解雇28(岡田運送事件)

おはようございます。

さて、今日は、私傷病と解雇に関する裁判例を見てみましょう。

岡田運送事件(東京地裁平成14年4月24日・労判828号22頁)

【事案の概要】

Y社は、貨物自動車運送業等を業とする会社である。

Xは、Y社に雇用され、運送業務に従事していたが、平成11年7月、病院で脳梗塞の診断を受けてしばらく欠勤を続けたところ、Y社から無届欠勤で懲戒解雇する旨告げられ、その後、さらに解雇する旨の解雇通知書を受けた。

Xは、解雇後もY社の従業員たる地位を有することの確認、賃金の支払い等を求めた。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効だが、普通解雇としては有効

【判例のポイント】

1 Xが、しばらく欠勤する旨を会社に電話で告げるとともに2度にわたって診断書を提出し、その後においては診断書を追加して提出すべきかどうか尋ねたところ、その必要はないと告げられていたにもかかわらず、「正当な理由なしに無届欠勤7日以上に及ぶとき」に該当するとしてなされた懲戒解雇は無効である。

2 懲戒解雇の要件は満たさないとしても、当該労働者との雇用関係を解消したいとの意思を有しており、懲戒解雇に至る経緯に照らして、使用者が懲戒解雇の意思表示に、予備的に普通解雇の意思表示をしたものと認定できる場合には、懲戒解雇の意思表示に予備的に普通解雇の意思表示が内包されていると認めることができる。

3 Y社は、脳梗塞を発症したXをもはや運転手として雇用し続けることはできないとの考えに基づいて、病気を理由とする退職勧奨を数回Xに対して行っていたものと認められるから、本件解雇通告および解雇通知書は、懲戒解雇の意思表示のほか、予備的に普通解雇の意思表示を含むものと認定でき、Xに本件解雇通告の時点で、トラック運転手としての業務に就くことが不可能な状態にあったと認められるから、「身体の障害により業務に堪え得ないと認めたとき」の普通解雇事由に該当する

4 業務外傷病による長期欠勤が一定期間に及んだときは休職とする旨の規定があるからといって、直ちに休職を命じるまでの欠勤期間中解雇されない利益を従業員に保障したものとはいえず、使用者には休職までの欠勤期間中解雇するか否か、休職に付するか否かについてそれぞれ裁量があり、この裁量を逸脱した場合にのみ解雇権濫用として解雇が無効となる

5 本件では、休職までの欠勤期間6か月間および休職期間3か月を経過したとしても就労は不能であったから、本件解雇に際し休職までの欠勤期間を待たず、かつ、休職を命じなかったからといって、本件解雇が労使間の信義則に違反し、社会通念上、客観的に合理性を欠くものとして解雇権の濫用になるとはいえない。

本件は、解雇を有効としたケースです。

懲戒解雇は無理があります。

復職の可否については、医師の判断に基づいて決定してください。

決して、社長の独断で決定しないでください。

なお、総務の方は、上記判例のポイント4は、おさえておくといいと思います。

日頃から顧問弁護士に相談しながら適切に労務管理を行うことが大切です。

解雇27(乙山金属運輸事件)

おはようございます。

さて、今日は、整理解雇に関する裁判例を見てみましょう。

乙山金属運輸事件(東京高裁平成22年5月21日・労判82頁)

【事案の概要】

Y社は、貨物自動車運送事業を営む会社であり、A社からの受注がその業務の約8割を占めていた。

Y社の従業員は、事務部門が正社員6名、派遣社員3名および嘱託社員1名、運転部門が正社員35名であった。

Xらは、Y社の運転部門の正社員で、Xらを含むY社の従業員13名は、労働組合を結成している。

Y社は、平成20年11月、従業員に対して、経営状況の急激な悪化により大幅な事業縮小が避けられないこと等を伝えた。

その後、Y社は希望退職者の募集の説明会を行ったが組合の合意が得られず、再募集の条件を提示した。

しかし、募集期間経過後に退職を申し出た従業員は、合計7名にとどまった。そこで、Y社は、Xらを含む8名に対し、整理解雇をする旨の意思表示をした。

Xらは、本件整理解雇が無効であるとして、労働契約上の地位の保全ならびに賃金の仮払いを申し立てた。

宇都宮地裁栃木支部は、整理解雇は無効であると判断した。

そこで、Y社は、保全抗告を申し立てた。

【裁判所の判断】

整理解雇は有効

【判例のポイント】

1 整理解雇が有効と判断されるためには、まず、当該整理解雇をするに当たって、人員削減の必要性があったこと、使用者が解雇回避努力を尽くしたこと、解雇された労働者についての人選に合理性があったこと及び解雇に至る手続に相当性があったことの4要件が具備されていることを要すると解するのが相当である

2 人員削減の必要性については、平成20年8月以降の売上高および前年当月比の減少は過去に例のない大幅なものであり、そして、それはいわゆるリーマン・ショックに端を発した世界経済の急減速によるものと考えられ、相当程度長期にわたって続くことが予想される性質のものである。また、必要な人員削減数については、公認会計士の報告書を受けて、従業員の給与の減額や他の経費節減等を行うこととして、15名と決したものであり、合理的なものである。一方で、一時帰休を実施する可能性や、整理解雇後の傭車台数の増加も、人員削減の必要性を否定するものではない。
以上によれば、Y社の運転部門において15名の人員を削減する必要性があったことが疎明される。

3 解雇回避努力については、上記各措置が解雇回避努力に当たる。また、社長の妻の役員報酬(885万円)を減額しても、解雇を回避する効果があったとはいえないこと、希望退職者の募集に際して、Y社が、募集期間を延長し、優遇措置を設ける等の努力をつくしていたこと、希望退職者の対象を運転部門に限定したことも、事務部門に関しては運行管理等の事務量にかんがみて大幅な削減をすることができない状況にあったことから、合理的なものと評価できる
以上によれば、Y社は、解雇回避努力を十分に尽くしたことが疎明されるというべきである。

4 人選の合理性については、査定項目及び査定評価の基準に特段相当性を欠く点はみられないこと、10分を超える遅刻のみ減点査定の対象とするという基準は定量的・客観的なものであり、このような基準を従業員に明らかにしないからといって、恣意的な運用がされた可能性があるとはいえないこと、頻繁に遅刻をしていた従業員に対して始末書を提出させ、その始末書提出について(遅刻の減点査定とは別個に)限定査定をしたとしても、偶発的に遅刻をした場合と遅刻に常習性がみられる場合とで評価に軽重を設けることは、特段不合理な評価方法であるとはいえないこと、従業員にインフルエンザの予防接種を受けることを強く推奨し、これに応じなかった者について減点査定をすることも、合理的な評価方法であるといえること、誤出荷、積卸しの作業マニュアル違反、上司への暴言等を理由として警告書を交付し、これについて減点査定をすることも不合理とはいえないこと、複数の者で査定をする査定体制も、人事評価の公平性および客観性を担保するための合理的な体制であるといえる。
以上のとおり、一般的な査定項目や査定評価基準、査定体制のほか、Xら各人についての具体的査定についても、特段不合理な点はみられず、その査定の結果、下位の者から相手方らを含む8名を選んで整理解雇の対象者としたことについては、合理性があることが疎明される。

5 手続の相当性については、本件組合との交渉や、従業員に対する説明会の経緯等に照らせば、Y社は、本件整理解雇に当たって、手続きを十分につくしたということができる。

本件は、整理解雇が認められた珍しい裁判例です。

地裁では、仮処分、保全異議ともに、整理解雇は無効であると判断されています。

このような判断の相違に触れる度に、やはり、事前に(訴訟前に)、会社が行為の有効性を判断するのは、非常に難しいことであると感じます。

「ここまでやって、裁判所に無効だと判断されるのであれば、それはもう仕方のないことだ」というところだと思います。

いずれにしても、会社としては、可能な限りの準備をするべきです。

特に整理解雇に関しては、必ず顧問弁護士と相談の上、実施することを強くお勧めします。

労災37(リクルート事件)

おはようございます。

昨夜は、旅行代理店静岡支店長Aさんと毎度おなじみのYさんと新年会でした

Aさん、電車間に合わなかったですね・・・

次回は、Yさんと遠征に行きますよ!!

今日は、特に予定が入っていないので、書面を作成します。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

リクルート事件(東京地裁平成21年3月25日・判時2061号118頁)

【事案の概要】

Y社は、就職情報誌の発刊その他各種情報の提供、企業の人事・組織等に関する各種サービスの提供等を行う会社である。

Xは、Y社の従業員として、就職情報事業編集企画室に配属され、その後、インターネット上の就職情報サイトの編集制作職として業務に従事していた。

Xは、休日に、自宅でくも膜下出血を起こし、死亡した(死亡当時29歳)。

【裁判所の判断】

中央労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 労働基準法及び労災保険法に基づく保険給付は、労働者の業務上の死亡について行われるが、業務上死亡した場合とは、労働者が業務に起因して死亡した場合をいい、業務と死亡との間に相当因果関係があることが必要であると解される。
また、労働基準法及び労災保険法による労働者災害補償制度業務に内在する各種の危険が現実化して労働者が死亡した場合に、使用者等に過失がなくとも、その危険を負担して損失の補填の責任を負わせるべきであるとする危険責任の法理に基づくものであるから、上記にいう、業務と死亡との相当因果関係の有無は、その死亡が当該業務に内在する危険が現実化したものと評価し得るか否かによって決せられるべきである。

2 そして、脳・心疾患発症の基礎となり得る素因又は持病を有していた労働者が、脳・心疾患を発症する場合、様々な要因が上記素因等に作用してこれを悪化させ、発症に至るという経過をたどるといえるから、その素因等の程度及び他の危険因子との関係を踏まえ、医学的知見に照らし、労働者が業務に従事することによって、その労働者の有する素因等を自然の経過を超えて増悪させたと認められる場合には、その増悪は当該業務に内在する危険が現実化したものとして業務との相当因果関係を肯定するのが相当である。

3 Xのくも膜下出血発症前の6か月間において証拠上明らかに認められる1か月当たりの時間外労働時間は、39時間22分、67時間32分、83時間44分、25時間30分、71時間20分、50時間30分になるところ、Xは、これに加えて、1か月に1、2回の休日労働や一定の時間外労働に従事していたことや、平日の深夜ないし未明や休日に自宅で業務を行っていたことが推認できる。そして、Xは、週に数回、徹夜ないしはそれに近い状況で業務を行うことを繰り返しておりその業務自体から直ちに過重な精神的負荷を受けていたとはいえないとしても、質の高い仕事を行うべく一定の精神的負担を受けていたことを考慮すると、Xの業務は、特に過重なものであったというべきである

4 Xは本件疾病であるくも膜下出血を発症しているのであるから、その発症の基礎となり得る素因等又は疾患を有していたことは明らかであるが、その程度や進行状況を明らかにする客観的資料がないだけでなく、同人は死亡当時29歳と相当程度に若年であり、死亡前に脳・心臓疾患により医療機関を受診したり受診の指示を受けた形跡はなく、血圧についても境界域高血圧又はこれを僅かに超える程度のものに過ぎず、健康診断においても格別の異常は何ら指摘されていないことから、・・・他の確たる発症因子がなくてもその自然の経過により血管が破裂する寸前にまで進行していたとみることは困難である。

深夜までの勤務や休日勤務、徹夜での勤務をしている従業員の方は、やはり健康状態に気をつけなければいけません。

・・・私も気をつけなければいけませんね

まだまだ大丈夫、自分は大丈夫、と思っていても、たまにはちゃんと休養をとるべきですね。

と、自分に言い聞かせています。

解雇26(J学園事件)

おはようございます。

さて、今日は、うつ病を理由とする解雇に関する裁判例です。

J学園事件(東京地裁平成22年3月14日・労判1008号35頁)

【事案の概要】

Y社は、Y女子学園中学校、Y女子学園高等学校を経営する学校法人である。

Xは、大学卒業後、他の学校等で勤務し、国語科の教員として勤務していた。

Xは、平成15年6月頃、うつ病を発症し、その後、症状が悪化し、休職した。

Xは、平成19年9月、復職したが、その後も何度か欠勤したため、Y社は、「心身の故障のため職務の遂行に支障があり、又はこれにこたえられないとき」(就業規則38条1項(2))に該当するという理由で、免職の通知をした。

Xは、Y社に対し、うつ病の罹患や悪化についてY社に安全配慮義務違反があり、また、解雇が相当性を欠くなどと主張し、損害賠償、雇用契約上の地位確認、解雇後の賃金の支払いを求めた。

【裁判所の判断】

Y社の安全配慮義務違反は認められない。

本件解雇は無効

【判例のポイント】

1 ・・・Y社の業務によるXの心理的負荷が非常に強度であったとは認められない。

2 Xは、うつ病の治療を通じて、抗うつ剤等の処方を受けたが、これらが効きにくい状態にあり、復職の約2か月前には、症状が悪化して約2週間にわたり入院した。医師は、時期尚早とも考えていたが、休職期間満了により退職させられることを避けるためもあって復職可能診断をした。このような事実によれば、Xのうつ病は、そのころ、あながち軽いものではなかったというべきである。また、Y社は、Xが無理なく復職できるように、かなり慎重な配慮をしているが、それにもかかわらず、Xは、平成19年11月ころから平成20年1月ころにかけて、円滑に復職することができず、欠勤して生徒に迷惑をかけることもあった。そうだとすると、Y社が、そのころ、これ以上業務を続けさせることは無理と結論づけて、退職させるとの意思決定をしたことは、やむを得ない面もあると考えられる(教員の配置の選択肢は限られているし、Xは、いったん非常勤講師になって、回復したら専任教員に戻るという提案を断っている)。

3 しかし、Xは、平成15年11月ころから平成18年夏ころまでの間、抗うつ剤等の投薬治療を受けながら、専任教員として業務をこなしてきた時期もある。・・・病院の診断書には、「症状が安定すれば、復職も可能と思われる」という記載がある。Y社の就業規則には、「業務外の傷病により、欠勤が引き続き90日を経過した」場合の休職期間は、「1年以内」であると定められているところ、医師からの指示に基づき休職に入ったXに対し、Y社が取得可能な休職期間は1年間であると通知したことにつき、就業規則の解釈に誤りがあったといわざるを得ず、Xの休職期間は90日分延長できたはずである。Xは、本件解雇後、かなり回復したことが認められ、平成21年3月17日を最後に、うつ病治療のために通院をした形跡がない。本件の証拠調べ期日における供述態度等によれば、Xの社会への適応に大きな問題があるとは見受けられない。医師は、証人尋問において、かなり慎重な表現ではあるが、復職の可能性を肯定する趣旨の証言をしている。
以上の事実を総合すれば、Xの回復可能性は認められるということができる。

4 添付資料(「職場復帰の手順と方法-メンタルヘルス不全による休業者を復帰させるには」)は、職場復帰の可否の判断において、主治医との連携を必要なものとしており、そのポイントとして、職場の安全衛生担当者が本人とともに主治医と三者面談を実施して、信頼関係を形成したうえで、復職可能性、復職後の職務の内容・程度等を慎重に判断していくことを推奨している。・・・ところが、Y社は、Xの退職の当否等を検討するに当たり、主治医から、治療経過や回復可能性等について意見を聴取していない。これには、校医が連絡しても回答を得られなかったという事情が認められるが、そうだとしても(三者面談までは行わないとしても)、Y社の人事担当者である教頭らが、医師に対し、一度も問い合わせ等をしなかったというのは、現代のメンタルヘルス対策の在り方として、不備なものといわざるを得ない

5 Xは、教員としての資質、能力、実績等に問題がなかったのであるから、うつ病を発症しなければ、この時期の解雇されることはなかったということができる。そうだとすると、Y社は、本件解雇に当たって、Xの回復可能性について相当の熟慮のうえで、これを行うべきであったと考えられる。しかし、Y社は、Xに対し、休職期間について誤った通知をしたうえで、Xの回復可能性が認められるにもかかわらず、メンタルヘルス対策の不備もあってこれをないものと断定して、再検討の交渉にも応じることなく、本件解雇に踏み切った。Y社が平成20年度末に本件解雇をしたのは、年度の変わり目において人員配置や予算執行計画を確定するためであったとも考えられるところであるが、このような事情は、Xの回復可能性等に優先するものとはいいがたい。
以上によれば、Xを退職させるとの意思決定に基づく本件解雇は、やや性急なものであったといわざるを得ず、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものというべきである。

本件においても、他の事案と同様、Y社としては、それなりの対策を講じたものだと思います。

本件では、Y社は、「メンタルヘルス不調者の職場復帰プログラム」を策定し、当該労働者に対しても、病状が
明確になってから休職期間満了直前までの間に、20回以上、臨床心理士によるカウンセリングの受診機会を設けるなどしたほか、産業医が主治医の見解を問い合わせるなど職場復帰に向けた対応を取っていました。

しかし、結果としては、上記判例のポイントのとおり、本件解雇は無効と判断されています。

メンタルヘルス対策は、非常に難しく、どこまでやればいいのかがわかりにくいですね。

就業規則の解釈に誤りがあったと判断され、それが結論に影響を与えた点は、注目すべきです。

本件のようなケースで、解雇をする場合には、顧問弁護士に相談の上、慎重に行ってください。

労災36(東加古川幼稚園事件)

おはようございます。

自宅で、本日の証人尋問の準備中でございます

今日も、昨日に引き続き、午前中に刑事裁判が1件あります。

午後は、ずっと証人尋問です

夕方、事務所で1件、裁判の打合せをし、その後、新年会です

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

東加古川幼稚園事件(東京地裁平成18年9月4日・労判924号32頁)

【事案の概要】

Y社は、兵庫県加古川市内において、4か所の無許可保育園を設置、運営していた。

Xは、Y社において、保母として勤務していた。

Xは、適応障害に分類される精神障害を発症し、入院検査を受けることとなり、Y社を退職した。

Xは、入院翌日、精神的不安が消失し、検査値に異常がないと認められ、退院して自宅療養をすることになった。

Xは、教会において洗礼を受け、元気を取り戻し始め、新しい保育園探しを開始するなどした。その際、Xは、Y社に対し、離職票の発行を要求したところ、Y社は5月の連休明けにならないと発行できないなどとしXと口論となった。結局、Y社は、連休前に離職票を発行した。

Xは、離職票を受領した2日後、自宅において自殺した。

【裁判所の判断】

加古川労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 労災保険制度が、労働基準法上の危険責任の法理に基づく使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすれば、相当因果関係を認めるためには、当該死亡等の結果が、当該業務に内在する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要である。
そして、精神障害の発症については、環境由来のストレスと、個体側の反応性、脆弱性との関係で、精神的破綻が生じるかどうかが決まるという「ストレス-脆弱性」理論が広く受け入れられていると認められることからすれば、業務と精神障害の発症との間の相当因果関係が認められるためには、ストレス(業務による心理的負荷と業務以外の心理的負荷)と個体側の反応性、脆弱性を総合考慮し、業務による心理的負荷が、社会通念上、精神障害を発症させる程度に過重であるといえる場合に、業務に内在ないし随伴する危険が現実化したものとして、当該精神障害の業務起因性を肯定するのが相当である。

2 Xは、保母としての経験が浅かったのに、Y社で課せられた業務内容は極めて過酷なものであったというべきである。かかるY社での過酷な業務に加え、Xに対し、本件2月7日指示及び園児送迎バス時刻表作成業務が課せられたのであり、かかる業務内容は、Xに対し、精神的にも肉体的にも重い負荷をかけたことは明らかであり、Xならずとも、通常の人なら、誰でも、精神障害を発症させる業務内容であったというべきである。ましてや、Xは、これまで精神病や神経症の既往歴はなく、精神科医らの意見書等をも考慮すると、Xは、Y社の過重な業務の結果、適応障害に分類される精神障害を発症したというべきであり、当該判断を覆すに足りる証拠は存在しない。

3 うつ病の特徴的な症状は抑うつ気分、意欲・行動の制止、不安、罪責間、睡眠障害であるところ、Xには病院退院後本件自殺に至るまでの間に上記のようなうつ状態の特徴的な症状がみられた。・・・Xは、病院退院後も、自殺に至るまでの間、精神障害であるうつ状態に特徴的な症状がたびたび出ていたと認めるのが相当であり、自殺するまでの間に、Xの症状が寛解したと認めるに足りる的確な証拠は存在しないというべきである。

4 精神障害が寛解していたとの主張については、当該病院には精神科がなく、診察した医師も精神科医でないことや、当該病院を短期間で退院し、精神科受診を勧められなかったことが、精神医学的に適当な措置であったかどうかは疑わしいこと、うつ病には気分変動があり、これを繰り返しながら回復していくことを考えると、受洗や就職活動の開始は、寛解したと認める決め手にならない

5 本件自殺が精神障害によるものではなく、いわゆる「覚悟の自殺」であるとの主張についても、たしかにXの遺書の内容は理路整然としており、文字の乱れもないが、精神的抑制力が著しく阻害された場合や、うつ状態による希死願望が生じた場合に、必ず文字が乱れるという関係は認められない

本件で特徴的なのは、退職後1か月経過後に自殺した点です。

退職後の事情により自殺したとなれば、業務起因性が否定されます。

本件では、在職中の事情によると判断されました。

被告の主張に対する裁判所の判断は、とても参考になります。

なお、この事案は、本件行政訴訟のほかに、民事訴訟も提起されており、最高裁判所(最三小決平成12年6月27日・労判795号13頁)で、損害賠償請求が肯定されました。

ただし、本人の性格や心因的要素が過失相殺の対象とされ、8割の減額がされています。

解雇25(西濃シェンカー事件)

おはようございます。

さて、今日は、昨日に引き続き、休職期間満了後の措置に関する裁判例を見てみましょう。

西濃シェンカー事件(東京地裁平成22年3月18日・労判1011号73頁)

【事案の概要】

Y社は、航空運輸取扱業、海上運送取扱業等を営む会社である。

Xは、Y社との間で、担当すべき職種や業務を限定せず、期間の定めのない労働契約を締結した者である。

Xは、平成17年3月、自宅において、脳出血を発症し、その後遺症により右片麻痺となった。

Xは、Y社から、平成18年3月から1年間の休職を命じられた。そして、その後、休職期間に係る就業規則の規定の変更に伴い、Xに適用される休職期間が1年から1年6か月伸ばされた。

Xは、平成19年10月から、概ね週に3日の頻度でY社本社に出社し、1日に約2時間30分程度、人事部において作業に従事した。なお、Y社からXに対し、上記作業に従事したことに対する対価は支払われていない。

Y社は、Xに対し、平成20年10月、就業規則の規定に基づいて、休職の延長期間の満了日をもって退職となる旨を通知し、本件退職の取扱い後、その就労を拒否している。

これに対し、Xは、休職期間満了の前の平成19年10月に既に復職していた、本件退職扱いが労働契約上の信義則に違反するから無効であると主張して、労働契約上の地位確認と退職扱い後の賃金の支払いを求めた。

【裁判所の判断】

本件退職取扱いは、有効。

【判例のポイント】

1 本件作業従事は、Xのリハビリのための事実上の作業従事という域を出ないものであり、平成19年9月の休職期間満了時点で復職という取扱いがなされたとはいえない

2 Y社の本件休職期間満了後の取扱いは、休職期間を平成20年10月31日まで延長したものと捉えざるを得ないが、これは就業規則所定の解雇事由の適用を排除するという趣旨において、一種の解雇猶予措置と位置づけられるものであって、Y社が上記休職期間延長措置をとったこと自体を論難することはできず、また、本件退職取扱いの時点において、Xの片麻痺が従前の通常業務を遂行できる程度に回復していないことは明らかであり、Xから配置の現実的可能性がある具体的業務の指摘があったとも認められない等として、本件退職取扱いが労働契約上の信義則に反し、無効であるとはいえない。

3 仮に、Y社において、雇用労働者の数的状況が障害者雇用促進法43条の規定に反する状況にあったとしても、Y社が本件退職取扱いの時点で、Xに対し契約社員としての再雇用の道を開いていることからすれば、上記判断が左右されるものではない

4 XとY社との間の労働契約は、Xが就業規則が規定する「治癒」または「復職後ほどなく治癒することが見込まれる」場合に至らず、Y社がこれを認めることもなかったから、休職期間満了により終了している。

本件は、会社が、従業員にリハビリ出社をさせた上で、復職の可否を検討したものです。

リハビリ出社という方法自体を知っていても、具体的にどのように実施すればよいのかよくわからないという会社もあると思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

労災35(富士電機E&C事件)

おはようございます。

今日は、午前中は、遺産分割調停です。

午後は、労働事件、相続等の相談が3件、労災の裁判、刑事裁判の判決、免責審尋です。

そして、今日は、被疑者国選担当日。

いつ接見に行けばいいのだろうか・・・

どうか遠くの警察署で逮捕されませんように

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

この裁判例は、会社のメンタルヘルス対策にとって、非常に参考になるものです。

富士電機E&C事件(名古屋地裁平成18年1月18日・労判918号65頁)

【事案の概要】

Y社は、富士電機のグループ会社であり、公共事業、富士電機関連の各種プラント、建物・高速道路等の設備・電気工事等を業とする会社である。

Xは、Y社に入社後、開発部に配属されたのを皮切りに、本社の設備部等において、電気工事の予算管理、原価管理、現地施行管理等の業務に従事し、その後、関西支社の技術第三部技術課長として大阪に赴任し、この異動により単身赴任することになった。

Xは、病院において、診察を受け、「自律神経失調症」の診断書の交付を受け、職場を離れ、約3か月間、自宅静養した。

その後、当時の上司Aから比較的容易な業務従事の提案があり、Xは職場復帰した。Aの提案は、A自身の判断によるもので、Y社社内での協議等を経たものではなかった。

その後、Xは、中部支社の技術部第三課長として名古屋に単身赴任し、民間・官公庁の建設現場の電気工事に関する業務に従事したが、単身赴任中の社宅で自殺した。

Xの遺族は、Y社に対し、安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求をした。

【裁判所の判断】

請求棄却
→Y社に安全配慮義務違反は認められない

【判例のポイント】

1 Xはうつ病に罹患し自宅療養を経たものの、自らの希望により職場復帰を果たしたこと、技術課長として処遇されることを承知のうえ、自ら中部支社への転勤を希望した結果、中部支社の技術部第三課長として赴任したこと等に照らせば、中部支社への転勤を契機にうつ病の症状が軽減する傾向にあったと推認することができること、その結果、Xのうつ病は遅くとも平成10年12月8日頃の時点で、完全寛解の状態に至ったものと認められる。

2 昨今の雇用情勢に伴う労働者の不安の増大や自殺者の増加といった社会状況にかんがみれば、使用者にとって、被用者の精神的な健康の保持は重要な課題になりつつあるが、精神的疾患について事業者に健康診断の実施を義務づけることは、精神的疾患に対して、社会も個人もいまだに否定的印象を持っていることなどから、プライバシーに対する配慮が求められる疾患であり、プライバシー侵害のおそれが大きいといわざるを得ない

3 労働安全衛生法66条の2、労働安全衛生規則44条1項について、精神的疾患に関する事項についてまで医師の意見を聴くべき義務を負うということはできず、労働安全衛生法66条の3第1項所定の、事業者が負う就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮等の措置を講ずるべき義務も、精神的疾患に関する事項には当然に適用されるものではないと解するのが相当である

4 Y社の安全衛生規程を根拠として、Y社の主治医等からの意見聴取義務や就業場所の変更の措置を講ずるべきなどの法的義務が発生するとも認めがたい。

5 もっとも、Xは、自らうつ病に罹患したことを報告していたことから、Y社としては、Xのうつ病罹患の事実を認識していたものといわざるを得ず、そのようなXが、職場復帰し、就労を継続するについては、Y社としても、同人の心身の状態に配慮した対応をすべき義務があったものといわざるを得ない

6 Y社はXを職場復帰させる過程において、内部的な協議や医師等の専門家への相談を経ないなど、いささか慎重さを欠いた不適切な対応があったことは否めないものの、同人の職場復帰に際し、同人の希望を踏まえて、診断書記載の休養加療期間よりも前に復帰を認め、担当業務・配置を決定するなど、心身の状態に相応の配慮をしたと認められることから、Y社に安全配慮義務違反があったとまで認めることはできない

この裁判例は、会社として、従業員のメンタルヘルス対策を講ずるにあたり、非常に参考になります。

精神疾患に罹患した従業員の職場復帰と会社の対応は、とても難しい問題です。

会社として、どこまでの対応が求められるのかは、ケースバイケースです。

顧問弁護士や顧問社労士に相談の上、対応方法をじっくり検討してください。

解雇24(福島県福祉事業協会事件)

おはようございます。

さて、今日は、変更解約告知が問題となった裁判例について見てみましょう。

福島県福祉事業協会事件(福島地裁平成22年6月29日・労判1013号54頁)

【事案の概要】

Y社は、知的障害者施設等の事業所を経営する社会福祉法人である。

Xは、栄養士として、Y社が経営する授産園において、正規職員として労務の提供をしていた。

Y社は、Xを含む栄養士らに対し、Y社の給食部門の職員の雇用形態を「契約雇用職員」の形態に変更すること、そのため、同部門の職員には、一度退職してもらい再雇用する形となること、希望退職届を出さない場合には解雇扱いになることを告げた。

その後、Y社は、対象者に対して、上記方針を説明し、文書は配布する等した。

この間、Xは、自らの転職先の相談のために職業安定所を訪れ、その際に同所の職員に対し、Xが組合支部を結成し労働争議中であるとの話をしたが、その後職業安定所では、Y社において労働争議がなされていることを理由として、職安法20条1項に基づき、求職者に対しY社を紹介することをしなかった。

結局、Xは、Y社の説明や扱いに納得できず、退職届や意思確認書を提出しなかった。

Y社は、Xを求人妨害や組合の活動を理由にして、Y社の就業規則に基づく諭旨解雇にした。

Xは、本件解雇が無効であるとして、地位の確認、賃金支払いを求めるとともに、慰謝料を請求した。

【裁判所の判断】

解雇は無効

慰謝料として30万円を支払うよう命じた

【判例のポイント】

1 Y社は、Xを諭旨解雇するに当たり、30日以上前にその予告をせず、解雇時に、30日分の平均賃金を支給していないばかりか、諭旨解雇による制裁を審査、確認するために、諭旨解雇の前に開催することとされている特別委員会も設置しておらず、Y社の就業規則上、必要な手続を何ら遵守していない。
このように、本件解雇は、就業規則上の諭旨解雇事由もなく、また、就業規則上必要な最も基本的と考えられる手続にも違反してされたものであるから、無効である

2 本件解雇の意思表示は、「就業規則に基づき諭旨解雇を命ずる」と明記されており、それ以外の解雇事由は全く表記されていないうえ、本件解雇がされるまでに、Y社は、給食部門の職員全体に対する説明や文書配布をしているほかは、個別に解雇の意思表示をしておらず、一方、解雇の方針を示した後も整理解雇の当否をめぐってXも3回にわたり団体交渉をしていたことなどに照らすと、本件解雇は、諭旨解雇を理由としてなされたことが明らかであり、本件解雇に変更解約告知の効力があるものとして、整理解雇の要件を踏まえて、その有効性を主張するY社の主張は、その前提を欠き失当である

3 仮に、本件解雇が変更解約告知の意思表示を含むものということができるとしても、その有効性は否定される。すなわち、職員の雇用形態を変更する主な理由は、自立支援法の施行により、利用者の負担が増えるため、給食にかかる人件費を抑えることで、その軽減を図るというものであったが、Y社には、将来の経営に備えて、経費の削減等をする必要性があったこと自体は否定し得ないものの、本件解雇の際、職員の雇用形態の変更や、これに応じない場合に解雇をしなければならないほどの経営上の必要性があったと認めることはできないし、その対象として、Y社の給食部門の職員を選定することの合理性もない
したがって、本件解雇には、整理解雇としての合理性を基礎づけるような事情はうかがわれないから、仮に、本件解雇が、整理解雇類似のものと考えられるとしても、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないから、解雇権を濫用したものとして無効である。

4 以上のとおり、本件解雇は、無効であるところ、Y社は、X代理人から、XをはじめとするY社の給食部門の職員について、雇用形態を変更したり、これに応じない職員を解雇することに合理的な理由がない旨の書面の送付を受けていたことに加え、諭旨解雇については、前述のとおり、理由がないことが明らかであることからすると、Y社は、本件解雇に、理由がないことを認識し、又は容易に認識し得たというべきである
そうすると、本件解雇は、Xに対する不法行為に当たるというべきところ、Xは、本件解雇によって、相当の精神的苦痛を受けたものと認められる。そして、本件解雇が全く理由のない諭旨解雇であること、XとY社との間の団体交渉、仮処分決定、労働委員会の救済命令手続の経過に鑑みて、Y社は、本件解雇をしない又はこれを回避する等、違法行為を是正する機会を有していたにもかかわらず、Xの要求を拒否し続け、紛争解決を不当に長期化させ、これを困難にしたものと評価せざるを得ないことをも併せて考慮すれば、Xの精神的苦痛は、単に賃金の支払を受けることによって慰謝されるものではないと考えられる。
したがって、Xに対する慰謝料は、本件に顕れた一切の事情を考慮し、30万円と認めるのが相当である。

変更解約告知の採用について、裁判所は明らかに否定的です。

変更解約告知の法理とは、会社の経営上必要な労働条件変更(切下げ)による新たな雇用契約の締結に応じない従業員の解雇を認めるものです。

これが簡単に有効とされれば、会社側としたら、とっても都合の良い法理になります。

よほどのことがない限り、変更解約告知は有効と判断されませんので、会社としては、手を出さないほうがいいと思います。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

労災34(天辻鋼球製作所事件)

おはようございます。

今日は、特に予定が入っていません。

ちょっと疲れ気味なので、午前中だけ仕事をします。

午後は休憩

今日も一日がんばります!!

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

天辻鋼球製作所事件(大阪地裁平成20年4月28日・労判970号66頁)

【事案の概要】

Y社は、各種金属球並びに各種非金属球の製造及び販売などを目的とする会社である。

Xは、平成10年4月からY社に勤務し、3か月の実習期間を経て情報システム課に2年8か月在籍した後、平成13年4月から生産企画課に配属され、特殊球の製造の進行計画及び管理等の業務に従事していた。

Xは、職場を異動した直後、執務中に小脳出血及び水頭症を発症し、重篤な障害(半昏睡、全介護)を残した。

なお、Xは、小脳の先天的な脳動静脈奇形(AVM)という基礎疾患を有していた。

AVMとは、本来は毛細血管を介してつながるべき脳内の動脈と静脈が、これを介さずに繋がっている状態の奇形をいい、この奇形部分において血流が異常に速く、正常な血管に比べて血管壁が薄くて弱いため血管が破裂しやすくなっている疾患である。

北大阪労基署長は、平成13年10月、本件発症が業務上のものであると認定した。

【裁判所の判断】

Xの損害につき、総額約1億9000円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Xは、平成13年4月1日付けで生産企画課に異動して間もない段階で、慣れない業務を担当していたこと、前任者からの引継ぎ自体に3日間連続で午前8時40分ころから午後10時まで要した他、日曜日の午前中から夕方までの時間を要しており、しかも、このように説明を受けた内容を理解するために、さらなる時間を要したものと考えられる。これらに照らせば、Xの生産企画課における業務は、経験を有する同課の職員であれば容易にこなせる業務であったとしても、経験の浅いXにとっては、相当程度大きな負担となったものと認められる

2 他方、Xの労働時間について検討するのに、本件発症前1か月間におけるXの時間外労働時間の合計は、約88時間30分にのぼるところ、特に、Xが平成13年4月2日に生産企画課に異動してから本件発症に至るまでの12日間における時間外労働時間の合計は、約61時間であり、これを1か月(30日間)当たりの数値に換算すると、約152時間30分に相当することから、同期間におけるXの労働時間は、極めて長時間にわたっていたということができる。その上、Xは、上記12日間に1日も休日を取ることなく、連続して業務に従事していたものであるから、この側面から見ても、業務の負担は大きいものであったと認められる。

3 労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。したがって、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の上記注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである。

4 これを本件についてみるのに、Y社は、Xの使用者として、労働者であるXの生命、身体、健康を危険から保護するよう配慮する義務を負い、その具体的内容として、適正な労働条件を確保し、労働者の健康を害するおそれがないことを確認し、必要に応じて業務量軽減のために必要な措置を講ずべき注意義務を負っていた。そして、生産企画課においては、同課の責任者である同課長が使用者たるY者に代わってXに対し、業務錠の指揮監督を行う権限を有していたものであるから、同課長は、Y社の上記注意義務の内容に従って、Y社に代わってその権限を行使すべきであったと認められる。特に、生産企画課に異動した後におけるXの労働時間が相当長時間にわたっており、しかも、その内容から見ても業務の負担が大きかったことは、前記のとおりであったのであるから、生産企画課長としては、Xの労働時間、その他の勤務状況を十分に把握した上で、必要に応じて、業務の負担を軽減すべき注意義務を負っていたというべきである

5 それにもかかわらず、生産企画課長は、前記注意義務を怠り、引継時に当たっては、担当者が従前担当していた業務の一部を軽減するなど、一定の配慮は行ったものの、Xの現実の時間外労働時間の状況を正確に把握せず、しかも、Xの長時間勤務を改善するための措置を何ら講じることなくこれを放置した結果、Xを本件発症に至らせたものであるから、民法709条に基づき、本件発症によって生じた損害を賠償すべき責任を負う
このように、Y社に代わり労働者に対し、業務上の指揮監督を行う権限を有すると認められる生産企画課長は、使用者であるY社の事業の執行について、前記注意義務を怠り、Xを本件発症に至らせたものであるから、Y社は、民法715条に基づき、本件発症によって生じた損害を賠償すべき責任を負う。

6 被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾病とが共に原因となって損害が発生した場合において、当該疾病の態様、程度等に照らし、加害者に損害の全額を賠償させるのが公平を失するときは、裁判所は損害賠償の額を定めるに当たり、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して、加害者の疾患を斟酌することができると解される。
もとより、XにAVMが存在したこと自体をもって、Xの過失として評価することはできないものの、他方で、これを全てY社の負担に帰することは、公平を失するというべきである。そこで、Y社の注意義務違反の内容・程度、XのAVMの状況、その他本件に現れた諸般の事情を考慮すれば、本件においては、損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念に照らし、722条2項を類推適用して、本件発症によって生じた損害の20%につき、素因減額をするのが相
当である

本件も、労働時間が長時間にわたっていることが決め手となっています。

賠償額は約2億です

会社としては、やはり、従業員の労働時間管理を甘くみてはいけません。

労働時間管理の具体的方策については、顧問弁護士や顧問社労士に質問してください。

解雇23(ビーアンドブィ事件)

おはようございます。

さて、今日は、不正経理等による懲戒解雇に関する裁判例を見てみましょう。

ビーアンドブィ事件(東京地裁平成22年7月23日・労判1013号25頁)

【事案の概要】

Y社は、サービス業を目的とする会社で、事業内容として、カラオケボックス「カラオケ館」等を経営している。

Xは、Y社に正社員として期間の定めなく雇用され、Y社総務人事部部長の立場にあった。

Y社では、毎年、新年店長会を実施していたところ、平成22年の店長会は、Xが実施担当者とされ、準備を担当した。

Y社は、Xが、その過程で下見費用、参加者への寄贈品代金等の付替え、旅行代理店に対する付替え請求指示等を行った事実を把握した。

Y社は、精査・調査のためとして、Xに自宅待機を命じたうえで、退職勧奨を行ったが、Xが応じなかったため、懲戒解雇を通告した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効

1年間の賃金仮払いを認めたが、雇用契約上の地位の保全は却下した

【判例のポイント】

1 労働契約法15条は、使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められる場合には、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は無効であると規定している。
同条は、これまでの学説と裁判例によって形成され、近時の最高裁判例によって要約された懲戒権濫用法理が法文化されたものであって、その内容は、(1)懲戒処分の根拠規定が存在していること、(2)懲戒事由への該当性、(3)相当性の3つの要件から構成されているものと解される(菅野和夫「労働法第9版」431頁以下)。
なお、「労働者の行為の性質及び態様」とは、当該労働者の態様・動機、業務に及ぼした影響、損害の程度のほか、労働者の情状・処分歴などを意味する(土田道夫「労働契約法」448頁)。

2 女性同伴で観光旅行を行い、その費用を会社の負担に付け回したことは、業務上の権限を逸脱する行為で就業規則に違反するが、同伴した女性は妻であったと認められること、オープンな形で事が運ばれていて画策といえるほどの策動性があるか疑問があること、下見費用2万3100円はY社の経営規模からみて僅少であり後にXが全額支払っていること、結果的に本件店長会を滞りなく実施させたことなどを考慮すると、懲戒解雇事由である「その事案が重篤なとき」に該当しない。

3 懲戒処分の効力を判断するに当たっては、当該処分の理由を個別に検討するだけでなく、全体的な見地からもこれを行うべきものと解されるが、処分事由を全体的にみても懲戒解雇事由に当たらない。

4 本件懲戒解雇は、Xに対して全く最終的な弁明の機会等を付与することなく断行されており、拙速であるとの非難を免れず、この点において手続的な相当性に欠けており社会通念上相当であるということはできない

5 仮の地位を定める仮処分は、Xに生じる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができるのであるから、賃金仮払いの仮処分についても、X及びその家族が困窮し、回復し難い損害を受けるおそれがあるか否かという観点から、他からの固定収入の有無、資産の有無、同居家族の収入の有無等を考慮の対象としつつ、仮払いを認めることによって使用者が被る経済的不利益を比較考慮して、その保全の必要性を判断すべきである

6 なお雇用契約の中核をなす権利は賃金請求権であって、その一部について仮払いが認められた以上、これに加えて雇用契約上の地位の保全を認める必要性はないものというべきである

本件のような経費、業務費等の不正経理は業務上横領に該当しうることから、特に非違性が高い行為です。

そのため、懲戒解雇を含む懲戒処分を相当とする裁判例は非常に多いです。

本件では、就業規則の懲戒解雇事由の1つである「その事案が重篤なとき」の文言解釈により、解雇事由は存在しないと判断されました。

就業規則には違反するが、懲戒解雇事由とまではいえない、ということです。

このあたりは、会社が判断するのは、極めて困難です。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。