賃金238 賃金債権を放棄する内容の和解契約の有効性(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、賃金債権を放棄する内容の和解契約の有効性に関する裁判例を見てみましょう。

吉永自動車工業事件(大阪地裁令和4年4月28日・労経速126号27頁)

【事案の概要】

本件は、平成16年3月にY社と期限の定めのない労働契約を締結していたXが、Y社に対し、日給7000円と合意したにもかかわらず日給6000円しか支払われず、これが最低賃金法4条2項所定の最低賃金額に達しない賃金となった後も日給6000円しか支払わなかったなどと主張して、労働契約に基づく賃金請求権又は不当利得返還請求権に基づき、同月分から退職した令和2年3月分までの差額賃金合計342万4000円+遅延損害金の支払を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、33万9373円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 本件和解契約は、XがY社に対して有する賃金があればこれについても放棄する内容であるところ、賃金債権を放棄する旨の意思表示の効力を肯定するには、その意思表示が労働者の自由な意思に基づくものであると認めるに足る合理的な理由が客観的に存在していることを要すると解するのが相当である(最高裁昭和48年1月19日第二小法廷判決)。

2 Bは本件合意書を示し、Xはその内容を確認して署名押印をしたことが認められる。
しかし、平成21年9月30日以降の本件労働契約の賃金額は大阪府の最低賃金額となっているところ、証人Bの証言によれば、Y社において、本件合意書の作成時には、最低賃金額と日給6000円との差額の未払賃金が生じていたことを知っていた者はいなかったことが認められるほか、本件合意書の作成時に、上記差額をXが認識していたことをうかがわせる事情は見当たらない
そうすると、Xは、上記差額の金額はもとより、その存在すら認識せずに本件合意書に署名押印したのであって、このような署名押印に至る経緯に照らせば、労働者の自由な意思に基づくものであると認めるに足る合理的な理由が客観的に存在しているとはいえない
したがって、本件和解契約の成立は認められない。

労働事件では、このような発想で合意書の有効性を否定することがよくあります。

とりあえず署名をもらっておけばいいという発想ではうまくいきませんので注意しましょう。

日頃から顧問弁護士に相談の上、適切に労務管理をすることが肝要です。

本の紹介1343 「あたりまえ」からはじめなさい#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

今から10年前に紹介した本ですが、再度読み返してみました。

世間一般でいう「あたりまえ」からはじめることの大切さもさることながら、

何を「あたりまえ」にするかが人生に大きく影響します。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

給料が上がらない人は給料の低い人の集まりに参加して酒を飲む。そこで会社の愚痴を言う。給料が上がる人は給料の高い人の懐に飛び込んでいく。給料を増やしたいなら給料の高い人と付き合うことだ。」(139頁)

疑う余地のない真実です。

このような文章を読んで「なんかむかつく」とか言っている場合ではないのです。

日々、自分の武器を磨き、チャンスが訪れたときに遺憾なく発揮する。

コンフォートゾーンという名のぬるま湯から飛び出し、場違いさ、居心地の悪さを感じる場所にどんどん飛び込んでいくのです。

やっている人はずっと前からやっていることです。

労働時間84 パソコンのログイン時刻からログアウト時刻までが概ね労働時間と認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、パソコンのログイン時刻からログアウト時刻までが概ね労働時間と認められた事案を見ていきましょう。

学校法人目白学園事件(東京地裁令和4年3月28日・労経速2491号17頁)

【事案の概要】

本件は、時間外労働に係る賃金等を求める事案である。

【裁判所の判断】

Y社は、Xに対し、296万3031円+遅延損害金を支払え

Y社は、Xに対し、付加金219万3727円+遅延損害金を支払え

【判例のポイント】

1 Xは、Y社に出勤するとまず研究室に向かい本件パソコンにログインの操作をしてカレンダーに時刻を記入して業務を開始し、終業時に本件パソコンにログアウトの操作をして上記カレンダーに時刻を記入していた、Xの主な業務内容の詳細は、「業務状況表」のとおりであった旨主張し、X本人もこれに沿う供述をするところ、Xの上記供述内容は自然かつ合理的なものといえ、基本的に信用できるというべきである。
これに対し、Y社は、本件パソコンのログイン・ログアウトの時刻のみでは証拠が不十分である旨主張しているが、本件雇用契約には「所定時間外労働の有無」が「無」との規定があるものの、Y社がXに所定労働時間外の各種業務を担当させていた事実が存すること自体は実質的に争いがなく、にもかかわらず、Y社がXの労働時間の管理を怠っていたのであり、上記X供述の信用性を否定すべき証拠を提出できていない

被告会社が前記のとおり。パソコンのログイン・ログアウトの時刻のみでは証拠が不十分である等と主張することはよくありますが、裁判所的には「じゃあ、会社のほうでログイン・ログアウトの時刻以上に原告の労働時間を正確に管理・把握していた証拠出してね。」という感じです。

立証責任的観点から単に信用性がないと主張するだけでは足りませんので、ご注意を。

日頃から顧問弁護士に相談の上、労働時間の考え方について正しく理解することが肝要です。

本の紹介1342 やりたくないことはやらずに働き続ける武器の作り方#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間お疲れさまでした。

今日は、本の紹介です。

今から8年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

著者を見ていると、比較的若いうちにある程度の資産を築けると、その後の人生の自由度が大幅に上がることがよくわかります。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

不安になるのは、他人の発言に揺さぶられてしまうから。他人が作った勝手な統計、勝手な子育て、勝手な老後なんて、ぜんぶ笑い飛ばしてしまえばいい。これからは、自分とは関係のない赤の他人が含まれている『平均』を捨て、自分基準の子育て、自分基準の老後、自分基準の生き方を自ら設計する時代だ。」(35頁)

日本人の国民性からすると、多くの方にとっては「わかっちゃいるけど、なかなかできない。」というのが本音ではないでしょうか。

永遠にマスクを着用しないといけない国で「平均」を捨てることは、多くの人にとってとても勇気がいることです。

世間体、他人の目、他人の評価を過度に気にして、同調圧力の中、多数派意見に従い、目の前に敷かれた「常識」という名のレールの上をただひたすら突き進む人生。

・・・考えただけ眩暈がします(笑)

みなさんが、もっと自由に、好きなように生きられることを心から願っています。

YOLO

管理監督者53 人事上の最終権限を有しない社員の管理監督者性が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、人事上の最終権限を有しない社員の管理監督者性が認められた事案を見ていきましょう。

土地家屋調査士法人ハル登記測量事務所事件(東京地裁令和4年3月23日・労経速2490号19頁)

【事案の概要】

本件は、土地家屋調査士法人であるY社の社員兼従業員であったXが、Y社に対し、①雇用契約に基づき、令和2年2月分以前の未払残業代527万9952円+遅延損害金の支払、②雇用契約に基づき、同年3月分以降の未払残業代86万1219円+遅延損害金、③労働基準法114条に基づき、付加金407万4886円+遅延損害金の支払、④Y社がXに対してした同年7月10日付け普通解雇が無効であるとして、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認、並びに、⑤民法536条2項に基づき、本件解雇後の賃金+遅延損害金の支払を、各求めた事案である。

【裁判所の判断】

Y社はXに対し、1万2121円+遅延損害金を支払え。

Y社はXに対し、付加金1万2121円+遅延損害金を支払え。

【判例のポイント】

1 職務権限について、Xは、Y社代表者とともに、Y社設立時からの社員であり、社内でY社代表者に次ぐ地位であった。Y社における人事上の最終権限はY社代表者が有していたが、これは、Y社代表者が経営と営業、Xが登記申請等の現場実務の取り仕切りという社員間の役割分担があったことに起因する
現場実務の遂行方法の取り決めや現場での従業員の指導はY社代表者が口を挟むことはなく、Xに一任されていた。名古屋事務所の開設等の重要な経営事項についても、Xに相談の上で決定されていたことがうかがわれる。

2 勤務態様について、Xは、勤務時間中に歯科医院に通院するなどしていたが、仕事を抜けた時間に指導もなかった。また、平成31年1月以降は、自らの裁量で休日出勤や代休の日を決めていた

3 待遇について、Xは平成30年以降は月額60万円の報酬を得ていて、同じ土地家屋調査士の資格者である他の社員2名よりも月額で10万円以上も高く、他の従業員の基本給やXの前職での報酬水準(年収450万円程度)よりも大幅に高い

4 以上によれば、Xは、経営者(Y社代表者)と一体的な立場において、労働時間、休憩及び休日等に関する規制の枠を超えて活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与され、また、そのゆえに、待遇及び勤務態度においても、他の一般労働者に比べて優遇措置が講じられていたということができ、実質的に上記のような法の趣旨が充足されるような立場にあったと認められるから、労基法41条2号の管理監督者に該当するものと認めるのが相当である

開かずの扉で有名な管理監督者性ですが、今回の事案では珍しく扉が開きました。

いずれにせよ、世の管理職の圧倒的多数は管理監督者としては認められませんのでご注意ください。

労務管理は事前の準備が命です。顧問弁護士に事前に相談することが大切です。

本の紹介1341 決めた未来しか実現しない(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

タイトルのとおり、「『こうなりたい』という未来の一点を『決めた』とき、現実が変わります」と著者は説いています。

私はやや異なる意見を持っていますが、何も決めないよりはいいと思います。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

何も行動せずにいたら、五年後も十年後も彼はずっといまのままでしょう。・・・これからも、これまでと同じ人とつきあい、同じ仕事のやり方をして、同じお金の使い方をし、考え方を変えず、住む場所も変えずにいたら、五年後、十年後、どうなっているでしょうか?」(73頁)

進化・向上するために何の努力もせず、ただ昨日と同じ今日を生きているだけでは、5年後も10年後も今と何一つ変わりません。

みなさん、すでにお気づきのとおり、日本はもはや経済大国でもなんでもありません。

もう今は昔の話です。

たいして給料も上がらない一方で、物価はどんどん上がり、年金もまったくあてにならない状況。

出稼ぎが当たり前になりつつある昨今、もはや働かないことを意味する「老後」や「専業主婦」は死語になりつつあります。

平和ぼけ、経済大国幻想を捨て、寸暇を惜しんで勉強しましょう。

自分の商品価値を高めることこそが、VUCA時代をサバイブする術だと確信しています。

解雇376 職場における暴言等を理由とする解雇(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、職場における暴言等を理由とする解雇に関する裁判例を見ていきましょう。

アドバネット事件(東京地裁令和4年2月10日・労判ジャーナル125号34頁)

【事案の概要】

本件は、Y社の元従業員Xが、Y社による解雇は無効であるとして、労働契約に基づき、労働契約上の地位確認、未払賃金等の支払、Y社及びY社の従業員からXが受けた言動及び処分等にかかる不法行為及び使用者責任に基づく慰謝料100万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、従業員であるK及び上司であるHにスマートフォンを向け録音撮影する、Hをにらむ、Hに対し紙を丸めて投げつける、K及びHの席周辺を歩き回る、監視カメラが設置されていると訴えて他の従業員に探させるなどしたほか、H及び従業員であるQに対し、殺すぞなどと殺害をほのめかすような発言をし、執務室においてもお前らのやっていることは犯罪だからななどと発言し、同僚に態度が大きいなどと詰問しY社代表者が止めに入ってもすぐに止めないなど、社会通念上、職場において行われる言動を逸脱し、周囲にいる者に恐怖や身の危険を感じさせる言動を行っていたことが認められ、そして、E支社の従業員のほとんどがXに対して恐怖を抱き、Xのいる場所では仕事ができないと訴え、Xとの業務を避ける、執務室外で業務を行うことをやむなくされるなどの状況が生じており、通常どおりの業務遂行に支障が生じていたことが認められ、Xの行為及び挙動は、就業規則所定の諭旨退職・懲戒解雇事由に該当するというべきであるところ、Y社として、できる限りXとの労働契約を続ける努力をしたものの、最終的にXが約束を破ったことで完全に信頼関係が破壊されたとして本件解雇を選択することもやむを得なかったというべきであるから、本件解雇は客観的合理性があり社会通念上相当であって有効である。

上記判例のポイント1の前半部分に記載されている内容をいかに立証するかという観点で証拠を残す必要があります。

どのような方法で証拠を残すかについては、顧問弁護士にご相談ください。

解雇をする際は、必ず事前に顧問弁護士に相談をすることをおすすめいたします。

本の紹介1340 京大理系教授の伝える技術#2(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も一週間がんばりましょう。

今日は、本の紹介です。

今から10年前に紹介した本ですが、再度、読み返してみました。

「伝え方」にフォーカスした本です。

仕事ができる人は、例外なく伝える力に長けています。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

『話が長い』と言われるのは、話している相手をきちんと見ていないからです。それは『相手の関心に関心をもつ』ことで回避することができます。」(48頁)

とにかく端的に、要点を伝えましょう。

そうすれば話が長くなりようがありません。

特に忙しい相手に対しては。

話が長い人の話を根気強く聞き続けても、たいていは、要領を得ません。

自分自身が重要な点を理解していないために話が長くなっている以上、やむを得ません。

「よく話が長い」「何を言っているのかよくわからない」と言われる方は、気を付けましょう。

労働時間83 事業場外労働みなし制度適用が認められた事案(労務管理・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。 今週も1週間お疲れさまでした。

今日は、事業場外労働みなし制度適用が認められた事案を見ていきましょう。

セントリオン・ヘルスケア・ジャパン事件(東京地裁令和4年11月16日・労経速2490号3頁)

【事案の概要】

本件は、Y社に雇用され就労していたXが、Y社に対し、未払割増賃金等の支払及び未払賞与等の支払及び労働基準法114条に基づく付加金請求等の支払を求め、また、XはY社による違法な行為により精神的苦痛を被ったなどとして、不法行為に基づく損害賠償請求として、慰謝料150万円等の支払を求めた事案である。

【裁判所の判断】

請求棄却

【判例のポイント】

1 Xは、その労働時間について事業場外で業務に従事しており、各日の具体的な訪問先や訪問のスケジュールはXの裁量に委ねられており、上司が決定したり指示したりするものではない上、業務内容に関する事後報告も軽易なものであることなどからすれば、使用者であるY社は、労働者であるXの状況を具体的に把握することは困難であったと認めるのが相当であるから、XのY社における業務は事業場外での労働に当たり、かつ、Xの事業場外労働は労働時間を算定し難い場合に当たるといえ、事業場外労働みなし制が適用される

原告は、製薬会社のMR(医療情報担当者)のため、営業先への移動や訪問に多くの時間を割いていた方です。

周知の通り、事業場外労働みなし制の要件はかなり厳しいため、裁判所はなかなか有効だと判断してくれませんが、本件では上記のとおり、有効と判断されています。

日頃から顧問弁護士に相談の上、労働時間の考え方について正しく理解することが肝要です。

本の紹介1339 あなたを変える52の心理ルール(企業法務・顧問弁護士@静岡)

おはようございます。

今日は、本の紹介です。

メンタリストDaiGoさんの本です。

タイトルのとおり、心理学に基づいたアドバイスが載っています。

テクニックっぽい感じもありますが、知っておくと便利です。

さて、この本で「いいね!」と思ったのはこちら。

なぜ分かりやすい『いい本』を読んだのに、成功しないどころか、何も変わらないままになることが多いのか。
答えは簡単です。ほとんどの人が学んだことを実践しないからです。」(3頁)

正解。

世の中には、3種類の人間しかいません。

「知らない」人。

「知っているけど行動に移さない」人。

「知っていることを行動に移す」人。

前二者は結果的には何も変わりはありません。

実際に動かなければ物事は何も変わりません。

これは能力の問題ではなく意識・習慣の問題です。