セクハラ・パワハラ45 上司の不適切発言に基づく損害賠償請求と会社のレピュテーションダメージ(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、不適切な言動に基づく損害賠償等請求に関する裁判例を見てみましょう。

システムディ事件(東京地裁平成30年7月10日・労判ジャーナル81号38頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社に対し、賃金及び賞与を理由なく減額したと主張して、減額分の賃金・賞与、合計約491万円等の支払を求め、また、Y社に対し、上司らの退職強要等に係る債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求(休業損害、治療費及び通院交通費並びに慰謝料の損害金合計約539万円等)の支払を求め、代表取締役であるAの暴言に係る不法行為に基づく慰謝料に関し、Aに対しては不法行為、会社に対しては会社法350条又は使用者責任に基づき、連帯して慰謝料50万円等の支払を求め、また、会社に対し、民法536条に基づく休職期間満了後の賃金・賞与請求、合計約501万円等の支払を求め、また、上記復職後の減額分の賃金約12万円及び未払賞与約47万円等の支払を求め、さらに、有給休暇分の賃金・通勤手当等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

減額分等未払賃金・賞与等支払請求の一部認容(休業損害254万7963円、治療費及び通院交通費8万9900円、慰謝料80万円等)

不適切な言動等に基づく損害賠償等請求の一部認容(慰謝料20万円)

【判例のポイント】

1 Xは、A及び事業部長であるGから、不適切な言動により罵倒されるなどしながら繰り返し退職を迫られ、退職に応じなければ会社C本社に転勤させてそれまでの営業以外の業務に就かせて賃金を更に減額するなどと言われ、複数回欠勤するようになり、Gから担当業務の変更や賃金の減額を通告され、その後、医師からうつ状態と診断され、これを原因として休職するに至ったことが認められるから、Y社は、Xに対し、本件雇用契約に基づく注意義務を怠り、AやXの上司らにおける不当な言動や一方的な賃金の減額等を行ってXの意思決定を不当に制約するとともにその人格権を違法に侵害し、これによって、Xはうつ状態を発症するに至ったものと認められ、Y社は、Xに対し、債務不履行に基づき、Xに生じた損害を賠償する責任を負う。

2 AのXに対する発言等が、Xがうつ状態による1年6か月に及ぶ休職期間の満了後に、ようやくこれが寛解して臨んで面会の席上で行われたこと、上記発言中において、AはXに対して「裏切り」「寄生虫」という言葉を複数回用いたこと、AがXに対してこのような発言をしたのはこれが初めてではないことなどの事情を総合考慮すれば、AのXに対する上記発言によって生じたXの精神的苦痛に対する慰謝料としては、20万円が相当である。

使用者側とすれば、この裁判による金銭的負担のみならず、上記のような内容の裁判例が会社名とともに残ることによるレピュテーションリスクについても事前に検討しなければなりません。

ハラスメントについては、注意喚起のために定期的に研修会を行うことが有効です。顧問弁護士に社内研修会を実施してもらいましょう。

本の紹介873 にぎやかだけど、たったひとりで(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
にぎやかだけど、たったひとりで 人生が変わる、大富豪の33の教え

久しぶりの”兄貴”本です。

今回の本は、吉本ばななさんとの共著です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

実際お金儲けっていうのは、簡単に言うたら時間の使い方です。『あー良く寝た』。これはもう頑張れないんだろうなって。僕にとって寝てるっていうのは死だから。死んでるのと何にも変わらへん。記憶にございませんやから。・・・どうやったら儲かるように時間使いこなせまっかっていうたら、会社に身を置いてる人はいかに不特定多数の人と時間を共有できましたかっていう事の繰り返しなんや。」(68頁)

誰とどれだけ時間を共有したかで人生は大きく変わってきます。

どの人の影響を強く受けたかということは、その後の人生に大きく影響してくるからです。

年齢を重ねてくると、自ら意識をしないと、人から学ぶ機会がどんどん減ってきます。

同業者と戯れている時間があったら、異次元の人とできるだけ時間を共有したほうが100万倍勉強になります。

業界内の噂話で時間を無駄にするほど人生は長くありません。

だれがどうなったとか、くそどうでもいいわ。 興味0。

限られた時間をどのように使うかで人生が決まると確信しています。

解雇289 幹部社員の試用期間中の解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、幹部社員の試用期間中の解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ラフマ・ミレー事件(東京地裁平成30年6月20日・労判ジャーナル81号2頁)

【事案の概要】

本件は、Y社のジェネラルマネージャー(GM)兼コマーシャルディレクターとして雇用されたXが、試用期間中に解雇されたことについて、同解雇は客観的合理的理由を欠き社会通念上も相当と認められず無効であると主張して、Y社に対し、雇用契約上の地位確認を求めるとともに、雇用契約による賃金請求権に基づき、解雇後の賃金+遅延損害金の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 本件雇用契約において、中長期的な業務計画及び財務の予算管理、損益に対する全責任を含むY社の運営管理、卸売(ホールセール)及び小売(リテール)の両業務において、年間の業務目標、予算、課題を準備、実行及び達成することなどがXの職責とされていたことに照らすと、Xの一連の行動については、明らかに不十分なものであって、Y社のGMとしての職責を果たしていないというべきであり、かつ、GMとしての職責を果たす上で資質、能力に欠けていると評価されてもやむを得ないというべきである。

2 Aの指導を経た後も、本件解雇時点におけるXの商品発注に関する理解は著しく不十分であり、Xは、商品の発注に関して、その職責を果たしておらず、かつ、Y社のGMとしての職責を果たす上で資質ないし能力に欠けていると評価されてもやむを得ないというべきである。

3 Xは、9月23日、FC2を作成する責任の所在をめぐって、Aの態度を強く非難する感情的な内容のメールを送信しているところ、Xには、Y社のGMとしてFC2を作成してフランス親会社の承認を得る責任があると認められることからすると、上記Aに対するメールにおける同人に対する非難は、合理的な理由のないものといわざるを得ない。したがって、上記メールにおけるXの態度は、感情的で自己抑制を欠いた態度と評価する他はない

どんな場合でもそうですが、資質・能力が欠けていることを示す証拠をどれだけ揃えられるかがカギです。

しっかり準備をしてから解雇をしないと厳しい戦いが待っています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介872 サービスマンという病い(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
サービスマンという病い

著者は、中国料理店Wakiya総括支配人の方です。

一流のサービスマンが日頃どのような点に着目しているのかがよくわかります。

言うまでもなくすべての仕事に応用可能な話が書かれています。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

・・・ではどうやって判断しているのかというと、私が思うに、これはやはりずっと続けてきた『観察と想像』の賜物なのではないでしょうか。・・・これは、もともと私が人の様子をよく見ている子どもだったことにも関係があるのかもしれません。周囲の人を観察する習慣は、仕事に関係なくあったようにも思います。」(101頁)

「観察と想像」はいかなる仕事においても極めて重要な能力です。

この能力がある人とない人では、仕事のしかたが天と地ほど異なります。

求められていることを先回りできる人

細かい点まで配慮が行き届く人

こういう人は、観察力と想像力に長けているので、だいたいどんな仕事をやってもうまくいきます。

みなさんの周りの「仕事ができる人」をよく観察して、真似をしてみましょう。

有期労働契約84 有期雇用契約の更新における年齢上限規制は有効か?(労務管理・顧問弁護士@静岡)

あけましておめでとうございます。

本年もよろしくお願いいたします。

本日からお仕事スタートです。

1日から毎日事務所で仕事しているのであまりスタートという感じはしませんが・・・。

今日は、一定の年齢に達した場合に有期労働契約を更新しない旨の上限条項が有効とされた判例を見てみましょう。

日本郵便(更新上限)事件(最高裁平成30年9月14日・労経速2361号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社との間で、期間の定めのある労働契約を締結して郵便関連業務に従事していたXらが、Y社による雇止めは無効であると主張して、Y社に対し、労働契約上の地位の確認及び
雇止め後の賃金の支払等を求める事案である。

Y社は、平成19年10月1日、期間雇用社員就業規則を制定した。本件規則10条1項は、Y社が必要とし、期間雇用社員が希望する場合、有期労働契約を更新することがある旨定めており、同
条2項は、「会社の都合による特別な場合のほかは、満65歳に達した日以後における最初の雇用契約期間の満了の日が到来したときは、それ以後、雇用契約を更新しない。」と定めている。

【裁判所の判断】

上告棄却

【判例のポイント】

1 労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、当該労働条件は、当該労働契約の内容になる(労働契約法7条)。
本件上限条項は、期間雇用社員が屋外業務等に従事しており、高齢の期間雇用社員について契約更新を重ねた場合に事故等が懸念されること等を考慮して定められたものであるところ、高齢の期間雇用社員について、屋外業務等に対する適性が加齢により逓減し得ることを前提に、その雇用管理の方法を定めることが不合理であるということはできず、Y社の事業規模等に照らしても、加齢による影響の有無や程度を労働者ごとに検討して有期労働契約の更新の可否を個別に判断するのではなく、一定の年齢に達した場合には契約を更新しない旨をあらかじめ就業規則に定めておくことには相応の合理性がある
そして、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律は、定年を定める場合には60歳を下回ることができないとした上で、65歳までの雇用を確保する措置を講ずべきことを事業主に義務付けている
が(8条、9条1項)、本件上限条項の内容は、同法に抵触するものではない。
なお、旧公社の非常勤職員について、関係法令や旧任用規程等には非常勤職員が一定の年齢に達した場合に以後の任用を行わない旨の定めはなく、満65歳を超えて郵便関連業務に従事していた非常勤職員が相当程度存在していたことがうかがわれるものの、これらの事情をもって、旧公社の非常勤職員が、旧公社に対し、満65歳を超えて任用される権利又は法的利益を有していたということはできない。
また、Y社が郵政民営化法に基づき旧公社の業務等を承継すること等に鑑み、Y社が、期間雇用社員の労働条件を定めるに当たり、旧公社当時における労働条件に配慮すべきであったとしても、Y社は、本件上限条項の適用開始を3年6か月猶予することにより、旧公社当時から引き続き郵便関連業務に従事する期間雇用社員に対して相応の配慮をしたものとみることができる
これらの事情に照らせば、本件上限条項は、Y社の期間雇用社員について、労働契約法7条にいう合理的な労働条件を定めるものであるということができる。

2 原審は、本件上限条項が、旧公社からY社に引き継がれた労働条件を労働者の不利益に変更したものであることを前提として、本件上限条項の合理性を検討している。
しかしながら、Y社は、郵政民営化法に基づき設立された株式会社であって、特殊法人である旧公社とは法的性格を異にしており、Y社の期間雇用社員が、国家公務員である旧公社の非常勤職員と法的地位を異にすることも明らかである。また、郵政民営化法167条は、旧公社の解散の際現に旧公社の職員である者について、別の辞令を発せられない限り、承継計画の定めるところに従い、承継会社のいずれかの職員となる旨定めているところ、旧公社の非常勤職員は、旧公社の解散する日の前日に旧公社を退職しており、同条の適用を受けることはない。そうである以上、旧公社の非常勤職員であった者がY社との間で有期労働契約を締結することにより、旧公社当時の労働条件がY社に引き継がれるということはできない
したがって、Y社が本件上限条項を定めたことにより旧公社当時の労働条件を変更したものということはできない

3 原審は、本件上限条項に基づく更新拒否の適否の問題は、解雇に関する法理の類推により本件各雇止めが無効になるか否かとは別の契約終了事由に関する問題として捉えるべきものであるとしている。
しかしながら、正社員が定年に達したことが無期労働契約の終了事由になるのとは異なり、Xらが本件各有期労働契約の期間満了時において満65歳に達していることは、本件各雇止めの理由にすぎず、本件各有期労働契約の独立の終了事由には当たらない。
以上によれば、XらとY社との間の各有期労働契約が実質的に無期労働契約と同視し得るとして、本件各雇止めが解雇に関する法理の類推によれば無効になるとしながら、本件上限条項によって根拠付けられた適法なものであるとした原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法がある。

特に結論については驚くものではありません。

上記判例のポイント1は押さえておきましょう。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

一年の締めくくり

おはようございます。

本日をもちまして、今年の営業を終了いたします。

今年も一年、皆様には大変お世話になりました。

弁護士、スタッフ一同、心より感謝申し上げます。

来年は1月7日(月)より営業を開始いたします。

来年も精一杯、依頼者の皆様のために精進してまいりますので、宜しくお願い致します。

なお、顧問先会社様におかれましては、年末年始のお休み中も対応しておりますので、

ご相談等がありましたら、いつでもご遠慮なく、栗田の携帯電話にご連絡ください。

それでは皆様、良いお年を!

本の紹介871 空気を読んではいけない(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は本の紹介です。
空気を読んではいけない

青木真也さんの本です。

著者の考え方とこの本のタイトルはまさにぴったりですね。

おすすめです。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

あなたが買った服は本当にあなたが欲しいものですか?今晩飲みに行く友達は本当に大事な人ですか?僕から見ると、多くの人は不要な人やものを抱え込み、自らの価値観を見失っているように思える。隣の芝生が青く見えてしまって、何が自分にとっての幸せなのかぼやけてしまっていないだろうか。」(151頁)

著者はこうも言います。

一度しかない人生で、世間的な『幸せ』に惑わされている時間はない。」(148頁)

その通りです。

世間的に「幸せ」とされているレールに無意識に乗っていることが、必ずしも本当の幸せではないということはよくあることです。

結婚したら家を建てるとか、社会人になったらゴルフをやるべきだとか、いろんな団体に加盟するだとか・・・。

自分が本当にそれをしたいのならそれはそれでいいのでしょうけど、「普通、そうするでしょ」的なわけのわからない理由で時間を無駄にすることだけは死んでもやりたくないわけです。

いかに無駄なことに時間を奪われないようにするか。

そのためには、自分がやりたくないことはやらないと決めて生きることが求められます。

いろんな大人の理由から、これができる人はそれほど多くはありません。 仙人のような生活をしている人は別ですが。

でも、たいしてやりたくもないことに時間を割くほど人生は長くありません。

年々、こういう考えが強くなっていくのは、年々、着実に死に近づいているからにほかなりません。

解雇288 退職の意思表示の有効性の判断方法(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、女性歯科衛生士に対する産休後退職扱いの有効性等に関する裁判例を見てみましょう。

医療法人社団充友会事件(東京地裁平成29年12月22日・労判1188号56頁)

【事案の概要】

本件は、Xが、雇用主であるY社に対し、出産のため休業中、自己都合退職の事実がないのに退職したものと扱われた上、育児休業給付金及び賞与の受給も妨げられたと主張して、労働契約上の権利を有する地位の確認に加え、次の各金員の支払を求める事案である。

1 毎月の賃金及びこれに代わる育児休業給付金相当額等の損害賠償金

2 賞与

3 慰謝料及び弁護士費用

【裁判所の判断】

退職扱いは無効

【判例のポイント】

1 退職の意思表示は、退職(労働契約関係の解消)という法律効果を目指す効果意思たる退職の意思を確定的に表明するものと認められるものであることを要し、将来の不確定な見込みの言及では足りない。退職の意思表示は、労働者にとって生活の原資となる賃金の源たる職を失うという重大な効果をもたらす重要な意思表示であり、取り分け口頭又はこれに準じる挙動による場合は、その性質上、その存在や内容、意味、趣旨が多義的な曖昧なものになりがちであるから、退職の意思を確定的に表明する意思表示があったと認めることには慎重を期する必要がある
・・・このような慣行等に照らしても、書面によらない退職の意思表示の認定には慎重を期する必要がある。むしろ、辞表、退職届、退職願又はこれに類する書面を提出されていない事実は、退職の意思表示を示す直接証拠が存在しないというだけではなく、具体的な事情によっては、退職の意思表示がなかったことを推測しうる事実というべきである

2 ・・・以上のよれば、平成27年12月支給の賞与が具体的な請求権として発生するための要件が具備されたと認めることはできないから、Xの賞与支払請求には理由がない。
ただし、賞与の支給及び算定が、使用者の査定その他の決定に委ねられていても、使用者は、その決定権限を公正に行使すべきで、裁量権を濫用することは許されず、使用者が公正に決定権限を行使することに対する労働者の期待は法的に保護されるべきであるから、使用者が正当な理由なく査定その他の決定を怠り、又は裁量権を濫用して労働者に不利な査定その他の決定をしたときには、労働者の期待権を違法に侵害するものとして不法行為が成立し、労働者は損害賠償請求ができるというべきである(土田道夫「労働契約法第2版274頁参照)。

3 Xは、本判決を債務名義としてY社の診療報酬債権を差し押さえて債権の満足を図る方法が想定されたところ、Y社は、和解協議を通じて、敗訴を予想するや、その事業をA理事長の個人経営に承継させることで、自らに診療報酬債権が発生せず、A理事長に診療報酬債権が発生する状態を作出し、その事実を当裁判所及びXに速やかに通知せず、人証調べ実施の直前に通知するという不意打ちをしている。Xは、その権利の実現のため、今後、A理事長等に対し、法人格避妊の法理、事業譲渡等による労働契約関係その他債務の承継、不法行為、医療法48条1項等に基づく損害賠償責任などを主張する別訴の提起を強いられると見込まれる。別訴では本件訴訟と重複する争点については効率的な審理が可能であるが、独自の争点もあるから審理に相当期間を要することが見込まれ、争点が継続してXの精神的損害はさらに拡大していくことが推認される。
他方、Y社との間の紛争の発生に関し、Xに何らかの落ち度があったことは認められない。
さらに妊娠を理由とする均等法9条3項違反の不利益取扱いとして有効な承諾なく平成20年に降格させ、その後、労働者が退職を選択した事案につき、不法行為に基づき慰謝料100万円を認容した裁判例(広島高判平成27年11月17日)があるところ、Y社は職そのものを直接的に奪っていること、Xには退職の意思表示とみられる余地のある言動はなかったこと、A理事長に故意又はこれに準じる著しい重大な過失が認められること、判決確定後も専ら使用者側の都合による被害拡大が見込まれることなどに照らして、上記裁判例の事案よりも違法性及び権利侵害の程度が明らかに強いといえる。いわゆるマタニティ・ハラスメントが社会問題となり、これを根絶すべき社会的要請も平成20年以降も年々高まっていることは公知であることにもかんがみると、Xの精神的苦痛を慰謝するための慰謝料には金200万円を要するというべきである。

この裁判例はとても重要です。

上記判例のポイント1の退職の意思表示の有無についての判断方法は是非、参考にしてください。

また、判例のポイント3では、本件事案の特殊性及びマタハラに関する社会的要請等から、かなり高額な慰謝料が認められています。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

本の紹介870 弁護士の情報戦略(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は本の紹介です。
弁護士の情報戦略─「新説」創造力が信用を生み出す─

弁護士の髙井先生の本です。

「弁護士の経営戦略」に続いて情報戦略に関する本を出されました。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

この姿勢は、弁護士としても重要で、自身のことのみならず依頼者が克服できるリスクか克服できないリスクか適切に見極めることが求められています。・・・明確な判断の下に、克服すべきリスクを克服する。これは、修羅場を何度もくぐって、自分の責任において問題を解決した者でなければ、身に付けられない能力です。」(138頁)

それもそうですが、克服できないリスクについていちいち悩まないことがとっても大切です。

こういうことでいちいち悩む人は、自分の考え方のクセを直さないと何歳になってもこういう考え方をします。

自分の力ではどうしようもないことについて悩んでもしかたありません。

つまり、過去のことを後悔しても始まらないし、遠い将来のことを不安に思ってもしかたないのです。

今、自分ができることに集中するだけでいいのです。

解雇287 復職の可否判断における主治医と産業医の見解の相違(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れ様でした。

今日は、休職期間満了後の退職扱いに関する裁判例を見てみましょう。

菱江ロジスティクス事件(大阪地裁平成30年6月19日・労判ジャーナル79号10頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、平成28年1月16日付けで休職期間満了前に治癒していたなどとして労働契約上の地位確認並びに未払い賃金等の支払を求め、また、Y社のa支店運輸部製品管理課への配転が無効であるとして同課に勤務すべき労働契約上の義務がないことの確認を求め、さらに、上司からのパワーハラスメントにより精神的苦痛を受けたとして使用者責任に基づく損害賠償等の支払及び復帰プログラムの実施により人格権を侵害されたとして職場環境調整義務の債務不履行に基づく損害賠償等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、休職期間満了前の平成28年1月13日、同月7日より復職可能である旨の本件診断書を提出し、復職を申し出ていたから、Xは、休職期間満了前に労務の提供が可能な状態に回復していた旨主張するが、確かに、医師が同月6日付けで作成した本件診断書には、「H281月7日より復職可能と思われる」旨記載されていることが認められるが、本件診断書は、心療内科の医師が作成したものと認められるところ、医師が、Xの会社における職務内容を詳細に把握して本件診断書を作成したか否かは不明であり、本件診断書をもって直ちに、XがY社に対する労務の提供が可能な状態に回復していたと認めることはできず、また、Xは、同月13日、Y社に対し、本件診断書をファクシミリで送信すると共に、明日にも復帰可能である旨連絡したものの、結局、同月14日及び15日は体調不良を理由に出社せず、同月18日、19日及び20日も、Y社への連絡なく出社していないこと等から、Xが、休職期間満了日である同月16日の前に、Y社に対する労務の提供が可能な状態に回復し、休職事由が消滅したとまでは認められない。

2 Y社は、遅くとも休職期間満了の5か月程度前からXへの連絡を試み、3か月前にはXの自宅に赴いて連絡を取ろうとし、その後は、書面を送付して連絡を求めたり、休職事由が消滅しない状況が継続すれば就業規則の所定の手続により退職となる旨警告したりしており、Xが、休職期間満了3日前になって、出社する旨連絡した際も、Xの元上司であるg部長がa支店に赴いて待機するなどしているのであって、休職期間中であるXへの対応として不誠実な点は見当たらず、一方、Xは、平成27年10月2日付け診断書に記載された「2か月」が過ぎても、Y社に対し、休職事由の消滅や復職について前向きな連絡を行わず、平成28年1月13日(就職期間満了3日前)になって、Y社に対し、その1週間前の日付けで「復職可能と思われる」と記載された診断書をファクシミリで送信し、翌14日に出社する旨述べたものの、結局、同日及び同月15日は出社せず、同月18日ないし同月20日も、連絡なく出社しておらず、以上の経過を併せ鑑みれば、Y社が、就業規則に基づき、Xが、同月16日の休職期間満了により自然退職した旨の主張をすることが、信義則に違反するということはできない

主治医と産業医の見解が相違する場合、裁判所がどのような点に着目して判断するかを事前に理解しておくことは、このような事案を取り扱う上で、極めて重要です。

必ず顧問弁護士のレクチャーを受けてから対応しましょう。