賃金181 固定残業制度の有効要件とは?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、実際の時間外労働時間数との間に相当程度の差異がある時間外手当が固定残業代として有効とされた裁判例を見てみましょう。

飯島企画事件(東京地裁平成31年4月26日・労経速2395号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結した労働者であるXが、Y社に対し、①時間外労働等に係る割増賃金+遅延損害金、②労働基準法114条に基づく付加金+遅延損害金、③月例賃金の減額に同意していないとして、減額前後の月例賃金の差額分合計26万円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件雇用契約における時間外手当は、本件雇用契約締結当初から設けられたものであり、その名称からして、時間外労働の対価として支払われるものと考えることができる上に、実際の時間外労働時間を踏まえて改定されていたことを認めることができる
これらの事実によれば、時間外手当は、時間外労働に対する対価として支払われるものということができ、また、時間外手当と通常の労働時間の賃金である基本給とは明確に区分されているから、時間外手当について、有効な固定残業代の定めがあったということができる。

2 これに対し、Xは、固定残業手当について、時間当たりの単価や、予定する時間外労働等に係る時間数が示されていないため、通常の労働時間の賃金である部分と時間外労働に対する対価である部分とが明確に区別されていないと主張する。
しかし、有効な固定残業代の定めであるためには、必ずしもXが指摘する各点を示すことは必要ないと解されるので、Xの上記主張を採用することはできない。

3 Xは、Y社が主張する実際の時間外労働に係る時間数と、上記の時間数が著しく異なるため、時間外手当は、時間外労働の対価としての性質を有しないとも主張する。そして、確かに、Y社が給与計算において考慮した時間外労働等に係る時間数と、上記時間数は相当程度異なるが、上記の各事実が認められることのほか、Y社の給与計算においてコース組みに要した時間が含まれていないこと、Y社の給与計算によっても平成28年2月16日から同年3月15日の間に38時間以上、平成30年1月16日から同年2月15日の間に47時間以上時間外労働をしていたことを考慮すると、上記判断は左右されない。

最近は、上記判例のポイント2のような判断が主流ですね。

残業代請求訴訟は今後も増加しておくことは明白です。素人判断でいろんな制度を運用しますと、後でえらいことになります。必ず顧問弁護士に相談をしながら対応しましょう。

本の紹介992 あなたのダイエットはなぜ結果が出ないのか(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

日頃からワークアウトをしている人にとっては、自然とツイッター、インスタ、YouTube等で情報収集するため、特段、目新しい情報ではありませんが、そうでない人にとっては、目から鱗が落ちる本だと思います。

どれだけ巷に多くの間違ったダイエット法が蔓延しているかを知るだけでも全然違います。

特にこれから始めようとする方にはおすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

もし今、目の前に等身大の鏡があって、鏡に映る自分の姿を『太っているな』と思うのなら、それはすべて自分の責任。責任は自分にあるのだと思わねばならない。これ、大前提です。『仕事が忙しいから』とか『付き合いが多くて』などと言い訳をしてはいけない。そう考える人は、まずダイエットなんか、成功できない。なぜなら、あなたの身体や生活習慣を管理しているのは、あなたの友達でも、あなたの職場の人でも、むろん私でも、ないッ!100%、あなた自身なのだ。」(17頁)

筋トレを始めとする日頃のトレーニングは、100%、自分への投資ですので、やらない理由が見当たりません。

ゴルフのように拘束時間も長くありませんし、ジムの会費なんて飲み代を考えたらタダみたいなものです。

週2~3回、たった1時間の筋トレを続けられない人に何が続けられるのでしょう・・。

人間が最も苦手とすること、それは「継続すること」です。

だからこそ途中で投げ出さずに続けることには価値があるのです。

賃金180 長時間労働を理由とする精神疾患未発症事案における損害賠償請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、長時間労働に従事させたことに対し、疾患未発症でも損害賠償請求が認められた裁判例を見てみましょう。

狩野ジャパン事件(長野地裁大村支部令和元年9月26日・ジュリ1539号4頁)

【事案の概要】

Xは、Y社と、平成24年5月ないし6月に無期労働契約を締結し、Y社の製麺工場で小麦粉をミキサーに手で投入する作業等を行っていた。

Xは、平成27年6月から平成29年6月までの間、平成28年1月と平成29年1月を除く全ての月で月100時間以上(平成28年1月と平成29年1月も月90時間以上、長いときには月160時間以上)の時間外等労働を行っていた。

Xは、Y社に対し、①時間外、休日、深夜労働等に対する未払賃金、②労基法114条に基づく付加金、③長時間労働による精神的苦痛に対する慰謝料等の支払いを求めて提訴した。

【裁判所の判断】

請求一部認容

【判例のポイント】

1 Xは、2年余にわたり、長時間の時間外等労働を行った。Y社は36協定を締結することなく、または、法定の要件を満たさない無効な36協定を締結して、Xを時間外労働に従事させていた上、タイムカードの打刻時刻から窺われるXの労働状況について注意を払い、Xの作業を確認し、改善指導を行うなどの措置を講じることもなかったことによれば、Y社には、安全配慮義務違反があったといえる。

2 Xが長時間労働により心身の不調を来したことを認めるに足りる医学的な証拠はないが、Xが結果的に具体的な疾患を発症するには至らなかったとしても、Y社は安全配慮義務を怠り、2年余にわたり、Xを心身の不調を来す危険があるような長時間労働に従事させたものであるから、Xの人格的利益を侵害したものといえる。Xの精神的苦痛に対する慰謝料は、30万円をもって相当と認める。

上記判例のポイント2は押さえておきましょう。

金額は大きくありませんが、担当裁判官によってはこのような事案でも未払賃金の他に慰謝料も認めます。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介991 勝つために9割捨てる仕事術(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

著者は、元日テレのプロデューサーの方です。

タイトルからわかるとおり、強者に勝つための「一点突破」術を伝授してくれています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

戦略の効果を高めるために、一点を正確に捉える『精度』にこだわること。それがミッション達成を確実にする。…戦略を定めて一点突破を目指したはいいが、その一点が正しくミッションクリアに向かっていないと、結果的に遠回りになってしまう。そのためにも、実績データを常に監視して、戦略が効果をあげているかを確認し、必要であれば『一点』のポイントを修正する必要がある。この精度を高める取組は、多くの場合、トライ&エラーを繰り返す地道な作業だ。」(89~90頁)

「選択と集中」というフレーズは知っていたとしても、それを自分の仕事に落とし込んで正しく実行している人がどれほどいるでしょうか。

何を選択すべきか、どこに集中すべきかを正確に捉えることが極めて重要です。

自分の強みを理解し、それをわかりやすく提示する。

言うは易し。

だからこそ何度も微調整を繰り返しながら精度を高めていくしかないのです。

セクハラ・パワハラ58 セクハラに対する会社の対応と安全配慮義務(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今年も一年よろしくお願いいたします。

今日は、セクハラに対する会社の対応につき債務不履行責任を否定した裁判例を見てみましょう。

N商会事件(東京地裁平成31年4月19日・労経速2394号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であったXが、Y社の従業員であるCからセクハラに該当する行為を受けたところ、Y社がこれに関する事実関係の調査をせず、安全配慮義務ないし職場環境配慮義務を怠ったこと等により精神的苦痛を被ったなどと主張して、債務不履行に基づき、損害金904万1960円+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社は、平成25年9月頃に、Xから、Cよりメールを送信されて困っているなどとセクハラ行為に係る相談を持ち掛けられたのを受けて、まもなく、Cに対し、事実関係を問い、Cから事実認識について聴取するとともに、問題となっている送信メールについてもCに任意に示させて、その内容を確認するといった対応をとっているものである。
そうしてみると、Y社において、事案に応じた事実確認を施していると評価することができるところであって、Y社に債務不履行責任を問われるべき調査義務の違背があったとは認め難い
Xは、Y社において、CとXとの間で交わされたメールの提出を求め、あるいは、従業員全員から聴取を行うべきであったなどと主張しているが、Y社において、メールの確認はしているし、そのような事実確認も経ている中、プライバシーに関わる相談事象について、他の従業員に対し、殊更事実確認を行うことが必須ということもできず、Y社にXが主張するような具体的な注意義務があったとまでは認め難い。

2 Xは、Y社において、Xに対する職場環境配慮義務ないし安全配慮義務として、配置転換等の措置を取るべき注意義務があり、その違反があったとも主張する。
しかしながら、CがXに対してした所為が前記の範囲にとどまるものであったことや、そういった行為であってもXに不快な情を抱かせるものとしてCに対して厳重に注意もなされていること、そして、Cも自身の行為を謝し、Xもひとまずこれを了とし、その際、あるいはそれ以降、特段、Cから、メール送信等によりXに不快な情を抱かせるべき具体的言動がなされていたともY社に認められていなかったことは前記のとおりであるところ、Y社には本社建物しか事業所が存せず、配転をすることはそもそも困難であった上、この点措いても、そもそも倉庫業務担当者と営業補助担当者との接触の機会自体、伝票の受け渡し程度で、乏しかったものである(後に伝票箱による受け渡しで代替される程度にとどまっていることからもこの点は窺われる。)。しかも、Y社は、Xの発意に基づくものであったかは措くとしても、上記わずかな接触の機会についても、その意向も踏まえ、納品伝票を入れる伝票箱に入れることでやり取りをすることを認めたり、さらには担当者自体を交代するといったことも許容していたものである。そうしてみると、Y社において、事案の内容や状況に応じ、合理的範囲における措置を都度とっていたと認めることはできるところであって、Xが指摘するような注意義務違反があったとは認め難い。

ハラスメント事案が発生した場合の具体的な対応のヒントになる裁判例です。

どこまでいってもケースバイケースですが、考え方を学ぶにはこのような裁判例を理解しておくことが役に立ちます。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

一年の締めくくり

おはようございます。

本日をもちまして、今年の営業を終了いたします。

今年も一年、皆様には大変お世話になりました。

弁護士、スタッフ一同、心より感謝申し上げます。

来年は1月6日(月)より営業を開始いたします。

来年も精一杯、依頼者の皆様のために精進してまいりますので、宜しくお願い致します。

なお、顧問先会社様におかれましては、年末年始のお休み中も対応しておりますので、

ご相談等がありましたら、いつでもご遠慮なく、栗田の携帯電話にご連絡ください。

それでは皆様、良いお年を!

本の紹介990 CoCo壱番屋 答えはすべてお客様の声にあり(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

今から10年程前の本ですが、ココイチの成功の理由が書かれています。

顧客の本音から何を学び、どう活かしてきたかがよくわかります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

人はともすると繁盛しない理由を立地のせいにする。『こんな辺鄙な場所ではお客に来いといっても無理ですよ』『いくらがんばっても立地の良いところにはかないません』そういう面がないとは言わないが、ほとんどは言い訳である。」(119~120頁)

静岡を代表するうなぎの「瞬」さんに一度でも行けば、立地は言い訳でしかないことはすぐにわかります。

立地、不景気、天気・・・もう言い訳をしようと思えば、いくつも出てきます。

しかし、繁盛していない理由は本当にこれらの外的要因にあるのでしょうか。

どんな山奥にお店があっても、繁盛しているお店はいつだって繁盛しています。

理由はいつだって自分自身と自分が提供するサービスなのです。

労働災害101 口頭弁論終結時に症状固定していない場合の逸失利益の請求(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、うつ病発症に関する安全配慮義務違反について総額3472万円余の請求が認容された裁判例を見てみましょう。

甲研究所事件(札幌地裁平成31年3月25日・労経速2392号14頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されているXが、Y社における過重労働が原因でうつ病になったところ、Y社に安全配慮義務違反があると主張して、損害賠償の一部請求として8271万8752円+遅延損害金の支払を求めるとともに、Y社の労務管理の不備及びCの嫌がらせ等が不法行為に当たるとして、慰謝料+遅延損害金並びに弁護士費用の支払いを求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、3472万7903円+遅延損害金を支払え

Cは、Xに対し、33万円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、Cと連帯して33万円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xは、平成18年に復職してから平成26年5月に休職するまでの間、基本給と主任加給の合計額の半分を減額されてきている。この減額は、業務に起因するうつ病によりXの勤務時間が減少したことによるものであるから、損害となる

2 本件の場合、Xの主治医のみならず、Y社らが意見を求めたK医師の意見からしても、本件の口頭弁論終結時にXの症状が固定していたとは認められないから、Xの後遺障害を前提とした逸失利益の請求については、現時点では、認められないと解する。

上記判例のポイント1の視点は参考になりますので押さえておきましょう。

労災発生時には、顧問弁護士に速やかに相談することが大切です。

本の紹介989 400のプロジェクトを同時に進める佐藤ナオキのスピード仕事術(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。

タイトルのとおり、ハイスピードでいくつもの仕事を進める仕事術が紹介されています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

プロジェクトの結果を求めるなら、アイデアはできるだけスピーディーに出したほうがいいのです。『仕事に時間をかけることは貴い』という考えはバッサリと切り捨て、常に『この仕事は時間をかけることによって質が高まるものかどうか』ということを意識する視点を持っておくことが重要だと思います。」(118頁)

私は、決断力の問題として捉えています。

何を決めるのも早い人というのは、意識して日常の小さな決断を早くしているのです。

レストランのメニューをずっと見て、なかなか決められない人が、どうしてビジネスにおける判断だけ速やかにできるのでしょうか。

優柔不断とは、詰まるところ、時間の無駄遣い以外の何物でもありません。

従業員に対する損害賠償請求7 従業員同士の暴行による傷害と使用者責任(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、従業員同士の暴行による傷害と使用者責任等に関する裁判例を見てみましょう。

A研究所ほか事件(横浜地裁川崎支部平成30年11月22日・労判1208号60頁)

【事案の概要】

本件は、平成26年4月20日当時、Y社の従業員であったXが、同日、勤務中に、Y社の事業所内において、当時Y社の従業員であったAから暴行を受けて受傷したとして、Aに対しては不法行為に基づき、Y社に対しては使用者責任又は雇用契約上の債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき、損害賠償金1195万0218円+遅延損害金の連帯支払を求めている事案である。

【裁判所の判断】

AはXに対し、472万2589円+遅延損害金を支払え。

Xのその余の請求は棄却

【判例のポイント】

1 以上検討したところによれば、むしろ、AにはX主張の業務上のミスはなく、本件暴行の原因となったXの言動は、Xの担当業務の遂行には当たらないことが認められる。したがって、本件暴行の原因とY社の事業執行との間には密接な関連性があるとのXの主張は、その前提となる事実を欠くものというべきである。
かえって、XとAは、初対面の時から互いに相手に対して不快な感情を抱き、その後も、互いに相手の態度や発言に反感を抱き、Xとは親しい関係にあるGが従前からAと対立関係にあったとの事情もあって、相手に対する敵対的な感情を相互に強めていたところ、平成26年4月20日、Xが、Aに対し、Aは仕事ができず、他の従業員に迷惑をかけているとのAを貶める発言や、本件トラブルの原因はAのミスなので報告するなどとの事実に反しAを貶める発言をしたこと等から、これに憤慨したAが、Xからパソコンを取り上げようとし、XがAの右手首をつかんでひねったことがきっかけとなって、Aが本件暴行を開始したことが認められる。
上記認定事実によれば、本件暴行は、Y社の事業所内においてAの従業員同士の間で勤務時間中に行われたものではあるが、その原因は、本件暴行前から生じていたXとAとの個人的な感情の対立、嫌悪感の衝突、XのAに対する侮辱的な言動にあり、本件暴行は、私的な喧嘩として行われたものと認めるのが相当である。
上記認定事実からしても、本件暴行がY社の事業の執行を契機とし、これと密接な関連を有するとは認められないから、本件暴行によるXの損害は、AがY社の事業の執行につき加えた損害に当たるとはいえない

従業員同士の暴行・傷害事件の場合、会社に対してその責任を追及できるかを検討する場合、本件のように本件暴行の原因と事業執行との間に密接な関連性があるか否かを見て行くことになります。

評価が微妙なことが多く、悩ましいところです。

日頃から顧問弁護士に相談をすることを習慣化しましょう。