労災23(小田急レストランシステム事件)

おはようございます。

メリークリスマス

今日と明日、福島県郡山市に行ってきます

弁護団の先生(通称、仙人)の別荘にお邪魔してきます

それでは、行ってきます!

みなさんも、素敵なクリスマスをお過ごしくださいませ

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

小田急レストランシステム事件(東京地裁平成21年5月20日・判タ1316号165頁)

【事案の概要】

Y社は、小田急電鉄沿線地域に洋食及び和食の専門店等各種飲食店を展開するとともに、小田急電鉄及び小田急百貨店の社員食堂、小田急電鉄の社内サービス等を運営する総合フードサービス事業を営む会社である。

Xは、Y社に入社し、その後、営業第1部第1事業付料理長に配置転換された。

Xは、ある日、自宅を出た後、配置転換後に勤務することとされていたイタリア料理店に出勤しないまま所在不明となり、そのころ、長野県内の雑木林で自殺した。

【裁判所の判断】

渋谷労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 労働基準法及び労災保険法による労働者災害補償制度は、業務に内在する各種の危険が現実化して労働者が死亡した場合に、使用者等に過失がなくとも、その危険を負担して損失の補填の責任を負わせるべきであるとする危険責任の法理に基づくものであるから、業務と死亡との相当因果関係の有無は、その死亡が当該業務に内在する危険が現実化したものと評価し得るか否かによって決せられるべきである。

2 そして、精神障害の病因には、個体側の要因としての脆弱性と環境因としてのストレスがあり得るところ、上記の危険責任の法理にかんがみれば、業務の危険性の判断は、当該労働者と同種の平均的な労働者、すなわち、何らかの個体側の脆弱性を有しながらも、当該労働者と職種、職場における立場、経験等の点で同種の者であって、特段の勤務軽減まで必要とせずに通常業務を遂行することができる者を基準とすべきであり、このような意味での平均的労働者にとって、当該労働者の置かれた具体的状況における心理的負荷が一般に精神障害を発症させる危険性を有しているといえ、特段の業務以外の心理的負荷及び個体側の要因のない場合には、業務と精神障害発症及び死亡との間に相当因果関係が認められると解するのが相当である

3 ここで、当該労働者の置かれた具体的状況における心理的負荷とは、精神障害発症以前の6か月間等、一定期間のうちに同人が経験した出来事による心理的負荷に限定して検討されるべきものではないが、ある出来事による心理的負荷が時間の経過とともに受容されるという心理的過程を考慮して、その負荷の程度を判断すべきである

4 また、精神疾患を引き起こすストレス等に関する研究報告等をふまえるときは、心理的負荷を伴う複数の出来事が問題となる場合、これが相互に関連し一体となって精神障害の発症に寄与していると認められるのであれば、これらの出来事による心理的負荷を総合的に判断するのが相当である。

5 なお、厚生労働省基準局通達による「判断指針」は、その策定経緯や内容に照らして不合理なものとはいえず、業務と精神障害発症(及び死亡)との間の相当因果関係を判断するにあたっては、医学的知見に基づいた判断指針をふまえつつ、これを上記観点から修正して行うのが相当であると解される

6 Xのうつ病発症前の業務の心理的負荷の総合評価は「強」であり、うつ病の発症につながる業務以外の心理的負荷やXの個体側要因もないのであるから、判断指針によっても、Xのうつ病発症が同人の業務に起因するものであると認めることができる。
また、Xのうつ病発症後の業務の心理的負荷の強度についても、少なくとも「中」程度のものであって、うつ病に特徴的な希死念慮の他にXが自殺をするような要因・動機を認めるに足りる証拠はないから、Xの自殺についても、同人が従事した業務に内在する危険が現実化したものと評価するのが相当である。

この裁判例の特徴は、行政通達の判断指針を考慮して相当因果関係の有無を検討している点です。

また、うつ病発症後死亡前の業務も検討対象としている点も特徴的です。

従業員側としては、参考にすべき判例です。

労働時間17(労働時間チェックカレンダー)

おはようございます。

今日は、変形労働時間制に関するチェックカレンダーを紹介します。

静岡県労働局のホームページから、平成23年版の労働時間チェックカレンダーがダウンロードできます。

1か月単位と1年単位の両方ともダウンロードできます。

また、1年単位の変形労働時間制に関する協定届、労使協定書のサンプルもダウンロードできます。

変形労働時間制を採用している会社のみなさん、また、採用を検討している会社のみなさん、是非、活用してください。

チェックカレンダーの使い方も載っているので便利です。

よくわからなければ、顧問弁護士や社労士に確認してください。

労災22(Aワールド事件)

おはようございます。

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

Aワールド事件(東京地裁平成20年3月24日・労判962号14頁)

【事案の概要】

Y社は、葬祭用等の仕出し料理の調理、営業、配達等の事業を行う会社である。

Xは、Y社に入社し、その後、営業課長となった。

Xの業務内容は、葬儀社への営業活動、葬儀の料理の見積りや打合せ、集金、取引先からのクレーム対応等であった。

Xは、通夜現場に自動車で煮物用の皿を届けた帰路、気分が悪くなり、救急車で病院に搬送され、くも膜下出血と診断され、入院治療を受けたが、その後、死亡した(死亡当時47歳)。

【裁判所の判断】

三鷹労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 労災保険法に基づく保険給付は、労働者の業務上の死亡等にについて行われるのであり、労働者の死亡等を業務上のものと認めるためには、業務と死亡等との間に相当因果関係が認められることが必要である。そして、労災保険制度が、労働基準法上の危険責任の法理に基づく使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすれば、上記の相当因果関係を認めるためには、当該死亡等の結果が、当該業務に内在する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要である。

2 Y社の所定労働時間は午前10時~午後7時30分(休憩90分)の1日8時間であったところ、タイムカードには出勤時刻の打刻はあるが退勤時刻の打刻はなく、一律に認定もできず、Xの時間外労働時間数は明確な計算が困難であるが、明確に算定できるもの(労働実態およびタイムカードから推計)に相当の労働時間数を加算したものと考えるのが、早朝出勤や通夜等の後片付け手伝いなども行っていたXの労働実態に照らして相当である。

3 業績を上げるためには、Xが上記のような勤務形態をとることを余議なくされていたと評価することが可能であり、過重な時間外労働をし、休日取得が不十分であったことは、Xの業務に内在した問題であって、相当に過重な労働実態は、本件会社におけるXの業務に内在する危険と評価できる。

4 Xは、相当過重な業務への従事により、血管病変等をその自然経過を超えて増悪させ、本件疾病を発症したと評価できるから、本件疾病発症と死亡は業務に起因すると認められ、業務に起因しないことを前提にして行われた本件不支給処分は違法である。

判例のポイント2は、労働者側としては、使える理屈です。

明確に時間外労働時間が算出できない場合でも、あきらめる必要はありません。

なお、この裁判例の興味深いのは、2名の医師および教授による意見は、いずれもXの業務と本件疾病発症との間には業務起因性が認められないとし、本件発症は、Xのリスクファクター(年齢、喫煙、飲酒)による自然的な経過によるものであると結論づけているにもかかわらず、以下のとおり判断し、業務起因性を肯定した点です。

「Xについては、年齢、喫煙、飲酒というリスクファクターが存在することは確かである。しかし、上記の佐藤医師意見及び小西教授意見の内容を見れば、上記のリスクファクターが本件疾病発症の直接の原因であるとまで断定するだけの具体的な根拠がある訳ではなく、結局、業務の過重性との相対的な関係において、そのリスクファクターを論じているに過ぎないのであって、XのY社における時間外労働時間数並びに休日及び連続勤務に関する具体的な事実と業務の過重性に関する評価に鑑みると、両意見の結論はその前提を失うものであるといわなければならない。したがって、上記の佐藤医師意見及び小西教授意見は、上記判断を左右するものではない。」

要するに、医師や教授の意見書で業務起因性を否定されても、簡単にあきらめてはいけないということです。

労働者側にとっては、勇気づけられますね。

解雇18(静岡第一テレビ事件)

おはようございます。

さて、今日は、有効でない懲戒解雇の不法行為該当性について判断した裁判例を見てみましょう。

静岡第一テレビ事件(静岡地裁平成17年1月18日・労判893号135頁)

【事案の概要】

Y社は、放送法によるテレビジョンその他の一般放送事業等を営む株式会社である。

Xは、Y社に雇用され、その後、本社営業部長や編成部ライブラリー室担当部長の職にあった者である。

Xは、Y社から解雇されたものの、その後、当該解雇は相当性を欠くとして無効とする判決の確定により、Y社に復職した。

Xは、Y社に対し、本件解雇は、その理由とされた就業規則違反の事実が認められず、さらに、平等性、相当性及び適正手続を欠いている違法な処分であり、不法行為を構成すると主張した。

【裁判所の判断】

当該解雇は不法行為にはあたらない。

【判例のポイント】

1 懲戒解雇(諭旨解雇を含む)は、・・・それが客観的に合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合に初めて権利の濫用として無効になると解するのが相当である。

2 しかしながら、権利濫用の法理は、その行為の権利行使としての正当性を失わせる法理であり、そのことから直ちに不法行為の要件としての過失や違法性を導き出す根拠となるものではないから、懲戒解雇が権利の濫用として私法的効力を否定される場合であっても、そのことで直ちにその懲戒解雇によって違法に他人の権利を侵害したと評価することはできず、懲戒解雇が不法行為に該当するか否かについては、個々の事例ごとに不法行為の要件を充足するか否かを個別具体的に検討の上判断すべきものである

3 そして、従業員に対する懲戒は、当該従業員を雇用している使用者が、行為の非違性の程度、企業に与えた損害の有無、程度等を総合的に考慮して判断するものであって、どのような懲戒処分を行うのかは、自ずから制約はあるものの、当該事案に対する使用者の評価、判断と裁量に委ねられていること、他方、雇用契約は労働者の生活の基盤をなしており、使用者の懲戒権の行使として行われる重大な制裁罰としての懲戒解雇は、被用者である労働者の生活等に多大な影響を及ぼすことから、特に慎重にすべきことが雇用契約上予定されていると解されることを対比勘案するならば、懲戒解雇が不法行為に該当するというためには、使用者が行った懲戒解雇が不当、不合理であるというだけでは足らず、懲戒解雇すべき非違行為が存在しないことを知りながら、あえて懲戒解雇をしたような場合、通常期待される方法で調査すれば懲戒解雇すべき事由のないことが容易に判明したのに、杜撰な調査、弁明の不聴取等によって非違事実(懲戒解雇事由が複数あるときは主要な非違事実)を誤認し、その誤認に基づいて懲戒解雇をしたような場合、あるいは上記のような使用者の裁量を考慮してもなお、懲戒処分の相当性の判断において明白かつ重大な誤りがあると言えるような場合に該当する必要があり、そのような事実関係が認められて初めて、その懲戒解雇の効力が否定されるだけでなく、不法行為に該当する行為として損害賠償責任が生じ得ることになるというべきである

4 本件解雇は、Xに軽微とはいえない就業規則違反の事実があったこと、Xおよび関係者に対する事情聴取等を経たうえで行われた等に照らせば、Y社の解雇の相当性判断に明白かつ重大な過失があったとはいえない。

「解雇権の濫用にあたるか」という問題と「不法行為に該当するか」という問題は別の問題ですので、当然、要件は異なります。

この裁判例は、具体的に有効でない解雇が不法行為に該当する場合の要件について判断しています。

「懲戒解雇の相当性の判断において、明白かつ重大な誤りがあると言えるような場合」といっています。

また、その具体例もあげています。

会社としては、非常に参考になりますね。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。

労災21(粕屋農協事件)

おはようございます。

・・・さ、寒い

自宅で書面作成中です

今日は、午前中、裁判1件と打合せ1件。

午後は、裁判1件と明日の刑事裁判のための接見と打合せ1件です。

夜は書面作成にあてます。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

粕屋農協事件(福岡高裁平成21年5月19日判決・労判993号・76頁)

【事案の概要】

Y社は、福岡県糟屋郡粕屋町に本所を有し、合計14の支所を擁し、職員数が正規職員だけでも260名余、臨時職員等を含めると320名余に及ぶ農協である。

Xは、昭和62年9月からY社に臨時職員として採用され、平成元年4月から正規社員となった。

Xは、本人の希望により、未経験の金融業務部門に配転がなされ、その1か月半後にうつ病エピソードを発症した。

Xは、うつ病エピソード発症の約4か月後、山林道脇で自殺した(死亡当時46歳)。

【裁判所の判断】

福岡東労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 労働者の精神障害による自殺が「労働者が業務上死亡した場合」に当たるというためには、当該精神障害が労基法施行規則別表第一の二第9号の「その他業務に起因することの明らかな疾病」に該当することを要すること、すなわち、当該精神障害の業務起因性が認められなければならない。そして、労災保険制度が、危険責任の法理に基づく労働基準法上の使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすれば、ここでの業務起因性は、単なる条件関係では足りず、業務と当該精神障害との間に相当因果関係が認められることを必要とし、これを認めるためには、当該精神障害が、当該業務に内在する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要であり、その評価は、平均的な労働者の受け止め方を基準として、(1)業務による心理的負荷、(2)業務以外の要因による心理的負荷、(3)個体側の反応性、脆弱性を総合考慮して行うのが相当である。ただし、「平均的な労働者」の受け止め方を基準とするといっても、労働者の年齢、経験、資質、性格、健康状態等はまさに多種多様であって、このような事情をおよそ考慮しないというわけにはいかなのであり、むしろ、当該労働者の年齢、経験などの客観的な要素は当然考慮すべきである。また、それ以外の資質、性格、健康状態など、多分に主観的・個別的要素についても、それが当該職場における通常の労働者の範疇から逸脱した全く特殊な事情ということではなく、かつ、使用者側においても当該事情を認識し、把握していたという場合には、むしろ十分に配慮しなければならないものというべきである。

2 上記(1)ないし(3)の各要素を総合考慮して当該精神障害の業務起因性について判断するといっても、上記3つの要素がどのように絡み合うかによって幾つかの場合分けが可能である。
まず、(1)による心理的負荷が、社会通念上、客観的に見て、それのみで精神障害を発症させる程度に過重であるといえる場合には、業務に内在ないし随伴する危険が現実化したものとして、当該精神障害の業務起因性を肯定することができる。
これに対し、(1)による心理的負荷が、それのみでは精神障害を発症させるまでに過重であるとは認められない場合においても、(2)による心理的負荷又は(3)の個体側要因のいずれかと相俟って、又は、その両者と合わさることにより精神障害が発症したという場合も考えられる。このように、いわば複合的な要因が絡み合って精神障害が発症したという場合の業務起因性の有無はより慎重な検討が求められることになる。
他方、(1)及び(2)による心理的負荷が、単独では、いずれも一般的には精神的な変調を来すことなく適応することができる程度のものであるのみならず、両者が合わさっても同様のことがいえるにもかかわらず、精神障害が発症したという場合には、その要因は(3)によるものとみるほかはなく、もとより業務起因性は否定される。

3 Xの精神障害発症は、本件配置転換後の業務による心理的負荷((1)の要因)と同人の個体側の反応性ないし脆弱性((3)の要因)とが相俟って発症したも のと解せられ、(ア)本件配置転換による心理的負荷、(イ)配転後の業務内容および目標額の設定等による心理的負荷、(ウ)Xに対する援助体制の不十分さなどからすれば、本件発症は業務に内在する危険の現実化と認めるべきものである。

この裁判例のポイントは、上記判例のポイント1の部分です。

また、判例のポイント2のように具体的に判断基準を示す裁判例は多くありません。

非常に参考になります。

労働者の性格などの主観的要素を明示的に判断基準に入れ、それが通常の労働者の範疇から逸脱した全く特殊な事情ではなく、かつ、使用者側がそれを認識・把握していた場合には、それに十分に配慮しなければならないとしている点です。

このように業務起因性判断において個々の労働者の主観的事情を考慮に入れて保険事故の範囲を拡大することは、以下のとおり、労災保険制度のいくつかの重要な特徴と抵触するおそれがあると言われています(ジュリスト1413号126頁参照)。

すなわち、第1に、業務との関連性の薄い(労働者側の事情による)事故にまで範囲が拡大すると、業務に内在する危険が現実化したことに対して使用者が負う個人責任を担保するために使用者のみが保険料を負担するという労災保険制度の基本的性格と相容れなくなる。

第2に、労働者側の個別的・主観的な事情によって給付の有無を決めることは、公的保険である労災保険制度の客観性・公平性の要請と抵触する。

第3に、労働者の主観的事情を考慮に入れて業務起因性の判断が複雑になると、保険事故を定型化し被災者に迅速な給付を行うという要請が実現困難になる。

他方で、労災補償制度は、使用者の民事上の損害賠償責任を担保するために設けられた制度であることからすると、労災保険法上の業務起因性の判断において、使用者の損害賠償責任の判断(最高裁電通事件判決)と同様に使用者に一定の予防的配慮を求めることは、理論的に一貫性が
あるものともいえます。

有期労働契約13(学校法人立教女学院事件)

おはようございます。

さて、今日は、雇止めに関する裁判例を見てみましょう。

学校法人立教女学院事件(東京地裁平成20年12月25日・労判981号63頁)

【事案の概要】

Y学校は、短大、高校、中学校、小学校、等を運営する学校法人である。

Xは、派遣会社Aとの間で、派遣先をY短大、派遣期間3か月とする雇用契約を締結し、約3年間、短大総務課において業務に従事した。

その後Xは、Y短大で、1年の雇用期間の定めのある嘱託雇用契約を締結することにより嘱託職員として直接雇用され、その後2度にわたり同様の雇用契約を締結し、就労していた。

その後、Y短大は、Xを雇止めした。

Xは、本件雇止めは無効であると主張した。

【裁判所の判断】

雇止めは無効

【判例のポイント】

1 嘱託雇用契約が2回の契約更新をもって反復継続されたものと評価することはできず、更新手続が形骸化していたともいえないから、本件嘱託雇用契約が実質的に期間の定めのない雇用契約と異ならない状態いなっていたとはいえない。

2 本件嘱託雇用契約は、職員の妊娠など臨時の重要に対応した一時的なものではなく、もともと更新が予定されていたものであること、Xが嘱託職員として担当すべき業務は、短大総務課の恒常的な事務であったこと、1回目の更新である平成17年6月1日から18年5月31日までの嘱託雇用契約書には、契約更新に関して、1年ごとの契約更新とし、その後の更新については、契約期間満了時の業務量および従事している業務の進捗状況、Xの勤務成績・態度により判断すると明示され、その更新は専らXが担当する業務量の推移とXの勤務態度とによって判断することが合意されていたことのほか、2回目の更新である平成18年6月1日から19年5月31日までの本件雇用契約の締結に当たっての事務局長等の言動やこれに先立つ平成18年4月19日の嘱託説明会での説明、更新された嘱託雇用契約書の記載からすると、Xには、本件雇用契約が締結された時点において、本件雇用契約がなお数回にわたって継続されることに対する合理的な期待利益があるといわねばならず、本件雇止めについては、解雇権濫用法理の適用がある

3 嘱託職員の雇用継続期間の上限を3年とする方針を理由に当該嘱託職員を雇止めにするためには、当該方針があることを前提として嘱託雇用関係に入った職員に対しては格別、当該方針が採用された時点ですでにこれを超える継続雇用に対する合理的な期待利益を有していた職員に対しては、当該方針を的確に認識させ、その納得を得る必要があるところ、Xは、当該方針が採用され、その説明を受けた時点ですでにこれを超える継続雇用に対する合理的な期待利益を有し、かつ、当該方針に納得いていなかったのであるから、このようなXに対して、当該方針を一方的に適用して雇止めとすることは、Xの継続雇用に対する期待利益をいたずらに侵害するものであって許されず、また、本件雇止め当時、Y学校全体または短大総務課の業務の適切かつ円滑な遂行上、Xを雇止めしてまでその担当業務を本務職員に担当させなければならない必要があったとは認められず、そうすると、本件雇止めは、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められないから、無効である。

本件のポイントは、Y学校の人事委員会で出された、嘱託社員の契約期間の上限を3年とする方針を適用してなされた雇止めが、人事委員会の方針が出される以前に、すでに継続雇用に対する合理的な期待権を有するXに対しても有効といえるか、という点です。

裁判所は、Xの期待権を保護しました。

もう少しやり方を変えれば、結論が変わったかもしれません。

有期労働契約は、雇止め、期間途中での解雇などで対応を誤ると敗訴リスクが高まります。

事前に顧問弁護士に相談の上、慎重に対応しましょう。

労災20(康正産業事件)

おはようございます。

現在、自宅で尋問の準備中です

今日は、終日、浜松で弁護団会議です

明日、浜松の裁判所で証人尋問があり、そのための最終確認です。

今日も一日がんばります!!

さて、今日は労災に関する裁判例を見てみましょう。

康正産業事件(鹿児島地裁平成22年2月16日・労判1004号77頁)

【事案の概要】

Y社は、飲食店及びレストランの経営等を目的とする会社で、鹿児島県内を中心とする九州地方において、「ふぁみり庵」(和食レストラン)、「はいから亭」(焼肉レストラン)、「寿しまどか」(回転寿司)等の業態で、飲食店約50店舗を経営している。

Xは、Y社が経営する飲食店(札元店)の支配人をしていたが、自宅で就寝中に心室細動を発症し低酸素脳症となった(発症当時30歳)。Xは、現在に至るまで意識不明で寝たきりの状態であり、両親が自宅において24時間態勢で介護を行っている

Xの両親は、Xの本件心室細動発症・低酸素脳症による完全麻痺が、Y社が安全配慮義務に違反してXに長時間労働を強いたためであるとして損害賠償を求めた。

Xの労働時間は、本件発症前1か月間で344時間15分、本件発症前2か月から6か月で月平均368時間30分であった。法定労働時間を超える時間外労働は、それぞれ176時間15分、200時間30分に上り、休日以外の勤務日における拘束時間は、平均して1日当たり12時間を超える。また、休日も丸1日の休みが取れることはほとんどなく、本件発症前、Xは203日間連続して出勤していた。

【裁判所の判断】

Xの損害につき、後遺障害および介護状況等に基づき算定し、過失相殺、労災保険給付を損益相殺をするなどしたうえで、1億8000万余円の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 Xの総労働時間及び時間外労働時間の長さ、休息の不足、勤務時間中の業務量の多さ等に照らせば、本件発症直前のXには、心身の疲労が相当程度蓄積していたものと認められる。また、札元店では、人で不足にもかかわらず人員が補充されず、かつ人件費の制約をも課せられていたことにより、正社員3名の中でも特にX1人に業務の負担が集中していた上、売上や人件費の目標値達成を厳しく求められていながら、なかなかこれらを達成できずにいたのであるから、Xは、精神的にも過度の負担を受けていたといえる。
よって、Xの従事していた業務は、身体的にも精神的にも過重なものであったというべきである。

2 本件発症直前のXは時間外労働が月100時間を優に超える長時間労働に従事していたこと、この長時間労働によって相当程度の疲労の蓄積があったと認められること、人手不足とノルマ等の制約の中で、Xには精神的も過重な負荷がかかっていたと考えられること、業務による過重な負荷、特に長時間労働については、疲労の蓄積による心臓疾患発症への影響が指摘されていること、仕事のストレス要因は循環器疾患の発生に密接に関与するとされていること、Xには他に本件発症の原因となり得る基礎疾患等も認められないことなどを総合考慮すると、本件発症はXの従事していた過重な業務に内在する危険が現実化したものと推認するのが相当であり、Xの業務と本件発症との間には相当因果関係が認められるというべきである

3 労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。労働基準法は、労働時間に関する制限を定め、労働安全衛生法65条の3は、作業の内容等を特に限定することなく、同法所定の事業者は労働者の健康に配慮して労働者の従事する作業を適切に管理するように努めるべき旨を定めているが、それは、上記のような危険が発生するのを防止することをも目的とするものと解される。これらのことからすれば、使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである

4 Y社においては、所定労働時間ないし法定労働時間という概念が極めて形骸化し、労働時間を管理する機能を有しない状態であったといわざるを得ない。
さらに、後述するとおりY社は正社員に対しては時間外労働に対する賃金も一切支払っていなかった。このことは、労働基準法の労働時間規制に対するY社の意識の低さを示すことはもちろんであるが、Y社にとって正社員の時間外労働が何らのコストも伴わないものであった以上、従業員、特に正社員の労働時間を人件費管理の観点から管理する必要性がなかったということにもつながっている。後述するような、Xの長時間労働に対する無関心ともいえるY社の姿勢は、正社員に対して一切の残業代を支払わないという労務体制にその根があるといっても過言ではない。

5 労働者は、一切の余暇を犠牲にして疲労の回復に努めることまでを求められるものではないとしても、一般の社会人として自己の健康の維持に配慮することが当然に期待されており、いかなる態様・程度の健康維持が求められるかは、当該労働者が提供する労務の内容、労働時間・賃金等の労働条件、労働者自身の健康状態等の諸要素に照らして、総合的に判断されるべきものである。本件では、そもそもXの労働が過重なものとなったことにつき、Y社に多分の非難可能性があることは前述のとおりであるが、その点を斟酌してもなお、Xの労働の実態、生活状況全般及び本件発症直前の健康状態等に照らせば、疲労が蓄積しているにもかかわらず睡眠時間を削って深夜にドライブや食事をするのは、健康維持の観点から労働者に合理的に期待される生活態度を逸脱しているというほかなく、当事者間の衡平を図る上では、このようなXの行動が本件発症に対して与えた影響を考慮せざるを得ない。
また、Xは本件発症に至るま

解雇17(宮崎信金事件)

おはようございます。

さて、今日は、解雇無効判決確定後に注意すべき事項について参考になる裁判例を見てみましょう。

宮崎信金事件(宮崎地裁平成21年9月28日・判タ1320号96頁)

【事案の概要】

Xは、Y会社と雇用契約を締結し、Y社において勤務していた。

Y社は、宮崎新聞社代表取締役からY社の内部資料が外部に流出していることを告げられたのを契機に、流出文書調査委員会を発足させてXらの調査を行った。

Y社は委員会から調査結果および意見を受け、本件文書の外部流出についてはXらの関与が明らかであるとして、Xを懲戒解雇した。

本件懲戒解雇に伴い、社会保険事務所に対してXが社会保険資格を喪失したことを届け出るとともに、厚生年金基金に対してもXが加入員資格を喪失したことを届け出た。

これに対し、Xが懲戒解雇の無効確認等を求めて提訴し、最高裁において解雇無効で確定した。

Xは、Y社に復職した。Y社は、Xの復職に伴い、社会保険事務所から社会保険の加入方法について復職時から2年分のみ遡って加入する方法と復職時から再加入する方法がある旨の説明を受け、Xに対し、同様の説明を行った。

しかし、その後、Y社は社会保険事務所から以前の説明には誤りがったとして、社会保険の加入方法については以前説明した2つの方法のほか、解雇時に遡って加入する方法があり、従業員に対する解雇の無効が確定した場合には、解雇時に遡って加入するのが原則となる旨の説明を受けた。ところが、Y社はこの説明をXにしなかった

Xは、復職時から厚生年金に加入する旨をY社に伝え、Y社もその手続をとった。このためY社は懲戒解雇時から復職時までに対応する社会保険の使用者負担分の負担を免れている。

Xは、Y社がXの年金資格を遡及回復させなかったこと等が債務不履行ないし不法行為を構成するとして、損害賠償を請求した。

【裁判所の判断】

Xらは解雇時に遡って厚生年金の被保険者資格、厚生年金基金の加入員資格を回復していた場合の年金の受給見込額と、復職時に被保険者資格、加入員資格を再取得していた場合の受給見込額の差額から、Xが負担すべきであった保険料を控除した額等の支払いを命じた。

【判例のポイント】

1 厚生年金保険法は、同法所定の強制適用事業所及び厚生年金基金の設立事業所の労働者は厚生年金保険及び厚生年基金に加入するものとし(同法9条、122条)、また、被保険者資格等は、使用者との間の使用関係が消滅するなどの事情がない限り存続するものとした上で、使用者が虚偽の資格喪失届出をすること等に罰則を設けている(同法13条、14条、102条、123条、124条、187条)。そして、社会保険事務所においても、解雇の無効が確定した場合には、厚生年金保険について、原則として、被保険者の資格喪失の処理を取り消し、解雇時から継続して加入していたものとする扱いがとられている。このような被保険者資格等に関する規定及び運用に照らすと、労働者は、使用者との雇用関係が消滅するなどの特段の事情のない限り、被保険者資格が存続するものと考え、また、加入期間に対応する年金を受給し得ると期待するのが通常である。

2 以上のような厚生年金保険法の規定及び労働者の年金受給に対する期待等に加え、年金が労働者の年金受給に対する期待等に加え、年金が労働者の老後の生活保障に重要な役割を担うことを併せ考慮すると、労働者に対する解雇の無効が確定した場合には、使用者は、労働者の年金資格の回復方法について労働者の選択に委ねる余地があるとしても、使用者は、雇用契約に付随する義務として、当該労働者に対し、労働者が資格の回復方法について合理的に選択できるよう、被保険者資格等の回復に必要な費用及び回復により得られる年金額等、各加入方法の利害得失について具体的に説明する義務を負うものと解するのが相当である

3 Y社は、Xに対し、被保険者資格については解雇時に遡って加入する方法をのぞく2つの方法及び2年分遡及加入した場合に必要となる費用のみを説明し、加入者資格については復職時からの再加入する方法のみを説明するにとどまっているのであるから、Y社には、上記説明を怠った過失があるといわざるを得ない。

本件では、年金資格を遡及回復させなかったことの債務不履行ないし不法行為該当性が問題となりました。

裁判所は、解雇後の被保険者資格の回復について、使用者の「説明義務違反」を理由とする損害賠償請求が認容されました。

選択肢の説明義務があり、本件では、最も原則的な選択肢について説明がなされていなかったため、問題となりました。

会社としては、解雇無効確定後、従業員に対する説明内容については、顧問弁護士に確認した上で、ミスがないようにしたいところです。

労災19(日本トラストシティ事件)

__おはようございます。

←昨日、下田から帰る途中に撮りました

来年の夏、キャンプに行く予定です

あいかわらず、早朝と深夜に書面作成をする日々が続いております。

今日は、午前中は裁判が1件、午後は、事務所で法律相談、打合せが5件、夜は、交通事故の勉強会です

その後は、せっせと書面作成に励みます

今日も一日がんばります!!

さて、今日は、労災に関する裁判例を見てみましょう。

日本トラストシティ事件(名古屋地裁平成21年5月28日・労判1003号74頁)

【事案の概要】

Xは、大学卒業後、Y社に就職し、国際事業部国際輸送部東京営業所で勤務していた。

本件営業所の主たる業務は、特定顧客の貨物を、陸上、海上、航空等の多用な輸送手段を組み合わせて海外輸送する国際複合一貫輸送の手配や書類作成業務であったが、Xは、特定顧客の日常的、定型的業務は担当せず、ODA案件その他のプロジェクト案件、設備移設案件のスポット案件に特化して、ほぼ一人で営業および輸送手配等の業務を行っていた。

また、Xは、世界各国への代理店を整備する業務も行っており、その候補の選定から代理店契約締結の交渉、契約書の作成も行っていた。

本件営業所のA所長は「Xの評価が最も高い」とし、また国際輸送部長からも同様の評価がなされていた。

Xは、気分(感情)障害を発症し、同障害に起因して、社宅において自殺を図り死亡した(死亡当時30歳)。

なお、Xは、自殺前2か月において月100時間超、同3~6か月には80時間程度の時間外労働を行っていた。

【裁判所の判断】

中央労基署長による遺族補償給付等不支給処分は違法である。
→業務起因性肯定

【判例のポイント】

1 相当因果関係があるというためには、当該災害の発生が業務に内在する危険が現実化したことによるものとみることができることを要すると解すべきである。そして、同法による補償制度が使用者等に過失がなくても業務に内在する危険が現実化した場合に労働者に生じた損害を一定の範囲で填補させる危険責任の法理に基づくものであること、また、精神障害、特に、うつ病の成因については、几帳面で真面目な性格等に代表される執着気質、メランコリー親和型といわれるうつ病の病前性格と、業務上及び業務外のうつ病の発症要因になりやすい出来事との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まると解するのが相当であることからすれば、相当因果関係があるというためには、これらの要因を総合考慮した上で、業務による心理的負荷が、社会通念上、精神障害を発症させる程度に過重であるといえる場合に、当該災害の発生が業務に内在ないし通常随伴する危険が現実化したことによるものとして、これを肯定できると解すべきである。

2 そして、その判断は、当該労働者と同種の業務に従事し遂行することが許容できる程度の心身の健康状態を有する労働者(「平均的労働者」)を基準として、勤務時間、職務の内容・質及び責任の程度等が過重であるために当該精神障害を発症させられる程度に強度の心理的負荷を受けたと認められるかを判断し、これが認められる場合に、次に、業務外の心理的負荷や個体側の要因を判断し、これらが存在し、業務よりもこれらが発症の原因であると認められる場合でない限りは相当因果関係の存在を肯定するという方法によるのが相当である。

3 専門家の診断・治療歴がない場合には、得られた情報だけから発症時期を推測することは極めて困難である。そうすると、被災者が継続して過重な業務に従事する中で精神疾患を発症し自殺した事案においては、発症時期の特定が困難であるため、過重な業務によって精神疾患を発症させうる程度の精神的負荷を受けたとは直ちに断定できなくとも、その可能性があると判断される場合があり、その場合には被災者がもともと精神疾患に対する脆弱性を有するものとは推認できない。かつ、月100時間以上の残業をしている労働者は、99時間以内の労働者に比べて、精神疾患発症までの期間が短く、発病から自殺に至るまでの期間も短いとの調査結果があることからすると、発症後に従事した業務も客観的にも過重であったと認定されるなら、継続する過重な業務により発症・悪化させられた精神障害により正常な認識、行為選択能力および抑制力が著しく阻害されるに至り自殺行為に出たものとして、業務と精神障害の発症・悪化、さらには自殺との相当因果関係があると推認すべき場合も存する

4 そうすると、判断指針及び専門検討会報告書の判断手法も、判断手法として有益な面があるとしても、これによらなければ、業務起因性が認められないというものではなく、当初の発症後重症化するまでの業務の過重性を考慮するべき場合も存するというべきである

5 以上とは別に、発症前及び発症後の業務が客観的に見て過重ではないとしても発症後も業務の必要から適切な業務の軽減を受けられなかった結果、症状が重症化して自殺に至った場合には、そのことが自殺の原因であるといわなければならないから、業務と自殺との間の相当因果関係は肯定されるべきである

この裁判例では、精神障害等にかかる業務起因性の判断枠組みを提示し、その判断について、いわゆる平均人基準説に立ち、労働の量および質が過重であるかを検討しています。

判例のポイント3および5は参考になります。

とくに判例のポイント5は、労働者側としては多いに参考にすべき点です。

解雇16(通販新聞社事件)

おはようございます。

さて、今日は、職場規律違反での解雇に関する裁判例を見てみましょう。

通販新聞社事件(東京地裁平成22年6月29日・労判1012号13頁)

【事案の概要】

Y社は、通信販売業界新聞「週刊通販新聞」等を発行している会社である。

Xは、Y社との間で雇用契約を締結して、平成18年から、通販新聞の編集長を務めていた。

Xは、A社との間で「図解入門業界研究 最新 通販業界の動向とカラクリがよ~くわかる本」という書籍の執筆・出版について著作物印税契約を締結した。そして、Y社が作成して業界紙に掲載したグラフやランキング表を13項目にわたり本件書籍に使用した。

Xは、Y社代表者に原稿がほぼ完成したことを報告したところ、同人は特に何も言わなかった。また、同人に完成した本件書籍を渡した際も、同人は聞いた覚えがないと疑問を呈しながらも、「売れるかな」などと冗談を言って、とがめるような態度を示さなかった

しかし、翌日、Y社代表者は、前日とは打って変わって立腹した様子で「カラクリという表現が業界の印象を悪くする。著作権を侵害した」などと言い出して、本件書籍の回収を命じた。

そして、Y社代表者は、本件書籍の出版により、Y社の信用を損なったなどという理由で、Xに対し懲戒解雇を通告し、また、紙面にXが懲戒解雇された旨を社告として掲載し、同紙のウェブ版にも同様の記事を掲載した。

Xは、労働契約上の地位確認および賃金支払、不当な懲戒解雇ないし名誉棄損に基づく慰謝料、および謝罪広告の掲載を求めて提訴した。

【裁判所の判断】

懲戒解雇は無効。

慰謝料として200万円の支払いを命じた。

Xの名誉回復措置として同紙1面に1回、同ウェブ版に1か月間の謝罪広告の掲載を命じた。

【判例のポイント】

1 Xが本件書籍を、通販業界の動向等を公平な立場から俯瞰的に執筆した本と説明していること、Y社代表者も、本件書籍の内容は問題がないと述べていること、Xは、「通販新聞執行役編集長」の肩書で本件書籍を執筆し、本件図表等の出典を明記していること、Xの印税収入は約20万円であり、約3か月をかけて仕事の報酬としてそれほど多額とはいえないことなどを考慮すると、Xは、本件書籍の執筆に際して、本来Y社に帰属すべき本件書籍の印税収入を私物化して経済的利益を図り、しかも、著作の名声を独占しようという身勝手な動機を有していたと認めることができない。また、前記のとおり、Xは、Y社代表者から、本件図表等の使用の許諾を得ていたと認めるのが相当であるから、Xが本件図表等を無断で使用したとは認められない
そうだとすると、Xが本件図表等を本件書籍に使用したことは、Y社の社会的信用や企業秩序を害するものではないというべきであるから、本件の懲戒事由には該当しない。

2 本件懲戒事由該当事実は存在しないのに、Y社はこれを断行したから、Y社には不法行為が成立する。

3 また、本件社告等の内容が、Xの社会的評価を低下させるものであること、本件社告等が通販業界をはじめとして、広く公表されたことは明らかであり、名誉棄損の不法行為も成立する。

裁判所は、名誉棄損の違法性の重大さに加え、本件懲戒事由該当事実が存在しないことから、本件懲戒解雇自体の違法性もかなり重大なものというべきであると判断し、慰謝料200万円、謝罪広告を認めています。

従業員が、謝罪広告の掲載を求めたいと思う場合、どのような請求をすればよいか等、参考になる裁判例です。

会社としては、懲戒解雇のハードルの高さを認識する必要があります。

その意味では、参考になる裁判例です。

この事件は、控訴されていますので、高裁の判断が待たれます。

解雇を選択する前には必ず顧問弁護士に相談の上、慎重かつ適切に対応することが肝心です。決して、素人判断で進めないようにしましょう。