労働時間105 専門業務型裁量労働制における労使協定締結が無効として残業代等の支払いが命じられた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、専門業務型裁量労働制における労使協定締結が無効として残業代等の支払いが命じられた事案

学校法人松山大学事件(松山地裁令和5年12月20日・労経速2544号3頁)

【事案の概要】

本訴事件は、①Y大学法学部法学科に所属する教授職にあるXらが、専門業務型裁量労働制を導入した就業規則の変更が無効であり、時間外労働、休日及び深夜労働に係る賃金が支払われていないと主張して、未払賃金支払請求権に基づき、Y大学に対し、X甲野に509万1326円+遅延損害金、X乙山に407万6623円+遅延損害金の支払を求め(以下、これらの請求を「本訴請求①」という。)、②X甲野が、〈ア〉Y丁田によるハラスメント申立て並びにY大学による同申立についての審議及びハラスメント認定がいずれも不当労働行為に該当する、〈イ〉Y大学及びY丁田が、労働者の過半数代表者の選出に当たって不当に介入したことが違法であると主張して、Yらに対し、共同不法行為に基づく損害賠償として、連帯して100万円+遅延損害金の支払を求め(以下、これらの請求を「本訴請求②」という。)、③Xらが、Y大学の、〈ア〉労働者の労働時間を把握管理しなければならない義務及び出退勤時刻を把握する手段を整備しなければならない義務違反、〈イ〉休日及び深夜の研究室の利用の原則禁止処分、〈ウ〉休日・深夜勤務申請書及び休日・深夜勤務報告書の受付拒否、〈エ〉注意文書等の発出行為がいずれも不当労働行為に該当するとして、Y大学に対し、不法行為に基づく損害賠償として、X甲野に75万円+遅延損害金、X乙山に100万円+遅延損害金の支払を求め(以下、これらの請求を「本訴請求③」という。)、④Xらが、Y大学に対し、上記①に係る付加金として、X甲野に421万2988円+遅延損害金、X乙山に270万9640円+遅延損害金の支払を求めた(以下、これらの請求を「本訴請求④」という。)事案である。

【裁判所の判断】

1 Y大学は、X甲野に対し、351万9733円+遅延損害金を支払え。
2 X大学は、X甲野に対し、140万円+遅延損害金を支払え。
3 X大学は、X乙山に対し、284万9534円+遅延損害金を支払え。
4 Y大学は、X乙山に対し、90万円+遅延損害金を支払え。
5 Y大学は、X丙川に対し、720万1813円+遅延損害金を支払え。
6 Y大学は、X丙川に対し、250万円+遅延損害金を支払え。
7 Y丁田は、X甲野に対し、10万円+遅延損害金を支払え。
8 X甲野は、Y丁田に対し、11万円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 専門業務型裁量労働制を採用するに当たっては、「当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定」を締結する必要があり(労働基準法38条の3第1項)、過半数代表者の選出手続は、「法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続」である必要がある(労働基準法施行規則6条の2第1項2号)。
そして、過半数代表者は、使用者に労働基準法上の規制を免れさせるなどの重大な効果を生じさせる労使協定の当事者であり、いわゆる過半数労働組合がない場合に過半数労働組合に代わってその当事者となることが定められていることを踏まえると、過半数代表者の選出手続は、労働者の過半数が当該候補者の選出を支持していることが明確になる民主的なものである必要があると解される。

2 Y大学において、平成29年度の過半数代表者の選出は、選挙により、A教授の信任投票が行われているところ、選挙権者数は493名、信任票が124票であったことから、A教授の選出を明確に支持している労働者は、選挙権者全体の約25パーセントにすぎない。
したがって、A教授は、「労働者の過半数を代表する者」とは認められないことから、A教授とY大学との間で締結された平成30年度の専門業務型裁量労働制に関する労使協定は無効である。
なお、Y大学は、平成29年度の過半数代表者の選出が有効にされたことの根拠として、本件過半数代表者選出規程15条2項が、信任投票において選挙権者が投票しなかった場合は有効投票による決定に委ねたものとみなす旨規定していること、選挙に先立ち、選挙権者に対して上記規定が周知されていたことなどを指摘する。しかしながら、本件において、労働者は、上記規程の下においても、有効投票による決定の内容を事前に把握できるものではなく、また信任の意思表示に代替するものとして投票をしないという行動をあえて採ったとも認められないから、上記規程によっても、投票しなかった選挙権者がA教授の選出を支持していることが明確になるような民主的な手続がとられているとは認められず、この点についてのY大学の主張は採用することができない。

労働時間の例外規定については、その要件を厳格に解釈することになります。

安易に採用すると後から大変なことになりますのでご注意ください。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

本の紹介2116 インパクトカンパニー#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、本の紹介です。

今から5年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

帯には「『小さくても輝く企業』(インパクトカンパニー)に生まれ変わるための『たった一つの勝ちパターン』とは?」と書かれています。

大きさではなく爆音のインパクトが勝敗を決するのです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

売上や利益を求めるほど、会社の収益性はどんどん低下していく。こんな善意による悲劇が、日本の至るところで起きている。」(110頁)

この文章の意味、わかりますか?

「え、なんで?」って思いませんか?

わかる人にはわかると思います。

会社の規模を大きくすることだけがゴールではありません。

むしろ小回りが利くように、意識してあえて組織を大きくしないという選択もあるのです。

今後ますます不透明な時代に突入していきます。

固定資産、固定費といった状況の変化に対応しにくいモノをいかに持たないかが私のモットーです。

賃金282 使用者による一方的な錬成費の支給中止が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、使用者による一方的な錬成費の支給中止が認められた事案を見ていきましょう。

中日新聞社事件(東京地裁令和5年8月28日・労経速2543号25頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の従業員であるXが、Y社に対し、毎年従業員に支給していた錬成費の支給は、労使慣行(又は黙示の合意)として労働契約の内容となっていると主張して、労働契約に基づき、令和2年分の錬成費及び遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 民法92条により法的効力のある労使慣行が成立していると認められるためには、同種の行為又は事実が一定の範囲において長期間反復継続して行われていたこと、労使双方が明示的にこれによることを排除・排斥していないことのほか、当該慣行が労使双方の規範意識によって支えられていることを要し、使用者側においては、当該労働条件についてその内容を決定し得る権限を有している者か、又はその取扱いについて一定の裁量権を有する者が規範意識を有していたことを要するものと解される。
Y社は、昭和30年代から平成31年まで、60年以上にわたり、従業員等に対し、年間で合計3000円を錬成費として支給していたが、この間、労使双方が明示的に当該慣行を排除・排斥した事実は認められない。
したがって、錬成費の支給について、同種の行為又は事実が一定の範囲において長期間反復継続して行われ、労使双方が明示的に当該慣行によることを排除・排斥されていなかったと認められる。

2 Y社が、錬成費について、労働条件である給与の支払と同様に支給を継続する必要がある金員として支給を開始したものとは認められず、その後、Y社が長年にわたり従業員に錬成費を支給してきた事実はあるものの、その間に行われた錬成費の支給に係る変更は、いずれも使用者による一方的な変更によって行われており、労使双方の合意が必要であるものとされていなかったということが認められる。また、従業員においても錬成費を給与に類するものとして受け止めていたとはうかがわれず、Y社は一貫して錬成費の支給手続等について給与の支払とは異なる取扱いをしていたのであるから、錬成費の支給という当該慣行が労使双方の規範意識によって支えられていたとは認められない。

労使慣行のハードルの高さがわかりますね。

また、上記判例のポイント2の考え方は是非知っておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

本の紹介2115 人を信じても、仕事は信じるな!#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、本の紹介です。

今から9年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

帯には「小さい会社には小さい会社なりのやり方がある!」と書かれています。

小さい会社の強みを理解し、その強みを最大限活かす経営をするべきです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

『上司はどこを見ている』のかがわかれば、部下自身も『どこに力を入れるべきか』『どこを修正すべきか』がわかります。」(178頁)

受験勉強と同じことです。

採点基準を熟知することから始めましょう。

求められているポイントを押さえない限り、いくら努力をしても結果につながりません。

それは、いわゆる「ずれている」という状態です。

限りある時間の中で効率よく努力をするのです。

対上司に限らず、対顧客も同じことです。

賃金281 定期昇給等の実施が労使慣行として認められなかった事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、定期昇給等の実施が労使慣行として認められなかった事案を見ていきましょう。

学校法人I学園事件(東京地裁令和5年10月30日・労経速2543号18頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用されているXらが、平成28年度から令和元年度の定期昇給及び特別昇給が行われなかったことにつき、労働契約又は労使慣行によりY社は定期昇給及び特別昇給を行う義務を負っていたとして、Y社に対し、労働契約に基づき、定期昇給及び特別昇給が行われていた場合の従来の賃金表に基づく賃金及び賞与と実際に支払われた賃金及び賞与との差額並びにこれらに対する遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Y社の給与規程では定期昇給について「予算の範囲内において」行うと定められ、給与規程において定期昇給の具体的な内容が定められていたものではなく、その内容が明らかになっているものではないこと、本件組合とY社との間で団体交渉を経て妥結協約書を作成した上で定期昇給が行われてきたことが認められるから、毎年必ず定期昇給を行うことがXらとY社との間の労働契約の内容になっているとは認められない。

2 本件組合において定期昇給及び特別昇給等を団体交渉で要求し、Y社において財政状況を踏まえて予算を検討し、その後本件組合と被告との間で団体交渉を行い、妥結した上定期昇給及び特別昇給が行われてきたこと、Y社が特別昇給の中止を通達したこともあったが本件組合からの抗議があり撤回したこと、Y社から定期昇給を定年5年前で停止する旨回答したものの、本件組合の反対により撤回されたこと、Y社が平成25年3月29日には、平成26年度以降は定期昇給を実施できないことを否定できない旨回答していたこと等が認められ、Y社において定期昇給及び特別昇給を行わない可能性や中止について言及するなどし、定期昇給及び特別昇給を行うことを規範として認識していたとは認められない
また、本件組合においても、定期昇給及び特別昇給が当然に行われるものではないと認識していたからこそ要求していたといえるから、定期昇給及び特別昇給を行うことが労使双方の規範意識によって支えられていたとは認められず、定期昇給及び特別昇給を行うことが労使慣行になっていたとは認められない

労使慣行として認められるのはかなりハードルが高く、そう簡単に裁判所は認めてくれません。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

 

本の紹介2114 1秒でつかむ#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

元テレ東敏腕ディレクターの本です。

圧倒的没入感」がいかにして生まれるのかがよくわかります。

とても勉強になります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

仕事において極めたスキルの『広さ』は、コンテンツにおける『深さ』をもたらします。」(109頁)

ある特定の分野の専門性を高めることももちろん大切ですが、その一方で、幅広く経験することもまたそれと同じくらい大切です。

なにがどのタイミングでコネクトするかわかりませんので。

ある三ツ星のフレンチのシェフが、休日に、フレンチのみならず、ありとあらゆるジャンルの流行っているお店に食事に行くのもまた同じ理由です。

解雇408 懲戒処分当時に使用者が認識していなかった非違行為に基づく懲戒解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、懲戒処分当時に使用者が認識していなかった非違行為に基づく懲戒解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

富士通商事件(東京地裁令和5年7月12日・労判ジャーナル144号36頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社が行った解雇は無効である等と主張して、Y社に対して、解雇無効地位確認及び未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求認容

【判例のポイント】

1 Y社はXに対して懲戒解雇の意思表示をしており、懲戒処分当時に使用者が認識していなかった非違行為は、特段の事情がない限り、その存在をもって当該懲戒処分の有効性を根拠付けることはできないものというべきであるところ、Y社の主張する事情は、解雇理由証明書に記載されておらず懲戒当時にY社代表者が認識していなかったと認められるから、これらの事情があったとしても、本件懲戒解雇の有効性を根拠づけることはできず、その他、本件では、Y社の主張する懲戒事由が認められないことから、本件懲戒解雇は無効であるから、Xは、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあるとともに、Xが令和3年7月7日以降に労務を提供していないのは、Y社の責めに帰すべき事由によるものといえるから、Y社は、56万3721円の支払義務を負う。

上記太字部分の事情からすれば解雇事由とするのはなかなか難しいですね。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

本の紹介2113 ウチら棺桶まで永遠のランウェイ#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、本の紹介です。

今から5年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

帯には、「人生は環境じゃなくて、全部やり方次第だって私が証明する」と書かれています。

環境による影響は極めて大きいです。

とはいえ、環境のせいにしたところで何ひとつ状況は変わりません。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

未来に不安はあるけど、未来を左右するのって今だから、今の心配するようにしてるわ」(9頁)

未来は常に「今」の積み重ねによってつくられます。

未来が不安だ不安だと嘆きながら、たいした準備をしない人を見ると複雑な気持ちになります。

未来がそんなに不安なら、今から準備すればいいのに。

毎日、朝4時に起きて、勉強すれば、未来の不安なんてなくなります。

人が寝ているとき、遊んでいるときに死に物狂いで勉強しましょう。

未来は自分の力で切り拓くほかありません。

解雇407 頻繁に傷害事件を起こした従業員の解雇の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、頻繁に傷害事件を起こした従業員の解雇の有効性に関する裁判例を見ていきましょう。

建設会社S事件(大阪地裁令和5年10月27日・労判ジャーナル144号24頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で雇用契約を締結し、勤務していたXが、Y社による解雇が無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び未払賃金等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、平成30年4月3日にY社の従業員に対する傷害事件を起こした後、令和2年3月6日及び同月9日に立て続けにY社の協力業者に対する傷害事件を起こし、いずれもY社の業務遂行中に起こしたものであり、Y社の企業秩序を害したものというべきであるし、特に、同月9日のGに対する傷害事件は、手術を要するものであり、結果が重大であり、Xは、Y社代表者からF及びGに対する謝罪を求められたにもかかわらず、同人らに対し、一切謝罪をせず、損害賠償についても、Y社が行い、Xは何ら対応しないなど、態度を改めることがなかったところ、Y社は、Xを直ちに解雇せず、現場作業員から営業職への配置転換を行ったものであり、これは解雇回避措置と評価できるものであるが、Xは、F及びGに対する傷害事件の約1年5か月後に実父に対する傷害事件を起こし、逮捕、勾留、起訴及び公判を経て、執行猶予付き有罪判決を言い渡されたものであるから、Xの粗暴傾向は、非常に根深く、もはや改善の余地はないと評価し得る状況であったと認められ、Y社は、保釈前にXを直ちに解雇することなく、保釈後にXと面談し、事情を聴取した上で、退職勧奨をし、Xがこれに応じなかったことから、最終的に本件解雇の意思表示をしたものであることに照らせば、本件解雇は、客観的に合理的な理由が認められ、社会通念上相当として是認できる場合に当たると認められる。

丁寧に丁寧に手続きを進めたということがよくわかります。

民事事件でありながら刑事事件の判決を見ているようです。

日頃の労務管理が勝敗を決します。日頃から顧問弁護士に相談することが大切です。

 

本の紹介2112 シェアライフ#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間がんばりましょう。

今日は、本の紹介です。

今から5年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

タイトル通り、あらゆるものをシェアすることを提唱しています。

家や車に限らず、日用品についてもシェアする時代になりつつあるのは確かです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

『家』とは、人生において最も重要なものであり、生活の基礎となるものですが、一方で、人生で新しい選択をしたいときなど、ときに自由を阻む大きな制約やハードルになるのも『家』なのです。」(90頁)

賃貸と持ち家、どちらのほうがいい?みたいな論争はどうでもよくて、自分の好きにすればいいのです。

どちらのほうが自分の価値観に合うか、ただそれだけの話です。

私のようにモノを所有することに幸せを感じない人にとっては、持ち家は不要です。

荷物を持ちすぎると動きが鈍くなるのは、人生も同じだと思っています。