護師として採用されたものであり、業務内容は、臨時的なものではなく、継続的に行っていく必要がある業務も含まれていたことが認められる。しかし、Y社が採用している看護師は全て任期制雇用であり、Xの地位は、正職員と記されている場合があるものの、それは、派遣社員との比較における記載で、契約書上も就業規則上も明確に有期雇用であるとされ、更新の可能性は指摘されているが、継続的に更新されるとまではされていない
また、Xは、当初2年の契約期間で雇用され、その後、1回の更新を経て、通算期間2年5月の勤務をしてきたものであり、多数回で長期間の契約期間であったものではない

2 1回の更新後の契約期間についての意味合いについては、Z4博士によるXに対しての説明内容について、当事者間に争いがあるものの、更新期間が5月であり、クリニックの再開の目途がたった場合に、更新を必ず行うというのであれば、そもそも2年更新を検討するという前提(Y社側の説明に合致する。)だったからこそ、とりあえず年度末まで契約更新して、それまでの間に考え、更新しない方針となったのであれば、更新しないこととすることを考えた上での、更新であったと認められる。
また、契約更新の手続は、システム上で行えるものとなっており、Y社から契約更新の条件を明示され、かつ、それにXが同意すれば更新されるというものであり、厳格なものであった。

3 以上の事情を総合すると、X自身としては、Y社において勤務するにあたり看護師として長期にわたり働く予定であったことはうかがえるものの、あくまで主観的なものといえ、Xに雇用継続の合理的期待があるとはいえず、本件労働契約は労働契約法19条2号に該当しない。

上記判例のポイント1、2のような運用をしている限り、雇止めが無効と判断される可能性はかなり低いといえます。

雇止めが無効と判断されている事案の多くは、運用の稚拙さがその理由となっています。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介1045 人生100年時代の稼ぎ方(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

平均寿命がどんどん延びて、それでいて年金は全くあてになりません。

少し前に「2000万円問題」が話題になりましたが、もはや「老後」なんて言葉は死語になりつつありますね。

早晩、死ぬまで働くのが当たり前の社会になると思います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

人生100年時代で皆さんが抱えている最も大きい不安は、お金に関することだと前述しましたが、優先順位を上げて対策を立てるべきなのは、『健康』です。・・・不健康というのはとにかくコストが掛かります。病院にかかるお金だけではありません。回復にかかる時間、そのために失った仕事の時間、さらにそのために失う収入、事によっては家族や会社の人の時間を奪うことにもつながりますから、めまいがするほど失うものは膨大です。」(20~21頁)

疑う余地のない真実です。

健康なうちは健康のありがたさに気が付かないものです。

大学に入り、親元を離れて一人暮らしをしてはじめて親のありがたさがわかるのと同じです。

多くの人が将来に不安を感じ、その不安を払拭するためにいろんなことを我慢して毎月コツコツ貯金をしています。

これからますます不安定な社会になるので、この傾向は強くなるのでしょう。

このような不安定な時代においては、一時的に(本人は一時的と思っていないですが)調子が良い時に生活水準を上げたり、会社の規模を拡大しないことがとても重要です。

つまりは、固定費を上げないことが肝心です。

ビジネスは意識していないとすぐに拡大してしまうものなのです。

拡大するのははっきりいって楽です。成長しているという感覚も味わえますしね。

しかし、それでもなお不安定な時代ではスモールビジネスこそがキモだと確信しています。

解雇327 コミュニケーション能力不足を理由とする解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、コミュニケーション能力不足等を理由とした試用期間満了時の解雇が有効とされた裁判例を見ていきましょう。

学校法人A学園(試用期間満了)事件(那覇地裁令和元年11月18日・労経速2407号3頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、学校法人であるY社に日本語教師として採用されたところ、延長後の試用期間満了時に、主としてコミュニケーション能力の不備を理由に解雇されたが、債権者は必要なコミュニケーションをとり、また、このような指導はほとんど受けていなかったのであるから、同解雇には客観的合理性がなく、社会通念上相当ともいえないから無効であるとして、Xが、Y社に対して、労働契約上の権利を有する地位にあることの仮の確認並びに解雇された平成30年12月から令和元年7月分の賃金及び同年8月分以降、本案判決確定の日までの賃金の仮払いを求めた事案である。

【裁判所の判断】

本件申立てをいずれも却下する。

【判例のポイント】

1 ・・・上記の一連のやり取りだけでも、Z1及びZ2副学長が様々な角度からXのコミュニケーション上の問題点を伝えようとしているにもかかわらず、Xは自身の問題点を省みる姿勢に乏しく、話し手の意図を正しく受け止められなかったり、言葉尻を捉えた反論に終始して論破しようとしたり、議論の前提を踏まえた会話ができなかったり、自身の意見に固執する姿勢が見て取れる。このようなXの応答にZ1とZ1副学長は対応に苦慮していたが、Xはそのことすら認識していたか疑わしい
Y社は、本件会議の後、Xがミーティングの場で最低限の発言すらしようとせず、素っ気ない態度に終始したと主張しているが、前記のとおりのXのコミュニケーション上の問題点に加え、Xは、日本語ランチテーブルのミーティングで反対意見を述べたこと自体がZ1及びZ2副学長によって失礼と取られたと憤慨し、本件準備書面で、意見を述べたこと自体が失礼と扱われて不当であり、このため発言を控えるようにしていたと主張していることからすると(なお、Z1及びZ2副学長は、発言内容やその伝え方を問題にしているのであって、反対意見を述べること自体を咎めているわけではなく、むしろ、積極的に意見を交わすべきと伝えている。)、Y社の主張に近い状況にあったことが窺える。このような状況では、XがZ1に友好的な対応をとるとは考えにくいから、Xは、ミーティング以外でもZ1やXと非友好的な同僚とは積極的なコミュニケーションをせず、むしろ、自身が許容されると考える中で最低限度のコミュニケーションに終始したことが推認できる

2 Xのコミュニケーション及び上司や同僚との関係構築に向けた姿勢には数々の問題点があり、上記のとおり必要なコミュニケーションがとれず、むしろ試用期間の延長によって悪化したことが認められる一般的に本採用を目指して必要以上に努力し、同僚に気を遣いがちな試用期間ですら、Xは上司や同僚との間で種々の軋轢を生じさせてしまったといえる。これらの問題点は、いずれも試用期間を経て初めて発覚し得るものであるといえ、上記の経過によれば、Xが上司からの指導等によって上記の問題点を改善できる見込みは薄い。Y社が雇用を継続していれば、Xのコミュニケーション上の問題によって更に職場環境が悪化していくことが容易に想像できることからすると、本件の雇用が2年間の期間限定であることを考慮しても、債務者が試用期間終了をもって解雇を選択したこともやむを得ないといえる。

解雇を過度に制限的に考える裁判官に当たると、ほとんど非現実的な解雇回避努力を求められることがありますが、今回はそうではなかったようです。

実務においては、日頃のやりとりをいかに証拠化できるかが勝敗を大きく左右します。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介1044 大きな嘘の木の下で(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう!

今日は本の紹介です。

著者は、OWNDAYS株式会社の田中社長です。

「破天荒フェニックス」に続き2冊目です。

タイトルは非常にキャッチーで掴みはOKですね。

内容は1冊目よりも個人的には好きです。

著者のあらゆることに対する価値観がよくわかる本です。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

これからは『OWNDAYSのメガネを買う』ではなく『〇〇さんがいるからOWNDAYSで買う』という時代になっていく。時代はモノ消費からコト消費と移り変わり、今は『ヒト消費』の時代に突入したのだ。ヒト消費は学習塾でもレストランでもヘアサロンでも、メガネ屋でも、靴屋でもどんな業界でも起きてくる。」(55~56頁)

遠い将来の話ではなく、すでに著者のいうところの「ヒト消費」の時代に入っています。

結局、その人が「好きか」どうかという話です。

特に商品の価値がそれほど変わらない場合にはその傾向がより強くなります。

保険がその典型です。

生命保険も損害保険も、どの保険でもぶっちゃけたいした違いはありません。

というより細かい保険契約の内容なんて関心がありません。

では、どうやって選んでいるかといえば、結局、担当者が「好きか」どうかという商品とは全く関係のないところで選んでいるのです。これ、完全に「ヒト消費」です。

まあ、商売なんてもともと理屈ではなく、感覚・感情で成り立っていますので。

守秘義務・内部告発8 公益通報をめぐる内部資料の持ち出しと懲戒処分(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、公益通報をめぐる内部資料の持ち出し等に対する懲戒処分の適法性に関する裁判例を見てみましょう。

京都市(児童相談所職員)事件(京都地裁令和元年8月8日・労判1217号67頁)

【事案の概要】

Y社の職員であるXは、京都市の児童相談所に勤務していた平成27年3月及び10月、京都市内の児童養護施設で起きたと疑われる被措置児童虐待の不祥事について、同児童相談所が適切な対応を採っていなかったとの認識を有したことから、これを問題視し、京都市の公益通報処理窓口に対して二度にわたり、いわゆる公益通報を行った。
Xは、同年12月4日、上記の各公益通報の前後の時期に行ったとされる各行為、すなわち、(1)勤務時間中に、上記虐待を受けたとされる児童とその妹の児童記録データ等を繰り返し閲覧した行為、(2)上記虐待を受けたとされる児童の妹の児童記録データを出力して複数枚複写し、そのうちの1枚を自宅へ持ち出した上に無断で廃棄した行為、(3)職場の新年会及び組合交渉の場で、上記虐待を受けたとされる児童の個人情報を含む内容を発言した行為について、地方公務員29条1項各号所定の事由に該当するものとして、京都市長から、停職3日の懲戒処分を受けた。

本件は、本件懲戒処分を不服とするXが、上記の各内部通報の前後の時期に行ったとされる上記各行為は、事実と異なる部分があることに加え、上記被措置児童虐待の不祥事に対する上記児童相談所の対応が不適切であるとの問題意識に基づき行った正当な行為として懲戒事由にそもそも該当しないと主張するほか、また、仮に懲戒事由に該当するとしても、Xによる上記各行為の目的の正当性や、本件懲戒処分が結論ありきで行われたこと、他の事例との比較において重きに失すること、手続の適正の欠如などを考慮すれば、京都市長が行った本件懲戒処分には裁量権を逸脱又は濫用した違法があるなどと主張して、本件懲戒処分の取消しを求める事案である。

【裁判所の判断】

停職3日の懲戒処分を取り消す。

【判例のポイント】

1 本件行為2の原因,動機,性質を検討するに,まず,本件行為2のうち本件複写記録の持ち出し行為については,原告は,1回目の内部通報の結果を受けて,その調査結果に個人的に不満を抱いたため,2回目の内部通報を行うこととし,その際にE弁護士に渡す本件児童の●の児童記録に係る複写文書1枚とともに,本件複写記録を自宅に保管したものといえる。このような経緯を経て行われた本件複写記録の持ち出し行為は,いわゆる公益通報を目的として行った2回目の内部通報に付随する形で行われたものであって,少なくとも原告にとっては,重要な証拠を手元に置いておくという証拠保全ないし自己防衛という重要な目的を有していたものであり,このほかに,本件複写記録に係る個人情報を外部に流出することなどの不当な動機,目的をもって行われた行為であるとまでは認められないのであるから,その原因や動機において,強く非難すべき点は見出し難い
 また,本件行為2のうち本件複写記録の自宅での廃棄行為については,F課長からの返却の指示があったにもかかわらず,原告がこれに従わず,安易に本件複写記録を自宅で廃棄したことそれ自体は,今後の情報漏えいの可能性が万に一つないようにするために持ち出した現物を返却させるという被告の正当な目的の実現を妨げた点からも,大いに非難されるべきものである。しかしながら,原告は,上記廃棄行為の翌日に自ら自宅で本件複写記録を廃棄したことを申告しているのであって,原告による上記廃棄行為について,証拠隠滅を図るなどの不当な動機や目的があったとは考え難い。そうすると,原告による本件複写記録の自宅での廃棄行為は,非常に軽率な行為として大いに非難されるべきものではあるが,その動機や目的において,殊更に悪質性が高いものであったとまではいえない

2 原告による本件複写記録の持ち出し行為は,飽くまで,本件虐待事案に対する原告の職務上の関心に起因して行われた性質の行為である。そして,原告は,本件複写記録を自宅で保管していたにすぎず,その保管状況は必ずしも明らかではないものの,自宅で保管していた本件複写記録が外部に流出した事実は認められず,同記録が外部の目に触れる状況ではなかったものと考えられることからすると,必ずしも情報漏えいの危険性の高い不適切な態様での保管状況であったとまではいい難い

3 本件行為2の結果,影響についてみるに,原告が自宅に持ち出した本件複写記録はシュレッダーで廃棄されており,結果としては,同記録が一般市民の目にする形で外部に流出することのないまま処分されたものである。そして,被告の保健福祉局の調査の結果によっても,●●議員による本件児童記録の情報の入手経路は明らかになっておらず,本件全証拠を検討しても,原告が自宅に持ち出した本件複写記録によって,本件児童の個人情報が●●議員に流出したことを認めるに足りる証拠はない。この点に関して,本件児童からは,原告による本件行為2を含む各行為について京都市児童相談所に対する信頼を損ねるものである旨の強い非難が寄せられていることは十分に考慮すべきであるとしても,原告による本件行為2によって,被告の児童福祉行政に対する信頼が回復不能なほどに大きく損なわれたとまでは認めることはできない。

4 原告の懲戒処分歴等についてみるに,原告にはこれまで懲戒処分歴は存在せず,かえって,原告は,FA制度で京都市児童相談所支援課に配属となった平成26年度の人事評価においては,いずれの評価項目も良好な評価を得ており,かつ,日頃の勤務態度についても,児童に対し得て熱心に対応しており,業務面においては特段の問題はないとの評価を得ていたものである。これに加え,原告は,本件行為2についても,基本的には,京都市児童相談所の職員としての職責を果たすべきとの自らの有する職業倫理に基づいて行ったものであるから,大いに軽率な面があったことを踏まえてもなお,上記の原告の懲戒処分歴や勤務態度といった事情は,酌むべき事情として考慮されるべきものといえる。

5 以上に加え,前記1で認定した事実経緯に照らすと,本件懲戒処分は,原告が主張,供述するような「結論ありきで行われた」あるいは「内部告発に対する報復」といった不当な目的ないし動機をもってされた処分であるとの評価はできないものの,本件懲戒指針では,情報セキュリティーポリシー違反の非違行為については戒告から免職まで処分量定の幅は広く規定されている中で,過去に非公開情報がインターネットを経由して外部から閲覧できる状態となり当該情報の拡散を招いた職員が停職10日の懲戒処分とされた懲戒事例との比較において,本件行為2を行った原告に対する懲戒処分として,本件複写記録の情報が拡散するまでには至らなかったにもかかわらず,停職3日とする本件懲戒処分を選択することは,重きに失するものといわざるを得ない
以上によれば,本件懲戒処分は,社会観念上著しく妥当を欠いて,その裁量権を逸脱又は濫用した違法がある。

処分がそれほど重くないため、評価権者によって判断が分かれる可能性があると思います。

懲戒処分の相当性判断は非常に悩ましいです。是非、顧問弁護士に相談しながらご判断ください。

本の紹介1043 世界一のプロゲーマーがやっている 努力2.0(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

著者は、東大卒のプロ格闘ゲーマーの方です。

勝つために日頃からどのようなことを考え、準備をしているのかがよくわかります。

業種を問わず参考になりますね。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

努力する目的がはっきりしていると、ムダなこともはっきりします。目的にとって不要なことを切り捨てると、意外とやることは少ないな、と気づき、優先順位もつくようになります。頭の中の整理整頓です。整理整頓ができると、今度は自分以外に肩代わりさせられるものが見えてきます。これを使わない手はありません。いわゆるアウトソーシングです。」(168頁)

無駄なことで溢れかえっている社会で、効率よく結果を出すためには、とにかく「無駄を省く」ことが非常に重要です。

とにかく無駄が多すぎます。

世間体や他人の評価を気にするあまり、どうでもいい時間泥棒を野放しにしていると、気づいたら人生は終わってしまいます。

ただ流されるがままに時間を浪費する癖がついてしまうと、もはやどうでもいい予定でカレンダーは埋め尽くされてしまいます。

無駄を省き、生まれた時間を徹底的に目的達成の準備にあてるのです。

無駄を省いて、その空いた時間にまた無駄な行事を入れているうちは人生は1ミリも変わりません。